「オールマイトだ。全盛期をとうに通り過ぎているが、これは譲れない」
死滅回游編の新キャラだと鹿紫雲が1番好き
いつかの時代、どこかの山奥。
青く澄み渡っていた空が、西に沈みつつある夕陽に照らされ、橙色に彩られている。そして、遠くない間にその幻想的な風景も夜の帷が降り、世界は闇に包まれるだろう。
風もなく、獣等の気配もなく、物静かな空気に包まれるそこには、一人の老人が切り落とされた切り株に座り込んでいた。
その周囲には人間の血と肉と臓物が撒き散らされている。
下手人は、言うまでもないだろう。
(……つまらん)
この惨状を生み出した張本人である老人は、人の命を奪ったことに罪悪感を抱くことない。彼の心の中にある感情は、強き者との闘争を求める飽くなき渇望と、それが叶うことのないという現実に対する退屈だけだ。
永く生きてきた。
そう。この時代の平均年齢を遥かに上回る年月を老人は生きている。
齢70を超え、肉体は衰えた。
鍛え上げ、そして今もなお鍛え続けている肉体も、歳の前にはどうしようもないようで。
体の節々にも角張った骨が皮膚越しに目立つようになっている。
膂力は落ち、体力は低下し、五感は鈍っていくばかり。
しかし、それでも老人は闘争の世界から逃げ出すことはなく、戦い続けた。
肉体は老衰しようとも、生きて、そして戦い続ければ、この心の隅々までを行き渡る渇きが潤う時が来ると信じていたから。
(いや、そうあってほしいと、思っていたのだろうな)
結局。
結局──そんな、心躍るような強者との闘いが訪れることはなく。
老人の元には、死神の足音がすぐ側までやって来てしまっていた。
──パキリ、と
偶然か、はたまた必然か。あるいは、狙ってのことなのか。
老人の元に一人の来訪者が訪れる。
振り返らずとも分かる。
背中越しに感じる呪力は以前に会った際とまた変わっているが、その気配には覚えがあった。
「……羂索か」
来訪者の名前を口にする。
現れたのは、額に大きな傷痕を残す一人の武士。
尤も、武士と言っても彼のその在り方は、武士道とは程遠い度し難いものではあるが。
「どう? 楽しめた?」
胡散臭い笑みを貼り付けながら、羂索は老人に訊ねる。
「……フン、全くだ。やはり、貴様と戦うべきだった」
「勘弁してよ。今は特に戦闘向きじゃないんだ」
「笑わせるな。そんな人間が、平安の時代を生き抜き、今の時代まで生き永らえるはずがないだろう」
「どうだろうね」
くすり、と羂索は笑う。
こちらの質問にまともに答えるつもりはないらしい。
このままこの男と闘り合ってもいいが……しかし、老人はその選択を取るつもりはなかった。
今は、まだ。
「陸奥に面白いのがいるらしいよ。伊達藩の当主で、歴代随一の呪力出力を誇るそうだ。私も一度遠目から彼の戦闘を見たけど、まさに大砲だったよ」
──君も楽しめるんじゃない?
