鬼滅の刃 とある一剣士の物語 作:鬼滅ニワカ侍Part2
原作が優しい主人公なので、私は無慈悲にいきます。
雪が降る。厚くて黒い雪雲で太陽は隠され、氷の結晶が降って積もる。一歩踏み出せば、ぼふりとなって足跡が残る。子供ははしゃぎ、犬は雪に警戒し、猫は寒空の下には出て来ない。なーんて事のない雪の日。
ぼふり。ぼふり。歩みを進める音がする。しっかり踏み締めて進む。雪の厚さは
歩いているのは黒い着流しを身に纏い、その上から羽織を着ている。頭には三度笠を被り、正面からはその表情は見えない。時折三度笠に積もった雪を
剣士は雪積もる道を歩いて行く。目的があるのか、無いのか。はたまた旅をしているのか。何も判らない。しかし判るのは、廃刀令が敷かれて30年近くが経っている今、この剣士の存在は法に触れる者ということだ。
さて、黒い着流しの剣士は何が目的なのか。それは割とすぐに明らかになった。自身が付けていく足跡とは別に、降る雪が積もって消えかけている足跡があった。それを見つけてからはその足跡を追っていく。追えば追うほど足跡は新しくなり、より明瞭に見える。そしてその足跡とはまた別に、血痕がチラホラと散見した。
誰かが野獣に襲われた?普通はそう思うだろう。だが剣士は違った。獣の仕業ではないと知りながら血痕と足跡を追う。やがて何かが倒れ込んだのか、深く抉れている部分を見つけた。そこからはより多くの血が流れている様子。
歩いて、足跡を、血の跡を追う。すると剣士は見つけ、聞いた。何かが何かを口に運び、貪り食らう音。生々しい音だ。実に不快だ。剣士は三度笠で表情が見えず、顰めているのかどうかも判らない。
「……っ!──────なんだァ?きひっ、きひひっ。餌だ。餌が向こうからやって来やがった」
「……………………。」
「おいお前。逃げるんじゃねーぞ?ま、逃げても追いかけて食ってやるけどなァッ!」
「……逃げる?」
疑問。何から逃げるというのか。庶民らしき人を血に染めて、その肉を貪り食って狂ったような笑みを浮かべる、この存在からか?それはおかしい。何故なら、剣士の目的は最初からこの人を襲う存在……鬼だからだ。
血が混じる涎を垂れ流して、目を血走らせ、鋭い爪がある手の関節をばきぼきと鳴らす。鬼にとって目の前に佇む剣士は餌だ。食糧だ。獲物だ。だから振り向いた状態から立ち上がり、膝を折って足の筋肉を隆起させる。
足元の雪を吹き飛ばしながら、脅威的な速度でその場から跳躍した。人にはまず見えない速度。見た目よりも力が強い鬼の魔の手が、剣士に向けられる。が、鬼が鋭い爪を振り下ろして剣士の命を奪うよりも先に、剣士は鬼の背後に居た。
「っとと……ぁあ?テメェ……どういうつもりだ!?」
「どういうつもりとは?」
「何避けてやがんだって言ってんだよッ!」
「避けたのではない。斬っただけだ」
「斬ったぁ?──────あえ?」
視界がぐるりと回った。どさっという音を聞いて転がっているようた。やがて動きは止まり、見えたのは頸から上がない自身の体だった。あれ、斬られてる。いつの間に。どうやって?そう疑問に思った時には既に、肉体の崩壊は始まっていた。
「ぅ……あ……ぁあああああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッ!?なんでッ!何でだッ!?どうやってオレをッこんな……ッ!」
「おかしな事を宣う鬼だ。寄って斬る。それで全て事足りる。お前はただ、私に斬られて死ぬんだ」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だッ!!!!」
「叫きたいなら好きに叫け。死ぬことに変わりはない」
「ぁ……ぁ…………──────」
鬼の体が崩壊する。空気に溶け込むように、一切止まることなく崩れ落ちていった。頸を斬ることで、鬼は死ぬ。ただし普通の武器で斬っても意味は無い。ある特殊な鋼を使った武器でないと、鬼は殺せず、再生してしまう。
