高校で趣味が同じな事で仲良くなったクラスメイトがいる。名前は壊理ちゃんと言い、女の子だ。個性は『巻き戻し』、なんでもそれを使って自身の肉体の疲労感を巻き戻して無くし、かなり圧縮したトレーニングを積んでいるらしい。見た目は華奢な女の子だけど、それも見た目を巻き戻したと言う事らしく、筋肉量は見た目とはかけ離れているそうだ。
「ねえねえ、今日も放課後行こうよ!」
「うん!」
僕らが向かうのは闘技場。勿論見る側ではあるけど。
「それにしても2人していつも特別VIP席だなんて驚きだよね!」
「そうだね!」
『おーっとここでジェントルがラバーモードを解禁!イタリアから交流試合で駆けつけたダークマイト選手を猛烈なラッシュで攻撃だァ!しかしダークマイト選手、不敵に微笑みそれを全て防いでいます!どう見ますか?解説の治崎さん』
『そうですねぇ、実況の筒美さん。ダークマイト選手の個性、錬筋は食べたり飲んだ物を筋肉に変換する個性ですからね、直前に飲んでいた炭酸抜きコーラを筋肉に変えてパワーアップしたんでしょう』
聞けば解説の治崎さんは壊理ちゃんの親族らしく、ご機嫌取りに毎日チケットを送ってくるらしいのだ。サインを貰おうと思ったら四肢欠損の為断られたのが残念だったけど。
「凄い試合だったね!洸汰くん!」
「熱い闘いだったね!」
両選手が試合を終えた後に固く握手する瞬間な僕は大好きなんだよね。…次はアイツの試合か
「あ!今日の相手はオカマッチョなんだ!約3年ぶりの再戦だよね!うわぁ!嬉しい〜!」
「そうだね…」
両選手がポージングを交わすと同時に場内に溢れるナイスバルクコール、本来は僕も加わるべきなのだが、アイツの試合の時だけはどうしても口が動かない。モストマスキュラー、僕の両親を殺した相手。アイツが今、どんなに人気のある選手であろうとそれだけは変わらない。僕はアイツが許せない。
「洸汰くん…?」
「…ごめん、少し考え事。あ、ほら!オカマッチョが拳に砂鉄を纏わせて即席のメリケンサックを作る必殺技が炸裂してるよ!」
「…」
〜〜〜〜〜 〜〜〜〜〜 〜〜〜〜〜
「ねぇ、洸汰くん」
「あ、ごめん。今日は行けないんだ」
いつものように闘技場に誘うと、洸汰くんに断られた。こんなことは初めてだった。
「…今日は用事があるんだ」
その真剣な表情に思わず私は黙ってしまう。この前の仮免の時ですら笑ってたのに。…でも、仮免が渡された瞬間だけ、今と同じ表情になっていたのを思い出した。『これでやっと出られる』とも言っていた。
結局その日、1人で闘技場に行き、隣の空いた席で選手達の試合を見ていた。
『さぁ!次の試合はなんと!初出場の選手とモストマスキュラーの試合です!…あれ?この名前…』
『おい、何してる。早く読み上げろ。』
いつもミスなく実況している筒美さんが珍しく詰まっていた。その様子に場内はざわついている。
『…失礼しました!この次の試合は…モストマスキュラーVS…』
〜〜〜〜〜 〜〜〜〜〜 〜〜〜〜〜
次は俺の試合だ。誰だか知らなかったが、相手からの強い希望があったと聞き、初出場の相手だろうが俺は喜んで快諾した。
控え室を出て闘技場に足を踏み入れると歓声が俺を包んだ。だが、次の瞬間それはパッタリと止んだような気がした。多分それは気のせいだ。だが、俺の目がそいつを捉えた瞬間音は止んだ気がしたんだ。
『…ウォーターホース!』
…そうか、ようやく来たか!毎日毎日VIP席のチケットを送った甲斐があるってもんだ。
「よう、久し振りだな」
「…」
俺が殺したヒーローの子供。デクと初めて戦った時その場にいたアイツで、俺とデクの再戦のために人質にとったガキでもある。
「…随分とデカくなったじゃねぇか。それに、よく鍛え抜かれてやがる。」
「この前ヒーロー仮免許を取ったんだ。」
なるほどな、ならコレほどに鍛えられているのも頷ける。
「お前はもう、ヴィランではないけれど…。僕はもう、ヒーローだ…!」
若々しく、力強い、良いポージングだなオイ!肩に消防車でも乗っけてんのかよォ!!
