彼女は自分を
ピクルとジャック・ハンマーの熱烈なキスを目撃して数日ほど経過した頃。彼女はペイン博士率いる科学者達と対話の練習をしていた。ピクルのいない研究室で彼女はペイン博士と会話を試みている。
「おはよう」
「おぁ、お、う」
「そう、その調子だ。ゆっくりとね」
「おあお、おあ、よ」
赤ちゃんに言葉を教えているようにも見えるが。彼女もペイン博士も至って真面目に練習している。二人とも真剣なのだ。
もっともティラノサウルスのステーキなんてふざけたものを作っていた科学者はぼんやりと天井を眺めているだけで、二人の会話を全くノートに書き写すそぶりを見せない。
彼女はそんな科学者を見ながら。
なんで、この人はここにいるんだろう?と疑問を抱く。彼がここにいる理由はピクル脱走およびティラノサウルスのステーキなんてふざけたものを作った事に対する反省を促すためだ。……あまり効果はないようだけれど。
「ケッパー、ここでの生活はどうかね?」
「たぁお、し、ぃ」
ペイン博士の問い掛けに彼女は微笑んで「楽しいよ」と素直に答える。白亜の時代に比べれば過ごしやすいし、怪我や病気を心配する必要もない。だが、ピクルに集まってくる闘技者はどうにかしてほしいと彼女は静かに考える。
ピクルは不満げに寝そべっている。
それもそのはずだ。
己のツガイと数時間も離れ離れになっているのもあるが、己の目の前に座っている小さな雄の不遜な態度に彼は静かにムカついていた。ここはおれとツガイの縄張りだと言わんばかりに睨み付けるが、いっこうに退く気配はない。
「なあ、ピクル。俺と戦ってくれねえか」
そう小さな雄は呟く。
「ハルルゥは」
どこか幼き日に出会った泣きながら逃げ惑う己のツガイに似た雰囲気の小さな雄───。愚地克己にピクルは視線を向けたまま動かない。おたがいに言語は通じない。されど。なんとなく意味は伝わる。
ピクルはゆっくりと身体を起こし、小さな雄の目の前に移動して地べたに座った。烈海王、ビスケット・オリバ、範馬勇次郎、ジャック・ハンマー、キャプテン・ストライダム。彼らのように強烈な威圧感はない。
だが、彼は自然と拳を突き出す。
この時代にやって来てから。
ずっとピクルは好敵手足り得る相手を推し量るために拳を合わせて、何度も押し負けている。ひょっとして、この小さな雄もおれを押し飛ばすのかと密かに期待を寄せる。
しかし、その予想は外れた。克己はピクルの拳を受け止めきれず、あっけなく真後ろの壁まで吹っ飛んでしまったのだ。
〈おしゃべりしたいね〉
ケッパーはしゃべりたい
みんなとおしゃべりできるようになりたい。ペイン博士と何度も練習を繰り返し、少しずつ彼女は言葉を話せるようになってきた。