つまりそれは、この剣士の腰に差した刀が特殊な鋼で作られていることを意味する。鬼は剣士が刀を抜いたところを見ていない。いや、見えなかった。足運びも、何もかもがいつの間にか終わっていた。寄って頸を斬る。それで全て事足りる。当たり前のことを、当たり前にやっただけ。剣士はまるで何も無かったかのように歩き出す。
傍に無惨にも食い散らかされた死体があっても、一瞥もしない。死ねばもの言わぬ糞の詰まった肉袋。会話はできない。鬼らしき存在が居なかったか聞けない。ならば用は無い。自身には到底関係無いのだから、転がしたままにしていればいいのだ。
「──────鬼の気配がするな。もう少し、歯ごたえのある鬼だと良いのだが」
「──────はい、お団子できましたよぉ」
「あぁ。ありがとう」
「お茶もどうぞぉ」
「貰おう」
町の中の団子屋。そこに剣士は居た。店主の老人から3色団子を受け取り、お茶を手渡される。左腰に刀は無く、背中に箱を背負っていた。恐らく、この中に刀があるのだろう。廃刀令があるため、町中で刀を下げていれば警官を呼ばれて捕まってしまう。それ故の対処と言えよう。
剣士は団子を手に取って口に運ぶ。上から薄紅色。白。緑の3色。口に含んで噛めば、ほんのりとした甘い味が広がる。お茶は少し苦めで、これまた団子と相性がいい。2個ほど団子を口に運んでお茶を飲み喉を潤しながら胃に流し込む。食べて流し込むを繰り返し、皿の上は串だけになった。
ふぅ……と息を吐けば、老人の女が皿を下げに来た。美味かったと伝えれば、線だらけだが優しげな顔をニッコリとさせて笑い、それは良かったと返した。陽の光を浴びて体を温めた剣士は、なぁ……と言って三度笠を被ったままの顔を振り向かせながら老人に問い掛けた。
「ご老人。此処らで妙な噂があったりはしないか」
「妙な噂……ですか?」
「あぁ。人が消えたとか、行方不明だとか、そんなものだ」
「そうですねぇ……あぁ確か──────最近
「……ほう」
その話、もう少し詳しく聞かせてもらってもいいか?ご老人。
「──────やだもう喜朗さんったらっ。ふふ」
「いやいや、だって貴江さんが──────」
「よォ──────お楽しみのところ悪いが、オレも一緒に楽しませてくれよ」
「な、なんだアンタ!」
「ヒヒヒ……なァに。腹が減って仕方ねぇ、わるぅい鬼様だよ」
「がッ……ッ!?」
月明かりが差す夜の時間。暗い辺りを照らすための明かりを持って歩く男女が話に花を咲かせていると、どこからともなく現れたのは、
しかしこの現れた男の中央より右の顔には、目尻と口端の間にもう一つの目が合った。3つ目の目はずっと忙しなく常に動き、男がニタニタと嗤うと嬉しそうに弧を描く。
気色が悪く異形の男に、相対した男は恋人の女を守るために前に一歩出て庇い立てるようにした。それを見た痩せ細った男は尚のこと笑い、その場から消えたと思う速度で接近して細く痩せている腕を男の胸に突き刺した。
背中にまで抜けた腕。手には鼓動を刻む心の臓腑。内部の血液を懸命に吐き出している。人は理解の外にある現象を目にすると声すら上がらなくなるらしい。その証拠に女は恋人だった男が死にゆくのをただ呆然と見ていた。
腰が抜けたのか、その場に座り込む。いや、へたりこんだと言った方が正しい。呆然とした表情のまま血の気が引いていく。明かりは地面に落ちてしまい、蝋燭が消える。ほの明るい月明かりしか頼りにならず、女は血の気の失せた顔で恋人の男が倒れ込み、痩せ細った男……鬼が抉り取った心臓に口を付けて血を啜り、果実のように齧り付くのを見ているだけ。
これから自分もこうなると察せられるのに、足は動かない。腰を上げることができない。声が出ない。喉がヒクついて麻痺したようだ。どうすれば、何をすれば。逃げればいいのに正常な判断ができない。
「ひひひっ。だーいじょうぶだ。お前も一緒に食ってやるからさァ?仲良く食べられて死にな」
「……っ………っ…………」
「──────ご老人の言う通りだったな。夜になると人が消える。もっとも、消えたところには大量の血痕があると言うのだから、犯人は実に頭が悪い」
