鬼滅の刃  とある一剣士の物語   作:鬼滅ニワカ侍Part2

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第10刃  柳流剣術

 

 

 

 

 

「──────あなたは何かしらの方法で、死にかけた人の命を救う事ができるっ!」

 

 

 

「…………………。」

 

 

 

「お願い……お願いします。何でもします……何でもしますから、どうか私の姉を……姉さんを助けてください……お願いっ……します……っ」

 

 

 

「…………………。」

 

 

 

 土が付こうが関係無く、土下座をして柳に頼み込むのは胡蝶しのぶだった。上弦の弐であった童磨と殺し合い、善戦する事もできず終始翻弄され続け、挙げ句に今死にかけている胡蝶カナエを助けてくれと頼み込んでいる最中である。

 

 知っての通り、柳は剣士である。単独で上弦の弐を殺すだけの強さを持つ稀有な存在。しかし決して医者ではない。透ける視界を持ち、体内の状況を事細かに視ることができるが、だからと言って医者のように手術をできる訳でもない。

 

 そして柳は善人とはかけ離れた人物である。他人がどうなろうと、それこそ目の前で襲われていようが犯されていようが殺されようが、一欠片も興味を抱かない冷酷なまでの平等さを持つ。カナエが目の前で死にかけている今も、こいつはあと数分も経たず死ぬな、としか思っていない。

 

 どこまでも冷めていて、他人に興味がない。もしカナエに特別性があるなら話は別だが、『柱』であること以外に特別なこともなく、また自身に得することを齎してくれるわけでもない。つまり、居なくなっても何の支障もないのだ。だが足を止めた理由は、もう少し何かを斬りたいと思っていた感覚が残っていたからだ。

 

 

 

「お願いします……お願いしま……ゔっ」

 

「確かに、私なら()()助けられるかも知れんな。しかし全く気が進まん。お前の姉が此処で野垂れ死のうが私は興味がなく、何の支障もない。得するのはお前だ。私には何もない。さてどうするか」

 

 

 

 土下座したまま懇願するしのぶの近くまでやって来た柳は、彼女の頭に手をやって髪を鷲掴むと顔を無理矢理上げさせて上から覗き込む。琥珀色の瞳と視線が合い、息を呑む。無機質で、自分達に一切の興味を抱いている色がなかったからだ。

 

 それでもしのぶは、姉を救いたい一心で必死だった。何としても柳に助けてもらいたい。だから、姉を助けてもらえるなら、自分の全てを差し出すと決めていた。心を壊されようが、肉体を弄ばれようが、最後の肉親を救うためなら何でもすると覚悟を決めていた。

 

 

 

「命以外の……私の全てを差し出します……だからどうか、姉さんを……っ!」

 

「ふぅん……?まあ、お前の命以外を貰っても囮ぐらいにしか使えそうにないが……まあいい。取り敢えずやってみるか」

 

「助けて……くれるんですかっ!?」

 

「黙れ。騒ぐな。お前は口を閉じて私に言われたことをただやればいい。一言でも余計なことを口走ればやめる。お前の姉は出血多量で死に、お前は私を不快にさせたことで頸を斬られて死ぬ。それで終いだ。いいな?」

 

「……っ……っ!」

 

「……では、姉の上半身を起き上がらせて、そのままの体勢を維持させろ。羽織は脱がせろ。邪魔だ。中の隊服は……それも邪魔だな。上は全部脱がせておけ」

 

 

 

 柳に言われて、しのぶは一言も喋ることができない。柳が殺すと言ったら、揶揄でも何でもなく正真正銘本当に殺す。姉は助からず、しのぶは頸を鬼と同じように斬られる。避けるなんて無理だ。防ぐなんて不可能だ。つまり、喋ることは死を意味する。

 

 柳に姉の裸体を晒すのは……と一瞬思ったが、命とどっちが大事なのか悩む必要がない。もう姉の死がそこまで来ている。動かすのはあまりよろしくないが仕方ない。しのぶはできるだけ余計な振動を与えないようにしながらカナエの羽織と隊服、中に着ている下着を外して上半身を裸にする。

