水星の魔女と地球の悪魔   作:yomiyomi

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第11話「嵐の前夜 中編」

 

"とある輸送艦内にて"

 

 

「_____命は奪いませんよ。我々は地球と宇宙の格差について話し合いたいだけなのですからね」

 

地上のテロ組織『フォルドの夜明け』のリーダー、ナジが拘束した船員にわざとらしく拳銃をちらつかせながら、穏やかに話しを進める。

 

「ハハっ、話し合いだって」

 

そこに輸送艦を拿捕した張本人であるソフィ・プロネがやって来た。

拘束された乗組員達を蔑むような目で見つめる。

 

そんな目線に逆襲するかのように拘束された船員の一人が言い放った。

 

「なぜお前たちがデスルターに乗っている?あれはジェターク社のMSだ!旧型だがテロリストごときが簡単に手に入れられるものじゃない!」

 

彼の正体はジェターク家の御曹司、グエル・ジェターク

 

決闘での幾度なる敗戦から居場所をなくし、父ヴィムより退学及び子会社への参加を命じられていた。

 

「.....ふむ」

 

そんなグエルをただのクルーではないと感じたナジの手からソフィが拳銃を奪い取ると、グエルを勢いよく蹴り飛ばした。

 

「ぐッ!?」

 

「お兄さんさぁ、さっきあたしのこと見てたでしょ?ね?」

 

自分より年齢も体格も劣るであろう少女からは、凡そ想像もつかぬであろう力で壁に叩きつけられたグエルは、その顔を一層強ばらせる。

 

そんなグエルの額に拳銃を突きつけ、ソフィは迷うことなく引き金に指をかけた

 

「....っ」

 

馬乗りにされ完全に身動きが取れなくなり、怖じ気づいたグエルの眉間に銃口をグリグリと押し付けて、無邪気さを孕んだ声で少女は脅しかかる

 

「そんなに見たいんなら、もっと近くで見せたげよっか?」

 

撃鉄のジリジリという摩擦音が眉間から伝わり、グエルの脳内に死が過った。彼の額から離れた冷や汗の一滴が無重力空間を漂う

 

 

___そんな緊迫に包まれたブリッジルームの扉が開き、赤いスペーススーツを纏った男がコツコツと長靴を鳴らしながら入ってきた。

 

「話し合いの場に暴力を持ち出すのは感心しないな、ソフィ」

 

男は非常に落ち着き払った様子でブリッジ内を一見した後、馬乗りになり拳銃でもってグエルを脅すソフィを見つけ、それを優しさを込めた声で窘める。

 

「よぉ少佐、こっちの艦に用があったか?」

 

「大した用ではないさ、()()()の様子を見ておきたくてね。ナジの方こそ取り込み中だったようだな」

 

その声を聞いたソフィは目の前のグエルをそっちのけに、その「赤い男」の所へ飛んでいくと、周りを気にすることなく勢いよく抱きついた。

 

「しょーさっ!」

 

その様は主人の帰りを待っていた忠犬そのものであるが、狂犬を手懐ける赤い男にグエルは嫌疑の籠もった眼差しを向ける。

 

(.....少佐、だと?アイツがこのテロリストのトップなのか?)

 

「ソフィ、ここは地球ではないんだ。あまり強く来られると浮いてしまうぞ?」

 

「少佐のほうが重いから大丈夫だよ♪」

 

その男が現れてから、先程までブリッジに漂っていた緊迫感が嘘のように消える。ソフィのいきなりの行動に小さくため息をついたナジが「赤い男」の側に寄って耳打った

 

「では手筈通りにこのまま進めるが....構わんな、少佐?」

 

「ああ、問題はない。このままで行こう」

 

最低限の会話だけ済ませると、赤い男はソフィにくっ付かれたままブリッジを後にしていった。

ナジもそれを見届けてから「さて」と、ソフィに乱された話を本筋に戻す。

 

「ま、待ってくれ。せめて従業員は開放してくれないか?艦が必要なら明け渡す!だから....」

 

「いえ、あなた方にはこのまま我々に協力していただく。なぁに、いつもどおりに()()()()()()()()()()()()()()いいだけですよ」

 

「なっ......」

 

そう言ってほくそ笑んだナジは、部下に船長の拘束を解かせるのだった。

 

 

________________________________________

 

 

 

輸送艦の通路

 

「ねぇ少佐!この船あたしが捕まえたんだよ?凄いでしょ?」

 

褒めてと言わんばかりに目を輝かせるソフィの頭に手を落とし、髪の毛に這わせるように優しく撫でてやる。

 

