セブルス・スネイプを救う話(第3章高学年編・開始)   作:桜井ぬい X→@Inui20230918

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オープニング 3/3

 

 

 

「──親の目を盗んで出て行った割にはお早い帰宅ね。穢れた血とのパーティーにでもご出席だった?

とっても()()()()()子どもをもって幸せだわ」

 

 自宅の玄関ドアを開いて、すぐに飛んできたのがこれだ。

 こうなると解ってはいたが、第一声でそれをぶつけられる鬱陶(うっとう)しさが消えて無くなるわけじゃない。

 セブルスは重い空気に呑まれないよう、心の入り口をしっかり閉じるようにして答えた。

 

「夏休みに外出しただけで?」

「親にも言えない相手と出かけたくせに」

「ぼくの友人には、母親がつべこべと出かける相手を指示するような人はいない」

 

 不機嫌そうに細められた目が、落ちくぼんだ穴の中でぎらぎらと光っている。セブルスは圧し負けないよう、心のなかで盾を構えるみたいに見返した。

 母親はかなりイライラしているようだ。今朝「どこへ出かけるのか」と詰問してきたのを、無理やり振り切って出かけたからだろう。

 

 長々と嫌味になんて付き合っていたくない。それなのに彼女は広くない家の入り口に立ち塞がっているものだから、うまく脇をすり抜けていくことも叶わなかった。

 

 とても面倒くさい。

 特に足がくたくたで、好きな子とも上手くいかなかった日には。

 

「"不良"の子とつるむのを放っておく親はいないわ」

「だったら心配は要らない。とても成績優秀な相手だから」

 なにせリリーは学年首席だ。

 

 母親はその返答を検分するかのように顔を近づけてきた。血色の失せた顔色に、頬骨(ほおぼね)だけが浮かび上がっているみたいで不気味だ。

 

「……嘘は言っていないようね」

 何らかの魔術か魔法だろうか。それとも母親というものの直観か。嘘をつくとそれだけは的確に見抜いてみせるのだ。

 だからセブルスは、嘘をつかずに言い逃れるほかない。

 

「どこの家の子かしら?」

 答える気がないのだと、いつになれば理解するのだろう。

「あなたに関係ない」

 正面からにらみ合いとなり、空気がきしむような感覚がした。

 

 もっと幼い頃は、これほど真正面から拒んだりはしなかった。母親のお眼鏡にかないそうな相手だけ開示して、やり過ごしてきたのだ。その陰でリリーやクラリスとの付き合いをこっそりと続けてきた。

 

 しかし、最早それすら必要ない。

 

 付き合う相手は自分で選ぶし、行き先だって言いたくなければ言わなくていい。それだけだ。

 たとえ緊急事態に巻き込まれたとして、自分で対処した方がましだ。杖を折られた母親に頼るよりも。

 

 おもむろに母親が指先を向けてこようとしたが、次の瞬間にはぱちんと音を立てて、その腕ごと払いのけられた。

 

「……"指さしの呪い"なんて僕には効かない」

 それだけじゃない。秘密を暴こうという呪いは片っ端から防げるように努力してきた。もともと"呪い"なんかの強力な魔術はセブルスが好きな部類だったし──、だから、あらゆる呪いの本を読み漁っている。今もだ。

 

 どうあっても情報を引き出せないと理解したのか彼女は肩をすくめた。

「わかったわ、降参よ」

 

 これで終わりなら、今日は楽な方だ。

 セブルスがそのまま横をすり抜けようとした時、その顔が妙に上機嫌なふうに歪んでいるように見えた。

 

「でも、これだけは教えて欲しいのよ。相手はだれ?

 私はうす汚い連中と家族を天秤にかけて間違えてしまったけれど、あなたは間違えてはいけないのよ」

 

 小細工を。

 勝ちをゆずったかに見せて、相手の気分を良くしてから欲しい情報をとる。情に訴えるようにして。

 ──子どもだましな手段だ。

 

 胸のなかにもやもやとしたものが溜まっていく感じがした。

(この人は僕を見くびっている)

 

 母親の判断が正しいとは全く思えなかった。確かにこの人は結婚相手を選びそこねたのかもしれないが、自分とはちがう。リリーは『あの男』と同じ“うす汚い”カテゴリーには属さない。

 その違いがわかっていないのだ。

 

 母親だけじゃない。セブルスの周りはそういうバカばかりだ。

 だからこそリリーは、自分から離れなくてはならなくなった。

 

 そう告げられた瞬間の苦さがよみがえって、セブルスは知らず口の端をゆがめた。

 

「──言ってはまずいような相手なんでしょう?だから隠す。黙っていれば判らないとでも思った?」

 

「『隠すのはまずい相手だから』?短絡的だ。誰とどこに行こうが関係ない。

『ママにすべて考えてもらわなくちゃ、安全じゃないニーズルに食べられちゃうかもしれない』って?大人がそんな世迷言を吐いているのを見ても気色が悪いと思わないのか?

