ウチの庭にダンジョンがあります   作:ShilonkS

314 / 314
304『色気にこんがり焼かれた将来のお嫁さん(仮)』

 正直、ヤバい。

 

 錦地 美寧(にしきじ みねい)は自室で独り、悶々としながらピンチに陥っていた。

 椅子に座り、机を無表情で見下ろし、美寧は息を整えるようにゆっくりと深呼吸を繰り返す。

 大きく吸って。

 吐いて。

 吸って。

 吐いて。

 手に持ったタブレットの電源ボタンを押し、画面をつける。

 

 年齢制限がガッツリついた動画が、待ってましたとばかりに大音量で再生された。

 

 即座に電源ボタンを押し、タブレットの画面を切る。

 無表情のまま、深呼吸を繰り返す。

 顔は真っ赤だ。

 落ち着け、落ち着くのだ美寧ちゃん。

 美寧は表情をピクリとも動かすことなく、心の中で繰り返して呟き続ける。

 無意識にタブレットから右手を離し、そっと左手の指を撫でた。

 左手の、薬指。

 

 薬指にはめた、黒鉄の指輪。

 

 でへぇ、と美寧の顔が一瞬で緩んだ。

 だが、瞬時に表情を引き締めて、違う違うと首を振る。

 本日、指輪を撫でること通算62回目。結構我慢できてるじゃないか、偉いぞ美寧ちゃん。

 美寧は心の中で自分の自制心を褒めながら、深く息を吐きながら目を閉じる。

 集中。

 精神統一。

 これは勉強。

 勉強である。

 勉強することに関しては、ずっとずっと続けてきた、得意分野じゃないか。

 それで姉に負けてるって? 死ねよ。

 んなことはどうでもいい。

 これは勉強なのだから、なにも恐れることはないのだ。

 さあ、出かける時間が迫ってきている。

 とりあえず1シーンだけでも鑑賞して、ちゃんと知見を得るべきだ。

 そして本番に挑むのだ。

 そのための勉強である。

 よし。

 よーし。

 見るぞ。

 見ちゃうぞ。

 美寧はゆっくりと薄目を開けつつ、タブレットの電源ボタンを再び押して。

 

 はい、これが父親の隠しアカウントで契約されている、アダルティな実践的教育動画です。

 

 

 

「ぴ゛ぎゃああああああああああ゛っ!?!?!?!? こんなっ!? こんなのダメじゃんねっ!? なにその凶器っ!? 入るわけないじゃってなんか思ってたのと違うこと始まってるううううぅぅぅっ!?!?!?!?!?!? うそうそうそうそっ!?!? そんな悲鳴上がるくらいヤバいのちょっとダメじゃんね!? ダメじゃんね!? 本当ダメじゃんねっ!? ていうかなにそのロープ!?!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 美寧の父、結構過激な趣味だった。

 あの野郎、今度ツラを合わせたら、母の目の前であのお宝動画を再生してやるからな。

 怒りと興奮と混乱とムラムラで、ふんふんと鼻息を荒くしながら、美寧は暗い夜道を黙々と歩いていた。

 コートを着ているからだろうか、体が暑いくらいである。おかしい。まだ2月なのに。

 

「よく考えたら、先生って片手で私を持ち上げられるじゃん……そ、そんな、オモチャにされちゃう……ふぁー、前見た裸がフラッシュバックしてきて止めらんないじゃんね……」

 

 ブツブツ呟き、時々真っ赤に染まった頬を押さえてブンブンと首を振る不審者女子高生。

 ただし、背筋は真っ直ぐで、歩く速度は大股の早足だ。

 向かうはジム。

 深夜のジム。

 目的はそう、未来の旦那様に会いに行く。

 

「す、少なくとも、先生について行けるくらいの体力つけなくちゃ」

 

 むん、と拳を握って気合いを入れる。顔は真っ赤だ。

 現在、美寧はジムで筋トレを行う目標がある。

 体力の向上。

 そして、柔軟性の確保だ。

 柔軟性については、先程決めた。

 秋水には本格的に、体力と柔軟性を高めるトレーニングプログラムを組んでもらうよう、お願いするつもりだ。

 なお、体力と柔軟性を求める理由は、公言しづらい理由なので、美寧の名誉のために伏せておく。

 

