ヒカルの碁並行世界にて   作:A。

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第十一話

プロ試験本選。この段階になって(ようや)く、ヒカルの凄さが周囲に伝わりだした。

 

まず、本選がスタートしてから直ぐ桑原が応援にやってきていたのだ。その際にヒカルがじーさん呼びをしていたので、他の人達の間でヒカルは桑原の孫説。実は桑原の弟子説が密かに濃厚だったりする。

 

そして次に目を引くのがその白星の多さだ。塔矢アキラと並んで勝っている点が挙げられる。二人がぶつかるのは丁度最終日に該当する為、その日を期待する者も多かった。

 

しかし、それらは対局した者が感じた圧倒的な実力の前では小さいことなのかもしれない。ヒカルはもうプロになるのだから自重する必要性――元からあったかは非常に微妙だが――はないと感じていて手は決して緩めなかったからだ。

 

そこに予選時に名人や緒方も注目をしているという話が合わさり、今ではヒカルはすっかりとある種の有名人と化していた。

 

本人からすれば元々七冠棋士だった時の経験がある為、それに比べると些細なものであったので特に噂に関しては気にした様子は見せなかった。

 

だからこそ、そんな有名人が長年の付き合いがあり、お互いの事を知り得ていますと言わんばかりの気軽さで声を掛けてくるものだから、和谷は飛び上がらんばかりに驚いたのだ。ちなみに、接点などまるでない。

 

「よっ、和谷」

 

「な、ななな何だよ」

 

「そんなにビックリしなくたっていいじゃん」

 

「いや、ビックリするだろ。普通」

 

「そんなことよりもさ、ちょっとあっちの隅で話そうぜ」

 

「別にいいけど、何だよ」

 

急にそんなことを言われるものだから、和谷は怪訝そうにしている。しかし、ヒカルは全く気にしてない様子だ。

 

「和谷は森下九段の研究会に行っているだろ?」

 

「そーだけど、そんなこと良く知っているな」

 

「まーな。で、その研究会みたくはなんないだろうけど、良かったら俺も研究会モドキをしようと思うんだけど来ないか?」

 

聞くと、場所ももう確保している様で、桑原本因坊が所有している閉鎖された碁会所を提供してくれると話がついているらしい。ちなみに、桑原の他のメンバーには塔矢アキラも入っているとの事だ。

 

「ってか、何で俺?」

 

「和谷だからだよ」

 

「俺だから?」

 

ヒカルにとっては元々院生時代から良くして貰って付き合いの長い仲間だった。その延長線での言葉だ。もちろん、和谷の実力も良く知っている。これから成長するであろう伸び代も。今はまだ未熟かもしれないが、総合した実力も考えてのことであった。

 

和谷からすると、ヒカル程の実力者に自分が選ばれた。認められたと言っても過言ではない。急に高揚感が襲ってくるわ、気恥ずかしくなるわでアタフタしている。

 

「ちょーっと待った! その研究会、私も参加したいんですけど」

 

隅の方でこそこそと話していたにも関わらず話が聞こえてしまったのか、奈瀬明日美が会話に参戦してきた。

 

『え?』

 

「確かに私だったら全然実力不足だと思う。それは認める。けど、碁打ちとしてそんなスゴイ研究会の話を見逃すなんてマネ出来ない。もし、ダメじゃないなら、進藤君お願いします」

 

「進藤君? って、辞めてくれって。進藤でいいよ」

 

「お願い、進藤」

 

奈瀬は両手を合わせて懸命に願い出ている。ヒカルは和谷に助けを求めて顔を向けるも、無駄だ自分で考えろと頭を横に振られた。

 

「うーん、じゃあ研究会する場所の秘密とかを守ってくれよな」

 

「もちろん。ゼッタイ守る」

 

「あのさ、他にも誘う奴とかって居るのか?」

 

「出来ればあと伊角さんを誘いたいんだ」

 

「進藤、イイ人選だぜ。きっと伊角さんも嬉ぶだろうな!」

 

今は大事なプロ試験中なので終わってからになると最後に付け足したのだが、二人はもう乗り気になっている。早速、伊角にも話を持っていこうとヒカルの腕を奈瀬に引かれ。背中を和谷に押されながら向かうことになった。

 

その道中。廊下で和谷が恐る恐るといった感じに小声でヒカルに尋ねる。

 

「そういえば、ネット碁でNCCの公式アカウントってのがあったんだけど、アレって実は進藤…‥じゃないのか?」

 

「あー……うん、そうだよ」

 

「やっぱり!! って、お前緒方さんに勝っているって事か?!」

 

「ばっ、和谷。声がデカイ!!」

 

