「Let's エンジョイ!ハイスクールッ ラ〜イフ!!」
そう叫んで喝を入れ、私は自身の机に山積みとなった問題集を開く。
今日は2015年、7月30日の夜。
私はこんな田舎ではなく都会での夢のキラキラ高校生活を送ろうと絶賛受験勉強中の中学三年生だ。
かなりの大声を出したが周辺と比べても割と大きめなこの一軒家内で文句を言ってくる人はいない。一週間前からこの家にいるのは私1人だ。
というのも、うちは代々結構有名な神社の分祠…本社と同じ神様を別の場所で祀る神社の宮司の一家なのだが、お爺ちゃんが一族総出で集まって祈祷をすることになったと言ってパパとママ、お姉ちゃんを連れて本家の方へ行ってしまった。
私はそんなオカルトめいたことに割く時間があったら勉強をしていたいし、そもそも幼い頃から一家のお勤めには興味がなく、そういった知識も一切ないため割とすんなり私だけは行かなくて済んだ。
答え合わせをしようとしていると地面が揺れ始めた。地震だ。
「またかぁ」
ここ最近頻発している…気にせず赤ペンを手に持ち採点を始める。
「きゃっ!」
いつもより大きい!咄嗟に机の下に潜った。
問題集や入賞トロフィーがバタバタと倒れ、家は軋む。奥の台所ではお皿が割れる音が聞こえる。
おじいちゃん達が言っていたのはこれのことなのだろうか。心細さと恐怖で震えながらひたすら収まるのを待つ。
…何十分間にも感じられたが漸く収まり、ひとまず逃げ道を確保するため玄関のドアを開ける。
よかった。暗くてしっかりと確認はできないが火事や潰れた家はなさそうだ。
持っていた携帯が震え、お姉ちゃんから連絡を知らせた。
あっちも地震があったのかな?
こっちは無事だよと返信しようと画面を見て固まる。
【負けた。人類は終わりだ】
…?は?何を言ってるんだろう
ゾクゾク
今まで感じたことのないような寒気と恐怖が襲ってくる。
遠くの方で天から白いものが落ちていくのが見えた。よく見ると蠢いている。
あれに近づくのはまずい。直感でそう感じたが幸い、私の近くにソレが来る様子はなかった。
突然、雷に打たれたかのような身体中に電気が流れたような衝撃が走った。
これが神命ってやつなの…?15年生きてきて初めての感覚に戸惑いつつもフラフラと導かれるように本殿の傍にひっそりとある祠へと歩みを進める。
近づいてみると崩れた祭壇からボロボロの武器が顔を覗かせているのが分かった。銃と弓を合体させた…クロスボウというやつだろうか。
それに手を触れた瞬間、脳内にこれを届けなければいけない女の子の見た目がはっきりと映し出された。クリーム色のふんわりとした髪を腰あたりまで伸ばした穏やかで優しそうな女の子だ。
彼女もさっきのソレと同じように距離と方角が分かるようになった。
「…よし」
道が崩壊していたり物が散乱しているだろう。夜道での自転車移動は難しそうだ。
ふむ…引退したとはいえ陸上部で長距離をやっていたんだ、脚には自信がある。この距離ならある程度頑張れば追いつけるだろう。
念のために
[少しお使いをしてくる]
と書き置きを残し、リュックに水とボウガンを入れ駆け出した。
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隣町に近づいてきた。電気は幸い無事なようで普段通りの街灯や家の照明の明るさにホッとする。
街に入って違和感に気がついた。あんな大地震の後だったのに静寂が人気のない街を支配している…皆すぐに避難したのだろうか。
地震だけでは説明のつかないほど建物や道がぼろぼろになっている。
遠目で見た白い化け物がやったのかもしれない。そうだとするとなんて力だ…改めてゾッとする。
人類の終わりを告げているかのようなこの町から私は早く離れたくて瓦礫に躓きそうになりながらも走る。
ふと何かが目の端を捉え、右を見てしまった
「ヒッ」
思わず声を上げて後退りする
…腕が落ちてる…
後ろの建物にぶつかった衝撃で崩れかけていた瓦が落ちてきて頭にあたった。
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ストレスと疲労が重なっていたのもあるのだろう…気絶していた。電波の届かなくなった携帯をみると5分ほど倒れていたようだ。行かなきゃ…
少しずつはっきりしてきた脳内に警戒のアラームが大音量で流れはじめた。
気絶していた間に化け物が近づいていたようだ。右前200mくらいにいる!
