鬼滅の刃 とある一剣士の物語 作:鬼滅ニワカ侍Part2
そして、この産屋敷一族の中で正式の継承者であり97代目当主の
「──────階級
「はひゅっ……い、いえ!め、めめめめ滅相もございません!」
──────あぁ……お館様のお声安らぐぅ……。
産屋敷耀哉は、現代で言うところのF分の一(1/F)揺らぎというもので発声し、聞く者に安らぎを与えるのだ。突然呼ばれた一般隊士も、彼の声を聞いた途端に心に大きな安らぎを得た。
まだ若いというのに産屋敷一族の長として君臨している彼は、とある事情により病に体を侵されている。代々短命の命であるらしいのだ。そんな彼が直々に呼んだとなると、益々以て呼ばれた理由がわからなくなった一般隊士の早見は、後ろに控えながら同じく跪いている柱の迫力と気配に泣きそうだった。泣きそうなのに心は安らいでいるという矛盾は無視していい。
「そう緊張しないでおくれ。今日呼んだのは、少し話が聞きたかったからなんだ」
「は、話……ですか?」
「そうだよ。つい先日、十二鬼月の下弦との戦いがあったね。その時に君が短時間とはいえ行動を共にした剣士のことを教えて欲しいんだ」
「……ッ!は、はい。それは……お話しすることは可能ですが……私が体験したのはほんの少し……それも彼の剣士の実力などは私程度では到底測れません。なので支離滅裂な話になってしまうかも知れませんが……それでも……?」
「構わないよ。どちらにせよ、その剣士を知っている者からは話を順次聞いていこうと思っているんだ」
「わ、わかりました。ではお話し致します。……あれはつい先日に起こった十二鬼月との戦闘が始まって
「──────はぁッ……はぁッ……はぁッ……ッ!!」
「──────遊んでよぉ。もっと遊んでよぉ……食べさせてよぉッ!」
「ひ、ひぃいぃぃッ!!」
とある山に出現したという鬼の中でも最強の十二体である十二鬼月。1番下の十二番目から六番目に位置する下弦。山に現れたのは下弦の弐だった。一般隊士であり、『壬』である早見はまだまだ実力不足ながらも現場に近いために派遣された。
十二鬼月討伐作戦が決行されて半刻。早見は山の中を転がりながら逃げ回っていた。鬼殺隊の隊士でありながら鬼から逃げるという行動は、死にたくないという思いからくるものだ。無駄に向かっていって死ぬよりかはマシな行動だろう。
十二鬼月の弐の血鬼術は『模倣』であり、無機物に自身の血を付けることで自身の分身体を模倣させて創り出すというものだった。耐久性は低く、頸を斬らずとも一撃さえ与えれば元の無機物に戻るものの、いかんせん数が多い。小石を拾って血を付着させるだけで無数の分身が生まれる。
本体に近ければ近いほど数が多くなり、辿り着けない。そして早見は最初こそ分身を何体か倒していたものの、数の暴力に押され始め、結果今のように逃げる羽目になっていた。死にたくないの一心で走っていたが、木の根に躓いて転倒。そこへ分身の下弦の弐が集まってきたのだ。
下弦の弐は少女のような風貌だが、額に1本の角がある。目は黒目と黄色い瞳で構成されていて、無邪気に見えてその残虐性が顕著だった。分身の数を使って物量で押し、押し切ったら隊士をぐちゃぐちゃにするのだ。見れば確実にトラウマになる。あのようになりたくないと思う。それ故の逃げだったが、ここまでかと絶望した。
「もう追いかけっこは終わり?」
「おしまい?」
「内臓を引き摺り出してもいい?」
「頸の骨折りたーい!」
「もっと遊びたかったなぁ」
「他の鬼狩りでもあーそぼっと」
「じゃあバイバイ?」
「ぁ……ははは……もうホント……最悪」
多くの手が伸びてきて、あぁ……これからあの隊士のようにぐちゃぐちゃにされて肉団子のようにされるんだ。逃げ場が無く、逃げる気力も失せてしまった。もう無理だと諦めて目を瞑った早見は、体を強張らせながらやって来る痛みを覚悟した。が、痛みが来ることはなく、恐る恐る目を開けた。
目に映ったのは、黒い着流しだった。十数体居たはずの下弦の弐は1体も居らず、立っているのはこの黒い着流しの者だけ。三度笠を被り、左腰に黒い鞘の刀を差した剣士。鬼殺隊の者か?そう思ったが、隊服を着ていないため違うと直感する。なら何でこんなところに一般人が?何故刀を?下弦の弐の分身はどこに?混乱した頭が疑問を口にすることなく、心の中に溜め込んでいく。
「そこの鬼狩り、立て」
「は、はい?」
「──────今すぐ立て」
「ひゅっ……っ!?」
恐ろしいくらいに冷淡な声と気配に、早見は考えるよりも先に体を動かしていた。立たなければ、斬り殺されていたかも知れないという思いが頭を駆け巡る。この人に逆らってはいけない。絶対に言うことを聞かないといけない。でないと殺される。そう思ったし、理解してしまった。