 馬鹿馬鹿しい。あなたの勧める『友人』だってそんな事はしないというのに」

 

 セブルスは反論することだけに注力した。

 どう説得されようとも、決して口を割ったりするものか。

 

『正直に本音を伝えればわかってくれる。親なんだから』?。

 そんな期待を持つのはもうこりごりだった。

 

 母親はセブルスとは意見が合わない。年を経るにつれ、一緒にいても不快なことは増えつづけてきた。

 それは今に始まったことではないから、すでに口を利くのも億劫(おっくう)だ。だから、こうした長期休暇はできるだけ避けるようになっていた。

 

 それなのに今日は避けさせてはくれないようだ。 

 逃がさないとでも言うように母親はずっとドアの前に陣取っていて、動く気配がない。まるで立てこもり事件の犯人みたいだ。

 

「あなたがどうしたいのか、さっぱり解らないのよ。将来どうやって生きていくかだって教えてくれないじゃない。誰のところでどんな仕事をしていくのか。いつ、どこに暮らしていくのか、何もかもよ。

 私の気持ちももっと考えて。親を安心させてあげようって思わないの?」

 

 思わない。

 ──というよりも、本音を打ち明けたところで彼女は安心しないのだ。セブルスは彼女の望むようには生きたくないのだから。

 母親の勧める人生では、実に悪趣味でつまらなく、ほの暗い『喜び』くらいしか見出せない。彼女から受け継いだ『呪い』の知識は役には立つが、使ったら即座に友だちがいなくなるような()()()()()代物である。

 

 たとえば相手の動きを止めたいなら、なめくじを吐かせる呪いよりも失神呪文を使った方が手っ取り早い。

 何故わざわざ怖気の走るような効果まで与えるのか?

 要するに、呪いは相手にイヤな思いをさせる目的のものも多いのだ。みずから使おうとするのは性格が悪すぎる(妖精の呪文より手が読まれにくい、解かれにくい、使うのが簡単という利点はあるが)。

 

 母親の望む通りには生きたくない。

 そうした本音すべてを打ち明けた場合、彼女はどう出るだろうか。

 

(……最悪の場合は『服従の呪文』がとんでくるかもしれない)

 

 ならば本音など覗かせてはいけない。

 ──ならば耳障りの良いウソを並べるのだろうか。たとえばシリウスが気に食わない生徒を罠にかけようとでもする時みたいに。

 

(……それこそ、『親に対して』?)

 

 シリウスならば「家を出てしまえ」と答えるだろう。「家はもっとも安全な場所であるべきだ」と。

 実際、あいつは親を捨てる決断をした。

 

 本当に捨てようと思えば、今すぐにもセブルスにだって出来るのだ。

 

──セブルスだって、母親とぶつかるのはこれが初めてではない。これまでだって何度も起きている。内容はたいてい同じで進歩なんてない。ただ、年々怒鳴りあう声量ばかりが増してゆくような有り様だった。

 

 大げんかして家出したことだってある。それが一昨年(おととし)の夏休みのことだ。これまで貯めてきたガリオン金貨は持ち出せなかったものの、アルバイトをしながら他所で寝泊まりするのは、覚悟していたよりも簡単だった。

 

 その時に気づいてしまったのだ。

「この人に従わなくても、自分の思うままに過ごしていても、そうしたいと決めて実行すればいいだけだ。この人にぼくを止めることなんて出来ないじゃないか」と。

 

(……今回もあそこまでの喧嘩になったら出て行こう)

 

 得るものが何もないのだから、傷を浅くした方がいい。しばらくの間、顔を見ずにすませたかった。

 

 幸いなのは、母親も大げんかにならないよう注意を払っているだろうことだ。恐らく、責め立てすぎてセブルスがまた出ていくのは嫌なのだろう。

 

