色々駆け足ですがどうぞ。
「───貴方はリアスの事をどう思っていますか?」
この質問を姫島朱乃が兵藤魁斗にしたのはただの気まぐれだ。塞ぎ込んだリアスの為に魁斗を連れて行く僅かな時間、何も話さないのも居心地が悪い。かと言って何かを話そうにも命の恩人というだけで顔見知りより多少マシ程度の関係性では話題を探すのにも苦労する。そんな中で共通の話題に出来て何となく気になったのがコレだった。
「うーん、ありきたりな感想かもしれませんが良くも悪くも箱入り娘のお嬢様ですかね。こう、外見ほどは中身が成熟していないというか」
本人の言う通りありきたりな感想だ。リアスを
「そのありきたりな感想を抱ける事が希少なんですけどね……それを理解出来ないからこそなのかしら?」
「はい?」
だが現実としてリアスを相手にその様な感想を抱く者は少数派だ。グレモリーの次期党首や魔王の妹という肩書きは思いの外大きくリアス個人を覆い隠して本質を見抜くのを難しくしている。軟派な様で生真面目なライザーは完全に肩書きでしかリアスを見ずに顰蹙を買った一例だ。逆に肩書きを横にやり個人をきちんと見れている眼前の男がリアスに好まれている事に疑問はない。あの劇的な婚約破棄が重なれば尚更の事だ。だが、朱乃にとって魁斗の存在は想定外の物である。
「それはそれとして異性としてはどうですか?身内贔屓抜きでもリアスに並ぶ女はそうそういない……いや、あの聖女の様に貴方の周りにはそこそこいそうですね。何にせよ、あの子の思いを蔑ろにするならば相応の対応をせざるおえませんが」
「……ちょっと保留にさせてもらえませんかねぇ。今そっち方面で思い悩む余裕も浮かれない自制心も持ち合わせがないので。そんな状況で答えを出すのも相手に失礼でしょう?」
朱乃はリアスが惚れ込む相手は
「で?似たような事を何人相手に言ってるんです?」
「………………モチロン、コレガハジメテアルヨ。ワタシショウジキモノネ、シンジルヨロシ」
「判断に困る人ですね」
リアスの柵を破壊できる力を持つ男がリアスの色香に呑まれない心の強さまで持ち合わせているなど朱乃にとって想定外も良い所だ。それでいて性欲を放棄した聖人でも、欲望を味わい尽くした悪漢でも、ただ武の道に生きる武人でもない。リアスの誘惑に無関心ではなく心揺さぶられる常識的な感性と運命に愛された英雄性を持ち合わせている魁斗はリアスの夢見る恋路を歩める理想的な男だ。そんな相手と巡り合う可能性はどれ程のものだろうか?きっとリアス・グレモリーは天に愛されている、悪魔への評価としてはおかしいが朱乃はそれ以外の感想を抱けなかった。
「───そういえば何で堕天使の力使わないんです?コカビエルは兎も角としてライザーなら俺がいなくても何とかなったのでは?」
その疑問はふと思い出したかの様に紡がれた。傍から聞いていれば話の流れを切る為にとってつけた質問だ。だが朱乃は口調にほんの少しだけ棘があるのを聞き逃さなかった。朱乃はリアスの婚約破棄を賭けたゲームでもコカビエルによる襲撃でも堕天使の光力を全く使っていない。リアスの人生の分かれ目とも言える場面で出し惜しみをするのは利敵行為と取られても文句は言えないだろう。探りを入れられている、そう朱乃は判断した。
「半分は単純に我が身の不甲斐なさですかね。コントロールに難があり自滅もあり得るので使わない方がマシだと判断しました」
「ああ、なるほど」
その淀みない返答は嘘ではないが本当とも言い難い。そこらの下級、中級堕天使が気軽に使えるのが堕天使の光力である。ハーフであるという点や鍛錬を怠っている点を差し引いても朱乃の血統と才覚ならば呼吸する様に使える筈なのだ。それでも使えない、使おうとしないのはメンタル面の問題である。母親との死別、最上級のトラウマに加え様々な事態が重なった過去を朱乃はまだ乗り越えられていない。
「もう半分はリアスの為ですね。あの子ってしっかりしている様で大分足りない……失礼、抜けてる所があるでしょう?いつ変な
「……ああ、なるほど」
危機感や妥協、楽観的な思考が入り混じった判断だが魁斗はどこか遠くを見つめながら納得した。原典の知識があれば朱乃の判断が何一つ間違っていないと分かってしまう。朱乃の
「───リアスの事よろしくお願いしますね。きっと貴方の言葉なら届くと思います」
「自信はありませんが……まあ、やれるだけはやりますよ」
朱乃は魁斗へ深く頭を下げ魁斗を見送る。ぽっと出の男に頼らざるおえないとは眷属としては不甲斐ない。だが、これでリアスは救われるだろうと確信出来る。
「───死んでしまえばいいのに」