「むこうの艦橋で見ていたよ。すごいじゃないか、操縦技術が前回のテストより一段と上手くなったみたいだな」

 

「やっぱり?そうだよね!あたしもそう思うもん!」

 

ソフィは男の周りをくるりと一周して再びぺったりと腕にしがみつく。

 

男が手を差し出すと、彼女は自らの頭をそのスーツ越しの手に擦り付けた。

 

「今回の作戦はとても重要なものだ。君やノレアの力が必ず必要になる」

 

「それで?あたし達はなにすればいいの?」

 

ソフィの問いに、男は船の廊下に設置された強化ガラス製の窓の外を指差した

 

「.......むこうの光が見えるかな?」

 

その指が示したむこう、大きく明るい物体が一つあり、その周りに細々とした灯りが輝いている。

それを見て男はソフィに語った。

 

「あそこには金や権力のために君たちや地球を見捨てた連中が山のように居る。今からあれを叩きに行く」

 

「じゃあ、あたしが潰すのはどれかなぁ?」

 

眼を爛々と輝かせる少女の肩に男は手を置いて応えた。

 

 

「ソフィに見えている全てだよ」

 

 

 

❖   ❖   ❖

 

 

 

"プラント・クエタ"

 

 

「ん〜!着いたぁ!」

 

「なんとかなるもんだな」

 

不安だらけだった航海の末、無事に目的地であるプラント・クエタに到着した地球寮の面々。

 

「なぁニカ!俺たち自信持って良いんじゃね?他の寮の奴らには出来ねえってことを成し遂げたんだからさ!」

 

「オジェロ、調子のらないの。操船訓練は授業でもやったでしょ?」

 

「けどこのオンボロ艦だぜ?良くやったってば!」

 

学園で操船に関する講義を受けていたとはいえ、他寮の寮艦ように充実した機能があるわけでも無く、ヤギの頭突きで損傷してしまうような危うい中古艦を、(ベルメリアの助けがあったとはいえ)生徒たち自身で目的地までたどり着かせた事にオジェロは達成感のようなものを感じていた。

 

「そういえばアムロくんは?まだ来てないみたいだけど」

 

「ん、寮艦の最終点検やってから来るって言ってたぞ?プラント・クエタ(ここ)で直せるもんは直しときたいってさ。」

 

「そっか、そんな事まで....」

 

「______誰かこのカーゴ持っていってくれるかしら?」

 

地球寮艦の方からベルメリアが寮艦の荷物を載せたカーゴを運び込んできた。その後にも荷物があるらしく、人の手を借りたがっている様子だった

 

「私やります!」

 

その前を進んでいたスレッタはそんなベルメリアの声に我先にと反応してカーゴの元へ駆けつける。

 

「ありがとう。助かるわ」

 

「はい!頑張りますっ!」

 

「お願いね」とのベルメリアの声に強く頷き荷物満載のカーゴを押していく

 

(頑張らなくちゃ...頑張らなくちゃ...頑張らなくちゃ...)

 

(頑張って、皆さんに見捨てられないようにしなくちゃ......)

 

 

アムロとミオリネが学園に帰ってきたあの夜のこと以来、スレッタは率先して困りごとや頼み事を買って出ている。

 

ミオリネに『必要ない』と言われてしまったことがどうにも頭から離れず、思い悩んだ末に出た結論がそれであるらしい。

 

ミオリネに必要とされず、地球寮の皆にも遠ざけられてしまう様な事があっては、自分の中のなにか大切なものが崩れてしまう気がする。

 

見捨てられたくない、皆の心に自身を繋ぎ止めておきたい.....スレッタは皆に『必要とされたい』と思う一心で空元気ながら奮闘している様子であった。

 

 

(頑張らなくちゃ....頑張らなくちゃ.....)

 

しかし、そんな彼女の強い気持ちが意図せずに身体の外へ現れてしまう。

 

"カチャン"

 

手をかけていたカーゴの固定ベルトを強く押しすぎてしまい、固定していた金具がスルリと外れてしまった。

 

「へっ?」

 

スレッタが呆気に取られている間に、まとまっていた筈の荷物たちがまるで意思を持ったかのように四方へ分散していってしまう。

 

「わっ!わわわっ!?」

 

散らばってしまう前に両手いっぱいに荷物をかき集めるが、あと一つが足りないことに気付く。

 

「あ、あれ?!あと一つ、あと一つが....」

 

首を上下左右に動かして辺りを確認するが、荷物らしきものはどこにもない。スレッタの額を冷や汗が伝う

 

(あ、ああ......失敗しちゃった.....どうしよう....どうしようっ)

 

