「恋の魔法使いなんて名乗っているみたいだけど、実際に恋をしたことはある?」
紫のそんな質問からはじまるガールズトーク。
会話文のみの、対話体形式でどこまで書けるかの実験作です。
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「恋の魔法使いなんて名乗ってるみたいだけど、実際に恋をしたことはある?」
「恋バナか。茶飲み話の定番だけどな」
「話しにくい? 私が持ってきたクッキーを1枚どうぞ」
「ん、サンキュ。ああ、そうだな、一度だけある。失恋だったけどな。そういう紫はどうなんだよ」
「今現在、熱烈に恋愛中。でも、相手が振り向いてくれないの。困ったものだわ」
「まあ、霊夢の奴はそういうのには鈍感かもしれないけど、直接話してみるとか」
「貴女なら、どうやって話してみる? はい、クッキー1枚」
「サンキュ。そうだな、ストレートに『好きです』って言ってみるとか」
「ふーん、魔理沙」
「なんだ?」
「好きよ、私とつき合ってちょうだい」
「20点。表情が固い。口調も固い。台詞にオリジナリティ皆無だし、なんかおちょくられてるみたいで腹が立つな。あと、練習するなら事前に断れ」
「辛口ね。私は甘党なのよ。もっとマイルドにならないかしら。このミルクティーみたいに」
「だったら自前で砂糖とミルクを足してみな。マイルドになるぞ、きっと」
「もっと甘く訴えかけろということ? その方がうれしい?」
「霊夢がうれしいかどうかは分からないけどな。というか、紫、お前はどうなんだ。さっきみたいに告白されて、うれしいか?」
「さあ、分からないわ」
「私にも分からんよ。じゃあ、試しに鏡に向かって練習してみるとかどうだ。クッキー、もらうぜ」
「どうぞ。自分で自分に告白するの? なんだか間抜けな感じね」
「自分で自分を落とせないのなら、自分以外の相手を落とすなんてもっと無理だろ」
「それは貴女の思いつき? それとも経験談かしら」
「どっちでも良いだろ。とにかく、やってみな」
「ずいぶん推すわね。まあ、せっかくだからやってみましょう。ごきげんよう、魔理沙」
「ああ、またな」
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「やってみたわ」
「どうだった?」
「死にたくなった」
「初めのうちはな。けど、そのうち気にならなくなるさ」
「貴女も、気にならなくなったの?」
「まあ、なんだ。蛇の道は蛇ってところだ」
「蛇の行き先が気になるわね」
「なら、そのマカロンをひとついただこうか」
「どうぞ」
「ありがと。話の続きだが、自分で自分に告ってること以外が、気になるようになるんだ」
「それは表情だとか、口調だとか?」
「そうそう。そういう気になるところがなくなるまで、繰り返す。表情を変えたり、口調を変えたり、いろいろ」
「やってみましょう。他には?」
「告白する相手のことを、常に頭に浮かべてろ」
「その必要はなさそうね。いつも頭の中いっぱいだから」
「そりゃあいい。その意気だ。ま、がんばんな」
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「魔理沙、練習に付き合ってほしいのだけれど」
「告白の?」
「事前に断れと、言ったじゃない」
「確かに言ったな。いいぜ、お代はそのサンドイッチをいただこう。ちょうど研究が煮詰まってて、何か食べようと思ってたんだ」
「私は紅茶にイチゴジャムを。甘味で頭の回転数を上げておきたいわ」
「かなり必死だな。あったぜ、ジャム。おまけにこのビスケットをつけてやろう」
「あら、魔理沙が焼いたの?」
「いや、昨日アリスの奴がおすそ分けに来たんだ。作りすぎたんだってさ」
「いらないわ」
「結構おいしいぞ。ジャムにも合うし」
「お構いなく。私は紅茶とジャムだけで十分だから、貴女が食べてしまいなさいな」
「なんだ、ビスケットかアリスに恨みでもあるのか?」
「そんなところね。練習、はじめましょう」
「なんだか知らんが、私の採点はジャムと違って辛めだぜ」
「貴女がビスケット並みに飲み込みが悪い娘なのは、前から存じ上げていますわ」
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「よう、最近はよく来るな、紫」
「魔理沙は先生なのだから、教え子の私が顔を見せるのは至極当然ではないかしら」
「よく言うよ。けど、今日はつき合って上げられないかもしれないぜ」
「あら、先客がいたのね。ごきげんよう、霊夢」
「珍しい場所で珍しい相手に会ったわね。よく来るの?」
「ちょくちょくな。ここ一月ほどだが」
「お邪魔だったかしら?」
「いいえ、邪魔じゃないわ。あんたも入りなさいな」
「今日は霊夢のやつが里の和菓子を買ってきたんだ。あの霊夢がだぜ!」
「ほっときなさい」
「お茶にめっちゃ合うんだ。紫も試してみな」
