──氷川紗夜は、己の妹を飼っている。
氷川紗夜の私室、その隅の隅に領域を養生テープで示している「ひなのへや」の中に縮こまってにこやかに此方を窺う己の妹、その姿を勉強机に座りながら一瞥し、恋する少女、氷川紗夜は満足気に口元を緩めた。
▽ ▽ ▽
氷川紗夜と氷川日菜は、二卵性の双生児としてこの世に生を受けた。
物分りのいい姉と、わがままばかりの妹。人参が嫌いな姉と、豆腐が嫌いな妹。才に長けた妹と、何も授かれなかった姉。
二人はその名前のように対極の性格をしていながら、たいした
二人をただの仲の良い双子の姉妹、その関係性で表すことが出来なくなった原因とは、何なのだろうか。
▽ ▽ ▽
あたしは、どうやら他の人とは少し違うらしい。
他の人との違いを並べてみると、すこしだけ要領が良くて、かなり頭の回転が早くて、あと他人とコミュニケーションを取るのがとても苦手だ。
他の人との違いを如実に感じたのは、三歳くらいのときかな、あたしの疑問に両親が答えてくれなくなったとき。
あたしからしたら気になっていたことをたまに質問していただけなのに、両親には応えるのは大変だったみたいで、いつのまにかおねーちゃんに丸投げするようになっていた。
おねーちゃんは、知らないことも多かっただろうけど、いろんな本で沢山一緒に調べてくれた。
勿忘草色の髪を悠々しく揺らしながら、これで答えは出たわね、と微笑んで本を閉じる所作の一つ一つが、優雅で様になっていた。
小学校のコミュニティに入ってからは、他の人はあたしの特異性を羨ましく感じるのだなと気づいた。
それに対して、おねーちゃんは私の事を理解してくれて、おねーちゃんは私の才能を活かしてくれる。なんて出来た人間なのだろう。
クラスメイトの煩わしさと、おねーちゃんの心強さの例を挙げるとするならば、隣の子が授業後に、あたしが寝ていたのを注意してきたとき。
「氷川さん、授業中に寝たらダメだよ」
「えぇ?どうして?あたし授業の内容は全部わかってるよ?」
「それでも…」
「それでも?でもって何さ。あたしに寝不足になって欲しいの?」
「うぅ…」
「日菜、授業中は寝ては駄目よ。ごめんなさいね、日菜には言っておくから。」
おねーちゃんに咎められて、小動物のような挙動をするこの子が泣きそうになって被害者面をしているのが気に食わなくて、心のままあたしが悪いわけないでしょ、と叫びそうになったところをおねーちゃんに軽く目で制止されて、もやもやを残したままその日をすごした。
「あの子は寝ていると授業についていけなくなってしまうの。だから、あなたは見下していいのよ。」
家に帰った後、おねーちゃんにそう言われて、あたしは間違っていないことを理解した。
もう一つの例としては、あたしがクラスメイトの間違いを指摘したとき。
「そこはこうじゃない?普通に考えたら、そんなことしたら分かるよね?」
「は?そんな言い方ないでしょ!ひどいよ!」
「そうだよ!春香ちゃんが可哀想だよ!謝って!」
なんで?その子があたしの特別性に嫉妬してるだけでしょ?なんで被害者のあたしが謝るという話になるんだろう?