「……」
確かに、楽しめるかもしれない。
この男の情報を鵜呑みにするのは危険だが、動かなければ話は始まらない。
だが、心は動かなかった。
以前、羂索から声を掛けられた際にこの話を聞いていれば、すぐに陸奥へ向かっていただろう。
「ゴホッ……陸奥か、遠いな」
己には、もう時間はない。
あと幾ばくかの命。
おそらく、保たない。己の肉体のことは、己が一番理解している。
そうであるのならば。
「羂索……貴様の知る最強の術師は?」
「宿儺だ。600年前で申し訳ないが、これは譲れない」
「──、そうか」
両面宿儺。呪術全盛と名高い平安の時代。あらゆる強者たちが戦いを挑み、敗れ、命を落とし、悪逆の限りを尽くしたという正真正銘の呪いの王。
600年経った今もなお語り継がれ、恐れられるその存在。
もしも──もしも。
もしも、時代が違い、決して巡り会うことのない呪いの王と、闘う機会があるかもしれないというのならば。
老人は、羂索の語るその事実を噛み締める。
そして。
「では、例の話を甘んじて受けよう」
ニヤリ、と羂索が笑みを深める。
老人は、それを無表情に見つめる。
罠かもしれない。
嘘であるかもしれない。
程よく利用されるだけかもしれない。
だが、もしもこの渇望を潤すことが出来る可能性が僅かでもあるのならば、賭けるだけのこと。
パリッ、と紫電が音を立てて山奥に響く。
「さすれば、宿儺とやれるのだな?」
その問いに、羂索はやはり──胡散臭い笑みを浮かべ、頷いた。
◆◇◆
生得領域。それは、術師や呪霊の持つ心象風景のようなもの。その人間の在り方をそのまま形にした空間だ。
羂索との契約により己を呪物と化し、そして時を超え受肉し、擬似的な黄泉返りを果たすことを選んだ老人は、一人その場所で座り込んでいた。
一体、どれほどの時間が経っただろうか。
数分しか経っていないのか、それとも数年──あるいは何百年。
時間の感覚が曖昧だ。
だが、どちらにせよ老人はただ待ち続けることは退屈だと考え、感覚が鈍ることのないよう、鍛錬を続けていた。
変わることのない日々。
何日経ったのか、何年経ったのか。いつからか、無駄と断じて考えることを辞めた。
たとえここでいくら時間が経っていようと、外がどうなっているか知る術がないからだ。
そんな日々に変化が訪れたのは、唐突だった。
ぐらり、と視界が──否、生得領域が歪んだ。
◆◇◆
「──」
気がつけば、見慣れた生得領域でもなく、呪物になる寸前に羂索と共にいた山奥でもなく、大きな壁に囲まれた市街地のような場所に立っていた。
同時に脳内に溢れ出す──この肉体に刻まれた知識。
しかし、突如として叩き込まれたそれをパニックになることなく受け入れ、整理していく。
老人──否、受肉元となったこの肉体の名を借りるなら、上鳴電気は、羂索が契約を果たしたことを確信し、笑みを浮かべる。
(反故にされる可能性も考えていたんだけどな。まぁ、遂行してくれたのなら問題はねぇ)
胡散臭さでいえば、上鳴が出会った人間の中でもアレを超えるものはいなかった。
それでもその契約に乗ったのは、それほどまでに飢えていたからに違いない。
(『個性』、ヒーロー、ヴィラン……何百年も時が経てば、社会情勢も大きく変わるか──だが)
羂索から事前に説明を受けてはいたが、受肉した際には乗っ取った先の肉体から知識や経験を引き継ぐことになるらしい。故に、時代が違えど言語や文化の発展に遅れを取ることはない。
上鳴は、今の社会がどういったものかを把握し、置かれている状況を理解する。
ただ、ひとつだけ懸念があった。しかし、それは今考えても仕方がないことだ。
そちらにも関心が湧くが──今は、それよりも優先事項がひとつだけあった。
(雄英高校ヒーロー科の実技試験……ハッ、人相手じゃないのが物足りないが、慣らしにはちょうどいいかもな)
この場所は、数々のトップヒーローを輩出した名門中の名門──雄英高校。
『上鳴電気』は、ここのヒーロー科を受験し、ヒーローになることを夢としているようだった。
既に筆記試験は終え、これから行われるのは実技試験。
ルールは単純なもので、より多くのロボットを倒し、ポイントを獲得しろというものだ。
雑魚狩りに興味はない。ただ、何百年もの間、一人で鍛錬を続けてきた彼は、相手に飢えていた。
溜まりに溜まった鬱憤を、少しばかり晴らすとしよう。
『コロス!』
背後から
無論、当然の如く接近には気づいていた。
ただ、脅威にはなり得ない。
接近を許したのは、たったそれだけの理由だ。
拳が直撃する──その刹那、上鳴が遂に動き出す。
振り返ると同時に拳を避け、すれ違うようにして拳を
ボンッ、とその拳は容易く
その一連の動作を1秒にも満たない速度で終えた上鳴は、即座に次の獲物を狩るべく戦場を駆ける。
1体、2体、3体4体5体6体──ヂィィィ、と体に
予め、強さに応じて
有象無象、脆い土塊。
所詮は、その程度の認識。
楽しませてくれそうな人間は一人だけいたが、
だから、求めた。
800年前。
呪術全盛。
あらゆる術師、呪いに関係する全ての存在が総力を上げて挑み、そして敗北した。
その屍たちの上に君臨した呪いの王──両面宿儺。
その存在を。
上鳴の動きが遂に静止する。
その瞳に熱は灯らない。
受肉により現世に黄泉返りを果たした"雷神"は、エリアに放たれた
(鳴らしはこの程度で十分……さて、少しは歯応えのある奴が来るかな?)
