綾小路以外記憶ありの場合   作:味噌汁豆腐

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お久しぶりです。文章のクオリティは安定しない(定期)

言い訳はあとがきで。

それではどうぞ


模倣

私は芸能活動を続けてきた。そして良くも悪くも、私は芸能界という世界で生きてきた。時に自己成長で悩み、時に批判で苦しみ、時に枕営業を断り窮地に立たされながらも勉強して業界にしがみついてきた。決して綺麗とは言えない、そんなやり方でこなしてきた事も少なくはなかった。そんな私にある日、奇跡が舞い降りる。いつも通り、自室で眠りについたはずが、目を開ければそこはバスの中。そして知る。私の第二の人生が始まっていることに。

 

高校時代の限りなく苦く切ない思い出が頭を埋め尽くす。たった一つの後悔すらも。ひと時も忘れたことはない。それが私にとって唯一の行動理念。私を今日ここまで突き動かした原動力。

 

淡い希望と懐古による記憶の風化。いつしか私にとって記憶は思い出と成り果てていた。けれど今日で理解する。それが、思い出であり記憶ではないことを。私が思い出で思い描いた優しい彼が本当はどのような人間であったか。あの日、目の前の君がどんな思いであの決断をしたのか。それが分かってしまったのは、経験故か、重ねた年齢故か。どちらにしろ、私は良くも悪くも大人になってしまったのかもしれない。私らしくはないが、努力の賜物と言ったところだろうか。

 

そんな私の目に映る好きな人は今、きっと何も思ってはいない。そしてあの時も。勘違いしないでほしいのは、別に私は、未来の出来事を今の君に押し付けるわけでも、恨み言をぶつけるつもりもないということ。あの場での私はそれが正解だとわかっていたし、それを清隆君のせいにするつもりはない。あの時の私は力不足で、ちっぽけな一人の人間だった。君の隣にいる資格はなかっただけ。私が去った後、君の隣にいたのは誰だったのだろう。軽井沢かな?それとも一之瀬さんかな?この答えを知ることなどもう二度とできはしないのだろうけど。

 

君はあの時本当に私がいらなかったんだね、とさみしく思うのと同時に自分の無力さを実感してしまう。それが無性に悔しい。役に立ちたかった。そして君の隣に居たかった。

 

 

彼女みたいに君に、選ばれたかった。

 

 

 

だから、やり直したい。今までをすべて払拭するほどの自分で。これまで培った自分の力で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「平田君!カラオケ行こ!」

 

「あはは、そうだね。ならみんなで親睦会開こうか」

 

「いいじゃん!それ賛成!みんなでカラオケ行ったほうが絶対楽しいよ!」

 

「だよねー、はーいカラオケ行く人―」

 

新学期、それも二日目というものは、常なれど非常である。これからはこの環境が日常となる。それなのに、この二日目にしてその土台、スクールカーストというものは決まってしまっているらしい。もちろん、それが確定するかどうかというのは本人次第ではあるのだが、大まかな立ち位置は決まってしまうのだろう。

 

その証拠に、クラスの親睦を深めると言う平田というイケメンがおり、そして多数のクラスメイトが彼の元に集まり、談笑している。それとは相反し、席に座り何も聞こえていないかのようにスマホに釘付けの生徒。つまりはクラスに馴染めなかった者たち。こうしてカーストは出来上がる。

 

かくいうオレも、その枠組みから淘汰された人間であることは言うまでもなかった。

 

「その仏頂面を直せばすぐにあの輪には溶け込めるのではないかしら」

 

「無理だな。たぶん一生治らない」

 

横から呆れたと言わんばかりにこちらを見る堀北に少しのユーモアを混ぜたつもりだったが、やれやれと頭を振られてしまった。

 

「顔は良いのに哀れね」

 

返す言葉に困る。褒めるのか貶すのかはっきりしてくれ。

 

「大体、あなた一人でも大丈夫な人間でしょう?」

 

「そうだが、せっかくの高校生活なんだ。高校生活といったら友達、遊び、勉強だろ?」

 

「その一昔前の少年誌まがいの価値観はやめたほうがいいわよ?のちに自分の首を絞めると思うわ」

 

