ピンガ「俺が生き残る為にオリキャラ生やした」 作:ていとくン
☆9:popo助様、神天宮様、ショーンKK様、イルk様
高評価ありがとうございます!本当に励みになっています!
更新めっちゃ遅くなってすみません……シンプルに文章が思いつかなかったのと仕事が忙しかったっす……他にも色々ありまして、直美さんドナドナ会並みに話作るの難しかったです。マジで。
あと今回、原作最新話(だったはず……ラムが出てくるやつです)のネタバレがちょっとだけ入っています。ご注意下さい。
「おっちゃん!蘭……姉ちゃん!」
「あっ、コナン君!良かった〜、ちょうど呼びに行こうと思ってたところだったの」
「へ?呼ぶ……?どうして?」
「
(クソッ……早速一手打ってきやがった!)
息せき切って部屋に駆け込んだコナンの視界に入ったのは、蘭と小五郎の姿。そして2人が囲むテーブルの上に鎮座している大きな寿司桶。この寿司桶は事務所の下に居を構える"いろは寿司"のもので、ここ最近は脇田が腕前を磨く為との建前で時々差し入れをしていた。
そう、
しかもよりにもよって、今回の寿司は特上である。小五郎は目をこれでもかと輝かせ、そこに割ってきたコナンに胡乱げな視線を向けてきた。
「ちっ、蘭!これは脇田さんが俺に差し入れてくれた寿司だぞ!しかも特上の!お前ならともかく小僧にまで──」
「お父さん?」
「うっ!?……わぁったよ!おいコナン、お前にも特別に、特別に!分けてやるから静かに座ってろ!」
にっこり笑って拳を構えた蘭にビクリ!と体を震わせた小五郎は、不機嫌そうな様子ではあるもののコナンに着席を促すと、直ぐにリモコンを取ってテレビをつけた。
「さぁてさてさて……頼むぜ愛しいお馬さん!俺の夢と未来を乗せて!栄光の架け橋を渡ってくれよぉ!」
「もう……お父さん!食べてる時にまで競馬はやめてよ!」
「──いいか蘭、よく聞いてくれ。今回のレースはアツいんだ。特別にな。だからこそ俺は、お馬さんの活躍をこの目で見届けなきゃならん!」
「もう……」
「おっちゃん……って違う!んなこと言ってる場合じゃないんだ!急いでここから離れないと!!」
小五郎の常と変わらぬダメ親父っぷりにしばしげんなりした顔をしていたコナンだが、すぐに蘭と小五郎へ避難を促す。
当然、事態を何も把握していない小五郎からすれば首を縦に振る理由などなく。お楽しみの時間を邪魔されそうだからか、不機嫌さを隠しもしない。
「うるせぇ!いいから静かに座ってろ!俺はこれからご馳走を食べつつ世紀の一戦を見届けるんだ!お前に構ってる暇なんかねぇ!」
「だからそんなこと言ってる場合じゃないんだって!」
「何が!」
「シェ……灰原を拉致した連中が、ここに向かってるんだ!」
「哀ちゃんを!?」
パシフィック・ブイでの一件が終わったのは、つい昨日の話だ。流石に小五郎の顔にも真剣さが宿る。
尤も、それはほんの一瞬だったが。
「そう言えば、目暮警部からも実行犯が捕まったって話は聞いてねぇな……。だとして!何でそんな奴らがここに来るんだ。用事なんかねぇだろ!」
「それは……俺を、拉致する為だ」
「お前……!このっ!」
つかつかと歩み寄ってきた小五郎。直後、コナンの頭からゴチン!と派手な音がした。星も飛んだ気がした。
頭を押さえてうずくまるコナンの頭上から、小五郎の声が降り注ぐ。普段の癇癪とは違う、本気の怒りが籠もった声に思わずコナンが目を見張って顔を上げる。
「おいコナン。ごっこ遊びにしたって、言っていいことと悪いことがあんぞ。あのこまっしゃくれたガキはお前のダチなんだろうが!その子が攫われたことまで、お前のお遊びに使ってんじゃねぇ!」
「おっちゃん……いや、違うんだ!」