「くっ、先生に抱かれる前提で、その下準備を先生にお願いするとか……先生ってばとんだ高等プレイじゃんね……」

 

 風評被害が激しすぎる。

 悔しそうに、しかし全体的に嬉しそうに、器用な表情を披露しながら美寧はルンルンとスキップしていた。情緒どうなっているのか。

 すぐに美寧は我に返り、ぱんぱんと両頬を叩き、ごほんごほんと軽く咳払いをする。誰も見ていないのだが。

 美寧は一度立ち止まり、大きく深呼吸をする。

 ダメだ、今日は一日、気分が浮かれに浮かれて仕方がない。

 こんな浮かれポンチな感じで秋水に逢うわけにはいかない。

 す、とゆっくり息を吸う。

 は、と素早く息を吐く。

 それから無意識に、左手の薬指をそっと撫でた。

 ひやり、と黒鉄の指輪の存在感。

 

「せ、先生にお手つきされちゃった以上は、もっと頑張らなきゃ……っ!」

 

 美寧は改めて気合いを入れ直した。

 シンプルなこの指輪は、明らかに安物の指輪じゃない。

 そんなに貴金属には詳しくない美寧でも、これだけ丁寧に仕上げられた重厚な感じの指輪が安物だとは思えない。

 良いお値段がする指輪だ。

 つまり、これはその、あの、あれだ、うん。

 

 

 

 婚約指輪に、違いない。

 

 

 

 先生にご予約されちゃった先生にご予約されちゃった高校卒業と同時にゴールインするかもしれないから覚悟しておけって感じに先生ご予約されちゃったから先生好みの女になるためにもっともっと頑張らなくちゃいけないけど先生の好みってどんな感じかまだ分かんないからとにかく夜の大運動会で先生に抱き潰されない程度の持久力が必要だしアクロバティックなことされても大丈夫なように体の柔軟性をなんとかしなくちゃいけないけどジムでその筋トレを教えてくれるのが先生ってことは私ってば頑張る頑張らない以前に先生好みの女に先生が調教してくるって考えると興奮してきちゃうじゃんね最高なんだけどやったね頑張るよ先生の手で先生好みになって目指せ先生との初夜っ!!

 

 えいえいおー、と美寧は天に向けて拳を突き上げるのだった。

 不審者である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 相も変わらず誰もいない夜のジムに到着した美寧は、ガチャリとそのドアを開けてジムの中をぐるりと見渡す。

 秋水は、まだいない。

 男性の更衣室にいる可能性もあるが、今日はちょっと早く来すぎたようだ。

 ちらり、とジムの時計へと目を向ける。

 22時50分。

 10分前行動だ。

 いや、うん、だって、楽しみが抑えきれなくて、自然とこう、なんと言うか。いいや、楽しみなのは筋トレなんだけど。ゴメン嘘です。先生に早く逢いたいから家を出る時間が早くなったんです。しょうがないじゃん、先生からプロポーズされて最初のデートなんだから。デートでジムとか斬新すぎて素敵。いやん。

 誰に言うわけでもないが、心の中で美寧は言い訳を並べ立てていく。言い訳、なのだろうか。

 頭の中はお花畑で浮かれているが、表情は至って真面目なまま、秋水がまだ到着していないことを確認した美寧は、そそくさと更衣室へと向かう。

 このジムの更衣室は、当然ながら男性用と女性用で分かれている。

 正確には、男性用と女性用の別々でドアがあり、そのドアの向こう側に更衣室やシャワールーム、そしてトイレなどがあるのだ。

 だから、美寧が向かうのは、もちろんのこと女性専用エリアに続くドアである。

 

「…………」

 

 美寧はふと、誰もいないな、と改めてジムの中を見渡す。

 他意はない。

 それから、男性専用エリアに続くドアを見る。

 他意はない。

 そういえば、このジムの館内マップを見たとき、男性専用エリアは女性専用エリアに比べ、やや狭いのだな、と思った。どう考えたって、このジムの利用者は男性の方が圧倒的に多いにも関わらず、だ。

 

「――――」

 