「優しい子ならもっと親を安心させてくれるものなのにねえ?……まあ、いいわ。」

 セブルスの目つきが鋭くなったのに気づいたのか、それとも(らち)があかないと判断したのか。

 母親は塞ぐようにしていた戸口から身体半分をどけて、明るい声をかけてきた。重くなった雰囲気を脇によけるみたいに。

 

「ねえ、少し()()はあってもあなたが成果を残しているのだって知っているわ。

 成績もそうだけど……、周りにいるのは得体の知れない連中ばかりじゃない。『いい集まり』にだって呼ばれているものね」

 

 彼女はそう前置きして()()()()を目の前で振ってみせた。

 今いちばん目にしたくないもの。

 こんなものを贈られるほどに()()してしまったから、こんな結果につながってしまった。

 

(──忌々しい!)

 

 一気に蘇ったのは、『あの時』のリリーの返答だった。

「あー……。そうね、そうなのかもと思ってはいたの。私のこと、好きなのかなって」

 

 彼女は言葉を選ぶような素振りで、ところどころ立ち止まって次の進路を確かめるかのように、ゆっくりと答えていく。

 

「え?いえ、リズからは何も聞いてないわよ。……でも、そうよね、あの子だって判ってたわよね。

 それでわたし……、正直なところ、セブルスと恋人になるのは想像できないわ──いえ誤解しないで。セブとっていうより、特定の男の子とよ。

 なんとなく一緒にいるだけで緊張するとかドキドキするとか……そういうのは少しは解るわよ。

 それでも『友だちよりももっと大切な人になりたい』とまでは……」

 

「ピンとこないわ」

 

 もしかしたら今後も同じように会い続けていれば『ピンとくる』瞬間だって生まれるかもしれない。

 しかし、これから彼女が“不死鳥の騎士団”に入団するのなら会えなくなる。

 

 つまり挽回の機会があったとしても、はるか未来となるのだろう。十年先とか。そして、その時までに彼女が『ピンとくる』相手と出会ってしまったら?

 

 ──つまり、ほとんど『セブルスにピンとくる』望みはついえたようなものだった。

 

 じくじくと胸の奥の方から痛みがわいてきて、セブルスはなんとか(ふた)をして細く息を吐くことしか出来なかった。

 

「こんなものを贈られるなんて、とても良い結果を残したのね。ブラック家からのパーティーの招待状なんて」

 ずいぶんご機嫌な母親のカン高い声が耳について、呑みくだしておいた(ふた)が一気に吹っ飛んでしまった。

 

「──勝手に触ったのか……!」

 何日か前にふくろうで受け取ったそれは、目につく場所に放り投げていたわけではなかった。それどころか、しっかり蓋の閉まるケースの奥深くにしまっていた。

 面倒なことが起こりうるからだ。

 そう、こんな風に。

 

 他者(息子)の持ち物をまさぐるなんて、まともじゃない。少なくとも友人や親しい人にしてはいけない行為だ。

 

「──子どもの都合を教えてもらえなかったら持ち物をあさるのか!さすが()()()人付き合いがお出来になると自信たっぷりな方だ、その調子で似たような『お仲間』で集まるんだろう?見たことはないが!

 

──卑しい()()()()()に事情をくわしく打ち明ける者なんているものか!」

 

 むかむかとしたものが充満した胸のうちが、小さな火花で一気に爆発したような感じだ。

 八つ当たりだ。

 

 でも、真っ当な怒りでもある。自分のものを好きにしていいのは自分だけだ。たとえ親でも許されない。魔法を使えない連中すら、そう知っているというのに!

 

「──そんなのだから追い出されるんだろう、魔法族から!」

 

 驚いたように母親の目が大きく見開かれた。

 彼女の心をざっくりと切り裂いてしまったような手応えがある。

 しかし、それは手痛い事実を言い当てたからだ。

 取り返しのつかない暴言を放ったという自覚はあったが、あやまる気にもならない。

 

 返ってきたのは怒鳴り声だった。

「私が選び損ねたというのなら、同じような間違いを選ぼうとするあなたは何!?」

 

 怒鳴りかえす元気があるのなら『まだ大丈夫』だ。  

 自身のつけた傷が相手の命をおびやかすようなものではないと分かって、怒りの奥底にどこか安堵するものがある。

 

 そんなセブルスの心中とはよそに、彼女の反論は続いていた。

 

「せっかく素晴らしい人たちに認められているのに、あんな連中にも入れこむなんて!そんなに誰しもに賞賛されなくては気が済まないの!?

