色々あってRoseliaができなかった世界線の湊友希那(27)が逆行してやり直す話。を作りたかったがイマイチ展開が思いつかなかった為に没。
ですが、プロローグ単体で一つの話にできるのではと思い立ったのでちょっと加工してできた産物です。
旧題:逆行の友希那さん

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友希那さんの本懐

「今日の練習はこれで終わりにしましょう。皆、お疲れ様」

 

「「「「お疲れ様でした」」」」

 

 

私の練習終了を告げる旨の言葉にメンバーがそう返すと皆、それぞれ片付けを始める。

私もマイクスタンドをしまい、曲に関する冊子とペットボトルをトートバックに詰め込んで早々に帰宅しようとすると後ろから声が掛かった。

 

 

「湊さん。この後、時間空いてますか?」

 

「空いているわ。と、言いたい所だけど今日はこのあと、プライベートの予定があるの。何かしら?」

 

「いえ、大した事ではないんですがここ最近、二人だけで話す事が少なくなってきた気がして。それで出来ればファミレスで少し話せたら良いなと。お互いバンドの初期メンバーですから、意思疎通はしっかりしておかないといけません。

それと、少し失礼を承知で言わせてもらいますが珍しいですね、予定があるなんて。毎日練習が終わっても夜遅くまで残って、休みの日も一人で自主練習をしているとスタッフから聞いたものでしたからてっきり、湊さんにとってプライベートなんてあってないようなものと思っていました」

 

 

そんな事を言ってきた彼女の名前は氷川紗夜。

彼女はこんな風に少々毒舌ではあるが、その毒舌は信頼している人以外には吐かない事を私は知っている。その証拠に今の紗夜の表情は昔のお堅いものではなく、若干の笑みを浮かべている。

何せ10年近い付き合いだ。これ以上の付き合いとなると幼馴染のリサ以外にはいない。

昔は誰それ構わず、その毒舌っぷりをかましていた所為で少なくない数のメンバーが辞めていった。マネージャーも片手では収まりきらないほど変わっている。

 

 

「私にもプライベートはあるわよ。ただ、趣味と仕事が同じなせいで私的な時間が少ないだけ」

 

「そうですか。差し支えなければ予定を教えてもらっても?」

 

「久しぶりに幼馴染に会う予定よ。リサって言えばわかるでしょ?」

 

「あぁ、あの人。湊さんがよく言っていた人ですか。」

 

「えぇ、最近はお互い忙しくて、中々予定が合わなくて。やっと二人とも時間ができたから会うことにしたの。というわけで、また明日。」

 

 

 

 

会話を切り上げて練習スタジオを出た私は自宅への帰路を歩み始める。

時刻は午後9時過ぎ。外に出ると目につくのは無数の人々。親子やカップル、スーツを着た仕事帰りの人まで様々な人々が流れるように街中を歩いている。

ぼーっと、呆けながら歩いていると何処からか音楽が聞こえてきた。少し耳を澄ませれば、音の発生元はすぐに分かった。

前方にギターを演奏しながら歌っている少女が見える。路上ライブだった。

せっかくだから少し聞いていく事にしよう。そう思い、少し歩を早める。

 

 

 

 

少女の声がはっきりと聞こえるところまで近づき、足を止め聞き入る。

彼女の歌と演奏は決して上手いとは言えなかった。しかし肝心の本人が笑顔で楽しそうに弾くものだから思わず微笑ましくなり、私もつられて思わず笑顔になってしまう。

その一方、私もあんな風に歌えたなら。そんな羨む気持ちが私の心から滲み出る。

やがて歌い終わると私は財布から千円札を取り出し、お金を入れるところであろう小さな金属の入れ物に入れた。

 

 

「良い歌だったわ」

 

「ありがとうございます!!ってえ、もしかしてLiLiumの湊友希那さんですか?」

 

「えぇ、そうだけど」

 

 

LiLiumとは私の所属しているバンドの名前だ。今から10年前、メジャーデビューの際に私をスカウトした会社側が勝手に決めたバンド名なのだが、私も紗夜も特にバンド名に強い拘りはなかったのでそのままバンドの名前になった。

 