 じー、と美寧は男性専用エリアに続くドアを見る。

 秋水が出入りする、美寧の知らないエリア。

 他意はない。

 ないったら、ない。

 だけど何故か、ごくり、と美寧は喉を鳴らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふっ、よくよく考えてみたら先生はコートを着るぐらいでそもそもトレーニングウエアを着たままジムに来てるんだからあんまり更衣室は使わないじゃんねってじゃあ前にあのドアから先生が出てきたってことは向こうのスペースに用事があったってことだから筋トレ前にシャワールーム使うことはないって考えるとおトイレだったんだろうなってあのクソオヤジ生きてる方の可愛い娘になんて過激なエロ動画を見せるんだ馬鹿野郎がモザイクかかった変なのが頭にチラついちゃうじゃんねっていうか私ってそういうのって保健体育とかのイラスト的なものしか見たことないしだいたい横から見た感じの構図ばっかりだしちゃんと男の人のそういうの見たことないって考えるとなるほどそうか分かった私が先生の超絶色気むんむんオーラに簡単に屈服してヘタレちゃうのって根本的に男の人の生身を見てこなかったから耐性ないからでって待ってもしかして前に先生が上半身の裸見せてくれたのって私に耐性着けさせようっていう先生の魂胆があったんじゃって考えると先生ってそんな前々から私を性的ターゲットにロックオンしてたってことだから大歓迎に決まってんじゃんやだもう私も好き好き先生でも待って男の人に耐性つけるべきかつけないべきか慎重に考えた方が良いよねこれはだって男の人って女の人のハジメテ奪うのが大好きハンターさんなんだから裸を見るのもそういうのを見るのもハジメテなウブウブなウブの感じが大好きって可能性もあるし低負荷高回転のトレーニングで私を調教していくっていう先生の濃厚ねっとり調教テクニックから察するに先生ってばじっくり女を育てていくのが大好きちょっとSな感じがあるから男の人にあんまり耐性ない状態から夜は娼婦のえちえちえっちなプロフェッショナルになるように夜の大運動会の方面でも手塩に掛けて育成するのが大好物の調教鬼畜マッスルダンディって可能性が大だから分かったよ先生なるべく最初はウブな感じを保つ方向にするけど怖いから父さんのお宝動画での勉強は続けていく方向で許して欲しいっていうか今度あの動画母さんと一緒に見て色々アドバイスもらえないか今日にでも相談しよっと!

 

 私服からトレーニングウエアに着替えた美寧は、気合い十分な表情で更衣室から出てきた。

 もちろん、女性専用エリアの方からである。

 男性専用エリアって随分質素でコンパクトなんだなとか、そんな感想は1ミリも抱いてなんていない。いないったら、いない。

 さて、あとは秋水を待つだけなのだが、今のうちにウォーミングアップでもしておいた方が良いだろうか。

 むーん、と美寧は腕を組んで考える。

 実は美寧、ウォーミングアップで行っているラジオ体操で、大きな動きをするのはわりと好きである。

 特に、秋水の前で行うときは、ウォーミングアップどうのこうの以前の問題として、気合いが入るのだ。

 どうせラジオ体操を行うなら、秋水と一緒に行いたい。

 秋水の動く筋肉をねっとり、ではなく、じっくりと視姦、じゃなくて、鑑賞したい。

 そのついでに、美寧自身の体を秋水に見せつけるようにダイナミックに動き、ねっとりとした視線を向けられたい。

 

「……なにそのシチュ。ご飯食べれるじゃんね」

 

 思わずぼそりと呟いたタイミングで、ガチャ、とジムのドアが開いた。

 その音に美寧は、ぴんっ、と反射的に姿勢を正す。

 この時間、このタイミング。

 秋水だ。

 棟区 秋水だ。

 そう、美寧の婚約者、将来の旦那様である。誰か現実を教えてやってくれ。

 表情をぱっと輝かせ、美寧は即座に振り向いてドアを見る。

 今の立ち位置からドアまでは2mちょっと。

 お出迎えするにはナイスなポジション。

 美寧は笑顔を浮かべ。

 

「こんば――」

 

 こんばんは、先生。

 そう元気に挨拶をしようとした。

 したのだが。

 その言葉が、ぴたりと舌の上で立ち止まってしまった。

 ドアを開いたのは、秋水だ。

 ここで別人が入ってきて、美寧と秋水の婚前ラブラブイチャイチャ筋トレ空間を邪魔しにきた、なんてオチはなかった。

 マットブラックなレザーコートを着こなした、高身長筋肉質な重機の如きプロポーションは、間違いなく秋水である。

 ただ、なんと言うか。

 

