え?俺が幻影旅団の4番ですって!?   作:ハンマーしゃぶしゃぶ

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最終話 最後の大仕事

キメラアント編が終わって、選挙編は俺達には関係ないのでぶっ飛ばして…さぁ次はいよいよ複雑怪奇な継承戦編だ。

なんか凄く頭の良いキャラ達がわちゃわちゃやりだして、正直言えば俺はもうついていけないのだが、〝ヒソカのせいで頭が復讐でいっぱい〟状態になっていない、冷静なクロロがいるからへっちゃらなのだ。

なにせ、パクノダ、シャルナークというサブブレインも健在だし、鉄砲玉最強のウボォーまで存命。

未だに10番枠が埋まらないが、幻影旅団のパフォーマンスは最高を維持している。

…選挙編の旅団の動向?いや、本当に何もない。

強いて言うなら、俺とマチとシズクが爛れた性活をしていたくらいだろう。

 

「うおお、マジでクジラだ!でっけーなぁ!」

 

本来の運命では、早々にお亡くなりになっているウボォーが元気いっぱいに船の感想を述べている様は、なんか感動的ではあるのだが、肝心の感想は非常に素直過ぎてもはや小学生だ。

 

「ほんと。けっこう可愛いデザインよね」

 

パクノダも笑顔だ。可愛いもの好きだからな、パクは。

 

「ふざけたデザインではあるけど、あれで移動要塞みたいなとんでもない建造物なんだ。長さ1500m、高さ800m、幅800m、収容人数は20万人!デッカイよね~。あのデザインだけど、カキンでも文化的な先導者として有名な―――」

 

シャルナークが楽しそうにうんちくを垂れ流している。

誰も聞いちゃいねぇ。

 

「なぁコルトピ、お前の能力でもあの船ってコピーできるのか?」

 

「あのサイズだと、2隻いけるかどうかかな。さすがにちょっと大き過ぎるよ」

 

「できんのかよ。エグいな、おまえ」

 

コルトピも、フランクリンやノブナガと軽口を叩き合っているし、死んでいたはずの蜘蛛が、こうしてダラダラくっちゃべっている風景は、同じ幻影旅団としては胸に来るモノがある。

 

「で、また旅団勢ぞろいの大仕事なわけだけど…どうする?団長」

 

パクノダに問われ、クロロはフッと団長モードスマイルを披露した。

はいはい、イケメンイケメン。

 

「突っ込んで皆殺しにしようぜ!」

 

おい黙ってろ脳筋。サラサに言われた事何も脳細胞に定着していないのか?無関係で無実な人を殺したらサラサに「めっ!」されるぞ。

 

「落ち着きなってウボォー。今回はマフィアン・コミュニティーみたいに簡単にはいかないよ。あの王家は、代々、念と繋がりが深いって言われてるんだ。王家連中と全面戦争になったらリスクが大き過ぎる。殺るなら、一人ずつこっそりとがいいんじゃない?」

 

そうだそうだ。もっと言ってやれシャルナーク。

しかしシャルナークの意見も、クロロからすると却下だったようだ。クロロが改めて指令を下す。

 

「昨日、俺達の中で、占える奴全員を占った結果を見ても……王家連中とも、船内のハンター達とも、オレ達は戦う必要はない。お宝をいただければそれでいいのだからな。障害は排除するが…今回の仕事は、スマートに素早く、だ。占いでは、なるべく王子共には関わらない方が良さそうだしな」

 

戦闘班達も、「ほぉ…」みたいな顔で指令を受け取っていた。

久々に、王道泥棒スタイルか?

虐殺無しの方が、逆に難易度は高い。

だがゲーム好きとしては、被害ゼロを目指すスタイルの方がやり甲斐は上で、ゲーム的要素を感じられて俺は結構好きなのだ。

というか、旅団ほぼフルメンバー健在でレベルも上がってて、クロロも〝ラブリーゴーストライター〟を保持している現状、それぐらいでないと本当に俺がやることがない。でも、別に暇でもいい。楽な方がいいのもまた確か。

 

「いつ仕掛けるの?」

 

パクノダが言うと、クロロは彼女の顔をジッと見てから、やがて俺達全員を見渡す。

 

「…8月9日」

 

「9日…!?……というと、出航する日よ?いくら何でも、まだ人目を引きすぎる頃合いじゃない?」

 

パクのその指摘に、クロロは頷きながら答えた。

 

「V5の面子すらも懸かるBW号の出航。そして、パクとシャルの情報収集から、カキン王家が重大な儀式を行う可能性も濃厚だ。だからこそ…皆が思う。〝まだ大丈夫〟〝外部から、トラブルは起き得ない〟と。それに、私設兵達の何人かの様子からも、気にかけているのは明らかに外ではなく内だと分かる…そうだったろう?パク。…BW号は、進めば進むほどに、内に毒を抱える」

 

「…確かにね。団長の占いにも、それらしい事は確かに書いてあった」

 

「ああ。決行するならば、早い方がいい」

 

「王族殺し級のトラブルでも起きない限りは、どんな醜聞だって揉み消して、その儀式とやらを強行するだろうしね」

 

シャルの言葉に、今度もクロロは頷きつつ「あるいは、王族殺しが起きても、だ」と皮肉げな笑みを浮かべながら言った。

 

「オレ達がお宝だけを頂いて逃げる分には、大規模な追撃は出来ないだろう。同乗するプロハンター達も、船内の警備と治安維持で動けない。ごっそり頂いたら、オレ達はそのまま船からサヨナラ、さ」

 

「どうやって海上を逃げんだ?BW号の船足は結構なもんなんだろ?出航して数時間もありゃ沖合まで行っちまうぜ。その距離を宝抱えて逃げんのは、ちょっと難しいんじゃねぇかな」

 

そう言ったのはウボォーだ。さすが実質的副頭。脳筋のくせにこういう妙をつく質問が上手だ。皆の疑問を代表するような、そういう質問をいつもしてくれる。

 

「ファンファンクロスはまだある。お宝の運搬に関しては心配無い」

 

「…あー、あの陰獣野郎のがあったな、そういや。マジで抱えて泳ぐのかと思ったぜ」

 

ノブナガがちょっと不安そうだったのは、なかなか笑える。

ちなみに、本来では陰獣の梟さんがどうなったかは不明だったと思うが(十中八九死んでる気がするが)…この運命では未だ生きている。

生きている…というだけで、人としての自由とか尊厳みたいのはあんまり無いのだが。

 

クロロは、大分前から〝盗んだレアスキルの本来の持ち主を保存〟する方法を思いついていて、まずは俺達の故郷・流星街に、今まで盗んだ金を使って大きな病院を幾つも建てた。以前、「旅団が盗んで稼いだお金は全部、使途不明金だ」と言った気がするが、こんな所に使っていたというわけだ。何時だったか、一緒にレア能力狩りに行った時に、クロロからサラッと告げられた。

もちろん、大半は流星街の人々の為だろうが、そのうちの一棟が、実はクロロ専用の施設を地下に抱えている。

そこでは、意識を消され、生命維持装置に繋がれた患者(クロロの被害者)達が延々と寝ている。

その地下病棟の存在は、クロロ以外で知るのはパクノダと、そして一緒によくレア能力狩りをしていた俺のみで、それ以外ではたとえ病院関係者でも建築関係者でも、パクノダがメモリーボムで記憶を消去するという念の入れようだ。

俺ですら全ては把握していないが、分かっているのは、インドアフィッシュの奴、転移系念能力者、コンバートハンズの奴、オーダースタンプの奴。そして、クロロの言葉から梟とネオンも、そこにいるのだろう。

いつか、いずれクロロがそいつらの発が必要ではなくなったら、解放される時が来るのかもしれないが、それまではずっと彼らは地下病棟のベッドで転がる人生だ。

 

少し話がズレた。

まぁクロロの事だから大丈夫だろう。

きっと、とってもスマートで楽チンな脱出方法を考えているに違いない。

 

「団長、カキンの財宝は全部が第一層に集められている。そして第二層と第三層の間には特別分厚い隔壁が張り巡らされていて、各層の連絡通路は王国兵が厳重に警備してるけど」

 

「隔壁は、念対策もしてる可能性は高いな。だが、物理的にはウボォーのパンチ…念的にはライブスの捕食で突破可能だ」

 

「おう!百mの鋼鉄の壁だってブチ破ってやる。任せな」

 

「確かに一番手っ取り早いよな…だいぶ脳筋戦法だが。ウボォーとライブスがいれば、大抵は強行突破出来ちまうな」

 

フランクリンの指摘に、クロロも余裕綽々で微笑み返す。

情報は全部パクノダとシャルで筒抜け。物理突破にウボォーギン。

…早くも、カキン側にとってクソゲーの予感が漂ってくる。原作で、この辺りの面子が早々に退場したのもやむ無しだろう。

レベルを上げて物理で殴って無理矢理盗む。うーん、シンプルでいい。

……………あれ?

