鬼滅の刃 とある一剣士の物語 作:鬼滅ニワカ侍Part2
新年明けましておめでとうございます(遅い)
「さぁ──────どこからでも好きに来るといい。精々気張れよ?」
「えぇ。では遠慮なくいかせてもらいます」
胡蝶しのぶ。胡蝶カナエの実の妹であり、最近では鬼を殺す毒という前例の無い快挙を成し遂げた人物。そして現在鬼殺隊最高位の柱の位に就いており、唯一鬼の頸が斬れないという隊士である。
だがその代わり、体が小さいため軽やかな動きを得意としており、突きという部分においては鬼殺隊最速であるとされている。そんな彼女の移動速度もまた凄まじいものだ。なのに蝶のように軽やかであるというのだから、追いかけても煙に巻かれているように感じることだろう。まあ、今回は追いかける側なのだが。
対するは、鬼殺隊唯一の協力者であり、単騎で上弦の鬼、その弐を殺した柳一心。抜刀速度は神速そのもので誰も抜き放ち、納刀したところを目視できていないとされている。それどころか、彼女が移動したときを捉えられた者も居ないくらいだ。つまり、彼女は考えられないほど速いのだ。
しのぶはただこのゲームに勝つつもりはない。勝つにしても、柳の強さの一端でも盗もうとしているのだ。彼女は強い。上弦の鬼を殺せるくらい。だが同時に無差別と言えるくらい他者に対して平等だ。教えを請うことすらできない。ならばどうするか?見て、感じて、盗むしかないのである。これはその絶好の機会。逃す理由が皆無。
「蟲の呼吸──────
強烈な踏み込み。観戦している炭治郎、善逸、伊之助はしのぶの姿を見失った。驚愕し、次に目にした時には見ていた場所には既にしのぶは居らず、
最初から呼吸を使用しているというのに、真正面から不意をつけたと思ったしのぶだったが驚きはない。確かに軽々と避けられたのは驚きだが、それは予想の範疇。なにせ相手はあの柳一心だ。簡単に触れられるとは全く思っていない。
そして件の柳はというと、しのぶの背後で腕を組みながら余裕綽々とした様子で立ち、高身長なこともあって見下ろして眺めている。しのぶが遅いのではない。彼女は柱の中でも上位の俊足を誇る。これはただ単に柳が速すぎるのである。
「お前のその背丈と体格。小柄なことに加えて呼吸をある程度修めていることもあり、更には
「聞いていますよ。柳さんは他者の身体を透かして視ることができるんですってね。なら、筋肉の動きから次の動作が何なのか予測することができるはず。自分で言うのもなんですが、私は柱の中でも速い部類です。ましてや今呼吸も使いましたので、ほとんどの方は私の姿を捉えられないでしょう。でも柳さんには全く通じなかった。それに、それだけじゃない。見切れても、私の背後をこんなに容易に取るんです。柳さんは単純に
「私からすればお前達は遅すぎるくらいだがな。それで?そこまでわかっていながら続けるつもりか?万に一つもお前が私を捕らえられる道理はないが?」
「私は結構負けず嫌いなんです……よッ!!」
呼吸を使ったとき同様強烈な踏み込みで、振り向きざまに柳を肉薄にする。が、接近しても姿が掻き消える。まるで消えたように見えるのではなく、本当に忽然とその場から姿が消えるのだ。一切目を逸らしていないのに姿がなくなる。バグのような動きをする柳に、それでもしのぶは諦めなかった。
気配の察知はしのぶも高い精度を誇る。伊達に柱をやっていないのである。それを最大限駆使し、柳が消えた瞬間次に気配がする場所に向かって駆ける。見るよりも先に体を動かす。しかしそれでも柳は捕らえられない。
観戦している者達からしてみれば、現れては消えてを繰り返す不可思議な動きの柳に迫る、恐ろしく速いしのぶという構図。見ても参考になる動きはしていない。この場で、しのぶの動きが目で追えているのはカナエだけである。
「どうした?それがお前の最速か?こんなことを延々と繰り返しても進展せんぞ。というより、私はもう飽きてきたんだがな」
「ふ────ッ!まさか、これからですよ」
──────と、言ったものの流石柳さん。本当に初動を捉えることすらできない。こんなに速く動く人は初めて。まるで手が届く気がしない。それに私の体の、厳密に言えば筋肉の動きで次の一手が常に先読みされている状態というのもつらい。視界を遮っても無駄だとすると……視界に映らないようにするしかないっ!
