心操人使とサキュバスの同級生   作:雨天結構

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いろいろと訓練(意味深)


いろいろと訓練

「……ん……」

 

 心操は目覚めと共に違和感を覚えた。時計を見ると朝6時を指している。

 周りを見渡すと、そこは普段通りの自分の部屋……ではなく、見慣れない部屋であった。

 黒のカーペットにダークブラウンで揃えられたカーテン、机、本棚。全体的に落ち着いた印象を受ける。本棚には漫画が並び、机には課題やらプリントやらが広げられたまま、生活感が溢れている。

 しかし、それに反して、どこか甘い、石鹸のようないい匂いが漂う。

 

(……ああ、そうか。ここは桃色の……)

 

 それを見て心操は思い出した。

 体育祭に向けて互いに個性の訓練をしようということになったことを。そして、桃色が周囲に個性を隠している都合上、学校で訓練を行うわけには行かないため、学校から近い所にあるという桃色の家で行うことになったことを。

 ちなみに、心操が想定していた「家」とは彼女が家族と共に住む一軒家だったが、実際に出てきたのは彼女がひとり暮らししているアパートであったため内心かなり狼狽えた。

 

(ええと、それで。個性訓練をすることになって、お互いに個性を使用し合って、気づいたら夜遅くなっていて、多めに作ったというカレーを一緒に食べて、ついでに風呂に入ることになって、それから……)

 

 それからの記憶が無い。

 

「……んんぅ……なにぃ……?」

「……ッ!?」

 

 心操は()()から聞こえて来た声に思わず布団をめくる。

 

「ちょ、なになに?……まだ6時じゃん。もうちょっと寝かせてよー」

「……もも、いろ……!?」

 

 そこには、パンツとキャミソール姿の桃色が寝ていた。そこで初めて、自分がパンツ一丁で寝ていたことに気がつく。

 

「……もう、忘れちゃったの?昨日の約束。桃色じゃなくて、夢麻って呼んでよ。ね、人使?」

「!!??」

「て、あ……。ふふ、またこんなに大きくしちゃって……。まだ6時だし、学校の前に1回しとく?」

「!!!???」

 

 桃色が心操の人使に手を伸ばし────

 

 

 

「────はッ!!」

「おはよー。どうだった?」

 

 今度こそ()()()目を覚ました心操の視界に入ってくるのは、こちらを覗き込んでくる綺麗な赤い瞳であった。

 

(……服は、着ている……。俺も、桃色も)

 

 時計を見ると午後6時を示している。

 

「……なんであんな夢見せたんだ桃色!?」

「あんなとは何さ。悪夢どころか吉夢だったでしょ?」

「……いや、そうじゃなくて、なんの意味があってあんな夢を……」

「私の強制睡眠の能力は、あくまで''淫夢を見せる能力''なの。好きな淫夢を見せられるけど、逆に言えば淫らじゃない夢は見せられない」

「……それでもわざわざ桃色が身体張ることはないんじゃないか」

「夢の中だし身体張るも何もないよ。それに、夢の中だとしても私以外をスケベな目に合わせるのは気が引けるというか」

「……それで、あんな夢に?」

「うん。まあ心操の反応が見てみたかったってのが一番の理由だけど。本当はパンチラ程度でも淫夢判定になるし」

「おい」

 

 心操に「友達となんやかんやで寝ちゃってたドッキリ」を仕掛けて満足した桃色は満面の笑みである。

 

「ともかく、これでお互いにできることの確認はできたかな。私の眠らせる力、まあ''誘眠''とでも言おうかな。で、誘眠は魅了した相手に触れることが発動条件で、眠らせられる時間は相手の発情度合いによる。って言っても、今の所勝手に眠りが解けたことはないから、数時間程度なら大丈夫だと思う」

「……なるほどな。対異性に関しては無類の強さだな」

「うーん、でも私の個性、相手が私に魅了されないと発動しないから、そこがネックだよね」

「……いや、そこは気にしないでいいと思う」

「?いや普通に大事でしょ?」

 

 桃色に魅了されるという条件は、男なら無条件と同義だと心操は思った。

 それに対し桃色は、先日心操にラブホ帰りにバッタリ会った際、彼に触れても個性が発動しなかったことから、魅了の条件は厳しいものだと考えていた。

 

