全部全部、なくなっちゃった。
そんな人間未満の元「CRYCHIC」の二人がもう一度だけ言葉を交わす梅雨の晴れ間。
※こんな感じのあらすじですが祥子ちゃんのキャラ崩壊に挑戦したものです。ご注意ください。
のでギャク堕ちしてもらいますわーー!
羽丘女子学園──その名前を知っている人に問えば三年前までの印象が強ければ「ダンス部」が強かったと答えるだろう。実際にダンス部は全国大会にまで出場している強豪であり、羽丘のHPにも書かれる具体的な実績であることは間違いない。
だが、最近の羽丘を知るものからすると間違いなくダンス部よりも先に名前が上がるものがある。それは「Afterglow」と「Roselia」という二つのガールズバンドの名前だ。
伝説とまで呼ばれる二つのバンドのほとんどのメンバーが出身にしているということで羽丘はそれまでの中等部からの進学の他に他校からの外部入学が非常に増えており、
「あ、
「……ええ、ごきげんよう」
豊川
立っていても座っていても伸びる背筋、そして所作と言葉遣いから滲み出ている「違い」がそうさせているのか、それとも彼女自身が他者との関わりに消極的なためか。
「あ……さき、ちゃん」
そんなクラスメイトですら知らない彼女の下の名前をもじった渾名を呼ぶ声に、祥子は一瞬だけ立ち止まった。視線の先にいたのは隣のクラスの、そしてそれとは別に中学時代に巡り合ってしまった迷い星──
だが祥子にとってもはや彼女と「
──本当にそれが正解なのか、友だちを、一度は「運命共同体」とまで呼んだ彼女を傷つけ続けるのが正しいのかもわからず、ジクジクと雨音に痛むような感覚から目を背けつつ廊下を歩いているとすれ違う人から噂話が祥子の耳に届いた。
「ねぇ、校門に」
「──ね、あれって月ノ森の制服?」
「だよね!」
「見たことある子だった」
「ええ、知らないの? あの子、ちょっとした有名人だよ?」
月ノ森の制服、という単語に祥子は訝しげな顔をする。それまでにも二度、彼女の前にその制服を身に纏った訪問者がいた。
だが一人、幼馴染の
「──ッ! どうして……?」
そこにいたのは間違いなく月ノ森生、それも祥子の知る人物でもあった。少し小柄な体型にあどけなさを残した幼い風貌、色素が抜け落ちたかのような透明感、じっと黙っている姿は一瞬だけ幼馴染の睦を思い浮かべるがそわそわとした様子が彼女とは違うことを想起させる。
「さ、祥ちゃん……ちょっとだけ……あれ、月ノ森の……知り合い?」
「知り合いではありませんわ……知り合えるはずがありませんもの!」
「……さきちゃん?」
追いついた燈が無視される覚悟で話しかけたのだが、祥子はその場に固まったまま昔のように彼女に振り返り、なんとも言えない笑顔を浮かべていた。
その様子に驚く間もなく、祥子はスマホを操作し校門で人待ちをする彼女の写真を見せた。
「あれは……Morfonicaの、倉田ましろさんですわ!」
「も、Morfonicaって確か……」
「ええ! 昨年の音楽祭で月ノ森から誕生したAfterglowやRoseliaにも負けない、月ノ森の伝説になるであろうバンドの、ボーカル!」
「そ、そんな人が……どうして?」
「皆目検討がつきませんが! ですが、燈──サインしてもらえるものなど持っていませんの?」
「え、えっと、ちょっとまって……」
先程までの暗い雰囲気など、六月の曇天を風があざ笑うかの如く吹き飛ばしてしまったことに燈は少し混乱していたものの、一緒にバンドをしていた頃のような祥子と話せることへの嬉しさが勝った燈は慌てたようにカバンの中を漁る。
だが煩雑なため、その場にノート以外にもお気に入りの石の入ったケースを落としてしまい、そこから溢れさせてしまう。
「あ……」
「大丈夫ですの? ああ、燈、拾いますわよ!」
「う、うん……」
丸いものを好むせいか、予想以上に転がっていく石たちを祥子は燈よりも素早くしゃがみ、拾っていく。
その後姿を見るだけで燈は泣き出しそうになってしまう。
今日という天気の、梅雨の晴れ間のように、全てが雨に流れてしまってダメになってしまった燈にとって、祥子の後ろ姿は光が差したような感覚がしていた。
「こ、これで……ぜんぶ、拾えた……ありがとう」
「このくらい」
「……で、も」
全ての石を拾い終えたのは、落としてから三分ほど経過した後だった。校門へと再度視線を向けても既に月ノ森の制服に身を包んだ白髪の少女はいなくなっており、祥子は落胆と同時に自分が捨てたものを拾ってしまっていたことに気づきハッとし、だがこのまま去ることはできずに立ち尽くしていた。
燈はそんな彼女の姿に倉田ましろのサインをもらえなかったことでショックを受けているんだと解釈し、おずおずと話しかけていく。
「あの……さきちゃん」
「──なんですの?」
「ごめん……なさい」
「……燈が謝る必要なんて……」
今にも泣きそうな、けれど叫び出したいくらいに言葉を抱えた──あるいは出会った頃、一年前に高架から飛び降り、命を捨てようとしていたと勘違いしていたほどに胸のウチに言葉を抱えた燈に祥子は、一瞬だけ口を開きかけ、また閉じた。
今更、自分が吐く言葉に意味はない。でなければ先日、縋りついた長崎そよの手を払った自分の言葉は嘘になってしまうから。
「──あなたも、早く忘れてしまった方がいいですわよ」
「……さきちゃん」
「ごきげんよう」
──早く人間になりたい。人間になりたかったのに。
これ以上はお互いに辛くなるだけ。なるだけなのだから。
「あれ、さきちゃん……」
「と、燈」
「どうした……?」
校門を出て、駅までは同じ道というのは燈も知っていたがまさか去ってしまった祥子が校門の前で立ち止まっているとは思わず、また話しかけてしまう。
その視線の先にはいなくなったと思った倉田ましろが羽丘の制服の女子と楽しげに話す後ろ姿があった。
「あ、えっと、の、ノートと、ペンは……ペンはこれでいいかな……」
「いえ……この場で、ご友人との時間を邪魔してしまうのは無粋、というものですわ……!」
「な、泣いてる……の……?」
その日以来、燈と祥子が言葉を交わすこともなく、またバンドのなくなってしまった燈はふさぎこんでしまうのだが。
豊川祥子は、何も変わっていない。名前を呼ぶその声も、笑顔も。それだけが燈の胸を暖かくしていた。
「それで結局お話することもできませんでしたの、悔しくて……!」
「……ん」
「聞いていますの?」
「……ん」
その感情の発露が抑圧故のものであると事情を知っていた幼馴染の若葉睦は、それでも今、そよが自分の道がわからなくなっているということを知っている立場として祥子のことをしゃべってしまおうか、と思えるほどには面倒だと感じていたのだが、これを燈が知ることはなかった。あるいはもっともっと後になって、知ることになる。
さきちゃんはオタク気質あるので楽しいです。
そもそもオタクなのでオタク書くのが好きすぎるだけ、パレオとかね。