神代より受け継ぎし力と正義の心を胸に、走れ

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筆を走らし世を照らせ

 東北のとある県西に位置する神木()、かつては神木村と呼ばれていた面影をわずかに残した平穏な町である。

 

 ここ陽乃元(ひのもと)神社はそんな神木村のはずれに位置するそこそこ大きな神社だ。地味に歴史が長く、初詣や祭りの時期に人で賑わう程度の神社の境内には御神体としてひとつの石像が置かれている。『白野威(しらぬい)』と呼ばれる狼はそれは昔も昔、大きな厄災を祓いし神として祀られている。

 

 そんな彼、いや彼女?どちらでもいいが、狼さまの活躍は天道太子(てんとうたいし)なる人物の絵巻にて語られており、それを子ども用に簡略化した絵本は俺が幼いころに何度も読み聞かされた。

 

 なぜかって俺は代々この神社を管理してきた一族であり、必然的に両親や祖父母から白野威伝説にまつわる話をしつこいぐらい聞かされたからである。聞き飽きてうんざりした?違う違う、ぼろぼろになった絵本をいまだに読んでいるし、神社で大切に保管してある絵巻の原本をコッソリ読んで怒られたぐらい白野威が大好きなのだ。それこそ世間一般で絶大な人気を誇るNo.1ヒーロー、オールマイトよりもだ。

 

 ただし、大好きだからといってそれを祀る側の人間でいたいわけではない。白野威のように人に仇なす悪意を祓い、多く人々に幸せを届ける、そんな存在に憧れヒーローを目指しているのだ。当然ながら両親からは猛反対をくらったが、幸いなことに祖父母からは若い頃は好きにさせたらいいと鶴の一声があり、家業は必ず継ぐという約束の元に上京が許可された。

 

 

 

 

 雄英高校、俺が受験を志願した高校でありヒーロー科の倍率は驚異の300倍であり校門前には人だかりができている。地元ではまず見られない光景にぽかんとしながら歩いていると、どすんと横から衝撃が加わり体が傾いた。突然のことにバランスが取れずきれいに尻から地面に着地し、ぐえっと声が漏れた。

 

「悪い!大丈夫か!?」

 

 顔を上げるとオレンジ色のサイドテールが特徴的な女子がこちらに手を伸ばしながら心配そうにこちらを見ていた。その手を取って立ち上がり、尻についた土をぱっぱと払う。

 

「大丈夫ー、こっちこそ上の空で歩いててごめんね。」

 

「私も緊張しちゃって周り全然見えてなかった、ほんとごめんな。」

 

 橙色髪の女子が申し訳なさそうに頭をかく。

 

「じゃあお互いに冷静になれたってことで。俺は日神(ひかみ)太陽(たいよう)、よろしく!」

 

 笑顔で握手を求めると向こうも笑顔で応じてくれた。

 

「私は拳藤一佳、よろしくな…って言ってもお互いライバル同士だよなあ…」

 

「でも将来のクラスメイトかもしれないし!お互い頑張ろー!」

 

「…なんかすごいポジティブだな日神って。」

 

 そっかなあと返事をしながら校舎に向けて歩き出した。どうやら筆記試験会場はお互い違うようで、別れの言葉を告げそれぞれの会場へ向かった。

 

 

 

 

 

 筆記試験が終了し、誘導されるがまま大講堂らしき場所に来ている。筆記の手ごたえはかなりよくリラックスしながら実技試験の説明を受けている。なんでも市街地を模した演習場で仮想の敵を倒す内容らしく自分の"個性"とはそこそこ相性がよさそうでほっと胸をなでおろした。

 

 俺は指定された演習場のスタート地点にいる。7つに分かれているとはいえこの人数、スタートダッシュが切れるようにとウォーミングアップやおしゃべりをしている受験生をかき分け最前列を目指した。

 

『ハイ、スタート!』

 

 突如頭上から聞こえた声に、反射的に俺の体が飛び出した。

 

(あれ!?思わず飛び出したけどほかの足音が聞こえない…もしかしてフライング!?)