漏れ出た怨念の籠もった声は誰の耳にも届かず虚空に消えた。
◇
「───良かった。本当に良かったわ。生きていると信じてはいたけど、あんな別れ方だったから」
魁斗はリアスが激情に任せてハグの一つもしてくると予想していた。実態は罪悪感を滲ませた悲壮な表情をして常識的な距離感で魁斗に接している。こと恋愛においては自制から程遠い女がそんな反応をするのを見れば困惑もするだろう。
「……来てくれたのは本当にうれしい。でもごめんなさい、私にはその資格も価値もないの」
まして自身を遠ざける様な発言すらしてくるのだから驚きだ。話には聞いていたが予想以上に精神に来ているらしい、魁斗はどうしたものかと頭を捻らせる。
「あー、コカビエル相手にやられたのは俺の油断やら訓練が足りなかったのであって……気に病む必要はないと…思いますよ?木場に関してはまあ……えっーと」
「違うの、それだけじゃない。私は、私達悪魔は……」
魁斗の自身すら受け入れられない理屈は当然の如くリアスにも届かない。自身が死にかけた事や仲間との離別以外に何かがあったのだろうと察しはつくがその中身に関しては分からなかった。そして、黙り込む相手の口を滑らせる程に弁が立つ訳でもなく、おおよそお手上げの状態だ。ただただ嫌な空気の中で時間だけが過ぎる、先に根を上げたのは魁斗だった。
「があぁ!!しゃらくさい!!
「ッ?!」
魁斗はリアスの肩を掴む、驚き顔を上げたリアスに目を合わせて言葉を続けた。
「俺は油断したし、力が足りなかった!結果として木場を助けられなかったのは悪いと思ってる!」
「だけど、俺達は
「報酬が無いのはいい!全ては守れなかったと罵倒されるのも当然だ!」
「俺の関与しない所の問題で嫌な空気に曝されるのは勘弁してくれ!」
途切れなく放たれるのは魁斗の本音、誰だって自業自得ならいざ知らず、自身の手の届かない事象による被害など受けたくないのだ。説得というには余りにも破れかぶれなソレはリアスにも共感出来る。何せリアスとて自身の意図など汲まれぬまま決まった婚約者に辟易していた過去があるのだから。
「……そう、よね。ごめんなさい。私は、私達悪魔は───」
ポツリポツリとリアスは自身が知った真実を話し出す。悪魔が人間を喰い物にしている事、それが太古の時代から繰り返されている事、情愛が深いと自称するグレモリーも例外では無い事、サーゼクスの理想など悪魔には全く響いていない事。
これらは多少なり悪魔を知る者なら誰でも知っている、肌身で感じている事だ。そんな常識をリアスは知らなかった、いや耳にしたとしても一部の心なき悪魔だけだと聞き流した。無知蒙昧、思慮不足、なんと罵倒されようがリアスに返す言葉は無かった。
「───もしかしたら、私の眷属は……あの子達との出会いだって忖度された物かもしれない」
身も心も傷つき最早これまで、そんな状況で救いの手が差し伸べられる。それ自体はありふれた話でも、何度も繰り返されれば作為的な物を疑わざるおえない。駒王町には慈悲深い悪魔が
「もし、もしもそうだとしたら私は───」
───何一つ確証はない、だが疑念が一度浮かんでしまえば脳裏から取り除くのは困難だ。疑念はじわりじわりと侵食し大きくなっていく、グレモリーとしての誉は恥へと転じリアスの心を犯していた。
「あんたアホか?もしくはものすごいアホか?」
「ものすごいアホッ?!」
リアスの悲壮な表情は魁斗はあっけらかんとした態度で揺るがされた。あんまりな返答に対してリアスはパクパクと口を動かして間抜け面を晒す事しか出来ない。そんなリアスを知る目に魁斗はため息をついて本気で呆れていた。
「いや、自分が何も悪く無い事で何悩んでんの?先祖やら親戚やらその他大勢がやった事にあんたの責任はないだろうが」
「私はその恩恵は受けてたのよ?!悪魔が人間に何をしてたかも知らずにッ!こんなの恥知らずもいい所じゃない!」
「んなもん知ってようが知るまいが関係ないわ。つーか、人間だって似た様なもんだよ?」
リアスの罪悪感も良識もバッサリと否定される。安直に励ます為の中身のない発言ではない、明確な理論を持って説明出来る事だ。
「欲望の赴くまま凡ゆる生命を殺し喰らった!同族の人間すら奴隷として使い潰した!他所の歴史も文化も闇に葬った!いくらでも例は出せる。その
積み上げられた人間の歴史、そこにあるのは叡智や勇気、正義と言ったキレイなものだけではない。寧ろそういった物よりも犠牲となった屍の方が圧倒的に多い。それを知っているならば血に濡れた手で育てられただけの小娘をどうして責められるだろうか?
