戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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一五一話

異世界人の逃亡。

 

アウトバーンを使って行われたこの犯行に、司令部は文字通り蜂の巣をつついたような大騒ぎとなった。

 

「くそっ、どこに逃げた…!?」

「北東方向に逃げたという話だ」

「急いで十七師団を向かわせろ!逃げた先にいるはずだ!!」

 

統合参謀司令部、特にその中の陸軍部はあちらこちらで騒ぎになっていた。司令部地下の秘密通信室から最上階の参謀総長室まで、多くの職員が慌てた様子で書類を持って上がっていく。

 

「畜生、連中は大人しいんじゃないのかよ」

 

軽く毒吐いて司令を飛ばすデニス。その隣で同僚が言う。

 

「向こうだって人だったってことか?」

「人じゃなきゃ異世界人だなんて言われねえだろ」

 

デニスはそうツッコミを入れると、追加で情報を聞いた。

 

「ディルク中佐はあと二時間ほどでレルリン空港に到着する」

「早いな」

 

予想よりも早い到着に驚いていると、その出発地を聞いて察した様子で別の女性士官が言った。

 

「あそこは『JV44』が駐屯している空軍基地があります。多分…アレを使ったのでは?」

「アレって…最新機体ではないのか?」

「それ使ったんじゃないんですか?…まあ、それにしたって早すぎるような気もしますが」

 

大陸の端から飛んでくるような勢いで突っ込んでくることに苦笑気味に彼女は言うと、デニスは一部が意味不明ながらもとにかく酷い目に同期が合っているのだろうと言うことは理解できた。

 

「…異世界人の逃亡か」

 

ペッツは参謀総長の執務室で煙草に火を付けて受けた報告に眉を寄せる。

 

「中佐は?」

「今、空軍の伝手を使って速達でこちらに飛んできる。寝耳に水のようだ」

「だろうな…まあ、彼自身最も信頼を置いていた部下が裏切ったようなものだからな」

 

ペッツも第一報を送った時に、彼の驚愕する顔がありありと浮かんできた。なにせ彼から届いた報告書の中に『異世界人は御し易い』と書かれていたのだから。実際そうなのだろう。今までの作戦の報告書を読んでも彼らに敵対的な行動は確認されず、おそらく自分たちをここに送り込んだ共和国の敗北やそのほかの諸々の衝撃が重なって疲れてしたことに起因しているに違いない。

 

「しかし予想外では無かったな…」

「だが半分が脱走だ。通常であれば、憲兵が捜索・捕縛の後に軍法会議だが…」

「問題は彼らには軍籍はあっても国籍はないところだな…」

 

ペッツは少し渋い顔色を浮かべた。

この頃、既に共和国において禁術である転移魔法が使われたことは周知の事実となっており、現共和国政権も自らの足元を固めるために前政権の軍部がしでかした悪行として異世界人と転移魔法のことを糾弾した。あのニョルニル作戦にて異世界人は全員が死亡したということになっており、その対応を聞いて異世界人達は愕然となり、憔悴で地面に倒れ、怒りが湧いているように見られたという。

 

「軍法会議にはかけられるが、彼らの存在が露呈することはまずいな…」

「どうする?異世界人を匿っていると知られたら、確実に教国が口を挟む」

「だろうな。今、教国は禁書保管庫が吹き飛ばされた影響で国内情勢が不安定だ。事実上、魔法庁の権威の源が丸ごと失われたのだからな」

 

後に抵抗軍による仕業であると、爆薬の残骸や当時の聞き込みなどから報告書が挙げられた先の教国での事件。今までの歴史で、教国にはかつてこの大陸全てを支配下に収めたという大帝国の時代に作成された魔導書なども保管されていた。

 

「禁術は忌むべき技と同時に、教国の権威の象徴であったわけか…」

「あそこは聖地を抱えた中立国だ。だが、その実は積極的な内政干渉しようとする年老いた老人だ」

 

報告書を放り投げ、彼は参ったという様子で話す。

 

「足元が脆くなった教国は、自ら国を守る目的で異世界人の処刑を求めることだろう」

「面倒だな…」

「ああ、まさしく。我々は人道的見地を持って異世界人を保護していたのと言っても、教国は教義を差し出してくるだろうな」

「法学者でもツッコミを入れるというのにか?」

 

少し苦笑気味に報告書を持ってきたコルネリウスがペッツを見た。

少なくとも、産業革命によって科学が発展し、いずれ魔法も超えるとさえ言われている今日において、教国の禁術に対す処罰は、多くの法学者、宗教学者でさえも『非人道的である』と結論づけられるような時代である。法学者の考えでは『禁術使用に関する処罰はあくまでもその国の司法機関が行うべきであって、教国による処罰は不必要である』と言い、多くの内政干渉に悩まされてきた政府はこの考えを後押しした。

 

「少なくとも教国はやるぞ。力のない権威を持っている今の教国ならな」

「…」

 

ペッツの確信した眼差しを向け、今の教国の情勢不安定からコルネリウスも半分確信した様子で媚びしい顔を浮かべた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

異世界人の逃亡という点において、最も衝撃を受けたのはやはりこの男だろう。

 

「(冗談だろ?なんで逃げるんだよ)」

『私に聞かれても困るわよ』

 

車での移動中、眉間に皺が寄りながらディルクは小山と通信魔法で話していた。

彼女達は現在、駆けつけた陸軍師団によって呆然となっていたところを拘束されていた。

 

