「私とつきあってください」
告白してきたのはクラスメイトの里見葉子。困ったことに雫は相手のことをよく知らない。というわけで友達から始めることにした。
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高校において、文化祭とは一大行事に他ならない。早めの時期より計画を立て、目的や目標を共有する。普段と違う技能が要求され、朝の早くから夜の遅くまで。直前の時期ともなれば、寝泊まりすることもある。睡眠や食事といったレベルで生活空間を共有すれば、当然の如く仲は深まる。あの何とも言えない連帯感だ。それが最高潮に至るのが前夜祭。本番を翌日に控えた中、バンドを組んだ奴、ダンスチームを組んだ奴が舞台を開き、みんなで共にフォークダンスをしたりなどする。そして最後には花火まで付いてくると来たもんだ。何をだらだらとここまで話してきたかと言えば要するに、文化祭は魔境である、という話である。
「あの……つきあって貰えませんか?」
午後六時の中庭の、まだ青々と繁る椛の木の下で、私は告白を受けていた。元はと言えば三日前、私の下駄箱に手紙が一通入っていた。綺麗な白い便箋に丁寧に書かれたお呼び出し。何と言えば良い物か、いわゆる一つの、ラブレターというものではないかと思い至った。別にこれに付き合ってあげる義理も無いけれど、出した人がどれだけ勇気を出したかを思うと無碍にも出来ず、そうして私はここにいる。今私に告白してきたのは同じクラスの女の子。何故同性の私なのか、なんて無粋な質問はしない。なんせ今は多様性の時代だからね。加えて言うなら機会性同性愛なんてのもある。つまるところそこに不思議はない。むしろ問題になるのはコイツとの関係なんだけども……。
「とりあえず、友達からで」
「えっ?」
私よく知らないんだよね、コイツのこと。文化祭での会計係をする程度に真面目で有能かつ催し事に参加する性質なのは知ってるけど、それだけだし。敢えて言うなら形は良いか。可愛い服を着せて、「かわいいー!」なんてやれる程度に整った見た目をしてるのは確かだ。
「んじゃまずは、一緒に花火を見に行くか」
「えっと……良いんですか?」
「そのつもりでこのタイミングなんだと思ってたけど」
あうあう言ってるのを尻目にロッカーに荷物を取りに行く。打ち上げ開始は七時なので、それまでに眺める態勢は整えておきたい。元々は一人の予定だったけど、二人で行くなら少し大目にしよっか。瓶のラムネを四本と食料を幾らか。隠し持ってくるのにも苦労したんだし、満喫しなきゃ損と言うものである。
「さて、無事準備も出来たし自己紹介などでも……」
「あの、これなんですか?」
告白してきた子あらため里見葉子が今の居場所に疑問を呈する。今の今まで名前を忘れていたのは秘密だ。学校の屋上に張ったテントの中、祭の定番たる焼きそばを食べつつ質問に答える。
「見ての通りのテントだけど」
「なんでそんなものが……、ま、まさか授業に出てない時って」
「ん、そうだけど……何を当たり前の事を」
里見が怒り始める。まあそうカリカリしないでよ、私と付き合ってくならこの程度の事で驚いてられないって。とはいえ妙に騒がれるのも怠いので、その可愛らしい口に焼きそばを突っ込む。
「おいしい?」
「う、うん……」
そこから暫く静止したあと、急速に顔が赤くなる。ここは大概涼しいから暑さに寄るものではないだろうけど、一体全体どうしたのやら。とにもかくにもこれで静かになったので話を再開する
「さて、里見葉子。お前は私に何て呼ばれたい?」
「な、名前でお願いします、七戸さん」
「ふーん、そこは『雫ちゃん』じゃないんだ、ヨーコちゃん?」
