安ホテル
「改めて確認しよう。君たちは聖杯を獲得しても願いを叶えるつもりはないんだな?」
1階にある食堂に集まったセイバーが藤丸へ問いかける。
「うん。俺たちはゆがんだ歴史を元に戻すために来たんだ。叶えることはしないよ」
「自らの欲ではなく世界のために勝ち抜く。その心意気気に入った!だが君たちが聖杯を勝ち取ったら他のマスターが黙っていないと思うが」
「えぇ。なので行動を起こす前に一旦状況整理を」
天草が立ち上がり皆の前に立つ。
場所と格好も相まって神の教えを解く神父のようだった。
「まずこの聖杯戦争についてです。セイバーを除くクラスのサーヴァントが2騎いますが大聖杯、もしくはそれに匹敵する何かがあるのなら不思議ではありません。問題は
「魔術師共のほざく根源への接続以外何がある」
「そう思いますよね。アヤカさん。貴方が聖杯にかける願いは何ですか?」
天草に指名されたアヤカは肩をビクリと跳ね視線をあちこちに巡らせる。
「……分かりません」
「ありがとうございます。では他のマスターはどうでしょうか」
「フラットさんはライブ感でこの聖杯戦争を楽しんでいるように見えました。今のお姿でどう思っているかは分かりませんが…」
「警察署長も違うだろう。アイツがあそこまで気にいる人間は早々いない」
「繰岡椿ちゃんも無いね。両親はその気だったけど即洗脳されてたからあの行動は椿ちゃんの意思だ」
「エルキドゥのところのマスターも違う。あの子は純粋に生きてるだけ」
「あの死徒は私に執着している。理解していることが腹立たしいが…根源などどうでもいいと思っているに違いない」
マシュ、エドモン、オベロン、ティアマト、アサシンが順に話す。
その回答に天草はふと笑みを見せる。
「皆さんの話された聖杯戦争に参加されたマスターの共通点、それは
放たれた発言に藤丸は首を傾げる。
聖杯とは根源にたどり着くための方法であり、起動するには聖杯戦争という魔術儀式を行う必要がある。
「誰かが仕組んでいるとしか言えない人選ね」
「それって珍しい事なのですか?」
「はい。魔術師として産まれた以上根源を目指すのは当たり前の事です。実際マリスビリー前所長も聖杯への願望として多額の資金を得てカルデアを設立しました」
各々事実や憶測を話すものの結論は出なかった。
「でも、これだけで特異点化する要因なのかな…?」
藤丸がふと呟く。
これまで経験、聞いてきた聖杯戦争は歪であっても行われたことで特異点となった例は無い。
「その通りです。この聖杯戦争は何れ開催されるであろう近い未来の話。我々の責務はあるべき聖杯戦争の形に戻すことです」
「その言い草、経営顧問に触発されたか」
「いえ。私は聖職者ですので」
「元に戻す…。それはあの台風を打ち倒すことに繋がるのでしょうか」
マシュの言葉に合わせ全員の視線が窓に向けられる。
ガタガタと今にも壊れそうな窓ガラスの先に、街を飲み込まんと空をうねる積乱雲。
「それは分かりませんがアレを止めなければ始まらないのも事実です」
「あの方角はエルキドゥのいた…。大丈夫かしら…」
「ヤツなら問題なかろう。ところで裁定者。外の
ドラコーの発言にあぁと納得する者と首を傾げる者と二分された。
そのまま視線を下に移すと大通りを我が物顔で歩く赤毛の獣がいた。
乗用車より一回り大きい個体の近くにはやや小柄な個体が群れを作っていた。
「仲間からの報告によれば魔獣が突如現れたらしい。魔力反応からして神代に生きた獣だから手こずるぞ」
「西の大雲から魔力が風に乗って流れ出している。いくら倒したところで霊脈に紐づいて湧き出るだろう」
「そうなると魔獣を放置しても一般人に被害が出るかもしれません」
「なら俺たちのすべきことは決まったね」
藤丸はパンと膝を叩き立ち上がる。
「あの台風を目指しながら魔獣を倒していく。あそこに行けばこの特異点の謎も解けるかもしれない」
「なら私は斥候として先に行く。なるべく戦闘は控えるがヤツがいたなら…」
「そこは任せてもいいわね。弱いとはいえ出しゃばられても困るし釘付けに出来るなら儲けものよ」
アルクのお墨付きを受けアサシンは窓を律儀に開け暴風の中へ飛び出した。
「開けるなら閉めていきなさい!お行儀悪くなりますよ!」
「怒るところそこなんですか!?」
「アサシン風情に行儀も無かろうに…」