 

「私、湊さんのファンなんです!こんなところで会えるなんて、嬉しいです!偽物だったりドッキリとかじゃないですよね?!」

 

「偽物でもドッキリでもないわ。正真正銘本物よ」

 

 

私のファンだという少女は目を輝かせ、私の手を力強く握りしめ上下に振った。

そして手を離したかと思えば鞄の中からペンを取り出し、ギターを持ちながら言った。

 

 

「よかったら、このギターにサインしてくれませんか?ホントはCDとかに書いてもらうのが良いんでしょうけど、今は持ってないので.....」

 

「いいわよ」

 

「ホントですか?ありがとうございます!!」

 

 

そう言いながら頭を何度も下げる少女も横目にギターにサインを書く。昔は慣れなかったものだがプロとして長年活動し続ける内にもうすっかり慣れた。

パパッとサインを書き上げて渡す。すると少女は目を一段と輝かせてサインを凝視し始めた。

 

 

「わぁぁ、湊さんにサイン、しかもギターにサイン書いてもらえるなんて夢見たい....」

 

「それじゃあ、私は行くわ。またいつの日か、会える事を願ってるわ」

 

「あ、ちょ、待ってください。一つ、聞きたい事があるんですけどいいですか?」

 

「何かしら?」

 

「湊さんってなんでバンドやり始めたんですか?」

 

 

その瞬間、私の時間が凍りついたような気がした。

 

 

「LiLiumの他のメンバーの人は調べればすぐ理由が出てくるんですけど、湊さんだけ理由が出てこないんです。私、気になって湊さんが出たテレビ番組とか、雑誌とか、ネットの記事とか、片っ端から集めて調べたんですけど、どの媒体でも音楽を始めた理由を話してなくて。私、ずっと気になってたんです。教えてくれませんか?」

 

 

純粋に目を輝かせて問うてくるこの少女に私はなんと答えれば良いのだろう。高校生の頃、私がまだメジャデビューする前ならば父親の復讐と真っ先に答えれた。

しかし今になってはプロとしてそんな事、口が裂けても言えない。

バンドをやり始めた理由を知っているのは幼馴染のリサだけ。長年、共にバンドをやってきた紗夜だって知らない。

それなのにこの少女に理由を教えてしまって良いのだろうか。いや、教えるべきではないだろう。

一人のプロとして復讐などというあまりにも自分勝手な動機で音楽を始めたことを知ればこの子はきっと幻滅するだろう。私はそれが怖い。

 

 

 

今から十年前。高校二年生の時、私は企業のスカウトを受けた。内容は私の求めるレベルのメンバーを企業側が提供してメジャーデビューをするという、破格の条件だった。当時、バンドメンバー探しが難航していた私にとっては渡りに船だった。

スカウトに対し私は唯一、自力で見つけ出したバンドメンバーの氷川紗夜をバンドに加えることを条件にスカウトを受けた。

せっかく、時間をかけて見つけ出した人物をそう簡単捨てるのは惜しい気がしたからだ。

それからは今までとは比べ物にならない程、練習環境が良くなった。

設備は勿論、会社側が連れてきたメンバーは全員レベルが高く、申し分なかった。

しかし、どのメンバーもセッションするとイマイチで私の求めるものには遠く、さらに彼らの中には少なからず自身の才能にかまけている者もおり、そこに紗夜のストイックさが相まってメンバーも何度も変わることになる。

結果、メンバー選定だけで半年以上費やすことなり、私の最重要目標であるFWSへの出場は高校三年時となった。

 

 

そして迎えた本番の舞台。

結果は最悪の一言だった。演奏が始まった途端、私はこのライブの失敗を確信した。明らかに観客の反応が良くなかった。

練習では上手く出来たはずだった。いや、この表現は適切ではないだろう。実際は練習通り出来ていた。

ただ、私達の奏でた音はオーディエンスの心を揺さぶらなかった。響かなかった。

もちろん、そんな演奏をお父さんが認めてくれるはずがなく。

お父さんは笑顔になることはなかった。ライブ後、お父さんは私に言った。

 

 

