鬼殺しのかぐや姫   作:しやぶ

82 / 82
第三十三話:図屏風の鬼

 

(──また若返った。数の利を手放してこの姿になったということは……!)

(……炭治郎の予想通りか。ヤツの分身は、頸を斬っても意味がない)

 

 敵の性質を悟った無一郎は、腰を落とした姿勢を取り──告げた。

 

「炭治郎。アレの足止めは僕がやる。本体は任せた」

「……っ、でも」

 

 『まだ相手の能力が分かってない』『二手に分かれるなら、少しでも手札を引き出してからの方が安全なんじゃ』

 そう言おうとした炭治郎は、途中で口をつぐんだ。

 

「最早言葉はいらぬ」

 

 憎伯天が、背面の太鼓を打った。

 すると鬼の足元から、二体の木竜が出現。それぞれが炭治郎と無一郎を()め付け──口を開いた。

 

 無一郎が有無を言わせず、憎伯天の前へと躍り出る。木竜達の狙いが、彼一人に変わる。

 

「走って炭治郎! 僕より鼻が効くキミの方が、本体を探すには向いてる!!」

「〜〜っ。すぐ見つけるから!!」

 

(──させん)

 

 憎伯天が再び、(バチ)を振るった。

 彼はまだ余力を残している。憎伯天が同時に操作可能な木竜の数は、二体が限度ではない。

 

 しかし、炭治郎の前に木竜は現れなかった。

 

 (ゾウ)の牙のような、陰陽勾玉を分解して縦に繋げたような形状の桴は、『憎』の字が記された連鼓(れんつづみ)を叩くことなく──持ち主の腕ごと、彼方へ斬り飛ばされていた。

 

  霞の呼吸 伍ノ型 霞雲(かうん)の海

 

(柱の(わっぱ)!? あり得ぬッ、石竜子(トカゲ)の術を──『狂鳴雷殺』を掻い潜ったというのか!?)

 

 ()。回避したのではなく、無一郎は飛来した術を()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

(初っ端から大技を使わされた、けど……!)

(耳飾りの小僧に離脱された……!! 憎らしい、腹立たしい……!!!)

 

 憎伯天が、残った片腕を振り上げる。切断される。

 声を上げようと、大口を開ける。頭蓋ごと舌を切断され、術が霧散する。──が、しかし。

 

 突如無一郎に、雷撃が降り注いだ。

 

「ガッ……!?」

(くそッ、喰らった!! 積怒の雷撃──()()()()()()()()()ッ)

 

 木竜が吐くものと違い、素体の積怒と変わらない威力ではあったものの……『至近(この)距離だと回避も迎撃も間に合わない』と判断した無一郎は、すぐさま飛び退き憎伯天から離れることを選択した。

 絶え間ない追撃が彼を襲うも、翻弄を得意とする『霞』の歩法を憎伯天は捉えられない。

 

(……『当てる』ことに重きを置いた雷撃では、動きが鈍らんか。

 石竜子(トカゲ)にもっと広範囲の術を撃たせ、その対処に型を使わせれば……確実に、奴を消耗させることはできる。が……連戦が決まっている今、後に響くようではいかぬ。その上で、時間も惜しい。

 もっと迅速に。かつ、効率的に──)

 

(大技を使うと体力が減るのは、人も鬼も同じこと。可能な限り消耗を避けたいのは、相手も同じ。

 奴だって大技を使わずに、僕の体力を削りたい筈。なら、そのために奴が取る行動は──)

 

 憎伯天が両腕を再生し、連鼓を打つ。木竜の頭数が増えていく。

 ──無一郎の退路を塞ぐ形で。

 

(まぁ、こうなるよねッ)

(一撃で鈍らんのなら、もう二撃でも三撃でも、喰らわせるまで)

 

 憎伯天が、自ら無一郎の方へ向かって駆け出した。

 同時に木竜達が、憎伯天を巻き込みながら雷撃を吐き出していく。

 

(うわっ、雷撃(それ)自分には効かないんだ!?)

 

  霞の呼吸 陸ノ型 月の霞消(かしょう)

 

 それは始まりの呼吸における型の一つ、『斜陽転身』と同じ──天地を入れ替える形で跳躍を行い、回避と攻撃を同時に行う型。

 違いは『連撃』であることと、直接の派生元である風の呼吸が持つ性質を引き継いだ、広い攻撃範囲。

 

 道を塞いでいた木竜達が細切れになり、無一郎の逃走経路が拓かれる。

 

(足止めにもならぬか、憎らしい。──だがまぁ、成果はあったらしいのう?)

