彼方に継ぐ道化師   作:転生したらアメリカザリガニだった

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四頁 兎と妖精②

 ――――お祖父ちゃん曰く、エルフとは『生真面目な委員長系ヒロイン』らしい。容姿端麗で気難しい性格と肌の接触を拒むほどの潔癖症が繰り出す、鉄壁の守り。文句なしの高難度攻略ランキング上位勢。

 

『エルフっていいよなぁベル』

 

 アルフィアお義母さんが留守なのをいいことに熱弁を振るうお祖父ちゃん。正直、なにを言っているのか幼いベルにはこれっぽちも理解できない。

 

 取り敢えず分かったのはエルフとは美人だけど気難しい人達。だけど一度、相手を認めたら深い信頼を寄せてくれる。そんなところだった。

 

 そんな話半分のベルをよそに(せき)を切ったように話し出す、お祖父ちゃんはもう止まらない。この手の女っ気のある話題を出そうものなら即福音(ゴスペル)な日常から脱した好々爺は束の間の安息を思う存分に謳歌。

 

『むふっ、儂にだけゾッコンな黒髪エルフとかたまらんゾイ!』

 

 あ、でもヤンデレだけは勘弁な。そんな決まり文句を言いながら呵々大笑しては、いつの間にか帰宅したアルフィアお義母さんに吹き飛ばされて家が倒壊。ザルドおじさんが遠い目をしている。

 

 ある意味、お決まりの結末。

 

 そんな昔の思い出を振り返りながら目の前の現実との乖離(ギャップ)にベル・クラネルの中にあった、エルフという見目麗しい種族像は見事に粉微塵になっていた。

 

「えへ……えへへ」

 

 細長い耳をピコピコとさせて笑みを浮かべる少女――――初めて出会ったエルフの女の子。ほんの少し前、茂みから飛び出してきた影と衝突して尻餅。そのまま覆いかぶさった影の主が彼女である。

 

 ド突かれた頭の痛みで涙目になる間もなく、伸びる小さな両手が獲物を捕まえるが如く襲いかかる。具体的には髪の毛を揉みくちゃにされているのだ、現在進行形で。

 

「や、やめっ!」

 

 馬乗りの状態で女の子に襲われている。男の子としては情けなく、ちょっと……いや、多分に自尊心をズタズタに裂かれる衝撃的な出会い。幼い魔の手から脱するのに中々に苦戦して数分。息も絶え絶えな子兎が大木を背にして震えていた。

 

「はぁはぁ……つ、つかれた……」

「どうして逃げるんですか!」

 

 むきーっと、不満の声を飛ばしたのは今にも飛びかかって来そうなエルフの少女。

 

「ひぃ!? 知らない人に襲われたら怖いって」

「それは……確かに」

 

 じりじりと距離を詰める正体不明の不審妖精にビビる少年が声を荒げる。それもあってか我に返って腕を組む少女が、確かにと頷いて納得。常であればこんな暴走状態にはならなかったのにと少しの恥じらいを手を叩いて誤魔化しつつ、既にファースト・コンタクトが最安値を更新し続ける、だだ下がりなことに気づかない。

 

 えへん、と少女が咳払い。

 

「わたしの名前はレフィーヤ。レフィーヤ・ウィリディス。あなたの名前は?」

「えっと……ベル。ベル・クラネル……です」

「では、ベル。歳はいくつですか?」

「えっ」

「ちなみにわたしは八歳です! さぁベル、答えなさい」

「なんで……」

 

 自己紹介から間髪入れずに聞かれる年齢。押せ押せで攻め攻めムードなエルフの少女、改めレフィーヤは満面の笑みで再度、聞いてきた。距離をぐいっと縮めては両手を上げてワキワキと。

 

「はぁーレフィーヤさん近い! な、七歳です!」

「七歳……ほう、ほーう」

「なんですか」

「――――ふひ」

「ひぇ」

 

 悲鳴をあげつつ後退りできないベルとクスクスと笑うレフィーヤ。拳をぐっと握り締めて謎のガッツポーズ。まるで前世からの因縁めいた兄妹的な上下関係に打ち勝ったかのような仕草によく分からないまま、ベルは黙ってそっと見守ることにした。

 

 ――――そして。

 