 

 服を脱がせ終えたら、上半身を起こさせてしのぶは背後に控えて動かないように固定する。柳から胸を張らせて、腕は前に来ないようにと言われたので、言われた通りにした。童磨の扇子に斬られて胴体には深い傷があり、胸を反らせた事でまた血が流れ出ていく。

 

 鬼と命の奪い合いをしながらも、美しい肢体を保つ姉の肌は血に塗れ、柳に晒されている。男ならば見ただけで劣情を煽られてしまいそうになるものを前にして、柳は少しの間カナエの体を見やり、やがて半身となって腰を落とし、左腰に差した日輪刀の柄に手を置いた。

 

 斬るつもりだ。そう思って、しのぶは一瞬言ったことを反故にされたのだと思い、声を出しそうになった。しかし柳の方から異音がする。それは柳から初めて聞く、常中以外の呼吸の音だった。つまり、柳は本当に姉を救おうとしている。しのぶができるのはただ祈るのみ。カナエが救われるかどうかは、柳の剣の腕次第となった。

 

 

 

「すぅ……ふーッ……すゥ……シィイィィィ……ッ!!」

 

 

 

「……っ」

 

 

 

 鋭い呼吸の音。曰く、異彩の剣士柳は、呼吸の型を1度も使ったことがないという。その理由としては、育手の元で修業せず、独りで強くなったがために呼吸を教わっていないのだとか。だから呼吸を使わず、常中のみで鬼を狩っているという。

 

 誰も炎や水などといった型を使っているのは見たことがなく、その噂は真実味を持った。しかしこの日、しのぶは目にした。炎や水や雷、それらとはまた別の派生された呼吸、それらとも全く別で分類なんてできようはずもない、まさに神の如き絶技……神業というものを。

 

 

 

()() ()()()()……()の呼吸 壱ノ(わざ)──────死斬治(しきりなおし)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 琵琶の音が鳴る。何処からともなく、美しい音色が響いた。光景は変わり、居場所が不明となる。和を用いられた襖や建物が際限なく使われて存在する無限の空間。入口が無ければ出口も無い。永遠に続く異空間……無限城。

 

 誰にも辿り着けぬこの場所に、鬼が集められた。ただの鬼ではない。多くの人間を食らい、力をつけ、数字を瞳に刻まれた者達だ。十二鬼月。その上弦である。弐を除く5体の上弦の鬼が一カ所に集められるのは、実に100年以上ぶりの話。それはつまり、100年ぶりに上弦が殺されたということだ。

 

 壱、参、肆、伍、陸。全員が揃ったところで、互いに気配を探り合い、弐の童磨だけが居ないことに気がつくと、参は目を細め、肆は怯え、伍は嗤い、陸はどうでも良さそうにし、壱は黙していた。そんな彼等の前に琵琶の音と共に襖が現れ、鬼達は跪いた。彼等の前に現れたのは……鬼の大元。鬼の祖。真の鬼。鬼舞辻無惨だった。

 

 

 

「──────童磨が死に、上弦の月が欠けた。鬼殺隊の鬼狩りでもなければ、呼吸すらも使わぬ者の手によって」

 

 

 

「それは……返す言葉も……ありませぬ」

 

「ヒョッヒョッ……よもや童磨殿がやられてしまうとは!(わたくし)には想像もできませぬ!」

 

「………………。」

 

「む、無惨様!あの男を殺した奴はどんな奴でしょうか!?私が殺して御覧に──────」

 

 

 

「──────黙れ。黙れ。黙れ。黙れ。堕姫(だき)。私は今近頃で最も機嫌が悪い。私がいつお前に殺せと命令した?していない。そうだろう」

 

「ぅ……ぁ……はい……はいっ!申し訳ありませんでした!出過ぎた真似を致しました!お許しください!」

 

 

 

 豪華絢爛な着物を身につけて土下座をして謝罪する女の鬼。上弦の陸の堕姫。彼女の中にあるのは敬愛する鬼舞辻無惨への奉仕心。特徴を聞いたら自分が、上弦の弐を殺したという奴を殺してやると考えていた。しかし鬼舞辻無惨は機嫌が悪く、計り知れない重圧が全員にのし掛かる。

