二つの00   作:神田瑞樹

3 / 6
マブラヴって軍関係の用語が多すぎて書くのが難しいんですよね……時間があったらまたゲームやらないと。


第三話

           Ⅰ

 GN粒子の充填を待ってから、ダブルオークアンタは目的地に向けて飛翔する。

 向かうは刹那が撃とうとした火星で最も高い塔。

 その遥か地下深くに求める存在がいるのだと言うことを、刹那は簡易意識共有の中で直感していた。

 

『刹那。これが先程流れ込んできた情報とセンサーからの情報を統合させて導き出した地下構造の見取り図だ』

 

 中空モニターが刹那の前に立ち上がり、そこに図を映し出す。

 塔から直下に降りる巨大な縦穴を中心とし、そこから派生するようにして無数の横穴と空間が複雑に入り乱れた構造は、アリの巣を彷彿とさせる。

 

『彼らの中枢がいるのは深度約一万五千メートル。縦穴の最下層だ。そしてこれが』

 

 図の中の一部が赤く染まる。

 色の濃度は縦穴の部分が最も高く、深度が深くなればなるほど濃度は高くなっている。

 

『彼ら――――つまりは生体端末の出現予測数だ』

 

 色が最も薄い所でも数万単位。

 縦穴に関しては、最早計測すら不可能な程の数だ。

 対話のためにGN粒子の消費を抑える必要がある以上、戦闘は極力避ける必要がある。

 

「遭遇率が最も低いルートは?」

『これだ』

 

 図の中の一本のルートが浮かび上がる。

 確かに他のルートに比べれば少ないが、それでも中枢に到達するには最低でも数百万単位の奴らと遭遇する必要がある。

 だが、刹那の眼に恐れはない。

 

『ポイント到着まで後十秒を切った。刹那!』

「了解。ポイント到達と同時に予定ルートへと突入する」

『時間をかければそれだけ相手の数も増えてくる。短時間で決着をつけるぞ!』

「了解!」

 

 ダブルオークアンタが地表に向かって疾走する。

 それに気付いた地表を埋め尽くす無数の影達はダブルオークアンタの元に集まろうとするが、数が多すぎるために迅速な行動がとれていない。

 ダブルオークアンタは右手に持ったGNソードⅤを予定ルートの入口へと向ける。

そこに左肩から射出された六基のGNソードビットが次々と合体していき、バスターライフルを形成。

 刹那はトリガーを引いた。

 バスターライフルの銃口から光が膨れ上がり、巨大なピンク色の柱が大地を貫く。

 入口周辺にいた影とその奥に潜んでいた影は瞬時に蒸発。

 一瞬ながらも、影の波で埋め尽くされていた地表に空白の道が開いた。

 

『今だっ!』

 

 ダブルオークアンタが地下へと侵入する。

 そしてここに、戦いの火蓋は切って落とされた。

 

 

     

         Ⅱ

 広間の中に幾重もの閃光が走る。

 閃光は行く手を塞ぐ巨大な体躯を持つ影を抵抗もなく貫き、その背後にいた百近い中・小型種を纏めて消滅させた。

 だが、広間に存在する影の数は未だ膨大。

 上下左右から押し寄せてくる無数の影に舌打ちし、刹那はGNソードビットに命を下す。

 脳量子波によってコントロールされた六基の刃が牙を向き、影からの攻撃を悠々とかわしながら貫き、穿ち、焼き払い、蹂躙する。

 六対数万という圧倒的な戦力差でありながらも、完璧に統制された守護者を前に影達はダブルオークアンタに触れることが出来ないでいる。

 影達が攻めあぐねている間に、ダブルオークアンタは再度ライフルモードのGNソードⅤからビームを連射し、横杭を塞ぐ影を一掃。

 影が群がるよりも早く横杭へと先行して、機体を反転。

 役目を終えて戻って来たGNソードビットをGNライフルⅤに装着させバスターライフルと為し、入ってきた横杭の入口の上壁に照準を合わせる。

 

『―――――十時方向、X67、Y164、Z254』

「了解」

 

 算出されたポイント目がけてビームを発射。

 閃光が周囲を照らすと同時に振動が大地を駆け巡り、ビームを受けた横穴の入口が崩落する。落盤に巻き込まれないようGNシールドの上部に取り付けられたGNビームガンで横杭内の小型種を払いのけながら、機体を奥へと進める。

刹那は入口が完全に閉ざされた事を確認し、小さく息を突く。

 

『今の広間で二十万………やはり段々と数が多くなってきたな』

「あぁ」

 

ダブルオークアンタが地下へと侵入してから一時間が経った。

現在の深度は5448メートル。

つまりは約三分の一まで来た計算になる。

刹那達は極力戦闘を避けて一心不乱に中枢へと向かっているのだが、深度三千を超えたあたりから予想以上に遭遇する数が増加し、中々先に進むことが出来ないでいる。

 