小五郎がごく稀に見せる、肌がひりつく程の気迫。彼の身内が事件に巻き込まれた時など、毛利小五郎にとって引くことの出来ない一線を越えてしまった時にのみ放たれるソレ。
灰原の拉致をネタに遊んでいると勘違いしたことで彼にスイッチが入ってしまった事に、コナンは密かに感心する。
(普段はダメダメなおっちゃんだけど、こういうところがあるから憎めないんだよな)
ただ、残念ながらこれはお遊びではない。だからこそコナンは粘り強く小五郎に訴えかけ、それ故に彼の視線も一層険しさを増す。
「FBIからの情報なんだ!まず間違いない!」
「なんでお前がFBIから情報もらえるんだよ!でまかせも大概にしろ!」
「違う!本当なんだ!だからマジで急がないと!」
「じゃあ証拠を見せてみろ。んなものがあるんならな!」
江戸川コナンになってからの付き合いも、それなりに長くなってきた。だからこそ分かる。スイッチが入ってしまった今の小五郎は、並みの言葉では動いてくれない。
たかが5歳の子供がFBIとのパイプなぞ持っている訳が無い。全くもってその通りだ。──
(俺が、工藤新一であることを、明かすしかない)
母親に世界的名女優を持ち、自身も高校生探偵として名を轟かせた工藤新一なら。警察関係者に幾人もの知人を持っている工藤新一なら。FBIとのコネクションにも説得力が増す。
だが、そこまで考えてコナンはテーブルに鎮座した寿司桶を見る。
(でも……あそこには多分、盗聴器が仕掛けられてる)
この局面で脇田から差し入れられたものに、何もない筈がない。こちらの会話はラムに筒抜けだ。
だが、盗聴器を取った時点でコナンがラムの正体に気付いたことに気付かれる可能性が高い。
脇田はすぐさま行方を眩ませるだろう。対"組織"戦線で負け越しな此方側が持つ数少ない切り札が、使う間もなく消えてしまう。
しかし、盗聴器を付けたまま話をすれば、江戸川コナン=工藤新一であることが"組織"に知れ渡る。蘭が、狙われる。
ベルモットから電話を受け取る少し前、バーボンもとい安室から電話があった。端的な報告ではあったが、曰くベルモットの工作によって"組織"は老若認証システムに対する信頼を失い、興味を無くしたと。
つまり、"組織"は今なお江戸川コナン=工藤新一であることを知らない。
(直後の電話で、ベルモットは"ラムが江戸川コナンに興味を持った"と言っていた。工藤新一じゃなく、今の俺に)
何故、ラムが自分に興味を抱いたのかまでは分からない。だが、江戸川コナンの正体を未だ"組織"が掴んでいないのであれば、現状人質としての価値が薄い小五郎と蘭を敢えて狙う理由はない。今この場さえ切り抜けられれば、2人はひとまず安全だ。
だが、この場からこの2人を動かす方法が、自身の正体を明かす以外に、ない。そこまで考えて、ふと思いついた。
(いや……ある。俺がこの場を離れればいい。盗聴器越しにそれを知ったラムは、あくまで他人の2人より俺の確保を優先する筈だ)
ここを離れ、すぐに赤井を通じて2人の保護を頼めばいい。最も安全で、確実な方法だ。
だがその場合、今後"組織"を打倒するまで、2人には会えなくなるだろう。盗聴の可能性も考えれば電話すら危うい。
江戸川コナンとして生きた数ヵ月。その間出来た接点の一切を、完全に断ち切らなければならない。
少年探偵団も。灰原も。阿笠博士も。小五郎も。……蘭も。
この前の修学旅行で、ようやく思いを伝えたばかりだった。他の誰より惚れ込んだ人と、本当の意味でようやく一緒になれたのだ。
だけど、ここで別れれば。次、いつ会えるか分からない。握りしめた拳が、真っ白になる。
(お前ら"組織"は、また奪うのかよ。俺から、全部……!クソッ……クソッ!!)
