鬼滅の刃  とある一剣士の物語   作:鬼滅ニワカ侍Part2

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第7刃  灼かれた傷口

 

 

 

 

「──────ぐ、ぐぞぉっ!ごろずっ!ごろじでやるッ!!お゙え゙ッ……ッ!!」

 

「ふぅん……?本当に効果があるのか。眉唾だと思っていたが、やはりこういったものは一度目にせんと信じられんな」

 

 

 

 ──────何で私、こんな危険人物とこんなことしてるんだろう……。まあ、助かってはいるんだけれど……。

 

 

 

 ある女隊士は、四肢を斬り落とされながら試作品の毒で悶え苦しんでいる鬼をしゃがみ込んで興味深そうに見ている柳を眺めて、何とも言えない表情をしていた。隣には姉の隊士が居て、そちらを見ても同じような表情をしている。

 

 彼女の名前は胡蝶しのぶ。姉は胡蝶カナエ。どちらも鬼を狩る鬼殺隊の隊士であり、姉に関しては現『柱』という立ち位置にもなる。2人は何故か柳と行動を共にしており、捕まえた鬼で毒の実験をしていた。

 

 では何故そのようなことになったのか。それを説明するには少し前に遡らなければならない──────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────今回は随分と移動したな」

 

「此処に鬼が1匹居るとの噂!狩って狩って!」

 

「1匹?気配は2匹だぞ。情報伝達の間違いか、気づかなかったかだな」

 

「えっ……た、食べないで……」

 

「食わん」

 

 

 

 柳の肩に留まった鎹鴉が器用に目をウルウルさせているが、いくら腹が減ったとしても鴉を食う気にはなれない。どうやらこの鎹鴉、ミスをしたら食べられる……というかお仕置きされると思っているらしい。別にしないのに。してもいいが(割と本気)

 

 案内されるがままにやって来た柳は微かな血の臭いと隠し切れていない鬼の気配を頼りに真っ直ぐ夜の森の中へ入っていった。辺りが真っ暗でも、気配で他者の動きを感知できる柳にとっては見えているも同然。自然の気配も感じ取り、障害物すら完璧に避ける始末。

 

 最短の距離で鬼の元まで向かった柳は、人間というご馳走にありついている鬼を見つけた。貪り食うことに夢中で気がついておらず、柳はその場から掻き消える速度で移動し、擦れ違い様に鬼の頸を斬った。頸が落ちて転がり、呆然とする鬼。斬られたと判った時には既に肉体の崩壊が始まっていた。

 

 

 

「さて、もう1匹だ。近くに鬼狩りが居るが、まあいいだろう」

 

 

 

 泣きながら崩れていく鬼に一瞥もせず、次の標的の元へ走った。鎹鴉は空を飛んで柳を探す。速度では到底追いつけるものではないため、基本上から探すようにしている。と言っても、柳の速度が速すぎて大抵は見失ってしまい、鬼を狩った後に見つける羽目になっているが。

 

 音も立てず、風を巻かず、柳は目にも留まらぬ超速度で移動し、目的の鬼の元へやって来た。鬼はどうやら出会ってしまった鬼殺隊の隊士に命乞いをしているようだった。膝を付いてどうにか見逃してもらおうとしているところで、柳は関係無いなと呟きながら鬼の頸を刎ね飛ばした。

 

 

 

「も、もう人間は襲わない!約束する!……あぇ?」

 

「……っ!?」

 

「あ、あなたは……」

 

「食わねば腹を減らすクセに何を約束するのやら、守る気が無いのが見え見えでいっそ清々し……何だ、私を知っているのか?鬼狩り」

 

 

 

 命乞いは無駄だった。助けてもらおうと必死になっていたら、後ろから頸を斬られてしまい、鬼は死んだ。いつの間にか現れて、鬼の頸を刎ねていたことに2人居る内の1人が驚愕したように瞠目し、もう1人は柳を目にして少し驚いた様子。

 

 柳としては、まるで自身に以前会った事があるようなニュアンスで言われても見覚えがない。というより、基本他人に興味が湧かないので覚えていないのだ。

 

 

 

「一応対面してたんだけどなぁ……えっと、本当に最近なの。覚えてない?」

 

「知らん」

 

「あなたがお館様に呼ばれた時、私もその場に居たのよ?私は『花柱』の胡蝶カナエ。こっちは私の妹のしのぶ。ほら、傷を負ったら蝶屋敷で~って言われたでしょう?」

 

「……?あぁ。確かにそんな話もあったな。生憎、私は鬼に怪我を負わされたことがない。滅多なことでは使わないと思って忘れていた」

 

