鬼滅の刃 とある一剣士の物語 作:鬼滅ニワカ侍Part2
「──────聞いたか?あの村の噂」
「オレも聞いたよ。行商の人が通った時、また血の臭いがしたんだとさ」
「それに旅の者が入ったら出てこないって話だ。おっかねぇ……」
「いつからそんな物騒な噂が流れる村になっちまったんだか」
「……ずずずっ。店主。かき揚げをもう1つ」
「あいよ」
基本的に剣士は気配で鬼の居場所を突き止める。しかし鬼が見つからず期間が開いた時には村や町などに寄り、人が多く噂話などをしやすい場所に行き情報を集める。今回の剣士もまたうどん屋に立ち寄って昼飯を食いながら周りの話し声に聞き耳を立てていた。
熱々で出来たてのかき揚げを貰いながら、すぐ後ろで会話をしている男性2人の話しを盗み聞く。どうやら今回はとある村にて最近異変が起きているらしい。行商人が寄ると、何だか血の臭いがするそうで、旅人などが立ち寄れば出てくることがない。
もちろん単なる噂話でしかなく、そういった話を聞いて実際に向かったら本当に噂話に過ぎなかったということもある。だが情報が無いよりはあった方がいい。それに鬼が居るかは気配で判る。違っていたならそれまでで、居るならば斬り殺す。
剣士は勘定をしてもらい店を出る。今日の空模様は晴れ。鬼が表に出てこない天気だ。話を聞いているに、噂の村はそこまで離れていないらしい。それならば少しどこかで時間を潰して、暗くなる位を見計らって行こうと考えた。
町の中を適当に歩いて景観を眺め、時折甘味処に寄って団子を食べる。鬼を殺しながら旅をしている身だからこそ自由で気ままな時間。時間を潰し終えればいよいよ村に向かって出発する。町から出て走れば一瞬で着いてしまうだろうが、それだと日が暮れるまで暇になる。
鬼は夜にしか姿を見せない。昼間に行ったところで何のアクションも起こしてくれないのだ。
「──────旅をしている者だ。すまないがこの村で一晩休ませて欲しい。礼はしよう」
「はーい!じゃあわたしのお家に来てよ!おもてなしするよ!」
噂の村には普通に着いた。特に外見は怪しいところがない。しかし剣士の気配察知には鬼の気配があった。確実に村を根城にしている。それに村人1人1人の気配も少し違和感がある。焦りや嫌悪感。それと微かな期待があった。嫌悪感は剣士に向けているのかと思えばそうではなく、そして表情には出さない。
妙だなと思う。鬼の気配と同じで。剣士が感じ取っている鬼の気配は村全域に散乱していた。特定できないというより、村全域に鬼の気配があるのだ。まるで霧状になっているようだ。
どうなっているかは知らないが、まだ陽は落ちていない。焦らず時間を待てば勝手に尻尾を出す。
村長の家に行って旅人であることを話し、泊まる場所が欲しいことも付け加える。すると小さな女の子が盗み聞きしていたのか、泊まっていきなよと提案した。女の子の両親も快く了承し、是非とも泊まっていって欲しいと言ってくれた。剣士はありがたいと言って三度笠の中で目を細めた。女の子とその両親から罪悪感の気配を感じ取ったからだ。
「ねーねー旅人さん!お名前はなんていうの?」
「そうだな……一宿一飯の恩がある。名前くらいは明かそう。私は
「柳さん!今日一緒に寝ようよ!」
「警戒心がないな」
「ふふふ。大丈夫ですよ。うちの子は見る目がありますから。それにお客様は久しぶりで……夕餉ができました。なお?お客様に持っていける?」
「うん!」
なお、と呼ばれた女の子は剣士改め
人数分しか用意しておらず、今から作るとなると時間が掛かってしまうから母親の分の飯を先に食べて欲しいと言われた。そのくらい待つが?と言ったが、母親は作っていてどうせ食べるのが遅くなるのだから先に食べて欲しいと言う。そこまで言うならばと、柳は新たに用意された夕飯を食べ始めた。
