電話の音が響く。
「■■さんのお宅ですか? ■■警察署の者です」
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……最近、クズの片割れの様子がおかしかった。
夏休みに入る頃から……、いや、それよりもずっと前から、この違和感には薄々と―――。
ある任務を境に、傍若無人という殻が削げ落ちていくような、それまでとは比べ物にならないほどの変化……、覇気というものが失せていた。
不遜で、余裕綽々とした態度が鳴りを鎮めていた。
なんとなく、会話の反応が鈍く思えていた。
相棒のクズとのやり取りも、何処かしら煮え切らない態度のように思えた。
同期に3人しか居ない、呪術高専の私のクラスメイト。
鬱陶しい前髪を垂らして、時代遅れのダサすぎるボンタンズボンを愛用している男。
正論が不良の皮を被ったようで、人生を拗らせているような男子。
親の遺言であったとしても、絶対に付き合うのはごめんだと思える、面倒くさい性格をした青年の名前は”夏油傑”という。
夏油傑。別名クズは、私と違って、”呪霊操術”という、強力無比な、一人軍隊といえる強力な術式持っていた。
初めにそいつの術式を聞いた時は、暗黒中二病患者が書きなぐった、妄想チーレム主義者かと思ったくらいだった。
まるでネット小説の主人公が持っていそうな、俺TUEEチート術式を持った男だった。
馬鹿みたいに高い身長と、起きているのか、寝ているのかわからないほどの糸目。
普段の口調は丁重な物言いに反して、吐き出す言葉は、必要以上の毒素を含ませている。
そして、もう一人の同級生である”五条悟”とは、なぜだか物凄く馬が合うようで、『二人で最強ッ!』等と、中二臭いセリフを躊躇なくふれ回る恥ずかしい奴らである。
そんな妄想チート男が、ある時を境に、そんなたわごとを宣うことが無くなったかと思えば―――。
『―――、もしあれが本当なら、灰原が死ぬ』
それは、とても弱い声だった。
これまでも、これからも絶対に聞くことがないと、想像すらしていなかった程弱い声を聞いた。
何の前触れもなく早朝から電話してきたかと思えば、夏油傑は私を急に北陸まで来いと呼びつけた。
普段ならば、土下座されたとしても、断固拒否してやる所だ。
しかし、その声色を聞いたとき―――、聖女のよりも心が広い私は、少しだけ手を貸してやることにしたのだ。
いわゆる気まぐれだ。
―――あのクズであっても、傍若無人の化身であっても、俺TUEEチート妄想野郎であったとしても……、弱ることもあるのだなと、私は思った。
そんな中で私の中に芽生えたのは、不思議な感情だった。
この感情に理由などは存在しない。
だた、漠然とした、不安のようなものであった。
そんな日を境に、私の中で芽生え始めた、一滴のノイズともいえる感情―――。
愛俊ではなく、憐愍でもなく、これまで興味のかけらすらなかったその思いに、なんという言葉を例えればよいのか分からない。
不安に近しいその感情を文へとしたしめるのならば……、
いつか―――、もしかしたら、夏油傑はやらかすのではないかと……。
それが最も近いのかもしれない。
ある意味で、でこの予感は正しかったのかもしれない。
呼びつけられたその日から、夏油傑は幼い金髪の幼女を連れまわしながら、その娘を神様だとか、宣い始めた。
数日前までは、そうめんを食べ過ぎて腹を壊したような顔をしていたのに、満面の笑みで金髪幼女を崇めている姿は……、夏油傑の高身長な体格とあいまって……、はたから見ると犯罪臭が拭えなかった。
高専卒業後に宗教法人立ち上げようとしていた。
字面だけで見ると、幼女を崇め、愛でる宗教とか、性●罪者の世迷言としか思えない。
近々……、そこの所を重箱の隅を突くような思いで問い詰めたいと思っていたが、どうやらそんな猶予もなくなってしまったようだ。
午後から遅れて登校してきた夏油傑の姿に、私は思わず歩みを止める。
夏油を先導していた夜蛾先生の口から心労という名のため息が吐き出される。
その背後には、金髪幼女2名と、黒髪の幼女1名を纏わり付かせながら、満面の笑みを浮かべる夏油傑が居た―――ッ?!
