鬼滅の刃 とある一剣士の物語 作:鬼滅ニワカ侍Part2
「──────北西!北西に鬼が出現との噂あり!すぐさま向かわれたし!」
「鴉のくせに随分と流暢に喋るものだ。……まあいい。距離は?」
「約
「近いな。それならばすぐに着く」
「カーッ!?速い!見失った!見失った!……怒られる!?」
喋る鴉である鎹鴉が焦ったように高度を上げて空から地上を見下ろす。情報を渡していた相手は三度笠と黒い着流しが特徴の異彩の剣士、柳だった。
鬼殺隊の『柱』ですら見切れなかった速度で移動する柳を見つけないと怒られてしまう……と、鎹鴉は焦って飛んでいるが、そもそも何故柳に鬼殺隊の情報伝達係である鎹鴉が付いているのか。それは、単に柳と鬼殺隊が協力関係にあるからだ。しかしこれには幾つかの条件があった。
「柳、私達と協力関係を築かないかい?」
「ほう……?」
「私からは鬼の目撃情報を。それに鬼を斬ってくれる度に給金も払う。藤の花の紋の一族にも私から言って柳が体を休められるように取り計らう」
「で、お前が提示する条件はなんだ?」
「話が早くて助かるよ」
全国を旅しながら、気配を見つけたら鬼の場所を目指すよりも、鬼殺隊の情報網を使って鬼が居るであろう場所を教えてもらって向かった方が効率が良い。
鬼殺隊に入らないか?と誘わなかったのは、きっと柳ならば入ることを拒否すると確信していたからだ。その勘は当たっており、提案されていたとしたらすぐさま拒否されていただろう。
鬼を殺せば金が入るというのも魅力的だ。旅をしている手前、金は必要になってくる。時には用心棒の真似事をして金を稼いでいた柳からしてみれば、本当に良い取引とも言える。ただ、これは協力関係と名ばかりの取引だ。もちろん鬼殺隊側から柳に求めるものもある。
まあ、大凡条件は想像がつくが……と、柳は心の中で溜め息混じりに呟いた。耀哉は浮かべている微笑みをそのままに、事前に決めていたのであろう内容を口にした。
「柳は一般人も鬼と区別することなく斬る。けど、私からの条件として
「斬るなとは言わないのだな」
「そこまでは強制できないよ。鬼を……それも十二鬼月まで斬ってくれた君に対して。けどその代わり一般人を斬らなくていいようにこちらも手を回す。例えば戦いに巻き込まれそうになっている民間人が居たならば、こちらの『隠』や
「ふぅん?まあ予想通りだな」
「あとは、鬼にやられそうになっている
「……まあいいだろう。その場の気分次第だが」
「それと、傷を負ったりした場合は『花柱』であるカナエが構える蝶屋敷に行ってくれるかい?そこでなら安心して治療を受けられるよ」
「それは要らんな……と言いたいところだが、これから先の事はわからん。必要に迫られれば使わせてもらおう」
柳を束縛するつもりがない耀哉からしてみれば、提示した条件はこれでも最大限のものだ。鬼を殺す力は『岩柱』である悲鳴嶼行冥が認めている。あとは冷酷非道な性格故に一般人まで斬ってしまう面をどうにかすれば良い話。となれば、ある程度斬らないようにしてもらい、あとはこちらがアプローチした方が話は進めやすい。
『隠』や隊士が先に現場に居ることが前提となるのだが、それは柳に対していの一番に鬼の情報を渡すのではなく、近くに居る隊士や『隠』に向かってもらってから伝えても良いだろう。そうすれば、手遅れだったということがかなり無くなる。
……という考えは、柳にはバレていた。なんとなくそんな作戦を立てているのだろうと、耀哉から気配で読み取っていたのだ。しかし、別に抵抗も出来ない一般人を斬ったところで、斬る感触以外はつまらない。まあ尤も、雑魚の鬼も同じく斬る感触以外はつまらないのだが。
斬る感触が好きだ。そこで斬っても問題ない鬼を斬っている。一般人を極力斬らなければ金が貰え、寝床や食事にまでありつける。しかも鬼が居る場所まで提供されるのだから、柳にとってうまい話だ。なので柳は、この日を以て鬼殺隊の協力者……という立場になった。
「では、これからよろしく頼むよ、柳」
「鬼を全て斬り殺すまでだがな、産屋敷。……この団子は貰っていくぞ」
「それは私の妻のあまねが作ったものなんだ。よかったら持ち帰られるように幾つか包ませるけど、どうしようか」
「ふむ……んん?ほぉ……美味い。良い腕をしている。では何本か包んでもらおうか」
「分かった。きっとあまねも喜ぶよ。じゃあまた会おう、柳」
「此処に来るのは些か面倒だ。特別何か無い限りは会うこともないだろう」
「それは残念だね」