「お2人はどうされますか?」
マシュがセイバーとアヤカに問いかける。
セイバーはアヤカに従うと言わんばかりに顔ごとアヤカに向ける。
視線を向けられたアヤカはしばし思考し結論をつける。
「行く。私はもう逃げないって決めたから」
「だそうだ。道が同じなら俺も力を貸そう。ところで君は我が祖王と面識があるなら道すがら聞いてもいいか?」
「そんなこと話してる暇あるの!?」
「あったらね。ちなみにどのクラスの話を聞く?」
「…………なるほど!カルデアとは凄いところなんだな!ならこの戦が終わり俺に猶予が与えられた時に取っておこう」
絶対思考止まったでしょ、とアヤカは胸の内でツッコミをした。
外に出ると生暖かい風が吹き荒れていた。
街には誰も歩いておらずさながらゴーストタウンのよう。
「建物に被害を出さなければ派手に暴れても風の音で聞こえないしバレることは無い。神秘の秘匿はなされるとは運がいい」
「特異点化した時点で関係ないが敵に感づかれるのは避けるべきだろう」
「それじゃみんな…行くよ!」
藤丸の号令と共にサーヴァント達は大通りを走る。
眼前にいた魔獣は藤丸達に気づき咆哮をあげ襲いかかる。
西からの魔力により神性を帯びた魔獣達はバビロニアで戦ったそれとほぼ同格の存在となった。
並の魔術師ならマスターだったとしても全力で逃走を選択するが、幾多の修羅場をくぐり抜けた歴戦のマスターからすれば魔獣達は格好の獲物だった。
英霊達に指示を送りながら藤丸はしゃがみ何かを拾い集めていた。
「このタイミングでドロップするのはいい調子。到着までに産毛20は欲しいけど…。あ、エネミーによっては羽根も手に入るか…。なら倍は拾わないと」
「なんかブツブツ言ってるけど大丈夫なの?」
「はい!マスターは団体戦になるといつも素材換算をしますから。熱が入ると思いますので到着まではお気になさらず!」
「???」
セイバーの馬に乗ったアヤカはマシュの発言に小首を傾げる。
とはいえ藤丸の巡った特異点の話を聞いた事で『彼はどんな状況でも眉ひとつ動かさず対応する』と結論したのでそこまで食いつくことは無かった。
スノーフィールド西部 森林地帯
「なんだ……これは……?」
ジェスターの目の前には森の中にそびえる小さな山と思える巨大な建造物がそびえていた。
この森には建造物が無いことは把握していたためその異質さに驚愕する。
手前にはラピスラズリで装飾された門がありその奥にはメソポタミア圏で見られるピラミッド型の建物が聳えていた。
それだけなら良かったものの、ピラミッドの横には金銀の招き猫がこちらに手をこまねていた。
更に建物横には何故か
引き落とししか出来ない点を除けば在り来りなATMだった。
「私はまだあいつらの幻覚の中にいるのか…?」
冗談とも言える状況ではあったが、現実であるようにも感じた。
しかし神殿に満ち溢れる神気はプレラーティ達の幻術では再現出来ないことを理解していたからである。
(この尋常ではない神気…。聖杯戦争の枠では召喚など不可能だ。恐らく私と同じ部外者。全盛期ならまだしも今の私では善戦すら夢だろう…)
ジェスターは魂の半数が砕かれ自身己の無力さを実感し苦笑いを零す。
(退屈しのぎに聖杯を求めた私がここまで追い込まれるとは…。たかが人間の儀式と侮っていたがまさか神霊が来るほどの規模だったことは反省しなくてはな。ここは慎重に慎重を重ね、気配を極限まで消して神殿を汚染するタイミングをーーーーー)
「……
思考の沼に沈みかけていたジェスターの精神がその一言で一気に覚醒する。
反射的にその場で飛び上がり身体を捻ると、四肢の間を刃となった無数の黒髪が通り抜けた。
黒髪はジェスターの背後を追尾するも物理法則と人間の可動域を無視した動きで宙を舞う。
「おぉ…!素晴らしい!美しい!!最高だッ!!!やはり君と私は運命の赤い糸によって結ばれている!この気持ち、まさしく愛…。いや…キュート。そう、キュートだ!!」
先程思考していた内容と真逆である神殿の門の前に立つ行動を見せながらなおジェスターの口は止まらない。
「やはり君だ!砂粒のような虚しい時を過ごしていた私を引き上げてくれたのは君だ!故に私は全身全霊を持って愛そう!」
「……」
聞く耳持たずと言わんばかりにアサシンは髪の刃による連撃を続ける。