 いつかその功績にだって傷がつくわ!どうしてそれが解らないの!

 解らないのなら、私が監督するわ!正しい方向へ導くために!」

 

「だから!その判断を誰が正しいって決めるんだ?すでに正しくない判断ばかりしているあなたか?冗談じゃない!」

 

「だったら貴方が正しい判断をしているのだって、どうやって証明するのよ!?

 親にそんな態度をとっているくせに、自分が正しいとでも言うつもり!?どれ程心をくだいてやってると思ってるの!

 あんな連中と働いて食わせてやってるのは誰?

 ──あなたを辛い目に遭わせた相手を消してやったのは誰よ!?」

 

 そうくるなら、こっちにだって言いたい文句はたっぷりある。

 

「僕がその『辛い目』とやらに遭う理由をつくったのは誰だ!?あんな男を何年も放っておいたくせに!

 それに、アイツを消せたのだって僕のおかげだろう。僕だって働いている!

 頼まれなくたって……!卒業したら自分の能力で生きていける」

 

 そう。こんな貧困な地区からは出て行こうと思えばいつだって出来るのだ。

 肉親から離れがたいという、情さえどうにか出来れば。

 

「これだけしてやったのに、見捨てるというの!?母親を!夏季休暇だって全然家にいない、全然わたしを安心させようって気がないじゃない……!ひとりぼっちにさせて、可哀想だと思わないの?

 ひどいわ、それがここまで大きくしてくれた相手への仕打ちだと言うの……?」

 

 だんだんと声のトーンが下がり、最後には涙まじりになっていた。

 

「……わかっているの?

 卒業したらあなたは魔法使いとして生きていく。そうしたら、こんなに貧しくてマグルばかりの土地とは無縁になってしまう……。

 当然そうすべきよ、ブラック家にまで認められるのなら。わたしだって、こんなところを出て行って欲しい。

 

 でも、そうするなら離れ離れになってしまうわ。あなたが行けるところに、わたしは行けないの。

 こんな土地にひとりで取り残される方の気持ちだって考えて。

 

 貴重な残り期間なのに、放ったらかしだなんて酷いことよ。

 そうでしょう……?」

 

 母親は一度も「私も連れて行って」とは頼まなかった。もう残るべき理由なんてこの土地にないのだろうに。

 

 いまに至っても、セブルスは母親がなぜ魔女に戻らないかについて事情を知らされてはいなかった。

 ただ、ひとつだけ確かな事がある。

 母親は『帰りたくても帰れない』のだ。魔法が使えなくなったわけでもなさそうなのに。

 余程のことをやらかしたのだろうか。だからこそ、憎んでいる種族(マグル)ばかりの土地に残るほかない?

 

 ほかの生徒からもその辺りの情報は得られなかった。ただ、新聞記事に「母親が子供(自分)を産んだ」と掲載されていたとは聞いた。

 みずから料金を支払ってまで載せたということは、それを読んで欲しい相手が購読するかもしれないと判断したのだろう。

 それも、付き合いのない……あるいは『付き合いの絶えた』相手にだ。

 

 彼女の境遇は、もしかしたら自業自得なのかもしれない。でも、切り捨てることは出来なかった。

 

 苦しそうに眉根をぎゅうっと寄せた母親の顔は、まるで父親に責め立てられていた時のような……。

 

 アイツのレベルに成り下がってしまったというのだろうか。

 自分のただしい意見を主張しただけだと信じていたのに。

 のどの奥に冷たいものがつっかえたみたいに、息が途切れて小さな音を立てた。

 

「ぼくは、ただ……。言い争うばかりの場所に居たくないだけだ。ぼくがぼくでいるだけで争いになるような所には。

 だから第一の味方に……、いや、味方じゃなくてもいい。家が“敵地”じゃなくなれば。せめて休戦できるなら。

 ぼくの付き合う相手をあなたが詳しく調べまわったり、審判をする必要なんて無いじゃないか」

 

 母親は神妙な面持ちで、うなずきながら静かに聞いていた。これなら納得してもらえているかもしれない。

 

 本音を跳ねのけられないなら、それが一番いい。

 べつに彼女を嫌いたくて寄りつかなかったわけじゃない。解ってもらえるとは感じられなかっただけだ。

 