静かにスマートに盗むんじゃなかったっけ?この方法は確かに素早いだろうが…スマートというよりは、フランクリンが言った通り「ふんがっ!!」って金庫こじ開けるレベルのゴリラ戦法なのでは?スマート…?

 

「全て掻っ攫った後は、ライブスのイエローテンパランスに包んでもらって海に飛び込む。占いではそれが一番ベストな逃走方法だった」

 

は?

 

「なるほどね。テンちゃんは、海の中でも海上でも大丈夫なんだったね。それに、ちょっとやそっとの念攻撃(呪念・邪念)も、テンちゃんなら消化しちゃうから帰り道も安全だ」

 

マチよ。…それは俺一人ならそれぐらい出来なくも無いよ…というだけでだな。

旅団全員丸呑みして海を泳げって…?何海里あるのよ、陸地まで。

馬鹿じゃないの?馬鹿じゃないの?馬鹿じゃないの?

本当に馬鹿じゃないの?

俺一人の負担デカすぎィ!!

確かに、テンパランスなら筒状に伸ばして海面に呼吸口作ったり、海中でも海食って分解して、スライム内部に必要な大気成分だけ通すとかもできる。

確かに、粘液変形させて、ヒレ作って犬かきよろしく水掻き掻きでゆっくりとは泳げるし、海底を這わせていけば海底ハイキングもできちゃう優れものだ。

それらを、全部テンパランスにオート操作で楽ちんお任せコースも完備ではある。

うほっ、マジでイエローテンパランス万能チート過ぎる。さすがイエテン。さすテン。

 

だけど。

 

だけどクロロ。

 

疲れるのだが?俺が大変疲れるのだがぁ!?

 

いくらテンパランスが、食ったモノをオーラとか栄養とかに変換して、本体の俺自身にじゃんじゃん送ってきてくれるとはいえ、疲れるんだ!

俺に溜まる疲労物質は消せないのだ!

そんな状態だと、いくらオート任せで俺はずっと寝てても、絶対疲労回復できないではないか。

眠りながら疲れ続ける、疑似昏睡状態になるぞ。

何が〝占いに書いてあった〟だ!占い、占い、占いって。まったく占いにハマった年頃の乙女かっつーの。

やーやーなの!

そんな俺一人だけ疲れる脱出劇は、ヤっ!!

 

「そういう事なら、オレ達戦闘員組の出番はあんま無い感じか?ちぇ、つまんねーな」

 

「ささと盗んでささと帰るね。ライブスとのAC6の決着(けちゃく)まだ残てるよ」

 

あぁそうだった。俺が203勝でフェイタンも203勝。現在、戦績は拮抗しているんだった。

それにしてもフェイタンのゲーマー属性が加速している。クリーチャーハンター2Gが(物理的に)終了した後、新しいゲームを持ってきて、現在俺とフェイタンはどっぷりレイブンとなっていた。

もっと戦闘狂的で拷問好きなサディストだったはずだが…昔から俺という異分子が側にいたせいか、隠れゲーム好きから本当にゲーマーになってしまった。おまけに最近は、サラサに叱られたりで…拷問趣味も殆ど卒業状態……あぁフェイタンおいたわしや、ようこそオタク道へ。お前と俺とはずっとゲー友だょ。

いや、そうじゃなくて。

なに皆、俺のイエローテンパランスに頼ろうとしてるの?

なに既定路線みたいな雰囲気出してんの?

お前らの精神構造はどうなっている。

人にばっか負担を押し付けて!

どんな育て方されてんだ!

ろくな教育受けてないだろ、ろくな親じゃねぇ!

そうだったよ俺達みんなそんな感じの育ち方だった。

 

~~オレらヨークシンさ行ぐだ~~

親がいねぇ。教養ねぇ。死体も埋葬されてねぇ。

金がねぇ。人権ねぇ。死体が腐ってぶーよぶよ。

長老が。朝起きて。死体を拾って焼き尽くす。

 

思わずそんな歌を口ずさみたくなるような、そんな素敵な場所でみんなすくすく育っていたのだったな。

きちんと埋葬される死体なんて身内のだけで、外から不法投棄される死体なんて、もはや腐敗とか感染症とか実験とかで芸術的な造形だったぞ。おお怖い怖い。

ああ腐れた流星街人達である幻影旅団に、ブラック労働勤務形態をどうこう言っても無意味だった。

やめてやる。

こんな厨二病ヤンキーチーム辞めてやる。

 

「お前が要だ。頼むぞ、ライブス」

 

アッハイ。

反射反応で、俺は実に素直にクロロに頷き返していた。

慣れとは怖い。

俺はすっかり社畜根性が染み込んでしまっていたのだ。

 

「……ライブス」

 

「?」

 

了承させられて頷いたというのに、クロロはまだ何か気になる事があるのか、俺の名を呼びジッと目を見てくる。だから、その目は飾り物で、実際はおばちゃん状態の無駄にデカい垂れたおっぱい辺りなのだが?

…今思ったが、俺自身の目をしっかり見ようとすると、おばちゃん肉鎧の胸をガン見する事になるのか。それは確かに見れないな。

すまないクロロ。こんな場所が、ちょうど俺の目で。だって、安心できる肉鎧のサイズにすると、俺の頭がここら辺になってしまうのだ。

で、なんだい?

 

「…この仕事の占いで…少し気になる事が書かれていた。お前に関するものだ」

 

なん…だと…?

まさか、俺の死を暗示するような何かが出てきたってこと?!

お、教えてくれクロロ!

 

「おまえがオレ達を守り続けてくれていたように、今度は、必ずオレがおまえを守る。…だから、気にせず振る舞え……いつも通りにな」

 

なにそれぇ。

そんな気になり過ぎる事を言われておきながら、気にしないで!ってこと?

だったらいっそ何も言わないでおいてくれた方がよかったよ!

…いや、しかし…突然のとんでもないトラブルに晒されるかもしれないなら…心構えは必要、か?

……とある神父も言っていたものな。

何かトラブルが起きると知っていれば、覚悟ができるって。

覚悟があれば、どんな不幸も乗り越えられる…!

そう…この心構えは覚悟だ……クロロは俺に覚悟しろ、と言っているのだ。覚悟が事前にできるのは幸せな事だ。幸福なことだ。

…。

……。

いや、それでもやっぱり、無駄に怖がらせられたって気がしないでもないんだが?

…もうこの仕事、イヤになってきた。なんかお腹痛い気がする。

帰りたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今夜、私達が忍び込むのはお前の心です。

どうもライブスです。

今、ブラックホエール号に忍び込んでいるところです。

俺以外、本当に忍ぶ気があるのか?と問い質したいくらいに、幻影旅団は素のままの自分でブラックホエール号に乗り込んでいます。飾らない、嘘偽りのない、ありのままの姿見せつけすぎだろ。

 

継承戦編がいよいよ始まったわけだが…。

なんというか、やはりパクノダは攻略チャートぶっ壊しキャラだった。ウボォーも。コルトピも。シャルナークも。

お前ら、やっぱ死んでなきゃダメだったようだ。作劇的に。

でも、俺的には全然OKです!楽チンなので!