『友希那は何のために音楽をやっているんだい?今日のステージ上での友希那達の演奏はとても”上手かった”。だが、それ以上ではない。何より僕が見てて、一番気になったのはあのステージで歌う友希那はとても苦しそうに見えたことだ』

 

 

この言葉はその時、失意に苛まれていた私には届くことはなかった。

だが事実、世間は私たちの演奏を上手かったと評す人はいても良かったと言う人はいなかった。

 

一体何がいけなかったのだろう。その答えは今でも見つけ出せていない。

正確に言うならば、見つけ出そうとする事を放棄したと言うのが正しい。

FWSから一ヶ月後、お父さんは死んだ。突発的な脳の病気だった。救急車が来る前には事切れていたという。

何も考えられなかった。これを現実だとは認めたくはなかった。

火葬場で遺体を火葬し、灰にとなったお父さんを見ても実感は湧かなかった。

でもこれは現実で、けれども認めたくなくて。

その後、私はしばらく何も飲食をせず、結果飢餓状態になり倒れて病院に運ばれた。

目覚めるとそばにいたのがお母さんとリサだけ。

そこで私はお父さんが死んだのは現実なんだと認めた。

 

退院後、私は常に歌い続けるようにした。大学へは進学せず、リサの心配をも振り切り、家に帰らず会社所有のスタジオで寝泊まりしてずっと歌い続けた。

そうしないとお父さんの事を思い出して、心がどうにかなってしまいそうな気がした。

しかし、それでも時折思い出してしまい、ある日私は新曲を考えて気を紛らわそうと曲作りに取り組んだ。

結果は全くと言っていいほど駄目。フレーズもメロディーも何一つ浮かび上がらない。

私はいつの間にか、曲が作れなくなっていたのだった。

お父さんの死に次ぐ、二度目の衝撃が私を襲った。

自身の存在意義が消失したに等しかった。そのショックは凄まじくしばらくは何も手につかず、ボーカルとして歌うことすらまともに出来なくなり、一時はバンドを脱退するという話もバンド内や会社で持ち上がる程だった。

当時の私にはありとらゆる気力がなかった。明日には世界が滅びてないか、などと子供じみたことを考えたり、いっそのこと自殺しようかなんて考えた。

が、ある時それをリサの前でポロっと言ってしまい、リサが怒っているのか泣いているのか、叱ってるのか宥めてるのか最早わからない程、凄まじい剣幕で迫ってきたので自殺は辞めにした。

ともかく、当時の私は自分の存在意義が分からなくなっていた。リサは『居てくれるだけで良い』と言ってくれたがそれを私は”それは幼馴染だから言えること”と卑屈になり素直に受け取らなかった。

そんなある時、私はふとFWS後にお父さんが私に言った言葉を思い出し、気付いた。

 

あの時お父さんが聞いてきた、音楽をやる理由。

今までの私は、父親のために歌ってきた。しかしそれはお父さんが亡くなってしまえば一瞬で崩壊する、余りに脆い理由。だが、そんな理由を元に音楽をやり続た結果、お父さんの死と共に私は一人のミュージシャンとして崩れていった。

だから、私は決心したのだ。

これからはミュージシャンではなく、バンドのボーカルとしてお父さんの為に歌うのではなく、バンドの為に歌う。そう決めた。

FWSの時に何がいけなかったのか、そんなことは考えない。考えてはいけない。

復讐の為に曲を作り、歌った私に再び曲を作る権利はない。音楽の私的利用、そんなの音楽に対する侮辱、冒涜だ。

世間は私たちを上手いバンドと評した、それなら私は歌い続けよう。そうやって歌い続け、上手さを超えて、高みを目指す。それが私の存在価値、贖罪なんだと。私には歌しかない。そう確信した。

よく考えれば、この考えも音楽の私的利用なのだがそれに気づくのには少し時間が掛かった。

 

翌日、バンド練習に戻り、歌ってみると自分が思っている以上に上手く歌えた。

もしかしたら、FWSの時よりも上手く歌えているんじゃないかと思うくらいには。

あまりの変化に紗夜から『何か心境の変化でもありましたか?』と聞かれたが私は”ええ”とだけ答えて詳細ははぐらかした。今まで私情でバンドをやっていたと言った時の紗夜の反応が予測できないかったからだ。バンドをやめるなんて言い出されたら非常に困る。

