叛逆の騎士≠   作:夜鷹ケイ

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仲間と共に越えるため

 清廉なる乙女に、麗しき乙女に、無垢なる乙女。

 魔力の供給はカルデアがしてくれるけれど、マスターとしての契約は藤丸立香なのだ。集えば、ただうつくしき光景を背にして立香は自身が召喚したサーヴァントたちと向き合う。

 

 

「あ、顔色よさそう、」

「……すまない、件の特異点では世話になったな。マスター。セイバー、ジークフリート。召喚に応じ参上した。また君たちと共に戦えることを光栄に思う。よろしく頼む。」

 

 

 呪詛を受けた彼との対面が、初めての邂逅だったので無理もなかろう。今にも死に体であったジークフリートのインパクトが抜けきらず、挨拶の前に出たのは身体を案じる言葉だった。

 そんな細やかな一言で立香の人間性を見抜き、ジークフリートもまた眦を和らげて口上を紡ぐ。どうやら自分はマスターに恵まれたようだと。しかして、無様な醜態をさらしてしまったのは事実なので、詫びもともに挟み込むと少年は両手をブンブン横に振り回して否定した。

 

 

「えっ、そんなぜんぜん!俺こそ心強いです、あのジークフリートさんが力を貸してくれるなんてすっげ……ゲームとかでもさんざんお世話になって、ほらこのゲームでモデルになってて、おお、スッゲー本物だぁ…。」

 

 

 うおお、おおう、ふおお。

 ロボットを前にしたロボット好き少年のような無垢な瞳がキラキラ輝く。

 

 

「ま、マスター?」

「王妃様とかジャンヌさんとかモーツァルトのときも思ってたけど、サーヴァントってやっぱり本人なんだ、……うぉぉー……。ジークフリートさんめちゃくちゃ俺もうなんか好きで、あっ」

 

 

 あの邪竜ファヴニールを打ち倒した英雄。心優しく人を助けることを善しとする彼の在り方は、物語の中でよく見て通ったものだった。

 どのゲームでも。どの場面でも。立香にとってジークフリートの名は、その存在は、弱きを助け強きを挫く騎士であり、勇者そのひとであり、正義の代名詞であったのだ。とどのつまり、少年の憧れを凝縮した塊。ロマン、と人は呼ぶのだけれども。

 現代を生きる少年にとっては書籍の中の登場人物。うっかり親しみを込めて「さん」なぞと呼び慕うけれども、サーヴァントは実在する過去の英雄そのものである。

 失礼してしまっただろうか。王族への礼儀作法なんて分からないし、どうしよう。えうえう。と混乱の末、実はドイツ語わからなくて勉強中で、読んでるのはぜんぶ日本語訳ばっかりだけども愛読書で、騎士って言ったら迷わず「ジークフリートさん!」って答えるほど憧れの騎士で、と自爆砲をバカスカ打ちまくる少年マスターの本音で場が温まった。

 謙虚と言うには行き過ぎた自虐にも似た言葉の数々は、立香の憧れの眼差しを直視した騎士の心に火を灯す。喜びと感謝を胸に、まるで子どものような無邪気さを前に微笑み、ありがとう、と。

 

 

「お、俺の方こそ……本当にありがとうございます…」

「ところで僕は呼び捨てなんだね、マスター?」

「音楽の教科書に載ってたからなんかもうずっと居たって気持ちでしたスミマセン…」

「ふふふ、ならば名乗る必要はないだろうけど、」

「アマデウス?」

「おっと、マリアそんな目で見ないでくれ。もちろん名乗るとも。僕はアマデウス、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト!戦闘はともかく、キミの人生を飾る事だけは約束しよう!」

 

 

 マシュに旅をして実際に学んだことや、彼女が疑問に思ったことに対して言葉をかけたり、逆に問いかけをして、多くを学ばせようとしてくれた人。

 実は曲名のほとんどが下ネタで、と言われた際にはひっくり返ってしまったけれど。ろくでもないことを唐突に言うし、所謂下品なネタも多く、女性に対してはセクハラまがい……? 否、セクハラもよくするし、戦闘も得意ではないからと言ってサボろうとするが。

 それでも。―――それでも、専門外のことでも、必ず手を貸してくれるし、面倒を見てくれる。人生を飾ることだって。心の中で今は会えぬ両親に語る。

 

 