 

身分高そうな奴を発見したら、クロロが転移系能力で拉致。または、シャルがブラックボイスで操作して、人気のない場所まで誘導。パクノダがインタビュー。

情報全部ゲットした後、メモリーボムを撃ち込んで俺達の記憶消去。シャルがブラックボイスで、そいつを自室まで返す。不都合な証拠や痕跡は、シズクがデメちゃんで吸い取るか、俺のテンちゃんで分解。

そいつから得た情報を元に、もっと高い身分の奴ん所行く。パクがさらに深い情報ゲット。シャルがブラックボイスで、そいつを自室まで返す。

そいつから得た、もっともっと高い身分の……以下、目的に辿り着くまで繰り返しのgo to loop。なんて単純なプログラミング作業なの。

 

「面白い情報持ってたわよ、こいつ。大金庫へのルートも知っているし当たりだわ」

 

パクノダが俺達にそう言った。まだまだあるわよ、と良い笑顔だ。

 

「いま、カキンの王子様達は次期国王を決めるための〝継承戦〟をやってるんですって。その他にも―――」

 

うわぁ。あっさり真実まで辿り着いたぞ。俺は口下手だし超陰キャだし字も下手過ぎで、継承戦の複雑な事情なんて全然説明できていなかったから、良かった。安心だ。

というか、俺まで知らない真実までモレナから引きずり出している。へぇ~、今後はそんな展開になるっぽい感じか。

そう、モレナだ。

ここまで出来ちゃったのも当然だった。なにせ、今しがた俺達がインタビューした相手は、顔に二筋の傷がある美人であり、どう見てもモレナ組長なのだから。

 

ふぅ……ここまで辿り着くのは並大抵の苦労ではなかった……。

どんどんパクノダがインタビューする中で、念能力者がいて、そこから芋づる式に組員を捕獲して尋問していって、色んな念能力による防御隠蔽のカラクリも全部パクノダとシャルナークが解除していって、マフィアのアジトにはフランクリンがダブルマシンガンぶっぱして、イエローテンパランスに包まれたウボォーが特攻したら全部片付いた。

とんでもねぇ苦労だったぜ…俺もマチもフェイタンもフィンクスもコルトピも、ダウトにババ抜きに七並べに大忙しでな…。シズクは、後始末に大活躍していた。吸引力の変わらない唯一つの掃除機デメちゃん。

 

「―――という事みたい」

 

むごい…あまりにも…。

シャルに操られた側近に押さえつけられ、他の奴らは俺のテンパランスに包まれて、動きを拘束されると同時に酸素不足で失神。

モレナ自身は、能力、隠し事、本心、願望、性癖、何もかも曝け出されて、あんなに余裕綽々で自分が死ぬのも怖くないという雰囲気の退廃聖女様だったのに、今や心の仮面は完膚無きまでに粉々に崩されていた。これが尊厳破壊という奴か。うーん…ゾクゾクするな。

パクノダは、肉体的な責め苦は好まぬ旅団内の穏健派であるが、魂の凌辱とでもいうべき精神の拷問に長けていて、しかもそっち方面の責めは容赦無い。

パク曰く、「死にたくなるような精神的凌辱も、最後には忘れさせてあげるんだから大丈夫」との事。えげつねぇな。

 

「なるほど。大した破滅願望だ……この念能力のお陰で、その願望が加速したのか、或いは因果が逆か。パク…オレが発を盗んだら、こいつらの記憶から〝オレ達に関わった事〟以外にも、念に関わる全ての事柄を消せ。…特にモレナからは、破滅願望もだ」

 

「了解」

 

本当にえげつないんだが?

あのモレナが泣きながら首をイヤイヤと横に振っている。モレナの心の出発地点である〝絶望と憎悪〟を忘れさせられるというのは、モレナの人格形成の土台が消えるという事を…今の自分が消えるのと同義という事を、彼女は分かっているのだろう。

シャル、アンテナ、セット!洗脳モレナ、クロロの本に手をON!ペラペラと質問に回答!

OH…。

恋のエチュード(サイキンオセン)、これにて終了です。

やばい…今度からクロロの唾液飲まされると、新しい発が発動しちゃうの?…数ヶ月後には、パクに発めっちゃ増えてたりして。

そして、俺達と関わったという記憶も、このチンピラ達は全員失ったので、俺達は情報だけゲットして実にフリーダムに動き回れている。

楽チン。…楽チン過ぎない?

…旅団で占える奴らの結果を元に動いているだけあって、何もかもがスムーズ過ぎるのよ。酷いチートを見た。

 

「さて…手札は揃ったな。第一層に行くぞ」

 

「アイサー」

 

「へへ…オレ達の動きに勘付いて、襲ってこねぇかな?団長、奴らが攻撃してきたら返り討ちはOKなんだよな?」

 

「…なるべく穏便にな。特に、王子は殺すな。無力化に留めておけ。」

 

「わかってるさ!」

 

「…もっとも……その時は、奴らは襲えるような状態じゃないだろうが、な」

 

にっこりとクロロが言った。

…え?その意味深な感じ…そろそろ、俺へのトラブル、来る…のか?

怖…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うわぁ。なんだか大変な事になっちゃったぞ。

こんな感想を抱くのも、もう何回目だろうか。

幻影旅団の大仕事の時は、決まってこんな感想が漏れてしまう。

第一層についた俺達は、なんかもうシッチャカメッチャカなトラブルに巻き込まれていた。

というより、俺達が第一層に大混乱を巻き起こしたと言ったほうが正しい意味となる。

まさか、皆さん、セレモニーの直後に王族フロアで大暴れするバカが大量に湧くとは思っていなかったらしい。さすが、クロロの占い通りだ。もうこれ、クロロのお陰というか、ネオンのお陰と言った方がいいのでは…?ありがとう、病院で寝ているネオンさん。今度、お見舞いに行きます。

さー、騒ぐぜ。超騒ぐぜ。

うおおお、ズームパンチ!腕よ、伸びろぉぉ!

ズームキック!脚よ伸びろ!ズーム頭突き!頭が伸びる!ズーム腹!腹が伸びる!

そして、喰らえ!戸愚呂兄ごっこ!体中から無数の粘液紐を、めっちゃ伸ばす!

でも大丈夫。無駄な殺しはするなって言われてるから、先っぽは丸いです。

それに、出てくるのは銃を撃つような一般兵ばっかだ。恐らく、念を高度に修めた私設兵達は、王子の側でガードに専念しつつ現状を分析しているのだろう。その方が俺達もありがたい。私設兵どもの念能力の中には、厄介なカウンター型とかもあるっぽいし。

その辺りはクロロも、占いやパクのサイコメトリーで知っているようだが。

 

「よし…頃合いか」

 

雑魚相手に無双していると、クロロがミッション第2段階を告げる。

 

「…ライブス、使用を禁止していた()()()()…解禁する。盛大に使え」

 

え。

使って良いのか?

 

「ああ、全力解放で構わん。ただし、飲み込んだ人間は溶かすな。酸素を微かに粘液に混ぜ込む程度にして、死なない程度に失神させて欲しい。出来るな?」

 

できらぁ!

…しかし、以前のクロロなら、間違いなく殺しても良いって命令だしたと思うが…本当にサラサ効果絶大だったな。

くくく…こっそり磨き続けながらも、「そんな大規模攻撃どこで使うんだカス」という感じで封印されていた俺の大技…。出番といえば、トイレでヒソカに披露したミニverのみ。とうとう使えるのか…。とうとう実戦で緋の眼をみるのだ!じゃなくて陽の目をみるのだ!

今回の大仕事、恐らく俺の最後の見せ場だ…イエローテンパランス、最後の力を振り絞れぇぇぇぇ!

 

『…コノ船ノ…全テヲ飲ミ込ム…。クククク……ソノツモリ デ ヤラセテ貰ウゾ』

 

とうとう全力出力で、俺の必殺技の発動だ。

やれ!イエローテンパランスッ!

 

『タイダルウェイブッ!!!!』

 

ミニverではない、MAXのタイダルウェイブ……俺を覆う肉鎧も解除し、全ての粘液を攻撃に使用する、俺の最大最後の大技だ。

ブバァッ!とはだけたスライム達が、元気いっぱいに散っていく。

 

「おお!ひっさびさだなァ~!タイダルウェイブもだけど、ライブスの素顔レアだしな。拝んどくか」

 

フィンクスがまじまじと顔を見てくる。やめて恥ずかしい。

 

 

「わぁ~!すっご!!壮観だよねーー!!」

 

シャルナークが、わはー、と喜んでいる。シャルって、ウボォーのビッグバンインパクトとか、こういう大規模な派手技が好きなのだ。自分が地味な能力なぶん、そういう好みになったのだろうか。

 

 

「…相変わらずスゴイ規模だな…一度出されたら対処しようがねぇ」

 

フランクリンにこう言われるのも、結構レアな気がする。普段は、意外と冷静で辛口だから嬉しい。

 

 

「俺のビッグバンインパクトでも、タイダルウェイブが育ち切るとどうしようもねぇからな」

 

依然、破壊力を成長させている超破壊拳の方が恐ろしいわ。

 

 

「…っ、ラ、ライブスの…素顔…」

 

目が合ったシズクが、顔を赤くする。…旦那として、誉れであります。

 

 

「………ふふっ」

 

マチは、フフン、という自慢気な顔をしていた。いや、俺の技なんだが?