悲鳴嶼を除く『柱』に睨まれながら、マイペースに何本かの団子を包んだ風呂敷を貰うと、その場で踵を返して屋敷から去っていく。部屋から出ていくときも礼の1つもせず、ただ去っていくのみ。その無礼さに『柱』の何人かは青筋を浮かべて追いかけようとしたが、耀哉の手前できなかった。
失礼な態度を取られた耀哉というと、浮かべる笑みが変わらずだ。どんなことを言われようと、どんな過去を聞こうと、柳にできるだけ失礼がないように配慮した。『柱』にはそれがわからない。確かに柳が強いのは認める。存在感と言えばいいのか、迫力とも言えばいいのか、取り敢えず自分達と同等レベルではあると認めた。尤も、人間性は全く認めていないが。
派手な装飾をした背丈の高い男の『柱』が代表して耀哉に問う。何故あんな奴に肩入れするのか。あんな奴と協力関係を結ぶのかと。やはり自分は派手に反対だと声を大にする。しかしその進言を受けた耀哉は微笑みを崩さず、柳が普通じゃないからだよと不可解な返しをした。
「お館様……確かにあの人は普通ではありませんが、どういうことなのですか?」
「私は鬼舞辻無惨を打ち倒す為には、これまでになかった変化が必要だと考えているんだ。下弦は倒せても、上弦は倒せていない。これまでに何人もの『柱』が殺されている。記録によれば、100年以上上弦は倒せていない。わかるかな、今まで通りじゃ駄目なんだ。例え我々にも害を為す毒であったとしても、鬼に……鬼舞辻に対する劇毒でないと。……利用する形になるけど、柳には変化を生み出し、その波紋を大きくしてもらう。君達も柳が生み出す波紋に負けないよう、今以上に強くなっておくれ。そして元気な姿でまた、柱合会議を開こう」
「「「──────御意」」」
「……柳。何もかもが不明過ぎる鬼を狩る剣士。一体何者だというのだ……」
耀哉が求めたのは、鬼と鬼殺隊の関係にすら関与してくるほどの変化だった。鬼を狩るための剣士を育てさせ、育成し、成長を促し、鬼を斬り、数を減らしながら鬼舞辻無惨の尻尾を掴もうと足掻く。延々とやっていてもいたちごっこになる。そんなことは代々残されている文献を読めば自ずと解ってくる。
だからこそ、人間にとって薬でありながら毒でもある柳に協力を頼んだ。柳こそが、耀哉の思う変化だった。鬼殺隊でもなく、鬼に復讐心を持つ訳でもなく、どこまでも純粋に
「待っていろ鬼舞辻無惨。我が一族唯一にして最悪の汚点。お前の元へ変化の凶刃を届けてやる」
鬼の身体能力は高い。垂直跳びで何メートルもの高さまで跳躍できる。走れば一般人では目で追うことが困難になり、腕力は大人の男性以上なのが普通だ。傷を負っても瞬く間に治り、特殊な鋼を使った日輪刀で頸を斬り落とさねば殺すことができない。更に、中には血鬼術という特異な術を使う者も居る。
そういった鬼と戦う鬼殺隊の殉職率は極めて高い。剣士になれる者達が少ないというのに、減っていく数は変わらないか、多くなるかの一方だ。このままでは鬼に数で負けてしまう。そういった危機感から、逃げられる時は逃げるようにと言われているが、鬼に大切な者を殺されて鬼殺隊に入ったのだ、逃げようと考える者は少ない。
今ここにも、懸命に命を賭けて戦い辛勝した鬼殺隊の隊士が居た。親を鬼に喰い殺され、その恨みから鬼殺隊に入隊して隊士として戦った。日輪刀の色を変えることができたので剣士としての才能はあった。しかしあまり強くはなれなかった。それでもと、どうにか鬼に食らいついて頸を刎ねることができた。
「クククッ。此処を縄張りにしてやがった奴は死んだみてぇだな。今日からオレが此処を縄張りにしてやる。お?なんだ、ちょうど良く飯まで落ちてやがる。幸先いいなぁっ!?」
「はッ……はッ……はッ……別の鬼……っ!クソォッ!」
鬼をどうにか斃した矢先、新たな鬼の出現。鬼は別の鬼と基本不干渉。縄張りのようなものがあり、その中には立ち入らないし立ち入らせない。だがやって来た鬼は戦闘音を聞きつけ、縄張りとしていた鬼が死んだことを悟ると嬉々とした表情を浮かべた。
持っていた日輪刀には罅が入っていてあと一太刀でも入れれば鬼の頸を斬る前に折れるだろう。脚の骨も折れていて踏ん張りが効かず、今は尻餅をついて座り込んでいる状況。疲労から息も乱しており、万事休すだ。
腹を空かしている鬼は動けない隊士を見て舌舐めずりをする。大して抵抗のできない人間など単なる食料だ。新たな縄張りを見つけて、更には食事にもありつけるという幸運。鬼が喜ぶのも無理はない。しかしその幸運は早くも崩れ、死神が刃を振るった。
「さァて……いただくとするかァ?」