あたしは、もちろん謝らなかった。
「あたしは悪くなくない?あたしのどこがそんなに気に入らないのさー」
「日菜、落ち着いて。鳥羽さんも」
おねーちゃんに窘められて、群れないとあたし一人に文句さえ言えないようなよわっちい奴らをおねーちゃんが味方しているのか、と理性を振り払いそうになったとき、おねーちゃんに連れられて教室を出た。
「あの子はアドバイスを素直に受け入れられない性格なの。学年で一番のあなたのアドバイスなのだから、素直に聞けばいいのに。」
「そうだよね、あたしもそう思う。」
廊下に連れ出されて、あんな子の機嫌を取るために言い分を聞かなければいけないおねーちゃんに少し同情した。
負い目は一切ないけれども、投げかけられる苛烈な言葉があたしをささくれ立てるというか、不快にさせるというか。
小さな揉め事があんまりにも続いて、普通に過ごしているだけで段々と苛立つようになってしまった。
幸いなことに、あたしのせいで起こる不和は毎回おねーちゃんが解消してくれている。
あたしの才能を妬んでも仕方がないことに気付かせるのが上手いのかな。
あたしじゃどうも解消しようがないらしい。
「本当にあなたって、私がいないと駄目ね。」
と、おねーちゃんが解決してくれる度言っていた。
それがおねーちゃんのの口癖らしい。
その言葉を言われるたびに、あぁ、あたしじゃ駄目なんだな、と思った。社会に向いていないのかな、と。
でも同時に、
おねーちゃんなら大丈夫。おねーちゃんならあたしを認めてくれる。
そうとも信じられた。
「おねーちゃん、あたしおねーちゃん以外の人と仲良くなるにはどうしたらいいのかな」
「特に何かを変えなくても、あなた自身を好きになってくれて、仲良くなれる人がいつかできるでしょう。私はそう思っているわ。」
「うーん、そうかな…」
「それに、仲良くなれなかったとしても、あなたには私が居るじゃない。心配するだけ無駄よ」
「そっか、そうだね。ありがとうおねーちゃん!」
この頃になると、あたしはは家でも学校でも、空いている時間をおねーちゃんの後ろで過ごすのが日常となっていた。
だって、一人でいるとあたしが文句を言われた時とか、揉め事を大きくしてしまうから。
クラスメイトとは殆ど話さなくなった。
勿論挨拶はされれば返すし、業務的な連絡も欠かしたことはない。
ただ、あたしの方から仲良くなる気が消えて、相手も同じだったということ。
さらに時が進んで、中学生くらいの頃には、あたしはおねーちゃんがいなきゃ不安になるようになってしまった。
あたし一人じゃなにも解決できないし、勉強では役に立つこの脳みそがそれ以外では一切役に立たないことも痛感するようになったからかな。
偶に、あたしの人生はどうしてこんなにめちゃくちゃなのだろう、と思うようになっていた。
勉強だけはできるこの脳が恨めしくて、でもこの頭の良さだけはおねーちゃんに褒めてもらえるから、誇りにもなっていて。精神の支柱がおねーちゃん一本しか建っていないことに気がついて。
おねーちゃんに捨てられるのが怖い、という感情にも気づいて、
そんな事にも気がついた。
▽ ▽ ▽
氷川日菜は、凡人である両親が手に負えない程の大天才であった。
空はなぜ青いのか、月はなぜずっと見えるのか、夏はなぜ暑いのか。
そういった純粋な疑問を山のように積み上げられるような、なによりも聡く好奇心旺盛の、生まれながらにして万物の卵であった。
私、氷川紗夜は、独占欲を覚えた。自分にない輝きと思いつきを持っている日菜のことが欲しくて堪らなかった。その輝きを自分のためにだけ魅せて欲しい、と心から願った。
日菜を自分のものにするために、まずは両親がこの子に常識を教えられないようにした。
具体的に言うと、日菜に「こんなこともわからないの?」という言葉を教えた。
彼女の両親は匙を投げた。あまりにも呆気ない、白旗だった。