嫌だ。別れたくない。もっと、一緒にいたかった。
──でも。だけど。それでも。
小五郎と蘭が、皆が"組織"の手にかかるよりかは、何億倍もマシだ。
震える足に叱咤をかける。小五郎と蘭の前で、最後の芝居を打とうとしたその時。
「お父さん、すぐに荷物をまとめて」
「はぁ?蘭、お前まで何言ってやがる!?」
「蘭……姉ちゃん……?」
蘭が、すっと立ち上がった。と思えば、コナンの前でしゃがみ込む。
蘭はまるで空手の試合に挑む時のように鋭い目をしていたが、ややあってそれがふわりと和らいだ。
「うん、同じ。あの時と同じ顔してる」
「あの時……?」
「そう。哀ちゃんが攫われちゃった時、コナン君は駐車場で私を庇ってくれたでしょ?あの時とおんなじ顔」
蘭が浮かべる陽だまりのような笑みに、コナンの目が引きつけられる。今が一刻を争う状況であることを、コナンは暫し忘れていた。
「ふふっ……なんか、昔のこと思い出しちゃった」
「昔?」
「昔、って言うほど前でもないけどね。──
コナンは思わず息を呑む。……蘭と"組織"が関わった事件は少ない。ツインタワービルと東都タワーは、その数少ない例外だった。後者に至っては、幹部のアイリッシュと蘭が直接拳を交えている。
今この局面でその名前が出たことにコナンは冷や汗をかくが、どうやら蘭は"組織"のことを知っている訳では無いらしい。
「ッ!……お、覚えてるよ。蘭姉ちゃんが僕のこと助けてくれたもんね」
「ううん、違うよコナン君」
「違う?」
「うん。本当はね、
「僕が……蘭姉ちゃんに?逆じゃなくて?」
「違うよ。……
知らなかった、と思わず言いかけた自分をコナンは強く恥じた。
いくら空手が強いとはいえ、蘭は普通の女子高生だ。燃え盛るビルに閉じ込められて、銃口を突きつけられて、怖くない筈がない。
それでも、蘭は恐怖に耐えて自分を守ってくれた。それを喜んでいる自分に、コナンは強い羞恥心と罪悪感を覚えた。
ふと横目で見ると、娘が恐怖していたことを今更ながら知らされたからか、小五郎も悔しさを噛み潰したような顔をしていた。
「……でもね、あの場には私1人じゃなかった。どっちもコナン君がいたの」
「僕が……」
「そう。コナン君が一緒にいてくれるって、コナン君を守らなきゃって。そう思ったら、あれだけ怖かったことが急に何でもなくなっちゃった。……おかしいよね。コナン君を助けるつもりだったのに、コナン君に助けられちゃった」
「……蘭、姉ちゃん……」
「だから私、コナン君の言うことなら信じる。コナン君はこんな嘘つく子じゃないもん。……大丈夫!何かあっても、私が守ってあげるから!」
だからお父さんも早く家を出る準備して!と小五郎を急かす蘭。小五郎は寿司桶と蘭の顔を交互に見てから、頭をバリバリと掻きむしる。
「あ~クソ分かったよ!これで何もなかったら覚えとけよ!……ん?おいコナン!?」
「もう!そういうこと言わないの!ほらコナン君も準備して……ど、どうしたのコナン君!?」
「え?何が──」
「どうしたってお前、泣いてるぞ?」
「へ?……あ、あれ?おかしいな〜……」
(なっさけねぇ……俺が蘭を守るなんて、どの口で言ってたんだか。守られてたのは俺の方じゃねぇか。俺のヘマで巻き込んでおきながらよ……)
事件の匂いを嗅ぎつければ首を突っ込まずにはいられない、そんな性分を悪いと思ったことはない。
ただそれでも、自分の事情に蘭を巻き込んでしまったことに対する罪悪感はずっとあったのだ。だからせめて、彼女の事は自分が守ると、そんなつもりだった。
蓋を開けてみれば何のことはない。工藤新一が心底惚れ込んだのは、自分よりよほど強い心を持つ女性だったということだ。
「ごめんね!コナン君がそんなに怖がってたこと……私気づけなくて……」
「ううん、いいんだ蘭姉ちゃん!大丈夫、大丈夫だから!」
「大丈夫って──」
「それに、ようやく決心がついたからさ」
「決心?」
「うん。全てを明かす決心が」
(もうやめだ。保護者ヅラすんのも……江戸川コナンを演じるのも)
目元を乱暴にこすり、涙を拭ってコナンは笑った。