 

 やっちゃったーと思ったが、先ほどアナウンスしていた先生は俺に注意することもなく、スタート地点でまごついている他生徒の尻を叩くように再度声を張り上げている。冷や汗をぬぐい気を取り直して仮想敵を探していると、右斜め前方よりロボットがこちらに向かってきた。

 

「目標発見!!殲メッ……」

 

 ズバン!!という音とともにセリフを言い終わる前に仮想敵が突然何かに両断されたように真っ二つになった。

 

「えーっと、足に2って書いてあるしこいつは2ポイントかな。思ったより脆いし"個性"はなるべく控えて倒していこうかな、眠くなるし。」

 

 そう独り言をつぶやき、再び仮想敵を見つけるため後ろで結んだ白く長い髪をたなびかせながら地面を蹴った。

 

 

 気のせいだろうか、彼が走り去ったコンクリートの隙間から植物が少し伸びていた。

 

 

 

 

 

 残り時間も僅かになった頃、地響きにも似た轟音が遠くのほうから聞こえてくる。そちらのほうに目を向けると、今まで破壊してきた仮想敵が小さく見えるほどの巨大なロボットが建物を倒壊させながら進んでいた。

 

「おー、あれがお邪魔虫ってやつか。…よしっ行くか!」

 

 疲れ知らずの足を動かし、0ポイント敵へ突撃していった。

 

 近づくにつれ0ポイント敵の大きさを体感し、当初の予定であった破壊して止めるプランを変更しようと考え直す。

 

「どうしよっかなー、今の俺じゃあの巨体は壊せないし。うーん足を壊して転ばせるとか。」

 

 これだ、と思いさらに接近するため足を加速させようとすると聞き覚えのある声が耳に届いた。

 

「おい日神!どこ行こうとしてんだ、早く逃げろって!!」

 

 声のほうを見ると拳藤さんが必死な形相でこちらに走り寄ってきた。

 

「あれー、拳藤さんなんでまだこんなとこに?」

 

「それはこっちのセリフ!私は逃げ遅れてたやつらを助けてたの!日神も逃げるぞ!」

 

 その言葉を聞き俺は足を止めた。

 

「あー確かに。まだ逃げられてない人もいるかも…。じゃあこれもなしだなー。」

 

「はあ?」

 

「あのお邪魔虫をさ、転ばそうと思ってたの。でも拳藤さんの言葉でそれも危ないなーって。」

 

 何言ってるんだこいつと言わんばかりに彼女がこちらを見てきた。

 

「そんな強い"個性"なのか?」

 

「まあ強いとは思うよ、破壊力もそこそこだからキャタピラぐらいなら壊せるかなって。でも作戦変更!あいつの気を惹いてその隙に拳藤さんが救助!完璧じゃない?」

 

「それじゃ結局日神が危ないだろ!そもそもあいつは0ポイントで倒す意味なんかない、試験でそんな危険なことすんなよ!」

 

「拳藤さんの言うとおりだと思うよ。でも試験だとしても逃げたくないんだよね、こんなことじゃ。」

 

 真剣な表情で答えると彼女は目を見開き口を噤んだ。しばらくの静寂が続いた後、0ポイント敵がこちらに気づいたようで狙いを定めてきた。右腕をゆっくりと動かしこちらに振り下ろそうとしている。

 

「まずい、今から逃げる…いや無理だ。私の個性で受け止められるか…?」

 

 拳藤さんが自身のこぶしを大きくして僕をかばうように前に出たが、その表情は焦りが見受けられた。当然だ、いくら大きくなったとはいえ0ポイント敵と比較すればアリと象。どう考えられても受け止めようがない。

 

 いよいよ巨大なこぶしが目の前まで近づいてきた。雄英側も受験生に大けがはさせたくないようで僕たちの目の前に落ちてきた手は、突如地面から生えてきた木に阻まれ地面に直撃することはなかった。その様子にぽかんとしている拳藤さんに話しかける。

 

「じゃあ行ってくるねー、地上(そっち)はまかせた!」

 

 俺は0ポイント敵の手に昇り、後ろから聞こえてくる静止の声を無視して走り出した。まるで足が張り付いているように腕を伝って0ポイント敵の肩まで駆け上がった。

 

「やっぱ頭もでっかいなー。でも首元で騒がれたらさすがに無視できないでしょ。」

 

 俺は0ポイント敵の頭部を視界に収めるよう睨みつけると、突然世界が切り替わった。

 