「柳さんってかっこいいね!村で1番かっこいいお兄ちゃんよりかっこいいよ!」
「そうだねぇ。柳殿の顔立ちはとても整っていらっしゃる」
「そうか。大抵は笠を被っていて言われることはないな」
「えー!もったいなーい!」
三度笠を外した柳は整った顔立ちをしていた。男なのだろうが、中性的な顔立ちをしており、つり目が特徴だろうか。黒い髪は少し長めなのか後頭部で適当に縛ってポニーテールのようになっている。基本三度笠を脱がないので分からないのだ。
魚や味噌汁。沢庵などといった一般的なおかずに米を出してもらい、それらを残さず食べた柳は風呂に入るかどうか聞かれたが、今もう疲れて眠いので大丈夫だと答えた。別に激しく動かない限りは汗を掻くような気温でもなかったので不思議には思われなかった。柳としては、裸になって刀を手放すのを防ぐという理由があったが。
さて寝ようかとなった時、お世話になっている家はそこまで大きくないので居間で皆が集まって寝る形になっている。客用の布団を敷いてもらい、隣になおが布団を敷く。おやすみと言われたのでおやすみと返し寝ているフリをして半刻程。柳の布団になおがゆっくりと入ってきた。
「どうした?」
「……っ!お、起きてたんだ……?」
「あぁ」
「……柳さん。今すぐに荷物をもって、この村から出て」
「それは何故だ?」
「……信じてもらえないかもしれないけど、この村にはバケモノがいるの。柳さんみたいな人を食べちゃう、怖い人。その人に、ご飯に眠くなるお薬入れて食べさせろって言われてたの。けど……っ。わたし、もう人が死んでほしくないの……だからわざとご飯こぼして……お願い柳さんっ。いますぐに村から出ていって!」
「それには及ばん」
「な、なんで……!?や、柳さんが死んじゃうよ!なお、柳さんまで死んでほしくない!もう人が死ぬのを見るのはやだ!お手伝いするのもやだっ!」
「落ち着け。それに静かにしろ。
布団の中に入ってきたなおは震えていた。話していたように、訪れた旅人に同じような手口を使って鬼に献上していたのだろう。やらなければ村人達を少しずつ食ってやると脅されて。鬼にとってはいい住処だろう。食料は村人の数だけあり、食料が食料を運んでくるのだから。
声が大きくなり始めたなおを引き寄せて自身の着流しに顔を押しつける。これまで不安で、罪悪感を抱き、いつ食われるか分からない恐怖と戦っていたのだろう。引き寄せられたのを皮切りになおは柳の背中に腕を回して強く抱きつき、胸の位置に顔を埋めた。そしてグリグリと顔を押しつけると、ハッとしたように顔を上げる。
「柳さんって……もしかして──────」
「静かにしろ。……お前達も起きているのだろう。鬼の気配がそこらから感じる。お前達に鬼が仕掛けているものが関係しているな。
「や、奴に肉のようなものを埋め込まれて……視界を盗み見られています。なので……私達はずっと目を閉じていますっ」
「声までは聞かれていませんが、奴は耳が良いので……」
「柳さん……なおの言う通り今すぐ村から出てください。これ以上被害を増やしたくはありません……」
「お願いします……」
「断る──────私の目的は最初からこの村に住み着く鬼だ」
ばさりと掛け布団が跳ね飛ばされた。そしてなおの腕を振り払って立ち上がり、枕元に置いてあり背負ってきていた箱を開けて中から刀を取り出す。左腰に差して感触を確かめると、隣に置いていた三度笠を被った。