『まずいな………』

 

 今の所ダブルオークアンタには何ら損傷はなく、また刹那にも大きな疲労の色はない。

 だがこのまま時間をかけていれば、そう遠くない内に影達が落盤を突破して追いかけて来るだろう。

 全方位を億単位で囲まれれば、幾らダブルオークアンタと言えども苦戦は必至。

 これならば多少無理してでも、中央の縦穴から直接降下した方がよかったかもしれない。

ティエリアが歯噛みしていると、刹那はダブルオークアンタを突如として止めた。

 

『何をする気だ?』

「このままでは埒が明かない。トランザムを使う」

『そうか! ELSの時の様に中枢までの道を作るのか!』

 

 このまま進んでも、いずれは数に押されてトランザムを使わざるをえない。

 ならば、トランザムで中枢までの直通ルートを作った方が効率がいい。

 刹那はGNバスターライフルから、一点集中型のGNバスターソードへと変形させる。

 こうすることでGN粒子の密度を上げて威力を高めると同時に、粒子拡散の余波による地下構造崩壊の危険性を下げることが出来る。

 

『粒子減少率とこの地下構造の強度を考慮すれば、中枢を破壊せずに道を通すにはライザーソードの威力を30%程度にまで抑える必要がある。それに対話のためにも、トランザムはそう長くは使っていられないぞ』

「わかっている。通路を確保した後、最大加速で中枢へと向かう」

『僕とヴェーダで割り出した中枢へ通じる直線ルートはここだ。そう何度も繰り返している時間はない。一度で決めろ!』

「了解! トランザム!」

 

 機体が赤く染まり、同調したツインドライブが唸りを上げる。

 ダブルオークアンタの両手で握られたバスターソードに粒子が収束し、超高密度に圧縮されたビームが閃光となって大地の中を突き進んでいく。

 

「うぉぉぉぉおおっ!」

『―――粒子ビーム、中枢フロアへの到達を確認!」

 

 ティエリアの報告を聞くと同時、刹那は即座に砲撃を中止して今しがた開けたばかりの穴に飛び込んだ。

 範囲を絞って密度を上げたために穴の直径はダブルオークアンタが何とか通れる程度。

 僅かでも操作をミスれば横壁に激突する中を、ダブルオークアンタは全速力で駆け抜けていく。

 

『深度八千を通過………九千、一万………』

 

 トランザムにより通常の三倍強にまで跳ね上がった機体は、秒単位で目的地までの距離を縮めていく。途中、幾つかの広間を通過することとなったが、刹那はダブルオークアンタを一切減速することなく、行く手を阻もうとする影達を瞬時に斬り捨て、吹き飛ばしながら再度穴へと突入していく。

 そして最後の広間を通過して中枢までの距離が五百を切った時、刹那は僅かにセンサーに目をやるとトランザムを解除する。

 元の色を取り戻したダブルオークアンタが速度を落として降下する中、ティエリアは訝しげな声を漏らした。

 

『………妙だな』

「あぁ」

『なぜ彼らは追ってこない?』

 

 小型モニターに映るのは、先程通過した広間で右往左往する赤い斑点。

 上階から穴伝いに赤が絶え間なく流入しているために広間は既に赤一色に染まっているが、それがこちらへ向かってくる様子はない。

 それに、妙なことはもう一つある。

 

『僕達が突入してから一時間弱。それだけの時間があったにもかかわらず、中枢フロアにある反応はたった一つ』

 

 その一つが何なのかは言うまでもない。

 ELSの時の様にこちらを迎え入れようとしているのか、それとも何か別の思惑があるのか。ティエリアはイノベイターである刹那の表情を窺った。

 刹那は険しい表情で、メインスクリーンを見つめている。

 そして、遂にダブルオークアンタは中枢エリアへと到達した。

 

 

 

             Ⅲ

 そこは、ある種幻想的なまでに青白く光り輝く巨大な大広間だった。

 これまで通過してきた広間もダブルオークアンタが悠々と戦闘が出来る程大きかったが、ここは更に輪をかけて広大。

 かつて刹那達が所属したCBの秘密ファクトリー程度ならば軽々収まってしまうだろう。これ程までに広大な敷地が地下一万五千メートルに存在していると言うだけでも驚愕に値するが、刹那達の関心はそんな所にはない。

 二人が見つめるのは、広大な敷地の中央。

そこに悠然と聳え立つ台座が支える、全ての大元。

 

『………あれが』

「やつらの、中枢」

 

 望遠カメラがその姿を捉える。

 透明がかった縦長のフォルム。

 頭部と思われると部分には複数の蒼いガラスの様な物が埋め込まれ、周囲には幾重もの触手が漂っている。

 