 

 鬼舞辻無惨は限りなく完璧に近い生物だ。傷はたちまち治り、永遠に近い寿命を持っている。姿形も自由自在に変えることができる。しかし唯一陽の下を歩けない。唯一の欠点である太陽を克服するため、青い彼岸花を探して1000年。未だ見つからず。

 

 太陽の光を克服するような稀有な鬼を生み出すために人間を鬼に作り変えて同じく1000年。それもまた達成されず。自身の後を延々と追いかけ続ける鬼狩りが鬱陶しく、全滅させろと命令しても、それもまた達成されず。最強の鬼(十二鬼月)12体を定めても、下弦はすぐに狩られ、上弦は少し『柱』を葬った程度で満足する。故に鬼舞辻無惨は──────

 

 

 

「私はお前達(十二鬼月)の存在理由が判らなくなってくる。何故青い彼岸花を見つけ出せない。何故鬼狩り共を殺しきれない。いいか、黒い着流しを着て三度笠を被った人間だ。何としても殺せ。これ以上私を不快にさせるな」

 

 

 

「「「「──────御意」」」」

 

 

 

 定められた。鬼舞辻無惨を不快にさせた人間を殺せと。雑魚の鬼でもなく、下弦でもなく、他でもない上弦の鬼に殺せと命じた。本来ならば絶望的なものだ。普通ならば逃げられない。殆ど殺されたようなものだろう。しかし相手は怪物である。

 

 鬼舞辻無惨は刻まれている。上弦の壱は焼き付いている。神に愛された剣の申し子を。数百年前に実在したとある剣士を。だが知らない。時代が進むにつれて鬼狩りの技術が劣っていった中で、この世界に生まれ落ちた悪魔のような人間を。

 

 神に愛された剣士に並ぶ、悪魔に創られた人間の、底すら無い悪意と進化を……まだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────そうかっ!そうかっ!!柳がやってくれたかっ!上弦の鬼、それも弐を単独で撃破してくれたかっ!素晴らしい!やはり私の目に狂いはなかった!生み出された不規則の波紋は確実に奴に……鬼舞辻無惨に影響を及ぼしているっ!変化だ……これは変化だよあまね!」

 

「お館様……あまり興奮されてはお体に障ります」

 

「柳に直接感謝を伝えたい!鎹鴉に柳を招集するよう伝えてくれ。そして柳の鬼狩りには出来うる限り助力するんだ!」

 

「わかりました。お伝えいたします」

 

「あぁ……鬼舞辻無惨……お前は必ず、私の代で葬り去ってやる……ッ!!」

 

 

 

 産屋敷の屋敷にて、産屋敷耀哉は横になっていた布団から起き上がらせて興奮した様子で妻の産屋敷あまねに話した。やはり柳と協力関係を築いて良かった。柳が生み出してくれた波紋は、必ず鬼殺隊にとって良い傾向になる。

 

 どちらにとっても毒になりうる切り札。柳を最大限バックアップをすれば、必ず道が開ける。産屋敷一族に代々備わる未来予知に似た直感、未来を見通す力の先見の明がそう感じ取っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 体が怠い。瞼が重いのに眠くなく、これまでで1番気怠い。起き上がろうとしない体はまず置いておくとして、重い瞼をどうにか持ち上げた。眩しい太陽の光が入り込んで視界が白くなる。眩しくて目を細めて、少しだけ目を開けてから徐々に瞼を持ち上げていった。

 

 映ったのは見慣れた天井。蝶屋敷の天井だ。何でこんなところに居るのだろう……と、ぼんやり思いながらぼうっとしていた。すると段々意識が明瞭になっていき、手が温かいことに気がつく。視線を下に向けると自身の手は違う手に包まれていた。更に視線を移すと、椅子に座って船を漕いで眠っている最愛の妹のしのぶが居た。

 

 

 

「……っ……こほっ……し、しのぶ?」

 

「すぅ……すぅ……んん……」

 

「しのぶ……こほっこほっ……しのぶ……」

 