居間から駆け出して外に出る。月が出ている夜の時間帯。この時間になると鬼が動く。柳は村の広場に出ると隠れていないでさっさと出てこいと言う。すると、上から鬼が降ってきて地面を砕きながら着地した。背丈は6尺はあるだろうかというほど大きく、柳のことを見下ろしてくる。大きく裂けた口を開いて細長い舌を出すと、口周りをべろりと舐めて涎を垂らした。
「──────鬼狩りかァ?オレ様の住処まで来やがって、ご苦労なこったなァ?」
「無駄口は要らん。お前はただ死ねばいい」
姿を掻き消す程の速度で接近し、懐に潜り込んで頸を斬り落とし、背後に抜ける。それを誰の目にも止まらぬ速度で行った。当然鬼にもその速度は見えていない。あまりに速過ぎたからだ。しかし柳は舌打ちをして振り返る。そこには、頸を斬られて死ぬはずの鬼が、ケタケタと笑っていた。
「無駄なんだよマヌケがァッ!オレ様は血鬼術でこの村の人間共に肉の種子を植え付けた。オレ様の体が頸を斬られて死んでも──────」
「──────村人の肉体を乗っ取って再生するようになァ!」
「村人の分だけ死ねるということか」
「その通りだ。鬼狩り、お前はオレ様を殺せねぇ。何せ、オレ様を殺せば、その数だけ村人が死ぬってことだからなァ!オイ!お前ら全員出て来い!」
鬼の大声が響いて、村人の家から続々と人が出てくる。先程まで柳が世話になっていたなおとその両親も出てきた。皆は一様に顔色を悪くさせており、俯いている。自分達が鬼のストックの1つでしかないことは事実のようだ。だから、誰も村から出て行こうとしなかった。そうすれば視界を盗み見られていることから行動がバレて、食われてしまうから。
鬼は勝ち誇った笑みを浮かべながらゲラゲラと笑う。鬼狩り……鬼殺隊は一般人を守り鬼を狩る組織。一般人が巻き込まれることを良しとしないことは鬼も分かっている。だからこそ、自身の血鬼術は鬼狩りにとって相性が最悪であり、殺すことはできても勝つことはできないと分かりきっている。あとは柳のことを殺して食らうだけ。
今日の食い扶持も確保できたと、嬉しそうに笑う鬼に、柳ははぁ……と溜め息を吐いた。それに眉を顰めた鬼は、何だと聞くと、柳はおめでたい頭をしている鬼が多くて困ると態とらしくバカにした風に言った。鬼の額に青筋が浮かび上がる。
「ンだテメェ……」
「鬼狩り鬼狩りと言っているが、そもそもとして私は鬼殺隊ではない」
「何……?」
「そして、私は──────
「…………はッ。強気に出たな。ならどうするつもりだ?あ?テメェに何ができるッ!!」
「どうする?──────簡単なことだろう」
血飛沫が舞う。鬼の頸がまたも宙に舞ったのだ。村人に埋め込んだ肉の種子が急速に成長して鬼の形を作る。村人は意識を乗っ取られてしまい、死んだものと同じになる。だが再生した鬼が見たのは、他の村人の頸を不可視の斬撃で斬り落としていく柳の姿だった。
ストックがあり、その分だけ再生するならばそのストックを0にする。つまり、肉の種子を埋め込まれた村人を全員殺していくということだ。その行動を察した鬼はゾッとした。本気で殺す気だ。全員。現に村人はもう半分以下だ。肉の種子は宿主が死ぬと共に死ぬ。体の一部を与えていたことから、ある意味弱体化する。
つまり、死んでいった肉の種子分鬼は弱くなっている。鬼は焦る。柳が村人を残らず殺そうとしていることに。弱くなっていく自分に。これ以上はダメだ。殺させてはいけない。弱くなりすぎる。柳に勝てなくなる。鬼は急いで肉の種子を村人達から回収するため、自身の方へ引き寄せた。
腕や頸筋、足やら手やらから埋め込まれた肉の種子が飛び出していく。残った村人は10人にも満たない。その中には奇跡的になおとその両親達が居た。鬼は顔中に嫌な脂汗を掻いており、場の緊張から肩で息をしている。