「じゃあ、いただこうかしら」
「紫も、何か持ってきてたんじゃない?」
「ええ、でもいいわ。緑茶には合いそうにないし」
「遠慮するなよ。紫のことだからうまいものだろうし、気にしないぜ。霊夢もそうだろう?」
「ええ」
「だそうだ、ほら、出せ出せ」
「強引なこと」
「これは、チョコレートか?」
「ええ。外の世界のお店から手に入れたのよ。でも、きっと緑茶には合わないわ」
「試したのか?」
「いいえ」
「じゃあ、やってみよう」
「でも、きっとおいしくないわ」
「別に毒を飲むってわけじゃないんだ。所詮、菓子と茶だぞ」
「じゃあ、あんたがやってみなさいよ」と霊夢。
「おう、じゃあ、いただきます」
「どう、魔理沙?」
「おいしくなかったら、そう言いなさい」
「いや、うまい。意外といけるじゃん、チョコと緑茶。お茶の苦味に、チョコの甘みがちょうどいい感じだぜ。紫もやってみな」
「あら、おいしい」
「だろ」
「ええ、本当においしいわ」
「それみろ。何でもやってみなくちゃ分からんさ」
「そうね。ありがとう、魔理沙」
「どういたしまして。ん、どうした霊夢?」
「何でもない。ちょっと驚いただけよ」
「私のあまりの美しさに目を奪われたのでしょう。仕方のない子ね」
「そうね。あんたがそんな風に笑ってるの、はじめて見た」
「へえ、良かったな、紫。これはきっと上手くいくぞ」
「何、また何か企んでるの?」
「霊夢にはあまり関係のない話ですわ」
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「そろそろ良いだろう」
「かまどのケーキの焼き加減なら、もう少しかかるわね」
「そっちじゃない。そっちも重要だけど」
「ダッチコーヒーのことなら、あとちょっと置いた方が美味しくなるわ」
「そっちでもなくて! 紫、あんたそろそろ霊夢に告白しろよ!」
「そんなつもりにはなれないわね」
「私が見るに、これ以上何の練習も必要ない。台詞よし、笑顔まる、情感もこもってる。少なくとも、私だったらちょっと考えるな」
「本当に?」
「ああ、だから、もう良いだろう。あとは紫次第だと思う。あんたがどれだけ本気でアタックできるか。それにかかってるんだ」
「なるほど。ありがとう、魔理沙。少し考えてみるわ」
「ああ、応援してるぜ、紫。まさか一ヶ月前は、こんな言葉をかけることになるとは思わなかったけれど、割とマジのエールだ」
「それに応えられるように、頑張るわ。でも、今日のところはケーキとコーヒーよ。焼き立てのケーキを食べたいと言ったのは貴女なのだから」
「分かってるさ。けど、ケーキはともかく、水で淹れたコーヒーなんて飲めるのか?」
「外の世界では、これがちょっとした流行なのよ。苦味が少なくて飲みやすいの」
「そいつは楽しみだが……まだかかるのか」
「せっかちね。楽しみに時間をかけるのも、また楽しいものですわ」
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「はい、ホットケーキ」
「ああ」
「たまには、こういう簡単なお菓子も良いわね。作り手の腕が試される気がするわ」
「そうか」
「でも、どういう風の吹き回し? 突然、ホットケーキが食べたいだなんて」
「腹がすいただけさ」
「ふーん、そう。ほら、シロップもあるわ。お好みでどうぞ」
「茶、入れるよ」
「紅茶をいただける?」
「ああ、ちょっと待ってろ」
「不思議ね。魔理沙って意外と本格的な入れ方をするのね。お湯の温度も、注ぎ方も、手馴れた感じ。その茶葉はどこから?」
「客の土産だよ。どこのかは知らない」
「そのティーセットも、かわいいわ」
「客の忘れ物だ」
「そう。なら、そのぶすっとした顔も、お客さんの忘れ物なのね、きっと」
「アリスも食えよ、ホットケーキ。冷めないうちに」
「結構よ。お茶だけで良いわ」
「そうか。甘いな、これ」
「そりゃあ、それだけシロップかければね」
「最近、甘党になったんだよ」
「誰も聞いてないけど。それって魔理沙が落ち込んでるのに関係あるの?」
「落ち込んでない」
「あら、そうなの。最近、博麗神社にもご無沙汰みたいだから、てっきり霊夢にでも袖にされて、落ち込んでるんじゃないかと」
「お前が来た理由はそれか」
「ええ、そうよ。だから、何も言わずにホットケーキだって焼いてあげたのだし」
「気を遣って?」
「別の理由かもね。傷心なんて、女には不要なアクセサリーだから、取り上げたくなったのかも」
「傷ついてない」
「でも、落ち込んでいるわ」
「霊夢に振られたからって言うんだろう? 笑えない冗談だ」
「あら、冗談に聞こえた?」
「惚れてもいない相手に振られて落ち込むなんて、あるわけないだろう」
「それは失礼。好きな相手を取り違えるなんて、喜劇だとしても三流の脚本だったわね」
「大体、霊夢に惚れてるのは私じゃなくて……」
「どうしたの、考え事? ホットケーキ、冷めるわよ」