一気に意識が醒め、物陰に身を潜めて観察する。どうやらこちらには気付いてないようだ。
「…っっ」
化け物の歯に紐が引っかかった靴が赤に濡れて垂れているのが見えた。
何故浮いているのか、人間を襲うのか…現実逃避をしたがる頭は思考を回すが分かるはずがない。きっと私たちの理解の範疇を超えた存在なのだろう。
生き残りを探しているのかじっくりゆっくりとくまなく見回しながらこっちにくる。下手に音を出すと見つかる…けれど今から逃げても逃げ切れる気がしない。
恐怖を前に足がすくんでいる。
心臓は破裂しそうなほど大きく激しい鼓動を打ち、冷や汗が止まらない。
(見つかる…)
死を覚悟してギュッと目を閉じた。
…
「嬢ちゃん早よおいきな(行きな)!」
残り5mもないほどに迫ったと感じた時、後ろの高台の方から声がした。
はっとそちらの方向を見る。
おじさん達が10人ほどいた。
猟友会なのだろうか、それぞれが銃を持っている。
銃なら!私の心は希望で明るくなる。どんな生き物であろうと銃なら太刀打ちできるはずだ。
化け物は獲物を見つけたとばかりにニタリと笑みのようなものを浮かべると私に気づくことなく横を通り過ぎてゆっくりと彼らの方へ浮遊していった。
まもなく銃の餌食だろう。私は成り行きを見ようとした
パァァン
空気を震わす音が響く。
…銃が効いていない。
最初は外れたのかと思った。でも何発も撃ち込まれても怪物は微動だにしない。
最初は怒声と銃声でけたたましかった高台は、数分もしないうちに悲鳴と効いてもいない銃声に塗れていった。
サッと血の気がひいた。銃声と悲鳴に紛れるように私は逃げ出した。
彼らを囮にしてしまった…何もできない無力な自分が情けなかったがそれ以上に恐怖が身体を逃走へと向かわせた。
そのうち「何か固いもの」が砕ける音のみが私の後ろから静寂な世界に響き渡るようになった。
人が死ぬ音なんて生きていくうちに聞くことになるなんて思わなかった
現実から目を背けるように全ての神経と思考を目の前のことに集中する。
今見たことを忘れ去るように、聞こえる音がどういう状況なのか想像しないように…
恐怖で叫ぼうとする口を塞ぐように腕を噛み、長年走ってきたくせにフォームをド忘れしたを脚を無理やり回してでたらめに走った。
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数十分逃げ続けた。
周囲に化け物の気配はない。これだけ離れていれば気付かれる可能性はないだろう。
とある山の登山口まで来た。彼女はかなり近いようだ。
少し安心して深呼吸をするとどうしても頭が思考をしてしまう。
「ただ絶望するより一度希望を与えられてから絶望するほうが落差大きくてきついよね〜」
数日前に友達とドラマの内容について話していたことを思い出す。ああ、まさにその通りだ。
あの友達は無事なのだろうか。
このボロボロなボウガンを渡したところで銃が効かない相手をどうにかできるのか。
家族は無事なのか。
本当に人類は終わりを迎えるのか。
「…まずはできることからやらないと」
ネガティブな考えを振り払い山道を登り始める。
退部してからあまり日数は経っていないはずだが全く走っていなかったので現役の時と比べて脚の衰えを感じる。
必死に逃げていたから気づかなかったが切ったり転んだりしてジーパンは所々切れていて血が滲んでいた。
生地で見えない部分もきっと中は青あざだらけだろう。
「明日は筋肉痛だな」
明日生きているかすら分からないのにそんな思考がよぎった。
彼女達の反応は近い。
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化け物達からこれだけ離れていれば大丈夫だろうということで携帯のライトをつけて歩みを進める。
もうすぐ反対側の斜面というところで、ボウガンに触れた時に頭に焼きついた子の後頭部が見えた。その子とは別にもう1人いる。
「そこの2人ー!」
残り数メートルすら惜しくて叫ぶ。
「今の声、近いよタマっち先輩」
「杏も聞こえてるってことは幻聴じゃないよな…タマたちを呼んでるってことか?」
丁度反対側の斜面へ姿が消えてしまったようだが私の声に反応している。
よかった、気づいた。
リュックからすぐに手渡せるようボウガンを取り出す。
使命を果たせる!心が宙に浮くようだった。
空気を切る音が聞こえた直後
身体が宙に浮いた
ドスっ
突然のこととはいえ何故か足が使えず、仰向けで着地して背中と腕を打ちつけててしまう。
それと同時に
バチャ
液体を床にぶちまけたような音が耳に届く。
「…え?」
私の腰から下が無くなっていた。
私が元いた場所の山肌には人の丈はある白い針のようなものが突き刺さっている。
思考が追いつかない。私の下半身はどこ?