もともと赤かった顔がさらに赤くなる。なるほどなるほど、これは恥ずかしがってるのか。焼きそばを口に突っ込まれるとかいうののどこに恥ずかしがる余地があるのかさっぱり分からんが、何はともあれ表情の変わり易さは芸人向きだ。リアクション芸人……よりは寧ろVの系統か。あれらは羞恥心を持ったまま捨てるとかいう荒技が必要とされる面倒な界隈なんだけど。
「ま、そこで硬直するのもそろそろ解除しな。花火が始まるからさ」
テントから這い出して、去年の内に実験しておいた、屋上で一番綺麗に花火が見える場所と角度へと移る。ポッケでスマホが揺れるから何事かと思えば、わりとよくつるむ友達に捜索されてたらしい。速攻でSNSを使っていつもの城と返信する。
柳状の花火を皮切りに、どかどかと花火が打ち上げられる。去年実験した通りに綺麗だなーとラムネ片手に眺めてると、ようやく復帰したらしいヨーコちゃんが隣にやってくる。
「きれいですね」
「そりゃそうでしょ。この為に去年から計画してたんだから」
花火の音を聞きつつ、ラムネに喉を鳴らしている脇で、またヨーコが動きを止めた。なんかを感じやすい性質なのかね……。
花火の終わりには妙なさびしさがある。それは普通の祭ではそれそのものの終わりだからだけど、文化祭なら話は別。むしろ始まりの狼煙な訳だし、テンションを上げておくのが正解だ。
「じゃ、私は帰るからね。また明日ね」
◇
そして翌朝。今日は校内公開なので、完全なる内輪ネタでも大丈夫というわけだ。私のシフトは午前の頭と午後の尻尾なので分かりやすい。ついでに言うなら、ちゃっかりヨーコは私とまったく同じ時間にシフトを入れていた。あんなにキョドるわりに割と大胆な事を、それも計画的にするねえ。
「おはよう、しず――――」
「おはよ、ヨーコちゃん。……どうしたの?」
駐輪場にチャリを停めてる最中、ヨーコちゃんが話し掛けてきたと思ったらまたフリーズした。昨日からフリーズが続いてるし、ソフトかなんか組み直した方が良さそう。
「そ、そのきれいな服は……」
そんなに綺麗かねえ。今日は祭りだし、ってことで浴衣っぽいものを少々着ただけなんだけど。
「おはよーっす」
「雫っち、なんかめかしこんでる?」
「祭だからそれっぽいのをちょっとねー。むしろ琥珀は着なかったんだ」
「いや、私は持ってないし」
教室に入るといつもの友達に声を掛けられる。私の次くらいに学校をサボったりなんなりしてる奴だ。てっきちばっちり粧し込んでくるモンだと思ってたけど、以外にも普通に私服だった。制服なんて物は存在しないから、実質普通の服である。寧ろ浴衣とか着てるのは生徒会組のが多い。
うちのクラスの模擬店は賭場である。教室内に4ブースを設置し、それぞれで典型的なカジノ競技を行う。プレイヤーは教室の入口で入る時にチップを渡されているので、それを賭け金として最大化を目指し、最終的な所持枚数によって出口で渡されるお菓子のランクが上昇、という仕様になっている。あ、流石に入場料みたいなのは取ってない。それやったらマジで賭博なので。
「さて、張った張った! 乗る奴はさっさと掛け金を出せ、さもなくばゲームから降りな」
花札を配りつつも声を掛ける。私の仕掛ける競技はおいちょカブだ。一番分かり易いのは、花札版ブラックジャック、か? 21の代わりに一の位を9にするのを目指して、10以上も別にバストではないってあたりは違うけど。
「はいはいっと。おねーさんは2-4-3でカブ、そっちのあんさんも1-10-8でカブかいな。運が良いねえ。 じゃ私も配るか。元々あったのは4,付せ札は7。じゃあ捲っていきますかっと。まずは2,ついで6……ではい、私もカブだから引き分けだねえ」
なんだかんだと運の良い奴が多いわ。私含めてカブ(9)になる奴が多くて笑っちゃう。こんなに出るもんだっけねえ。
まあそんなノンビリとおいちょカブの親をやってると、直ぐに時間が来たので上がるとする。ロッカーに行って回る用の鞄を取り出してると、そうじゃないかとは思ってたがやっぱりやってきた。