「……そうだな」

「で、どう?体育祭、勝てるビジョンはある?」

「ある。俺たちの個性は初見殺し性能が高い。これなら、第三種目まで出てある程度の活躍を見せて、ヒーロー科への転入は十分狙える……」

「おーおー、気合い入ってるね。まあうん、お互いに結構反則じみた性能のある個性だしね。上手くいけば、本当にありえるよね」

「ああ、現時点でかなり勝算はある。そうだな、まず第一種目は──」

 

 ぐぅぅぅ……。

 

 心操の声を遮って腹が鳴いた。出処は桃色であった。

 

「……さて、そろそろいい時間だね」

 

(……前から思ってたけど、話逸らすの下手だな桃色)

 

「……もう6時半か。流石にもう帰るよ」

「そうする?別に夕飯食べてってもいいけど。ちょうどカレーを3日分作ってあるから、別に1人2人増えても問題ないよ?」

 

 心操の脳裏に先程見たの夢が過ぎった。このまま夕飯まで一緒に食べて、その後流れで風呂も入っていくことになり、泊まることとなり……。

 

『桃色じゃなくて、夢麻って呼んでよ。ね、人使?』

 

(……ッ!!)

 

「……帰るから」

「あ、うん。そう……って、支度早!?」

「今日はいろいろと有益な訓練ができたと思う。特に俺は人に個性を使うこと自体あまりなかったから、こうして試すことができてかなり役に立った。じゃあまた明日」

「また明日……って、帰るの早!」

 

 耳は赤く染めたまま、半ば走っているような早足で心操が帰った後、桃色一人残されたアパートには静寂が残る。

 

「……流石にからかいすぎたかな?」

 

 普段()相手に使用する誘眠では、相手の好きなように夢を見せている。法に触れたり、夢と現の整合性が取れなくなったりしない限り、割と過激なプレイであろうとOKしていた。

 

 結局のところはどれだけ過激であろうとただの()であり、夢の中で彼女がどう扱われようが、現実ではなんの感覚もなく、実害もない。画面の向こうで自分に似た女性がよがっているだけだ。

 

 ただ、今回はそれが裏目に出た。彼女は、客の無茶ぶりに100点満点で答えているうちにプレイの過激さへの感覚が麻痺し、「たかが夢」という認識が強まってしまい、結果として心操へ見せる夢の「まあこれくらいいいか」のラインを間違えてしまった。

 

(……あれ、よく考えたら、自分の部屋に異性呼び出して、自分との事後の夢見せるって流石にやばいのでは?)

 

 少し落ち着いて考えることで、桃色は自らの犯した誤ちに気づいた。

 

(こ、こういう時は前世()の俺に聞いてみよう。

 Q.もし仮に、どちゃくそ可愛いクラスメイトの家にお呼ばれして、彼女とのえっちな夢を見せられたらどうする?

 A.なにそれ超絶嬉しいんだが?

 ……あ、じゃあ別に問題ないか。うんうん、むしろ私、心操くんから感謝されるべきだよね)

 

 前言撤回。彼女は愚かであった。

 

 

 

 それからしばらくして。

 桃色夢麻は漠然と考えていた。

 

(もっとえっちにならなければならない)

 

 事の発端は、先日のことである。

 ラブホ帰りに心操人使とバッタリ出逢った時、彼女は確かに彼に触れ個性を発動した。しかし、彼は眠らなかった。

 その理由は単純で、彼女がラブホから出てきた所を目撃した彼の心情は魅了云々よりも困惑が勝っていたからだ。

 

 あれから、互いに個性を試す中で、それっぽい雰囲気を出せばきちんと心操であろうと「魅了」でき、誘眠できることは分かった。

 しかし、それだけでは不味いと彼女は考えた。

 そもそも、雄英高校体育祭に出る生徒、まして本気で上位を狙うヒーロー科であれば、当然その内心は「緊張」や「気負い」、「勇み立つ気持ち」に満ちているはずだ。

 その視界に、ただ可愛いだけの女の子が入っただけでは到底魅了状態に持っていけるとは思えないのだ。

 だからこそ彼女は思った。

 

(もっとえっちにならなければならない)*1 

 

 しかし、だからと言って解決策は思い浮かばなかった。

 現状、恐らく容姿は完璧である。化粧の施しようもないくらい、素の状態がエロ可愛い。それは彼女も、鏡を見る度に思っている。

 そうなると、他に「えっち」を司る要素と言えば、仕草だとか服だとかシチュエーションだとかになる。しかし、本場が体育祭である以上、服は色気のない学校指定のジャージで固定であるし、シチュエーションもほぼ選べない。