 

 

 色気が、おかしい。

 

 

 

「――ぁえ?」

 

 思わず妙な声が漏れた。

 最近はそんな声を漏らす機会が増えたので、残念ながら平常運転である。

 

「ああ、こんばんは、美寧さん。今日は少し遅れてしまい申し訳ありません」

 

 色気の化身から、ダディズムの見本みたいな音波攻撃が放たれた。

 遠距離攻撃。

 防御不可能。

 その声に、ぐわん、と美寧の脳が揺らされた。

 あ、だめ。

 子宮が戦闘モードに移行しちゃう。

 美寧は一瞬だけ天井を見上げながら白目をむきかけ、根性で立ち直って戦闘復帰を行う。

 

「こ、こ、こんばんわぁ、せんせー」

 

 ダメです、ふやけた砂糖の塊みたいな声しか出ません。

 甘ったるい声でどうにか挨拶を絞り出した美寧を見て、秋水は一瞬だけ目を細める。

 

 イケメンッ!!!!!!!!!!!!

 

 心の中のミニミニ美寧ちゃんが血反吐を吐きながら絶叫した。

 なにか変だ。

 なんかおかしい。

 秋水は相も変わらずイケメンだ。

 高い背丈に鍛え上げられた筋肉という、ザ・男、といった感じのガッシリした体型である。

 純情無垢な乙女のハートを一撃必殺で射貫いてくるような鋭い眼光に、味のある圧倒的顔面強者という素敵なフェイスも御健在。

 いつもの秋水だ。

 変わらぬ秋水だ。

 

 なのに、いつもより、魅力的。

 

 なに。

 なんなの。

 元々魅力的だったのに、さらに魅力的になるとか。

 なんと言うか、色気が違う。

 格段に違う。

 今まで「棟区 秋水Lv.100」だったのが、今日になっていきなり「棟区 秋水Lv.5000」になって登場してきた感じである。手加減して。

 ぷる、と美寧の足が震えた。

 

「美寧さん、今日も顔が赤いですね。体調は大丈夫ですか?」

 

 秋水から気遣いの言葉。

 美寧の乙女心に5億のダメージ。

 いつも心臓を揺らしてくる魅力的な声なのに、今日は火力がバグレベルで跳ね上がったイケメンヴォイスとなって美寧に襲いかかってきた。

 

 あ、イ――

 

 一瞬、美寧の意識が消し飛ぶ。

 きれいなお花畑だー。

 あ、おおきな川が流れてるー。

 そこに乗ってる人、見たことある気がするー。

 あ、おねえちゃんだー。

 

 

 

『美寧ダメだよ!? なんか見た感じヤバいよその男の人!? いくらなんでも美寧がその人と結婚するのは止めた方がいいって言うか、大事な妹の色恋シーンとかお姉ちゃんの頭がパンクしそうなんだけど!?!?!?』

 

 

 

 ンだとこのアマふざけんな死んどけ!

 

 

 

 美寧は現世に復帰した。

 なんかムカつく声が聞こえた気がしなくもないが、どうせただの幻聴だ。

 しかし、蘇ったところで美寧は絶望的な窮地に立たされているのは変わりがない。

 目の前には秋水。

 美寧の体調を心配してくれる秋水。

 

 何故か魅力度が跳ね上がった秋水。

 