「あの、いっしょに回りませんか」
さて、どう答えたものか。昨日から続いてる話ではあるんだけど、要するに究極的には私には付き合う義理がない。とはいえ……だ。昨日微妙に餌をやった以上放置するのも可哀そうなんだよな。
「私は好きに回るから、付いてくる分には御勝手に、かな」
「……はい!」
おいおい、それで良いのかよヨーコちゃん。その単純さはお姉さん、思わず不安になっちゃうなぁ。悪い大人にアレコレ騙されそう。
適当にぷらぷら歩きつつ、何から行くか考える。一学年8クラス×3学年で24の出し物、あたり前の様にコンセプト被りが存在する。トップは賭場とお化け屋敷でどっちも5つ。賭場巡りをしても良いけど確実に荒らしちゃうことを踏まえると……まあ、お化け屋敷から行こうか。早めの時間のがまだ空いてるしね。
「2名で」
教室の前、受付の列に並ぶ。教室前に設置されたTVで流される、いかにもありがちな廃病院モチーフなお化け屋敷っぽいデモ映像を眺めてると、右手に重しがついた。すでに震えているヨーコが腕に貼りついていた。はやいよ。
お化け、っていうよりは人間的悪意マシマシな恐怖演出だったなー、とか呑気に考えてるのは私だが、一緒に入ったヨーコはと言えば。
「ほら、もう抜けたから」
「やー!」
幼児退行を起こしていた。今も私の腕を丸一本抱え込んだまま目を瞑って震えているのである。そんなに怖いなら表で一人で待ってれば良いのに……。
これでお化け屋敷系に行きたい欲求はクリアされたので、次からは別の方向性に向かう。時刻は今が10時半、おやつを食べるには良い頃合いだ。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
コンセプトはメイド喫茶らしい。男子だろうが女子だろうが問答無用のメイド服である。その光景は圧巻と呼ぶのに相応しい。
「んじゃこのクレープとサイダーで」
「私も」
「かしこまりました」
訂正しよう、メイド喫茶がコンセプトではあるが、マジで仕えるが方向性だから、媚びる要素は少なめだ。スカート丈もロングばかりだし、なんかそういう方向にガチになった奴がいたんだろう。お出しされたクレープはと言えば、祭補正を掛けてやっと美味しいと言える程度の代物だけど、実際祭の出店なわけだから問題は無い。
「……おいしいですね」
「そうかい、そりゃ重畳」
「……親?」
「親、親ねえ。『はーい葉子ちゃん、美味しいでちゅか~』ってやって欲しいの?」
「それはやめてください!」
さすがに駄目か。まあ方向性がお母さんじゃなくて、括弧付きのママ、ってか直球にいって赤ちゃんプレイの系統だし駄目だよね。これで反応する奴だったら流石に私でも縁を切るわ。
「次はどこに行くつもりなんですか?」
ひとしきり食べると、ヨーコが興味津々と言った感じで私に尋ねる。さてどうしよっか。まあどこに行っても楽しめるから、問題はどっちかと言えば、どう返答するかの方だ。この質問は、私に興味があるから、私の人格をもっと知りたいが為に発された質問なわけだ。昨日今日と同じ時間を過ごしてみて、とりあえず問題はなく過ごせてるし、他人と過ごす上で常に感じる程度の疲労・不快感以上のものはない。なら、もう少し私も相手の事を知っていいだろうと思う。私の在り方を見てどう反応するか、それは相手が私と築きたい関係、そして相手自身の人格までが見えるものだから。
それを踏まえた上で、どう返すのが一番相手の性質が見えるかねえ。
「悩んでるトコだけど、そうだね。とりあえずここ、行こうか」
「……『新宿』?」
「結構仲良い後輩んとこだよ」
実際のところ、本当の新宿がこういうものか、ってのは私は知らん。だがとりあえずここの教室はかなりカオスだ。
「なあ後輩」
「なんすかティア先輩」
「あのパチンコの当たり演出みたいなの、何?」