「んんっ……ふわ……ぁふ……?姉さん……?」

 

「おはよう……しのぶ」

 

「姉……さん……姉さん……姉さん!姉さん姉さん姉さんっ!!」

 

「わっ……!?」

 

 

 

 手をぎゅっと握って名前を呼ぶとしのぶが起きた。目を何度かパチパチと瞬きさせると、綺麗な瞳に涙を溜めて勢い良く抱き締めた。この時にカナエは、上弦の鬼との戦闘で致命傷を受けてしまっており、抱きつかれた衝撃で傷が痛むだろうと体をビクつかせたが、痛みがないことに気がついた。

 

 カナエは自身の胸の中でポロポロと涙を流しながら強く抱きついてくるしのぶに、抱擁を返した。生きている。死んでいない。まだ一緒に居られる。そう実感すると段々とカナエの目にも涙が溜まってきて、ホロホロと涙を流し始めた。何で死ななかったのか、どうやって生き残ったのか聞く前に、愛する妹と生きていることを喜び合った。

 

 やがてどちらも落ち着いた頃、2人して目元を真っ赤にしながら互いに苦笑いして、固く握った手はそのままにしのぶが事情を説明した。カナエは重傷を超えて致命傷であり、幾何かの命だったこと。そこに上弦の鬼を斬り殺した柳が戻ってきて……言っても信じられないような呼吸を使ったということ。

 

 

 

『柳流 番外剣術……治の呼吸 壱ノ業──────死斬治(しきりなおし)

 

 

 

「──────その呼吸のお陰で、私は助かったのね」

 

「そうなの。もう気づいていると思うけど、姉さんの体の傷が塞がっているのは柳さんの呼吸によるもの。もっと正確に言うなら……──────柳さんが斬った箇所が完治してるの」

 

「……そんな呼吸があるのね」

 

「俄には信じられないと思うけど……私だってあれは夢か血鬼術だったんじゃないかって今でも思うの。でも姉さんの深傷は斬られた途端に塞がって治った。まるで最初から存在しないみたいに。でも全部治ったわけじゃない……」

 

「……肺ね」

 

「……うん。柳さん曰く、肺胞が凍って完全に壊死している部位はどうしようもなくて、斬り落として()()()()()()()()肺が元の大きさよりもかなり小さくなってるらしいの。だから……今まで通りの呼吸は使えない……もう、姉さんは『柱』に復帰することはおろか、走ることもできないって……」

 

「……そう。ふふっ、それなら仕方ないわよね!悲しんでも仕方ないわ!生きているだけ感謝しないと!それに剣士としてダメになっても、この蝶屋敷でできることはあるわよ。大丈夫!お姉ちゃんまた頑張るから!」

 

「姉さん……」

 

 

 

 傷は治せても壊死している肺の部分は元通りとはいかなかったらしい。柳でも無理なものは無理で、その代わりに壊死した部位は切除して残りの部分同士で繋ぎ合わせた。そのため肺が小さくなり、歩く分には問題ないが激しい動きをすると血中に必要な酸素を送り込めなくなり、意識を失うか呼吸困難で倒れるという。

 

 それならもう剣士としてやっていくことはできない。でもカナエは無駄に悲しまず、ポジティブに笑う。死んでしまったら元も子もないが、生きているならできることを探してやれば良いだけのこと。蝶屋敷でできることもあるのだから、そこまで悲観するべきではないと。

 

 思ったよりも悲しんでいないことにホッとしたしのぶに、カナエは柳が何処に居るか聞いた。助けてもらったのだから、是非ともお礼を言いたいと思ったのだ。幸いなことに、柳は今蝶屋敷に居るらしい。カナエの容体が悪くなってしまった時のために、どうにか頼み込んで居てもらったらしい。ちなみに、カナエが目を覚ましたのはあの戦いから2日後のことだった。

 

 

 

 

 

 

「まあっ!それなら柳さんのところに連れて行ってくれる?お礼を言いたいから!」

 

「でもまだ寝てた方が……」

 

「走らなければ大丈夫よ。傷だって治してくれてるんだもの。ね?お願~いしのぶ~!」

 