「全集中 蟲の呼吸
目にも留まらぬ速度……そう形容できるだろう十分な速度を保ちながら柳の周囲を囲うように移動する。柳はまだ動かない。接近してこないからだ。向かえば逃げられる。視界に捉えられているからだ。そうなると筋肉の動きで次の動きがバレる。だから見えない位置に移動したかった。
呼吸を使ったのはひとえに、あたかも接近すると思わせて周囲を回り、視界の死角に入り込むため。見てもいないものを透かす事はできない。確かにそうだ。道理である。しかし柳にはまだ手はある。それは気配の察知能力。広範囲に高精度の気配の察知能力を有しているため、どこに誰がいるのか目を瞑ってもわかる。
見れば透けて次がわかり、目を閉じても気配が全てを教えてくれる。体調から大凡の思考情報。感情まで察知できる。だからしのぶが狙っていることも、また気配から読み取れてしまう。が、しのぶもまた、気配からある程度の動きが読み取れることを知っていた。
──────柳さんのことをどれだけ見てきたと思ってるんですか!鬼殺隊の中で、最も近くで長く傍に居る自覚がある私が、ただ近くに居るだけだとでもっ!?行動の癖や好む動き、何を考え何を思うのかつぶさに観察させてもらっていましたよっ!だから……っ!
「ふ───ッ!蟲の呼吸
「は、死角から撹乱させる動きをさらに加えて近づこうと……む」
ほぼ真後ろの位置。そこから訓練場の床を弾き壊す程の踏み込みを経て繰り出される超速度に、ムカデの動きのような四方八方への方向転換を加えて接近する。しかしそれは結局柳の気配察知によってバレている。見ずともわかる。だから余裕綽々と避けようとして、耳が何かの音を聞いた。
しのぶが高速で近づく中、彼女はせっかく死角に回っていたというのにわざわざ正面に出てきた。かなり近い。あと少しで触れられてしまう。なのに背後にも横にも避けなかったのは、柳が耳で聞いた風を裂く音を聞いたからだ。その正体は注射器。柳の左右と真後ろ。更には真上から落ちてきている。
真上からの注射器は正確に柳の脳天を目指して落下してくる。真後ろのものは背中。左右のものは……超速度で移動した際にちょうど当たるかも知れないという絶妙な位置。しのぶが観察してどうにか割り出した、少しの回避で柳が移動する距離だ。そこに注射器を投げておいた。
なるほどと思った。鬼ごっこをすると言ったが、柳はそこにどんな手を使ってもいいとも言った。だから何かしら使うのではと思ったが、注射器を投げつけてくるとは思わなかった。まあ言った手前反故にするつもりは毛頭ないが、よくできた道筋だと感じた。
「う、うおおおおおおおおっ!?しのぶが真っ黒ヤロウに触れそうだぞっ!?」
「お、音が……どっちの音もこっわ!?てか柳って人の音こんな状況でも全く変わんないのどうなってんのっ!?死体!?死体なのっ!?」
「コラ善逸!柳さんに失礼だろ!?」
「だってぇぇぇぇぇぇぇ……」
「「「頑張れしのぶ様っ!頑張れーーーっ!」」」
「頑張ってしのぶっ!あと少しよっ!」
「はあぁああああああああっ!!!!これで……っ!」
「──────柳流番外剣術 無刀
活人剣として存在していた柳流剣術は、柳の凄まじい才能により本来の殺人剣としての能力を蘇らせられている。しかしその型の中に当てはまらず、柳が独自に編み出した型が番外剣術。その番外を、刀を使わず用いるので無刀。