立ち上がって直立不動になりながら青い顔色をしている早見を、剣士は少しの間眺めた。何も言わない間があり、早見は生きた心地がしなかった。しかしすぐに問いかけられた。この山に居る鬼はどういう存在なのかと。
「え?」
「気配を多く感じる。
「あ、えっと……此処に居るという鬼は十二鬼月の鬼で下弦の弐です。それで……血鬼術で小石などを使って分身を創るんです。それが理由……かと」
「分身を創り出す血鬼術か。それにしては妙だ。模倣するとかそんなところか。それで、お前は本体が何処に居るのか知っているのか」
「い、一応……その場所から動いていなければですが……」
「そうか。では案内しろ」
「えっ……」
案内しろ。アンナイシロ……案内しろ!?と、早見は頭の中で言われた言葉を反芻させた。そして理解して必死に頭を横に振った。それはもちろん倒せる人が案内しろと言ったのならば喜んで連れて行く。これが鬼殺隊最高戦力の『柱』ならばそれはもう大喜びで連れて行く。しかし相手は誰だ?全く知らない剣士だ。
鬼であることに加えて血鬼術についても知っているようだが、素性を全く知らない者。行ったら絶対に死ぬのに、訳も分からない奴を連れて行く気にはなれない。勘弁してくれ。その思いで頸を横に振ったのだが、剣士はそれを見てはぁ……と溜め息を吐いた。
「わかった。ではこうしよう──────鬼の本体のところへ案内するか、私にこの場で斬り殺されるか選ばせてやる。どちらがいい?1度しか聞かん」
「喜んでお連れいたしまーす!!!!」
「最初からそうしろ」
「えへ、えへへ」
死んだ。これ絶対死んだ。終わったー!と泣き笑いをする早見に小頸を傾げながら先に行くよう促す剣士。もうどうにでもなれ……という諦めの境地に辿り着いた早見は歩き出す。対峙してから下弦の弐は分身を創り出したため、本体の場所は大凡分かる。なので案内はできるが、戦えない。実際には戦っても歯が立たないのだ。
分身は耐久性が低いから戦えていたが、本体は十二鬼月としてしっかりと強い。つまり下の方の階級である自分では何の役にも立てないと確信していた。これは、本体まで辿り着けるのか?そもそもと思っていた早見。しかしその思いは、すぐに覆される。
分身は本体に向かう早見と剣士を殺すために向かってくる。しかし分身が2人に危害を加えることができない。先行している早見に襲い掛かろうと、次の瞬間には頸が落とされているからだ。どういうことなんだろう。瞬きもしていないのに、いつの間にか頸が斬られて分身が解けている。
早見の後ろには変わらず剣士が歩いて付いてきている。やっているとしたらこの剣士だ。この剣士が斬っているのだ。しかしどうやって?どうすれば自分の方が前に居るのに前から襲ってくる分身が斬れるのか。そもそも、いつ斬っているのか。太刀筋が全く見えない。そよ風すらも感じない。
「余計なことは考えるな。お前はただ、私を鬼の元まで案内すればいい」
「は、はひぃ……も、もうすぐですぅ……」
「だから分身が多いのか」
夥しい数の鬼の分身が波のように襲い掛かってくる。しかしその波は不可視の斬撃で裂かれるのだ。刀身どころか軌跡すらも見えず、何が何だか分からない攻撃に分身は頸を落とされる。早見はただ真っ直ぐ歩いているだけ。周りの分身は恐らくだが剣士が斬っている。
不思議な気分だ。何故かもう、何が起ころうとこの場で自分が死ぬことは無いと確信している。まるで背後に『柱』が居るかのようだ。早見は幾分か軽くなった足を動かして本体の元まで案内する。そうすること数分で、額に汗を掻いている、分身と全く同じ姿形の鬼の元までやって来た。
「なんで!?なんでこんなに私の血鬼──────」
「──────これで終わりだな」
「あ……はい。ありがとう……ございました……お疲れ様です」
終わりは呆気ないものだった。あれだけ苦労していた下弦の弐の相手は、瞬きをするよりも一瞬の出来事だったのだ。あまりの速度で分身が壊されていくことに焦っている本体の元へ、そよ風すら感じさせない動きでいつの間にか接近し、擦れ違い様に頸を斬った。
激しい戦闘も無く、気合いの雄叫びも、呼吸の型も使わない。見えていないので何とも言えないが、やっていることは単純。近寄って鬼の頸を斬り落としている。それが普通の鬼と十二鬼月で対応が変わっていないだけ。
早見は頸が落ちて体が崩壊していく下弦の弐のことを呆然と見つめながら、その場で腰を落とした。信じられないほど呆気ない幕引きに、これは現実なのかと疑問を抱いてしまうが、死んだ鬼を見れば現実なのだと考えが追いつく。