「分かった、分かったからしがみつかないで!もう、姉さんったら。……ほら、掴まって」

 

「うん。ありがとう」

 

 

 

 病み上がりなのでカナエはしのぶの腕に掴まりながらゆっくりと立ち上がり、病室を出て廊下を歩いた。柳は鬼を斬りに行けず、暇そうにしていたのでもしかしたら機嫌が悪いかも知れないから、変なことは言わないでねとしのぶに釘を刺されて、カナエはは~いと返事した。

 

 柳は蝶屋敷の広間に居るらしい。歩いていると目的の広間に辿り着き、2人でひょっこりと中を覗き込むと、縁側に座って中庭を眺めているようだった。傍には3色団子と食べ終わった串。お茶が入った湯呑みがあった。三度笠は外されて、後ろで縛られたポニーテール状の髪がそよ風に煽られてゆらりと揺れている。

 

 日輪刀も置かれていて、リラックスしてゆったりとしているようだ。何だか話し掛けづらい雰囲気だなぁと思っていた矢先、いつまでそうしているつもりだと声を掛けられてしまった。

 

 

 

「気配で判る。来るならさっさと来い」

 

「ご、ごめんなさい。あの、柳さんが私を助けてくださったんですよね。しのぶから聞きました。この度は……本当にありがとうございました」

 

「私も改めて、姉さんを助けていただいてありがとうございました」

 

「……筋肉の修復は問題なし。傷跡も残っていない。肺は正常。神経に問題なし。成功と言ってもいいか……。お前からの礼は要らん。お前の妹から礼は貰っているからな」

 

「貰っている……?しのぶ、柳さんに何をあげたの?」

 

「……私の命以外の、えと……全部」

 

「……へ?」

 

 

 

 ポクポクポク……チーン……という幻聴が聞こえるほど間を開けてから、しのぶの口から出たのは予想だにしていない言葉だった。まさかまさかの、妹は命の恩人に自身の全てを差し出していた。何でそんなことをしたのかと言いたくなったが、察した。恐らくしのぶは必死だったのだろう。

 

 そして柳が人を治せる呼吸が使えるのを知っていた。しかしタダでやってくれるような人ではないから、どうにか動いてもらうために交換として自身を差し出した。しのぶの顔を見ると、ほんのりとした苦笑いをしていた。気にしないでと言っているようで、カナエはむんっと気合いを入れると、勢い良く頭を下げてその場で土下座をした。

 

 

 

「私もこの救われた命を柳さんのために使います!どうかしのぶにばかり欲望をぶつけるのは勘弁してあげてください!しのぶはまだ体ができあがっていないんです!させるなら私に……っ!」

 

「ふぇ……ちょっ、ね、姉さんっ!?な、何を言ってるのよ!?」

 

「だってしのぶ、柳さんと……」

 

「そ、そんなこと()()頼まれてないから!勝手に勘違いしないで!」

 

「……まだ?頼まれる可能性が大いにあるってことでしょ?だってしのぶとっても可愛いもの!男の人ならしのぶみたいな可愛い子放っておかないわ!」

 

「~~~~~~~~ッ!!!!姉さんっ!!!!」

 

 

 

 柳を放って置いて勝手にヒートアップするカナエと、太陽が昇っている時間からなんということを言っているのかと、顔を真っ赤にしながら怒るしのぶ。命以外の全部を捧げたのだから、もちろん夜の相手をさせられると思っているカナエと、そうかも知れないけどまだ頼まれていないから大丈夫と言うしのぶがぶつかり合う。

 

 コイツらは勝手に何を言い合っているのかと思って首を傾げていた柳は、あぁ……そういうことかと納得すると傍に置いてあった皿から最後の3色団子を手に取って食べ始める。素朴なほんのりとした甘い味を楽しむと、湯呑みを持ってお茶を飲んで流し込む。

 

 いつまでも言い合っている胡蝶姉妹に、庭の小さな石を手に取って指で弾く。寸分の狂いもなく額に当たり、バチン!という大凡指で弾いたものが当たったとは思えない音を出して、痛みで転げ回る2人を冷めた目で見下ろしながら、しのぶに皿を差し出した。