私と、私をこの店に誘った後輩との前にあるのはテレビ。その画面では一人の人物が立って、ジャンケンの相手をしている。ゲームは簡単。プレイヤーとテレビに移った人物とがジャンケンをして、プレイヤーが負けた時は負け演出を、勝った時は勝ち演出を入れるだけである。まあその時点で大概意味フだが、そこまでは良い。カオスさを跳ね上げてるのはその演出だ。プレイヤーが負けた時はパチンコでのボーナスタイム抽選外れ演出的な、とくに何の変哲もないもう1ゲーム行こうみたいな演出なんだが、プレイヤーに勝った時の演出の方はと言えば、うん……。まじでパチである。第一ボーナスを当てて演出発生→第二ボーナスチャンスも獲得して文字と音の乱舞する演出2倍追加、みたいな感じだった。
「パチンコの演出を元にしたので大正解です」
一応突っ込むべきなのかなぁ……。未成年はパチ屋出禁のハズなんだが、どこでパチンコの演出なんて知ったんだろうねえ……。
「それこそティア先輩が言えた話じゃないのでは?」
「私の場合は家に筐体があるからさ、まだ大丈夫だろ」
「それ別の意味で大丈夫じゃない奴ー」
姉貴の私物である。なんでそんなモン嵌って自宅に置いてんだよクソ姉貴。早朝に思いっきり打つのはやめて欲しいんだよガチャガチャ煩いからさ。どうせ打つならピンボールにすれば良いのに。あっちの方が相対的に静かだから私的にも嬉しいんだよね……。
「やった、やりましたよ雫さん、私3連勝に成功しましたー!」
ここまできてやっと、ヨーコが会話に復帰する。いままでこの謎のジャンケンゲーに居座ってずーっとジャンケンし続けてたのだ。うん、だめだな。ヨーコはパチスロはやっちゃいけないタイプの人間だ。一旦嵌ったら一生抜けれなくなりそうだ。
「雫さんは何やってるんですか?」
「立体迷路。これをぐるぐる動かして、中にあるボールをゴールまで導くんだよ」
後輩と雑談しながらも、私はしっかりと遊んでいた。むしろこの後輩、一応シフト中だろうにこんなトコで油売ってていいのかよ。いや言うまい、コイツはその辺の猫被りは上手い方だ、どうとでもなるだろ。
ヨーコの連勝チャレンジを見物していた取り巻きを散らしつつ、他所の出店に移ることにする。1時間も居座ると邪魔だったろうに、何も言わなかったのはちょっと不思議だな。
◇
そんな文化祭シーズンが過ぎた後、しばらく経ったくらいのこと。
「雫さんはテストは大丈夫……ですか?」
「定期? 普段キッチリ勉強してるからどうとでもなるけど。ヨーコちゃんは?」
テストの話題、まあ如何にも高校生らしい話である。……おいおいヨーコちゃんや。私が余裕あるのがそんなに不思議か? 上位者張り出しの時に常に私の名前はあるだろうに。いや三位までと自分の順位以外は確認しない方がありがちか。
「……国語がちょっと……現代文がですね……」
現文、現文、現文ねえ。まあ国語では一番難しいか。背景と文法を押さえれば翻訳するだけで解ける英語亜種な古文漢文とは求められてる物が違うしね。……さて、さて、さて。どうするかなぁ……、
「教えてあげよっか?」
「お願いします」
というわけで勉強会をすることに相成った。普段の友達は全体的に勉強そのものが嫌いな節があるから、こういうのは幾らか新鮮だ。ま、家庭教師の真似事、って言うと慣れてるんだけども。
「で、とりあえずヨーコちゃんの解答を見せて貰ったから言うんだけど」
「はい」
「問題を解きなさい。ちゃんと問題を解け、採点される問題を解いてるという自覚を持て」
「わ、私だって真面目に解いてるし書いてるんですけどー!」
いや、真面目に書いてるから寧ろ駄目なんだけど……。真剣に自分の考えなんぞ書いてるから点数落としてんだよなぁ……。
「良いか、よく聞け。例えばこの問題、採点者の視点に立って模範解答を作れ?」