「──────それは残念だったな。もう斬り終わった」
「……は?」
「お、お前は……っ!!」
鬼の気の抜けた声と共に、ごとりと重いものが地面に落ちる音がした。というのも、鬼の頸は両断され、頭が地に落ちたのだ。自身の体を見上げる形で呆然として、意味もわからず叫ぼうとしたところ口が崩れて声が上げられなかった。何が何だか……と言わんばかりに鬼は困惑したまま死んだ。
刀を鞘から抜くところすら見せず、いつの間にかそこに居て、知らぬ間に鬼の頸を斬っていた異彩の剣士の柳。疲労困憊としている隊士は座り込んだ状態から柳のことを見上げ、その特徴から通達にあった鬼殺隊の協力者であることを察した。
そして協力者を告げると共に教えられた注意事項。協力者の柳は鬼と人間を区別せず、邪魔をすれば誰であろうと斬る。そのため、鬼の近くに居る一般人を人質に取られるよりも早く避難させ、柳の邪魔にならないように距離を取り、必要に迫られれば助太刀すること。それが耀哉から出された指令だった。
鎹鴉から聞いた時は、何故そんな異常者の面倒を鬼殺隊である自分達が見なくてはならないのかと反発したものの、実際に見て理解した。これは同じじゃない。自分と同じ人間じゃない。醸し出される雰囲気や覇気から、鬼とは違う怪物だと、本能で理解してしまった。悪いことはしていないのに、柳に見つからないようにするためか気配を殺し、息を潜めようとする肉体。しかし柳は、座り込む隊士の目の前にいつの間にかしゃがみ込んでいた。
「~~~~~~~~~~ッ!?」
「脚の骨が完全に折れている。内出血が29箇所。筋肉の断裂が6箇所。肉離れ3箇所。骨に罅が5箇所。肋まで3箇所折れているな。出血も多い。その怪我なら放って置けば少しずつ死ぬことだろう」
「な、何でそんなに詳しい怪我が……」
「なに、お前程度ならば一生わからん話だ。それよりもお前、死にたくはないだろう?」
「し、死にたいわけないだろ……俺は鬼を殺すために鬼殺隊に入ったんだ!まだ全然鬼を殺してない!こんなところで止まっていられないんだ!」
「そうだな。そこら辺は興味ないが、死ねないだろうな。ならば生きたいだろう?そのためなら何でもするだろう?」
「あ、あぁ……」
「そうか。それなら──────都合が良い」
しゃがみ込んで隊士の体を眺めていた柳は立ち上がった。何を言いたいのか分からなかった隊士は、自身から少し離れて止まり、振り返った柳に頸を傾げた。……が、柳が半身になって腰を少し落とし、左親指で鯉口を切って右手で柄を握ったのを見て、サァッと顔を青くした。
鬼と人を区別せず、また差別せず、平等に斬り殺す柳。今取っている構えから居合切りであるのは当然として、標的が明らかに自身であることが分かり心臓が止まりそうになる。醸し出される、恐ろしくおどろおどろしいナニカ。柳から感じるそれに、悲鳴すらも上げられない。
「動くなよ。いくら私とて慣れないことは難しいんだ。勝手に動くと死ぬぞ。死にたいなら構わんが。だがそれだと
「────────────ッ!?」
「シィイィィィ………………──────」
不可視にして無音の抜刀。謎が多い異彩の剣士柳の日輪刀が負傷中の隊士に向かって放たれた。軌跡は目にて追えず、音を聞き取れず、察知は不可能で、回避は到底間に合わず、防御は赦されない。まさに一刀必殺のそれ。
誰かと高めあうことなく、研鑽すらせず、持ち前の斬りたいという歪んだ意思と剣の才能のみで、柳はたった独りで次の領域に辿り着く。それを祝福するが如く、夜の満月が柳を照らし続けた。
柳
もはや危険物扱い。しかし事実であるため否定しづらい。
斬ることが好きであることと、本人の剣の才能のみで『柱』に匹敵する力を手にした怪物。人と違う価値観や考え方をしているため、呼吸の型を必要と感じていない。
恐らくどの系統の呼吸も扱えるが、教わっていないため使えない。使えるのは常中のみ。あとは走り続けるための疲労軽減の呼吸法。
教えられていないため型は何も使えず、逆を言えば型を一切使わないまま下弦の鬼を複数体殺してきた。
どうやっているのか知らないが、他者の怪我を事細かに看破することができる。
産屋敷耀哉
危険物取扱者の免許持ってないのに柳という劇物を扱おうとしている当主。自分達にもいくらかのダメージは来るかもしれないが、鬼舞辻の首をぶち落とすためならば仕方ないと考えている。
大変な劇物を鬼舞辻の懐に忍ばせて爆破してやろうとしている。
一般隊士
ちょうど運悪く居合わせてしまった普通の鬼殺隊隊士。結構重傷だったので逃げられなかった。