どこかで、傲慢さと執着心があったのだろう。自分なら蘭を守れるという傲慢さが。本来の姿ではないけれど、江戸川コナンとして蘭や小五郎と過ごす今の生活に対する執着心が。
だが、それも終わりだ。蘭の言葉で、ようやくコナンは全てを振り切れた。
毛利蘭は、自分がいなくても大丈夫だと。"組織"と決着をつけるその日までは、むしろ自分の存在が蘭に危害を及ぼしうる事を。彼女の身を真に案じるのであれば、今の自分は距離を置くべきなのだと。コナンはようやく心の底から自覚した。
ラムの事も、今この時だけは忘れることにした。FBIには既に正体を伝えてあるのだ。公安とも手を組んだ彼らなら、きっと間に合う。
毛利蘭が江戸川コナンを信じてくれたように、工藤新一も戦友達を信じることにした。今、そう決めた。
江戸川コナンが、工藤新一が、全霊を賭して"組織"と対決する覚悟を改めて決めた瞬間だった。
(俺は、必ず"組織"を倒す。──それまでお別れだ、蘭)
「蘭姉ちゃん……いや、蘭。それに小五郎のおっちゃんも、聞いてほしい」
「コナン、君……?」
「何だ、改まって」
問いかけには応えず、コナンは寿司桶を持ち上げる。案の定付いていた盗聴器をつまみ上げ、2人に見せる。
小五郎はすぐに、蘭も数拍開けてそれが何なのか気づき、はっと息を呑む。そのタイミングでコナンは盗聴器を握りつぶした。
「寿司桶には盗聴器が仕掛けられていた。これを持ってきたのは、脇田さんだったよね?」
「あ、あぁ、そうだが……でも、なんで……!?」
「脇田さんは、いや、あいつは……俺を狙っているからなんだ」
「コナン君を……?」
「違うんだ、蘭。江戸川コナンなんて人間は、この世に存在しない」
「僕は……俺は、工藤新一だ」
そこから、工藤新一は全てを話した。蘭と2人で遊園地に行ったあの日、闇取引を影から伺っていたところを襲われ、毒薬を飲まされたことを。そして目が覚めたら、体が縮んでしまっていたことを。
自分をこの姿にした"黒ずくめの組織"を打倒し、元の姿に戻る為に戦っていることを。その過程で、FBIや公安とも繋がりを得たことを。
そして、パシフィック・ブイにあった老若認証システムによって、自分の状態に気づかれた可能性があることを。殺した筈の工藤新一が小さくなって生き延びている可能性を知り、その身柄を狙われていることを。
寿司屋見習いとして最近やってきた脇田は、"黒ずくめの組織"の幹部が変装した姿だということを。
流石の2人も最初は信じられない様子だったが、蘭に告白した時の言葉を一言一句違わず諳んじた様子を見て、どうにか蘭は信じてくれた。
「今まで隠してて、悪い。蘭を、2人を巻き込みたくなかったんだ。──でも、そうも言っていられなくなっちまった。文句は後で幾らでも受け付ける。だから、今は避難してくれ」
小五郎は百面相をしていた。一度に多量の情報を叩きつけられたことも相まって、感情を処理しきれていない。
対して、蘭はいっそ怖い程に静かだった。俯いたまま一言も発さない彼女に、新一の焦りが募る。
「蘭、頼む。今話せないことも、後で全部話す。だから今は──」
「新一」
「っ!……蘭?」
顔を上げた蘭。その目には強い覚悟が秘められていた。新一は思わず目を瞠る。
「いいよ、今は。聞きたいことは沢山あるけど。た・く・さ・ん!あるけど!」
「うっ……」
「今は待ってあげる。……だから、2つだけ。2つだけ聞かせて」
「何だ?」
「私も、一緒にいっちゃ駄目?」
この言葉を断ることに、どれだけの葛藤があるか。張り裂けそうな胸を無理やり押し留め、新一は蘭を拒絶する。
「駄目だ」
「……足手まといになるから?」
「違う!……そもそも奴らとの、"組織"との戦いは正面からぶつかるもんじゃないんだ。ぶつかれない、って言ってもいいかもしれねぇが」
「ぶつかれない?どうして?」
「敵に1人、とんでもない奴がいる。ピンガ……蘭がパシフィック・ブイで戦ってくれたコーンロウのあいつとは、比べ物にならない位の怪物がいるんだ。警察やFBIも、そいつに大勢殺されてる」
ラムの素性が掴めた現時点で、それを速やかにFBIへ共有出来た時点で、"組織"に対する圧倒的優位を築けている筈だった。──
