ホシノに昔いなくなった同級生がいたら?というだけの話です。

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アビドス学園、幻の六人目

 

ある日、小鳥遊ホシノと「シャーレ」の先生が夜の校舎で話していた時のこと。

体育倉庫室に写真立てが置いてあるのを先生は見つけた。写真立ては古ぼけ、ひび割れていたが、きちんと手入れされた跡が残っていた。

「"ホシノ、これは何?"」

先生がそう訊ねると、ホシノは少しだけ俯いた後、「何でもないよ」とポツリと呟いた。

写真立てにかかった埃を払い、先生はその中に映る三人の少女たちの写真を見る。

一人は空色の長い髪を風に靡かせる少女。

一人は髪を短く切ったホシノ。

最後の一人は、灰色の髪を短く切り揃えた少女。

そのうちの二人────空色の髪と灰色の髪の少女の顔は亀裂が入っているため、見えることはなかった。

「先生、割れたガラスが刺さったら危ないからさ。それを渡してくれる?」

「"………この子達は、ホシノの先輩?"」

沈黙が場を支配する。ホシノはゆっくりと差し出された写真立てを受け取ったあと、ひび割れた写真を見て、何でもないように壊れそうな笑顔を先生に向けた。

「なんでもないよ。気にしないで、先生」

「"………話したくなったら、いつでも言ってね"」

「うへへ、そうだね〜……本当に、そうだね」

無理矢理取り繕ったようなチャラけた態度を取るが、ホシノの胸中は穏やかではなかった。

ホシノの胸中を支配するのは、怒りと後悔、そして回顧だった。

 

ホシノは先生と別れると、一人自室で寝転がった。睡眠剤を指定された数飲み、ホシノに睡魔が襲ってくる。

(今日は、夢なんか見ないで眠りたいな。)

そんな事を思いながら、ホシノは眠りに誘われていく。

 

 

(小鳥遊ホシノ)には、一人の先輩と一人の同級生がいた。

先輩の方はどこまでも能天気で、同級生は稀代の天才児のような子で、生徒会長である先輩を私と同級生で支える形だった。

「────シノ、ホシノ。聞こえているのかい?」

「ホシノちゃん起きて〜!今日は見回りの日だよ〜!」

柄にもなく昼寝をしてしまっていたのだろう、私を起こす二人の声が聞こえる。そうだ、私は今日、二人と見回りに行かないといけないんだ。

「今行きますよ、ユメ先輩、ユユカ」

「フッ、この瀬兎ユユカを待たせるとは。罪な女だね、ホシノ」

「ユユカちゃん……っ!」

思わず笑みが溢れる。少し抜けているが優しいユメ先輩と、少し尊大で、██に似ているユユカ。

二人がいる日常は、辛いなりに幸せだった。

 

毎日のように日常を過ごし、アビドスを脅かす外敵と戦い、ユユカの作戦とユメ先輩の指揮、私の戦闘力でもってバランスの取れた闘い。

それが崩壊したのは、私たちに新しい後輩が出来てからすぐの事だった。

「ユメ先輩の様子がおかしい。ホシノ、ノノミ。何か知らないかい?」

ある日、ユユカがやけに神妙な顔をして私たちにそう言ってきた。はじめは、何かの冗談だと思った。ユユカはたまにそういうイタズラをするからだ。

「知らないけど。ユメ先輩の様子はいつもおかしいでしょ」

「………私も、知りません。ごめんなさい」

「そうかい。なら良いんだ……。私は知り合いを頼ってみる」

ユユカは各学園に広い人脈を持っていた。本人の才覚を買われ、様々な学園からアプローチをかけられている関係で、多種多様なコネクションがあるらしい。

「何もなければ良いんだけど……」

 

ユメ先輩が行方不明に"なった"のは、その丁度一週間後だった。突然ユメ先輩の持っていた大盾の反応が停止。ある一点を境に、ユメ先輩は「消失」してしまった。

「ユメ先輩を探してくる。ユユカとノノミは待っていて」

焦る内心を抑えながら、私は一人でユメ先輩を探しにアビドス砂漠を探索し始めた。結局、「ユメ先輩」が見つかったのはその一週間後だった。暑い、夏の日のことだった。

 

「ここに居たんですね、ユメ先輩」

 

「まったく……探しましたよ。どうしてこんな所にいるんですか」

 

「………帰りましょう。私たちの、学校へ……」

 

返事はない。当然だ。膝をつき放心する私の前にはユメ先輩の持っていた盾と、人の姿をした影しか無かったのだから。

涙は流れなかった。砂漠の渇きが、私の涙を枯らしてしまったかのように、涙は流れなかった。

その分の代償とでも言うかのように、心がひび割れて行くのが分かった。

 

帰ろう。ユメ先輩は確かに死んでしまったが、私には護らなければいけない後輩や、同級生がいる。

今までは、ユメ先輩がみんなを身体を張って守っていた。これからは、私が守らなきゃいけない(ユメ先輩になるから)。みんなにこの事を伝えないといけない。

 

私がアビドスに帰ると、血相を変え、涙目のノノミが泣きじゃくっていた。その身体はボロボロで、アビドスの校舎は大きく破壊されていた。

「何が……あった。何があった!?答えろノノミっ!」

「ホシノ……せんぱい………!ユユカ先輩が、ユユカ先輩があっ!」

ノノミの話を聞いて、愕然とした。悪い大人達が多額の債務を理由に抵当を要求し、そのカタとしてユユカは拉致されたらしい。

まだ間に合う。拉致されてからはまだ数時間しか経っていない。急いで戦いの支度をするようにノノミに指示し、悪い大人の根城へと攻め込んだ。

 