(……くそ、一瞬対処が遅れたかな……。ちょっとだけ、身体が痺れて……ッ)

 

 歯噛みする無一郎の前に、再び木竜が出現。間、髪を入れずに追撃が到来。

 

(あぁもうキリがないッッ)

 

 今度は単に速い雷撃のみではなく、範囲が広い可楽の『突風』や、殺傷力が高い哀絶の『槍雨』も織り交ぜた攻撃。

 無一郎は全て避け、時に斬り払って逃げ回るが……これは彼にとって初の『上弦戦』である。極度の緊張と集中による精神の疲弊、大技の連発と外傷による肉体の疲弊が、急速に「体力」を削り取っていた。

 

 ──にも関わらず、憎伯天が突然足を止めた。

 

(…………運がいい)

(なんだ……? ──ぁ)

 

  霞の呼吸 漆ノ型 (おぼろ)

 

 ()()()()無一郎が逃走を止め、憎伯天へ一直線に斬りかかる。

 彼が編み出した、本来なら『霞』の歩法を最大限活かす筈であるその型は……鬼が迎撃を選ばなかったことで、その特性が発揮されないまま放たれた。

 

(──お前達はいつもそうだ)

 

 鬼と鬼狩りが、同時に同じ言葉を思い浮かべた。

 

(家族でもないのに寄って(たか)って、(はぐ)れ者を攻撃する。この度し難い極悪人共は──)

 

(────卑怯者め)

 

 

(修羅の形相で、必ず──儂らの()()を邪魔しに来るのだ)

 

 

 彼らが気付いたのは、玉壺の使い魔に襲われ負傷していた刀鍛冶の一人。使い魔が消えて助かったはいいが──その場から動けなくなっていた、大勢の中の一人。……「大勢」の中で、一際運がなかった「一人」

 

 憎伯天の首筋に、線が走った。

 

 小さな雷鳴の後、大地に無数の大穴が空いていた。

 

 

 

 *

 

 

 

 ──嗅ぎ分けろ。どこにいる?

 

 硫黄の匂いは、芭蕉扇の鬼が飛ばしてくれた。

 無一郎くんが潰れる前に、見つけ出して斬らなければ。時間がない。

 

「────見つけたッッ!!」

 

 位置が低い。しゃがみ込んでいるのか? 茂みの中に隠れている。

 まずは視界の確保から。

 

  ヒノカミ神楽 灼骨炎陽(しゃっこつえんよう)

 

 前方を薙ぎ払い、明らかになった『肆』本体の全容は──姿形こそ最初の『老人』と同じものだったが、その体躯は野鼠程度しかない、小鬼を通り越した『豆鬼』だった。

 

「!?」

(……いや、気後れするな! この臭い──本体で間違いない。人を大勢喰った鬼の臭気だ……!!)

 

  ヒノカミ神楽──

 

「ヒッ、ヒィィィ!!!」

 

 半天狗が悲鳴を上げた次の瞬間、炭治郎の身体を「何か」が圧し潰した。

 

「ぐゥ……ッ!」

(なんだ、上から──今のは、「風」か? 団扇(うちわ)鬼の能力──本体も使えた?)

 

 半天狗から攻撃の予兆(におい)を感じ取れなかった炭治郎は、そのことに困惑するも……すぐに意識を切り替えた。敵が倒れている自分に見向きもせず、背を向けて逃げ出したからだ。

 

(マズい、逃げられ──)

 

「どこを見ている?」

 

「──ッ!?」

 

 声がした方──()()に炭治郎が目を向けると、憎伯天によく似た鬼が、彼を見下ろしていた。

 

 角が二本の憎伯天に対し、ソレは一本。

 連鼓の代わりに、羽と筒状の襟巻き。

 両手に桴ではなく、片手に喇叭(ラッパ)

 

「小さき者を踏みにじる、外道めが……。

 儂は怨めしさで、いまにも頭が灼けそうだ」

 

(六体目……!! 『喜怒哀楽』に、『雷神』気取りの次は『風神』気取りか……ッ!)