「(逃げた先は?)」

『アウトバーンをそのまま進んで行った。でもトラックが手榴弾と発煙弾で横転しているから…』

「(面倒な…)」

 

彼はそこで本人から聞いた報告を前に天を仰ぎたくなる。少なくとも、彼にとってみれば『余計なことしやがって』と大声で怒鳴りたくなる話であった。

 

「(逃げたのは?)」

『三号車と四号車』

「(一〇人か…)」

 

ディルクはそこでこちらに残った手駒の人数を数える。

 

「(こっちは十四、多分脱走した連中は…)」

『まあ、十中八九抵抗軍に逃げ込むでしょうね』

「(ああ、見事に真っ二つに別れたな)」

 

逃げた面々が想定通りに動くのであれば、おそらくトラックは廃棄された状態で見つかるだろう。

 

「(今、一個師団が捜索をしているはずだ。見つかったらすぐに連絡しよう)」

『分かった。こっちも肋折った子とかいるし、陸軍に拘束されてるしで動けないよ』

「(了解。…一応、残った連中にはもうあの話をしてもいいぞ)」

 

すると小山は少し驚いた様子で聞いた。

 

『え?良いの?』

「(この際だ。下手に同調して逃げ出す馬鹿が出る前に共有しておいてくれ)」

『ん、分かった』

 

そこで通信魔法が切れると、ディルクは改めて座っていた座席を座り直す。

現在、彼はロンネル将軍の紹介で近場の空軍基地からレルリンに戻る予定であった。

 

「はぁ…面倒だな」

 

そして改めて彼は溢すと、次に少し目を細めて呟く。

 

「奴らめ…」

 

その顔はひどく疲れた顔をしていた。すると運転手が話しかけてきた。

 

「中佐殿、間も無くです」

「うん」

 

すると視線の先に巨大な滑走路と半円筒状のバンカーがいくつも並んだ施設が現れる。戦後に組織改革によって生まれた帝国空軍の空軍基地である。

多数の航空機が駐機場に並べられ、ここでは新型機や実験機が並べられて飛行訓練を実施していた。

そしてそんな巨大な施設を前に車は基地の前で門を通過すると、中で彼は出迎えを受けた。

 

「初めまして。ディルク・フォン・ゲーリッツ中佐」

「は…っ!」

 

その人物を前にディルクは予想外な人物に声が裏返ってしまいながら敬礼をした。

 

「お初にお目にかかります。アドルド・ガーランフ中将」

 

その階級章を前にディルクの脳内では、日本で知り得たミリオタの知識を総動員して弾き出された結果が出る。

 

「(中将?!冗談じゃない)」

 

少なくとも西暦の勉強をした身であった為に、その人物にとてもよく似た者を知っていた。

 

「えっと…その、中将自ら出迎えくださるとは…」

「いやいや、私としても戦時中のエースの顔を見たかったからね。しかし、これほど若いなら上が隠すのも納得だ」

 

そう言い、アドルド中将は数回頷いた後にディルクに言う。

 

「ああ悪いな、急いでいるのだろう」

「はっ!申し訳ありません」

 

ディルクはそこでアドルド中将の気遣いに感謝をしつつ、彼の後を追って歩く。

少なくとも、史実で最も彼に違い人間の功績を振り返って今度何されるのかが予測できた気がした。

 

「…驚かないのだな」

「?」

 

するとアドルド中将が話しかけてきた。その時、ディルクは彼が中将という身分でありながらこのような空軍基地にいる事にさして驚いた様子ではない事に聞いたのだろうと察して、すぐに返答を作る。

 

「あっ、いえ…このような場所にいるのが意外でして…」

「混乱しているか。まあ、君の言う気持ちもわからなくはないさ」

 

彼はそう言うと、ディルクを格納庫の前に案内する。

 

「司令部からも至急伝が届いた。最速で君をレルリンまで届けるカブの馬車だ」

 

アドルド中将はそう言うと、そこで緊急で整備が行われている機体を見る。

 

「えっ、これって…?!」

 

そこで格納庫から押し出される機体に困惑気味に、そして表情を引き攣らせて見上げる。

 

「中佐は初めてかね?この機体は」

「は、はい…噂には聞いておりましたが…」

 

空軍は陸軍飛行隊から独立した形で戦後に搭乗をした組織だ。そんな組織は戦時中、とある新機体を開発していた。

ディルクも戦時中、まだ陸軍航空隊であった機体にお世話になったことは何度もあった。大型輸送機から空挺降下で敵地に上陸したことも多々あり、その時の伝手で戦後に空軍が戦時中にやたらと採用した新機体の整理を兼ねて新機体を導入していると言うのを聞いていた。

 

Me262(シュワルベ)

 

それは史実でも世界初の実用ジェット戦闘機として名を馳せた有名な機体である。無論、ジェット戦闘機である為に速度はレシプロ戦闘機よりも圧倒的に早いだろう。しかし問題はそこではない。

 

「なんですか?この上の…」

 

問題はそのシュワルベに装備された馬鹿でかい円錐状の物体。翼上に増設された雰囲気のあるその機体は明らかに異質な雰囲気を放っていた。

 

「Me262 Lorin、高速度実証機として帝国空軍技術工廠が試作した機体だ。見ての通り馬鹿でかいラムジェットエンジンを二基増設して限界速度を図る」

 

横で中将が説明をしてくれたが、ディルクは顔から『え?俺これに乗らされるの?』と言う顔をしていた。




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