鳶が鷹を産むを体現したような両親だ。まぁ日菜と比べてしまえば殆どの人間が鳶になってしまうだろうけど。
私に日菜のすべてを任せるようになり、同時に日菜に信頼のできる両親はいないものとなった。
そして、日菜ができるだけ傲慢になれるように、少しづつ彼女の考えを矯正していった。
勉強ができる人間が偉い、という価値観を刷り込んだ。
裏返せば、勉強が苦手な人間を見下してもよいと解釈できてしまう。私は、この子がそうなるだろうと確信していた。
勉学に秀でている人間を邪魔してはいけないと教えた。
もっと成長して、おそらく学年で一番勉強のできる日菜は、ほかの凡愚に邪魔されるのが許せなくなる。
少し経てば、私以外手の付けようのない人間になるだろう。
氷川日菜は「教育」の成果もあって問題を良く引き起こす人間に成長した。
問題の起きる最大の原因は、日菜が共感能力に欠けていること。
しかし、傲慢で共感能力のない日菜からしたら、原因はクラスメイト達が自分へ嫉妬しているとしか思えないのだろう。
自分が生来持っている原因はない修正可能である箇所はなく、到底謝罪など必要ない。そう考えたに違いない。
日菜は、決して謝らなかった。
日菜は私が雰囲気に合わず、微笑んでいることに違和感を抱けない。
私はクラスの雰囲気が「日菜が悪い」「相手が可哀想」となるまで一切手を差し伸べなかった。
クラスメイトと不和を起こしても自分に原因があるかもしれないと欠片も思わない日菜を見て、次は自分以外への興味を失わせるべきだろう。
そう考えた私は日菜の心を孤独にして、依存の矢印を自分に向かせるための呪文を使った。
「本当にあなたって、私がいないと駄目ね。」
氷川紗夜は、氷川日菜が些細な失敗を重ねる毎にその言葉を吐いていった。
失敗を咎めるわけでもなく、改善策を提示するわけでもない。
ただ、日菜がまた問題を起こした時に自分を縋れるように。自分で解決するという案を実行させないように。
紗夜のその意図の通りに、日菜は紗夜を盲目的に頼るようになっていった。
空気が読めてリーダーシップもあり成績も良く、先生からの覚えも良い。程よく自分たちとも遊ぶ。
そんな空想上の秀才を体現したような紗夜が仲介すれば、クラスメイトも渋々引き下がる。
だが、日菜が不和を起こす度に、周りは日菜のことを信じなくなっていく。
日菜が意見を述べる度に顔をしかめる人もいるくらいだ。
日菜の周りが敵だらけになり、日菜が日に日に人間関係を億劫に思っているのがわかる。
そんな日菜へのフォローも忘れない。
「今日はいろいろと難癖をつけられて大変だったでしょう。」
「うん…結構ね。疲れちゃった。おねーちゃん、いつもありがとう。」
「心配することはないわ。だって私はあなたの姉なのだもの。」
「ありがとう、おねーちゃん。」
「ほら、こっちにいらっしゃい。」
背中を優しくさすりながら、日菜を抱きしめる。
こんなことは何度もしているはずなのに、いまだに恐る恐ると形容できる程に縮こまっているのが「成果」を感じられる。
ある日。日菜がこんなことを言い出した。
「あたし、おねーちゃんの部屋と一緒がいいなぁ。」
「どうしたの、藪から棒に。それにあなた、自分の部屋があるのにずっと私の部屋にいるじゃない。」
「でも寝るときは別の部屋じゃーん、寝るときもおねーちゃんと一緒がいいなって。」
「今更一緒に寝るという歳でもないでしょう?」
そう言うと、日菜は途端に怯えたような顔つきになった。
それは、就寝時、自宅でさえ私といないと不安になってしまうということだろうか。
あらゆる天敵から身を守るため、私の居ない時に感じていた抵抗感を、日菜の脳味噌はもう後戻り出来ないほど住み着かせてしまったらしい。
もしくは、自分の部屋の静寂すら敵と看做してしまうよう変わってしまったのか。
どちらにせよ、仮に外敵がこの世の中からいなくなったとしても、日菜は私がいなければ安眠すらできないらしい。三大欲求のうち一つを、私に握られしまうというのに、どうして警戒心を覚えないのだろうか。
