異世界でもお前のパンチを見せてやれ!   作:Hetzer愛好家

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★不撓→どんな困難に遭っても怯まない様子
☆不屈→苦難に負けず、意志を貫くこと
✪不撓不屈→強い意志を持って、どんな苦労や困難にも挫けない事を意味する四字熟語

 前半はマックくん視点。後半からは、主治医の先生視点で進行します。


第6R後編 不撓を成す肉体と不屈の精神力

「……では、自分はこれで失礼します。優奈のお母さんには、どうかご達者でと伝えてください」

「うん、分かった。確かに伝えておく。それじゃあ、気をつけて帰ってくれ。また、四十九日で会おう」

 

 優奈のお父さんに一礼してから、俺は会場を後にして、病院の方へ向かった。分骨によって貰う事になった小さな骨壺を、袋に包んで大事に抱えた状態で。

 

 火葬場に到着してからの流れはあっという間であり、滞りなく遺体を燃やす準備が整った。

 

 火葬炉の前で、故人と正真正銘最後の別れをする場で、俺はまた泣いた。盛大に泣いたが、火葬を引き止めるような真似だけはしなかった。涙で顔をグチャグチャに濡らしながらも、しっかり「さよなら」を告げる事ができた。

 

 その後、涙混じりの声で「君が押してくれないか」と言った優奈のお父さんに従い、火葬炉の点火スイッチと思われるボタンを押したところで、俺は膝から崩れ落ちて。そして、声に出して泣いた。これ以上ないぐらいに。

 

 今日だけで何度泣くんだとツッコまれそうであるが、今のうちに枯れるぐらい泣いてしまう事で、明日から変に引きずらないようにしたかったのである。多分、15年の人生の中で、1番涙を流した日になった。

 

 お骨上げまで時間がそれなりに空くとの事だったので、応接室に通された俺は、そこで優奈のご両親から色んな話を聞かせてもらった。

 

 主に話してくれたのは、入院する前の優奈に関する思い出である。彼女は、過去について全く話してくれなかったので、どの話題も俺にとっては新鮮な物だった。

 

 逆に、俺が語った優奈との思い出を、ご両親は感慨深そうな表情を浮かべながら聞いてくれた。

 

「君は、優奈にとってかけがえのない存在だったんだね」

 

 優奈のお父さんがそう言ってくれた時、幾分か心が救われた気分になった。

 

 俺のこれまでの行動は、間違ってなかったのだと。改めて、認識する事ができた。取った選択を後悔はしていないが、間違っていたのではと疑心暗鬼になる事があった俺にとって、その言葉は救い以外の何物でもない。

 

 話に花が咲けば、時間はすぐに過ぎ去っていく物である。体感15分ぐらいで、お骨上げの時間となった。

 

 肉が燃やされ、骨のみとなった優奈を見ても、涙は落ちなかった。案外残らないもんだなと、何処となく寂しさは感じたが。

 

 その後も特に何かが起こる事もなく、無事にお骨上げは完了し、精進落としの宴まで滞りなく終了した。

 

 そして、いざ帰るという時に、俺は優奈のお父さんに声を掛けられた。

 

 彼が手渡してくれたのは、お骨上げで見た骨壺よりも、更に一回り小さい骨壺である。

 

「これは……」

「分骨してもらったんだ。こうすれば、君も優奈の遺骨を持って帰れる」

「……良いんですか」

「君の近くの方が、優奈は喜ぶだろうから。だから、手元供養をしてやって欲しい」

 

 俺は、もう何も言う事ができず、ただただ彼に頭を下げる事しかできなかった。

 

 分骨は、仏教の観点から縁起が良くないとされる事があるため、忌避する遺族も多い。遠地に遺族が住んでいて、お墓参りや四十九日への出席が難しい場合は執り行う事もあるようだが。しかし本来であれば、俺のような血の繋がりがなく、恋仲でもない人間に、こうして骨壺を渡す事は少ないとされている。

 