(皆さんに必要ないって言われちゃう....要らないって...ミオリネさんのときみたいに.....っ)

 

ミオリネとのシーンがフラッシュバックして心臓がはねる。行方しれずになってしまった荷物のことで、後で皆になんと責められるだろうか。どういう言葉を投げつけられるだろうか。考えるだけで恐ろしい

 

 

「あ.....ぅ.....」

 

すっかり意気消沈してしまい下を向くスレッタの耳に聴こえ慣れた声が届く。

 

「探しものはこれかい?スレッタ」

 

優しみの籠もったその声にハッとして横を見ると、点検作業が終了して残りの荷物がぎっしりと乗ったカーゴを押すアムロの姿があった。

 

「あ、アムロ...さん」

 

「これが前から漂ってきたぞ。荷が解けたのか?」

 

「ぁ、や!これは....その....」

 

(お、怒られちゃう.....要らないって言われちゃう...アムロさんにも...必要ないって.......っ!)

 

目を潰してしまうほど瞼を強く瞑るスレッタ。自らが最も信頼している人に『必要ない』と言われてしまうかもしれない恐怖からスレッタは懸命に目を逸らそうとしていた。

 

だが、そんな本人の思惑は外れることになる

 

アムロはスレッタが押していたカーゴへ近付くと、乱れた荷を積み直して固定ベルトを締め直した。

 

「....へっ、アムロさん?」

 

「よし、元々金具の締めが甘くなってたみたいだ。締め直したから今度は簡単に解けたりしないさ」

 

「あ.....あ、ありがとうございますっ!」

 

スレッタは自らの想定とはまるで違った展開に多少安堵した。

 

「こちらこそ、ベルメリアさんから聞いた。荷運びを手伝ってくれて助かるよ」

 

「そ、そんな。私は....」

 

 

「私は必要なかった」

そう言いたかったが、すんでのところでその言葉を喉奥に引っ込めた。

 

「それは.....あそこの部屋だな。スレッタ、すまないが運び込んでおいてくれるかい?」

 

「も、もちろんです!」

 

こくこくと首を縦にふる彼女に軽く手を降ると、アムロはカーゴを押して廊下の奥へと去っていった。

 

 

「....助かった」

 

スレッタは改めて心の底から安堵する。『親友』であるアムロに見限られなかったことに大きく息をついたが、すぐにそんな自分に自己嫌悪してしまう。

 

「手伝うって言ったのに...荷物をバラバラにしちゃって、アムロさんにまで手伝わせて....ほんとに私は_______」

 

 

 

「つかえねーの」

 

 

 

スレッタの心臓がビクリとはねる。

 

その言葉の主は前方にいる青年、ヌーノのものであった

 

「ごっ、ごめんなさ「見てくれよこのアプリ、使えねーにも程があるって」

 

だが、どうやらその言葉はスレッタに向けられたものではなかったようだ 

 

「格安だししゃーねーだろ」

 

「やっぱ性能と値段は一緒ってことかよ」

 

 

 

「.........」

 

そんなヌーノとチュチュの会話を聞いてポカンとしているスレッタをみたリリッケが話しかけてきた。

 

「スレッタ先輩?大丈夫ですか?」

 

「あ、い...いえっ!なんでもないです〜っ!」

 

心配そうに見つめるリリッケに自らの心境を悟られまいと、気をそらすようにスレッタは足をバタつかせながらカーゴごと廊下のほうへと浮き去っていった。

 

 

 

❖   ❖   ❖

 

 

 

"プラント・クエタ 某所にて"

 

 

薄暗い一室に四人の人影が見える

 

「____『クワイエット・ゼロ』は順調のようですね、デリング総裁」

 

「それを確認するためにガンダムを寄越したのだろう......レディー・プロスペラ」

 

その中の一人、シン・セーCEOでありスレッタの母、プロスペラが言葉をかける相手は....

 

巨大企業複合体『ベネリットグループ』の総裁でありアスティカシアの理事長でもあるミオリネの父、デリング・レンブランであった。

 

「"エルノラ・サマヤ"....で、構いませんよ?」

 

核心をつくようなデリングの言葉に、己の本名をわざとらしく出して話すプロスペラ。

 

「色々と想定外続きではありましたが、先のグラスレーとの決闘でエアリアルのパーメットスコアは6に到達しました。」

 

「株式会社ガンダムも、いいカモフラージュになっていますよ。」

 

そう言うとプロスペラはスーツの内に手をのばし、デリングに近づいていく。

 

「速やかに右手を出せ、レディー・プロスペラ」

 

