*透明なポーションを飲み干した。あなたは変容した!あなたは人肉の虜になった。あなたは変容した!あなたは何でも食べられるようになった。*

*あなたは刀を口に運んだ。*
*あなたの体内はエーテルで満たされた。あなたはエーテルの虜になった。*

以前書いた短編を完全にリビルドしました。


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Re:elohal

Re:elohal

 

*透明なポーションを飲み干した。あなたは変容した!あなたは人肉の虜になった。あなたは変容した!あなたは何でも食べられるようになった。*

 

*あなたは刀を口に運んだ。*

*あなたの体内はエーテルで満たされた。あなたはエーテルの虜になった。*

 

 

*-*

 

 

*暗く冷たい。*

この感触は酷く慣れ親しんだもので、2、3年振りに会う友人の様な気安さが、あなたをノスタルジックにさせた。

本当に久しぶりすぎて、ずっとこの感覚を味わいたくなるような、そんな気さえしてくる。

……思えば、この感覚は2年くらい前に味わった感覚だ。いや、あの時は、発狂していたかもしれないから、本当の意味では少し違うのだろう。

“すくつ“に潜むつぶらで大きな目玉と無数の触手で構成された化け物と戯れる時以上に狂っていた。今でも鮮明に思い起こせる、ド腐れビッチ(ジュア)教の狂信者の友人である*あいつ*に勧誘され、断固拒否の意で受け答えしたら、供えものの*もち*を投げられ、無理に食わされた挙句窒息死したからだ。

 

*もちを喉に詰まらせて死んだ*

 

その位じゃあ、ミンチにし、死体でハンバーグを作って腐らせるくらいで許してやれるのだが、間が悪かったというべきだろう。

発生したことは単純で、大好物であるエーテル製の装備を量産するために、たらふく買い込んだエーテル製の素材槌を落としたのだ。

それは、大量にスタックして、持ち運びのために羽の生えた巻物をつかった後のものだ。

まるで日頃の行いが素晴らしいというべきか、主神に供物をささげすぎた結果なのか、予定調和のように女神の加護でもあるかのように四次元ポケットに入れ忘れた。

***「たらばがに!」***

その後、一頻り発狂した後ノイエルに急行したが当然の如く、それは無くなっていた。あの内臓が分解されるかのような痛みの飢えに耐えながら、お土産屋の前で、再度立ち続けた時の感情は推し量れることは出来ない。

ただそれ以降、ド腐れビッチ教団員を見つけ次第サンドバックに吊し上げ、モンスター召喚を唱え放置して、背後のジュークボックスから流れる音で狂気度を下げる。

それが、お約束になり、おかげでユニコーンの角の節約になった。

ただそれだけであり、あなたは正気であるのだろう。

 

なぜこんなに懐かしいことを思い出したのかが、よく分かった。

死ぬ前は12月、狂信の友人との楽しい思い出。

また、*あいつ*にやられたのだ。

今回も、*もち*だ。

ペットも連れていたが、先にミンチになったか、それとも体当たりの邪魔をされていたか。

まあそのどちらかだろう。

なに、開幕互いに猫のゆりかご()でおはようのあいさつをして。

<メテオ>を唱え、終末を呼び、ムーンゲート(重質量兵器)を互いの違いに相手のペットに投げつける。友人とのいつもの遊びをやれば、どちらかがミンチになるのは当然のことだろうが、白くて大きい*もち*を無理やり食わせてくるのはズルいのではないだろうか。互いの能力などすべてわかりきっているからこそのリソースの削りあいで決着がつくはずなのに、それを覆してくる*もち*は冒険者の天敵なのだろう。

こんな負けになるのであれば、*あいつ*のペットにムーンゲートをスリ渡して、すり潰して殺し、嘲笑しておくべきだった。

そもそも考えてみれば、あいつのペットをなぜ先に殺さなかったのだろうか?