 これは、死と向き合う機会が多い主治医の先生が教えてくれた事である。だから、優奈の遺骨を持って帰れるとは微塵も考えていなかったし、持ち帰れなくて当たり前だと考えていた。

 

 だからこそ、優奈のお父さんからの提案には大層驚いた。

 

 しかし、驚いたのはほんの一瞬。すぐに、感謝の気持ちが湧いて出てきた。

 

「ありがとう、ございます」

 

 そして、冒頭の行に戻る。

 

 会場から離れた俺は、バスを使って病院へと向かった。電車を使った方が近いのだが、時刻は既に夕暮れ時で、混み合う時間帯である。骨壺を持ったまま、満員電車には乗りたくない。まあ、バスも空いているとは言えないぐらいの乗車率だが。それでも、電車よりは遥かにマシだ。

 

 運良く座席が空いていたので、骨壺を抱き抱えるような体勢で座る。

 

 こうしていると、優奈との思い出が次々と脳裏に浮かんでは消えていく。特に色濃いのは、優奈が俺の背中側から抱き着くようにして3DSやSwitchの画面を見ている思い出だ。俺のすぐ横に優奈の顔がある体勢が、当たり前であった。

 

「……当たり前、か」

 

 誰にも聞こえないように小さな声で呟いて、そして自嘲気味に薄く笑みを浮かべる。

 

 とんだバカだな、俺は。

 

 気がつく以前に、俺は知らなかった。無知は罪であると言う事があるが、まさかこの身を持って体験するとは夢にも思うまい。

 

 どれだけ思考を切り替えようとしても、すぐにナイーブな思考へと戻ってしまう。何度か繰り返したところで、俺は思考の切り替えすら放棄し、ボンヤリ窓の外を流れていく景色を見つめる事にした。涙が表面化しなくても、心まで泣き止ませるのには、もう少し時間が必要らしい。

 

 だが、ボケっと景色を見るだけのオブジェクトと化していた俺を現実世界へと引き戻す〝怒声〟が、大きく鳴り響いた。

 

 明らかに普通の様子ではない怒声。そして、それに負けないぐらいの音量である赤ちゃんの泣き声に、思わず声がしたバス後方を見る。視線の先には、赤ん坊を抱く母親らしき女性と、その女性を恫喝している男が2人いた。

 

 ホント、治安と民度と、そして俺の巻き込まれ体質はどうなってるんだと言いたい。ここは日本のはずなんだが、行く先々で何かが起こっている気がする。治安と民度に関しては、もうスラム街と評しても問題ないのではないだろうか。

 

 見て見ぬふりをできない俺にも問題はある……が、今更変えるのは難しい。遭遇したからには、全力で事態に介入させてもらう。

 

 早急に終わらせてしまおう。降車予定の停留所まで、そう遠くはないので。

 

 停車ボタンを押してから、俺は立ち上がった。

 

「耳障りな鳴き声を発してるな、お前ら。赤ちゃんの泣き声以上にうるせえよ」

 

 男2人が喋り終えたタイミングで口を開いたので、やけに俺の声がバス内に響き渡る。

 

 めちゃくちゃ無粋な物言いをした俺を、奴らが黙って聞いている訳がなく、すぐさまこちらを振り向いた。

 

「赤ちゃんですら多少の我慢はできるのにな。お前ら、さては人間じゃない別種の動物か?」

 

 言語らしき何かを喚き散らしながら、俺に近寄ってくる男たち。明らかに、敵意を持っている目をしている。対する俺は、骨壺を持ったままなので、仮に手を出されても打ち返す事は難しい。

 

 まあ、それだけなのだが。

 

『公園前、公園前です』

「停車します。お掴まりください」

 

 機会音声に続き、運転手さんの声が聞こえたのとほぼ同時。動いていたバスが速度を落としていき、そのまま停車した。

 

 バスの速度自体はそこまで速くない。だが、慣性の法則というのは案外バカにならない物である。電車以上に力がダイレクトに伝わりやすいバスでは尚更だ。

 