「「ナイスバルクッ!!」」
言うまでもねえ、俺に対する挑戦状とも言える力強いモストマスキュラーのポージングとはな…!やっぱ良いよな!強い奴との試合はッ!!
「闘わなくても分かるぜッ!お前は強いってなァ!!」
「らァッ!!」
俺の声掛けに一切応えず、力強いオーバースローのフォームから放たれたのは水。圧倒的筋肉による腕のスイングに奴の個性が組み合わされば…!
「ッと!危ねぇ危ねぇ!スゲェ貫通力だなァオイ!」
俺が咄嗟に張った筋肉装甲を安易と貫通するとはな…!まぁ貫かれた部分は筋肉止血で対応すりゃ良いとして、だ。
「これが…!『ウォータージャベリン』だ…!」
「なるほどな。お前のパパとママは辛うじて俺の眼球を貫く程度だったがお前はその技を己の筋肉と組み合わせて対筋肉用に昇華させた訳か。良いねェ!そう言うのッ!!」
俺を倒すためにさぞかし鍛えたんだろう。泣かせるじゃねぇか!
「お前を倒すのはヒーロー…『ウォーターホース』だ…!』
「良いぜェッ!来いよヒーロー!俺がテメェのパパとママを殺したッ!ヴィラン、『マスキュラー』だッ!!さぁッ!!!来いよ!!!!あの時のリベンジマッチといこうぜッ!!!!!」
ただお前の言葉に答えてやった訳じゃァ無いぜッ!今日の俺は卑怯なヴィランだからなァ!くらえ…肉露鞭ッ!!
「お前の攻撃パターンは読めてるッ!次の攻撃は下から来る…だからッ!『水爆ターボ』ッ!!」
ほう!手から勢いよく水を噴射してその反動で空中に飛び回る技かッ!!地中からの肉露鞭を回避するとはやるな…だが!
「空中で攻撃が躱せるかァ!?肉露鞭ッ!!」
「甘いッ!」
なるほど、空中で掌から水を噴出する事で体を捻り肉露鞭の薙ぎ払いを躱したか。どこかで見た技だが…あぁ、思い出した。
「水爆ターボね、その技…『ダイナマイト』だな?アイツの技に似てやがるぜ!」
小細工が通用しない…なら、肉弾戦しかねぇなぁ!!
「スピードフォルムだッ!行くぜェェェエエエッ!」
「…ッ!」
…!躱された…!?見切ったのか…?いや、違うな。いくらコイツが鍛えたとしてもそこまで眼を鍛えられているはずがない。つまりは…
「俺の試合を研究してタイミングを読んだのか?やるなァオイ!!」
俺に向けられたのは握り拳。だがおかしいな…コイツの個性は掌から放つ水…嫌、待て…そうか、握力と圧縮的筋肉による水弾の圧縮か…!
「この距離、貰ったッ!!」
勢いよく開かれた手から吹き出される水弾をモロに受け、俺は吹っ飛ばされちまった。
〜〜〜〜〜 〜〜〜〜〜 〜〜〜〜〜
土埃で見えないけど…
「やったか!?」
「オイオイ、ソイツはフラグだなァ…」
ッ!?背後から!?
「おっと、今度は俺のターンだ。そうだろ?そうだよなァ!!ヒーローばっか攻撃するなんてズリィもんなァ!!」
しまった…掴まれたッ…!