意外にも堀北はジャンプを嗜むらしい。オレの貧弱なボケにも反応できる。少しショックだ。あれは男子高校生のロマンだと聞いたはずだが。誤情報だったか。

 

「そんな堀北はどうなんだ?友達、できたのか?」

 

「あら、あなたまだ出来ていなかったの?なおさら哀れね」

 

できて当然でしょう、と言わんばかりの辛辣さが俺を突き刺す。特に痛まない心を抑えるフリをしていると、堀北が手負い(仮)の俺に一つ大きなため息を吐く。

 

「そんな哀れなあなたに一つ教えてあげるわ。よく周りを観察することね。意外ともう友人ができているかもしれないわよ」

 

「...?どういうことだ?」

 

「よく考えることね」

 

堀北は少し微笑んで教室を出ていった。

 

「私は大切な友人ではなかったのかしら…」

 

廊下の曲がり角でふと立ち止まった堀北は、複雑そうに少し肩を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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よく周りを観察すること、か。観察、…堀北でもあんな優しい顔をすることもあるんだな、くらいしか思い浮かばないが。いくら考えても答えなどでないと分かっているので早めに諦め思考を放棄すると、後ろから足音を潜めている気配を感じる。

 

「だ~れだ?」

 

視界が突如塞がれる。耳から入ってくる声はよく通る声で、幾重に亘って練習した努力が垣間見える。ダメだ堀北、観察は特に意味を成さなかったみたいだ。

 

「けっこう大胆なことするんだな。佐倉」

 

「あはは、そうかな?」

 

そうして開けた視界に少し頬を赤らめる佐倉が映る。仕草の一つ一つが洗練されている。どうやらあの集団の輪には参加しなかったようで手持無沙汰なのだろう。赤い淵の眼鏡越しに綺麗な水晶が揺らめく。

 

「今日は眼鏡、つけてるんだな」

 

「うん、これがあるだけでも結構変わるからね。印象とか」

 

眼鏡を少しだけ下し、ウインクをしてくる佐倉。あざとい。

 

「そういえば!清隆君はカラオケいかないの?」

 

「カラオケ?」

 

呼ばれていない、とは口が裂けても言えないのでとぼけたふりをすると、佐倉が先ほどの人だかりを小さく指差しした。

 

「ほら、平田君たちが集まってるでしょ?みんなで親睦会しようってことで遊びに行くんだって」

 

「そうなのか。あまり行くつもりはないな」

 

正直、その行為にあまり魅力を感じない。親睦会とは言っても俺のように仲の良い知り合いがいない時点で肩身の狭い思いをするのは間違いないからだ。だから決して強がりとかではない。...強がりとかではない。

「佐倉は行くのか?」

 

「私?うーん、…私も行かないよ!あんまり人が多いのは得意じゃないから」

 

一緒だな、と軽く談笑していると、オレが親睦会に興味なさそうなのを見越してか、佐倉は口元を手で隠しながら耳打ちしてきた。

 

「ねぇねぇ、私たちこの後一緒にお出かけしない?」

 

「お出かけ?」

コミュニケーション弱者はお出かけ、と一言にいっても何をするのかわからない。つまりはその不安感からあまり乗り気が湧かないように見えてしまう。それは仕方のないことではある。オレだってただの人間なのだから。

 

そんな戯言を0.5秒で思考している間に、会話強者の佐倉はその意図をくみ取ったらしく、特にためらいなく口を開いた。

 

「そうそう、校内探索とかどうかな?」

 

上目遣いで口角を上げる佐倉。佐倉の存在はともかく、早めに学校の施設を知れるのは確かに情報として持っていて損はない。それが罠であろうとも。

 

「…オレも校内を見て回りたいとは思っていたところだ」

 

「決まりだね!」

 

ころころ変わる顔模様の裏側を推し量ることなど到底できはしない。軽く椅子を引く。佐倉はすぐさまオレの手を取ると、誘導するように引っ張ってリードし始める。早くいかないとみんなにバレちゃうよ、と目で合図してきた。

 

「行こっか!」

 

周りの視線も含めたうえで、従ったほうが賢明だ。変な噂を建てられるよりは気づかれないように立ち回ったほうが都合はいい。しかし、教室を出たはずなのだが、相変わらず手をにぎにぎとしている佐倉に