…いや、そうか……命名したのはマチだった。

つまり!マチの想いも受け取って、更にパワー倍でドン!タイダルウェイブのパワーは倍増する(気がする)!

 

辺り構わず、船の壁、床、天井を這い進んでいき、兵隊どもの装備、服、タンスにランプに筆記用具に台所用品、とにかく生命体以外を全部飲み込み、消化し、吸収していき、そして俺のイエローテンパランスは加速度的に膨張していく。

鍛えた甲斐があったというものだ。ものの10秒で、イエローテンパランスはウン十m級の、巨大スライム怪獣になる。

触っては食い、膨らみ、飲み込み、溶かす。

けど生きてる人は、溶かさない。でも服は溶かす。

壁などは全部食べると、建築物全体が崩壊するので、ところどころを虫食い状態にしつつ、どんどんイエローテンパランスの栄養に変えていった。

そうやって、粘液のテリトリーを広げていく中で…異質な感触を感知。

 

…。

 

この感触…人ではない。

これは…。

 

『念獣ダ……小癪ニモ、私ノ捕食ニ抗ッテイルガ……無駄ダゾ!私ハ全テヲ溶カシ食ラウ!たとえオーラであろーと…念獣デアッテモ、例外はない!』

 

たとえ歴史ある一帝国が連綿と紡いできた、死後の念が染み付いた宝具によって生みだされた念獣でも、誓約と制約によって強まった念(プレデター)によって破壊や捕食は可能なのは、既に理解している。

そして、そう理解しているというのが、俺にとってべらぼーに強い!

ベンジャミンだろーが、ツェリードニヒだろーが…あいつらの不気味で超強そうな念獣も、ここまで巨大になったイエローテンパランスならば食える!

そう信じるんだ!

もっと!もっと!捕食した奴は何でもかんでも、食い尽くして消化できると!空気を吸って吐くことのように!HBの鉛筆をペキッと!へし折る事と同じようにッ!できて当然と思うことだ!!歴史ある国家の、血みどろの人々の怨念を背負っている念獣ですらもッ、酒のつまみ感覚で食えると、100%信じ込む事だ!

念とは思いの強さなんだァァ!

 

『ム…!ヌゥぅぅ!抵抗ハ激シイガ…私ノ方ガ上、貴様ラ カキンの獣共ハ下ダ!一匹一匹……このイエローテンパランスの、暗黒空間にバラ撒イテヤル………………、ッ!…ヨシ!!消化シ!分解シテヤッタ!!食ッテヤッタゾ!!!食ッタ!!継承戦、完!!!』

 

「よし、よくやったライブス!大きな障害は排除したな。ライブス、お前はここでテンパランスの維持。ウボォーはライブスの護衛。俺は大金庫へ行く。他は、それぞれ王子の部屋を回って、個別の宝を回収。…マチ、シズク、お前達は()()()()だ。…全員急げよ。十二支んが来る前に仕事を終えるぞ」

 

クロロが矢継ぎ早に指示を出すと同時に、蜘蛛は走り出す。

俺は、全力タイダルウェイブ中は身動きが出来なくなるから、ここでポツンとお残りだ。なにせ、全てのスライムの操作と捕食対象感知と、そして捕食対象への酸素提供とめちゃ忙しい。全部食って分解するだけなら、かなり負担は減るのだが。

いつもは鉄壁の守りの肉鎧も無いし…かなり心細く、本体である俺自身の肉体性能は、そこらの並の念能力者と同レベルかそれ以下だから、致命的な弱点絶賛晒し中という事である。

本来は、全力タイダルウェイブ発動中は、周囲全ての物体とオーラを分解しながら喰い進む、粘液の大波なわけで、俺が無防備になるのを考慮する必要はない。

しかし、今回は、食う食わないを選定しながらの大規模攻撃であるから、()()が怖い。

まぁその為のウボォーだが。

 

「…暇だな、ライブス」

 

「…」コク

 

「こんな規模のタイダルウェイブは、ホント久しぶりだよなァ。前に全力撃ちしたの、いつだっけか。…確か……あ~~~…オレとかフェイタンが同時に挑んだ時だから…緋の眼狩りしたちょっと後で、ヒソカがおめーに挑むちょいと前くらいだったよな。つーと……」

 

「……ということは、4年前くらい…かな?♦」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!!?」

 

「…!!」

 

 

 

 

有り得ない声が聞こえてきて、俺とウボォーが一斉に振り返る。

と同時に――

 

「あぶねぇ!!」

 

「っ!」

 

トランプカードが、俺目掛けて投擲されていた。超高速で迫ってくるそいつを、ウボォーが体ごと割って入ってバッチリ止めてくれた。

さすがウボォー…頼りになる。

俺も、周囲のスライムを少しばかり呼び戻して、咄嗟に盾っぽいのは構築して構えてはいたが、スライム盾に当たる前にウボォーが遮ってくれた。

し、しかし…こいつは…。

 

「…テメェ…ヒソカ!!!」

 

「や♠」

 

ヒソカ…!殺されたんじゃ…!

トリックだよ!とでも言うつもりか。

ま、まさか…マジにトリックやったのか。あのトリックなのか。どうせ死ぬなら…って自分の心臓にバンジーガム心臓マッサージ仕組んで、ゾルディックに殺された後で生き返ったとでも!?

それだったら、十老頭がウボォーに殺されたタイミングが悪ければ、ゾルディック家的にも「一度殺したし、依頼主死んだし、生き返ったコイツは放置」ってなる可能性もある!だが、どんだけ運命的なタイミングだ、それ!

それとも、イルミにでも依頼して…ヒソカ単独になったら、なぁなぁで済むように手配していたとか…?

あるいは…偽ヒソカとか?

他人の空似とか………い、いや、有り得ない。あんな、スライム以上にネトネトした粘つく視線と喋り方を醸し出せるのは、間違いなく本物だけだ…!

……それに、や、やはりコイツ、生き返ったに違いない!凝でよくよく観察してよくわかった!

こいつの、顔、腕、脚…不自然にオーラが集中している…オーラで形成された整形顔・義手・義足の可能性、大!

…こ、このマッドピエロ野郎、まさかの超低確率のジャックポットを引き当てたのだ!

コイツ…マジに神に愛されている男!

 

「どういう事だ…テメェはゾルディックに殺されたはず!あのゾルディックが始末し損ねるとは思えねェ…!第一、このイエローテンパランスの無差別攻撃の中を、どうやって潜り抜けて中心(ここ)まで来やがった!」

 

「クックックックックッ…♣さぁ?始末されたのかな?されてなかったのかな?潜り抜けたのかな?隠れていたのかな?ライブス、ウボォー……君達にボクの手品が見抜けるかな?地獄もすり抜ける、大・奇・術(だ・い・き・じゅ・つ)♥」

 

「…ハッ、相変わらずキメェ野郎だぜ。なんでもいいさ。生き返って…オレ達の前に立ちはだかるっつーなら、また地獄に送り返してやるまでだ」

 

ウボォーがいるのがすっごい心強い。

しかし…なんてこった、イエローテンパランスを全部撃ち出している今、生き返ったヒソカに狙われるなんて。

う、運命か…運命がこいつを生かして、そしてここに来させる事に決めていたんだ!誰かー、ローリング・ストーン(ズ)連れてきてー!イタリア人が発現させた癖に、漢字一文字の凶の字石像スタンドめが!ヤローぶっ壊してやる!1

 

「ライブス…♥それが君の顔かい?ククククク…見れて良かった…思った通り…イイ顔じゃないかぁ♥」

 

俺は会いたくなかったが?