弱体化することは防いだが、鬼は混乱する頭の所為で考えが疎かになっていた。今更10人程度から肉を回収したところで元に戻る力はたかが知れていること。そして、万全の力だとしても柳の動きは目で捉えられず、力の差が隔絶としていることだ。
「……ッ!?や、奴は何処に行きやがったッ!?」
「──────こんなところに閉じ籠もっているから、戦い方を忘れるんだよマヌケ」
「ぎッ……ッ!?」
音も無く、鬼の背後に佇んでいた柳が刀の柄に手を置いて、見えない居合を放ち鬼の頸を斬り落とした。肉を回収したことで村人から再生することはできない。本当の死。本当の崩壊。鬼はやってくる死の恐怖に泣き叫んでいたが、崩壊は止まらず、そのまま朽ち果てていった。
鬼は死んだ。しかしそれと共に大勢の村人が死んでいった。100人は居た村人は10人程の人数になり、村の中は頸から噴き出た大量の血で辺り一面が赤黒くなっている。歩けば足裏に血の水が付着して不快な音を立てる。柳は左手で刀の柄頭を撫でると、熱い息を吐き出した。
「はぁ……っ。今回は中々の数を斬ったな。清々しい……。惜しむらくは、終わるのが早すぎることか……」
「ぁ……あの……柳……さん」
「──────な、何が起きたんだ……これッ!?」
「ほう……鬼殺隊のお出ましか」
柳の元へ蒼白とした顔色のなおがやって来て何かを言おうとしたところ、村の入口から人の声がした。そちらに目を向ければ、鬼殺隊の隊士が羽織っている隊服と日輪刀を装備している者達が5人ほど居たので、鬼殺隊が偶然到着したのだと察した。
柳はなおに視線を向けることなく鬼殺隊のことを見ていると、あちらも柳に気がついた様子。そして、外見的特徴から産屋敷耀哉が言っていた剣士だと察して警戒態勢に入った。鬼が居ると報告されて任務が出されので着いてみれば、明らかに鬼の仕業ではないと分かる切り口で頸が落とされている人間の死体が山とある。
そして話に出ていた異彩の剣士の柳。一般人を斬り殺したのは柳であると、少し考えれば判るだろう。なので鬼殺隊の各々は、柳がどう動いても対処できるように刀に手を伸ばして抜刀した。
「下弦の弐を倒した剣士だなっ!そこを動くなっ!」
「断ると言ったら?」
「……ッ!いいから動くなっ!」
「もったいぶらず実力行使と言えばいいだろうに。まあ尤も──────そうなれば死ぬのはお前達だがな」
鬼殺隊の隊士は見えていなかった。柳が疾走し、懐にまで接近しているのに柳が動く前の場所を未だに見ている。つまり全く反応できていない。つまらないな。日頃鬼を相手に殺し合いをしていながら、
素早く跳躍してその場から回避すると、遅れて棘付きの鉄球が地面を陥没させながらめり込んだ。回避が遅れていれば肉塊になっていたかも知れないと思える威力に、柳は三度笠の中で口端を少し持ち上げながら音も無く離れた場所に着地した。そして鉄球から伸びている鎖を追いかけて放った人物を見る。
鉄球を放ったのは、
「この気配……『柱』だな。それにその
「……凄まじい数の死体だ。南無阿弥陀仏……お館様が仰っていた剣士はお前のことだな。我々は鬼殺隊。今回のことでお前に聞きたいことがある。殺し合いは望まぬ。我々に同行していただきたい」
「同じ問いになるが……──────断ると言ったら?」
「……少々手荒くなることも止む無し。それだけの理由が、お前と私にはある」
「──────あまり余計な真似はしない方がいい。お前とて死ぬのは怖いだろう?」
──────柱合会議でお館様が仰っていた剣士。確認されているだけでも50以上の鬼を殺していると聞く。更には下弦の弐をほぼ単独で殺している。つまり『柱』に必要な条件を満たしているほどの実力者。隊士の言では動きと抜刀が目に見えぬ速度だというが──────ッ!!