「っつ!」

 

 直接対面したためか、刹那の中で燻っていた敵意がここに来て最大限にまで燃え上がる。

 

“あれは敵だ、倒さなければならない存在だ”

 

イノベイターとしての――――――――否、人としての本能がそう訴える。

 今にもトリガーを引きそうになる刹那を抑えたのは、これまで沈黙を保っていたELSだった。

 リンクを通し、刹那の中にあるイメージが流れ込む。

 それは白い花。

 刹那とELSにとっての、理解と平和の証。

 

……そうだ。俺達は分かり合うためにここまで来たんだ。

 

 例え攻撃をするにしても、それは今ではない。

トリガーにかけられた指を外し、ヘルメットの中で大きく息を吐き出す。

 

『やれるか?』

「問題ない。クアンタシステムを起動させる」

『わかった。では僕とヴェーダ――――――刹那!!』

 

 ティエリアの叫びと同時、コックピット内に警報音が鳴り響く。

 刹那はそれらが発せられるよりも早く、ダブルオークアンタを上昇させていた。

 ダブルオークアンタの回避に遅れること数秒、数十メートル下方を何かが通り抜けていく。それは、三本の触手だった。

 目標を失った触手は僅かに減速し、軌道を上方へと修正させて再度ダブルオークアンタに襲いかかる。

 が、遅い。

 光速に等しいビームの雨や超高速で動き回るファングすらも回避する刹那にとって、高々音速が三本、それもほぼ直線の攻撃を避けることなど造作もない。

 易々と触手から逃れるダブルオークアンタに業を煮やしたのか、中枢から更なる触手がダブルオークアンタへと殺到する。

 その数、六十七。

 広大とは言っても宇宙空間の様に果てしなく距離を取れるわけではない以上、幾ら刹那でもいつまでも逃げ切れるわけではない。

GNシールドから六基のソードビットが射出され、触手を迎撃する。

 ビームコーティングが為された三対の剣は容易く触手を切り裂き、瞬く間に赤い雨を降らせていくが、斬られた切り口から次々と新たな触手が伸びてくる。

 

「ちっ!」

『回復………いや、これは再生能力か』

 

 ELSの時がそうだった様に、この手の能力を持つ存在を相手にする時は火力で焼き払うのが一番なのだが、そうすると中枢本体まで巻き込んでしまう。

クアンタシステムを使おうにも、相手の攻撃がある以上それもままならない。

苦虫を噛み潰しながら、ティエリアは打開策を刹那に求めた。

 

『どうする刹那?』

「………GNフィールドでクアンタシステム起動までの時間を稼ぐ」

『確かに、それしか方法はないな………』

 

 それまで縦横無尽に宙を舞っていた六枚の刃がダブルオークアンタを取り囲み、球状のGNフィールドを形成する。

 攻撃を受けなくなった触手はここぞとばかりにダブルオークアンタに疾走するが、高濃度GN粒子の壁に阻まれてそれ以上先に進むことが出来ない。

 

『相手の力は強力だ。僕とヴェーダ、そしてELSが流れ込んでくる全ての余分な情報を処理する。だから刹那、君は本質だけを追いかけろ』

「了解」

 

 刹那はコンソールパネルを操作し、クアンタシステムの起動シークエンスを完了させる。

 そう。ここからが本番だ。

 刹那は己に言い聞かせるように心の中で呟いた。

 

「クアンタムバースト!!」

 

 直度、コクピット上部に設置されていたスキャンセンサーが刹那の両目を走査し、クアンタシステムが発動する。

 ダブルオークアンタは瞬時に赤色化。

粒子放出の効率を上げるために外装が外れ、左肩のGNシールドも分離する。

 GNシールド内部に搭載されていたオリジナル太陽炉が露出し、背中の接続部へと滑りこんでもう一基の太陽炉と直結。

 深緑の粒子の奔流がダブルオークアンタを包み込み、GNフィールドを覆っていた触手を全て吹き飛ばす。

 触手が近寄れない中、GNソードビットはGNフィールドの展開を止めてダブルオークアンタの足元に集まり、そこに円状のフィールドを発生させる。

 フィールドから浮き上がった光の輪が腰元から頭上へと抜けて天使の輪を彷彿とさせる輝きを放ち、同時に各部のGNコンデンサーがせり出すように展開して放出効率を上げる。

最後に胸部からせり出したパーツが四本のアンテナをX字に展開。

 これで準備は整った。

 ダブルオークアンタからトランザムすらも比較になりえない程のGN粒子が溢れだし、広大な広間を光で埋め尽くしていく。

 

「ダブルオークアンタ、刹那・F・セイエイ………未来を切り開くっ!」

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。