「そういえば立希さん」
「ん?なに?」
毎度ながら頭の上に紙パックを乗せてくる海鈴。
こういう時はからかいがほとんどだったりするのだが。
「バンドは順調ですか?」
「サポートなら当分は平気だけど。何?」
「いえ。頼られなくなるのは寂しいですねと思っただけです」
要は構ってほしいってことなのだろう。
「そういえば」
「ん?」
「燈さんとはどうなんですか?」
「どう...どうってなに?」
「お付き合いされているのでは?」
「ぶっ!!」
何を言い出してるんだこいつは。
「咄嗟に顔を背けたのはいい判断ですね。さすがドラマー」
「関係ないし。てかいきなり何?なんで私と燈が付き合ってる話になってるの?」
「口を開けば「燈、燈」と言ってるのはあなたですが」
「いやそんな言ってないと思うんだけど...」
無意識なだけで口から洩れてるのかもしれない。
以後気を付けよう。
「それで?どこまで進んだんですか?」
「いやそもそも付き合ってないし。なんで海鈴はニヤニヤしてんの」
「人の惚気って聞くの楽しくないですか?」
「その感覚は分かんない」
「そうですか」
そう答えつつも、誰の惚気なら幸せに聞けるか考えてみる。
愛音は...ダメだ、なんかムカつく。
野良猫...あいつギターが恋人だろ。
そよは...長続きしなそうだな。
燈は...燈は...。
「何百面相してるんですか?」
「え、してた?」
「はい。顔の筋肉の運動かと思いました。変顔100連発でもするんですか?」
「しないけど。...やっぱその感覚分かんない。惚気聞いて楽しいとか」
「誰の惚気を想像したかは大体察します。なら私の惚気でもどうですか?」
「え?お前彼氏いたの?」
初耳だ。
いや別にそんなことを話す仲でもないけれど。
「今の時代、女が付き合うのは必ず男とは限りませんよ」
「いや...それは言葉の綾で...」
「まぁ、多様性を押し付けるのもハラスメントになりそうですが」
そう言って笑う海鈴の顔は、本当に嬉しそうに見えた。
「いい人ですよ。顔は少し怖めで、不愛想ですが根は優しく真面目で。周りも見えている」
「ほんとにいい人捕まえたね。よかったじゃん」
「...そうですね」
顔が曇った。
「...の割には、顔が暗いけど」
「そうですね。あとはその人が私の好意に気付いてくれるかどうかなんですが」
「え?付き合ってるんじゃないの?」
「付き合ってるなんて言いましたっけ?」
思い返せば言ってない気がする。
惚気って言っただけで付き合ってる話ではないし、何なら男の話でもなかった気がする。
「...おや、チャイムが鳴りましたね。では、私はこれで」
「え?いやちょ、最後まで話せって。気になるんだけど」
「...そうですね。続きはいつか、その人が私だけを見てくれた時にでも話しましょう」
うみたきって
付き合ったとて絡み変わらなそう