「(ついに、ついに、手を出してしまったのかッ?!)」
あの日からいつかヤルのではと思っていたが、こんなにも早く、懸念が現実になってしまうとは思ってもいなかった。
私は、心の中で入院中の後輩達に詫びる。
「(灰原、七海ごめんなさい。私にはこのロリコン変態の凶行は止められなかった……。でも。私は同級生として成すべきことをするから……)」
悲しむ後輩の姿を幻視しながら、疲れ切った夜蛾先生とすれ違う様で夏油傑と向き合った。
普段の様子と違う、私の様子に驚いた様子で、夏油傑は驚愕の表情を浮かべて立ち止まるが……ッ!!
次の瞬間、目の前のロリコンチート無双は、私の傍へと一歩を踏み出し、凄い勢いで前腕を掴む?!
「ちょっ、いたッ!?」
その鬼気迫る表情に、思わず私が驚愕の言葉を漏らす。
「家入ッ!!」
普段何を考えているか分からない、寝ぼけた両目が、はっきりと見開いて私の瞳を捉えている
その声からは、ふざけが一切混じっていない真剣なものであった。
まるで、百年越しの思いを告げるかのような真剣さで、夏油傑が口を開く。
「ッ?!」
さらに一歩踏み出した夏油に対して、思わず後ずさる。
男の割に気を使っているのか、シミ一つないその顔が近づく―――。
眼前に迫る夏油の表情、私の心臓はこれまで感じたことのない鼓動を放つ。
「なっ?!」
戸惑う私に、夏油傑が言葉を告げるッ?!
「なに無言で110番通報しようとしてるのかな?」
ダイヤルをプッシュしていた手から携帯が取られた―――。
「冗談っ、冗談よ」
「こっちはさっきまで、警察に逗留させられていたからね。その冗談は今、ちょっと笑えないよ」
幼女を三人も侍らして警察にお世話……、確かに本気で笑えない罪状に、私の表情は一瞬で能面へと変化する。
「硝子、そこまでにしておけ。俺は何度も警察に、こいつの保護者代理で行きたくない」
「夜蛾先生、私は大義に従ったまでですよ。法にも、良心にも悖ることは一切していませんから」
「分かっている。分かっているが、もう少しやり方は考えてくれ」
本気で頭を抱える夜蛾先生を横目に、少女を纏わりつかせた夏油の姿を写真に納めておく。
そして、消される前に、自習をサボっていた五条悟の携帯へも送信完了させた。
「(後で七海、灰原にも見せてあげよう)」
その時、写真に映った夏油傑の写真は、本心からの笑みをこぼした表情のように感じられた。
その表情を前にした私は、子供のように根拠のない未来を信じていたのだと後になって気づくことになる。
きっと、明日も、明後日もこのクズ共との腐れ縁は続いていくのだと。
柄にもなく私はそう思っていたのだった。
◆
夏油傑が美々子と菜々子という双子を連れてきて少なくない日数が過ぎた頃。
「……は?」
夜蛾正道に一人呼び出された五条悟は、たった今告げられた言葉を受け入れることが出来ずに純粋な疑問を吐き出した。
「―――何度も言わせるな。”洩矢諏訪子”は極めて悪質で危険な呪霊と認定された。傑には洩矢諏訪子の処分が下されたがこれを拒否」
淡々と事実だけを告げる夜蛾正道に対して、五条悟の理性はそれを拒絶する。
「これを通達した者達、呪術師2名、補助監督1名を殺害して逃亡した」
「聞こえてますよ、だから「は?」つったんだ」
夜蛾正道は、五条悟の言葉に返すことなく、さらなる状況を口にする。