 

 窮地に追い込まれた時、爆発的な力を発揮する。……それは「人間」だけの特権ではない。

 

 半天狗の血鬼術は、単なる『分裂』ではなく──『感情の具現化』である。そのとき(いだ)いた感情が、強ければ強い程……それに呼応し、強力な分身が生まれる術である。

 

 窮地に陥る度に、苦難が大きい程に──反動で、強くなる。

 

 それが『半天狗』という鬼の特性。

 

「のう、(わらべ)よ。儂は理解ができない。何故()()(しいた)げる?」

 

「……は?」

 

()()()で逃げ回る者を、どうして甚振(いたぶ)ることができる? その行為に、痛む良心はないのか?」

 

「────」

 

 炭治郎の顔から、表情が抜け落ちる。全身が固まり、人形と化したように止まっていた。

 ──それでも、ジクジクと紅に染まっていく眼球が……静かに、雄弁に、彼が血の通った人間であることを証明していた。

 

「正気とは思えない……性根から腐ってるのか? お前……よくもぬけぬけと、臆面もなく……!!

 臭いで分かるぞ、その悪臭──」

 

 本体が潜伏から逃走に意識を切り替えたことで、()()は露呈した。

 

「お前、上弦の中でも殊更大喰らいだろう……! 上弦の参だって、こんなに酷い臭いはしなかった! ()()()()()()()の悪臭だ……! ()()()()()()()()()()()()()()特有の、咽せ返るような血の臭い……!! それがお前は、骨身の芯まで染み付いているッッ」

 

 血涙を流しながら、炭治郎は叫んだ。

 

「いったいどれだけ人を喰らった!? その全員が、お前より強かったのか!? 自らお前を害そうとしたのか!?

 ──そんなワケがないだろう……!!! お前が口にした妄言は、全てお前自身に向けられるべき言葉だ、悪鬼!!」

 

「……話にならんな」

 

 鬼が喇叭を吹き、炭治郎が駆けだした。

 

 

 

 *

 

 

 

 大正コソコソ噂話

 

 その分身の名は、『琥怨灼(こえんしゃく)

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

継国の娘(作者:毎日読書)(原作:鬼滅の刃)

継国家に生まれた娘の話。


総合評価:1631/評価:7.66/連載:23話/更新日時:2025年09月24日(水) 08:04 小説情報

〝鬼の女中〟と呼ばれる女(作者:悪魔さん)(原作:ONE PIECE)

前世はロクな人生じゃなかったので、今世は自由を謳歌したい女海賊がいた。▼その名は、クロエ・D・リード。後に〝鬼の女中〟と呼ばれることになる海賊である。▼これは、前世持ちの女海賊が自由気ままに海に君臨する物語。▼


総合評価:20074/評価:8.59/連載:122話/更新日時:2026年05月05日(火) 00:00 小説情報

ゆるふわ芦毛のクソかわウマ娘になってトレーナーを勘違いさせたい(作者:へぶん99)(原作:ウマ娘プリティーダービー)

*完結しました。▼ タイトル通り。▼ ある日突然ウマ娘になっちゃった主人公が、トレーナーと一緒に頑張って最強ステイヤーを目指す話です。▼ 主人公の支援絵を頂きました!掲載しきれていない分も多々ありますので、本編及び「キャラクター紹介」に載せてあります。▼【挿絵表示】▼【挿絵表示】▼


総合評価:24197/評価:8.83/完結:151話/更新日時:2023年05月14日(日) 05:41 小説情報

水柱の継子(自称)(作者:ポケットピスケット)(原作:鬼滅の刃)

原作知識有りの主人公くんです▼どうにかして原作死亡キャラを救います▼ノープランですがよろしくお願いします▼*本編完結致しました▼番外編を継続して投稿してます


総合評価:470/評価:8.15/完結:69話/更新日時:2026年02月24日(火) 22:00 小説情報

転生したらスキマ妖怪だった件について(作者:デスゴッド)(原作:転生したらスライムだった件)

『転生したらルーミアだった!?』とは別の世界線の転スラ×東方Project のクロスオーバーです。▼こっちではクロスオーバーする作品を極力東方のみに搾る予定です。▼また、式神や陰陽道に関してはご都合解釈なのを了承して下さると幸いです(・・;)▼それではどうぞ。


総合評価:412/評価:8/連載:29話/更新日時:2026年05月03日(日) 14:22 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>