この光景を実現させた剣士は、喜ぶこともなく少しの間崩れゆく下弦の弐を見ていたが、無感動に踵を返して去っていった。早見は慌てて剣士の背に声を掛ける。あなたは一体何者なのか。
「そんなこと知る必要は無い。お前達はこれまで通り、裏で鬼を狩っていればいい。私も私で、適当に鬼を狩る」
「あ、待っ──────」
「──────私と彼の剣士はそれで別れました。いつの間にか消えていたんです。恐ろしいほど速い動きでした。抜刀する姿も見えないくらいに。最初から最後までずっと助けてくださり、お礼も言えないままです。名前を聞くことすらできませんでした。……申し訳ありませんお館様。私はこれ以上の情報を持っていません」
「話してくれてありがとう。十分な情報だよ。もしかしたらまた呼ぶことがあるかも知れないけど、その時もまた来てくれるかい?」
「それは全然!お館様のためならばいくらでも!」
「うん。ありがとう。今回は助かった。君が生きていてくれて嬉しいよ。これからもよろしくね」
「は、はい!」
「……さて、早見が帰ったところで柱合会議を始めようか。議題は今回の下弦の弐討伐の功労者である、鬼殺隊ではない鬼狩りの剣士についてだよ」
報告が上がった時に耀哉はすぐにその異彩の剣士のことに興味を持った。鬼殺隊ではなく、恐らく一般人でありながら鬼を唯一斬り殺せる日輪刀を持ち、圧倒的な力量差で鬼の頸を斬る。思えば、任務先の鬼が居らず、または既に殺された後であったりと、不思議な報告もあった。恐らくそれらに関与しているのだろう。
だが、鬼を狩っているだろう報告の他に、見逃す事が出来ない報告もあった。それは人間の死体だ。鬼に食われてしまっているならまだしも、傍に頸を落とされた人間の死体が転がっていることがある。先日も森の中で頸を落とされた町の医者の女性の死体が発見された。
偶然だとは思えない。もちろん確実とも言えないが、少なくとも今回議題に上がった剣士は、鬼にとっても鬼殺隊にとっても重要かつ危険な人物である。しかし耀哉はその剣士とコンタクトを取ろうとしていたのだ。
「──────私はその剣士と協力関係を築きたいと思っている。例え危ない橋だとしても、鬼を狩る強い剣士が居るなら協力して欲しいし、こちらも協力は惜しまない」
「ですがあまりに危険なのでは?何せ一般人を斬るような者です。これで隊士を斬られたのでは目も当てられない」
「そうだね。けど何の意味も無く斬っているんじゃないと思うんだ。私の想像でしかないけどね。だからそこら辺は直接本人に聞いてみたいと思う。みんな、手を貸してくれないかな」
「……お館様のお言葉ならば」
「……御意」
産屋敷耀哉の言葉により、鬼殺隊は十二鬼月下弦の弐を討伐した剣士を探す方針になった。鬼を狩る傍ら、見かけたら刺激しないように接触を図る。そして可能ならば耀哉のところまで連れてきて欲しいと。
相手は鬼も人間も区別しない謎の剣士。危ないと思ったら無理はしなくていい。そう通達された時、隊士達は不安に駆られたが、お館様のためならばやる気を見せた。そうして剣士との邂逅は、割とすぐに訪れた。
「……凄まじい数の死体だ。南無阿弥陀仏……お館様が仰っていた剣士はお前のことだな。我々は鬼殺隊。今回のことでお前に聞きたいことがある。殺し合いは望まぬ。我々に同行していただこう」
「──────あまり余計な真似はしない方がいい。お前とて死ぬのは怖いだろう?」
産屋敷耀哉
鬼殺隊を纏めるトップの産屋敷一族。その長。病に侵されており、代々短命の命であるという。特殊発声で鬼殺隊は心底彼に心酔している。また、とても人格者であり純粋に慕われている。
早見
一般隊士であり、使用する呼吸は水。女でありながら鬼を狩る人生を歩むことに決めた。しかしその一方で死ぬことが怖く、自身より強い鬼と出会った時逃げてしまう癖がある。
剣士に命を助けてもらったがお礼を言えておらず、それが心残り。次会うときがあれば是非お礼を言ってご飯でもご馳走したいと考えている。
剣士
十二鬼月を斬り殺すのは今回で5体目。以前にも4体殺しており、どれも寄って首を斬っただけで戦闘らしい戦闘はしていない。そのため、剣士の中で下弦とはそこら辺の鬼よりは人を食っただけの小石という認識。
気配察知の感度が異様に鋭く、また範囲が広い。鬼を見つけるのは主にこの能力によるものが大きい。
早見のことは鬼の本体の場所を聞くために助けたのであって、危ないから助けたのではない。なんだったらもう興味が無いので忘れている。