その行動に最悪の未来を想像し、拳銃でもってプロスペラが行おうとしている行動を静止するのは、

デリングの部下であり監査組織『カテドラル』の代表、ラジャン・ザヒ

 

そんなラジャンの手の内の銃口からプロスペラを遮るように立った男は、彼女の秘書兼ボディーガードであるゴドイ・ハイマノ

 

ゴドイは滅多に開けることのない口を開き、ラジャンに語った。

 

「....あれから20年以上は経つというのに、まだ()()が怖いのか?」

 

「....なに?」

 

挑発めいた言葉を投げるゴドイにラジャンは改めて銃を向ける

 

ラジャンとゴドイ、何やら因縁のあるだろう二人の間に一触即発の空気が流れる。

 

「やめろ、ラジャン」

 

しかし、その空気を断ち切ったのはデリング

 

静止されたラジャンは苦い顔をしつつも構えていた拳銃を懐へしまい込んだ。

 

『話を続けろ』.....デリングがそういう意思を目で流せば、プロスペラは先程自分が取り出そうとしたものを懐から取り出す。

 

「こちらを。エアリアルのネットワーク構築パターンを反映させました」

 

「これで" クワイエット・ゼロ "は最終段階に進めます。」 

 

そう言ってメモリーチップをデリングに手渡した。

 

()()私の計画だ。」

 

それを手にしたデリングは、なにかプロスペラに言い聞かせるようにそう言うと、その言葉に反応するようにバイザーの特殊レンズにデリングを映しながらプロスペラは応える。

 

「ええ、もちろんです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「........やはりそうか」

 

開発部の研究室の一角にある社長室のデスク

 

盗聴用の通信機器を耳から取り外して、椅子の背もたれに深く背を落としたのはレイオニックス社CEO、アムロ・レイの父

 

テム・レイである。 

 

 

「......もう()()まで到達してしまっていたとはな」

 

そう言って目をつむり天を仰ぐテムに秘書からの連絡が届く

 

「......何かね」

 

そうテムが返せば、デスクに設置された通信装置から秘書官の声が返ってくる。

 

『ご子息がプラント・クエタに到着されたようです。』

 

その回答にテムは再び目を開いて秘書に告げた。

 

「アムロと数分だけ話がしたい。その数分の間、私の部屋の防諜装置を起動させておいてくれないか?」

 

 

________________________________________

 

 

 

地球寮Side

 

各自が一段落した所で時刻は昼時。リリッケとスレッタの2名が地球寮全員分の昼食を購入して戻ってきたところであった。

 

「みなさんランチですよ〜!」

 

リリッケの声に反応した地球寮の面々が弁当入りのケースに集まってくる。最初にたどり着いたのは、随分と前から腹の虫が鳴りっぱなしだったオジェロ。

 

「サンキューリリッケ!どれも美味そうだなぁ〜」

 

「いろんな種類のお弁当買ってきましたから、好きなの選んでくださいね!」

オジェロに続いてヌーノやチュチュ、ティルやアリヤが並ぶ。

 

弁当を購入しに行ったスレッタも、昼食の入ったケースからふわりと漂う湯気や香りに腹の虫が喜んでいるところであった。

 

(えっと...何にしようかな)

 

いろんな種類の弁当に一瞬迎える手を迷わせるが、『やはりこれだ』と一つの弁当に手をのばす。

 

(さっき買ったときから気になってたこれ....名前はえっと、チキンオーバー________)

 

 

"ピトッ"

 

 

スレッタが弁当を掴みかけたその手に、オジェロの手が重なっしまった。

 

「「あっ」」

 

二人は同時に声を漏らして手を引っ込める。オジェロは「わりぃ」と一言スレッタに言って、別の弁当に手をのばす。

 

しかし、そんなオジェロの行動にハッとしたスレッタは、その両手を彼が取っていたであろう弁当に向けて言った。

 

「ど、どうぞっ!このお弁当、オジェロさんが食べたかったんですよねっ?!」

 

確かにスレッタが手をのばした弁当はオジェロも気になっていたもの。

 

だが彼としては、『空いた腹を満たせればどれでも。強いて選ぶなら....』と思っていた程度であり、スレッタに譲らせてまでと思うほどではなかった。

 

「いいよ、スレッタが先だったろ?」

 

「どうぞっ!」

 

深く頭を下げて譲る姿勢を崩さないスレッタに対し、「だけど....」と言葉を続けるオジェロ。

 

「っ!どうぞ、オジェロさんが食べて下さい!」

 

その弁当をオジェロに差し出すスレッタ。

『嫌われたくない』という彼女の気持ちにオジェロが折れる形となり、彼女の手から弁当を受け取った。

 

「そ、そうか?じゃあ....ありがとな、スレッタ」

 

「っはい!」

 

弁当を受け取って去るオジェロの背中を見て、スレッタは胸をなでおろす。

 

(よ、よかったぁ....嫌われずにすんだ....のかな?)