私に嫌われることを何よりも恐れて、睡眠欲を差し出すことで媚びを売ろうとでもしているのか。
「はぁ…まあいいけれど、今更部屋を一緒にするって、どうやって両親に言うつもりなの」
「それはまぁ、なんとかなるんじゃない?」
日菜は後先を考えない人間になってしまった。常人と比べても後のことを考える能力が発達していない。
伊達に天才として生まれていないため「なんとかなる」でなんとかしてきてしまったのが原因だろう。私のフォローを信頼しているというのも要素のひとつだろうが。
「だとしても、私の部屋にベッドは一つしかないわよ」
「いいよ、あたし、床で寝れるから!」
「それは知っているけれど…」
私の渋々とした承諾を聞くや否や、日菜は私の部屋の隅に、養生テープで「ひなのへや」を作り始めた。
自分の巣だと思い込んでいるそれは、間違いなく鳥籠である。
半畳ほどの日菜専用のそれを、自分で作り上げている。
ああ、なんて愚かしくて、馬鹿馬鹿しくて、愛らしい、自慢の妹なのだろう。
鳥籠に囚われた鷹など、愛玩動物以上の価値は無いのに。
その日から、日菜は私の後ろを四六時中ついて回るようになった。
入浴なんかはもちろん一緒だし、それ以外の時も首輪でも着いてるかのように、日菜はかた時も私から離れない。離れられなくなった。
何時でも一緒にいられるように、先生と交渉して同じクラスにして貰える程だ。
トイレ等のどうしても離れなければいけない時は、私の写真をずっと眺めているらしい。中々に怖い。
そのうちトイレにも突撃されそうなのが怖いが。
そろそろ、最後の仕上げをしなくては。
▽ ▽ ▽
季節は夏、あたしが生まれてから14回ほど地球が公転して、変革の日が来てしまった、
いつものようにあたしの部屋でぽーっとおねーちゃん(かわいい)を見ていたら、椅子に座ってゆっくりと読書をしていたおねーちゃんが突拍子もなく立ち上がって、
「そうだ、今日はするべき事が有るのだった」
と言ってきた。
「なにをするの?おねーちゃん。あたしが手伝えること?」
「手伝えるも何も、あなたとすることよ」
「あたしと?…なんだろう、おねーちゃんの分の課題でもやればいいの?」
「そんなことしてもしょうがないし、第一筆跡でバレるでしょう」
本当に何も思いつかないので、冗談を言ってみる。
天才と世間では称されるあたしが、唯一心を読み切れない存在が目の前にいるおねーちゃん。
思考を掻き混ぜ、迷走し、答えは手にある情報だけでは手繰り寄せることはできなそうだ。
「うーんと、本当にわからないなぁ。楽しいこと?」
「楽しいか、と謂われると返答に困るわね。私が楽しくはあるのだけれど」
「ならいいや、おねーちゃんが楽しいなら!」
そう、と微かに呟くのを聞き逃すことはなかった。
ついでに、その次の言葉も。
「今から、あなたの首を絞めるの」
あたしは、おねーちゃんに言われた通りにベッドに横たわった。
寝転んでいるところを上から覗き込まれると、押し倒されているような感じがしてドキドキした。
おねーちゃんは、そんなあたしの首筋に白魚のようなすべすべの五指を添わせて、
「苦しいかもしれないけれど、問題ないわよね。」
とだけ述べて、あたしの頸動脈を圧迫し始めた。
おねーちゃんの掌の温もりを感じる。
おねーちゃんと触れ合えることに悦んで、
なんて横暴な、と思うけれど、間違いなくあたしは歓んで、頸動脈だけが絞められており、気管は魔の手から逃れているのでちゃんと調べてくれたんだな、大事にされてるんだな、と喜んで、
「あぁ、そうだ。」
なんだろう、と純粋でいたあたしは、
「日菜、私はあなたの事が嫌いよ」
─続く言葉に
あたしの脳が理解を拒んでいる。息が出来なくなる。気道は絞められていないはずなのに、先程までおねーちゃんの優しさを体感できていたはずなのに、苦しくて仕方がない。