 

「あー佐倉?もう手は放してもいいんじゃないか?」

 

軽い牽制を含んだ棘を投げつける。

 

「…やだ」

 

無情にもその力なき声は軽く頬を赤らめた少女の一言にかき消されるのである。結局、その小さな声にあらがうことあらず、繋がれたままの手を振り解く勇気などなかったオレは佐倉との雑談に興じることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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校内を一通り歩くと、分かってくることもある。どこを歩こうとも監視の目が過剰に張り巡らされている。トイレなどプライバシーに関わる場所、必要のない部分以外には死角がほぼ存在しないようだった。

 

「やっぱりこの感じ、慣れないよね」

 

横から佐倉がおずおずとオレの顔色を伺う。佐倉にとってもこの状況はかなり特殊なようで、自分の価値観の普遍性を検証しかねていたオレにとってはかなり助かる発言だ。

 

「そうなのか?」

 

「うん。ちょっとここまでカメラを向けられると、ね」

 

少しだけ肩をすくめるジェスチャーだけすると、体を軽く伸ばす。佐倉にとって、どうやらカメラを向けられるのはあまり好ましくないらしい。

 

「緊張が抜けないから落ち着かないよ。ずっと気を張っていなきゃいけないもん」

 

「…そうだな。監視されているというのはあまりいい気分はしない」

 

「でもそれがこの学校の普通、なんだよね」

 

佐倉と目が合った。

 

「...そうなのかもな」

 

何気ないようにオレはそう応える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ここが職員室かな」

 

校内探索を始めて、数十分経っただろうか。見回れる場所は粗方見ることができただろう。コミュ力に自信のないオレだったが、適度に話題を振ってくれる佐倉のおかげで難なく過ごすことができた。

 

「ここで最後みたいだな」

 

「うん。確かに行き止まりだし、今日は人も来なさそうだね」

 

一つ不可解なことがある。オレは今日、初めて校内を散策した。もちろん、見たことのない場所をいくつも周り、その都度新たな発見があった。それは佐倉も同じはずだ。それにも関わらず、俺たちは一度も足を止めることなく、校内を回り切った。普通ならば今のように行き止まりに差し掛かり、同じ道を通り、幾度ない遠回りを経たうえでこの探索を終えるはずだ。さらにはこの広さだ。いくら校内マップがあるとは言え、ここまで完璧に回り切れるとは思えない。事実、俺たちは一度も地図を見ていない。

 

ここまで長々と何が言いたいか。つまりは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この行き止まりが佐倉の目的地ということだ。

 

 

来た道を戻ろうとしたその時、佐倉はオレの袖を掴んだ。

 

「佐倉?」

 

「清隆君はさ、きっと何かを隠してるよね」

 

そう断言した佐倉は、薄暗い赤色の照らす廊下で薄く微笑んだ。

 

「何のことだ?」

 

「別に誤魔化さなくていいんだよ?君が言いたくないならそれでもいいけど」

 

言わないのならばこちらにも手段があるとでも言いたげな含みのある言い回し。隠し事があると確信している、か、それとも何かを知っていての脅し、か。どうしたものか。ここで打ち明けるのは論外にもほどがある。そもそも話すに値しない信頼性である今の状況で自分以外に情報を話すことは即ち、あの場所への片道切符だ。それに余計な情報から敵を作りかねない。今は平穏な学校生活を求める以上、そのような行為は避けるべきだ。

 

「知らないな。たとえあったとしてもまだ話すような関係性でもない。そもそも誰にも知られたくない秘密ぐらい誰にでもあるんじゃないか?」

 

「ん~、それもそうだね!だったら、その内容は話さなくていいよ!」

 

思った以上にあっさり引き下がるな。何かを確信している以上、わざわざ今、この場でその手札を切る必要はないと判断したか?思考を巡らすオレをよそに佐倉はその代わり、と人差し指をたてた。

 

「君の彼女にしてほしい、かな」

 

少し頬を赤らめて、佐倉は演技に勤しんだ。異性の喜ぶ魅せ方を理解したうえでの行動。確信犯だ。発言の真意を読み取るにはこの佐倉愛理という人物を知らなすぎる。情報がブラフかわからない今は完全に相手が上手だ。

 