その場にいた受験者から様々な感情の入り混じった視線が上鳴に向けられるが、意に介さず
そして、その直後、上鳴の視線に呼応するようにして、会場が大きく揺れる。地震を彷彿されるそれに周囲がパニックに包まれるが、すぐにその揺れの正体をこの場にいた全員が気づくことになる。
ビルやマンション等の街の景観を壊しながら突如として現れた巨大な
先程まで自分たちが戦っていた個体とは比較することすら烏滸がましい程に、ひたすらに強大なそれを目にした途端、周囲にいた受験者たちは一目散に背を向けて逃げて行く。
それもその筈だ。
この個体は、事前に説明されていた0点の機体。
ただ受験者の邪魔をするためだけに用意された舞台装置だ。
上鳴はそれを目にしても背を向けず、ただ感心したようにして観察していた。
(このサイズの相手は初めてだな。呪霊にもここまでのものはいなかった)
これが現代の進歩というものか。
そうしみじみと時代を重ねたことによる技術の発展を感じながら、上鳴は0点敵へと足を進める。
「ちょ、アンタ何してんの!?」
上鳴が0点敵に挑もうとしているのを目にしたのであろう、耳たぶが不自然に長い少女がこちらに声を掛けるが、無視して歩を進める。
「逃げたきゃ逃げろ。俺は別に、点数が欲しくてここに来たわけじゃねぇ」
「は、はぁ……?」
「……現代人ってのは、こんなのばっかなのか?」
ヒーローなどという役職に上鳴は興味はないが、この肉体にある知識によれば、他者を救うための仕事らしい。
そんな人間が強大な敵を目にした途端、尻尾を巻いて逃げるなどあってはならないだろう。
「それは雑魚の思考だ」
0点敵が歩みを進める度に地面が大きく揺れ動く。
上鳴はそれに臆することなく突き進み、手を翳す。
上鳴は電気と同質の呪力を電気分離する。
打撃と共に対象にプラス電荷を移動させ、自身に蓄えたマイナス電荷を地面方向への放電をキャンセルしつつ対象へ誘導する。
しかし、鹿紫雲は0点敵を視認せど、触れてはいない。
故に、これから放つ一撃は、一度0点敵に接触する必要があるのだが──
(貯めたやつは、周囲にたくさん転がってるからな)
近くに転がっていた
投げられた破片が微かに紫電を帯びた、その瞬間。
パリッ
上鳴は倒した
たった数秒の邂逅。
頭部にあるコアを破壊された0点敵は忽ち制御を失い、崩れ落ちていく。
上鳴はそれをつまらないものを見るかのように一瞥した後、背を向けた。
この戦いとも呼べない一方的な蹂躙。
これこそが後に『雷神』と呼ばれる
ロボットを何分で鏖殺、とか個体数とかは適当。
鹿紫雲って本名なのかな?受肉体の名前? 烏鷺とかパンツ被り爺とかは本来の名前っぽいけど、宿儺とかは受肉体の名前で表示されてるから分からん。
この方がいいんじゃない?的なのがあったら教えてください。
【人物紹介】
・上鳴電気(鹿紫雲受肉体)
羂索の誘いになった後、何故か異世界の人間に受肉していた江戸時代の戦闘狂爺。
受肉元の知識と周囲の人間に呪力がないことから、この世界が異世界であることには気づいてるため、少し萎えている。オールマイトが1番マシそうなので、戦いたい。
呪力と術式は、こちらに持ってきている模様。
USJ編までは大人しく雄英に通っているが、以降は敵の方が強敵と戦えそうってことで失踪し、敵になる予定。
ちなみに個性と鹿紫雲の呪力はめちゃくちゃ相性がいい
・上鳴電気(受肉元)
試験中に何故か鹿紫雲が受肉した。普通に受肉した瞬間死んだ。魂もないよ。個性因子の意思は残ってるかもね。
続きはないです
そのうち、ヒロアカ世界に生まれたパパ黒の話を書くかも。
プロヒーローを多数輩出する名門禪院家に生まれた、"個性"とは異なる進化を遂げたフィジカルギフテッド。恵ママもいないので、直哉分からせ時の精神状態で敵になってます