太い木すらも一刀両断する刃を華麗に避けながらジェスターはまだ笑っていた。
「麗しき狂信者たる君よ!このような危険…異端なる神の力に満ちたこの場所まで私のために来てくれるとは!」
ジェスターは大樹の枝に手を置くと幹が歪に曲がり触手のようにしなりながらアサシンに襲いかかる。
「!!」
アサシンは宝具を展開したまま髪で触手を迎撃する。
そうしている間にジェスターは新たな木に手をかけ新たな触手にしようとした。
その時ーーーーー。
「お静まりを」
ヒートアップする戦闘に水を差すような凛とした声が響く。
2人はピタリと行動を止め声の方を向く。
声の主は神殿の上段、内部に続く入口に立つ幼い少女からだった。
神殿の雰囲気とは合わない現代の装いだったが彼女から発せられる声に神気が混ざっており吹き荒ぶ風の中でもハッキリと聞こえた。
「偉大なる御方…。イシュタル女神の庭で、それ以上の狼藉は許されません」
スノーフィールド中央教会
「土地の気配が変わったな……」
病院での戦闘によって半壊した教会でハンザは砂嵐混じりのラジオを聴きながら呟く。
現在スノーフィールドがおかれている状況は聖堂協会からしても対処不可能に近く
「しかし、このタイミングでわざわざ来なくても良いと思うが」
視線を向けた先には礼拝堂の前で静かに祈りを捧げる女性がいた。
女性は一呼吸おき立ち上がるとハンザの方に身体を向ける。
青いショートヘアと髪色と同じくらいの青い瞳、黒の修道服を着込むも顔つきからは幼さも感じる。
「私はバカンス中のごく普通のシスター。状況は最悪ですが休むにはちょうどいいトラブルと思えば悪くないです」
「ちょうどいいトラブルか…。並の人間なら死の間際の懺悔をするのだがな」
「そういう貴方も懺悔をしなくて良いのですか?」
「俺は既に終えている。それに聖杯戦争の監督役としてマスターは等しく見ないと行けない。1人を除いてだが」
夢の世界から抜け出せたあとジェスターの後を追ったが上手く巻かれてしまった挙句、フラットの暗殺・蘇生や神殿等の事案が発生してしまい情報を集める状態になった。
「そうですね。あちらはともかくもう1人は上手く潜りこんでいるようです。私としては取り除くべきですが時では無いようです」
「……興味本位で聞くが貴方とその狙うべき死徒が合間見れた時、どのくらいの規模で仕留め切れる」
ハンザの問いかけに少女は唸りながら考える。
「本気度によって変わりますが大陸1つはもらいます。あ、そうなると抑止力案件になりますね」
冗談とも言えるし本気とも言える回答にハンザは笑う。
彼は決して口にしなかったが彼女の所属が埋葬機関であることを察していた。
「では私はここで失礼させていただきます」
「もう行くのか?雨宿りくらいしていけばいい。まぁ止むかどうかは保証しないが」
「お心遣いありがとうございます。ですが、せっかくのバカンスを台風程度で飛ばされたくありませんから」
「そうか。なら止める理由は無いな」
ハンザはイヤホンを取り立ち上がると少女を見送るべく歩みを合わせる。
「次はどこに行くのか?」
「まだ決めていませんが
少女は歳相応の笑みを見せ楽しそうに話をする。
ハンザが扉を開けると突き破らんとばかりに風が教会内へ入る。
2人は目を細める素振りをすることなく台風を見つめるがハッと思い出したように少女は話す。
「1つお伝え忘れていました。間もなくこの教会にマスターが来られます」
「なぜ知っている?」
「ここに来る前に魔物に襲われていたので少々手を貸しました。その際に軽く聞きまして。どうやらーーーー」
「
遂に例の場所へ動き出したカルデア一行の道中に何を設けるか迷いましたが魔獣出しとけば大丈夫だろ精神で行きました。
そしてラストに出てきたあのサーヴァント。
え、奏章案件では?
何言ってるんですか!彼女は夏イベのガチャ枠で実装されたうえイベント参加はオーディルコール0なのでノーカン!
あとジェスターの台詞にCV煉獄で再生される場面があります。
お互い変態だし良かろうさ!
そして語るべきコラボイベント。
そ、そう来たかぁ……!の連続。
1部6章前日譚からのスノーフィールドに変わった時はテンション爆上がり。
体調崩されてシナリオが変わったらしいけど満足度高し!
ナノレベルで危惧していたネタ被りも回避したのでこっちはこっちで暴れるぞー!