 先生ちょっとふざけないで腐った根暗ブスだったときから恋に落とされて先生の魅力を最大発見してめっちゃイケメンに見えるのは認識の変化とか心境の変化とかで説明できるかもしれないけどさ待ってよ卑怯じゃん反則じゃん先生それは恋する乙女に対してABC兵器を持ち出してくるくらい非人道的でやっちゃいけないことだと思うんだけどなにそれ本当にふざけないでよ先生ダメだって先生の魅力と色気で強火にこんがりローストされちゃってるのにそこからさらに火力上げてくるなんてあまりにも人の心がないじゃんね消し炭になっちゃうじゃんねこれ以上先生の魅力で沼らせるなんて先生は私をどうしたいのかってそうかなるほどこれは要するに「俺の魅力で他の男の子となんて考えられないくらい惚れさせてやる」って先生の独占欲なんだ納得じゃんねそうに違いないじゃんねヤダヤダ先生あなたの獲物の錦地 美寧ちゃんは最初から先生以外の男なんて視界にも入ってないくらい先生にメロメロの夢中だから安心して欲しいじゃんねんふふもうもう好き好きそんな嫉妬しちゃう先生可愛くて素敵でいやちょっと待って今まで天上天下地上最強の色気を放ってた先生はその時点でイケメンオーラ出力最大だと思ってたけど本気になってこんなに魅力パワーが上がっちゃうなら下手したらもっと上の色気を出せちゃったりするんじゃないかってそれがもしかしてベッドの上での大運動会で披露される可能性があってやっぱりちょっと待ってよ先生ふざけないで今の時点で先生の魅力で消し炭にされるくらいウブな乙女にそんなの絶対耐えられるわけないじゃんね心と心臓が保つわけないじゃんね殺人未遂で検挙されるレベルじゃんね先生は私を一体どうしたいのってそうかだから逃がさないための婚約指輪ってことだからヤダもう先生実はちょっと独占欲強めなんだ好き好き好き好き良いよ分かったどんな先生だって私受け止めちゃうからもっと先生の魅力を味わわせてOKだから物理的に受け入れるためにコンドームのサイズだけ教えてくださいっ!!!!!!

 

「だ、大丈夫だよ先生! 私は今日も元気です!」

 

「そうですか? もしかして美寧さん、もうウォーミングアップを済まされましたか?」

 

「ううん! 今から!」

 

「そうですか。美寧さんは血流が良いのですね」

 

「そうかも!」

 

 美寧の赤ら顔と挙動不審を心配する秋水に、美寧は元気に返事をする。

 なお、返事をするだけで美寧の内心はいっぱいいっぱいであった。

 秋水がさらにイケメンになった。

 秋水がさらに魅力的になった。

 あまりに火力が高すぎる。

 今まで火炎放射器レベルだった色気が、いきなり溶鉱炉の中身よこんにちはレベルに超進化しちゃってる。

 幻聴がなければ美寧の心臓はすでに機能停止の尊死状態になっていたかもしれない。

 変だ。

 おかしい。

 なんでこんなに秋水の色気が増したのか。

 色気というか、なんと言うか。

 オスっぽさ、とでも言うべきだろうか。

 

 もしくは、野性味。

 

 ああ、そうだ。

 脳裏に浮かび上がった表現が、す、と美寧の胸へと吸い込まれる。

 

 

 

 秋水の内側から、野獣のようなケダモノ感が、滲み出ているのだ。

 

 

 

 ぶるり、と美寧は身震いした。

 本能的な震えであった。

 それはウサギが、ライオンという捕食者に睨まれたような感覚。

 絶対的な弱者が、圧倒的強者に狙いを定められたような感覚。

 秋水の内側から、何かが滲み出ている。

 野獣。

 いや、もっと根源的な何か。

 本能が告げていた。

 逃げろ、と。

 それは間違いなく、恐怖だった。

 

 恐怖。

 

 じわじわと美寧の心に、切れ味が鋭い感情が湧いて出てくる。

 ああ。

 うん。

 なるほど。

 ふるふると体が震える。

 美寧は秋水へと笑顔を必死に浮かべながら、震えている自分の手を強く握り締め、震えを堪えようとする。

 でも、美寧の体は、微かに震えてしまう。

 ダメだ。

 本能として、美寧は認めざるを得なかった。

 この肉食獣のような圧倒的威圧感を前にして、言い訳など、できるはずもない。

 

 

 

 先生を押し倒して責める側になるの、絶対無理です。

 

 

 

 先生に押し倒されて無茶苦茶にされちゃう、そんな受け側の勉強しなくちゃ。

 

 

 

 秋水から感じられる野性味満載のオーラに当てられ、美寧はドピンクな覚悟を決めるのだった。

 なお、秋水はずっと「やはり風邪なのでは?」と心配していた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 両親の不倫問題を、美寧ちゃんは恋愛パワーで薙ぎ払いました。

 姉への劣等感を、美寧ちゃんは恋愛パワーで薙ぎ払いました。

 自分自身への劣等感を、美寧ちゃんは恋愛パワーで薙ぎ払いました。

 秋水くんへの大失言という負い目を、美寧ちゃんは恋愛パワーで薙ぎ払いました。

 

