ある日、魔理沙と紫が茶飲み話をしていた。

「恋の魔法使いなんて名乗っているみたいだけど、実際に恋をしたことはある?」

紫のそんな質問からはじまるガールズトーク。

1 / 1
長い事書き上げられなかった短編。
会話文のみの、対話体形式でどこまで書けるかの実験作です。


魔理沙と紫の茶飲み話

///

 

「恋の魔法使いなんて名乗ってるみたいだけど、実際に恋をしたことはある?」

「恋バナか。茶飲み話の定番だけどな」

「話しにくい? 私が持ってきたクッキーを1枚どうぞ」

「ん、サンキュ。ああ、そうだな、一度だけある。失恋だったけどな。そういう紫はどうなんだよ」

「今現在、熱烈に恋愛中。でも、相手が振り向いてくれないの。困ったものだわ」

「まあ、霊夢の奴はそういうのには鈍感かもしれないけど、直接話してみるとか」

「貴女なら、どうやって話してみる? はい、クッキー1枚」

「サンキュ。そうだな、ストレートに『好きです』って言ってみるとか」

「ふーん、魔理沙」

「なんだ?」

「好きよ、私とつき合ってちょうだい」

「20点。表情が固い。口調も固い。台詞にオリジナリティ皆無だし、なんかおちょくられてるみたいで腹が立つな。あと、練習するなら事前に断れ」

「辛口ね。私は甘党なのよ。もっとマイルドにならないかしら。このミルクティーみたいに」

「だったら自前で砂糖とミルクを足してみな。マイルドになるぞ、きっと」

「もっと甘く訴えかけろということ? その方がうれしい?」

「霊夢がうれしいかどうかは分からないけどな。というか、紫、お前はどうなんだ。さっきみたいに告白されて、うれしいか?」

「さあ、分からないわ」

「私にも分からんよ。じゃあ、試しに鏡に向かって練習してみるとかどうだ。クッキー、もらうぜ」

「どうぞ。自分で自分に告白するの? なんだか間抜けな感じね」

「自分で自分を落とせないのなら、自分以外の相手を落とすなんてもっと無理だろ」

「それは貴女の思いつき? それとも経験談かしら」

「どっちでも良いだろ。とにかく、やってみな」

「ずいぶん推すわね。まあ、せっかくだからやってみましょう。ごきげんよう、魔理沙」

「ああ、またな」

 

 

///

 

 

「やってみたわ」

「どうだった?」

「死にたくなった」

「初めのうちはな。けど、そのうち気にならなくなるさ」

「貴女も、気にならなくなったの?」

「まあ、なんだ。蛇の道は蛇ってところだ」

「蛇の行き先が気になるわね」

「なら、そのマカロンをひとついただこうか」

「どうぞ」

「ありがと。話の続きだが、自分で自分に告ってること以外が、気になるようになるんだ」

「それは表情だとか、口調だとか?」

「そうそう。そういう気になるところがなくなるまで、繰り返す。表情を変えたり、口調を変えたり、いろいろ」

「やってみましょう。他には?」

「告白する相手のことを、常に頭に浮かべてろ」

「その必要はなさそうね。いつも頭の中いっぱいだから」

「そりゃあいい。その意気だ。ま、がんばんな」

 

 

///

 

 

「魔理沙、練習に付き合ってほしいのだけれど」

「告白の?」

「事前に断れと、言ったじゃない」

「確かに言ったな。いいぜ、お代はそのサンドイッチをいただこう。ちょうど研究が煮詰まってて、何か食べようと思ってたんだ」

「私は紅茶にイチゴジャムを。甘味で頭の回転数を上げておきたいわ」

「かなり必死だな。あったぜ、ジャム。おまけにこのビスケットをつけてやろう」

「あら、魔理沙が焼いたの?」

「いや、昨日アリスの奴がおすそ分けに来たんだ。作りすぎたんだってさ」

「いらないわ」

「結構おいしいぞ。ジャムにも合うし」

「お構いなく。私は紅茶とジャムだけで十分だから、貴女が食べてしまいなさいな」

「なんだ、ビスケットかアリスに恨みでもあるのか?」

「そんなところね。練習、はじめましょう」

「なんだか知らんが、私の採点はジャムと違って辛めだぜ」

「貴女がビスケット並みに飲み込みが悪い娘なのは、前から存じ上げていますわ」

 

 

///

 

 

