何が起こってるんだ一体。
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どさり、と。
禪院甚爾が崩れ落ちる。完全に意識を失っており、受け身すら取れずに倒れ伏した。
外傷はない。甚爾を気絶させたのは、外部からの衝撃ではなく"個性"の影響だ。
この戦いの勝者であるオール・フォー・ワンは、ただ一人砂浜に立っている。彼のマスクの下の口元は、悪辣に歪んでいた。
「
倒れている甚爾の側には、
しかし、様子がおかしい。
首のない彼の体は、着ている服装ごと溶解していっており、
(『二倍』。義爛を探る過程で彼を弔の元に引き入れることに成功したのはラッキーだったぜ)
支離滅裂な発言を口に出し続ける精神破綻者の顔を思い浮かべる。
『二倍』
一つのものを二つに増やすことが出来るというシンプルな"個性"だが、その対象は生物無機物問わずに判定される。更に対象が人間の場合、そのものの持つ"個性"や人格、記憶ごと再現される。
複製を行うには条件をある程度クリアしなければならないのだが、そこまで厳しいものではない。
そう。甚爾が戦っていたのは本物のAFOではなく、"個性"により複製された偽物だ。
『二倍』により複製された個体は、ある程度のダメージを受けると形を失い、泥へと変質し消えていく。
そのダメージの上限は素体によって大きく異なるのだが、AFOの場合それらを複数の"個性"により無視することが可能であるため、実質的なデメリットがないに等しい。
しかし、今回の相手は普通ではない。一撃でもまともにダメージを貰えば間違いなく原型を留めることが出来なくなっていた。そのため、使用していた"個性"は、攻撃を避ける、受け流す、晒すといった系統のものに限定して使用していた。
(複製体の僕も我ながらよくやったものだ)
今回の計画は、徹底的に禪院甚爾を欺くことに重きを置いていた。
まず前提として、明確な隙を作らせる必要があった。
フィジカルは然ることながら、彼は五感さえも研ぎ澄まされている。複製された個体は見破られたことがないと彼は言っていたが、何事にも例外はありうる。
そのため、初めにわざと甚爾に対し、AFOは本物であるという認識を植えつけた。
それこそが、初めにゲートから出した手だ。
あの時点で甚爾に触れられればそれでも良かったが、案の定彼はそれに反応し、こちらの腕を切り裂いた。
その際、斬り飛ばした腕は本物のAFOのもので、その後現れたのが偽物のAFO。
超再生という"個性"を見た甚爾は、斬り飛ばした手が存在していることに何ら疑問を抱いていなかった。これにより、甚爾から偽物の可能性という選択肢を消した。
正直なところを言えば、ここをクリアした段階で甚爾の捕獲はほぼ王手だった。
あとはどんな形でさえ隙を作り出すことが出来れば、オリジナルがそこを突く形で捕らえることが可能となる。
ただ、流石に呆気なく複製が死にそうになった時は焦ったものだ。
禪院甚爾は思慮深い男だ。二度目の捕獲のチャンスはほぼなかっただろう。
それを複製体は、敢えて隙を作り出す形で甚爾の行動を限定化した。トドメの一撃に目眩しに『瀉血』を利用したのは本当にいい策だった。
あとはAFOがゲートを潜り、ほんの一瞬油断した甚爾に触れるだけでいい。
甚爾に発動した"個性"は『寄生』と呼ばれる"個性"だ。
他者の意識を乗っ取ることで寄生先の肉体の主導権を一時的に奪い取ることが出来る"個性"。
一見すると強力な力だが、ハッキリ言って産廃もいいところだ。
発動には幾つかの条件があるのだ。
一度相手に自身のDNAを付着させ、再度触れる必要があること
寄生中はどちらかの肉体しか利用出来ないこと
3分以上の寄生は不可能であるということ
そして──対象者が無個性であること
禪院甚爾は無個性であり、その条件を満たしている。
ゆらり、と甚爾が立ち上がり振り返る。
手を握ったり開いたりと体の調子を確かめる。
その際に浮かべている表情は、AFOの笑みと酷似していた。
「素晴らしい肉体だ……! 際限なく溢れ出る力! 全てを見透せると錯覚してしまう程に研ぎ澄まされた五感! フ、ハハ! これが
「この肉体を完全にモノにすれば、オールマイトなんて目じゃないな」
禪院甚爾の肉体を手に入れたAFOは、柄になく興奮しているのか、大きな声で笑い続けている。
マスターピースは現段階では試作段階。己の肉体となるのはまだ先の話だと思っていたのだが、こうしてその過程を一気に消化することが可能となった。
これを喜ばずして、どういられようか。
本来、『寄生』を利用すれば、元々の肉体の制御は出来なくなり、無防備な姿を晒すことになるのだが、しかしAFOはそれを莫大な"個性"の数でそれをカバーしていた。
甚爾からの攻撃を防御していた際に利用していた『同時並行思考』を応用することで、自身の肉体を制御しつつ、寄生先の肉体を操ることを可能とする。