王大人(ワンターレン)のガバガバ死亡チェック並みの復活しやがって、クソが。

 

「変態ヤローが…。だが、ライブスより前に、オレと遊んでけや、ヒソカ。一度、テメェのニヤケ面ぶっ飛ばしたかったんだよ」

 

「…フフフフ、断る♦ウボォー…君は確かに面白そうだけど、今はちょっと―――邪魔♠」

 

その瞬間、ヒソカはとんでもねぇ汚い笑顔を披露しつつ、超スピードで跳ねて、そして瞬く間に俺達の視界から消えた。いや、消えたかのような、超高速のジャンプを繰り返している。

あのゴムゴムのバンジースプリングベラミー跳ねは、あいつの脚は既にバンジーガム・レッグになってる証拠を、いよいよ掴んでしまったぞ。

 

「っ!く…速ェ…!」

 

「ククククク♠」

 

ヒソカの笑い声が、周囲で反響している。

ヒソカは、このフロアを崩壊させないために残している壁や天井の、しかもテンパランスが這っていない食べ残しを確実に足場として跳ね回る。

 

「っ、オラァ!!」

 

タイミングを合わせ、ウボォーのブロウが放たれるが、やはりというか、ヒソカはそこら中に貼り付けたであろうバンジーガムで、自在な軌道を描く。単純な速度なら、ウボォーの目なら充分捉えられているはず。しかし、ヒソカの戦闘センスは、悔しいがズバ抜けて天才的だ。ウボォーは、タイミングを絶妙にズラされている。

そして、合間合間に放たれる反撃のトランプカード。

狙いはウボォーじゃない。

ウボォーにいくらカードアタックをした所で、ウボォーの装甲はとても貫けないのは、ヒソカも分かっているのだろう。

そもそも、まともにかち合えば、今のウボォー相手ではヒソカに勝ち目はない。しかし今この状況を、ヒソカは巧みに利用して、ウボォーの力を最小限に抑え込む事に成功していた。…だが、最小限に抑え込んだウボォーでさえ、ヒソカは殺す事は出来ないのだ。ヒソカの狙いは、ほぼ間違いなく俺だろう。

 

「…!」

 

なけなしのイエローテンパランスで防御する…!

うおー、怖いな。トランプが飛んでくる軌道に、しっかりスライムを割り込ませないといけない。勿論、テンパランスがオートガードで頑張ってくれるのだが…。

 

―――ビシュッ!シャッ!シャッシャッシャッシャッシャッ!

 

次々に、四方八方から投げ込まれるトランプ!

一枚でダメなら十枚!十枚でダメなら百枚!百枚でダメなら…!という事か…次々に飛んでくる!

かなり多い。どこにそんな仕込んでるんだ。

 

「ちぃぃ、ライブスばっか…狙ってんじゃ…ねぇッ!!!破岩弾ッ!!!」

 

床を殴り砕き、そのままの勢いで破片を弾丸とするウボォーの散弾!

だが、軌道変更と共に、ヒソカは両手を広げつつ瓦礫の散弾を待ち受ける。バンジーガムをラップフィルムのように伸ばしたシールド…!レイザーのドッジボールすら跳ね返せる、えげつない弾力!

ウボォーの破岩弾は、威力も速度も凄まじいがオーラが籠もっていない。ヒソカにとって、弾き返すのは容易のはずだ。

 

「返すよ、ウボォー…!♦」

 

「っ!しゃらくせぇ!!!」

 

ウボォーは跳ね返ってくるであろう、石礫を迎撃せんと身構えるが…。

ぐにーーーっとなったバンジーガムが、瓦礫弾を跳ね返すその先……俺だぁ!?わー!このやろ!器用な反射しやがって。

 

「…!ライブス、すまん!そっちいっちまった!」

 

「っ!」

 

構わんよ、全てテンパランスで防げる!無駄無駄無駄無駄。

弾丸を吸収し、オーラに変換…テンパランスの容積を………増やす!

何とか、この辺りにいるテンパランスだけでやり繰りするしかない…。こちらこそ、すまない、ウボォー…攻撃アシストするだけのスライムの確保もおぼつかん。それに、今は俺の存在が明らかにウボォーの足枷…!ごめんだけど、超頑張ってウボォーギン。

 

「ライブス、イエローテンパランスを呼び戻せ!そうすりゃ、ヒソカ程度なんざ…!!」

 

俺だって、出来るならそうしたいのだが。

 

「…クククク、出来ない♦そうだろ?ライブス…♥」

 

う…見抜かれている。

 

「何でだ!!さっさと戻せ!!」

 

「フフフ…代わりに答えてあげるよ、ウボォーギン♣だって、今、ライブスはイエローテンパランスでこのフロアにいる、全部の敵を封じているんだろ?♦それも…生かさず殺さず…絶妙な力加減でさ♠スゴイよね…どれだけのオーラ量とメモリ量ッッ!…アァァァッ…興奮しちゃうね♥想うだけで、思わず溢れてしまいそうだよ♥…でも、あぁダメダメ…それが命取り…いくら君でも、仲間を守り、敵を封じつつ、自分に対する無敵の絶対防御をも発動するのは無理♠…ライブス、君が全力での攻撃をやめたら、封じた敵達が息を吹き返す♦……だから、君は散っている蜘蛛を守るために、手元にある僅かなスライムでガードするしかできない♥違うかい?」

 

頭がいい…洞察力もあるし、勘もいい…そして何より運がいい。本当に、実に厄介な奴である。

 

「くっ…(そういう事か…!確かに、ライブスの性格ならば、自分(テメェ)がどれだけ削られようが、能力の解除はしねぇだろう!)、だったら…俺がテメーを殺して全部解決だ!!!」

 

「フッ♠慌てないでよ、ウボォーギン…ボクは―――っ!」

 

「ハァァァァ!!!!」

 

「っ!!?」

 

蹴りでの破岩弾!意外性がヒソカの動きを鈍らせ…命中ッ、ウボォーが一気に距離を詰める。さすがウボォー!

ガッツリ近接なら、ヒソカじゃウボォーには敵わない!

バンジーガムだって…!

 

「おらぁぁぁ!!!」

 

「…っ!!!バンジーガムごと、ボクを叩き潰して…振り回す…!本当に大した馬鹿力だ♦つくづく君とは相性が悪いな…♣でも…」

 

一瞬、ウボォーにグチャッと潰されたように見えたヒソカは、手と足を形成するバンジーガムアーム&レッグをクッションのように広げて体を保護。そのまま、広げたバンジーガムを、ガバリとウボォーに被せる。

 

「っ、しゃらくせぇって…言ってんだろ!!!!」

 

―――ミジミジミジッ、ブチィィッ

 

そんな音をたてながら、ウボォーは力任せにそいつを千切る。上半身全てにバンジーガムを接着されたにも関わらず、ウボォーはそれを力任せに引き千切ってみせたのだ。

怖っ。

なにあの怪力。

確か…原作マチだと、点打ちのバンジーガム雁字搦めですら、身動き出来なくなっていたのに…面打ちのバンジーガム雁字搦めを……あんな短時間に。

これにはヒソカもびっくりして驚いているっぽいが……。俺はヤバいのでは?

 

「でも、時間稼ぎには充分だろ?…ライブス、今……――――行くよ♥」

 

ウボォーが引き千切った、その瞬間…ヒソカはバンジーガムジャンプで、俺へと一直線に跳んでいた。

ヒソカを仕留めようとしたウボォーは、結果的に、俺の側からヒソカ側へと数m誘い出された。

その僅か数mが、ヒソカの狙いだった。

俺とヒソカとを繋ぐ、刹那の直線空間が生じた。

思考が圧縮されていくのを感じる。強敵との戦う時特有の、一瞬が何分にも感じられるアノ現象。

 

「チっ…!」

(…!誘い出された!!だが、この距離なら、オレならば一歩の跳躍で充分いけ――――ッ!!!?)