こちらの戦術や戦略を個人の武力でひっくり返す、"組織"の最終兵器。彼が齎した被害を見たからこそ、新一も理解した。
あんな怪物と真っ向から対決するなど、正気の沙汰ではないと。
「そんな……じゃあ、せめて私が──」
「この前、ジェイムズさん……FBIの捜査官が教えてくれたんだよ。これからは、各国の警察や特殊部隊と連携して諜報戦で追い詰めていくことになったって。俺はその計画を練るチームに入れてもらう。だから、蘭に守ってもらわなくても大丈夫だ」
「そっ、か」
「むしろ、蘭達は警察の保護下に入ってほしい。その方が、俺も安心して事件に集中出来る」
「……分かった。じゃあ、もう一つ」
「何だ?」
どこか寂しげな顔で、それでいて湧き出る不安を必死に押し殺して。微笑みを浮かべた蘭に、新一は思わず息を呑む。
「必ず、帰ってきて。新一の姿でも、コナン君の姿でもどっちでもいいから……無事に帰ってきて」
その言葉を噛み締めるように。暫し目を瞑っていた新一は、ゆっくりと目を開ける。
黄金の意思が秘められた、決意の瞳。蘭は今度こそ、目の前の少年が工藤新一であることを心から理解した。
「あぁ、必ず帰ってくる。約束だ」
「……うん。約束だからね」
「よし、じゃあ急ごう。すぐにでも奴らがここに来るかもしれない。おっちゃん、荷物を──」
「もう纏めてらぁ!……お前、帰ってきたらちゃんと全部説明しろよ!」
「あぁ、分かってる。──行こう!」
━━━
毛利探偵事務所から300m程離れた大通り。
その路肩に停められた高級車の中で、ラムはピンガから報告を受けていた。
密かにシェリーを保護している疑惑があったアルマニャック。彼の様子を探るようピンガに指示を出していたが、報告を聞く限りラムが想定していた最悪には至らなかったらしい。ラムは内心胸を撫で下ろした。
「──成る程、アルマニャックは
『あぁ。"あの女は知り合いか?"と俺がブラフかけた時、アルは素で心当たりがないって顔してた。アイツがそういう腹芸に疎いことは、アンタも知ってるだろ?』
「えぇ。少なくとも、君を欺ける程の腕前はありませんね。とすれば、彼女は偶然の産物だと。……それはそれで厄介ですが」
『毛利小五郎側の仕込みって可能性は?』
「あり得ますね。そもそもキールに盗聴器を付けたのは推定毛利小五郎、その盗聴器はジン曰くシェリーが使っていた物と形が酷似しているとか。ならば繋がりを疑うのは至極当然です。──いずれにせよ、アルマニャックとジンを送った以上、毛利小五郎と江戸川コナンは手中も同然。話は彼らから聞けばいいでしょう」
『だな。それよりベルモットだ。……悪い、あっという間に撒かれた』
ラムはつい先程、ピンガに追加で指示を出していた。
先の電話中、明らかに様子がおかしかったベルモット。彼女を張るようメールでピンガに告げたのだが、彼の返答に眉を顰める。
「何故?まさか呑気に彼女から目を離して呆けていた訳でもないでしょうに」
『電話が切れてすぐ、バーボンに話しかけられてな。老若認証についてのことだったから無視も出来なかった。その間に部屋を出ていかれて、すぐ追いかけたが……』
「成る、程」
『バーボンもグルと見たほうがいいか?』
「現時点で断定は出来ませんが、元々彼はNOC疑惑がかかっていた男です。防諜には十分に意識を払いなさい」
『分かった。んで、今後はどうする?』
「一旦ベルモットは放置で結構。FBIと公安の動きを探りなさい。尋問の最中に横槍を入れられるのは避けたいですから」
『了解』
電話を切ったラムは、後部座席のシートに深く背を預ける。
リラックスした姿勢で愛飲の葉巻をくゆらせつつ、助手席に乗る配下へと音量を上げるよう指示を出す。すぐに盗聴器越しの音声が車内に響いた。
どうやら江戸川コナンが毛利一家に避難を促しているらしい。ラムが片眉を上げた。
(声から強い焦りを感じますね……だが、その割に行動が遅い。我々に捕捉されていることはパシフィック・ブイにいた時点で知っている筈だが、何故今まで動かなかった?)