 

 

 これまでに傷を負ったことがないと言う柳に苦笑いが漏れる。なんとなく嘘は言っていないと感じたからだ。『柱』でも駆け出しの頃には必ず怪我を負う。そういったことがないままここまできたということは、元から今レベルの力は手にしていたと考えてもいい。

 

 やはり、柳は強者だ。人間性を見て認めまいと、事実は変わらない。事実、突然やって来たとはいえ『柱』である胡蝶カナエやその妹である胡蝶しのぶは柳の動きの一切を見切れなかった。抜刀するところも、納刀する場所すらも見えなかった。

 

 忽然と現れたと思えば、鬼の頸を斬り終えていた。その手際に末恐ろしいものを感じながら、人がいいカナエは柳に対して美しい(かんばせ)に微笑みを浮かべながら対話を試みた。もちろん、顔を合わせている筈なのに覚えられていないのは多少なりともショックだったが。

 

 

 

「ここには鎹鴉に教えられて?」

 

「そうだ。お前達のところで使っている鴉は使えるな。私が感じ取れない遠方の情報を渡してくれる。お前達は何をしていた?鬼が相手ならばさっさと頸を斬ってしまえばいいものを」

 

「あの鬼の人と分かり合えるかな?って思ったの。私は鬼に襲われた人を助けてあげたい。でもそれと同じように鬼も救いたいの」

 

「……?鬼を救う?何からだ。言っている意味がわからん」

 

「鬼だって好きで鬼になったわけじゃないわ。鬼舞辻無惨に鬼にされているだけなの。鬼の中には優しくて人のためになってくれるような人が居るはず。私は鬼と仲良くなりたいの」

 

「………………………。なるほど、イカレか」

 

「ちょっと!いきなり現れておきながら姉さんを悪く言わないで!」

 

 

 

 鬼を殺す隊士をしておきながら鬼と仲良くなることを夢見る胡蝶カナエに、柳は理解ができなかった。鬼と仲良くする?鬼を殺しているのに?そもそも人間が食料である奴とどうやって仲良くするというのか。腹を空かせたら自身の肉をくれてやるのか?益々以(ますますもっ)てイカレ。

 

 鬼と人を区別せず殺す柳を以てしてもイカレていると判断されたカナエの前、柳との間の空間に体を滑り込ませ、見上げながら眉間に皺を寄せて怒った気配を醸し出す妹の胡蝶しのぶ。小さな体なので見上げており、腰に手を当てている。表情だけで怒っていることは判り、姉を悪く言われたことに対して怒っている様子。

 

 柳は立ちはだかるしのぶの顔を見下ろし、それから頸、胸、腹、腿、脛、足と視線を下げて、また上に戻っていくと肩から腕、指先まで視線を向ける。まるで観察されている視線を感じ取り、しのぶは腕で体を抱き締めるように防御して少し後退った。

 

 

 

「ひ、人の体をジロジロと……っ!この変態!」

 

「……?お前に性的興味などない。それより……」

 

「せっ……っ!?あ、あなたねぇ……っ!」

 

 

 

「お前──────鬼の頸が斬れんだろう?」

 

 

 

「──────ッ!!」

 

 

 

 確信を持って言われたことに、肩が跳ねた。胡蝶しのぶ。彼女は歴とした鬼殺隊の隊士である。最終選別を生き残り、隊士として認められた。だがその実、彼女は鬼の頸を斬ることができない。小さな体から判る通り、筋力が足りず硬い鬼の頸を斬るだけの力がなかった。つまり、鬼殺隊で唯一、鬼の頸を斬れない隊士なのである。

 

 だがそれは知る者が少ない。言っていないからだ。しかし柳は見ただけで看破した。なんで……と掠れたような声で聞き返したしのぶを無視して、柳はまた同じようにしのぶの体に視線をやった。肩から指先に掛けて、それと脚と腰。それらを見て、やはり無理だなと口にした。

 

 

 

()れば判る。お前に鬼を斬るのに必要な最低限の筋肉が備わっていない。その小さな体では腰を如何に使ったとしても居合でも頸を落とすのは難しい」

 

「そんなの……わかってます。でも仕方ないじゃないですか。私は鬼の頸を斬れなくても、鬼が憎い。だから鬼殺隊に入ったんです。そう簡単に諦められません。例え、あなたみたいに私のこと何も知らない人に何を言われたとしても!」

 