 仕草に関しては絶望的であった。なにせ彼女の中身は前世の男であり、前世の男というのは男子校から工学部へ進学した、その生涯において女性との関わりがほぼない童貞である。そんな者に「えっちな仕草」を求めることがまず間違いだろう。

 

(相談できる相手がいればいいんだけど、そんなのいるわけがないんだよねぇ……。

 心操くんに聞いたところで答えは出そうにない。学校の先生に聞こうにも、内容が内容だから聞きづらい。というか生徒に「こんな仕草がえっちだよ」とか教える先生嫌だ。普通にセクハラじゃん。

 ……てか、雄英高校の先生ってことはそれ即ちプロヒーローでもあるわけで。ますます「えっち」からは遠くなる。

 相手を眠らせる能力。えっち。このふたつを兼ね備えたプロヒーローなんて、都合よくいる訳が……)

 

「はいそれじゃあ朝のHRを始めるわよ」

「いるじゃん!!」

「桃色さん出席はまだよ。でも元気があるのはいい事ね!」

 

 18禁ヒーローミッドナイト。史上最高にドスケベなヒーローである。

 

 

 

「それで、相談って何かしら」

 

 放課後に先生に相談。桃色の前世ならばまずやらないことだが、今の彼女は「真剣に話を聞いてアドバイスしてくれる大人」の有難みを知っている。タダでそれを利用できるのならば使わない手はない。

 

 なお、当の香山睡は何か桃色の個性関係でトラブルがあったのではないかと思い割とドキドキしていたりする。

 

「すみません、変な質問だとは理解しているんですが……どうすれば異性を魅了できますか?」

「詳しく聞かせてもらっていいかしら」

 

 ずいっ、と。教室に即興で作られた面談スペース、机越しに座る桃色に対し、加山は身を乗り出して食い気味にそう返した。

 なぜなら青春の匂いがしたから。

 

「はい。ええと、そうですね、どこから話したものか……」

 

 説明するにも順序がいる。まず、心操人使がヒーロー科への編入を目指しており、体育祭での活躍を考えていること。そして、その心操と桃色が友好関係を築き、その目論見に協力しようと考えていること。そして、桃色の個性の発動条件をより多くの対象に適応させるためには、さらなる魅力が必要になるということを話さなければならなかった。

 

「いえ、いいわ。皆まで言わなくとも分かるわ。というか、ここで理由を聞くのは野暮だもの。……心操くん関連ね?」

「……!はい、そうです。というか先生、私と心操くんがしようとしてること知ってたんですか?」

「ふふ、それはもう。はたから見たらあなたたちバレバレよ」

 

(個性のせいで同年代との関わりが薄かった少女。それが、高校に入ると同時に個性を隠すことで平穏な日常的を送れるようになった。

 そしてそこで起きる様々な出会い!彼女は自分と同じく個性に苦しめられた経験のある少年と特に意気投合し、仲を深め友情を育む。しかし次第に自分が彼へ抱く感情が友愛だけではないと気づき始め……。

 いいわね。いいわね……!まさに青春!!好みッ!!)

(流石ミッドナイト先生、私たちが体育祭での活躍を目指してることくらいお見通しか。

 確かに、ここ最近は特に心操くんとよく一緒にいたし、普通に学校でもよく作戦の話とかしてたからバレてもおかしくないか。特に心操くんに関しては、ヒーローを目指していることを公言してるしね。

 ……一応、作戦内容がヒーロー科(競争相手)に伝わらないように、これからは学校での作戦討論はやめて放課後2人きりでのみするようにしようかな)

 

 こうして、絶妙に噛み違った認識のもと、プロヒーローミッドナイトによるサキュバス養成講座が開かれた。

 日進月歩。桃色は今日も今日とて、体育祭にむけてスケベを学んでいくのであった。

 

(……ドスケベで、匂いを嗅いだ相手を眠らせるって、これもう実質サキュバスじゃない?私よりよっぽどサキュバスしてる……)

*1
再提




・桃色’s性自認
The・どっちつかず。本人は前世の記憶から、自分の精神はあくまで男であると認識しているが、実際は肉体に引っ張られて女に近づいている。そのため、たまに男子にキュンときてしまい困惑している。
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