「悪い、食べる。すぐ食べる」
「そんなにがっついてどうしたのよ。大事な予定でも思い出した?」
「まあ、うん、そんなところだ。とても大事な用事だ」
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「いらっしゃい、魔理沙」
「お邪魔するよ」
「ふふ、私のお家ってそんなに珍しいかしら」
「そりゃあ、紫が誰かを招いたなんて話、聞かないしな。私だって藍の奴が迎えに来て、驚いたぐらいだ」
「いつもお邪魔してばかりだから、たまにはと思ったけれど、そんなに喜んでくれるのなら良かったわ」
「私からはこんなものしかないんだが」
「クッキー? またアリスにでも貰ったの?」
「いや、これは私が焼いたんだ。研究の息抜きにな」
「その割にはきれいにラッピングしてあるし、誰かにあげるつもりだったんじゃなくて?」
「どうでもいいだろ、そんなの。受け取るのか、受け取らないのか?」
「勿論、頂くわ。ありがとう、魔理沙」
「紫には見合わないかもしれないが」
「あなたらしくもない謙遜ね」
「だな。今のは忘れてくれ」
「こういうのは気持ちよ。それに、たまたま作ったクッキーを、たまたまラッピングしてて、たまたま友人だった私にプレゼントする。なんとも、私たちらしいんじゃない?」
「そうだな。気楽で、適当で、遠慮がなくて」
「そして、少しだけ素敵。これが幽々子となら和歌の贈り合いになるだろうし、霊夢なら一方的に御札を投げつけられるでしょう。それが悪いってわけじゃないけれど、貴女とはこういうささやかな感じで良いのよ」
「たまに会って、お菓子を囲って、下らない話をする」
「それだけで良いのよ。それだけで」
「お茶、もらって良いか」
「あら、ごめんなさい。今入れるわね」
「今日は紅茶に、クッキーだな」
「シンプルでしょう」
「ま、私とお前なら、それで十分か」
「そうそう」
「あとは、話のネタか。例の告白は上手くいったのか?」
「まだよ。その話は止しましょう。そっちは何かないの?」
「そうだな。私のダチの話だが、誰かに恋をしたらしい。で、どうしたら良いか私に相談した」
「そのお友達だけれど、貴女に相談するなんてよほど追いつめられていたのかしらね」
「ツッコミ待ちなのか、それ」
「それで、貴女はどうしたわけ?」
「紫のときと同じさ。ホットケーキたらふく食わせて、相手に告白する練習をさせた」
「私のときはホットケーキなんて出さなかったじゃない」
「今度焼いてやるよ。そしたらそいつ、顔真っ赤にして最後には蚊の鳴くような声になっちまってさ。情けなくって見てらんなかったぜ」
「必死だったんでしょう、その気持ち良く分かるもの。で、貴女はそんな友達を笑っているわけね。可哀想に」
「まあ、待て。そいつは前から恋愛に一家言あるような奴で、他の奴から似たような相談を受けたときは、それは偉そうにご高説を垂れたもんだった。少しはそういう経験があって、自信もあったんだろうさ。だが……」
「自分自身が恋に落ちたとき、それは違うことに気づいたわけね」
「ああ、あいつ自身が、自分を笑っちまうほどにね」
「私も長く生きているもの。身につけた知識と実際の経験が異なっていることも、よく分かっているつもりよ。だからこそ、貴女に相談したわけだし」
「私の経験だって、割れ物を糊でくっつけた様なものだった。あいつのことは笑えないよ」
「なるほど。それで?」
「覚悟を決めたのさ」
「それは、どんな?」
「当たって砕ける覚悟だ」
「話が飛躍している気がするのだけれど」
「すまんすまん。さっきの話だが、私に出来たことは紫のときと大差なかった。とにかく、相手のことを心に思い浮かべながら、ひたすら告白の練習をすることだ。結果はまあ、それなりだ。これ以上何の練習も必要ない。台詞よし、笑顔まる、情感もこもってる。それぐらいには、なれたんだ。そこまで来たら、私に……いや、あいつだった。あいつに出来ることは、覚悟を決めることだけだったわけさ」
「魔理沙」
「ん?」
「紅茶、冷めるわよ」
「ああ、そうだな。喉が渇いた。喋り過ぎたかな」
「ええ、今日の貴女は、とても饒舌だわ」
「そうかな」
「それに、とても必死ね」
「そうだな、そうかもしれない」
「ねえ」
「ん」
「そのお話、続きを聞かせてくれない?」
「この茶を飲んだらな」
「ええ、大事なところで噛んだりしないようにね」
「へ、言ってろ」
「魔理沙」
「ああ」
「続き、聞かせて」
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「それで、ひと月も雲隠れしてたってわけ、紫とふたりで?」
「そこはほら、ご想像にお任せするよ」
「はあ、もう秋口だってのに」
「霊夢」
「あっついわね、ちくしょう!」
7年間放ったらかしにしていた未完成作品を書き上げて、供養のため投稿しました。
長い事、完成させてあげられなくてごめんよ。