いつも邪魔をし、あいつのことを『お兄ちゃん』と勝手に呼んでいるゴミくず(猫妹)は早々に処分すべきなのに。

それだけ、*あいつ*との遊びを楽しみにしていたと言うことなのかもしれない。

何であれ、今度からは楽しむ前に”ゴミくず”は”ゴミ箱”へ入れないといけないな。

 

 

余計な思考をして、長居し過ぎた気がする。

それもこれも、愛しい*あいつ*のせいだ。

まあ、いいだろう。

そろそろ、這い上がろうか。

 

 

あ、這い上がったら、祝福された鈍足のポーションを飲み干さないと。

 

 

*--*

 

 

這い上がったと同時に、祝福鈍足のポーションで一服する。

毎年の習慣の一つで、これを行うことで年が明けたことを実感する。

主神以外、どんなものでも若いほうがよい。若ければ若いほど良い。年寄りなどナンセンスだ。

手持つ少しポーションを眺めながら、主神に思いを馳せる。

 

***「みゃ?ようやく這い上がって来たの?来たの?君のこと、ずーっと待ってたよ!たよ!」***

 

主神からの電波が脳を焼き、その幸福さに毒されていくのを感じた。

あなたは、主神を残して埋まるなんてことはできやしないし、そのつもりもない。いつまでも、この電波に焼かれることを待ち焦がれながらも幸運の神に貢物を続けるつもりだ。

★《ラッキーダガー》の柄をなで、主神のことを思い、祈りをささげる。筆頭信奉者としても、敬愛する主神のためにも、これ以上心配させるわけにもいかないのだ。

ひとしきり、祈りを捧げ、久しぶりに這い上がったことによる疲労も回復し始めたころ、ついでとばかりに、飲み干していたポーションの瓶を無造作に放り投げ、捨て去る。

電波を受信していたから気付かなかったが、這い上がった先は我が家ではないようだ。

刹那の時間観察してみれば、即座に場所を把握した。ここは、レシマスの入り口であり、*あいつ*が踏破し、偽りの預言者『ゼーム』さえも叩き埋め、世界の要点を観測した偉大な冒険者。

そんな<前人未踏のロリコン>である*あいつ*であれば、できないことなんてないと思える。それは、切磋琢磨しあった友人の中だからこそわかることであり、バグじみたことであっても納得できてしまう。

おそらく窒息でミンチになった後、<帰還>に近しい魔法でもかけられたと考えればできないこともないのだろう。

考えるだけ無駄であり、この空腹感がとても不愉快で狂気度がじりじりと沸き起こっているのを止めるのが先だ。

ただ、早くエーテル製の装備品でも食べたいのだが、手持ちで食べても後悔のないレベルの装備品はないし、<四次元ポケット>内の在庫も魔力とストックが勿体なく感じてしまい、食べるという選択肢を選ぶことができないでいた。

あなたは、意外とケチで、もったいない症候群を患っているのだ。

どうせ使いきれないくらいのストックに、魔法書の予備も確保しているというのに、どうでもいいタイミングでストックを消費するくらいならミンチになるほうが安いのだ。

そういった<事故死>が起こらないようにいつもなら(すくつ探索)、エーテル病発症済みのペットである少女を非常食代わりに<たべる>のだが傍にはいないようだ。

おそらく我が家に帰っているか、死んでいるか。<復活>を使えばいいのだが、さすがに潤沢なストックを持っているわけでもないので、おとなしくバーに向かえばよいだろう。近い街にでもよって手ごろな装備でも買いつつペットを起こして、食べるか。

幸いにも、一番近いのはヴェルニースであるし、全く投資をしていない武具屋というわけでもない。値段は張るが神器品質の装備品程度なら売っているだろう。使いきれないゴールドを使うときでもある。

エーテル製の装備売っているといいのだが。

と一人つぶやき、主神の瞳の様に澄み渡った空を眺め、きりきり痛み始めた飢餓感を忘れるために、口の中を噛み切り堪能する。少しだけ狂気が芽生えるのを覚えつつ、ヴェルニースを目指した。

 

 

*---*

 

 