「……真面目さを発揮する方向間違えてるんだよ。過去は決して変わらない、変える余地があるのは未来だけだ。それすら放棄したらそれこそ無駄じゃないか」
「で、でも、私のせいで、私が人間界に来なければ、誰も傷つけなくてすんだかも……」
理屈は分かる、リアスも他人事なら同意出来るだろう。だが、自身がきっかけなのだ。悪魔とは思えない高い倫理観を持つからこそ不幸を振り撒いた浅慮に耐えられない。
「だとしても!それだけじゃない。少なくとも眷属達はリアスだから救えたんだ!」
例えば神器使いならば危険だからと排除、或いは戦力として使い潰される。吸血鬼のハーフか人間かは関係ない。
「我が儘お嬢様?、魔王の七光?、上等じゃないか!」
例えば主人殺しの妹なら胴と首がお別れだ。利用価値の低い獣畜生を庇う物好きはそういないのだから。
「あいつらに今よりマシな未来なんてほとんどあり得ないぞ?!」
例えば恵まれた血統を持った家出娘ならば如何様にでも利用出来る。どんな勢力に身柄を抑えられたとしても呑気に学園生活を送る余裕はない筈だ。
「失点ばかりに目を向けて前を向く事を放棄するじゃないッ!」
リアスの出会いには誰かの忖度があったのかもしれない。我が儘に振り回されて苦労した誰かだっているだろう。だが、マイナスだけでなくプラスも確実に存在するのだ。リアスのこれまでの道程に改善点はあれど0点ではない。
「そもそも木場はまだ生きてるんだろうがッ!うだうだ悩んでる暇がどこにある!中途半端に正気に戻ってんじゃねぇ!今まで通り我が儘で周りを振り回す方がまだましだぞ?!」
そして、今立ち止まってしまえば失われる物がある。完璧な結末などそうたどり着けなくとも前に進む義務と権利がリアスにはあるのだ。
「……じゃあ、私が祐斗を助けてって
「別に構いませんけど?今後こっちもリアスを利用する気満々なので。ギブアンドテイクで行きましょう」
「───アハッ♪、アハハハハハハ!!!」
リアスは久方ぶりに笑う、長い雨季が終わり満点の晴れ空を見た様な爽快感に包まれていた。自身を利用しようとする相手なんて大嫌いな筈だ、でも何故かそう公言されるのが心地よい。奪うわけでも一方的に与えるだけでもない、与え合う関係になろうと言ってくれるのが嬉しかったのだ。
「……そうね、今更惜しむ様な外聞はないんだもの。頼れる物は全部使い倒しましょうか───プハッ♪これは私からの手付金よ♡」
それは情熱的なものではない、少し背伸びをして唇を重ねるだけの初々しいもの。これまでやってきた魁斗へのアピールに比べれば児戯に等しい。だというのにリアスは今まで感じた事がない程の熱と鼓動の高鳴りを感じていた。
(……………一先ず一件落着かな?)
対する魁斗はどこか上の空気味に思考する。熱暴走を引き起こしているのは何もリアスだけではない。高鳴る鼓動も相まってフワフワと頭が回っていなかった。
(しかし、感触って結構個人差あるんだなぁ)
「───ねぇ?今他の女の事考えた?」
あ、やっべと冷や汗をかく程度の思考力が魁斗に戻った、完全に手遅れだけど。先ほどまで光輝いていた瞳は漆黒の
「……本気なのが2人?いや3人かしら?遊び半分が1人、もう1人は……???リアスセンスが上手く機能しない?……一先ず、貞操は無事みたいね」
「その急に生えた能力なんなのさ?!」
女の勘は女の標準装備である、後付け設定の烙印を押される謂れはない。
「魁斗、一緒にシャワー浴びましょうか」
「ちょっと待ってくれ?!」
「大丈夫、私は冷静。身を清めるだけ。上書きするのはベッドの上でよ!」
「本当に待って?!!」
服を脱ぎ捨てながら迫る女に、目元を隠しながら後退る男。世にも奇妙な光景がそこにあった。
「魁斗が悪いのよ?!私の
「それに関しては本当にごめんね!でも、そっち方面で浮かれてる余裕はないんだよぉ!!!」
女が追いかけ、男が逃げた。そこに悲壮感は欠片もなく、明日への活力に満ち溢れている。恋に恋する時間は終わった、この先にあるのが苦い失恋だとしてもリアスが立ち止まる事はもうない。
世間知らずなキャラは好きです。どう成長するかが楽しみなので。
朱乃に関しては今後深掘りしようかなと、原作程スイーツにはしないつもり。
次回はもうちょい早く描きます。