引き寄せ、斬り裂く。それを周囲全体を巻き込んで行われる。上記で記した通り今の柳は刀を持っていない。なので行うのは手刀だ。手刀なのだがその威力は生半可なものではない。刀ならば周囲の離れたところまで斬撃が届いただろうが、あくまで手刀なので周囲数メートルが限度。だが今はそれで十分すぎた。
注射器は引き寄せられたあと、2撃目の衝撃が撃ち込まれて粉々に砕けた。しのぶは訳がわからないまま引き寄せられたかと思えば、腹部に重い殴打を入れられのではと錯覚する衝撃を受けた。そして吹き飛ばされる。観戦している者達にも、軽く衝撃の余波が届いて顔を腕で守り、視界を遮る。
見えない状況で、どすんと音が聞こえた。その音は吹き飛ばされたしのぶが壁に背中から叩きつけられる音だった。次いで、かはッ……と苦しそうな声が聞こえたかと思えば、また同じく苦しそうな声が聞こえてきた。衝撃が止み、腕を外して前を見れば、うつ伏せで倒れているしのぶの背中に腰を下ろし、彼女のことを見下ろす柳が居た。
「ぅ……ぐ……っ!」
「注射器を使い逃げ道を潰すのは良かったが、あれでは明らかに本数が足りんだろう。横へ避けるにしても速度を上げれば回避は十分間に合う。屈むのもまたよし。そもそも1本しか来ないならば手で取ることもできる。気分で今回は乗ってやったが、詰めが甘い。私の視界と気配の察知能力の精度を知っているからこその手だろうが、良くはないがそこまで悪くもないと言ったところか」
「〜〜〜〜〜〜ッ!はぁ……わかり、ました……から、退いて、ください……っ」
「小柄なせいで座り心地が良くないな」
「座り心地が悪くてごめんなさいねぇ……ッ!」
額に青筋を浮かべながら穏やかな笑みを浮かべるという矛盾した表情をするしのぶに背を向け、さっさと訓練場を後にした柳。少しでも優しい心があれば、なんだかんだ灼刀の鍛錬をつけるのだろうが、勝負で柳が勝った以上教えることはしない。教えるのは、しのぶが勝った時だ。
「はぁ……やっぱりダメだった」
「惜しかったわね、しのぶ。あともうちょっとだったのに」
「姉さん、わかってて言ってるでしょう?まったくダメよ。柳さんはあまりに速すぎるわ。姿が視界の端にも映らない。一体どんな速度で動いてるのよ……。それに、柳さんの使う剣術……凄まじいわ。ただの手刀であの威力……刀を持っていたら私なんて真っ二つは避けられなかった」
「ふふふ。さすが柳さんね。それで?しのぶは諦めるの?」
「まさか。私、諦めが悪いの。それに負けず嫌いなのよ?柳さんには悪いけど、諦めることを諦めてもらうわ」
「それでこそしのぶよ!」
「ちょっとっ、姉さん!もう……」
カナエは見ることしかできない。十二鬼月の上弦の弐に負わされた傷がこれから先の人生に制限をかけた。走ることもできないし、全集中の呼吸も満足に使えない。剣士としてのカナエはもうあり得ない。しかし見るだけならばできる。だから柳の凄まじさに感嘆とする。
しのぶは大丈夫だろうか、諦めたりしないだろうかと思ったが、それは杞憂だ。しのぶは諦めが悪く負けず嫌い。だから相手があの柳だとしてもいつまでも食らいつくだろう。カナエはしのぶをギュウギュウ抱きしめて頬擦りをしながら、頑張ってと口にした。