「なんで薬草採取の手伝いなんか……」

 

 ベルは絶賛、草木が生い茂る場所に立っていた。おかしい、ほん少し前までモンスターを探していたのにと。その手に木剣はなく、木編みの籠と引き抜いた薬草類の山。仕事を頼んだレフィーヤよりも手際よく順調でパパっと終わらせている。

 

「むむ、弟の癖にやりますね、ベル」

「あははは……」

 

 ぐぎぎ、と。歯ぎしりをして悔しがるレフィーヤを横目に苦笑いをするベル。歳の差マウントからの姉宣言から爆誕した姉なる者レフィーヤと弟認定されてしまったのが事の始まり。早速、姉という名の強権を盛大に振るってはパシられた薬草集め。

 

 初めて訪れた場所に土地勘なんてあるわけもなく、悪戦苦闘する様を堪能したらお姉ちゃんぽい事をそれとなく、あれこれと教えようと悪知恵を働かせていたレフィーヤの目論見を吹っ飛ばして、結果はベル・クラネルはとてつもなく出来る男の子であった。

 

 知る筈もないが、ベルは叔父と一緒に生活していた時から食べられる木の実や怪我の治療に使える薬草、果てには大人でも判別が難しい茸の選別もできるくらいには教え込まれている。更に最近では座学の応用とばかりにザルドから実戦形式の勉強もあって磨きに磨かれているのだ。

 

 その成果は土地勘バリバリの地元民であるレフィーヤを周回遅れにするくらいの差の開き。姉と弟の実力差にぐぬぬ、となるのは無理もない。

 

「それでレフィーヤ……えっと、お姉ちゃん? これからどうするの」

 

 並々ならぬ雰囲気に堪らず声をかける。『お姉ちゃん』という単語に細長い耳がピコピコ動く。嫌がるベルをえいやーっと押し倒して嫌々ながらも言わせることに成功した上下関係をハッキリさせる呼び名に有頂天になって笑う残念な姉ぽいなにかな少女、レフィーヤ。

 

 その呼び名の語尾に疑問符がついていることなんてこれっぽちも気にしていない。

 

「うーん、里に戻って案内でも……あ、そうだ!」

 

 湧き上がる衝動に背中を押されながら、なにか姉らしいことをしたくて堪らないレフィーヤの中で素晴らしい思いつきが浮かんだ。里の案内よりもこっちのほうが断然良いに決まっている。一人、満足そうに頷いては手を叩き、少年の手を握った。

 

「え、何処に行くのっ!?」

「ふふーん、特別にわたしだけしか知らない秘密の場所に案内してあげる!」

 

 そう言って駆け足で手を引くレフィーヤ、向かう場所は『秘密の花園』である。親にも友達にも話したことのない彼女のとっておき。幼い少女が身を屈めてやっと入れる傾いた樹の隙間(トンネル)を潜り抜けた先にある、素敵な光景を一緒に見ようと思ったのだ。

 

 辺り一面に咲く白い花畑。何故なんて思わなかったし理由も特にない。ただ、どうしても一緒に見たかった。二人しか知らない思い出を作ってみたかった。あるいは『切っかけ』が欲しかった。

 

 自分一人では踏み出せなかった一歩もどうしてか、出会ったばかりの少年となら歩きだせるような気がしてならないのだ。

 

 木々を吹き抜ける風に背中を押されるようにして駆け出す。枝葉がこすれる音、小鳥たちのさえずりが祝福してくれてるようで、嬉しい気分だ。

 

 迷うことなく、軽やかな足取りで向かう途中でビクッとした感触が伝わる。

 

 おっかなびっくりと震えたのは少年の手である。振り向けば、玉のような汗と青ざめた表情。なんて生意気な弟なのだろうと思った。別に変なところに連れ込むわけでもないのにと憤慨しては口実に、その癖っ毛な白髪頭を撫でまわしてやろうとかレフィーヤの邪な思いがふつふつ。

 

 気づけば森は静寂に包まれていた。

 

 木々のざわめきも鳥たちの声も消し去って、切り抜かれたような空間が二人を支配している。

 

「……ベル?」

 

 名前を呼んでも反応はなく、真っ赤な瞳はレフィーヤを映してはいない。もっと後ろの存在に恐怖している。

 

「……ほぅ」

 

