日蝕のアサルトレコード   作:その辺の残骸

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オン・ザ・コロシアムⅣ

 

「いやー良い試合だった」

 

 たった今、午前中の第三試合が終わったところだ。試合を総評してエリスは呟いた。

 

 神薙エリスは観戦席に品よく座り、聖オルベリア学園の少女達と一緒に試合を観戦している。それは健全な興奮を分かち合う、穏やかな時間であった。

 

 エリスは第零世代ACと第四世代ACという、究極の機動兵器を操る傭兵であったが、一般的なACの戦闘に心躍らせる感性を持ち合わせている。要するにスポーツ観戦好き。

 

 勝者は武器腕マシンガンにロケットの武装構成の軽量二脚級AC。メインアリーナの真ん中で、観客の惜しみない歓声を浴びている。

 

 その一方、敗者である大破したホバータンク型ACが、回収用MTに牽引されていく。

 

 敗けたほうのACは脚部を破損したため、自走できないダメージを負っていた。磨き上げられたボディを誇っていただけに、全損した姿は見るも無惨に思える。

 

 ACのやられ具合こそ酷いが、ドライバーは大きな怪我は負っていない。

 

 どこのアリーナでも緻密かつ厳密にレギュレーションが組まれている。これにより、試合における選手の負傷は最小限に抑えられていた。

 特に東京アリーナは過去十年間、試合におけるアクシデントゼロという記録を誇っており、その安全性は世界一であった。

 

「今日は何事もなく終わりですね」

「それはどうだろうな。期待するのは止めといたほうがいいんじゃないかい」

 

 お嬢様モード(口調が崩れていたのを今になって反省)で、願望混じりの予感を口にするエリスだが、相棒の反応は冷たい。

 

 曖昧な願望に共感する優しさは、ハードウェアにもソフトウェアにも持ち合わせていないのが、この電脳サメだ。

 それどころか、気が緩んだ赤髪の少女を注意していた。

 

 黒衣のゴシックドールの言い草に、赤髪の麗しい乙女は、ほんの少しだけむっとした。

 

「希望を言ったまでのことです。ほんの少しでも共感してくれたら嬉しかったのですが」

「それを僕に期待するのは間違いだぞ」

 

 エリスは笑顔のまま、肩を竦める。

 お嬢様モードでは、誰に対しても優しく接するよう心掛けているのだが、レヴとアンヘラに対してはどうしても素が出てしまう。

 

 

 同じく観戦スペースにいる聖オルベリア学園ACバトル同好会のメンバーは、今観た試合を振り返って議論を交わしていた。

 

 部長である桐嶋ミコが促さずとも、当たり前のように試合終了後に意見交換している。

 

 単に「凄かった」で終わらせない。

 戦闘を分析し、糧にする。同好会の少女達は貪欲なまでのひたむきさを発揮していた。

 

 これこそが桐嶋ミコがアリーナにサヤ達を招いた意義であった。

 部員たちの熱心さに、ミコは心から感心している。素晴らしい仲間たちを持てたことが喜ばしく、誇らしかった。

 

「敗因はエネルギーの浪費、空中戦に拘り過ぎたこととパルスキャノンの連射にあると思います!」

「うむ。正しい理解だ」

 

 元気溌剌な女子高生、黒羽サヤはシュバっと挙手してホバータンクACは敗因を指摘する。

 先生役は当然、教官であるササラ・レイフィールドだ。サヤの指摘はシンプルだったが、トップクラスのレイヴンからしても合格点を出せる解答であった。

 

 ホバータンクACは空中戦を得意とするランカーという触れ込みであり、序盤こそ軽二を翻弄し、背中のパルスキャノンによる猛攻でリードしていた。

 

 しかし、試合の終盤には形勢逆転。

 腹を括った軽二の突撃が功を奏した。軽二は懐に潜り込んで敵機を中心に円を描く機動(サテライト)を取った。ホバータンクはこれを振り切ることができず、武器腕マシンガンを浴び続けた。

 

 サヤの指摘通り、ホバータンクACは空中機動とパルスキャノンの多用でエネルギーを使い果たしており、最後は禄に動けないまま背部ロケットを含む徹底的な攻撃で撃破された。

 

「オレならキャノンは捨てて(パージ)して、OBで仕切り直す。軽二くらい残りの武器でも墜とせるしな」

 

 そう答えたの薄金髪ヤンキー娘イリヤ・フレアテイル。喧嘩とダンスで鍛え抜かれた、長い脚を組んでいる。

 イリヤが駆る高火力型の四脚"キマイラ"は、先ほどの試合のホバータンクACにもっとも機体特性が近い。火星生まれの不良少女は、回答を求められる空気をしっかり察していた。

 

 イリヤの回答はアサルトスクワッドにおいても賢明な選択だった。

 最大五機の部隊戦において、機数の維持は重要だ。武装一つを引き換えにしても、交戦から離脱する判断が視野に入っているのが望ましい。

 