「い、いや、いやいや、いやいやいやいやいやいやっ!?ありえないでしょうアレ!?えぇ!?なんなの!?手刀で薙ぎ払ったら衝撃波生まれたんだけど!?あれもう絶対人間じゃないって!あれで一般人も斬るとか救いようないんだけど!!てか俺を救って!!怖い怖すぎるてか同じ屋根の下に居るの怖すぎるんですけどいいぃやぁああああああああああああああああああああああああッ!?」
「や、やべぇ……なんだあの真っ黒ヤロウ……今気づいたぜ、アイツ気配が不気味だ……訳がわかんねぇ、けどすげぇ!あのドワッてくるやつ俺もやりてぇっ!!」
「あれが、柳さん……しのぶさんは柱で実力も俺とは比べものにならないのに、そんな人をあんな簡単に……ッ」
伊之助は初めて見る柳の技術に興味津々で、アレと同じのをやりたいと言ってぐるぐる回り始める。善逸はもう柳のことが恐怖の存在としか認識できないのか、炭治郎の背中に隠れてガタガタ震えながら汚い高音で泣き叫んでいる。
そして炭治郎は戦慄している。鬼殺隊の隊士全員に通達されるほど、柳一心という存在は深く関わることなかれ……という人物。それはひとえに、鬼殺隊であろうと邪魔をすればその手にかけてしまう危険性があるからだ。
人々を襲い、食い殺す鬼を炭治郎は許せない。そしていたずらに人を傷つける人もまた、許せない。それは彼の正義感や優しさからくる当然の怒り。しかしそれだけで正せるものがあるとは限らない。
確固たる自我を持ち、価値観を持ち、理不尽とさえ思える力をも兼ね備えてしまった柳一心には、善人の言葉は届かない。いや、届いたとしても理解しないだろうし、理解しようとすらしないだろう。炭治郎の目にはもはや、柳は理解できない人としか映らない。
当の本人はあてがわれた部屋に戻って、しのぶとの攻防なんて無かったと言わんばかりにあくびをしていた。
柳流番外剣術
自身を中心として周囲一帯に対して行う薙ぎ払い。
ほぼ同時の2連撃は1撃目の斬撃によって真空空間となり、空気が戻ろうとする強力な引力で対象は引き寄せられる。その後、技の性質上避けることが非常に困難な2撃目が撃ち込まれる。
今回は刀を使わず無刀、手刀によるものだが柱であるしのぶが回避することすらできなかった。刀を使うとより広範囲に影響が及び、2撃目が即死ものとなる。
柳一心
柳流剣術は一心が生まれた家系が代々受け継いできた剣術。今は活人剣となってしまっていたが、元は立派な殺人剣であり、一心の才能により、元の殺傷力が更に強力に昇華されながら本来の殺人剣へと組み替えられた。
番外剣術とは、既存の柳流剣術とは別に一心が独自に編み出した番外の剣術。治の呼吸もある意味この番外剣術の範囲内に入る。
胡蝶しのぶ
勝つつもりでやったが、負けた。注射器の本数が少なかったのは、それだけしか持っていなかったから。突然やってみるかと言われ、やっぱやめたと言わせないためにすぐ訓練場に行ってしまい、補充する暇がなかった。
灼刀について鍛錬してほしいが、無理を言うと危険なので今回のことは惜しいと思っている。が、諦めるつもりは毛頭ない。負けず嫌いな性格なので、諦めることを諦めてもらうつもり。
胡蝶カナエ
柳が刀なしとはいえ戦うところを見るのは初めて。めちゃくちゃ強いが、その強さがないと上弦の鬼を一方的に殺せないのですぐに納得した。
しのぶが負けず嫌いで諦めが悪いことは姉として当然知っている。柳が音を上げるか、しのぶが諦めるか、どちらが先かしらと言いながらニコニコと微笑んで見守っている。