「よう、最近はよく来るな、紫」

「魔理沙は先生なのだから、教え子の私が顔を見せるのは至極当然ではないかしら」

「よく言うよ。けど、今日はつき合って上げられないかもしれないぜ」

「あら、先客がいたのね。ごきげんよう、霊夢」

「珍しい場所で珍しい相手に会ったわね。よく来るの?」

「ちょくちょくな。ここ一月ほどだが」

「お邪魔だったかしら?」

「いいえ、邪魔じゃないわ。あんたも入りなさいな」

「今日は霊夢のやつが里の和菓子を買ってきたんだ。あの霊夢がだぜ!」

「ほっときなさい」

「お茶にめっちゃ合うんだ。紫も試してみな」

「じゃあ、いただこうかしら」

「紫も、何か持ってきてたんじゃない?」

「ええ、でもいいわ。緑茶には合いそうにないし」

「遠慮するなよ。紫のことだからうまいものだろうし、気にしないぜ。霊夢もそうだろう?」

「ええ」

「だそうだ、ほら、出せ出せ」

「強引なこと」

「これは、チョコレートか?」

「ええ。外の世界のお店から手に入れたのよ。でも、きっと緑茶には合わないわ」

「試したのか?」

「いいえ」

「じゃあ、やってみよう」

「でも、きっとおいしくないわ」

「別に毒を飲むってわけじゃないんだ。所詮、菓子と茶だぞ」

「じゃあ、あんたがやってみなさいよ」と霊夢。

「おう、じゃあ、いただきます」

「どう、魔理沙?」

「おいしくなかったら、そう言いなさい」

「いや、うまい。意外といけるじゃん、チョコと緑茶。お茶の苦味に、チョコの甘みがちょうどいい感じだぜ。紫もやってみな」

「あら、おいしい」

「だろ」

「ええ、本当においしいわ」

「それみろ。何でもやってみなくちゃ分からんさ」

「そうね。ありがとう、魔理沙」

「どういたしまして。ん、どうした霊夢?」

「何でもない。ちょっと驚いただけよ」

「私のあまりの美しさに目を奪われたのでしょう。仕方のない子ね」

「そうね。あんたがそんな風に笑ってるの、はじめて見た」

「へえ、良かったな、紫。これはきっと上手くいくぞ」

「何、また何か企んでるの?」

「霊夢にはあまり関係のない話ですわ」

 

 

///

 

 

「そろそろ良いだろう」

「かまどのケーキの焼き加減なら、もう少しかかるわね」

「そっちじゃない。そっちも重要だけど」

「ダッチコーヒーのことなら、あとちょっと置いた方が美味しくなるわ」

「そっちでもなくて! 紫、あんたそろそろ霊夢に告白しろよ!」

「そんなつもりにはなれないわね」

「私が見るに、これ以上何の練習も必要ない。台詞よし、笑顔まる、情感もこもってる。少なくとも、私だったらちょっと考えるな」

「本当に?」

「ああ、だから、もう良いだろう。あとは紫次第だと思う。あんたがどれだけ本気でアタックできるか。それにかかってるんだ」

「なるほど。ありがとう、魔理沙。少し考えてみるわ」

「ああ、応援してるぜ、紫。まさか一ヶ月前は、こんな言葉をかけることになるとは思わなかったけれど、割とマジのエールだ」

「それに応えられるように、頑張るわ。でも、今日のところはケーキとコーヒーよ。焼き立てのケーキを食べたいと言ったのは貴女なのだから」

「分かってるさ。けど、ケーキはともかく、水で淹れたコーヒーなんて飲めるのか?」

「外の世界では、これがちょっとした流行なのよ。苦味が少なくて飲みやすいの」

「そいつは楽しみだが……まだかかるのか」

「せっかちね。楽しみに時間をかけるのも、また楽しいものですわ」

 

 

///

 

 

「はい、ホットケーキ」

「ああ」

「たまには、こういう簡単なお菓子も良いわね。作り手の腕が試される気がするわ」

「そうか」

「でも、どういう風の吹き回し? 突然、ホットケーキが食べたいだなんて」

「腹がすいただけさ」

「ふーん、そう。ほら、シロップもあるわ。お好みでどうぞ」

「茶、入れるよ」

「紅茶をいただける?」

「ああ、ちょっと待ってろ」

「不思議ね。魔理沙って意外と本格的な入れ方をするのね。お湯の温度も、注ぎ方も、手馴れた感じ。その茶葉はどこから?」

「客の土産だよ。どこのかは知らない」

「そのティーセットも、かわいいわ」

「客の忘れ物だ」

「そう。なら、そのぶすっとした顔も、お客さんの忘れ物なのね、きっと」

「アリスも食えよ、ホットケーキ。冷めないうちに」

「結構よ。お茶だけで良いわ」

「そうか。甘いな、これ」

「そりゃあ、それだけシロップかければね」

「最近、甘党になったんだよ」

「誰も聞いてないけど。それって魔理沙が落ち込んでるのに関係あるの?」

「落ち込んでない」

「あら、そうなの。最近、博麗神社にもご無沙汰みたいだから、てっきり霊夢にでも袖にされて、落ち込んでるんじゃないかと」

「お前が来た理由はそれか」

「ええ、そうよ。だから、何も言わずにホットケーキだって焼いてあげたのだし」

「気を遣って?」

「別の理由かもね。傷心なんて、女には不要なアクセサリーだから、取り上げたくなったのかも」

「傷ついてない」

「でも、落ち込んでいるわ」

「霊夢に振られたからって言うんだろう? 笑えない冗談だ」

「あら、冗談に聞こえた?」

「惚れてもいない相手に振られて落ち込むなんて、あるわけないだろう」

「それは失礼。好きな相手を取り違えるなんて、喜劇だとしても三流の脚本だったわね」

「大体、霊夢に惚れてるのは私じゃなくて……」

「どうしたの、考え事? ホットケーキ、冷めるわよ」

「悪い、食べる。すぐ食べる」

「そんなにがっついてどうしたのよ。大事な予定でも思い出した?」

「まあ、うん、そんなところだ。とても大事な用事だ」

 