ダルフィとラーナ以外の町では、ガードが存在する。

そして、決まってこんなことをあなたに対して言うのだ。

「スタァァップ!のこのこ現れるとはな!今日こそは罪を償ってもらうっ!」

いつも通りの怯え切った声を聞くと狂気も落ち着くというものだ。

声を張り上げる顔なじみなガードを見ると、可哀そうな程顔を青くし、それでも職務としてなけなしの勇気を振り絞って威勢を張る様は、非常に滑稽で面白い。

特に幼女なガードが震えている様子なんてものは本当に良いものだ。心が緩み、思わず食い殺してやりたいくらいだ。

怯えている無邪気な幼女の踊り食い程、人肉のおいしい食べ方はないということをしっかりと覚えておいてほしい。

大好物であり依存してまでいるのだが、今は腹が減っているが人肉の気分ではなく、エーテルを食べたいのだ。それこそ、エーテル製のもの以外を食べようものなら、体が破裂してしまう位に。

おなかへった。いつもなら、特製の毒薬を投げつけじわりじわりとなぶり、サンドバックに吊るして遊ぶのだが、体がバラバラになってしまう程に腹が減っているのだ。早々に立ち去ってしまおうか。

 

思考をしている最中でも、遠巻きに投石や弓で遠距離攻撃をしてくるが、戦闘になった瞬間、対象の時間がおいて行かれる。速度という絶対的で絶望的な実力差は、自己認識の時間に認識ずれという結果を生み出す。すべてを見切り、自身の小さい体をほんの少しずらし回避する。当然のこととしてどれも当たることはなく、悪戯に地面を散らかすだけだ。

 

高速に<インコグニート>を唱える。

唱えている時には攻撃は来ない。同期の取れない速度が決定的な結果を生み出す瞬間である。彼らは止まって見えるが、必死に動いている。こんなものは子供のおままごとでしかない。

そうこうするうちに魔法は完成し、別人に成り替わる。

さあ、武具屋に行こうか。

今は、愁眉を開くガードたちを流れ見するだけで勘弁しておいてやろう。めんどうくさいから。

 

 

武具屋に入る前に<インコグニート>を再度唱えなおす。

準備が終わり、扉をあげ、店に入ると年増のババアがそこにいた。

 

「ルンルン♪いらっしゃいませでおじゃる♪」

 

ババアのくせして気持ち悪いんだよ。死んで贅肉と一緒に年齢も落としてこい。

これを見て顔を歪めず、ましては、祝福された鈍足ポーションを大量に投げつけないのは、なんて慈悲深いのだろうか。あなたは、自身のやさしさに驚愕しながら話を始める。

 

「………見ない顔でおじゃるな。まあ、よいでおじゃる。好きに見て行ってくれて構わないでおじゃる。」

 

その言葉を合図に売り物を一つずつ吟味していく。

いくら見ても、店の規模に比べてあまり品質のよい装備品が存在しない。神器品質がないこともないのだが、何かしらマイナスエンチャントがされているものか呪われているものばかり。しかもエーテル製として括れば神器品質どころか奇跡品質も存在しない。

まるで、あなたのような上限の冒険者がすくつの低階層ゴミ装備処分をしたかのような気配がする。

 

「最近は売り上げがいいでおじゃるなぁ。良い装備は3日まえにすべて買い取っていくお得意様がいたでおじゃるな。」

 

ああ、そういうことか。やはり*あいつ*か。割と最近に思い浮かべていた顔が彷彿する。

やはり、やつだけは近いうちに見つけ出して吊るさなければならないと決意する。

ここぞとばかりに、自身でも非常に端正だと思う顔を歪めた。

花緑青色が特徴的で、あどけなさとはかなさといったものが大部分な奇麗すぎる顔に苦虫を嚙み潰したときのような皹が刻み込まれている。本来、蠱惑的な感情を与える瞳である筈が、今では光を飲み込むほどの混濁さが渦巻き、映すのは狂気と血みどろのサンドバックのみ。