「皆ならあそこまで追い込まれることもなく、勝っちゃうだろうけどね」

 

 ササラ・レイフィールドの隣。

 いつものように、黒髪を綺麗に纏め上げた蠱惑的な黒識リゼが座っている。

 リゼは、にこやかに言い放っていた。断言である。

 

「やはりか。ボクもそう思っていた」

「調子がいいぞ、バカアズ」

 

 うんうんと頷く銀髪褐色のミステリアスなアズ。

 

 一昼夜通して行われる本日の興行で執り行われる試合は上位ランカーのみならず、中堅クラスのランカーや名物的なランカーの試合も組まれている。

 

 先ほどの試合は中堅クラス同士の試合だった。

 エースであるサヤのみならず、同好会のメンバーは全員、対戦していた二人のランカーに勝つことができるとリゼは見做していた。

 決して友人だから実力を贔屓目に見て言っているのではない。

 トップクラスのレイヴンの戦場におけるパートナーであり、優れたリサーチャーとしてのシビアな分析だった。

 

 ササラの教え方が上手いだけではない。

 同好会に所属している少女たちは情熱と才能、そして何より重要な厳しい鍛錬に耐え抜く精神力を持ち合わせていた。

 

 強烈な慣性荷重に苛まれるACの高機動戦闘は観る者には華々しく映るが、ドライバーにとっては拷問のように過酷だ。

 

 どんなに高性能にアセンブルされたACであっても、操る人間がへばってしまえば無意味だ。

 

 だからこそ、ドライバーはACの性能に負けないカラダを仕上げなければならない。

 毎日のようにひたすら地道にトレーニングを重ねて汗を流し、筋肉を痛めつけて鍛え上げる。

 訓練でも実戦以上を想定した負荷で機動し、肉体を慣らす。

 

 苦痛や汗の不快感に悲鳴を上げるようであれば、ACバトル同好会の活動はお遊戯にしかならなかっただろう。

 

 

(わたしが口を挟むべき話題じゃないですね)

 

 ACについては、多少人より知ってるだけ。

 そんなショートヘア眼鏡の黒羽チトセは、同好会の議論を遠巻きに眺めていた。こういうトコロは弁えている女子中学生であった。

 

 自由奔放な割に、妹である自分にはやけに口煩い姉が議論に夢中なのを良いことに、ルベリアに甘えている。

 

 チトセはルベリアの膝の上に座っている。

 

「いいですよ。いきますよ――――はい、ぎゅぅぅぅっと!」

「おお、これは素晴らしい感触です! 特に胸の、大きなおっぱいが!」

 

 色白で華奢なチトセは可愛らしいし、髪の香りも芳しい。

 ルベリアは大切なぬいぐるみのように膝の上の少女を抱き締める。肌の柔らかさと体温を思いっきり堪能していた。

 

◆ ◆ ◆

 

 妖狐を彷彿とさせる妖艶さを醸す、背の高い少女は従者二名に護衛されながら、フロアを進んでいた。

 

 櫛名田ヤトは良くない報せを携えて、聖オルベリアの少女たちの元に向かっている。

 今日は同好会の所に顔を出す予定はなかった。

 会いたいのは山々だが、今日ばかりは分刻みのスケジュールをこなさねばならない立場なのだ。

 

――――ウチとしては嬉しいんやけどな。ルベリアさんとエリスちゃんはどないな顔をしはるか、気が重いわぁ。

 

 そんな胸中とは裏腹に。ヤトは妖艶な和装を纏って軽やかに歩んでいた。

 同好会の少女たちは見ていて気持ちの良い、綺麗な顔揃いだ。なので嬉しい誤算であった。

 

 しかし、同好会が保護したルベリア・アーヴィングにとっては間違いなく悪い報せだ。

 それをこれから持ち込むわけだし、ミサカ重工の代表者として敵の企みを承認したのは、他ならぬヤトである。

 だからこそ、自ら彼女たちの元に足を運ぶのだ。張り倒されるのも覚悟の上であった。

 

「悪いけど、二人はここで待っといてな」

「「御意」」

 

 護衛であるスーツ姿の女性二人は、主の命令に機械のように応じて左右に退いた。

 

 ヤトは「どうもー」と軽い調子で入室する。

 ちょうど、エリスはバーカウンターで青銀髪のサムライメイド、村雨レネが作ったノンアルコールのカクテルを頂いていた。隣のスツールには桐嶋ミコ部長が腰掛けている。

 

 スツールに座っているエリスの大きなお尻とミコの小振りなお尻が、比較できる並びであった。

 

「御機嫌よう、櫛名田先輩。今日は忙しいと伺っていたので、お越しになるとは思っていませんでしたわ」

 

 素早く立ち上がり、赤髪を靡かせながら振り返る。

 エリスはヤトに対してお嬢様として挨拶した。上品に微笑んでいるが、既に厄介事が起きたと悟っていた。

 

 

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