彼女は優秀なギタリストだ。辞められたら到底、代わりが見つかるとは思えない。

練習後、私はメンバーとマネージャーに作詞作曲を作るのが難しくなった旨を伝えた。

メンバーは紗夜を含め、驚きの表情を浮かべた。マネージャーの方は最初こそ驚いたものの、すぐに思案を始め最終的には外部の作曲家を雇うことに決まった。

 

それから月日が経ち、私はただ上手く歌うだけの人形、生きた音声合成ソフトともいうべき人間になった。

どうやら上手いバンドにも一定以上の需要があるようで私は食いっぱぐれない。たまにではあるがテレビにも出れる。

現実問題、今更人生をやり直すにはリスクが大きすぎた。

だがこうして音楽活動を続ければ収入はそこそこ入り、家も良いとこに住めてお金にもさほど困らない。

私には本当に歌しかなかったのだ。

 

 

「あのぉ、湊さん?どうかしましたか?まさか、私、何か失礼なことでもしちゃってましたか?」

 

「....?!なんでもないわ。少し昔のことを思い出していただけよ」

 

 

少女の言葉で私はハッとする。どうやら少し、意識が上の空だったようだ。

 

 

「どうして、知りたいの?」

 

「これって自論なんですけど、音楽を始めるきっかけってその人の原点な訳じゃないですか?

それって物凄く、純粋で綺麗なモノだと思うんです!」

 

 

耳の痛い話だ。私の原点は復讐というとても身勝手て薄汚れたモノだというのに。おそらく、この少女は私の原点が綺麗な物だと思っている。

ならばいっその事、全部、この少女に言ってしまおう。私の原点を。

 

 

「私、父親もミュージシャンだったの」

 

「へぇ、そうだったんですか?!聞いてみたいぁ、湊さんのお父さんの曲」

 

「アルバムなんてほとんど残ってないわ、メジャーデビューして数年でグループは解散してしまったから」

 

「え、なんでですか?」

 

「メジャーの世界は世間が考える以上に、ロマンや情熱、想像性はないわ。ただ、お金儲けのためにミュージシャンを育成して、いかに効率的にマネジメントしていくか、それだけよ。良い音楽を作り出しそれを届けるなんて二の次、三の次。私の父はそれについていけなかった。だから辞めてしまった。

ただ、当時の私はそれがとてつもなく悔しかったの。それがきっかけよ、音楽をやろうって思ったのは。そして、メジャーの世界で父の音楽を否定した人たちを見返そうと思った。だけど.....」

 

「だけど....?」

 

「駄目だった。父の音楽は私に受け継がれて商業利用されて終わり。いや、今思うと本当に受け継げたどうかも怪しいわ。

ただ私は父の音楽を継承した気になって、結局見返すどころかさらに恥を上塗りしたの」

 

 

少女は黙りこくってしまった。やっぱり、この話は言うべきではなかった。ファンとはいえ、見ず知らずの少女にするべき話ではなかったのだ。

何をやっているんだろうか私は。もう何年も前の事を未練たらしく、彼女に話したって何も変わりはしないのに。

 

 

「ごめんなさいね。こんな話あなたに聞かせて。迷惑だったわよね?それじゃあ、さよなら」

 

「待ってください!!」

 

 

私が無理矢理会話を終わらせその場を去ろうとするとまた、呼び止められた。今度はなんだというのだ。私は今度は少々怒気を含めながら答えた。

 

 

「何かしら?」

 

「全然、迷惑なんかじゃありません。むしろ、感動しました!!」

 

「何を.....言っているの....?」

 

「湊さんはお父さんの為に音楽をやり続けて、メジャーデビューまでいけたんですからそれだけでも凄い事ですよ!!」

 

「でもそれは、自分勝手で薄汚い、欲望に過ぎなかったの!」

 

「そんな事ありません!だってその欲望は、思いは、お父さんの音楽が好きという純粋な思いから生まれたはずです!そうじゃなきゃ湊さんは今、何のために音楽をやってるんですか!?」