「さて、旦那(ますたぁ)様。わたくしのことをお忘れではありませんわよね?」

「う、うん。清姫、だよね?」

「まっ、本当に覚えてくださっていたのですね! まあ、まあまあ、清姫は嬉しゅうございます。改めましてサーヴァント、清姫にございます。こう見えてバーサーカーですのよ? どうかよろしくお願いしますね。旦那(ますたぁ)様。」

 

 

 一緒に戦ってくれた女の子。

 バーサーカーであるがゆえにたまに理性はなくなるし、会話も通じずあやふやになるときがあるけれど、きちんと話せば外の世界に憧れるお姫様。普通の女の子らしい趣味もあるということを、戦争のさなかであったけれど言葉を交わしたので知っている。

 カルデアにいるときだけでも、彼女たちにはそういった小さな願いを出来得る範囲で叶えたい。マシュが言ってくれたように、小さなことからコツコツと。

 

 

「よし、気合注入!」

「気合だったの!?」

「えへへ、気合もそうなんですけど、ほら、なんか有難みが凄くて。今度から出会った人たちみんなにこうしようって思ったんです。感謝とか尊敬とか、お願いとか、言葉にしづらいことだってたくさんあるし、正直、俺もうなんか言葉に出来ないです。だから、せめて、ちょっとでも伝わるように、気持ちを全部手のひらに込めて改めて伝えようって思ったんです。」

 

 

 令呪もあるしね。善性を持つ英霊たちが恋焦がれた理想の果て。イタズラっぽく笑って見せる少年の顔は、どうしようもなく平和の象徴だった。

 握手はどうでしょう、と助言してくれたのはマシュである。それだ、と思ったから行動にうつした。ただそれだけのことだった。しかし、気持ちは伝わっているようだとロマニは納得する。召喚に応じてくれてありがとう、これからもよろしくと言葉にもされた変わらぬ純粋な気持ち。

 聖杯戦争で召喚された英霊たちの表情とは比べようもなく、平穏で、平和で、何よりも民の叫喚がなくなることを、終戦を願った騎士たちの誉れ高き愛おしき未来が待ち構えるのだと証明が、絶望にも負けず折れず立ち向かう為の剣を欲するのだから。感謝を忘れず、祈りを捧げてくれるのだから。

 

 

「あ、マスター。」

「どうしたの、ジャンヌさん?」

「今しばらく召喚に注力されるのでしょうか。」

「うん、そのつもりだよ。―――…あっ、そのつもりですよ!」

「ふふ、どうかマスターの楽な方で。でしたら、召喚時の媒介としてこれをお使いください。」

 

 

 ありがとう、と言う前に手渡されたものを見た。

 ジャンヌから手渡されたのは、彼女が頭につけている装飾品と同じ。けれども、やや黒いもの。煤けていて、何ならちょっと焦げているかもしれない。まるで、つくられた彼女―――本来ならばあり得ざる彼女―――否、憎悪に身を焦がす聖女がつけていたようなものではないか。

 

 

「……いいの? 最後まで喧嘩、してたんでしょ?」

「喧嘩とはすこし異なりますが……ふふ、お優しい方ですね。ならばやはりこれで。あなたの下であればきっと、あの(オルタ)も。ええ、どうか呼んであげてください。」

 

 

 意思を確認する。

 喧嘩した後は顔を合わせづらくなるものだ。媒体が、本人が使っていたものがあるのならエネルギーを供給するだけで本人を呼び込もうとしてくれると言うから、きっと呼ぶなら何時だって呼べるのだろう。たぶん。

 だから、立香は問うた。今のところ失敗せず召喚出来てるけれども、失敗する可能性もあるし、彼女が来てくれる可能性は限りなくゼロにある。たとえ召喚に応じてくれてもジャンヌさんと彼女が顔を合わせたらすぐ喧嘩だって再発するかもだし。俺が聞くことでも聞けるようなことでもないんだろうけど。

 それでも。それでも、ジャンヌさんは彼女を呼ぶの。フランスでの悪行をゆるして、カルデアで一緒に行動して背中を預ける相手として選んでくれるの。

 

 

「もちろんです。」

「わかった! やってみる!」

 

 

 中央に装飾品を置き、立香はまた令呪のある手を突き出した。サークルの中央は七色に輝きを増し、徐々に魔力がそこへと集中する。

 先ほどよりも魔力の動きが激しかった。令呪が焼かれるように熱く、手が燃えそうだった。令呪に熱が篭る。だが、立香は詠唱を止めなかった。支えて。誰か支えて。飛ぶ。飛んじゃう。焦りが瞳にうつり、ジャンヌが背を支え、マシュが腕を支える。