「考え事か?盲目の『柱』。慢心は己の命を捨てると同義だぞ。特に私の前ではな」
盲目にして大男。鬼殺隊であり『柱』の彼は
他にも存在する柱の中でも特に肉体面で強く、精神的にも強い。そんな彼が少し考え事をすると、その隙を見抜いているかのように柳が接近していた。全盲であるためそもそもとして見えはしないが、例え目が見えていたとしても見切れない速度。敵かも知れない者の前で考え事に耽る自身をすぐさま恥じる。
反射に近い動きで鉄球と片手斧を繋ぐ鎖を巧みに動かす。すると接近していた柳の、不可視の斬撃を辛うじて防いだ。強い衝撃で鎖が
続く連撃を防ぐために、鎖を引いて鉄球を向ける。が、その鉄球は柳に触れるどころか、未来が視えているかのように最低限の動きで避けてしまった。悲鳴嶼は鎖から発生する音などを頼りに周りの物の位置を事細かに把握している。故に柳が鉄球を向けるよりも先に鉄球が通るであろう場所から避けていたことに気がついたのだ。
「まるで私が事前に攻撃が来ることを予測していた……かのように動いていることへの驚きが気配として伝わってくる。私のような奴は珍しいか?」
「……何故この村の人間を殺した。目的が鬼を殺すことならば要らぬ殺生の筈。お前のその行動はあまりに無意味だ」
「さてな。何故だろうか。それは──────聞き出してみろ」
柳が来ると思った時、悲鳴嶼は宙へと跳んでいた。大男故の人並み以上の重量を何ともしない、軽やかで大きな跳躍だった。柳のことを完全に見下ろす高さまで跳んだ悲鳴嶼は、腕の血管を浮き立たせる程力を込めつつ、肺を大きくするだけの息を吸って呼吸を行った。
「全集中 岩の呼吸 伍ノ型──────
鉄球と片手斧を上空より大地へ叩きつける。それぞれの重量と重力。そして悲鳴嶼の腕力によって速度も威力も上乗せされていく。鉄球は地面を大きく砕いて陥没させ、瓦礫を四方八方へ飛び散らせる。片手斧は地面を叩き割って大きな亀裂を入れた。本来は4度行うその攻撃を、柳には10度は行った。確実に当てるつもりで放ったそれらは、やはり予め察知されたかのように避けられた。
不可思議とも言える攻撃への回避行動。何故そうも事前に動けるのか悲鳴嶼には判らなかった。自身のように音などを使って判別しているとは考えにくい。かと言ってそれ以外となると何なのだと問いたい。
跳躍した高さから降りてきた悲鳴嶼に柳が次こそ接近する。音は限りなく殺されていて、音を頼りにする悲鳴嶼でさえごく僅か音と言わざるを得ない。そしてその速度はこれまでのどの動きよりも速く、柳の性格や癖をまだ見抜けていないからこそどこから攻撃し、どのように攻撃してくるか判らない。
「……岩の呼吸 肆ノ型
「攻防一体の技か。しかしそれだけあって些か大振りだな」
鉄球と片手斧が悲鳴嶼の周囲わ縦横無尽に暴れ回る。その重量武器の結界には入り込む余地は無く、死角であるはずの背後にも鎖が伸びているため踏み込むことができない。しかし柳は敢えてそこへ踏み込み、鉄球と斧に寸分の狂いもなく刀を柔らかく打ち込み、進行方向を真上へと変えた。
いくら鉄球と斧が縦横無尽に、それも結界を構成する速度で振り回されていたとしても柳の速度に比べれば、まだ生温い。となれば柳が飛び交う鉄球と斧に対応できないはずがなく、類い稀なる剣の技術をも使って弾き飛ばすことも可能だった。
真上に弾かれてしまった鉄球と斧。伸びて結界を張れなくなった鎖。そして剥き出しになって隙を見せている悲鳴嶼。寄って斬れば事足りるだろう。しかし柳はまたしてもここで踏み込まなかった。何故なら、悲鳴嶼が鎖を踏み込むと同時に、弾いた鉄球と斧が柳と真上から降ってきたからだ。