「ふぅん……?まあ、斬るのは無理だな。しかし、良い脚の筋肉をしている。体の小ささもあって体重が軽く、その分で私には到底及ばんだろうが他の者には出せない速度で動けるだろう。視た限り、『柱』であるお前の姉よりお前の方がより速く動けるはずだ。それに加え、斬るには適さないが()()動作に必要な筋肉はついている。となれば、速度を生かした突き主体の動きを極めれば『柱』に匹敵する力を手にするだろう。……まあ突きでどうやって鬼を殺すのかは知らないが」

 

「た、確かに私は速さで鬼を翻弄するのが得意ですし、突きの技なら育手からもよく褒められましたけど……どうしてそこまで細かく……?」

 

 

 

 しのぶとはまだ会って10分程度の仲である。しかし柳はしのぶの肉体を知り尽くしていた。小柄で華奢なために鬼の頸を斬るための筋肉が備わっておらず非力。だから育手からも鬼殺隊になるのは諦めろとまで言われ、最後は見放されてしまった。

 

 しかし大切な人達を鬼に殺されたしのぶにとって、鬼は憎しみの相手。殺すためならばどんな努力も惜しまなかった。無駄だと言われても型の鍛練を繰り返した。今では自分に合った動きを見つけて新しい呼吸を創り出そうとしている。『柱』になった姉に見合った凄まじい才能を、彼女は持っていた。

 

 速度と突き関しては素晴らしいと柳が言うが、それでは鬼を殺すことはできない。やはり鬼殺隊なんぞ辞めた方がいいだろうなと心の中で思った柳に、しのぶは突き主体でも鬼を殺せるようになりますと言い放った。どうやって?当然の疑問の声に、しのぶは毒で鬼を殺すのだと宣言したのだった。

 

 

 

「どく……毒か?無駄に生命力の高い、あの鬼を毒なんぞで殺そうと言うのか?」

 

「私は幸いにもそういった知識は持っています。鬼に投与して実験を重ねれば、必ず作り出してみせます。前例が無いのは百も承知です。だからと言って私は諦めません!前例が無いなら私が、唯一鬼の頸が斬れない代わりに毒で鬼を殺す剣士になります!」

 

「ふふっ。しのぶはすごいのよ?頭がすっごく良いから、薬や毒に関する知識は私以上なの!なのに真面目で努力家だからぐんぐん知識を付けていって……私の自慢のかわいい妹なの!」

 

「ちょ、ちょっと姉さん!そんなこと言わなくていいからぁ!」

 

 

 

 知らない相手に我が子のように自慢するカナエに、頬をほんのり赤くして怒るしのぶ。柳は顎に手を当てて話を呑み込んでいた。柳にとって、鬼は頸を斬るか太陽の光に晒すかしなければ死なない存在だった。毒で殺そうなどと考えたこともない。というより、毒が効くとは思えなかった。

 

 しかしそれでもやってみせると宣言した。しのぶの目は真っ直ぐでありながら、鬼に対する憎しみの炎が灯っていた。実に良い目だと思った。そういうおどろおどろしい感情が宿った目は判りやすくて好きだ。しのぶ程真っ直ぐに鬼を憎んでいる人に会った事がなかった。

 

 そして、柳は斬る行為そのものが好きではあるが、人並みには好奇心がある。頸を斬らなければ死なないと思っていた鬼が毒で死ぬ。全く前例が無い殺し方だ。故に少し興味が湧いた。柳は鎹鴉を呼び寄せて1番近くに居る鬼の情報を寄越せと言って場所を聞き出し、方角を定めるとしのぶの背に手を当てて歩き出してしまった。

 

 背を押されて歩くように促されたしのぶは、困惑した様子で歩く。何をしているんですか?と聞くと、日が昇らない内に鬼を見つけて捕まえ、毒を投与するところを見せろと言った。

 

 

 

「えっと……それは私の実験を手伝ってくれるってことですか?」

 

「私は本当に鬼に毒が効くのか見てみたい。お前は鬼で毒の実験をしたい。利害の一致だ。鬼は捕まえてやるから、その風景を見学させろ」

 

「それは……私にはありがたいお話しですけれど、あなたに鬼を捕まえることができるんですか?さっきは奇襲だったから鬼の頸を簡単に落とせましたけど、捕まえるとなるとかなり難しいですよ?暴れますし」

 

「あっ、しのぶ?言い忘れてたけど……その人が柳さんよ。お館様から通達があったでしょう?」

 

「柳……って、あの『柱』と同じ強さで人も斬るっていう殺人鬼みたいな人の……?」

 