 

「なぁスレッタ、あと弁当一つくれねーか?」

 

そんな、ほっと息をつくスレッタにチュチュが話しかけてきた。

 

だが彼女の腕にはすでに弁当が3つも抱かれており、スレッタは驚いてチュチュの顔とお腹を交互に見つつ応える。

 

「えっ、あ、あの.....4つも食べるんですか?」

 

「ちげーよ!そんなに食うわけないだろ。この3つは寮艦のブリッジにいるニカ姉とミオリネ、そしてあーしの分だよ」

 

「ミオリネさんの....ですか」

 

それを聞いてスレッタは、『やはり自分はミオリネから必要とされていないのでは』という思いを募らせつつ、要求されていた4つ目の弁当をチュチュへ手渡そうとする。

 

「じゃあチュチュ先輩、このお弁当はどなたの...?」

 

「それはアムロのだ。プラント・クエタ(ここ)のMSドッグにいるっつーからついでに持って行ってやるんだよ」

 

それを聞いたスレッタはチュチュの手に渡る前に弁当を引っ込める。

 

「?なんだよ、はやくくれって」

 

「あの、私が届けに行ってます!アムロさんはMSドッグにいるんですよね?」

 

スレッタはその場をリリッケに任せ、アムロへの弁当を持ってドッグの方へ急ぐ。

 

(早く行って、お弁当が温かいうちにアムロさんに食べてもらおう!)

 

アムロの「ありがとう」が聞けると思うと、自然に口角がふわりと上がる。

 

(そうだよ、アムロさんが。私にはまだアムロさんが....)

 

はやく会おう、そんな思いでスレッタはいつもより床を強く蹴った。

 

 

 

❖   ❖   ❖

 

 

 

"プラント・クエタ MSドッグ"

 

 

アムロはゼムリアのコックピットに居る。 

 

寮艦からエントランスホールに向かう最中に『MSの中で話がしたい』と、己の父でもありこの機体を建造したレイオニックス社のCEO、テム・レイから通信があったのだ。

 

MSドッグには改修済みのゼムリアがあり、アムロが行くとその傍らにはレイオニックス社の整備員がいた。

 

「コックピット内の確認がしたい」そうアムロが言うと、整備員は自分の端末とアムロの顔を見比べた後、ハッチを開けたため、アムロは内部点検用の機器をもってコックピットへ乗り込むに至る。

 

以上がアムロがコックピット内に入るに至った経緯であった。

 

 

『どうだアムロ、全方位モニターの調子は?』

 

そうテムが言うとアムロもすぐに応える

 

「メインカメラとの相互適正も良い感じだよ。よく間に合わせたね」

 

『お前の設計図が素晴らしかったおかげだ。うちの開発部もお前をパイロットに専念させるのは惜しい、と嘆いていたよ』

 

以前にテムへ渡した設計図や計画は、アムロにとっても実現出来るかどうか不透明なものであった。

 

なにせ()()いた場所とは環境もMS自身の機構や能力も違う。自分の考えが理解され、それが的確に反映されるかどうかも怪しかった。

 

だがテムが率いるレイオニックス社の開発部はアムロの欲したものを正確に再現してみせた。

 

『もう一つ、頼まれていたものがあったのだが.....』

 

そういうテムの話しに、アムロは操縦用アームレイカーを操りながら耳を傾ける。

 

「ああ、"ファンネル"のことか?」

 

『お前が望む通りの設計には出来なかったが、バックパックと推進剤タンクを拡張して2機だけ取り付けられるようにしておいた。』

 

ゼムリアの背後に板のような物体が2機並んでいる。

名を"フィン・ファンネル"といい、アムロが改修にあたって特に力を入れた武装機構である。

 

『パーメットを使用していない機体でもドローン機構と同等の性能が出せる。私にも考えつかなかったよ』

 

「驚いたのは俺のほうさ。まさかフィン・ファンネルまで作れるなんて....父さんの会社の開発部は随分と優秀なんだな。」

 

そうアムロが言うと、通信機器の奥でテムは一瞬小さく微笑むが、すぐに表情をもとに戻して話を続ける。

 

『だがファンネル(それ)はドローンとは違い再利用が出来ん。お前の言う推進剤の"再補充機構"もまだ完成してはいない』

 

その言葉を聞いてアムロは作業の手を止める。

 

「まさか、もう作り始めてるのか?」

 