 静寂に包まれた森に声が一つ、女性の声音だ。

 

「!?」

 

 短い言葉、なのに有無もなくはっきりとした意思のある口調。それに引っ張られるようにしてレフィーヤが振り向くと灰色の女性が一人、立っていた。

 

 いつの間にそこにいたのかと思うほど、静けさを纏う美しい女性。

 

 目を瞑ったままなのに、視線を感じる。二人の一挙手一投足を値踏みするかのような気配にレフィーヤはただただ困惑するばかり。そして、なんか諸々を察して至ったベルは諦めの境地半分と懺悔の言葉を必死に思い浮かべているような表情。

 

 ……体を小刻みに揺らしながら。

 

「やはりお前も――――ゼウス(・・・)だったか……」

「ひぃ、アルフィアお義母さん! サボっていたわけじゃなくって!」

 

 よく分からない単語が出てきたが、きっとよくない言葉だってことだけは理解してしまったベル。なんとか口を開いて言葉を吐き出そうとするが、拙い言い訳を許すわけがないとばかりに圧が高まる。身じろぎ一つなく、冷厳とした面持ちではあるのだが、ベルは知っている。常に閉じられた瞼が薄っすらと開ていて、左右異なる色をした瞳からは竜も黙らせるほどの眼光が迸っていることに。

 

 グサグサ、どころじゃなくてドスドスとベルを射抜く威力。

 

「そこの小娘、お前はなんだ」

 

 その視線が『挨拶』代わりにレフィーヤに注がれる。魔女に睨まれた幼い少女、大人げないですよなんて口が裂けても言えない。だって怖いから。

 

 大の大人ですら尻尾を巻いて逃げ出す状況。だけどレフィーヤは震えながらも勇気を出して口を開いた。

 

「あ、姉ですがっ!」

「は?」

「ベルのお姉ちゃんです!」

「は?」

「うう……だったらいいなぁ……」

「は?」

「ア、アルフィアお義母さん! 瞳孔開いてます! 滅茶苦茶怖いです!!」

 

 モンスター討伐の言いつけを守らず、妖精里の少女と仲良く手を握っている。それだけでもアルフィアの精神を逆なでしているのによりにもよって『ベルの姉』などといった戯言を聞かされてアルフィアまさかの開眼。もう『は』しか言わない怒れるアルフィアお義母さんにベルはレフィーヤを庇うように前に出る。しかし、それもまた相まって限界突破(リミット・オフ)

 

 拳を握り締めるアルフィアお義母さんの姿を見て、唾を呑み込むベル・クラネル。

 

 知っているかこれを乗り越えたらランクアップも夢じゃないんだぜ。

 

 

 

 

 

 ベルとの出会い。そして、突然現れた強敵との対峙は短く濃密であった。幼いレフィーヤに十分すぎるトラウマを刻んで絶賛、彼女は項垂れている。自慢の耳も今の感情を現すようにだだ下がり。

 

 あの問答の最中に前に出たベルが大きな音と共に突然ぶっ倒れて、そのまま持っていかれた。

 

 頭をがっしりと掴まれて、引きずられるベルを取り返すことも出来ずに黙って見送る無力感。思い出しては自室のベッドでジタバタと暴れるしかない。

 

 『切っかけ』を持っていかれて、振り出しに戻される。

 

 あの子と一緒なら『学区』でもなんでも里の外に広がる世界に飛び出せそうな気がしたのにと。

 

 窓の向こうに映る夜の景色を見る。里の向こう、森のもっと奥。港に停泊しているだろう、まだ見ぬ『学区』に通う自分とベルの姿を重ねては、がっくりと項垂れてしまう瞬間、視界の端で何かが動くのを捉えた。

 

 小さな影がこちらにやって来て、思わず体がこわばった。月明りに照らされて姿が見える。

 

「驚かしてごめん、レフィーヤお姉ちゃん」

 

 レフィーヤの知る、幼い少年が窓を挟んで立っていた。

 




大変おそうなり申した

新刊で開示された新設定にプロットを練り直したり
製品版になったハデス2で時間溶かしたり
いざ執筆したら文章出てこなかったりして難産だった
あまりに間があったので今回は短めな感じで本当は次で更新する辺りまでまとめる腹積もりであった……
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