「ぁあ……?なんだお前……鬼狩りかッ!?」
砂利を踏み締める音が聞こえる。少しずつ近づいてくるそれが、塀の影から現れて月明かりを浴びる。黒い着流し。黒い鞘に入った刀。そして顔が見えない三度笠。浪人に見えるそれだが、鬼は明らかに鬼である自分を求めて現れたことから鬼狩りの一派だと当たりをつける。
しかし剣士はその問いに答えず、ただ歩みを続けるのみ。じゃり……じゃり……とゆっくりと近づいてくる剣士に、鬼は何だか薄気味悪いものを感じ取った。なんだか、コイツは普通じゃない。人を食らった後の後始末はおざなりで、頭も良くないがそういう勘は役に立っていた。だからこれまで鬼狩りに遭遇することがなかった。
鬼は考えるのが苦手だった。だから手っ取り早く人質を取ることにした。腰を抜かしている女の頸を掴んで無理矢理立たせ、もう片方の手で顎を掴む。正面を向かせて剣士に見えるようにすると、恐怖を煽るように頬を細長い舌で舐めて涙を流させた。鬼狩りも人。こうすれば簡単には踏み込んで来まい。その勘は正しかったのか、剣士の足が止まった。
「ひっひひっ!そうだ、止まれ。じゃないとコイツの顔を少しずつ噛み千切っていくぞ」
「ぁ……た、たすけ……たすけて……っ」
「頭は悪いが馬鹿ではないらしい。だがそれは意味がない。確かにそこらの鬼狩り達ならば有効かも知れんが、意味がないと、その手はとことん意味がない」
「……なに?鬼狩り達……?お前鬼狩りじゃ……っ!」
「──────寄って斬る。それで全て事足りる。人質は……私には関係ないな。その女のことなんぞ知らん」
「こ、コイツ──────
「な……んで……わた……しも…………──────」
いつの間にか剣士は人質の女と鬼の背後に居た。風も無く、足音も無く、ただ目の前に居たというのに消えて背後に居た。そして斬っていた。鬼の頸を確かに。だがそれは人質ごとだった。人質にされていた女の頸もまた、同じく斬られて宙を舞った。
生命力が強い鬼は、頸を斬られても崩れ去るまでの間意識を保っている。自身が頸を斬られて死ぬことは確定しているが、まさか全く関係無い人質まで斬るとは思わなかった。驚きの表情をした後は、これから死ぬことへの恐怖で顔を歪める。死にたくない。そう口にしようとしても、下顎が崩れて声が出ない。
涙が溢れて泣こうと、体の崩壊は止まらない。剣士はただ見下ろしていた。三度笠に遮られて見えなかった目が見えた。その瞳はどこまでも冷たく、冷徹な視線で、崩れ去っていく鬼を見下ろし、見下していた。
「恨むなら、この場に居合わせて人質にされた運の悪い自身を恨むんだな」
信じられないと言っているかのような表情で固まる、人質にされただけの女の生頸に、そう言葉を吐いて歩き出す。頸がなくなって倒れ伏す女の死体を何でもないように跨いで超えていく。どこまでも興味が無く、どこまでも冷徹。だがそれ以上に強い。
裏の世界で人間と敵対する鬼を狩る鬼狩り……通称鬼殺隊。この剣士はそんなものには属しておらず、バックアップも受けず、日本国中をゆらりと旅しながら気ままに鬼を斬り殺していくただの剣士。恨みはなく、憎しみはなく、斬りたいから斬っているだけ。だがそこに鬼だからという理由は無く──────剣士は人も斬る。
剣士は強く、無慈悲で、平等だった。それ故に冷徹の猛者。邪魔をすれば人であろうと躊躇いなく斬って殺し、鬼が居るところへふらりと現れる。一体何者なのか。何故そうも冷酷非道になりきれるのか。そんなものは関係ない。
鬼の祖の元へ、ゆっくりと剣士の凶刃が近づいている。
剣士
黒い着流しを身につけ、黒い鞘に納めた刀を左腰に差している。町などに入る際には適当な箱を見繕って刀を中に入れて持ち運ぶ。
日本国中をゆらりと旅しながら、気ままに鬼を斬り殺している謎の存在。鬼を殺すことを生業としている鬼殺隊には所属しておらず、あくまで個人的にやっている。
人質を躊躇いなく殺す冷酷非道な一面を持っている。