「この肉体には感じ取れていないのに、"個性"を通じて情報だけが脳に流れて来るというのは可笑しな感覚だね」
「まぁ、それも今だけの話だ。時間は有限。早く対処を進めるとしよう」
「それもそうだね」
制限時間以内に細工をしておかなければ、効力が切れた際に再び甚爾の人格が浮上する。
それを防ぐために洗脳系の"個性"を総動員にして、今もなお眠る甚爾の意識を深く沈め、封印する。
「お迎えにあがりました」
「相変わらず痒いところに手が届く。君は僕のことを本当によく理解してくれる」
「ありがとうございます」
AFOが命令を下すよりも早く、目の前にゲートが現れ、黒霧と呼ばれた男が現れる。
『ワープゲート』の"個性"を持つ彼は、AFOにとって貴重な存在だ。これからの計画でも、彼の力は更に必要になってくる。
「ま、安心しなよ禪院甚爾。君の肉体は、僕が大切に使ってやるからさ」
二人のAFOは、その顔立ちは異なりながらも全く同じ表情を浮かべ、ゲートに入り込もうとした──その時だった。
「……? な、ななななんだ?」
ピタリ、と二人の動きが止まる。
甚爾の肉体に寄生している方の呂律が突如として回らなくなる。
それどころではなく、先ほどまで身体を包んでいた全能感が次々とシャットアウトされていく。
「……マジか」
甚爾の肉体ががくりと項垂れる。同時に寄生先の思考に強いノイズが走る。それはネットワークのように本体の方にも伝播していき、AFOは即座に行動を移す。
「黒霧! 繋げ、脳無だ!」
「……! かしこまりました」
ただならぬ主の雰囲気に黒霧は迅速に命令に従った。
予め頭に入れている脳無の保管庫に繋ぎ、失っても損害のない個体を持ってくる。
それが顔を出した途端、AFOはその顔を鷲掴みにし、『同時並行思考』と『寄生』の"個性"を押し付ける。
その瞬間
「
パンッ
押し付けられた脳無の脳みそが風船が割れるような音を立てて破裂する。
その音を聞いたAFOはマスクの下で笑みを浮かべながらも、ひたりと冷や汗をかいていた。
──天与の暴君が、再び目醒める
空気が、ガラリと変わる。
甚爾はAFOが現れた時、周囲の生命が全て生き絶えた地獄のような雰囲気と感じ取った。
だが、それが今塗り替えられる。
重圧。甚爾の一挙一動が死に繋がる。全身にこちらの命を刈り取ることの出来る刃が向けられたプレッシャー。
オールマイトとは異質の強さだ。
「チッ……してやられたな」
「マジでどうなってんだよ、君は」
ガシガシと頭を掻きながら、こちらを見据える甚爾。既にその中にAFOの意識は存在しない。
困惑を隠すことなく、AFOは語りかける。
「あー、俺の肉体は特別だからな。オマエの"個性"が俺の肉体に勝てなかったんだろ」
("個性"が肉体に負ける……? あり得ない話だが、こうして現実に起きている。天与の肉体──まさか、ここまでとはね)
超越者とはよく言ったモノだ。既存する理が全く意味を為さない。
「ま、ンな話はどうでもいいか」
落ちていた青龍刀を拾い上げる。
そう。
甚爾が意識を取り戻した以上、暴君と魔王の決着は再開することとなる。
「第二ラウンドといこうか──なっ!」
「ッ、黒霧!」
叫んだのは、同時だった。
巨悪の魔王に対し、天与の暴君の全てを蹂躙する暴力が再び向けられる。
オールマイトは誰かをを救うための力振るう平和の象徴であるのならば、禪院甚爾はただ気に食わないものを破壊するためという利己的な理由でその力を振るう暴虐の象徴。
一度は勝てた。
だがそれは、最初から甚爾への対策を練り、彼の認識をずらすことで成功したモノだ。
今回は違う。
イレギュラーな状況。遠い未来を見通すAFOの先見の明を持ってしても予想だにしていなかった事態。
元より正面戦闘で全盛期なら兎も角として、弱り切った今の肉体では勝利することはまず敵わない。
故に魔王は、逃げることを選択した。
青龍刀がAFOの首元へ迫る。
防御系統の"個性"を発動するよりも速い。
しかし、AFOは『テレパス』を利用することで、黒霧の名を呼ぶよりも早く彼に対してワープゲートを開くように命令していた。
青龍刀は、AFOの首の薄皮一枚を切り裂くのみに留まり、逃亡に成功する。
「また会おう──禪院甚爾」
「ゴメンだね、もう二度と」
◆◇◆
一人島に残された甚爾は、警戒を解くことなくその場に立ち尽くしていた。
(完全にハメられたな。初めから俺は人形と戦わされてたわけだ。ノコノコと奴と殺し合いを興じた時点で、俺の敗北は決定していた)
そこは年季の差というモノだろう。
甚爾よりも早く行動し、甚爾よりも更に数手先まで読んでいた。
純粋なパワーバランスであれば、今のAFOに負ける余地はないが、そこに策略等が加われば今回のように負けもあり得る。
今回の件で、甚爾は一度死んだ。