その言葉を聞いたテムは待っていた、と言わんばかりに話の本筋を語りだした。

 

『実はな、我が社で7体目のMSを建造しようと考えている。そのファンネルとやらも含めて、お前の設計を可能な限り盛り込みたいのたが.....』

 

アムロの額を一筋の汗が伝う。通信機器を顔に近づけて、画面の向こう側の父親に確信を持って伝える。

 

「その機体の設計、俺にやらせちゃくれないか?」

 

その言葉にテムは、まるでアムロがそう言い出すことを分かっていたかのように嬉々(きき)として応えた。

 

『もちろん』

 

アムロはその回答に目を輝かせる。しかし、その後すぐに『ただし』というテムの声がコックピット内に響く。

 

『ただし条件がある、設計図及び計画書の受け取り期間は今日より()()()()までだ。』

 

「......!」

 

 

一つ言えることは、これはテムにとって大きな"カケ"であるということ。

 

通常新機体ともなれば、設計には優秀な人員を多く注ぎこもうとも最低半年〜1年は必須だろう。

 

それを齢僅か17の倅に2週間で仕上げろと言った、傍から見ればとんでもない無理難題である。

 

だが、勝算が無いわけではない。

 

アスティカシアに送ったその日からアムロは確実に()()()()

むしろその変化をテムは悲観的に捉えず、好意的にさえ受け取っている。

 

あの日を堺に大きく変わった息子は己の()()を成功させるための重要なピースになるだろう。

 

テムはそんなアムロに十割に等しい勝算を見出していた。

 

 

『出来ないのならばそれでいい。その場合、設計図はお前のRX-03の改修図を参考に我が社の開発部が制作する』

 

そう言って息子の回答を早めるテム。

そんな父親にアムロはすぐさまこう返した。

 

「一つだけ聞かせてくれよ。一体なにがそんなに親父を急かせてるんだ?」

 

想像もしなかった、そんなアムロの核心突く返しにテムは一つ言葉をつまらせる。

 

その合間、時間にしてみればほんの数秒だったが、体感上二人の間には永久(とわ)にもなろうかという重い沈黙が流れた。

 

その幾ばくかの沈黙の後、テムは答える。

 

『時間がないのだ』

 

 

"時間がない"そうテムは言った。

 

「時間?なんの?」

 

『全てさ。私にとっても、お前()にとってもだ』

 

これっきりテムは口を(つぐ)んだ。これより再び二人の間を数秒の沈黙が流れる。

 

その沈黙の後、今度はアムロが先に口を開いた。

 

 

「____2週間だな?」

 

『!』

 

ガタリ、と通信機器の液晶の奥から物音が聞こえる。すぐさまテムはアムロの意思が本物であるか確かめるように聞き返す。

 

『アムロ、本当にやれるのか?』

 

「親父が設けた期限だろ。精一杯やるさ」

 

アムロは持っていた通信機器を座席の傍らに置くと、額の汗が飛び散る前に首にかけたタオルで拭った。

 

「それに....親父がゼムリア(この機体)を初めて見せてくれた時、前に()()()()()()()ヤツの事を思い出しちまってさ。」

 

前世とも言えるあの世界で、自分の棺桶となったモビルスーツ

それがアムロの頭を過る。

 

「頭の中に()()の設計図は入ってる。今日からそれを仕上げ直して親父に渡すよ」

 

それを聞いたテムは小さく息を吐くと、『話が長くなったな』と通話を終わりに持っていく。

 

『期限は厳守だ。わかったな?』

 

「わかったよ、父さん。」

 

そう返したアムロの顔にはどことなく満足感が見えるような気がする。

きっと画面の向こうの人物も同じ顔をしていることだろう。

 

『ではな』

そういって通話を終了するテム。

 

これにアムロは特別なにか言葉を返すわけでもなく、通話が切れるのを待ってから、通信機器をポケットにしまって大きめの深呼吸をする。

 

(.....こんなに親父と話したことは...なかったかな)

 

 

通話も終わった所でコックピットから出ようとした時、起動しっぱなしになっていたメインモニターに見覚えのある赤毛が見えた。

 

「スレッタか?なぜここに...?」

 

アムロの目に写った赤毛の少女は、沢山の作業員をかいくぐってゼムリアが格納されたドッグに入ると、辺りを見回しながら本機に近づいてくる。

 

スレッタが探しているのは自分なのではないか、そう思ったアムロはコックピットのハッチを開くと、整備員に礼を言って少々急ぎ足で揺れる赤毛を目指す。

 

 

「スレッタ」

 

「....!アムロさんっ!」

 