 

///

 

 

「いらっしゃい、魔理沙」

「お邪魔するよ」

「ふふ、私のお家ってそんなに珍しいかしら」

「そりゃあ、紫が誰かを招いたなんて話、聞かないしな。私だって藍の奴が迎えに来て、驚いたぐらいだ」

「いつもお邪魔してばかりだから、たまにはと思ったけれど、そんなに喜んでくれるのなら良かったわ」

「私からはこんなものしかないんだが」

「クッキー? またアリスにでも貰ったの?」

「いや、これは私が焼いたんだ。研究の息抜きにな」

「その割にはきれいにラッピングしてあるし、誰かにあげるつもりだったんじゃなくて?」

「どうでもいいだろ、そんなの。受け取るのか、受け取らないのか?」

「勿論、頂くわ。ありがとう、魔理沙」

「紫には見合わないかもしれないが」

「あなたらしくもない謙遜ね」

「だな。今のは忘れてくれ」

「こういうのは気持ちよ。それに、たまたま作ったクッキーを、たまたまラッピングしてて、たまたま友人だった私にプレゼントする。なんとも、私たちらしいんじゃない?」

「そうだな。気楽で、適当で、遠慮がなくて」

「そして、少しだけ素敵。これが幽々子となら和歌の贈り合いになるだろうし、霊夢なら一方的に御札を投げつけられるでしょう。それが悪いってわけじゃないけれど、貴女とはこういうささやかな感じで良いのよ」

「たまに会って、お菓子を囲って、下らない話をする」

「それだけで良いのよ。それだけで」

「お茶、もらって良いか」

「あら、ごめんなさい。今入れるわね」

「今日は紅茶に、クッキーだな」

「シンプルでしょう」

「ま、私とお前なら、それで十分か」

「そうそう」

「あとは、話のネタか。例の告白は上手くいったのか?」

「まだよ。その話は止しましょう。そっちは何かないの?」

「そうだな。私のダチの話だが、誰かに恋をしたらしい。で、どうしたら良いか私に相談した」

「そのお友達だけれど、貴女に相談するなんてよほど追いつめられていたのかしらね」

「ツッコミ待ちなのか、それ」

「それで、貴女はどうしたわけ?」

「紫のときと同じさ。ホットケーキたらふく食わせて、相手に告白する練習をさせた」

「私のときはホットケーキなんて出さなかったじゃない」

「今度焼いてやるよ。そしたらそいつ、顔真っ赤にして最後には蚊の鳴くような声になっちまってさ。情けなくって見てらんなかったぜ」

「必死だったんでしょう、その気持ち良く分かるもの。で、貴女はそんな友達を笑っているわけね。可哀想に」

「まあ、待て。そいつは前から恋愛に一家言あるような奴で、他の奴から似たような相談を受けたときは、それは偉そうにご高説を垂れたもんだった。少しはそういう経験があって、自信もあったんだろうさ。だが……」

「自分自身が恋に落ちたとき、それは違うことに気づいたわけね」

「ああ、あいつ自身が、自分を笑っちまうほどにね」

「私も長く生きているもの。身につけた知識と実際の経験が異なっていることも、よく分かっているつもりよ。だからこそ、貴女に相談したわけだし」

「私の経験だって、割れ物を糊でくっつけた様なものだった。あいつのことは笑えないよ」

「なるほど。それで?」

「覚悟を決めたのさ」

「それは、どんな?」

「当たって砕ける覚悟だ」

「話が飛躍している気がするのだけれど」

「すまんすまん。さっきの話だが、私に出来たことは紫のときと大差なかった。とにかく、相手のことを心に思い浮かべながら、ひたすら告白の練習をすることだ。結果はまあ、それなりだ。これ以上何の練習も必要ない。台詞よし、笑顔まる、情感もこもってる。それぐらいには、なれたんだ。そこまで来たら、私に……いや、あいつだった。あいつに出来ることは、覚悟を決めることだけだったわけさ」

「魔理沙」

「ん?」

「紅茶、冷めるわよ」

「ああ、そうだな。喉が渇いた。喋り過ぎたかな」

「ええ、今日の貴女は、とても饒舌だわ」

「そうかな」

「それに、とても必死ね」

「そうだな、そうかもしれない」

「ねえ」

「ん」

「そのお話、続きを聞かせてくれない?」

「この茶を飲んだらな」

「ええ、大事なところで噛んだりしないようにね」

「へ、言ってろ」

「魔理沙」

「ああ」

「続き、聞かせて」

 

 

///

 

 

「それで、ひと月も雲隠れしてたってわけ、紫とふたりで?」

「そこはほら、ご想像にお任せするよ」

「はあ、もう秋口だってのに」

「霊夢」

「あっついわね、ちくしょう!」




7年間放ったらかしにしていた未完成作品を書き上げて、供養のため投稿しました。
長い事、完成させてあげられなくてごめんよ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。