慌ててヒカルが和谷の口を塞ぐ。周囲を確認するも運良く誰も居なかった。二人はふーっと息を大きく吐く。奈瀬だけに疑問符が頭に浮かんでいる。

 

「ねぇ、和谷。NCCの公式アカウントって何?」

 

「それはだなー……っていうか、進藤。お前テレビに出たのもそうなのか? あと、どんな理由があって、あんな……」

 

「えっ、進藤ってばテレビに出たの?」

 

「だ――――!もう、それは研究会の時でいいだろ。流石に誰に聞かれるか分からない所で話せるかよ」

 

「悪い悪い。というか、今年のプロ試験狭き門過ぎる……」

 

和谷と奈瀬のテンションが急降下している。しかし、そんな感じに徐々に三人はどんどんと仲良くなっていくのだった。

 

 

◇◆◆◇

 

 

そして時は過ぎーーー居間のテレビではN○Kのとある棋士の特集が放送されている。その棋士は何と今まで負けた事がないという生きた伝説とまで称された棋士だ。

 

しかし、驚くのはそれだけではない。彼の経歴はとても華々しいのだ。

 

まずプロ試験を突破した段階でとあるテレビ局の取材を受けていた。その時は、あの塔矢アキラをも打ち破ったという折り紙つきだったが、どうやらアマチュアの時にもプロを打ち破った事があるとの事だ。

 

それもネットの――炎上後もネットの住人が情報を集めていた――ソースによると、別な人が最初打っていたのが目撃されていた。しかも、劣勢だったという。そこからの対局だったにも関わらずの勝利。彼の凄さの一端が分かるエピソードだ。

 

実際、調査により元の取材テープを見るとその通りだった。経緯は不明なものの、何故か世界中からその時の映像を編集ナシで見せて欲しいという要望が殺到し、無視出来なくなったのだ。

 

当時のテレビスタッフは一部のスタッフは事情を理解していたものの、違う者達は謎だらけで困惑していた事は言うまでもない。しかし、これだけの反響だ。恐る恐るだった。

 

そして放送してみると、驚くべき番組の視聴率。しかも、今度は密かにネットにまで転載され世界各国の字幕まで付けられて相当の再生数を記録した。

 

また、音声は取れていないもののプロ側の到底指導碁とは言えない打ち方にあった筈の擁護(ようご)は消え、批判が高まるという結果になった。日本棋院にも直接多くの問い合わせや厳しい意見が届いたと言われている。

 

やがて、ついには最初に映っていた男性もが取材に応じた。つまり、あの時の真相が明るみに出たのだ。売り場の人とグルになり碁盤を偽って売っていた事までもが。

 

彼は何と偽物の碁盤の素材を見破り、詐欺を未然に防いでいたのだ。

 

そして結果、御器曽プロは囲碁界を去ることとなったのだった。現在は警察署にて事情を聞かれている状況だ。このまま取り調べが続き、裏が取れたなら逮捕されるだろう。

 

しかし、彼の凄い出来事はそれだけではない。プロ試験を突破した時の取材の際、桑原本因坊が居た。桑原と一緒にいる所を偶然捉え、ヒカルの呼び方がじーさん呼びだったことから孫ですか? と記者が尋ねた所、否定。

 

「ひゃっ、ひゃっ。そう思うか? こやつはな。ワシのライバルよ。このライバルの座は例え塔矢行洋相手にもそう簡単には譲れんよ」

 

まさかの本因坊からのライバル宣言に場が沸いたのは言うまでもない。しかも、塔矢行洋も絡んでいるらしい。

 

余談だが、当時の事を今の桑原は、嘘にならない様、常に努力はしているが言ったもの勝ちとは良く言ったものじゃな。と発言している。食えないジジイっぷりは健在だった。

 

その他にも彼はネット碁でNCCの公式アカウントを引き受けていたこともあり、その桁外れの強さは海外にまで響きわたっている。

 

茶目っ気のある彼はプロになった今でも度々ネット碁に登場して、勝ち星を挙げているらしい。

 

また、彼はプロになったと同時期位から独自の研究会を開く。その初期メンバーは今となっては全員がプロになっているが、当時は院生だった者の中から実力者を見抜きスカウトしていたのは有名な話だ。

 

無論その研究会は入りたい者が殺到しているが、棋力は様々な人物が選ばれている。尚、基準は謎でありネットでも良く理由が追求されているも未だ不明なままである。

 

彼の名前は―――進藤ヒカル。果たして彼の伝説はどこまで続くのであろうか。

 

 




これにて完結とさせて頂きます。お付き合いありがとうございました!

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