 

ウボォーの力んだ脚が、何かに絡め取られて思わずたたらを踏むウボォー。ヒソカはご丁寧に、ウボォーの進路上にもバンジーガムを仕込んでいたらしい。細かくネタをバラ撒いて仕込み続ける…さすがは奇術師だ。敵ながら称賛に値する。

 

「っ!!!ちぃぃ、くッ、しょぉがぁあああああああッ!!!」

 

ウボォーが必死に助けようとしてくれているのが解る。解るんだが………ヒソカのバンジーガムトラップ床に、ネトォッと脚を捕られながら、やはりそれをブチブチィッと引き千切りながら、走ってくるウボォーの迫力は凄まじい。

味方なのに、思わず俺まで震える迫力!ヒソカも、ちょっと頬を引き攣らせている。

 

 

圧縮された精神で思考していく。次なる一手を考えねばならない。

…どうするか。

身を守るなら…確かに呼び戻さなくてはならない。

これが、クロロが言っていた、いつも通りでいいって事だろうか。…きっとそうだろう。

なら……いつも通りに、俺は皆を守ることにしよう。イエローテンパランスは…皆を脅かす敵を抑え込み、そして旅団を守る。クロロは団長としてそう言ったのだから、蜘蛛の脚である俺は、たとえそれで死んだとしてやり遂げなければならない。いつも通りを。

これぞ社畜根性。言われたことを()()のが、思考停止のYESマンなのだ。

 

「ライブスっ!!」

 

ウボォーの顔が血相を変える。

迫ってくるヒソカの顔が、満面の笑みを浮かべる。

身を守る、少ない体積のテンパランスをヒソカへと纏わりつかせて、停止と捕食…!試みるが、やはりダメ!ヒソカの野郎、オーラのバンジー手足を、まるで俺のテンパランスのように…!真似たのか?学習されたな。

しかもご丁寧に、俺を狙うトランプカードは尚も投擲されてくる。あーーーー、スピード処理は苦手だ!くそ……っ、ぬっ、ふっ、はっ、ほっ!まるでっ、音ゲー!苦手ジャンルっ!……あ……………………やべー…処理ミスった。

わ、ワァ…全部のスライム、出尽くして弾かれちゃった、エーヘヘ。

 

「ライブス!今、イクよ!!!♥」

 

ホントにくっそ汚い笑顔で舌舐めずりしながら、俺の首目掛け、カードに全体重乗せながら突っ込んでくるぅー!いやー!変態ー!殺されるー!

…。

 

……。

 

………。

 

圧縮された思考が、さらに研ぎ澄まされて、刻がゆっくりと進んでいく。

ヒソカの汚い笑顔と、カードナイフとが、ゆっくり俺へ近づいてくる………。

その背後を、デカいゴリラが鬼のような形相で追う。

うわぁ。

この光景が、俺が最後に見る光景になるの?

うわぁ…。

最後は……マチとシズクの顔を見ながら、看取られる…ってのが新しく出来た俺の夢だったのに。変態的笑顔と悪鬼の憤怒面が俺の最期を見送る顔になるとは。

く…これも虐殺してきた過去を持つ悪役の定め……。

あー、なんとかこのまま死後強まる念になって、テンパランスの中とかで生きられないものかなー。死後、独り歩きするスタンドみたいに。イエローテンパランスから、ノトーリアスB・I・Gに、本当にクラスチェンジしちゃう?

はぁ~~あ…そんな都合よくはいかないよな。

ヒソカの奴は、都合よく死後の念を使いこなしたのに。

ヒソカの執念ってやつかァ。執念に負けたな。

…。

というか…なかなか死なないな?

どんだけかかるの?

いくら何でも、時がゆっくり流れ過ぎてない?

…。

あれ?

ヒソカ………止まってる?

ヒソカと、カード…止まってない?

……………………時、止めちゃった?俺。イエローテンパランス・ザ・ワールド?そんな覚醒フラグあったかな?

 

 

 

 

 

 

 

「あんたは、イカなくていいよ。それ以上はね…」

 

「っ!?」

 

マチ!

マイワイフ、マチ!!

あっ、ヒソカ、すっごい変態笑顔から真顔に変わってる!

別に時止めじゃなかった!てっきり、土壇場で時止めにでも目覚めたのかと思ったのに。く…勘違いして…お恥ずかしい。

 

「おや?おやおや?これは……ボクに、絡みついているのは…糸かな?♠…それ、に……力が…入らない、な♦毒、かい?いや…違う、な……これは……血、が……抜けて、いく…?」

 

「あたしの隠の糸…蜘蛛の結界。……団長の命令でね。近くに隠れていたんだよ。護衛がウボォーだけなら、きっとネズミはのこのこ出てくるだろうって。……ちょっとヒヤッとしたよ。あんたを燻り出す為に、あたしとシズクは本当に距離をとって隠れていたからね」

 

「…☠」

 

ヒソカがすごい顔になっている。

 

「…マゾカ…だっけ?えーと…名前忘れちゃったけど…まぁいいよね。どうせまた死ぬし」

 

シズク!

マイワイフ、シズク!

 

「私の占いに、〝偽りの神無月が、あなたの懐から夜も輝く卯の月を奪い去ろうとする〟って一節が出てたんです。パクやノブナガ達にも、概ね似たような占いの一節が出てました。で、団長がもしかして…って、マドカの生存を考え始めた。……試しに〝死者への往復葉書〟を書いてみたら、何のお返事も来なかったから。これはもう黒だなって。貴重な葉書が無駄にならなくて良かった」

 

「…☠なる、ほど…そして…ボクを誘い出す、ため、に……く、くく、く…慎重なクロロが……随分、と、博打、を…打ったものだ、ね…♦」

 

「こうでもしないと、あんたみたいな変態ストーカーはずっと獲物を狙い続けるからね。確実に、誘き出して…仕留める。もう、ゾルディック任せのような事もしない。アタシ達蜘蛛の手で…完全なるトドメを刺す」

 

ヒソカ、さらにすっごい汚い顔になって、一周して真顔になって、そしてまた愉快そうに微笑んでいた。瀕死になっても、コロコロと表情が変わって楽しい奴だ。

ヒソカのこの現状は、マチが糸の結界を、動けない俺の周囲に張っていて、で……さっきウボォーに付けられた傷から、シズクが血を抜き取っていた、と。

はへーーーー…ウボォーとヒソカに熱中してて、さっぱり気付かなかった。

しかも…どうやら、クーちゃんめ。俺には勿論のこと…ウボォーにも、占い結果とヒソカ生存予測も聞かせてなかったな?何人かを占った結果…とシズクは言っていたから、きっと占われていない組は全員知らされていないと考えて良さそうだ。

…確かに、敵を騙すにはまず味方から…を旅団はよくやる。何も知らない方が、敵も疑いなく出てくるというのは、俺も何度も体験した。

旅団の誰もが油断しているように見えただろうし、確かに…こんな千載一遇のチャンスを目の当たりにすれば、慎重で頭のいいヒソカとて、出てきてしまうだろう。

…それにブラフとはいえ、ヒソカのその確信は間違っては居なかった。間違いなく、俺を殺す狙い目ではあった。

いや、実際、死を覚悟したよ。

絶対防御のイエローテンパランス…それが、全力攻撃時にだけ晒す、一瞬の弱点を突いた、完璧なタイミングの奇襲だった。

天才を通り越した、超絶変態殺人鬼であるが故の超嗅覚といえる。だが、その嗅覚でさえ、クロロに利用されてしまったという事だ。能力を万全に揃えたクロロは、まさに完全無欠。蜘蛛の脚として、俺は誇りに思ってしまう。

 

感慨にふけっていると、ドスドス響く足音がすぐ側で聞こえてくる。

そして、眼前全てを覆う毛むくじゃらの巨体が、俺の前にドーンと立っていた。

 

「うおおお!!マチ、シズク、ありがとよ!!ライブス…!良かったッ!!!」

 

グオゴゴゴ。

旅団4番、ライブス、逝きます!