江戸川コナンは必死の説得をしているものの、毛利小五郎の反応は芳しくない。尤も、そうなるよう計算して寿司の差し入れをしたのはラム自身だが。
しばらくの間脇田として接してきたラムの印象として、毛利小五郎はごくありふれた小市民だ。女、酒、博打と三拍子揃った誘惑に弱い俗物で見るべき才はなく。一丁前に正義感は持っているようだが恐れるに値しない。
……ただ一点、シェリーとの関わりを除いて。彼女が絡んだ案件でのみ、彼は常ならざる冴えを見せていた。そのせいもあって、ラムは毛利小五郎という人物を正確に掴みかねていた。
なので分かりやすい欲の部分を突いて足止めを行い、アルマニャックという分かりやすい解決手段を用意した。
どうやらそれは功を奏したらしい。業を煮やしたコナンは遂にFBIの名前まで出したものの、それでも小五郎は動かず。対してラムは興味深そうに目を細めた。
(FBIとの繋がりはこれで確定した。──
5歳の子供が、FBIと繋がりを持てる筈がない。ましてあの赤井と行動を共にするなど、それこそ両親がFBIであったとしてもあり得ない。
即ち、
(ピンガの訴えは正しかった?とすると、老若認証の切り捨ては早計だったか。……あのシステムの欠陥を指摘したのはベルモットでしたね)
ベルモットが提示した、老若認証システムの欠陥を示す証拠。その有効性を認めたからこそラムも最終的解決の指示を下した訳だが、その判断に疑念が生じていた。
何らかの理由により老若認証の存在を快く思っていないベルモットが、我々にシステムを破壊させるべく偽装工作を仕掛けたと見るべきかもしれない。
とは言え、システムの破壊は元より"あの方"の命令。そこまで考えて、ラムは思わず息を呑む。
(まさか、"あの方"とベルモットは、共に老若認証を不都合とする秘密を抱えている……?)
脳裏に過ぎるのは、シェリーと子供の写真。彼女が子供の姿になって逃げている、という突拍子もない与太話。
それが、与太話ではないとすれば。
江戸川コナンという子供の、到底子供らしくない数々の行動。ピンガが提出した江戸川コナン=工藤新一という仮説。
そして、工藤新一を始末したのはジンだが、その際例の薬品を使ったという報告が上がっていたことを思い出すに至り、ラムの目がカッと見開かれる。
(
"あの方"肝いりの極秘研究、APTX4869という秘薬の製造計画はラムですら全貌を知らされていない秘中の秘だった。
とはいえラムは組織の次席であり、耳に入ってくる情報も多い。一時期はシェリーの研究を監視していた事もあり、ある程度確度の高い予想は立てられた。
即ち、毒薬としての利用は副次品であり、その本質は若返り。
(性能が安定しない故に実験が繰り返されているのだと思っていましたが……メアリー赤井、そして工藤新一という2つの成功例が出現するに至り、薬の効能に確信を抱けた"あの方"がソレを服用していたのだとすれば。……今の"あの方"の目的は、秘密の独占?)