「俺はお前に吹き飛ばされた瞬間、肉露鞭を地面に突き刺し、お前の攻撃の勢いを利用して肉露鞭の伸縮で加速してお前の背後に回ったのよ。いやぁそれにしても…良い試合だったぜ。だが、俺とお前じゃ戦闘の経験値が違い過ぎるなァオイ!」
確かに、僕はコイツに比べたら実戦の経験値に劣る。その事が不安でデクさんに相談もした。だからこそ!研究…!デクさんが絶対に勝ちたい相手…ダイナマイトに勝つ為に闘い方を研究したように!僕もコイツの闘い方を研究した!
「今だッ!」
「何…?」
コイツは圧倒的な筋肉とその筋肉の使い分けにより圧倒的なパワーとテクニックで相手を捩じ伏せる。そして…特に多用するのが攻撃のレンジを伸ばしつつ相手を拘束できる肉露鞭!奇襲の為に地面から伸ばすことも多い!だから!!
「…なんだッ!?なんでいきなり俺の足元から大量の水ッ…!?………まさかッ!!俺が…俺が肉露鞭で掘った穴にッ!大量の水を勢いよく注ぎ込みやがったのかッ!!」
「このまま吹き飛べェェェェェェェェェエエエエ!!!!」
〜〜〜〜〜 〜〜〜〜〜 〜〜〜〜〜
俺の身体なら水でも耐えられるが…ダメだッ!勢いまでは殺せねえ!!闘技場の外まで追い出されるッ!!
『決まったッ!ウォーターホースよりも先に、モストマスキュラー場内ッ!よって…』
へっ…なんだよ。スゲェじゃねぇか…まさか俺が負けるとはな…!
『勝者!ウォーターホース!!』
もしかしたら握り返してくれないと思っていたが、アイツは俺の手を握り返してくれた。その目は俺を睨んでいるが、まぁそれは仕方がねぇよな。
「やるじゃねえか。俺の負けだぜ」
「…ルールの中での勝ちなだけだ。僕はお前に勝てたけど、倒した訳じゃない」
「そうだな。俺は負けただけだ。俺もお前も死んでねえ。…だからこそ再戦が出来る。次は、負けねぇからな!」
やっぱりあの時殺したのは間違いだった。殺さずに鍛えて再戦し、あいつらの手の内を知り研究していたなら…もっと俺が強くなってりゃ…今日負けることもなかっただろう。過去の行いが悔やまれるぜ。
「次も勝つ。その先もずっと。そして…お前をいつか倒す。『モストマスキュラー』」
「良いね…何度でも受けて立ってやるよ…!『ウォーターホース』!」
●成長した出水 洸汰
幼少期からのデクへの憧れにより筋トレを敢行したが残念ながらボディラインは爆豪寄りに成長。個性である『水鉄砲』も爆豪と同様に掌から物を噴出させるタイプであった為、闘い方もダイナマイト(爆豪)を手本にしている。デクに憧れて様々な筋肉を鍛えている上に個性と組み合わせて応用してくるため、仮免ながらも実力は本物である。
・ウォータージャベリン
オーバースローのフォームで思い切り腕を振り抜きつつ掌から水を勢いよく発射して相手を穿つ洸汰くんの必殺技。普通の人間が食らうと漏れなく肉体を貫かれてしまうので対筋肉用に使用を留めている。
・水爆ターボ
掌から発射される水の勢いで瞬間的に機動力を確保する技。爆豪の爆速ターボの真似である。但し、爆発の勢いで飛ぶ爆速ターボと異なり、水を噴射することに対しての反作用で機動力を得ているに過ぎないので空を飛ぶという芸当はできない。
●成長した壊理ちゃん…デクへの憧れから個性の巻き戻しを悪用し、かなり無理のあるトレーニングを敢行。年頃の女の子なので見た目だけを巻き戻し可憐な美少女となっているが、筋肉量は見た目からは逸脱している。参考として、空き缶をSDカードサイズに握りつぶせる。
因みに、年齢だけでいえば本来は洸汰よりも1歳年上なのであるが、幼少期の複雑な家庭環境を考慮され小学生になるのが1年遅れている。(と言うのは建前であり、個性を試していた壊理ちゃんが自身の肉体年齢のみを1年巻き戻してしまった事による特別措置である。…からそこ、作者都合とか言わない)