 

「贖罪よ!私は音楽を侮辱してしまった、その償いの為よ!」

 

「その償いをいつまで続けるつもりですか?湊さんの罪は一体、いつ、誰が許してくれるんですか?」

 

 

私は言葉に詰まる。いつ、誰が許すなんて考えたことも無かった。ただ、歌い続けることが自らの存在価値だと、そう、思い続けてきた。それくらい私の罪は永遠に続く、背負うべき十字架のような物だと考えていた。

 

 

「私はこう思うんです。湊さんのいう、贖罪は音楽を続ける建前なんじゃないかって。本当は音楽が大好きなのに世間に認められなくて、それでも歌い続けたくて。それでどうしようもなくなった湊さんが勝手に考え出した、頭の中の空想のストーリー。それが湊さんの言う贖罪なんじゃないんですか?」

 

「そんな事........」

 

 

思い返す、過去を。

私は何故お父さんが死んだ後、さらに音楽にのめり込んだのか。普通ならFWSの失敗や音楽家としての父親を思い出してしまってもおかしくないと言うのに。

私にとっては音楽に熱中することが気を紛らす方法となったのは何故?

作曲出来なくなった私が、”贖罪”を理由に再び立ち上がったのは何故?

 

そうか、私はずっと、探してたんだ。

 

 

「歌う理由を求めていた.....」

 

 

何故だ?音楽なんてやめてしまえばそれまでだ。全てを過去にして忘れる方がいい。FWSで失敗してお父さんが亡くなっても、音楽をやめない理由はなにか?歌う事を正当化する理由はなにか?

その答えはただ一つ。

 

 

「音楽が......好きだからっ!」

 

 

私は恥も外聞も捨ててその場で泣き始めた。

 

 

 

 

私はその場で崩れ落ち、暫く泣きじゃくった。

今まで私は自分を欺いてきたんだ。

音楽が好きと言う最もシンプルで強力な動機を私は復讐や贖罪といった装飾品で覆い、自らの頭の中に作り上げたストーリーを盲信して歌う為の正当性を作り上げた。

ただ、音楽が好きだといえば全て解決する事を。

私は心の底から今までの自分の人生を後悔した。今までの十年間はなんだったのだろう。そう思わずにはいられないし、涙が止まらない。

 

私の号泣を止めたのは少女の言葉でも、たまたま通り掛かった通行人の親切心から来る言葉でもなく、野次馬のカメラのフラッシュでも無かった。

携帯が振動しているのに気づく。

 

 

「あのぉ...湊さん?携帯なってますよ....?」

 

「............え?」

 

 

一体誰からだろう。涙も拭わず、私は携帯を手に取り確認する。

画面には『リサ』と写っている。

 

 

「......忘れてた」

 

 

そうだ、私はリサと約束をしていたんだ。リサと今夜、私の自宅で久々に会う事を。私は電話に出た。

 

 

「ちょっと、友希那ー今どこー?アタシ今、友希那の家の前にいるんだけど。もしかしてまだ、練習中?」

 

 

スマホで時刻を確認する。現在時刻は十時半を回ろうとしている所だった。約束の時刻は少しながら過ぎていた。本来の予定なら、十時過ぎには家に着いている予定だったのだ。それが少女の演奏を聞き、少し話しただけでこんなになるとは。

 

 

「ごめんなさい、リサ。ちょっと、色々あって」

 

「友希那、もしかして、泣いてる?」

 

 

どうやら私の幼馴染はいつの間にか超能力を使えるようになったらしい。ニュアンスで泣いてることには気づかれないように話していたのだが。それでもわかるとは。

 

 

「気づいた?まぁ、いろいろあったのよ。すぐ帰るから待っててちょうだい」

 

「帰り道の途中なら車で迎えに行けるけど、いいの?」

 

「歩いて帰るわよ。それに幼馴染に久しぶりに会うのに、泣き痕残ってたんじゃ、かっこ悪いでしょ?」

 

「それもそうか。帰ったら、泣いた理由聞かせてよ?」

 

「もちろん。それじゃあ、すぐ帰るから」

 

 