20秒きっぱりで力を抜く。なにか喋ろうと思ったはずなのに、ひ、とかあ、とかいう発音の連なりにすらならない記号のみが漏れ出てくる。
もう絞められていないはずなのに、気を抜くと意識が途切れそうになる。
おねーちゃんは、あたしを射殺すように、こちらを睨みつけていた。
こんなおねーちゃんは見たことがない。
さっきよりも強く首を圧迫される。先程は温もりを感じていたはずなのに、今はもう冷たさしか脊髄に伝達されて来ない。
あたしは、何か間違えてしまったのだろうか。
走馬灯のように目の前に何もかもが映り、迷惑をかけすぎたのかな、と推測した。
おねーちゃんは、毎日のように問題を起こすあたしと一緒にいるのが嫌になってしまったのか。
おねーちゃんは、他の人と仲良くすらなれないあたしを見限ったのか。
そうならば、大好きなおねーちゃんにまでも迷惑をかけ続けていたあたしに生きる権利などない。
そうならば、いっそのこと頸動脈だけでなく気道まで押し潰して、殺して欲しい。
続く判決の一言は、
「日菜、私はあなたのことが大好きよ」
すべてをまたしてもひっくり返すようで、もう脳味噌では理解が出来なかった。
意味をかみ締めて、心の底から安堵が浮かび上がってきた頃には、あたしの景色は滲みすぎていてもはや何も分からなくなっていた。
快楽と嗚咽と混乱とおねーちゃんの声と指の感覚と、すべてがあたしの中で混ざり合って、特大の幸福感が生まれている。
もうまともな思考などできないことを頭の中のどこかで感じ取る。
「日菜、あなたは今日私のものに成るのよ」
本当に意味が分からない。あたしが思考停止しているのと、そもそも言葉が意味不明なのと。復た20秒経過し、力を抜かれたときに思ったのは、そんなことだった。
「おねーちゃん…。」
頭が回らず、意味はないけれど口なじみが良い単語を喋る。
あたしがこの先どうなってしまうのか、まったくわからない。ただ、おねーちゃんはいつも通り、いやそれよりももっと艶々とした微笑みを浮かべているので、悪くはならないのかな。
さらに強く、愛玩目的ではなく懲罰と言えてしまうほどに強く締めあげられる。
あたまがぱちぱちとする。
おねーちゃんの目がきらきら、ぎらぎらと輝き始める。
きっとお月さまよりも明るいんじゃないか。
締め上げが強くなるほど、おねーちゃんの口角も上がっていって、
「日菜、あなたの全てを私が支配する」
「いいわよね?」
もう、肯定しか残されていなかった。
「は、い」
どうにかしてその一言を絞り出すと、意識が鮮明になって、体の隅々、心臓にまでおねーちゃんの鎖が絡みついてしまったのを感じた。
おねーちゃんは今までで一番目を輝かせていて、どうやら瞳孔に映るあたしも同じ目をしているようだった。
▽ ▽ ▽
結局、次の日は大変だった。首元に絞めた跡が残ってしまって、その始末に追われた。おねーちゃんはどうやって隠すつもりだったのだろうか。
隠さなくてもいいんじゃない、と半分冗談で言ってみたら良いわけがないでしょう、と食い気味に答えられてしまった。
いや、おねーちゃんの所為なんじゃないの?とも思ったが、おねーちゃんがあたしの首元を愛おしそうに見やっていたので、なんかそんなことはどうでも良くなった。
あとは、あたしの各種液体で惨状となってしまったベッドのシーツをどうやって洗濯に出すか。
あんなことがあったのに、あたしとおねーちゃんの関係性の変化は特になかった。
おねーちゃんはいつも通り悠々と、優等生として過ごしているし、あたしは勉強しかできない。
何かを挙げるとしたら、あたしがおねーちゃんの細長い指、その先をぽーっと見つめてしまうようになったとか、おねーちゃんの麗らかな唇に見とれてしまうようになったとか。それくらい。
今日は、いい日になるといいな。
▽ ▽ ▽
──氷川日菜は、己の姉に服従している。
姉である氷川紗夜の私室、勉強机に座りながらこちらを満足そうに眺める