「──────岩の呼吸 弐ノ型
「残念だが……それも来ると判っていれば避けるのは容易い」
降ってきた鉄球と斧が触れるよりも前に、柳の回避行動は既に終わっていた。忽然と姿を消す程の速度が相手となると攻撃を当てることは極めて難しくなる。加えて相手の攻撃のタイミングや速度、狙う箇所などを予知しているかのような危機察知能力。悲鳴嶼は目の前の柳という剣士の強さに冷たいものを感じた。
数多くの鬼を殺してきた悲鳴嶼。だからこそ鬼殺隊で最強の称号である『柱』の役職に就いている。しかしこれ程強い存在と対峙したことはない。ここまで自身の攻撃が通じない相手は居なかった。慢心はしていないが、『柱』としての矜恃はあった。だが柳と戦を交えると、世界は広いのだと思い知らされる。
同等かそれ以上。もしかしたらまだまだ実力を発揮しておらず、自身よりも高みに居るかも知れない謎の剣士柳。耀哉からはあまり刺激しないよう言いつけられているが、殺されている数多くの一般人を前に冷静さを失い手荒な真似を取った。そのツケは、柳の居合の構えを感じ取ったことで、ついに回ってきたのだと察した。
「鬼殺隊の『柱』。防げるものなら防いでみせろ。避けられるならば避けてもいいが、覚悟は決めておけ」
「──────ッ!!」
ゾクリ……と、身の毛もよだつものを感じた。いや、叩きつけられたと言うべきか。初めて明確に見せる
柳が行おうとしている居合は……避けることなど不可能なのだと察してしまったからだ。この場に極度の緊張状態が奔る。謎に包まれながら圧倒的力を見せつける剣士。鬼狩りを生業とする鬼殺隊の最高位『柱』。両者の間の空間が捻じ曲がっているかのように感じた矢先……その均衡を破ったのは1人の小さな女の子だった。
「ゃ……や、柳さんを……ぃ、いじめないで……ぁの……柳さんは……わたしたちをた、助けてくれた人なの……っ!いっぱい殺しちゃったけど……それは……っ。あの怖い人のせいなのっ……!」
「怖い人……鬼のことか……?」
「……チッ。良いところだったというのに」
小さな女の子のなお。彼女はその場の氷よりも冷たい殺気立った戦場に震え、泣きながらも割り込んで必死に訴えた。柳を守ろうとしているのか、悲鳴嶼に通せんぼをするように両腕を広げて庇う。柳が散々村人を斬殺しているところを見ていた筈なのに、それは鬼の仕業なのだと言って、命の恩人である柳を背に隠したのだった。
なお
とある村の小さな女の子。柳に命を助けてもらったと思っているが、何の躊躇いもなく村人を殺していった柳に恐怖を感じている。だがそれは鬼を殺すために仕方なくやったことだと思い、涙を流して震えながらだが、柳を庇った。
鬼狩りを行う政府非公認組織鬼殺隊で、最高位である『柱』の1人。岩の呼吸の使い手で全盲。しかし2メートルを超える背丈に筋骨隆々の恵まれた肉体を持ち、類い稀なる戦闘センスも併せ持つ。
日輪刀として鎖に繋がれた鉄球と片手斧を使用しており、鎖がぶつかり合って鳴る音を使って周囲の物の位置を正確に判別している。
柳の実力の高さに驚くと共に、これ程の人物が居たことに世界の広さを実感した。
異彩の剣士。速度は見切れず、その速度を生かした不可視の斬撃で相手の首を斬り落とす。使用する呼吸は不明。
柳曰く、鬼を殺すならば寄って斬るだけで全て事足りるとのこと。
謎が多い剣士だが非常に実力が高く、その強さは鬼殺隊『柱』と互角以上に戦える。だが、実力という面ではまだ未知数であると言える。
非常に冷酷非道であり、鬼を殺しているものの鬼を憎んでいる訳ではなく、それ故に斬る相手は鬼と人間を区別しない。己の快不快に従い相手を斬るため、何を以て斬るかは柳次第となる。