電話を切る。そして私は涙を拭いて立ち上がった。なんだか、清々しい気分だ。さっきと見える景色が全く違って見える。

少女の方を向くと少女は何か言い出したいが何を言うべきかわからない、困惑半分、焦り半分の様子だった。

 

 

「ありがとう。あなたのおかげで私は大切なことに気づけた。もしあなたと今日、ここで出会ってなければこれからも私はただ漠然と、無気力にまるで奴隷のように音楽を奏で続けていた。本当に感謝してるわ。」

 

「............」

 

 

少女は何か言いたそうに目線を向けている。

どういうことだ。私は何かこの子の癪に障るようなことを言っただろうか。

 

 

「......その感謝の仕方のされ方はちょっとイヤです」

 

「え?」

 

「だってその言い分じゃ、私含めたファンが今まで、まるで価値のない音楽を崇めてたってことになるじゃないですか。

ファンはその人の音楽が好きだから、ファンなんです。それなのに突然本人が”今までの音楽は無価値”とか言い始めたらファンはどうすればいいんですか。」

 

 

そうか。私は感謝のつもりで言ったが、ファンからしたらさっきの発言はそれなら今までの音楽は何だったんだとなってしまう。

そこら辺は、一人のアーティストとして配慮が足りなかったと痛感する。

だかしかし、私にとって今まで奏でてきた音楽は全て上手いだけの欺瞞であったという認識なのだ。

それに価値を見出したファンは私の音楽にどんな魅力を感じていたのか。

 

 

「ごめんなさいね。私にとって、今までの歌は”上手い”ということだけが魅力だと考えてたの。

だから、教えてくれないかしら?あなたにとっての私達『LiLium』の曲がどんなものか」

 

「はい。喜んで!!」

 

 

それから私は少女の語る、私たちの音楽がどういうものなのかを聞いた。

それを語る彼女はとても楽しそうで、目に輝きが満ち溢れていた。時折、オーバーなんじゃないかと思ってしまうくらいの表現や、おそらく無意識であろう身振り手振りでの説明に私は目を離せなかった。こんなにも純粋な思いで音楽の話を聞くのはいつぶりだろう。それこそ、中学生の時以来かもしれない。

彼女の話を一心に聞いていると再び携帯がなった。画面には『リサ』とあった。

 

「ゆーきーなー今、何処?」

 

「ごめんなさいリサ。すぐに帰るわ」

 

そう言って、私は一方的に通話を切る。あまり長く聞きすぎてしまったようだ。そろそろ時間的にもリサの我慢値的にも限界がきている。

私は少女に再度感謝の言葉を述べた。

 

「今日、貴方と会えてよかった。私はいままで、音楽とちゃんと向き合ってこなかった。けれども今、私にとっての音楽を見つけた。いや、取り戻せた。本当にありがとう」

 

「や、やめてください!私はただの一ファンとして自分の意見、考えを言っただけです。まぁまさか本人に言うとは想像もできませんでしたけど」

 

「それでも、よ。それにファンの率直な意見はなかなか聞ける物じゃないしね。...それじゃあ、今度こそまた」

 

「今度のライブも絶対見に行きます!」

 

「えぇ、是非来て頂戴。最高の音楽を聞かせてあげる」

 

そう言って立ち去ろうとした時、すぐ隣の道路に車が一台止まった。

左のドアウィンドウが開く。運転席にいたのはリサだった。

 

「なんでここだって分かったの?」

 

「それはぁ、幼馴染だから」

 

私の幼馴染は本当に超能力を使えるようになったらしい。

 

 

 

 

リサの車に乗せられ家に着くと、始まったのは晩酌だった。

普段は殆ど飲まないが、今日は気分がいい。冷蔵庫にあった缶ビールを全て飲んで、リサが買ってきた物も次々開ける。

幸い、私もリサもお酒には強く、レジ袋が空き缶でいっぱいになっても少しぼーっとするだけでまだまだ呂律は回る。

 

「なるほどね。名も知らぬファンに諭されちゃったと」

 

「まぁ、そういうことね」

 

「でも、少し嬉しいかな」

 

「え?」

 

「だって今の友希那、昔の友希那みたいだもん」

 