 風が強く渦巻き、吹き飛ばされぬよう、令呪の位置がぶれぬように懸命に立ち、腕を支える。だが、何処か、焼かれるような熱がサークルから溢れだして。

 

 

「ぐ……ぅうッ、―――天秤、の、……守り手よ―――ッ!」

「マスター、しっかり!」

 

 

 中心に現れたのは漆黒の聖女。己を焼き尽くした業火を抱き、憎悪に身を焦がす聖女の姿をした恩讐の焔。特殊なクラスを持って、今度こそ彼女はサーヴァントとして正式に召喚された。

 

 

「サーヴァント、アベンジャー。召喚に応じ参上しました。……どうしました、その顔は?」

 

 

 からん、と転がったサークレット。立香を支える聖女。それらを視認した復讐の乙女は、ただの少年に見えてあなたって英霊コレクターなのかしらと歪に眉をひそめて嘲笑した。

 

 

「…そう―――そうなのね…。ええ、嗚呼、なんということ…。私を、この憎悪に身を焦がすジャンヌ・ダルクを、望んで召喚するだなんて、なんて……物好きなマスターなのかしら。正気の沙汰じゃあないわ。」

「でも、また会えて俺は嬉しいよ。ジャンヌ・オルタ。」

 

 

 彼女は、正当な霊基でも英霊でもない。聖杯によって生み出された復讐心で燃える焔そのもの。彼女を召喚するために不思議な力を宿した聖晶石はすべてその力を使い切って消滅した。

 それでも後悔がなかったと言ってしまえるあたり、とんでもない新人マスターだ。英霊たちの間でも噓発見器と称される清姫のセンサーに一度も掠りもしなかったのだから、どんなひねくれものであったとしても少年の放った言葉が本音であることなど理解できる。

 

 

「ま、まあ? 召喚されたって言うよりも、引っ張られた感じはしましたけど?」

「レディの祈り。そして、騎士ジル・ド・レェが貴女の背中を押したのかもしれません。その装飾品をレディへ手渡したのは、まぎれもなく復讐の焔を宿した乙女(ジャンヌ・ダルク・オルタ)に救われた彼なのですから。」

「あ、ライダー!」

「こんにちは、リツカ。気配が増えたのでご挨拶をと思い、参じました。」

「ゲッ……あ、あ、アンタ、私に灼かれた記録(記憶)あるんでしょ、どうしてそんな平然としていられるのよ!」

「……もう仲間なのでしょう。彼も、貴女を望みました。一度結ばれた縁は案外、強いものです。リツカの味方なら、何も申し上げません。」

 

 

 迷子の少女のように視線を彷徨わせたジャンヌ・オルタは、逃げ出すように部屋の扉のもとまで早足で歩く。

 

 

「そ、そう…。この――――お、お人好しどもが……! コホン。ま、まあ、良いです。サーヴァントとして召喚された以上、力を貸してやらなくもないわ。」

「あ、待ってジャンヌ・オルタ!」

 

 

 制止の声をあげて、部屋の番号と地図を手渡す。

 後でシミュレーションルームに来てくれるようにお願いをして、彼女はそれを嗤って、けれどもやや目を泳がせながら最後には強引に承諾の言葉を貰った立香は笑顔で手を振って見送った。

 彼女が召喚ルームからいなくなると、立香は安心したように肩から力を落とした。彼もまた、恐怖を感じながらも彼女を救いたいと願いがあったのだ。

 だって、理不尽だった。あんなのは理不尽だと思ったのだ。サーヴァントとして生きた時間は、泡沫の夢のように短く、当たり前にあるべきはずのジャンヌ・ダルクとしての想いもなく、憎悪に身を焦がすことは。

 そうあれかしと願われて誕生して。世界に憎悪を抱きながらも様々なことを知らぬ、純粋な少女のままだった。世界を見せたかった。願いを持ってほしかった。救われてほしかった。

 エゴだ。ただのエゴだってわかってる。だけど、一緒に成長できる仲間が増えたのは純粋に嬉しかったので、立香は彼女のマスターとして怖がりながらも直球にぶつかるのだろう。困難だらけだろうけど、一緒に越える往く仲間が居るから、頑張るよ。

 立香の中にマスターとしての自覚が芽生えつつある中、ちらりと覗き見た少年の横顔にマシュも拳を握り締めて「はい」と言葉少なに応えるのであった。

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