 理解し共感を示してくれるまでは望めなくたっていい。でもせめて容認して欲しかった。

 本来はもっとも安全であるはずの場所で気が抜けないなんて、一生つづけたい訳ないじゃないか。

 

 自分の親なのだから。

 

「ええ……。わたしだって争いたいわけじゃない。ただ納得したいだけ。あなたの幸せを台無しにしたいわけじゃない」

 

 母親は落ち着いた声で応じた。憑き物がとれたみたいに。

「じゃあせめて約束をして」

「……『約束』?」

 この流れには嫌な予感がした。

 

「簡単なことよ。あなただってそれを望んでいるはず……。

 でも今、ここではっきりと宣誓して。

 

『闇の帝王』に従うと」

 

 ここで「もちろん」と答えが返ってくると疑わないような笑みだ。

 しかし、セブルスの望みはそんな所にありはしない。

 

「ぼくにはマグルなんて()()()()()()

 

 べつにマグルが好きになったわけじゃない。

 でも支配したいとか抹殺したいとか、そっちも希望しない。

 どのくらい『どうでもいい』のだろう。たとえば「アリクイを自然保護区で保護せずに、害獣として駆除すると誓って」と迫られている位だろうか。

 熱心に保護活動する人だって世の中にいるだろう。熱心に野生動物をけがらわしいと思う人もだ。

 

 勝手にすればいい。

 自分は好きでもなければ生態にも興味はないし、避けて生きようと思えばそう出来る。脅威でも心の傷でもない。……いや、一般マグル男性を決して好きにはならないだろうから、傷になっていないわけでは無いかも。

 

「あなたがそうするなら、どうぞお好きに。

 ぼくはそんな事に命はかけられない」

 

 目の前の顔がみるみる歪んでいくのと、首の辺りから血が引いていくような感覚がしたのは同時だった。

 ──失敗したかもしれない。

 

 案の定、フルボリュームでの喚き声が浴びせられた。

「あなたが出ていくのを邪魔したわけじゃない、せめて、安心できる居場所に身を置いて欲しいという願いを無視するつもり!?

 あなたがここまで大きくなれたのは誰のおかげよ!これ程手をかけてやったというのに、裏切り者!恩知らずの裏切り者!!

 

 あなたが『あの方』のもとで活躍できるなら、きっと、私だって……!!」

 

 本音を漏らしすぎたというのか、言葉がとぎれた。

 この人は今、なんと続けようとした?

『息子が活躍できれば、私だって帰れるようになるかも』?

 

 ぎらりとした瞳がこっちを向いた。

 

「あなたはいいわよね。魔法使いとして大手を振って生きていける……!

 わたしをこんなところに置いておくのを、かわいそうだと思わないの!?

 

 親を幸せにするのが子供の幸せでしょう!?

 親を見捨てるお前なんて、私の子じゃない!!」

 

 胸からじわじわと冷たい穴が染み出ていくように、落胆が広がっていく。

 こうなると予想できたはずじゃないか。同じような出来事なんて、いくらでも思い当たる。

 わかっていたはずなのに。

 

 それなのに、大切にしまっていた本心を易々とつまびらかにしてしまった。

 

(やっぱり、この人に本心なんて明かすべきじゃない)

 

 きっとこれは、『絶対に不可能』なものをどうにか覆したいと駄々をこねているだけなのだろう。未練がましくて、きっぱりと断絶もできないのだ。

 でもきっと、そうすべきだった。

 

 胸に詰まる感覚から離れたくて、振り切るように背を向けた。

 こんなところにこれ以上居たくない。

 

「逃がしたりしない!お前は私のものよ!離れられるなんて思わないことね!!」

 

 魔法(呪い)的な効果はともかく、背を追いかけてきた声が張り付いて来ないよう、走って去るしかできなかった。

 

 

 

 ──どうやら、クソなのは父親だけじゃなかった。

 

 

 

 

 







おかしいなー、長くなった。
オープニング3シーンはものすごく暗いから、さっさとスキップしないと書く方(自分)も読む方もストレスがやばくね?と思ってたんだけどな。

まあでも、スネイプ周りは設定からして暗いからね、仕方ないね。

この辺の設定について、考えついた様々な説については活動履歴にそのうち載せときますー。

RTAパートは本編と活動報告、どっちが好き?

  • 【活動報告】にあげて欲しい
  • 【本編】にあげて欲しい
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