秘密を守る最も簡単な方法は、秘密を知る者を減らすこと。……薬の研究者、そしてその被験体。どちらもAPTX4869に関する秘密の塊だ。
(成る程、ベルモットがやたら噛み付いてきた理由が分かりました。──私が例の薬に関する情報の根幹に触れるのを恐れたという事か)
恐らく、"あの方"とベルモットは江戸川コナンとシェリー、そしてメアリー赤井の3名を始末するつもりなのだろう。この3人さえ消してしまえば、例の薬に繋がる情報を知る者はあの2人の他にいなくなる。
この3名のうち、ラムが手を出せるのはシェリーだけだ。メアリー赤井は消息不明、そして江戸川コナンは
彼の拉致にジンを派遣したことは、既に"あの方"も知っているだろう。ならば既に彼は命令を下されている筈だ。──江戸川コナンを殺せと。
ラムに、そしてアルマニャックに、それを止める手段はない。
(これは、早急にシェリーを押さえる必要がありますね……"あの方"は例の秘薬に関する情報と併せて、自らの情報全てを迷宮に隠そうとしている。彼女はそれらに繋がる唯一の手がかり。さしずめアリアドネの糸、と言ったところか)
ここまで来ると老若認証システムが完全に破壊出来たかどうかも怪しいところだ。ベルモットのみが密かにアクセス出来るよう、システムの根幹を何処かに移している可能性まで出てきた。
そんな彼女に先んじてシェリーを確保するには、今すぐにでも動く必要がある。それも、"あの方"に悟られぬよう密かに。
すぐさま携帯を取り出し、メールを打つ。ジンの目を盗んで密かに電話を寄越すことと、内容を確認したらすぐにこのメールを消すよう書き、アルマニャックに送信した。
携帯を懐に仕舞うラム。その顔には、不満がありありと滲んでいた。
(私だけでも50年以上、父と合わせればほぼ1世紀に渡ってお仕えしてきたというのに……何故秘密の共有相手に私を選んで下さらなかったのか。ベルモットは選んだというのに)
誰も信用しないというのであれば、まだ分かる。そういったある種の臆病さもまた、裏社会で生きるには必要だからだ。
だが、ベルモット如き小娘を懐に入れておきながら、長らく組織に、そして"あの方"に貢献し続けてきた自分を弾くというのは、忠誠心厚いラムをして容認出来ることではなかった。
幸い、まだ自分にも挽回の目はある。アルマニャックは組織ではなくラムの持ち札だ。そして彼は、シェリーの安全の為ならば文字通り
加えて言えば、彼女の潜伏先にもおおよその想定が付く。江戸川コナンの事を考えれば、八丈島で捕まえた子供は恐らく本物のシェリーなのだろう。
何より、老若認証システムによってシェリーの画像が提示された時のアルマニャックの反応を考えれば確定だ。
あの時は彼の扱いやシステムが使い物にならないという報せの方に意識が引きずられていたが、少し頭を冷やせば気付けた筈だ。──
冷静さを失うとは、自分らしくもない。そこまで考えて、思わず苦笑が浮かぶ。
(全く……分かっていて逃がしましたね?アルマニャック。直美・アルジェントの首があれば最低限面目は立つと考えていたのでしょうが……とはいえ、おかげで"あの方"に伏せた上で先んじてシェリーを確保出来る可能性が出てきました)
結果論だが、シェリーに潜水艦から逃げられたのはむしろ僥倖だった。あのまま組織に連れ帰っていた場合、彼女は密かに"あの方"の元へと送られて消息不明となっていただろう。アルマニャックとの関係も決裂していたかもしれない。
何はともあれ、シェリーが毛利小五郎や江戸川コナンの周囲にいることはまず間違いない。彼らの事務所で情報を探れば、彼女に繋がる糸が見えるかもしれない。
そういう意味でも、やはり毛利小五郎と江戸川コナンの身柄は最優先だが、その意味で最早ジンの存在は邪魔でしかない。同伴させたのは過ちだったか、とラムは苦い顔をした。
その、直後。
バキリ!
「これは……」
「盗聴器が壊された!?」
「如何致しますか、ラム様」
明確な破砕音が鳴り、盗聴器からの音声が途絶える。側近達に緊張が走る中、ラムは思考を巡らせた。
(盗聴器を壊したのは江戸川コナン。……これは、脇田兼則が私であることに気付かれたと見ていい。だが何故?