 

 

 

「騒々しいから黙れ。胡蝶しのぶ、お前は早速働いてもらうとしよう。この皿を下げておけ。茶はまた持って来い。温度は人肌程度でいい。熱かったらお前の頭から掛けるからな」

 

「~~~~~~~っ!!は、はい。すぐに持ってきます……」

 

「胡蝶カナエ」

 

「痛た……あ、はいっ!」

 

「黙ってベッドに戻るか此処で斬り殺されるか、好きな方を選べ」

 

「……大人しく戻ります。ごめんなさい」

 

 

 

 すごすごと戻っていくカナエと、立ち上がってパタパタと皿を下げてお茶を煎れに行ったしのぶを見やって、柳は興味を失せたように視線を庭に向け直した。気配の察知で、自分専属の鎹鴉がこちらに向かっているのを感じて、なんとなくまた面倒なことを言ってきそうだと舌打ちをした。

 

 

 

 

 

 

『花柱』胡蝶カナエは『柱』を引退する事となったものの、生きて帰ることができた。しのぶの懇願によるものであり、柳の呼吸があってこそのものだった。

 

 

 

 

 

 






()の呼吸

柳が使用する独自の呼吸。炎、水、雷、岩、風のどの系統の呼吸も修めていないため、使う呼吸は完全に独自のものとなる。そしてこれはこれまでの呼吸とは常軌を逸したものとなった。

詳細は今のところ不明。ただ、柳が斬ると治る……らしい。
最近考えついて、できあがったようなので何回か試し切りをした。鬼殺隊の隊士を使って。もう完璧に我が物にしたので、柳はいつでも使えるらしい。




柳一心

鬼殺隊が必ず育手から学ぶ呼吸の型をどれも修めておらず、純粋な剣の腕のみで鬼を狩っていた人物。そのため、考えた呼吸はこれまでの常識を覆す代物となり、常軌を逸している。誰も見たことがなく、見ても現実のものとは思えない。血鬼術か何かなのではと言われる所以。

胡蝶カナエを救う代わりに胡蝶しのぶの命以外の全てを貰ったが、別に欲しかったわけではない。まあ何かあったら使うか程度の認識。そもそも鬼を斬るのに必要だとか思っていない。何せしのぶは鬼の頸が斬れないから。

治した手前、カナエにもしもの事があったらすぐに対応できるようにと、しのぶにどうしてもとお願いされてカナエが目を覚ますまで蝶屋敷に居た。たまにはゆっくりするのもいいな……と、縁側で陽の光を浴びてポカポカしながら団子を食べていた。けどもう鬼の頸斬りたい。特に上弦。






柳一心の個人的な欲望を満たすために、これといった理由もなく頸を延々と斬られ続ける憐れな生き物。この度、100年以上変わっていなかった上弦の鬼が死んで弐が欠けた。




鬼舞辻無惨

最恐におっかないパワハラ上司。余計なこと言うだけで殺される。

なんかエグい刀を使い、クソ速い動きで鬼を殺す悪魔みたいな人間に狙われている。耳飾りが無いし、ある呼吸を使っている訳でもないので意味がわからないが、目障りだからさっさと殺しておきたいという認識。




胡蝶しのぶ

姉を救ってもらうために、柳に命以外の全てを差し出した女。いつどんな命令をされるのか、柳のことをあまり知らないのでドキドキしている。まあ男の人なら女をいいようにできるとなればやることは1つ……覚悟は決めている。




胡蝶カナエ

肺胞が完全に壊死しており、切除するしかなかったので肺に問題を抱えてしまい、呼吸が使えるどころか走ることもできない体になった。『柱』はもう引退する事にし、これからは蝶屋敷で傷ついた隊士のことを診ていくつもり。

柳がしのぶに閨に誘おうものなら、代わりになろうとしている。しのぶの体はまだできあがっておらず、小さいため。
柳に助けてもらった命を捧げてもいいと言ったが、当の本人は別に要らないと思っている。わいわい騒がれるのが好きじゃないため。

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