「ユユカっ!助けに来たぞっ!」

 

頭の良いユユカはタダでは拉致されていなかった。しっかりと私たちだけに分かるようにサインを残していてくれた。

そうだ、ユユカは優秀な子だ。だからユメ先輩のように、死んでいるなんてことはない。ないはずだ、と。そう信じていた。

 

「ようやく来ましたか。小鳥遊ホシノ」

「お前は─────!黒服……!何故ここにいる!?」

私がアビドスに入学してからずっとアプローチをかけてきている謎の大人『黒服』が、悪い大人と相対するように立っていた。

事態が理解できない。だが私はユメ先輩のように決断しなければならない。

「小鳥遊ホシノ、提案があります。瀬兎ユユカを奪還し、キヴォトスの崩壊を防ぎます。協力を」

「一つ、貸しだ。契約を履行してやる」

「勿論です─────。さぁ、行きなさい!」

黒服の号令で闘うのは癪だが、ユユカのためだと言い聞かせ、悪い大人に向かって吶喊する。

予想以上の速さだったのか、目を見開く男の不細工な面に鉛玉をコレでもかと撃ち込む。

「これで終わりか?あっけないものだな……!ユユカを返してもらうぞ」

「は、はは!舐めるなよ小娘!私は既に『適合手術』を終わらせている!【神秘】を手に入れたのだ、私は!」

ぐちゃぐちゃにした筈の男の顔面からは煙が出るのみで、どこも欠損はしていなかった。それよりも、目を引いたのは男の頭上に浮かぶ、よく見知った円環。

「お前、それ─────」

「ははははっ!そうさ、セトの力はこの私が奪った!キヴォトスの外でも私のみが持つ技術だ!」

「お前、お前は、お前だけは……!殺す!」

視界が赤くなるような錯覚に陥る。今までに抱いた事ない感情が私を支配する。必ず殺さなければならない敵。それがこの男だ。

「あああああああああっ!死ねっ!死ねえっ!死ねよぉおおっ!」

「な、何故!?何故だ、私はセトの神秘を手にしたのだぞ!し、死ぬ!死んでしまう!やめてくれ!頼むううっ!!」

「お前はそう言った人間を一人でも見逃したのか!?」

「い、嫌だぁあああっ!」

 

男にトドメを刺そうとした時だった。黒服が何かの装置を使い、男を包む。男は絶望しきった表情のまま固まり、水晶のようなものに封じ込められている。

「小鳥遊ホシノ、よくやりました。瀬兎ユユカはこの奥に安置されている筈ですが、その生死は絶望的で────」

「うるさいっ!」

黒服の言葉を無視し、奥の部屋に入る。黒服の言う通り、ユユカは安らかに眠っていた。そっと揺り起こそうとすると、ユユカはゆっくりと目を覚ます。

「ユユカ、帰ろう。迎えに来たよ」

「………………?」

ユユカは事態を把握しきれていないのか、ぼーっとした目で私を見た後にたった一言だけ、呟いた。

「きみ、だれ……?」

足元から、何もかもがガラガラと崩れる音がした。ギリギリで保っていた筈の心は、とっくに音を立てて砕け散っていた。

 

アビドスに一人で帰ると、ノノミが明るい笑顔で待っていた。そうか、と思った。

「おかえりなさい☆ホシノ先輩っ!」

「………ノノミも、こっちに来るんだ」

後輩に仮面を被らせてしまった事に絶望しながら、私も仮面を被る。ユメ先輩と、ユユカ。二人の仮面だ。

飄々としていて、だらしなくて、それでいて肝心な時には頭が切れる。完璧には行かないかもしれないけど、それでも。

「うへへ、おじさんと一緒に頑張ろっか」

「はいっ!ホシノ先輩!」

 

 

 

 

「うわあああっ!?はぁ……はぁ……う、おえ…」

 

ベッドから飛び起きたホシノは慌てて洗面台に駆けていき、綺麗な洗面台を吐瀉物で汚していく。全て吐き終え、処理したところでホシノはふと鏡を見る。

「はは、酷い顔……先生には見せられないな……」

ホシノが先生と初めて出会った時、先生の性別もあり、非常に嫌悪していた。どうしても、ユユカを酷い目に合わせた男と被って見えた。

しかしホシノは、先生と触れ合う内に先生の中にユユカのような雰囲気を感じ、徐々に信頼していった。

「ねぇ、ユユカ。ユメ先輩。私……うまくやれてるかな。結局、ユユカは呼吸の仕方も忘れちゃったけど、私は本当の自分をたまに忘れそうになるよ」

誰に当てたでもない独白。それに応えるものはいない。ホシノが、一人であれば。

 

「苦労したんだね、ホシノ」

 

どこからか、声が聞こえた。

ホシノは声の方を向くと、その顔を大きく歪め、濁った瞳から大粒の涙がボロボロとこぼれ落ちる。

 

「泣かないでくれ、ホシノ。確かに急に押しかけたのは悪かったとは思うけど……」

 

「色々言いたいことはあるけど、おかえり。」

 

ホシノは自分に出来る心の底からの笑みを、窓の外に立つ灰色の髪の少女に向けた。




続きは考えてません。ホシノを曇らせて救いたかっただけです。

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