「……傑の実家は全焼し、両親の行方も不明。血痕と残穢から、傑は新たに特級クラスの呪霊を使役しているものと推察されている……。さらに、呪術界への宣戦布告を告げたとの情報もある」
「んなわけッ、ねぇだろッ!!」
突如、崩された日常に対して、五条悟は子供の癇癪のように、否定の声を上げる。
「悟――。俺にも……、何が何だか分からんのだ」
悲しみ、絶望、苦悩、それらを濃縮したような苦悶の表情を浮かべる夜蛾正道に対して、五条悟もまた、同様の絶望を浮かべて、歯を食いしばる。
それでも絶望は、さらに逃げ道を防ぐかのように告げられる。
「―――、お前にも任務が降った。……洩矢諏訪子の抹消、そして夏油傑の捕縛―――。これが叶わない場合は……、夏油傑を呪詛師として――、抹殺せよと」
夜蛾正道の表情から、これは質の悪い冗談でないことを認知させられる。
それでも脳は現状の理解を拒絶する。
袋小路に追いつめられた思考は、唯一現状を打開できるであろう絶望の未来への可能性を示唆していた。
『洩矢諏訪子の抹消』と『夏油傑の捕縛』。
「(あの呪■を消せば……、傑は助かる―――)」
その先に在る未来、それを成すことで成就する願い。
五条悟が持つ六眼の瞳が怪しく歪み、未来を見ることなく、その視線が床へと落ちる。
―――、五条悟が一つの選択を下そうとしたとき、唐突に携帯電話の着信が響く。
携帯電話の画面には、”家入硝子”の名前がはっきりと表示されていた―――。
◆
人混みの中を目的なくぶらついている家入硝子へ声をかける男がいた。
「その年頃で、それを常用するのは関心しないな。母体に悪影響だぞ」
行く手を遮るように、はっきりと硝子の口元に加えたモノを指して男は言う。
「何、ナンパ? あいにく間に合ってるから」
家入硝子は、顔に傷を持ったその男に対してはっきりと拒絶の意思を示す。
そして、その場から去ろうとするが、男はその行先を阻害する。
「違う。家入硝子。悪いが仕事だ、一緒に来てもらおう」
路上に停めた黒塗りのタクシーを指す男に対して、家入硝子は苛立ちを隠さずに反論する。
通常の呪術の任務であれば、高専を通して、夜蛾正道から直接指示されるのが常である。
しかし、今日はそんな任務の話など聞いては居ない。
「仕事? 悪いけど個人営業はしてないの。仕事なら高専を通してくれる」
見たことない男の姿に、家入硝子の警戒は最大値まで跳ね上がる。
家入硝子は呪術高専に在籍しては居るが、純粋な戦闘員ではない。
それでも、同期や後輩達との戦闘訓練に立ち会うことはあるし、それなりに自衛する程度実力は身に着けている。
相手と、自身の実力差は分からないが、隙をついて人混みの中へと逃げる。
そうすれば、呪術の秘匿を盾に、相手の行動へ多少の枷を嵌めることが出来るはずだ。
「それにアンタの姿、補助監督には見えないけど何?」
おそらく何かしらの相伝の術式を持っているであろう事を念頭に置いて、家入硝子は相手の様子を探る。
「俺か? 俺は―――」
考えるそぶりを見せる男を前に、家入硝子は即座に動けるようにと身体に呪力で強化し逃走へと備える。
そんな家入硝子の姿を理解してか、知らずか、男は会話を続けた。
「俺は、お兄ちゃんだ」
家入硝子が両足に力を籠めると同時に、男はとぼけた表情で、糞くだらないボケを披露した。
原作最新話を読んで思ったことは、『救ってくれ諏訪子様、必要だろう』でした。
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