即座に考えを変え、淡い青色のヴィンデールクロークが翻る。あなたは、店を後にしようとするのだが、一言言葉が投げかけられたのだ。

 

「……ひやかしでおじゃるか?」

 

流れるようにホルダーから杖を引き抜き、店主の頭をとらえる。

インパクトの瞬間、その余計な一言は形を変えてこぼれ落ちていく。

 

「いやでおじゃる?」

 

遺言の末に、終末の日は訪れた。

 

 

*----*

 

 

―――終末。

ヴェルニースでは、日常のように訪れる赤い空の艶やかな日。非常に魅惑的で儚く美しい淡い青色。それは高濃度エーテルであり、それが嵐のように吹き荒れ、あたりを満たす。

美しいものには、棘があるように、エーテルは身体の異変を冗長させ、末期には死に至らせる。無差別に人に作用し、無力な住民や駆け出しの冒険者では、それだけで致命的な損害を被るのだが、終末はそれだけでは終わらない。

真髄は、多種のドラゴン、巨人、それらが、文字通り湧き出て優雅に踊り始める。

その舞踏は、自身の逃げ道をなくし、多種属性のブレスにより、その身を冥界へと叩き落す。

 

そんな『美しい日』なのだ。

 

店主の頭蓋を「ミンチよりひでぇや」状態にしたおかげで、飛び散る髄液や血液が天井、床、ユニークな風穴の開いた壁を汚らしいものに変えている。

運よく辛うじて形を保っていた店主の目玉が床に転がり、あなたを見ている。だがそんなことを気にせず、誇らしく掲げるその杖は、神器(アーティファクト)であり、★《フリージアの尻尾》と呼ばれる。

これは、我らが主神と偽る邪悪なる神を処分した時に手に入れた聖戦の記録であるが、同時に『美しい日』を呼ぶ非常に有能な武器である。まあ、デカすぎるため室内で使うと文字通り愉快な風穴を開けてしまうのが難点であるが。

風穴から吹き込むエーテルを肺一杯に吸い込み、吐き出す風味を舌で味わう。

魔魅とはこのことだ。エーテルに魅了されしは、すべからく口に運ぶ。これは、あなたにとっての真理なのだろう。

悪魔的にかわいいエーテルに魅了されていると、突然、店が炎に包まれ、屋根や壁が吹き飛んでゆく。

ミンチの中に蓄えられていたのか肥えた油が悪臭をまき散らしながら燃えた。

炎のブレス。赤トカゲ(レッドドラゴン)の仕業だろう。あなたが気持ちよくなっているのに邪魔しやがって、駆除してやる。

悪臭に眉を顰めながら、杖を握り直し、風を置き去りにし、駆け出す。

駆け出すと同時に赤トカゲを捕捉し、冷たい青の線を残しながら輪切りにして行く。その際、何が起こったかなど赤トカゲ程度が気付けるはずもない。相手が1の行動であなたは28動く。これは、覆らない。

 

あなたは、空腹を飛び越えて飢餓である。だから、早くかかってきなさい。

ゴミが何体居ようが、平等にミンチにしてやる。

振るう杖の一撃が大地を割り、空気を砕く。そこには技術などなく、ただの力任せでしかない。だけど、それで十分なのだ。杖の鉤が、嬉しそうに獲物の首に食らいつき、きれいな法線を描きながら舞う姿を瞳に映す。

舞う鮮血と千切れ飛ぶ肉片が織りなす霧の中を、微笑を浮かべて散歩する様に練り歩く。

力ない住民たちと駆け出しな冒険者の悲鳴は、甘美な程に美しいイントロ、ずり落ちる死体の音をテンポにして、あなたは踊り子であり、どんな音楽だろうとそれに合わせておどることができる。なぜかおひねりは飛んでこないので非常に残念な気持ちになりながらも、より良い食事のための踊りを見せつける。

 

「きゅいきゅいきゅーい!」

 