「何を通達したんだ産屋敷の奴は。まあ、その殺人鬼の柳で合っている。鬼の捕獲なんぞ容易だ。腕と脚を斬り落とせばいいんだからな」

 

「……鬼は再生するんですよ?何を言ってるんですか?もしかしてそんなことも知らないんですか?」

 

「はッ……──────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────それはお前達が知らなすぎるから言える言葉だな」

 

 

 

「いでぇ!俺の腕がァっ!?脚がァっ!?なんで……なんで再生しねぇんだよっ!?どうなってんだっ!?クソっ!クソっ!このクソ鬼狩り共めっ!絶対にぶっ殺してやぶぇっ!?」

 

「やかましい。黙れ」

 

 

 

「切り口が焼けて、焦げてる……?再生も全くできてないみたいだし……何よこれ……?姉さん、こんなの見たことある?」

 

「……いいえ。初めて見たわ。抜刀するところも見えなかったから何とも言えないけど、普通に斬ったらこんなことにはならないわよね?」

 

 

 

 鎹鴉に導かれるがままに鬼の元へやって来た柳一行は、鬼を1匹捕獲した。それも、腕と脚を斬り落としてだ。ただ、鬼の再生速度は凄まじく、四肢を斬り落としたとしてもすぐに生えてくる。それは常識だったのだが、しのぶとカナエの常識は容易く砕かれた。

 

 捕まえられた鬼の四肢は斬り落とされており、その切り口の断面は太陽に灼かれたように黒く焦げていた。それに鬼が尋常じゃないほど痛がっていて、斬り落とされた部分の再生ができていない。初めて見る状態に、しのぶとカナエは毒の実験のことを忘れて観察していた。

 

 

 

「おい。いつまで見ているつもりだ。私は鬼に毒が効くところを見るためにわざわざ殺さずに捕まえたんだ。さっさとやれ」

 

「あ、ごめんなさい。……あとで教えてもらおうかな……?」

 

 

 

 ──────鬼が再生できないように斬ることができるなんて初めて聞いたわ。柳さんは普通にやってのけたけれど、今の『柱』に同じ事ができる人はまず居ない。こんなの、皆ができるようになれば悪い鬼をより多く倒せるかも知れない!……けど、相手は柳さんだし簡単に教えてくれるとは限らないものね。まずはお館様に報告しましょう。

 

 

 

 まだ謎の多い剣士、柳。なんとなくやってみせた技術は長らく鬼と対立している鬼殺隊ですら知らないものだった。これがあれば鬼に対して有利に立ち回ることができる。しかし相手は柳だ。無理強いをすれば痛いしっぺ返しを受けるのは明白。

 

 そこでカナエは今回あった出来事を鬼殺隊の頭である耀哉に報告しようと考えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 








鬼殺隊でも知らない技術で鬼の再生を妨げていた。基本頸を斬って終わりなので使えるが使わない技術。

斬ることが好きだが、人並みには好奇心がある。そのため珍しいものを見つけるとつい観察してしまう。今回は鬼を毒で殺そうとするという世にも珍しいものだったため、興味が湧いて少し協力した。

胡蝶しのぶに戦い方について教えたのは、その時の気分。というより、鬼の頸を斬るだけの筋力がないのにどうやって鬼狩りをやるつもりなのか気になって話していた……という感覚。
ものすごくレアなので、滅多に無い。多分、教えてくれと言われた教えることは無い。

ちなみに、胡蝶カナエの鬼と仲良くするという思想は全く理解ができなかった。




胡蝶カナエ

鬼殺隊最高位の現『柱』で、胡蝶しのぶの姉。

鬼を狩る鬼殺隊に所属し、その強さから最高位に位置しているものの、鬼とも仲良くなりたいという歪んだ思想を持つ。大切な人達を鬼に殺されてしまっているというのにこんな思いを抱くのは、底知れぬ優しさなのか柳が言うようにイカレているのか不明。

柳がやって見せた傷口を灼いた技術は見たことも聞いたこともない。これは報告しないと!と鎹鴉に事情を説明して言伝を頼んだ。

人も斬る柳には警戒しているが、妹の剣士として良いところを教えてくれたので感謝している。




胡蝶しのぶ

体が小さく、筋力が足りないため鬼殺隊に所属しておきながら鬼の頸が斬れない剣士。

姉とは違って心の底から鬼を憎んでおり、例え頸を斬れなくても殺す術を確立させようと日々研究している。頭が良く真面目な性格のため、医療に関する知識から毒を造り鬼に投与して実験を重ねている。

完成すれば、鬼の頸は斬れないが毒で殺す唯一の存在になる。

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