「うっ!?」

「ぐあっ」

 

 しっかり両足で踏ん張り、念入りに手すりを掴んでいた俺とは異なり、男たちは不用心に歩いて近寄ろうとしていた事で、盛大にバランスを崩して転ぶ羽目になった。

 

 俺の足元に、男2人の頭が転がる。その横には、男たちの私物であろう手提げ袋とショルダーバッグ。

 

 すかさずそれを掴むと、開いたバス中央の降車ドアから見えるバス停に向かってぶん投げる。

 

「っ、ふざけんなよテメェ!」

「殺す……!」

 

 流石に荷物を捨てられては困るのか、慌ててバスから降りようとする男たち。

 

 俺の事は、完全に見ていない。荷物だけを見ていて、不用意に背中を向けている。阿呆が。

 

 1人目を見送り、2人目がバスから降りる寸前。俺は軽くだが、腰の付け根を足先で押した。

 

 直接的な威力は全くない。だが、不意打ちで押された男は、バスから落ちるような形でアスファルトに叩きつけられた。先に降りて荷物を回収し、急いでバス内に戻ろうとしたもう1人の男を巻き込んで。

 

 それを見計らったかのように、降車ドアが閉まった。バス運転手さんのファインプレーである。

 

 男たちがドアの外から何やら罵声を口にしているのが見えたが、サラッと無視して背を向ける。何を言ってるのか、サッパリ分からん。

 

 ゆっくり動き出したバス内を転ばないように気をつけながら移動すると、俺は赤ちゃんを抱っこして唖然としているお母さんのところへ向かった。

 

 赤ちゃんは、いつの間にか泣き止んでいた。それどころか、キャッキャと楽しそうに笑っている。 

 

「大丈夫でしたか」

「は、はい。ありがとうございます」

「君も、いきなり怒鳴られて怖かっただろ。けど、もう大丈夫だからな」

 

 俺の手にある骨壺をジッと見る赤ちゃんを不思議に思いながらも、頭を優しく撫でてからその場を離れた。赤ちゃんの体温は、こちらが火傷しそうなぐらい熱かった。そんな冷えていただろうか、俺の身体。

 

 バス内は何とも言えない微妙な空気が漂っているので、居心地が悪い事この上ないのだが、降車予定の停留所までもうちょっとである。ほんの数分我慢すれば良いだけだ。

 

……1人のはずなのに、孤独を何故か感じない現象が続いている間は、少なくとも大丈夫だろうな。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 年齢不相応の、恐怖を覚えるまでに強靭な精神力を持った少女。それが、主治医として優奈ちゃんを診てきた僕の、彼女の総評である。

 

 色んな患者さんを診てきたが、優奈ちゃんは誰よりも精神力が強かったと断言できる。鋼なんてレベルじゃない。ダイヤモンドやタングステンでも、まだ足りていない気がするぐらいだ。

 

 テロリストが病院を襲撃してきた時は、あまりにも絶望的な状況すぎて、流石の優奈ちゃんも心が折れかけてはいたけど。まあ、あれは特殊な状況すぎるので例外だろう。それ以外の場面では、〝不屈〟という言葉をひたすら体現している娘だったと思う。

 

 そんな優奈ちゃんが、生涯最初で最後の恋をしたのが、僕の眼前で骨壺を大事に抱えて座っている真久野ケン(マックくん)である。

 

「それは?」

「優奈のお父さんが、気を遣ってくれて。分骨って形にする事で、俺にも優奈の遺骨を持って帰れるように取り計らってくれたんです」

 

 儚げに笑う彼を見て、僕は誰にも気がつかれないように小さく息を吐いた。

 

 〝不屈〟という言葉が最も似合う人が優奈ちゃんなら、〝不撓〟という言葉はマックくんが1番似合う。そう考えるぐらい、彼はどんな困難にも怯まず前へ進める肉体を持っていた。それを支える精神面が、出会った当初はかなり脆くて危なっかしい物だったのが、兎に角不安だったが。今では、見違えるぐらい逞しくなった。逞しくなりすぎた、とも言えるかな。