問題『この文章で筆者が何を述べているか、160字以内で書きなさい』。とても解き易い側の問題だ。普通ならな、うん普通なら。
「えっと……?」
「だから、採点するにあたって、どこに採点基準が置けるか、って話。この文章は全部で8段落あるだろ? で始めと終わりに1段落。理由のAとBで各2段落、反駁とそれへの回答で2段落、って構成なわけだ」
「うん、そうですね」
「何を述べてるか、といえば始めと終わりの段落の内容に書いてあるよな? まずそれを認識しているか、これが採点観点1だ。で次に、理由AとBに触れているか、これが観点2と3。最後に反駁に対する回答に触れてるか、これが観点4なわけだ」
「それで」
「で、翻ってお前の答案を見るだろ。観点1、これは大丈夫だな。でも観点2と3,どっちも後半の段落に出てる例の方に気を取られてる上に趣味で表現が変わってる。そして観点4は0点になってる。そりゃ点は伸びないわ」
思わず辛口でばっさり切り捨ててしまう。お題の説明文は酷く簡単なもので、第一段落で何の話をするかと結論を述べ、第二段落で理由Aを説明し、第三段落で形容詞と実例を組み合わせて説明を強化、第四第五段落では理由Bで同じ事をする。第六第七では想定される反駁とそれへの反論、そして第八段落では改めて結論というオーソドックスにも程がある形式である。だから究極的には第一か第八から一文、第二と第四から一文づつ、第六と第七からも一文づつ抜き出して意味が通じるように書けばそれでフルスコアになるような問題なんだよな
「……」
ヨーコちゃんは酷く衝撃を受けている様子。○○を書きなさいと言われて真面目に書いてたタイプだから然もありなん。採点者も人間で、共テとか模試とかになると採点者が単なるバイトの可能性もある、ってことを失念していたと思われる。ほんとに、採点者のつもりになれば、どの点なら採点が出来るか、って部分から正答が見えてくるんだよな。
「えっと……じゃあ、こっちのパートは……?」
「……ああ、これも同じだね。まず本文の段落の一番大事な部分に傍線引いてー。この問題、どこなら採点できる? 6点問題だから多分採点ポイントは3つだね」
これだけで良いなら楽なモンだ。ということで私は数学を進める。数学にしろ化学にしろ、計算問題はやり方だけ知ってても確実に間違えるからね、数を熟すのが大事よ。
◇
雫さんに告白してから半年。もう1月になっていました。とりあえずお友達から、と言われて、色々話す様になりました。一緒に文化祭を回りました。夏休みには夏祭にも一緒に行きました。勉強を教えて貰いました。一緒にご飯を食べに行きました、入場特典云々言いながら一緒に映画に行きました。ゲーセンにも連れていって貰って、遊び方を教えて貰いました
雫さんとの楽しかった思い出を思い出してなんとなく楽しんでると、嫌な事に気付いてしまいました。私、雫さんに貰い過ぎなのでは……? 雫さんに何かをして上げた記憶というものが……。
という話を、雫さんに連れていって貰った同性愛の人の為のカフェのマスターにしたところ
「考え過ぎだと思うけどねえ……」
なんて言われてしまいました。どういうことでしょう。本当にして貰ってばかりなのに。
「んーとね。まず第一に、雫がここに誰かを連れてきたの自体が始めてなんだよね。本人に言わせたら、なんとなく良いかなって思ったからとか言うんだろうけどさ」
このマスターさんと雫さんは結構長い付き合いらしいです。私より良く雫さんを知ってるのに妬けてしまいそうです。でも気持ちを落ち着けてちゃんと話は聞きます。だってこの人は、私の恋を応援してくれてますから。
「で、第二に。雫の恋愛に燃える様な激情はよっぽどでもなければ多分無いよ。ただ穏やかな慈しみと安らぎ、そういうものが生まれる相手って認識なんだろうね。そして君は、今迄見た中で一番雫が楽しんで慈しんでるんだよね」
えっとつまりどういうことでしょう?