 秋水くんがダンジョンのモンスターと同じサイドに堕ちていること察するも、美寧ちゃんは恋愛パワーで薙ぎ払いました。

 

 ……酷い(ストレートな暴言)

 まあ、美寧ちゃんは「恋愛」を使って現実逃避している節があるので、秋水くんと同じく現実を受け入れていない可能性はありますけどね。

 

 あ、ちなみに恋愛モンスターからお嫁さんモンスターになって、美寧ちゃんはぼちぼちガチで危うい行動が目立ってきます。

 

 次話は久しぶりに筋トレについての話です(嘘ではない)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

【書籍化決定】クラス転移したけど俺だけステータス表記が違った(作者:星野林(旧ゆっくり霊沙))(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

学校で進路を悩んでいた斎藤隆史(サイトウ タカシ)はクラスに馴染めずに居た。▼そんな最中、突如異世界にクラスごと召喚もとい拉致され、魔王と戦えと言われる。▼そして各自に役職と能力が付与されているからとステータスを開くように言われてステータス画面を見ると……皆が普通のRPG表記なのに、俺だけポケ◯ンみたいにレベル形式だし、技ってのが見える。▼そして始まる異世界…


総合評価:3358/評価:7.93/完結:95話/更新日時:2026年08月06日(木) 10:50 小説情報

宵越しのレベルは持たない ~サキュバスになった彼女にレベルを吸われ続けるので、今日もダンジョンでレベルを上げる~(作者:パンダプリン)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

男はレベルが上がりやすくなるスキルを得た。▼女はサキュバス化のスキルを得た。▼自分以外の男を嫌う幼馴染の女のため、男はダンジョンに通ってレベルを上げては女に捧げる生活を選択する。▼そんな日々を続けた男の誤算は二つ。▼幼馴染に懐かれすぎていたことと、レベルを捧げすぎてしまったこと。▼これは、自身を愛しすぎてしまう最強のサキュバスを誕生させた男の物語。▼※この作…


総合評価:481/評価:7.67/連載:201話/更新日時:2026年11月07日(土) 12:00 小説情報

駆け出しハンターは英雄に憧れる ~だけども、どうやら人間は滅んでいるらしい~(作者:木乃実なぎ)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

▼ これは、英雄に憧れた少年が――いつか、誰かにとっての英雄になるまでの物語。▼ 生まれてから十七年。▼ 母と二人、森の奥で暮らしていた少年ルキウスは、物語に登場する英雄へ憧れ、ハンターになるため旅へ出る。▼ 胸が躍るような冒険を夢見て辿り着いた、自由交易都市エルドラン。▼ そこで彼は、この世界の常識を初めて知った。▼「え? 人間は千年前に滅んだ種族?」▼「…


総合評価:1948/評価:8.5/完結:77話/更新日時:2026年09月08日(火) 21:00 小説情報

ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→(作者:ぱちぱち)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

タイトル変更しました▼【旧題:最安10円レンタルチート ブラック労働で過労死数歩前だった俺の心の癒しだった動画アプリがマジモンの神アプリだった 】▼山里一也は金がない。時間も無ければ彼女もない。健康診断結果も20代とは思えない。▼唯一の娯楽は通勤退勤時にスマホのアニメ視聴。このまま会社の社畜として緩やかに死に向かって進んでいくだけだった一也の人生は主人公をレ…


総合評価:5973/評価:8.59/連載:195話/更新日時:2026年11月07日(土) 07:00 小説情報

【完結】能力が〈生体改造〉だから能力作って売ることにした(作者:弐哉)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

転生者のアドルムが持って生まれたのは〈生体改造〉という、生物の身体を自由に作り変えることができる能力だった。▼〈生体改造〉で出来ることは多い。▼身体能力の調整。▼治療では治せないような傷の再生。▼ギフトの付与。▼魔具擬きの作製。▼アドルムは仕事を兼ねた趣味として〈生体改造〉を使った店をやろうと考える。▼手伝ってくれる仲間は、幼馴染の探索者セルネ。▼店の名前は…


総合評価:1577/評価:7.52/完結:41話/更新日時:2026年06月28日(日) 17:20 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>