脇田が寿司の差し入れをするのはよくある事だった。確かに今回彼からすれば間の悪い話ではあるが、それだけでは疑う理由には足りない。
加えて音声から察するに、彼はたまたま寿司桶をひっくり返してしまい盗聴器を見つけた、という様子では無い。最初からそこに仕掛けられていると当たりをつけていたようだった。
つまり、脇田は元から疑われていたことになる。だが、彼らが脇田を疑うに至った理由が分からない。
と、そこまで考えたラムの顔が一気に険しくなる。
(違う……違う!
江戸川コナンは、最初から盗聴器の存在を察知していたかのようだった。つまり、
加えて、彼は恐らくシェリーを秘密裏に匿っている。であれば当然、彼女から組織に関する情報を入手しているだろう。……例えば、ラムという人物は片目が義眼であることとか。
自分の身元を隠す為にいくつかの
特にアルマニャックは、ラムが義眼であるという情報をラム自身が流していることを知っていた。彼の口は堅いが、ラム自身が流した情報であれば機密には当たらないとして、何かの拍子に話していてもおかしくはない。
そうしてシェリーに渡った情報が、江戸川コナンに渡っていないと考える方がおかしいだろう。
FBIとの間に太いパイプを持つ人間が、組織の最高幹部であるラムという存在が片目を義眼にしているという情報を持つ人間が、脇田を疑っていたというのであれば。
「エドワード、今すぐ車を出しなさい!」
「ラム様?何を──」
「急ぎなさい!ここにFBIが来る可能性があります!」
「──かしこまりました。行き先はどちらへ?」
「どこでも結構。とにかくこの場から早急に離脱します!」
「承知しました。最寄りのアジトへ──」
運転席に座っていた側近に指示を出したラム。彼もすぐさまハンドルを握りアクセルを入れようとしたが、その動きが急に止まる。
「エドワード?」
「──申し訳ございません、ラム様。出遅れてしまったようです」
キキイィィィィィッ!!
直後、耳をつんざくブレーキ音と共に、周囲を取り囲む何台もの車。
すぐさま扉が開き、銃を携えた人間が次々と現れてラム達が乗っている車に向けて銃口を突きつける。
側近達が驚きを露わにし、ラムが苦虫を噛み潰したような顔をしている中、人混みが割れて1人の人間が姿を現した。
英国軍の制式採用狙撃銃である、L96AWS。それを携えた男の、猛禽の如き鋭い目を見たラムの顔から、遂に余裕が失われた。
「直接の対面は初めてかな?ずっと顔を見たかったのだが……ようやくこうしてお会いできて光栄だよ、ラム」
「赤井、秀一……!!」
片膝を立てて真っ直ぐライフルを構えるのは、FBI最強の捜査官。
赤井秀一が、ラムの眉間に照準を合わせていた。
投稿が遅くなった理由は、仕事が忙しかったのもあるんですが他にも色々ございまして。
その①:毛利ファミリーの会話が難しい
蘭姉ちゃんもそうですが、いざ描こうとするとほんまムズいんですよあのおっさん……。映画やら原作やら斜め読みして色々こねくり回した結果の解釈がこれです。そういうことでご了承頂きたく。
その②:ラムはメアリー赤井がちっちゃくなったことを事前に想定していた
これ私にとっては思いっきり想定外で……彼女ちっちゃくなる前に川に飛び込んでましたし、ラムはあの薬を毒薬として使っていた以上、ラムは彼女のちびっこ化を知らず、またAPTX4869の本当の役割に関してもイマイチ疑っているものだとばかり思っていたんです。若狭先生との対決時に薬を思い浮かべた時も"私の知っている性能であればの話ですが"みたいなことを言っていたのでね。
なんか最新話読んでたらラムが思ってた以上にちゃんと薬のこと知ってたので、話を大幅に修正する必要が出てしまったのが遅れた要因です。すみません。
ちょっと大変だったので、今後は本誌で情報出ても反映しないことにしました。これ以上の修正は嫌じゃ!という訳で、皆様にはご了承頂きたいと思います。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。よろしければ、感想・高評価・ここすき・お気に入り登録の程よろしくお願いいたします。