夏のバンドリ祭、It's MyGO!!!!!から豊川祥子(とがわさきこ)さんでエントリー。


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第1話

夏休みを目前に、期末テストを終えた羽丘学園のクラス内は、喧騒に満ちていた。

 

「烏!一緒に帰りましょう!」

「いいけど...サキの家、反対だろ?」

「寄り道がしたい気分ですの、行きましょう!」

 

祥子は烏の手を取って教室を出る。

別段2人は付き合っているわけではないのだが、一緒に居る機会を多く見る。

そうなった理由は、入学辺りまで遡る。

 


 

羽丘高等学園1-B、出席番号19番、古巣(ふるす)(クロウ)

自他ともに認めるキラキラネーム。

中学時代から、彼はそれが原因で笑われてきた。

しかし、ここに入ってからは違った。

番号順で隣になった豊川(とがわ)祥子(さきこ)だけは、彼の名前をバカにしなかった。

 

「どこに笑う要素がありますの?彼のお父様、お母様がくれた立派な名前ですわ!」

 

彼女は彼を勇気づけるために、カラスがいかに幸運の証であるかを説明した。

 

「一般的には、烏は黒くて不気味と思われがちですが、神様の使いという一面もあるのです!」

「また鳴き声には魔除けの効果があるともいわれ、ネガティブなものから守ってくれますわ!」

 

彼女は、いかにして、烏がいい存在であるかを力説した。

彼は、そんな彼女に問いかけた。

 

「どうして、そこまで?」

「お名前をバカにされることが、どれだけ悔しいか、私にはわかりません。ですが、人様のお名前を笑えるほどの地位ではないはず、ですので」

 

彼女のその元気に当てられ、彼もますます元気になっていった。

そして、時は流れる。

 


 

「さぁさぁ!時は金なり、ですわ!」

「分かった、わかったから、準備だけさせてくれって」

 

烏がカバンを持ったのを確認した瞬間に、祥子は彼の腕を引っ張って教室を出た。

 

「何焦ってるんだよサキ、別に逃げないよ」

「隙を見せたら逃げそうでしたもの...先に捕獲しておくのがいいのですわ」

「俺は猛獣かなんかなの?」

「男性は狼と言いますから、あながち間違ってないですわね!」

「誤解だよ、だいぶ」

 

祥子は腕を離そうとしない。

烏は周りの視線に居心地の悪さを感じつつも、それを解こうとはしない。

 

「...なんだか、周りの皆様が騒がしいですわね」

「なんかあるんじゃないの?昨今は色々イベントあるからね」

 

烏はそう言って、足早に昇降口に向かう。

彼の腕を持ったままの祥子は、引き摺られながら昇降口に向かった。

靴を履き替えて外に出て、当然のように並んで歩く。

 

「焦っているのはそちらでは?」

「時は金なりなんだろ?サキの家は門限も厳しいって聞いたぞ」

「寄り道と言ったって、別に夜まで遊ぶわけではありませんわ」

 

祥子は烏の前に立って、

 

「それとも、烏は私を夜まで連れ回すおつもりでしたの?」

 

とからかうように言う。

 

「バカ言うな。そこまでの財力と土地勘は持ち合わせてない」

 

祥子の横をすり抜けて、烏は歩く。

 

「あっ、もう。お待ちになって」

 


 

今日の気温は、この季節にしては低い28℃。

しかし、夏というワードが生み出す概念的な暑さが、体感温度を2~3℃上げていることだろう。

 

「あっついですわ...」

「今日は涼しい方なんだけどな...アイス食う?」

 

烏は視線の先にあったコンビニを見ながら聞く。

 

「...買い食いは、どうなのでしょうか?」

「いいんじゃねえの?違反はしてないだろ」

 

特に何を気にするでもなくコンビニに向かう烏と、生徒手帳を見ながら「確かに...ありませんわね」と呟いて、祥子は後を追う。

 

コンビニに入れば、先ほどまでの暑さで出てきていた汗が、空調によって冷やされていく。

 

「...今度は寒いですわね」

「まぁしゃあない。アイスどうする?」

 

冷凍コーナーの前で立ち止まり、しばし考える祥子。

烏は特に考えることもないようで、一番近い位置のアイスを取る。

 

「考えませんのね」

「こういうのは安いか食べたいものかで決めてる。今は食べたいものの気分だからこれ」

「私は...あ、これにしますわ」

 

祥子が取ったのは2つに分けられるアイス。

それを見た烏は手のジェスチャーでそれを寄越せと指図する。

 

「え?」

「会計一緒にした方がいいだろ。女の子に払わせるわけにはいかないし」

「では、素直に甘えますわね」

 

祥子はアイスを手渡す。

 

「後でその分は払いますわ」

「いいよ。俺に付き合わされたってことにしとけば」

「え、どうしてですの?」

「仮に『書いてなくても学生としてどうのこうの』って言われたら俺に付き合わされただけって言えば、祥子は許してもらえるだろ」

「...それは、どうなのでしょうか?」

 

烏の言い分には納得できる部分もあったが、なぜ彼がそうやって言うのか、祥子は理解が出来なかった。

なぜ帰り道が大体一緒というだけで、ここまでしてくれるのかが、気になる。

 

「...とりあえず、会計してから話そう」

「...そうですわね」

 


 

「さっきの、お話」

「ん?」

 

烏は四角い棒アイスを咥えながら祥子の方を向く。

対して、祥子はいまだ開けてないアイスの袋を見ながら口を開く。

 

「どうして、そこまでしてくださるの?」

「ん...そこまでって?」

「どうして色々、あなたは私を気遣うのです?」

 

祥子は、自分の中にあった疑問を投げかける。

 

「...理由とか無いけど」

「...え?」

 

烏はあっけらかんと答える。

 

「な、なんで...?」

「なんでも何も。じゃあ、かっこつけたいからじゃだめか?」

「かっこ...へ?」

 

祥子は絶句する。

 

「帰り道、誰かと一緒になる事とかなかったし。ちょっと気の利いたことしてみたいなぁって」

「それだけ、ですの?」

「まぁ、それだけ。細かいこと考えると頭痛くなるし」

 

烏は笑いかける。

祥子は安堵の顔を浮かべた。

 

「...なんでほっとしてるの?」

「いえ。いつもの烏でほっとしただけですわ」

「何だいつもの俺って。それより、アイス食わないと溶けるぞ」

「あっ、そうでしたわ...良ければ、1本どうぞ」

 

2本に分けて、左手の方を差し出す祥子。

 

「...いいの?」

「えぇ。さっきのお礼ですわ」

「気にしなくてもいいんだけどな。まぁ、くれるなら、いただきます」

 

烏は食べ終わったアイスの棒を袋に戻して、祥子から貰ったボトルアイスを咥える。

 

「器用、ですわね」

「...なにが?」

「手を使わずに吸えるものなんですの?」

「覚えなくてもいい技術だから覚えるな」

 

そう言って烏は再び咥えなおし、吸いだしながら遠くを見つめる。

祥子もそれに倣って、遠くを見る。

太陽はちょうど雲に隠れ、カラスが電線に止まっている。

 

「日が当たってないからか、ちょっと涼しいですわね」

「じゃ、今の内に帰るか。冷房部屋で涼むんだ」

「...かえって体調崩しませんか?それ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




平和な世界線が見たかったので...

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