肉体の制御権を取り戻したのはいいが、それは甚爾の知るところではないイレギュラーだ。
もしもAFOが甚爾を殺すつもりで挑んでいたのであれば、気を失った時点で目覚めることは二度となかったと言える。
完膚なきまでな敗北
そこに悔恨があるわけではない。
勝ち負けに対し、一々喜んだり悔しがったりするようなタチではない。
そんなものは当の昔に捨て去った。
「いい経験になった。次はない……が、まぁもう二度と戦うことはねぇな」
ああいう手合いは、相手にするだけ無駄だ。
面倒で、あまりにもリスクが高すぎる。
オールマイト辺りに任せておけばいいだろう。
禪院家出奔後、初めての敗北。
何か特別な感情を抱くことすらなく、甚爾はその場を後にした。
海上を走って。
◆◇◆
「やられたね」
帰還したAFOは、どさっ、と椅子に腰を下ろす。
先ほどまでの緊張感が一気に抜け、久方ぶりに疲労感というものを覚えていた。
「あれは使い物にならないよ、ドクター。今後、彼に警戒されることもそうだけど、そもそもあの肉体に対して乗っ取りや洗脳は無意味だ」
「となると、やはりこちらで作るしかないようじゃの」
「そうだね。急がば回れ。そう急かすことでもないし、計画通りにやっていくとしよう」
禪院甚爾は天然物のマスターピース。
しかし、こちらが想定している以上に彼の持つ天与の肉体は異質なものであった。
興味は尽きないが、今進めている計画を押し曲げてでもやることではない。
「しかし、信じられんな。ただの肉体の強度のみで"個性"を弾き飛ばすなど」
「個性に宿る意志というものがあるんだ。何ら不思議なことじゃない」
「天与の肉体──フィジカルギフテッドとでも呼ぶべきかのう。研究者としては、実に興味深い」
「すべてが終わったら、そちらに注目してみてもいいかもしれないね」
こちらがマスターピースを手にすることが出来れば、禪院甚爾に対して十分に勝機を見出すことが出来るだろう。
「先生、少しよろしいでしょうか」
「どうしたんだい、黒霧」
黒霧の方へと向き直る。
「いえ、今回は一応義爛を通して禪院甚爾への依頼を行なっておりました。報酬の方はお支払いいたしますでしょうか?」
そういえばそうだったな、とAFOは思い出した。
ただ彼をこちらに誘き出すための囮であったため、払う理由は特には存在しない。
だが──
「そうだね。振り込んでおいてくれ。1じゃなくて、10でいい」
「かしこまりました」
丁寧にお辞儀して、黒霧は去っていく。
支払いを行う必要はない。
なかったが、今後とも禪院甚爾はある程度良好な関係を築き上げておいた方がいいとAFOは判断した。
信用は確実に失ったが、AFOとしても彼にちょっかいを掛けるつもりは当分ない。それに彼の性格上、ある程度の関係の修復は見込めるはずだ。
(弔が
制御は出来ないだろうが、それなら手元に置いておいたほうが安心ではある。下手に敵に回られると厄介この上ない存在だ。
資金が足りるかな、なんて思ってもない心配事を口にしながら、AFOは邪悪に笑い、誰に語りかけるもなく一言だけ口にする。
「今後ともよろしく頼むよ、禪院甚爾」
誰に命令してんだ、テメェ、って言わせたかったけど、なかなか難しかったので、宿儺の「どけ」を流用しました。
【色々紹介】
・禪院甚爾
負けちまった〜、くらいのテンション
海を走り抜けた後、そのままパチンコに行った
金が何故か10倍振り込まれており、AFOへの好感度が上がった
・AFO
ちゃらっとトゥワイスを仲間に引き入れていた男
倍加の"個性"は強いと認識していながら、あまり自分で使う機会もないな、ということで奪ってはいない
自分を増やしたら、自分に裏切られそうだし
禪院甚爾が寄生を破った時は流石にビビった
・ドクター
脳汁どばどば
・義爛
甚爾が負けたと聞いてかなりビビってる
任務のきな臭さに気づいてたが、甚爾なら問題ないだろうと思ってたので反省してる
最近、知り合いの全身タイツが友達出来て喜んでたが、それが魔王の組織の一人だと知ってビビってる
・死柄木
トゥワイスうるせえ
・トゥワイス
俺たち親友だよな!? テメェとは絶縁だ!
感想と感想と感想よろしくお願いします!
なんか書いてほしい話あったら教えてください
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原作突入しろや
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青龍刀とかの武器を何処で手に入れたかとか
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オバホとの関わり
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その他(メッセで)