スレッタは満面の笑みでアムロを迎える。

手を振るたびに揺れる赤毛がまるで大型犬の尻尾のようだった。

 

「どうしたんだこんなところまで。皆と昼を食べてる頃だと思ったんだが...」

 

そういうアムロに今まで自分の腕の中で大切に抱えてきた弁当を差し出すスレッタ

 

「アムロさんの分のお弁当です。温かいうちに」

 

「これは.......わざわざ届けに来てくれたのかい?」

 

笑顔で頷いた彼女から弁当を受け取ると、まだ温かさが残る容器の隙間から芳ばしい香りが漂う。

 

「カラアゲ....って書いてあるな」

 

「あっ!も、もしかしてお嫌いだった、とか....?」

 

好みを聞かずに適当な弁当を持ってきてしまったことを後悔するスレッタだったが、アムロは首を横に振る。

 

「初めて食べるから楽しみだよ。ありがとうスレッタ」

 

そう言って微笑む彼の顔を見ていると、スレッタは胸の奥がほんのりと暖かくなるのを感じた。

 

(アムロさんはやっぱり暖かいな...お弁当届けてよかったぁ)

 

赤みがかった顔がばれないように両手で覆っていると、アムロがこんな事を言い出した。

 

 

「スレッタ、君が良ければ一緒にランチしないか?」

 

「.........ぅえっ!?」

 

それを聞いたスレッタは目を丸くして後ろに飛びのく

 

「嫌なら別に強制しないぞ?」

 

「い、いいえっ!食べます!ご一緒しますっ!」

 

スレッタは両手をめいっぱいバタつかせて「嫌なら」の文言を否定し、続いて「一緒に」への同意を表すために大きく頷いた。

 

("友達とランチ".....!やりたいことリスト、しかもアムロさんと....!)

 

 

スレッタの気分はすっかり最高潮のようだ。

 

 

 

❖   ❖   ❖

 

 

 

"プラント・クエタ 外域"

 

 

『____秘匿回線より、"作戦開始"のコードを確認しました。』

 

テロ組織『フォルドの夜明け』が拿捕した輸送艦に通信があった。

 

いよいよ作戦____プラント・クエタにいるであろうデリング・レンブランの殺害_____の狼煙が上がる。

 

()()()()からGOサインが来た。始めるぞ、少佐」

 

ナジは隣に佇む男にそう言う

 

「........私も出よう。手筈通り総指揮はナジ、君に任せる」

 

男はそうとだけ言いってナジが頷いたのを確認すると、側に控えていた少女、ルナ・シェーラと共にブリッジルームを後にした。

 

 

一方輸送艦内MSドッグ

 

MSの前で待機していた二人の少女のうちの一人、ノレア・デュノクがナジからの連絡が入ったことを受けて立ち上がる。 

 

「そろそろだよソフィ。コックピットで待機を_____」

 

ノレアがそう言い終わる前にソフィが端末を見せつけて興奮気味に言った。

 

「ねぇノレア!これ見てよ、このモビルスーツ!」

 

端末にはアスティカシアで行われたチーム・ミオリネ対チーム・シャディクの集団戦での映像が映し出されていた。

 

その一幕を見てソフィが目を輝かせる

 

「この人、1対6でやり合ってるんだよ?しかも被弾ゼロで完勝!凄すぎない?」

 

映像を何度も何度も巻き戻して食い入るようにゼムリアの動きを見つめるソフィ。

 

「このモビルスーツの動き.....少佐にそっくりだよね。未来が見えてるって感じとかさぁ」

 

ノレアはそんなソフィに呆れを含んだ口調でもう一度伝える。

 

「ナジから、コックピットで待機。早く行くよ」

 

だがソフィはそれも聞かずに再び話を再開する

 

「ねぇ!最後のも見てよ。このドローンの動き.....このお姉ちゃんも只者じゃないって感じがするなぁ」

 

ソフィは端末を胸に抱いて体を震わせて言う。

 

「ああ......早くこの二人に会えないかな、会ってみたいなぁ.......」

 

ノレアがそんなソフィに呆れ返っていると、ドッグルームのハッチが開き、赤いスペーススーツを身に纏った男がやって来る。  

 

 

「ノレア、ソフィ。コックピットでの待機命令が出てる筈だが?」

 

「あれ?少佐だ!」

 

その声に反応したソフィは画面を見るのを止めて、男の元へ走っていく。

 

「もしかして少佐も来てくれるの?」

 

「ああ、君達と共に敵の護衛艦隊を撹乱する」

 

「じゃあ、またあたしに訓練してよ!」

 

そう言ってソフィは男に抱きついた........が

 