昔の私。昔と言っても父親がミュージシャンを辞める前ことだ。

昔の私はなんで音楽をやっていたのだろう。少し思案するが思い出そうとしても思い出せない。酔っ払ってるからだろうか。

それでも、唯一わかることがある。

 

「ねぇ、リサ」

 

「何、友希那?」

 

「お父さんがバンドを解散した後、私にとっての音楽は道具や目的でしかなかったの」

 

「....」

 

「でもそれより前、記憶の彼方にある、具体的には幼稚園位の頃の私にとって音楽は楽しいものだった、と私は思うの。少なくとも私はそう考えてる」

 

「...それで?」

 

「そんな子供頃に抱く思いって馬鹿にできたものじゃないと思うの。あれが食べたい、これをやりたい。それはやだ。こうした子供な思いは生きてくうちに否定されて人間は成長していく。でも過程でその感情、思いは否定されても、そうだったことは誰にも否定できないでしょ?」

 

"だから"そう言って私は続けた。

 

「これからも私は音楽を楽しいと思い続けるだろうし、愛し続け、歌い続ける。作詞作曲もまたやろうと思うの。上手くできるかはわからないけど」

 

「できるよ。友希那なら。書けたら最初に見せてね。幼馴染として、ファン第一号として友希那の復帰作は見逃せないから」

 

「それは...まぁいいか。分かった。できたら真っ先に見せるって約束するわ」

 

不思議と不安はない。それどころかやれるという確信すらある。お酒のせいかもしれない。

 

もし仮に、曲作りが上手くいかなくても、それでどころかLiLiumがまた失敗したりお父さんのバンドのような末路を辿ろうと私は音楽から離れることはないし、この身が灰になるまで私は歌い続けるだろう。

 

なぜなら私は音楽が好きだから。




二度と出てこないこの世界線での人物設定
・湊友希那
皆さんお馴染み友希那さん。この世界ではあこがバンドメンバーに加入できなかった結果、燐子やリサもバンドメンバーになれなかった。
そしてバンドストーリーに出てきた音楽業界人のスカウトを紗夜もメンバーに加える事を条件に受諾。メジャーデビューを果たす。
FWSの出場はメンバーが何度も入れ替わってしまい練習が出来ず原作通り高三の時。しかし原作と違い何も得られる事はなし。そして父親も笑顔になる事はなかった。その後は書いてあるとおり。

・氷川紗夜
一見普通に見えるがこの世界線を成立させる上で色々とねじ曲がってしまった人。
メジャーデビューまでは原作通り。その後は妹に負けない為に今まで以上に努力を重ね、実力の無い者、努力が足りない者に対して強く当たった結果、メンバーとマネージャーが幾度となく変わっていく。
しかし幾ら努力しても日菜には追いつけず、ある時幾ら頑張っても日菜を超えられないと確信。
それから、高校卒業後に日菜には何も伝えず一人暮らしを始め、パスパレと日菜に関する情報は一切入らないようにして、物理的に『日菜の居ない世界』を作り上げてそれを信じ込んだ。結果、妹はいるけどいないという二重思考状態になった。しかしコンプレックスから解放され精神状態は大幅に改善。毎日楽しくギターをやっている、というかなり無茶な設定。
性格はバントストーリー初期のような苛烈さと一章以後の安定性を兼ね備えたハイブリット。
ちなみに日菜の方は紗夜が徹底的に拒絶した結果、一時廃人寸前にまでなるがパスパレメンバーをはじめとする仲間たちによって回復。紗夜にもう一度振り向いてもらうため、パスパレを続けるがその努力は実ることは無いだろう。友希那父に並ぶ今作一番の被害者。

・今井リサ
みんな大好きリサ姉。
友希那を信じてメジャーに送り出したら結果、禄でも無いことになり後悔している。
この世界線ではあこがRoseliaのバンド試験を受けたその日、リサはバイトのシフトが入っており試験のセッションに参加しなかった。結果落選。燐子もリサもRoseliaに入れなかった。
結果として徐々におかしな方向に行ってしまう友希那を見守ることしかできなかった。

・友希那父
必要な犠牲でした.....正直、すまんかった。

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