「恋愛的な意味かどうか、これは本人じゃないから分からないけど。多分君は一番好かれてるし、一緒に居て安心できる相手として見做されてるよ。そろそろ返事を強請ってみたら」
確かに言われてみれば、ゲーセン巡りを一緒にしてる時とか、凄く機嫌が良さそうでした。いつも雫さんの機嫌は良いですが、それでも良さの違いは結構あります。ゲームセンターに遊びに誘った時は始めて見るぐらいの上機嫌さでびっくりしたのを覚えてます。
「着替え終わりー、んじゃヨーコ、帰ろっか……ってどうしたの?」
「雫、おたくの相方が不安がってるぞ」
「ふーん、分かった」
この店でのバイトのシフトを終わらせた雫さんがバックヤードから出てきます。なんというか想い人の仕事中にその仕事先の店長に恋愛相談をするという実に恥ずかしいことをしてしまった気がしますが……考えないようにしましょう。
店から出て二人で歩く中、雫さんの方から手が伸びてきて、私の手を掴みました。冬の寒さが手の温もりで柔らいだ気がします。
「んー、何時言うのが良いかな、とか考えてたけど。不安がってると言うなら仕方無いねえ」
雫さんが軽い調子で不思議なことを言います。時期を探ってるようなセリフを出しますが、何のことでしょう。
「まぁホントはバレンタインなんかを使おうか、とか思ってたけど、いっか。好きだよ、ヨーコちゃん。これが恋愛的、性愛的な欲求かと言われれば疑問が付くけどね、一緒にいたいって思える程度には好きだよ」
……えっ? えっと……。
「そのフリーズ久し振りにみたな。キスでもしたら復帰するかい?」
「あ、え、あの、その」
「どしたの。ヨーコちゃんが最初に言ったんじゃん、私と付き合いたいって。それを私が保留してたわけで。回答が出来たら答えるのは当然でしょ」
「あ、えと、その。つまり、お付き合いをさせていただいても……」
「そう言ってるんじゃん」
正面から抱き締められて、おでこをコツンとぶつけながら言われます。これは……普段より甘い、と思おうとしましたが、よく考えたら、最近はいつもこんな感じでした。なんとか心を立て直して雫さんを見つめ返すと、ふふっ、と笑われました……。至近距離で、しかも両思いだって分かった後なので酷く恥ずかしいですけど、距離感以外は何も変わってませんでした。そして、その距離は私が遠慮して離した距離に他なりませんでした。
「えっと……あっ……キス、してみたいです」
「じゃ、するか」
始めてのキスは、幸せな味がしました。心がふわふわして、沸き立つ様でした。あまりの幸福感と気持ち良さに、腰が抜けるくらいでした。
「おっと……あすなろ抱きされるのと背負われるの、どっちが良い?」
おひ……いやいや、恥ずかし過ぎるのでパス、パスです。そのまま背負われながら話を続けました。
「さて折角付き合いはじめたわけだけど、何かしたい事とかある?」
「……えっと……一緒に花火を見に行ったりとか……プール行ったりとか……バレンタインとか……え、えっちなこととか……」
……あれ、勢いで何言ってるでしょうか、私。他はともかく、えっちなことって……付き合って初日に言うことじゃないですよ……。
「えっちなことはヨーコちゃんの覚悟が決まったら、ね。OB枠で花火を見学するくらいの長い付き合いにしたいよね」
かくごを決めたらって……えっ……えっと……つまり私がやりたいって言ったらそれで出来るって意味……? えっと……私どこまで許されてるんでしょう……。っていうかOB枠で花火って何年も先まで一緒に居るってこと……?
七戸雫
前半パートの主人公。不登校ラインを普通に超えた不良。成績が高いのでアレコレ言われないことを言い事に、屋上に自分の城を作るわゲーム機だのジュースだのお菓子だの持ち込むわそもそも学校来ないわとやりたい放題。学校のサボって何をやってるかと思えばゲーセン行ったりたまたま知り合った不登校になってる子の相談に乗ったり勉強教えたり普通に勉強したりと好き放題やっている。勉強は好きだけど授業には興味はなく、でも学校のクラスメイトに興味はあるのでそういう感じにやっている。
2年の文化祭の前夜祭で葉子に告白された後、なんとなく金魚の糞にさせてたら思った以上に可愛くて愛着を持つようになった。お付き合いを始めた時点で、マジの燃える様な恋愛感情というものを理解する日も遠くはない
里見葉子
後半、というか最後の方の主人公。品行方正の真面目ちゃん。もともとは学校への態度が不真面目だし喧嘩をしただなんだのウワサも絶えないので雫の事を怖がっていたが、同じクラスで文化祭の準備をしているうちに、それが純粋な好意へと引っくり返った。自分の気持ちと雫の自然に他人を思いやりつつもやりたいようにしている様子にもの凄い勢いで振り回されているが、雫がその内熱い恋愛感情というものを理解して、より甘々な対応によってタジタジになる将来はまだ知らない。
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