「少佐にベタベタと貼り付くのを止めろ、ソフィ・プロネ」

 

それを傍らで見ていたルナが凄まじい剣幕でソフィを睨む。

 

「あれぇ?もしかして嫉妬しちゃってる?()()()()()

 

ソフィは見せつけるように男の体に頬ずりをする。

 

その挑発が虎の尾を踏んだらしく、ルナは男の腰に巻き付くソフィの手を掴みかかりに行く。

 

「ソフィ!いい加減にしなよ!」

 

だが、その前にノレアがソフィを引っぺがしたため、ルナの鉤爪は空を切った。

 

「すいませんシェーラさん。ソフィには言って聞かせるから」

 

ノレアはルナに対して深々と頭を下げる

 

「........これ以上少佐に対する無礼は許さないぞ。そこの馬鹿にもよく理解させろ」

 

「........はい」

 

そんな最悪な状態になっているルナとノレアの合間いる男が口を開く。

 

「そこまでだ。ソフィ、ノレア、MSに搭乗して待機していろ」

 

「「はい」」

 

男の言葉に応じた二人は、それぞれのMSのコックピットへ乗り込む。

 

「ルナ、私とゲラノスの所へ」

 

「はい」

 

男はルナを自機の前に呼ぶと、先程の彼女の行動に言及した。

 

「ルナ、前にも言ったが彼女達はまだ幼いのだ。周りの大人に甘えたい時もあるだろう」

 

「しかし!少佐にあんな無礼なことを.....!」

 

それまで後に控えているだけだったルナは、憤った様子で男の目前に立って言葉を続ける。

 

「なぜ躾ようとしないのですか?彼女たちを軽々しく身体に触れさせて、もしもの事があったら....私は......」

 

男は焦燥した様子のルナを見つめ、彼女の乱れてしまった髪をゆっくりと指でなぞる。

 

そのまま乱れた髪を整えて耳にかけてやると、彼女はその行動を受け入れるものの、小さな反抗心から男の目を見ようとはしない。

 

「厳しさだけが躾けじゃない。お前ならよく分かっている筈だ」

 

「.......はい」

 

ルナがか細い声で応えると、男は俯いた彼女の額に長めの口づけをする。

 

「恐怖での従属は強い反逆心を生むだけだ。彼女たちを手元に置いておくならこれぐらいがいい」

 

「申し訳ありません.....少佐に()()()なんて。アナタの身体に他の女が触れるのが許せなかったんです......。」

 

「私はルナのものさ。いつも必ず、君の元に帰ってくる」

 

そう言ってヘルメットを持ち、男はコックピットへ搭乗する。

 

「ルナもコックピットで待機しろ。後ですぐに会おう」

 

その言葉を承諾したルナは自分のMSの元へ駆けていく。

 

 

そんな二人の様子をコックピット内でモニター越しに眺めていたソフィは、通信回線を繋いだノレアに愚痴をこぼす。

 

「なんだよあの女。人のこと犬みたいにさ!」

 

「ソフィ、うるさい」

 

どうやらソフィはルナとの相性が悪いらしく、日本で開始した()()の時からその仲は険悪なものになっている。

 

その原因の主なものに"あの男"の存在があるだろう。

 

ノレアのモビルスーツのメインカメラは、ゲラノスのコックピット部分を映している。

そこにいる赤い男の姿を見て、ノレアは顔をしかめた。

 

「.......ソフィ、最近おかしいよ。いい加減あの男に執着するのはやめな」

 

あの男が来てからというもの、二人は()()()()()に目覚めるための訓練に身を投じてきた。

 

そんな最中、ソフィはあの男に甘えるような行動をとっていく。

 

まるで父と娘......そうやって男に甘えるソフィに、ノレアは心の中で嫌悪感を抱いていた。

 

「アンタはあの男の都合いいように使われてもいいの?」

 

その言葉にソフィは笑って応える。

 

「強くなりたいって()()()を望んだのはあたし達なんだよ?少佐には感謝しなくちゃ!」

 

ソフィはそう言って端末の映像を再び見つめる。

そんな彼女にノレアは言葉を詰まらせるしかなかった。

 

「......信じるもんか、スペーシアンなんて........」

 

そんなノレアの呟きは、映像に熱中するソフィの耳には聞こえない。

 

「.......アムロ・レイかぁ」

 

画面の中の決闘が終わり、アップに映されたモビルスーツのコックピットから一人の青年が出てくる。

 

アムロ・レイ______ソフィは映し出された彼の顔をスーツ越しの指でなぞった。

 

 

(後編へ続く)




お久しぶりです(小声)
近いうちに後編は投稿します。
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