 

 お互いに、足りていない部分が真反対であったと、今になって感じる。故に、惹かれ合ったとも。

 

 〝心技体〟のうち、心の部分は強く、愛を理解していたが、体が弱く技の部分も習得できなかった優奈ちゃん。技と体の部分は強いが、心が完全に壊れており、愛を知らなかったマックくん。鏡写しのように、対極的な存在同士だった。

 

 その2人の理想像の1つが、リトルマックというキャラクターなのだろう。

 

 これから先も、足りていない部分を互いに補い合う事によって、2人は更なる高みへと到達できたのではないだろうか。それがもう、不可能であると分かってしまっているからこそ、何度も考えてしまう。

 

 僕は、心配だった。優奈ちゃんが亡くなった今、彼は真久野ケンという人間としての形を完全に捨て去り、理想像である〝リトルマック〟だけを追い掛けるのではないかと。

 

 遺された彼は、それを苦痛とは思わないだろう。〝約束〟に縛られ続ける人生だとしても、自ら望んで修羅道を進むだろう。

 

 理想像を追い掛ける彼を見て、優奈ちゃんは何を思うのだろうか。喜びと悲しみのジレンマによって、苦しむような事は避けて欲しいが……難しいだろうか。

 

「マックくん。君は、これから先どう生きていくつもりかな?」

「そう、ですね。優奈との〝約束〟を果たすため、必死に頑張るつもりです。まずは、プロテストに合格しないとだから、一層ボクシングの練習に励まないと。それに、スマブラの方も手を抜きたくないし……」

「そっか。 ……新たに、手伝ってくれる人はいそう?」

「どうでしょう。今の知り合い以上に誰かと関わる事を全く考えてなかったので、ちょっと想像できないですね」

 

 その言葉の裏には、たとえ孤独となっても〝約束〟を果たすために前へ進み続けるという、マックくんの強い決意が見え隠れしている。

 

 多分、僕では彼の歩みを止める、または歩む速度を緩めさせる事は難しいだろう。

 

 だが、幸いにもアドバイスに耳を傾けてくれるぐらいの信用はある。だから、僕は願い事を言葉の裏に隠して、マックくんに投げ掛けた。

 

「人と積極的に関われ、とは言わないよ。でも、完全に絶つのも良くない。生涯の親友1人ぐらいは、これから生きていく上で作っておいた方が良いと思う」

「親友、ですか」

「繰り返しになるけど、無理に作れって話ではないからね。君の気が向いたらで良い」

 

 理想像である〝リトルマック〟と、真久野ケンという人物の両方を受け入れられる親友。それか、恋人。どちらか片方が居てくれたら、きっと彼は壊れる事なく生涯を全うできる。そう信じている。

 

 なお、僕の願いは後に意外とすぐ叶ってしまうのだが。それはまた、別のお話しである。

 

 それから小一時間程度、雑談をしてからマックくんは施設の方へ帰っていった。

 

 その背中を見送った際に呟いた言葉は、多分誰にも聞こえていないはずである。

 

「そう、だよね。離れる訳ないよね、優奈ちゃん……」

 

 職業柄、勝手に研ぎ澄まされてしまう特異な感覚は、確かにマックくんに寄り添う優奈ちゃんの姿を捉えていた。




 優奈ちゃんの死によって至った不撓不屈の精神は、マックくんを根底から支える柱であると同時に、強烈な呪縛と強迫観念の大元でもあります。放っておけば、〝約束〟を果たした瞬間に満足して、簡単に命を絶ってしまえる精神状態です。

 主治医の先生はいち早くそれを見抜いたので、めっちゃ心配してます。何せ、〝約束〟を果たすためだけに生きてる状態なので。

 さて、今回で中学生時代は一区切りとさせていただきます。次回以降は高校生時代に突入。異世界召喚直前ぐらいまでを描く予定です。
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