死に直面して視力が限界を超えているのか遠くの方に青い弓のような形をした化け物が見えた。
その周りに山肌に突き刺さっている白い大きな針…矢が四方八方にある。おそらくあいつが攻撃してきたんだ。
距離が離れていると油断していた。
他の化け物と警戒信号が少し異なっていたが疲れ切った頭では少し強いのかな程度としか考えることができなかった。
「大きな音がしたぞ!大丈…夫っ!?」
小学生くらいの男の子だろうか。斜面からゆっくりと出てきた小柄な子は私をみて絶句した。無理もない。
「これを…もう1人の子に…」
残り数分もないであろう命を振り絞って声を出す。使命を果たせ私。
「わ、分かった!」
私が死にかけているからなのか困惑しつつも引き受けてくれた。
「早く逃げて」
いつ2射目が来るか分からないが化け物の位置的に反対の斜面に攻撃は届かないだろう。
「っ…後はタマに任せたまえ」
私をどうすれば助けれるのかと考えてくれていたのだろうか。
もしくはさっきの私のように見捨てるしかないことを悔やんでいるのかもしれない。
血が出るほど唇を強く噛んでいたが、一瞬の逡巡の末に無理やり笑顔を作って言った。
強い子だ。
「行くぞ杏!」
反対側の斜面へ姿が消えていくことを見届け安心する。
(どうか…あの子達n)
再度の風切り音が私の意識を潰した。
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次に意識が覚醒した時、私は暗闇の中にいた。
自分の手を見ると淡く発光していてまるでお化けのようだ。
「ようだ」というか…直前の自分を思い出しあれで生きているわけはないし…
死んだことを何故か冷静に受け止める自分がいた。
私以外にもぼんやりと光るヒトガタが出現している。
ふと下を見ると
可愛らしいマスコットのような小さい生き物(?)達が円になって結界のようなものを張っていた。
その結界の上には
大和撫子という言葉がピッタリな美しい黒髪の少女が青と白のヒーローの衣装のようなものを着て倒れ伏していた。
その結界の下には
赤髪の少女がいかにも神聖そうな服装を着て白い紐のようなもので囚われている。
ヒトガタは尚増えていく
…一気に大量の情報が流れ込んできた。
どうやらここは私が生きていた300年後の世界らしい。私が死んでからも人々は生き続けたのだ。
今は人を守ろうとする神々-神樹-の眷属へと成り変わり、存在し続けるための儀式の途中らしい。
精霊たちのバリアを破り、
どうやら神樹はすでに死んだ私たちの意思も尊重してくれるそうだ。
周囲は見渡す限り 勇者や巫女の魂 ヒトガタ でいっぱいになった。
暖かな赤い光を放つ子が真っ先にバリアへと向かっていった。彼女を追うように他のヒトガタ達も下へ降りていく。
他の子達に倣って私もバリアへと手を伸ばす。
どちらにするかなんて決まってる。
生きてるから苦しいし辛い…
けれど生きてるからこそ楽しく、嬉しく、笑うことができる。
決して長いとはいえない人生だったけれど私は生きていてよかったと思っている。
ただ存在しているだけが幸せだとは私はとても考えられない。
ここにいる者達の意見は一致していたようだ。
最後に黒髪の少女が意を決して
「私たちは…人としての道を歩みます」
決意と共にバリアに触れる。
バリアが割れ、精霊たちが黄金の花びらとなって散っていく。赤髪の少女を拘束していた白蛇達も退き始め心身共に解放されたようだ。
「友奈ちゃん!」
「東郷…さん…」
解放されたばかりで意識がまだハッキリしない少女に抱きつく彼女を見守る。
(よかった…)
私達も精霊同様に消えていく…
私は今度こそ終わりを迎えた。
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神樹の優しさ、人々の意思を受け取り大満開した結城友奈は天の神を見上げ、叫ぶ。
「私は…」
被りを振って言い直す
「私たちは…人として戦う、行きたいんだ!」
神樹の優しさを、人々の意思を胸に
巫女と防人、
を目指して飛び立った。
伊予島杏の巫女 終
歴代の勇者や巫女達が登場〜大満開友奈が天の神を撤退させるまでの曲が勇者の章だと「花冠」
大満開の章だと「大花冠」
という名前のBGMらしいのですが、音の美しさと壮大さは勿論のこと、タイトルがものすごい好きなんですよね。
(勝手に)勇者シリーズの主題歌だと思ってる「勇気のバトン」という歌の歌詞の一部に
「繋いで繋ぎ続けて輪になって」
というフレーズがあるのですが、
巫女や勇者たちが東郷さんの元へと駆けつけるシーンの若バードが若葉ちゃんへと変わり東郷さんへ促したあたりで
初代勇者の意思が直接東郷さんと結城ちゃんへと伝わり、彼女らが「生きたい」と思ったことで繋がれてきたバトンが一周して「輪」になり勇者や巫女達「花」が繋がって「花冠」になったと思うと…すごくエモい…エモくない…?
その花冠の中には
「キボウノツボミ」の歌詞にあるように開花することのなかったツボミやくめゆ組のように雑草として扱われた花達もいたんだろうなあ…というのがこの作品からも感じ取っていただければ幸いです。