「断るとしたら、どうするんだ?」

 

「もちろん、今でなくともその時になったらその秘密を大公開しちゃうかも?」

 

隙を見せぬこの状況。一度の間を置き、膠着した空気を断ち切るように佐倉が口を開いた。

 

「君にも特典はあるよ?これは私の言いなりになれ、って言ってるわけじゃない。彼女、つまりはあくまでも協力関係、パートナーだよ。私としても清隆君と相対したくはない。だから二人で平穏な生活を送ることに対する等価交換。もちろん、裏切られる可能性を含めたら補足を設けて、根回しするのは当然だよね?」

 

ただ、協力関係を築いてもそれが裏切り一つで壊れてしまうようなものならばその関係に意味はないと言っていいだろう。だから裏切られないように条件を設けた。実に合理的だ。

 

「清隆君が欲しいのは平穏な生活だよね?なら私がその手助けする。どんなことにも使ってくれて大丈夫だよ」

 

「そんな簡単に言っていいのか?仮にもオレが卑猥な命令をしたら、佐倉はそれに応えるのか?」

 

「えっ、清隆君はそういう命令するの?」

 

素っ頓狂な声で放たれたその質問に一瞬お互いの時間が止まる。思考が再起動するまでに時間がかかった結果、ひねり出されたオレの返答は。

 

「い、いや。しないが」

 

目を丸くする佐倉に調子が狂う。あまりにも危機管理が薄過ぎる。予想外の反応過ぎてドキマギするオレにくすっと笑うと佐倉は口を耳元まで近づけてきた。

 

「私はそういう命令でもいいよ?君が望むなら」

 

その発言は思春期の男子高校生には甘美な毒過ぎる。かといって揺らぐわけではない。オレの中にあるのは絶対的な安心と腹黒い思考の数々だけだ。

 

「それじゃあ、この契約受けてくれるよね?」

 

特に反論もないことを見越して、話を切り上げ、笑顔で差し出される手には、断ったらどうなるかわかっているよな?という意が込められている。そしてここで断る選択肢などすでに存在しない。そしてそれにあらがう必要もない。ただ流されるままに。それでいい。その右手対し、オレの右手を差し出す。

 

「わかった。よろしく頼む」

 

「うん、よろしくね」

 

しばらくはこの関係は続くことになるだろう。しかし、問題はない。

 

「なぁ、佐倉」

 

「愛理って呼んで。恋人でしょ?」

 

「愛理、聞きたいことが、…いや何でもない」

 

一度、出かけた質問は喉を通る前に霧散した。これは蛇足であるとオレが判断した。佐倉が応えてくれるとは到底思えない。普段の雰囲気に戻った佐倉のその姿に少し戸惑いつつ、ふと思う。オレは佐倉愛理という人物を知らない。この二日間で見てきた佐倉愛理とは全く別の印象を受ける。それは狡猾さや、準備の良さ、節々に表れている。でもなぜだろうか。俺にはその「よろしく」という言葉が本当であり、嘘であるような気がした。この表裏の顔はどこか誰かを演じているような、そしてその二つとは別の何かがある、そんな漠然とした予想。それらはすべて直観に過ぎない。

 

「それじゃあ、今日はもう遅いし帰ろっか!」

 

「…そうだな」

 

オレの腕に身を寄せて帰路を歩く佐倉を横目に、荒れるであろう今後を見据えて、この関係が何も起こらないでほしいと願わずにはいられなかった。

 




恋愛を前に押し出すつもりはありません。ついでにヒロイン的ま一人を決めることもしません。環境による多少の違いはありますが綾小路目線での物語の本筋は原作から大きく変えるつもりはありません(釈明)恋愛はもう一つの方で頑張ります。投稿エタるのは許してください。


時間は空くかもですが、お許しを。



言い訳としては新刊出るたびに本筋書き直さないと完全な齟齬が生じて、詰む詰むがフィーバーするので時間がかかるのです。新刊待ってから書かずにとっとと、話進めて設定貫けばよかった。だって原作想定外すぎるもん(泣)

ということで原作2度書き系小説として頑張ります。きっと、たぶん。

一話間の長さについて

  • いつも通り短くあっさりとした文量で
  • 一万文字程度でがっつりとした文量で
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