ウボォーさん。ウボォーさん。あなたのハグで死にそうです。

俺、今、剥き出しなのだ、が。

色んなとこが締まって、色んなとこが砕けそうです。ウボォーのバカでかい声で、俺の鼓膜も死にそうです。生ウボォーの破壊力…久しぶりに味わった。

 

「このゴリラ!ライブスが苦しんでるだろ!」

 

「離して、ウボォー」

 

「い、いてっ、おい、痛ェって!ちょ…やめろッお前ら!デメちゃんの硬い角でゲシゲシすんな、シズク!マチも、糸で首締めんじゃねー!わかったから!!」

 

「…ふぅ」

 

危なかった…。

ヒソカではなく、ウボォーに殺されるところだった。

危うく、占いが成就してしまうところだったぞ、ウボォーギン。気をつけてよねーもう!テンパランス無しの俺の防御力と生命力、マジでカスカスなんだから。

 

「…で、どうするんだ?このピエロ野郎は」

 

ウボォーが、パキャって感じに、実に気軽にヒソカの手足を()()()()()

そして、流れ作業のように、今度はマチにバトンパス。マチが、念糸でヒソカの四肢の根本を止血し、そして呼吸が辛うじて出来る程度の鼻の穴だけを残し、後の全てを糸で完全に覆い尽くした。

おお…ヒソカの繭の完成だ。

 

「失血死ギリギリだし、手足もないし、さすがのしつこいピエロも…これで芋虫同然だね。どう料理しようか」

 

「こんなゲテモノどうしようもねぇ。まだ、陰獣の奴らの方がマシな味付けになるぜ」

 

一本の糸で、ぷら~ん状態でウボォーに指で摘まれるヒソカ繭。

バッチィ物扱いで草。流星街人で、しかも豪放磊落過ぎるウボォーにバッチィ扱いされるのは相当だ。

と、そこに丁度、

 

「そいつの処分はオレに任せてもらおう」

 

この状況を演出した黒幕が、ゆらりと現れた。

クロロは、俺とウボォーをジッと見ながら、少し申し訳無さそうな表情だった。

 

「黙っていてすまなかったな。慎重なヒソカを引きずり出す為には…こうするのが最善だった。それに…占いには、ライブスとウボォーの死は明言されていなかったからな」

 

「…」コクコク

 

「…なんだよ、占いで保証されてんなら先言ってくれって、団長。肝が冷えたぜ…。あ~~~、驚いて損したぜ」

 

「だから先言ったら、ウボォーは顔に出るだろ」

 

「…そこはまぁ、マチの言う通りだろうな。…じゃあライブスはどうなんだ?こいつは顔にゼッテー出ないだろ?教えておいても良かったんじゃないか?団長」

 

「勿論、ライブスには言っておいたさ。トラブルが起きるが、気にせずいつも通り振る舞え、とな。ライブスは全て察していたよ」

 

察していないが?

ツーカーの仲だから、あれぐらいでも気づいてくれるよね…とでも考えていたのか、クーちゃん。それともトラブルに動じない男とでも思ってるのか?フザケンナヨ、オマエ…!

イエローテンパランスは動じなくても、俺はバリバリに動じる男……もう二度とこんなサプライズはしないで、クーちゃん!事前に事細かに全部教えて…。

 

ヒソカ繭は、クロロが出したファンファンクロスに包まれて、そして消えていった。

なんでも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に叩き落とすつもりらしい。

何するんだろ…クロロを本気で怒らせると怖いからなぁ。俺なんかには想像もつかない。

 

「…さて、時間だ。……皆、帰ろう。俺達のホームに」

 

クロロは微笑んで、大仕事の終了を宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして俺達は、無事脱出して洋上で乾杯をしているのでした。

…。

バ、バカな……簡単過ぎる。あっけなさすぎる………。

終わった。

本当に、継承戦編が終わったぞ?

え?

本当に?

いや、思わぬヒソカ参戦には確かに度肝を抜かれた。

だが、それにしても…癖の強い王子達やら、十二支んやらを…まともに当たらずに、スライムでちくちく嫌がらせして、とっととトンズラできてしまっていた。

 

「かんぱーい。…ライブスはそのまま休んでなよ。あたしが飲ましてやる」

 

「…」チュー

 

オレンジジュースおいしい。マチありがとう。

いや、そうではない。

 

「あんだけプロハンもいたのに、マジで追撃も来ねーのな。飛んで来た邪念や呪念もこっすい奴ばっかだったし。全部テンちゃんが飲み込んじまった」

 

「そりゃ、今頃状況整理と事態収拾で手一杯だろうよ。大した事ぁ出来ねぇさ」

 

「第一層にいた王族様達、全員服も武器も全部溶かされて、酸欠失神だもんね。そりゃすぐには動けないよ。醜聞隠さないと、王家始まって以来の大スキャンダルになっちゃうからね。…このケツ丸出しで失神してる第一・第四王子の写真とか、第二王子の失神ヌード写真なんかもすっごいネタになりそう。…うーん、売るべきか、それとも脅しのネタにするか。迷うなぁ」

 

「ありゃみっともなかったな。王子様方、オーラも食われて失神したから、ぜーんぶ開ききっちゃって、下も垂れ流しで。あんなんバレたら、一生笑いもんだ」

 

「ワタシ久々に笑たよ」

 

「臭いから、思わずデメちゃんで吸いたくなっちゃった。……マチ、ライブスに飲ませるの私が代わる。どいて」

 

ぷかぷかと海に浮かびながら、俺達は早朝の朝日が昇ってキラキラする海面を眺める。

クロロの予想通り(占い結果通りとも言う)幻影旅団の大仕事は、一人の犠牲も出さずに無事に終わったのだ。

 

(…無数の国宝は、全部クロロのファンファンクロスの中。…ヒソカ繭と一緒に)

 

カキンの歴史を刻み込んだ国宝の数々。

その中でも、一際異形のオーラを宿す、()()()

 

(…イエローテンパランス……あの壺……オーラは食い尽くしてくれたな?)

 

(勿論ダトモ…ワタシノ本体ヨ………特ニ念入リニ、ナ。既ニ、アノ壺ハ…念獣ナド生ミ出セハシナイ、正真正銘タダノ壺ニ成リ果テタ)

 

旅団以外はどうでもいい俺だが、それでも、王家というだけであんな幼気な少年少女達が殺し合い騙し合いをさせられるなんて、少しだけ気の毒に思った。

もう大人の王子達は、存分に殺し合ってくれていいが…兄妹で殺し合いなんて真っ平だって思う、若い王子達が生き延びられるチャンスが、これで少しだけでも増えるといい。

この程度で、あの規模の儀式を形作る念を完全に殺せたとは思えないが、かなり妨害できたのではなかろうか。そして、コレを切っ掛けに、思う所ある王子達でどうにか打開策でも見出して欲しい。

そんな些細なアシストであり、些細な慈善活動。

たまの慈善活動は、もともと幻影旅団の活動方針なのだ。何も、蜘蛛の理念を逸脱していない。

…ちょっと良いことをした後に飲むオレンジジュースは、いつもよりちょっとだけ美味しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幻影旅団。

その名は、A級賞金首として悪名高い。

今回世間を騒がせたカキン国宝紛失事件により、実行犯として濃厚な容疑をかけられているが、カキンは現在犯人の特定作業中であるという発表をしたまま沈黙を保っている為、真偽は定かではない。

だが、世間一般…とくにネット界隈では、幻影旅団こそが真犯人だというのは、既に事実として独り歩きをしていた。

そのような重大事件が起きたのにも関わらず、BW号は沈黙を保ったまま暗黒大陸を目指して航海を続けているが、ネットやゴシップ記事では「王族の醜聞を旅団に握られた」だの「旅団を捕まえられないから、ただ逃げているだけ」とも揶揄された。

だが、事件より数週間後、世間の関心が低下し始めたのを見計らったかのように、カキンの国営発表はこう告げた。

 

「犯人は、新進気鋭のB級賞金首である強盗集団であり、既に捕縛しカキン本国にて迅速な裁判の後、処刑された。既に国宝の無事は確認されており、全て取り返した。事件はこれにより解決をみた」

 

との事である。

そして以後、カキンは公式としては一切、この事件に関連する報道を規制し、そしてその話題を塗り潰すが如くに、その発表の翌日、次期国王の正式発表を行った。

その発表は、新大陸上陸という世紀のニュースと共に行われ、()()()()()()()()()()()の様子も世界に向けて放送されて、カキン王家の安泰っぷりを世界にアピールしているのは明らかだった。

カキンのこれら一連の行いは、海外のネット住民達の邪推を深めさせ、何かを確信させるには充分な材料で、数年後には〝幻影旅団真犯人説〟は、一種の都市伝説として定着する事になる。

そんな話題を、今なお振りまき続ける、生ける伝説・幻影旅団はというと、今は流星街にホームを再設定し、そこで羽を伸ばしていて、我関せずを貫き安穏たる日々を送っていた。

 

「…もう盗みはしない」

 

世界最高の盗賊としての評価をほぼ固め、今の幻影旅団を止められる者はこの世のどこにもいない。そう多くの者達に確信させていて、「次はどこに盗みに行くのか」と、蜘蛛の誰かにそう問われた時、団長の言葉に、団員一同は固まった。