 個性 << 筆しらべ >>

 世界を絵画のように切り取り、その上に筆を走らせ様々な現象を引き起こす

 

 白黒になった世界で、仮想敵の首元に筆で丸を描きその内側から外側に向け線を引いた。世界が元に戻ると模様を描いた場所に大きな花火玉が現れ、数秒もしないうちに大爆発が起こった。

 

「たーまやー…ってやっぱり一発じゃ無理かー。でもあと使えて1回くらいなんだよな…ふわぁ、眠い…」

 

 そこそこ大きな爆破跡を見ながらうつらうつらしていると、さすがにうっとうしかったのか仮想敵が俺を振り落とそうと体を揺らし始めた。落ちないようバランスを取り崩れている場所をさらに壊そうと蹴りを入れる。

 

 俺の思惑に乗ってくれたのか0ポイント敵は市街地の破壊をやめ、俺を落とすことに注力した。

 

 

 

 

 

『終 了〜!!!』

 

 0ポイント敵との攻防を1分ほど続けていると、試験終了の言葉が響いた。それと同時に仮想敵が稼働を止めると、急なことにバランスを崩し俺は滑落してしまった。

 

「やっばい、着地のこと何も考えてなかったー。」

 

 そう言いながら自由落下を続けそのまま地面…ではなく先ほど"個性"で生やしていた木に背中から落ちた。枝を何本も折りながらも止まることなく、しかしスピードはかなり落として地面に着陸した。

 

 ぐえっと本日2度目になる情けない声を漏らしていると、拳藤さんがこちらに駆け寄ってきた。

 

「大丈夫か!?」

 

「大丈夫…って言いたいけど普通に全身痛い…」

 

「あんな高さから落ちたからな。…骨は折れてなさそうだな、運んでやるから肩貸せ。」

 

 彼女はそう言うと腕を回し俺を立ち上がらせた。そのまま2人で出入口まで向かっていると、ふいに拳藤さんが口を開いた。

 

「正直さ、日神が羨ましい。あんな大きいロボットに立ち向かって行ける勇気が、本当のヒーローみたいだったよ。私は逃げることしかできなかった。ヴィランポイントも20ポイントくらいだから少し、いや結構不安かも…」

 

「それは俺のセリフだよ、拳藤さんこそヒーローだなって思った。」

 

 俺の言葉に困惑した表情でこちらを見てきた。

 

「俺は強大な敵に立ち向かってみたいからってだけの理由で自分のことしか考えてなかった。でも拳藤さんは違った、自分よりも他の人の救助を優先してしかも勝手に突っ走ってる俺も止めようとしてくれた。だから気づけたんだ、ヒーローはただ敵を倒すだけじゃない、守るべき人を助けてこそのヒーローなんだって。」

 

 矢継ぎ早にそう告げると彼女ははたと足を止めた。

 

「今日拳藤さんに出会ってなかったらずーっと間違えたままだったなー。誰よりもかっこよかった…って女の子に言う言葉じゃないかな。ともかく率先して人助けする人を雄英が落とすはずないよ!」

 

「大袈裟だって…いや違うな、ありがとう、日神に言われると嬉しいな。」

 

 顔を赤らめている彼女にどういたしまして、と返し再び歩き始める。重なった2つの影はどこまでも伸びていた。

 

 

 

 そして今年の4月、2人が同じ高校で再開し、それぞれ別のクラスでさまざまな困難に立ち向かって行くのはまた別のお話。




U.A. FILE ??
CLASS NO.??
TAIYO HIKAMI


・個性『筆しらべ』
視界に映る世界を絵のように切り取り、筆で模様を描くことでさまざまな現象を引き起こす!!まだまだ未熟で威力もそこそこだが鍛え方次第では伝説の存在と同じ力を引き出せる…かも。使いすぎると急激な睡魔に襲われるためペース配分が重要!


日神's髪 背中までかかる白く長い髪を後ろで無造作にひとまとめ。"個性"を使うと赤いメッシュが入る。

日神's目 瞳の色は髪とは対照的に真っ黒。"個性"を使用すると目の周りに赤い隈取が浮かび上がる。

日神's手 家業の手伝いでペンだこができてる。達筆。

日神's足 毎日走り込みをしてるおかげで"個性"無しならかなり早い方。体力も十分。

日神's全身 169cm。成長期。

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