ユニークな断末魔を遺言として残しながら、最後の青っぽいトカゲの首が落ちゆく。

あまり聞かない遺言なので首を傾げる。<復活>を使ってもう一度殺してみるか。なんて少しばかりは考えたが、あなたは友人と違って博物館を運用していないし、コレクターでもないのだ。はく製も落とさずにただの肉塊になっているトカゲに見覚えはないが、なんとなく<四次元ポケット>を唱え、死体を入れた。

エーテルの嵐は、今もなお健在ではあるが、ごみ共はすべて平等に駆除した。

巻き添えで何人か冒険者もミンチにしたり、破裂させたり、首を刈ってしまったことは、非常に痛ましい事実であり悲しくなってしまったが、殺した奴の持ち物はすべてあなたのものであるので、死体をあさってやれば供養になるのだから、特に問題はないだろう。

というより、どうせすぐに這い上がってくるのだから何匹殺そうが一緒でしょう?

 

戦闘による高揚を落ち着かせるため、体を伸ばし緊張を解く。速度の同期を感じ、喧騒が戻ってきた。この感覚がやめられない。あなたと同種と戦うのも楽しいが、同期する時間の快感を知ってしまうと定期的に味わいたくなるものである。

とはいえ、量が量だったため、少しほっとしたかった。だからなのか、最後のトカゲことを再度気に掛ける。見たことないということは、ユニークなトカゲだったのだろう。攻撃のパターンも記憶しているものとは違い、妙にすばしっこく、ブレス?を多用してきた。

あのトカゲの発生場所はどこなのだろうか。

がれきの山と化した町にエーテル風が駆け抜けている。嵐のようだったのが噓のように心地よい風になり始めていて、視界が良好になった先に、少し変わったムーンゲートが落ちていた。

近づいて<鑑定>をしてみれば、世界最高のムーンゲートであることがわかる。しかも、天然の色違いであるため、ムーンゲート使いとしては非常に魅力的なものとなっている。

こんなものが終末狩りで手に入るなんて思ってもみなかった。

これだから、終末狩りは、やめられない。

 

先ほどまでの狂気や飢餓感は薄れ、幼子に玩具を与えた時のように無邪気に瞳を煌めかせた。

これがどこに繋がっているかわからないが、いただくには一端持ち上げないといけない。

久しぶりに心から胸をときめきかせながら、異質なムーンゲートに触れた。

 

そこで、あなたの記憶は途切れる。

 

 

*-----*

ハルケギニアの地で起きる大厄災。

6000年の因縁が地に眠り、対立は激化する。

数多くの戦争と和解が生み出された時代。

これは、因縁の終わりの物語。

 

 

――――召喚の儀式。

それは、『始祖ブリミル』による起源から、脈々と受け継がれてきた儀式であり、貴族の一生のパートナーを決める、そんな神聖な出会いの日である。

この世界では、『始祖』という言葉には絶対的な力があり、その影響力は計り知れない。

特に召喚の儀式と言うものは、特別なものである。なぜなら、『始祖』の使い魔による、余りにも偉大な伝説によって形作られている為だ。

偉大な伝説というものは、神聖化するには適切なものであり、暗黙の了解を生み出している。よって召喚した使い魔は、召喚した時点で締結し、使い魔が死するその時まで、変わることのないパートナーとなる。

 

 

ここに一つ、澱みのない少女の声が静かに紡がれる。

 

「我が名は、タバサ(・・・)。五つの力を司るペンタゴン」

 

天を差し聳える中央の搭を前とし、微かに吹く風と共に少女の髪は揺れる。少女の立ち振る舞いから、自信が感じられる。いや、自信というよりは”できなければならない”といった気迫がそうさせるのかもしれない。

雪風のような少女の傍らには、大きな棍棒のような外観をした杖を携えている中年の男が一人。その男は、少女の、召喚の儀式を見定めるべく観察している。

少女は、残りの呪文を唱えるため、息を吸い込む。

 

「我の運命(さだめ)に従いし、"使い魔"を召喚せよ」

 