シャルナークの張り付いた表情の顔でさえ、色を失って固まった。

変わらぬのは、大柄な中年女性の姿の蜘蛛だけだった。

 

「………あー…団長、理由聞いていいか?」

 

旅団の特攻隊長にして、実質副団長であるウボォーギンが、真っ先に団長へと聞いた。

クロロは答える。

 

「……正確には、もうBW号のような盗みはしない、と言った方が良かったな。すまん、混乱させた。…どうやらオレ自身、少し落ち着きを失っているようだ」

 

皆、まだ分かっていないという顔で団長を見る。

だが、パクノダだけは、もう大凡の事を察している風だった。

 

「今後は、俺達は、明確に汚い金や宝しか狙わない。一般市民を巻き込むような盗み活動はしない。そして…盗みは、旅団の慈善活動の資金繰りに困った時に限定する」

 

「慈善活動…っていうと…流星街を狙う奴を殺す時ぐらいだろ?そんな金に困るかぁ?」

 

「………………………………ウボォーギン、劇をしないか」

 

クロロは、たっぷり間をおいてからそう言った。

今の言葉に、本来なら蜘蛛全員がポカンとなっても良いのだが、初期メンにとっては、今のクロロの発言がどんな意味を持つのか、どういう重みを込めて言ったのか。それが皆には自然と分かった。

蜘蛛全員の顔をゆっくりと見回しながら、クロロは、オールバックだった髪を崩して、声を和らげて言葉を続ける。

 

「今回の仕事で、充分過ぎる程に金は稼いだ。流星街の居住区も、今回の金で整備が終わって…それでもまだ金に余裕があるんだ。…流星街の怖さも、既に世界は知っている。なら……幻影旅団も、少しばかり変質してもいいんじゃないか……俺は、そう思ってるんだ」

 

「…団長」

 

「世界を回って…子供達に、劇を見せよう。悪さをすれば、より大きな悪に飲み込まれて、怖い目に遭うんだっていう劇さ」

 

神妙な顔で聞いていたウボォーが、そこでプッと笑った。

 

「おい、団長。それじゃあガキが泣いて寄ってこねぇよ。俺達は、ただでさえ悪人が染み付いてんだぜ?やっぱさ…そこは、あれだろ。悪は、いつか本当の正義に倒されるんだ」

 

「…カタヅケンジャーみたいに、か?」

 

「…ああ。そうだな。カタヅケンジャーみたいにだ。悪は、デッカイ悪に食われる。んで、最後の最後には、本当の正義にぶっ倒される。…だろ?」

 

「俺達を、いつか倒す正義のヒーロー………」

 

クロロが呟いた時、蜘蛛達の脳裏には、無垢に笑い、純粋に怒り、そして善悪の区別無く、輝く瞳を向ける少年・ゴンの姿が浮かぶ。

幻影旅団の出発地点。カタヅケンジャー。そのリーダーであるクリンレッドの面影を背負い、そしてその心までがレッドのように燃え盛る少年。

 

「そんな奴に倒されるまで…、少しばかり自分達の夢を…語ってみるのも悪くない…と、そう思うんだが……どうだろうか」

 

そして、そんな燃える心を持つ少年を、ゴン以外に増やしていく。

その為の演劇旅団。

サラサが望んだ、夢幻の影ではない…眩い光を放つ演劇旅団。

世界には、正義があるのだと、悪は栄えないのだと、残酷な現実に敗れて悪に走らぬ強さを子供達に植え付けられる、そんな演劇をする旅団。

 

「今更、血に濡れている手を洗い清めようだなんて思っちゃいない。オレ達は、反吐が出る悪人だ。それでいい。だが、悪人でも…甘い夢を見てもいい。この宇宙に存在していた〝死者と再会するシステム〟を通して、サラサはオレ達にそう言ってくれた。いつか…オレ達の劇を見て、正義を諦めないでいられるようになった奴らに、オレ達が裁かれるその時までは……オレと一緒に、来てくれないか?ウボォーさん、ライブス、パク…みんな」

 

「へへ…その時は、精一杯返り討ちにしてやるさ。それでも、オレらが負けるっつーならよ。そんときゃ、皆で地獄に行こうぜ。…どこまでも、オレ達はオマエに付いていくよ、()()()。だよな、パク、ライブス」

 

「当たり前でしょ」

 

そう言ったパクノダの横で、久しぶりに皆に見せる真の姿でライブスも頷いていた。クロロとよく似た、黒髪の青年がそこで微笑んでいた。その姿は、まるで鏡に写った己を見るようにクロロには感じられた。

確かめたことは無い。無いが、それは自分との血の繋がりを感じられて、そして自分というものを見直せる瞬間だった。

自分の影法師が、あんなにも柔らかく微笑んでいるのを見て、クロロは改めてこう思う。

(冷酷無比な幻影旅団の〝団長〟は、今日この日をもって暫くは休業となるだろう)と。

マチも、シズクも。フィンクスもフェイタンも。フランクリンもノブナガも。シャルナークもコルトピも。蜘蛛達は思い思いに頭の周りに集いながら、団長ではなくクロロそのものを真っ直ぐ見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日を境に、幻影旅団は表舞台から姿を消した。

時を同じくして…その時から世界を巡る小さな劇団が、ネットを中心に少しずつ話題になっていく事になる。

その演目は、主に古い古いヒーローモノだが、団員の演技力は迫力満点であり、劇のセットも効果も演出も、最新で特大のステージでも出来ぬような、魔法のような迫力があって、大人でさえも怖い場面では恐れ慄き、血湧き肉躍る場面では立ち上がって腕を振り上げる。

特に人気の役者は、変幻自在の演技力で、正義のヒーローも巨悪も演じ分ける黒髪の貴公子。他にも、いかにも悪そうな巨人役・怪獣役・悪のロボット役がはまり役の巨漢の毛むくじゃら。

女性役者の人気も凄まじく、男性の集客に一役も二役も買っている。

彼女らが行う前座のショーは、もはや魔法の域に達しているともっぱらの評判で、見えない糸による糸繰り人形劇や、紙吹雪や暗幕を一瞬で吸い取ってしまう場面転換などなど、その幻惑の美しさは、本人達の美貌もあって熱烈なファンの山を築く。

最近は、そんな美女達のお腹が大きくなって、傷心の男性ファン達が一部離脱したらしいが、一部ではニッチな性的嗜好を抱く、新たな男性ファンを増やしたとか。なお、その後も見る度に一度凹んだ腹がまた大きくなっている為、順調に赤ん坊は量産されているらしい。妊婦好き需要は満たされ続け、元のスレンダー美女状態のファンは血涙を流し続けるのだろう。

そんなファンの葛藤はさて置いて、今日も小さな劇団は新しい土地へとやって来て、新たなファンを獲得していくのだ。

 

「さーさー、よてらしゃい、見てらしゃい。巷で話題の演劇旅団〝サラサ〟。とうとうオマエらの田舎街にやて来たね。早くしないと席とれないヨー」

 

客引きであるのだろうが、妙に口が悪い小柄なお兄さんのもとに、子供達が元気に走って寄ってくると、派手で大きな看板を見ながら大笑いする。

 

「うわ、見ろよコレ。ふるくせー!カタヅケンジャーだって」

 

「オレ知ってるよ。ヨーチューブで見たことある。これってオレの父ちゃん世代だぜ?」

 

「へー…10ジェニーで見れるんだ。オレらのお小遣いでも入れんじゃん……けっこー客はいってんな」

 

「見てみようぜ。安いし。めっちゃダサくて逆に笑えっかも」

 

「はーい、クソガキ様ニ名ごあんないね。こちらどぞ。ささと進むよ。オマエら最前列座る。そこゴリラを一番近くで見れてオススメよ………恐怖体験、たぷり味わうといいね

 

古臭い題材に、子供達は決まってバカにしながら劇を見に来た。

しかし、そういう子達は、帰る頃には涙をたっぷり浮かべながら、決まって皆こう言うのだという。

 

「ボク、ぜったい悪いことしない…!」

 

 

 

 

 

 

蜘蛛は、ほんの少しだけ変わった。

変わりながら、今この瞬間も明日へと繋がる糸を紡ぎ続けている。

 

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ぶっ壊しても運命は変わらない

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