夏のバンドリ祭参加作品
バンドリIt'sMyGO!!!!!より、若葉睦ちゃんです。

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喧騒に塗れる無口な人形

「おわ、った...」

「お疲れ様。或久(あるく)

 

7月。

遠めの親戚にあたる若葉家で、俺は勉強をしていた。

家庭教師、というかなんというかは、そこの令嬢、若葉睦。

 

「睦が頭いいのは知ってたけど、教え方めっちゃわかりやすかったわ」

「良かった」

 

同じ高校に通ってはいるけど、そこまで仲良くはなかったし、顔を知ってる程度だっただけなんだけど。

いつからかこうやって話すようになったし、勉強まで教えてもらってる始末。

悪い気はしないし、何なら成績も上がってるから別に俺としては拒む理由もないんだけど。

 

「今日の分はこれで終わりっと...あぁ、頭痛ってぇ...」

「何か飲む?」

「お気遣いなく、飲みもんならある」

 

バッグからお茶を取り出して一口。

 

「さて、何すっかなぁ」

「...帰る?」

「そーしたいのはやまやまなんだけどね。こっち来たのは涼しいからなんだわ」

「涼しい...?」

「いや、うちのバカ親が『新しめのエアコン安かったから買っちゃった☆』とか抜かしてるから」

 

つまるところ、今俺の家にエアコンがないという訳だ。

なんでこの時期に買ったのか、マジで理解できない。

 

「涼しい場所なら、他にもあったのに」

「図書館で勉強なんかできないよ。監視役がいないと一生勉強進まないんだから」

「それはそれで、どうかと思う」

「いやまぁそれは同意する」

 

自分で言っといてかなりヤバいと思う。

よくこれで月ノ森入れたなって思うくらいには。

 

「でも、或久の頭は悪くない」

「え?」

「説明、ちゃんと聞いてる。一回で理解してるから」

「...睦に褒められるの、ちょっと照れるな」

 

妙な恥ずかしさを散らすように片付けをして、気持ちのリセット。

 

「そういえば、睦って遊びに行かないの?」

「...あんまり、外出たくない」

「あー...じゃあ、ゲーセン行く?」

「げー、せん?」

「ゲームセンター。月ノ森の偉い人達が見たら卒倒しそうな場所」

「それって、危ない場所じゃ...?」

 

危なくない、とは言い切れないけど、闇に誘うようなものはない。

その近くでキャッチやってる厳つい兄ちゃんとかはいるけど。

 

「それ、大丈夫じゃない」

「うん、俺も言っててそう思った。まぁ、たぶん平気」

「...ほんと?」

「いざとなりゃ俺が逃がしてやるから」

 

お、我ながらいいこと言った。

 

「...ん、わかった。ついてく」

「ありがとう」

 


 

歩くこと早5分。

わりといつも賑わってるゲーセンに到着。

 

「...睦?」

「大丈夫、ちょっと暑いだけ」

「中は涼しいから。飲みものでも買おう」

 

若葉家、実はかなりの大物で、娘である睦も顔が割れている。

そのために、少し変装させることにしたが、さすがに帽子と髪を結んでもらっただけじゃ隠しきれないだろうなぁとか思ってたけど。

 

「...視線、どう?」

「感じない。或久のおかげ」

「俺は、何も」

「帽子も、髪も。或久が言ってくれなかったらやってない」

 

ありがとうと、初めて目を合わせて笑ってくれた気がする。

 

「どういたしまして、であってるのかな。さて、日が暮れる前に欲しいもん掻っ攫って帰ろう」

「何があるの?」

「あれ」

 

俺は目的物を指す。

 

「あれ?」

「クレーンゲームってやつだな。物掴んで穴の中に落とせれば景品ゲットってやつ」

「...限定?」

「1人1個までってやつが今回の獲物。最近やたらとプライズ売りさばく輩がいるからそれの対策」

 

たくさん取るのは良いと思うが、それを高値で売りつけるのはどうかって話だ。

 

「やってみていい?」

「むしろやってくれ、俺は下手過ぎてもう取れない」

 

睦にとりあえずで10枚硬貨を渡し、やってもらう。

取れたら取れたで睦にあげればいい。

ちょっともちもちさせてもらえれば、それで。

 

「或久」

「はいはい」

「取れた」

「いやぁ、ビギナーズラックってあるもんだなぁ」

 

睦の手には件のプライズ品。

 

「1回で取れた」

「いやすご...」

「はい」

 

差し出される余りの硬貨とプライズ品。

硬貨だけ受け取って景品は睦の手に戻せば、案の定頭の上に「?」を浮かべた顔をする。

 

「俺もやるために来てるからな」

「取れなかったら、あげる」

「...その時は、たぶん来ないよ」

 

確実に取れる方法は知っているにもかかわらず、今までそれが無に帰ってきたことを踏まえて、自己流でやってやる。

逆に取れるだろうという俺の考え。

馬鹿なのか天才なのか、まあ紙一重と言ってるしどっちでもあるだろう。

あれ、今の俺ちょっと頭いいこと言った?

 

「ラスト、100円か...」

「或久、頑張って」

「...うん」

 

自分の直感を信じろ。

掲げるは取れるイメージ。

そのプライズ品を手に取った自分。

 

「...ここだっ!」

 

クレーンはそれを掴み、持ち上げる。

いつもならここで重力に負けて離すが。

 

「耐えた...っ!」

 

このままいけば取れる。そう思ったところで、クレーンが開く。

景品は落下し、ゲット穴の壁の段差に当たって、穴に落ちた。

 

「取れ、た」

「或久、おめでとう」

「っしゃ!!」

 

ようやく自分のものになったもちもちのクッションを味わえる。

 

「嬉しそう」

「まぁね」

「ありがとう、誘ってくれて」

「いや、こっちこそ。来てくれてありがとう」

 

もちもちのクッションを袋に入れて、帰路に着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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