言葉に想いが込められ、その端々が空気を凍結するかのような幻覚を生み出しながら、少女は自身の身の丈以上もある大杖のラウンドグリップの様に丸まった先端を突き出した。

膨大な精神力消費した感覚が起こる。空間に異常を起こすほどのそれは、魔法の完成を意味し、自身の映し身となるモノを召喚するための扉が形成されたことを示している。

さらに捻じれ螺旋状に空間を削り切り、歪み力場が生まれた。それが発生させる青い粒子交じりの突風によって、注目していた人々は、違いなく目を瞑り、吹き付ける風の強さに腕や手を使って風よけにする。

最も近い場所にいた少女にも例外なく強い風が容赦なく吹き付けており、反射的に大杖を持つ右手を顔の前に置き風よけにした。

1秒か2秒か、もしくは1分だったかもしれないが、唐突に風は止み、凪の海を思わせる。そして、召喚門の傍では、淡い青に煌めく光が蛍のように漂っていることに気付く。

 

―――自分の使い魔は何だろうか…?

 

この規模の影響と自身が立っているのがやっとになるほどの精神力を消費したのだから、期待できるだろう。

その期待は、絶えず静かに保ち続けた闘志は、本来もつ気炎を取り戻すほどのもので、目を開き自身の映し身となる使い魔の姿を見るためにずれた眼鏡を直しながら瞳に光を灯らせた。

 

それは、揺れる蒼の粒子を携える人型であり、蒼の粒子と同色の衣を身に纏い。それから伸びる体躯は繊細さを感じさせ、力をかければ折れてしまうのではないのかと考えてしまう。

そんな繊細さを加速させるような肌は、真昼に浮かぶ白い月の様に透き通り美しく儚くを表している。揺れる銀糸のような髪と暗澹たる花緑青の瞳が胸を衝く。

ここまで美しいものが存在するのだろうか。今後この美しさを超える存在と出会うことなど、有はしないのでは?そんなことを考えてしまうような、いとけない娘が一人そこに佇むのだ。

目を、心を、奪われるとはこの事なのかもしれない。思考のすべてを向けて、自分の好みでさえ上書きされてしまうほどの美しさ。ただ、その思考に影を作るのは美しいものには棘あるというものであり、目の前のいとけない娘には、数々の書籍に残る伝説の最強の妖魔(エルフ)を彷彿とさせる特徴であるのだ。それは、逸脱した容姿もさることながら、人間種ではありえない『耳の形』である。

 

少女は思う。

どこまで、馬鹿されれば終わりが来るのだろうか。

地獄には、終わり()がないのだろうか。ないのだろう。

少女は想う。

この世界に、信仰するに値する存在(『始祖』)など、有りはしないと。

 

それでも、私は…………。

 

 

*------*

 

 

底なしの海の様に空が青い。油断していると落ちてしまいそうだ。

呆然と空を見上げ浮上しきらない意識の中、漠然と思考を走らせる。

ここはいったい何処なのだろうか。

確か、異色のムーンゲートを拾おうとしていた筈なのだが…。

思考の潤滑が良くない頭で現在の状況を思考し、イルヴァでは既に失われた筈の姉妹月(ラクリナ)のような2つの月から視線を逸らし、がやがやと小うるさい聞きなれない音のする方を向く。

そこには、ノーランドと大差ない人間たちが互いの顔を見合わせながら、こちらの様子を伺っていた。その際、あなたの後ろにいた中年のおっさんが移動していることには特に気にしなくとも良いだろう。

どうせ、ここにいる生物すべて目隠しして座っていて寝ていても勝てるのだ。巨人と蟻程に格が違う、覆しようのない戦力差なのだから気にする必要性はない。

 

「見ろよ、あの『雪風』が人間を召喚したぞ!」

 

召喚(コモン・マジック)を失敗したのか?」

 

「雪風ってトライアングルだろ?失敗なんてするもんか」

 

「そうさ!これは失敗なんかじゃない!所詮『雪風』なんてそんな程度のやつなんだよ!ハハッいい気味だ!」

 

男や女のやかましい音は正直、感に触る。駄馬の『パコパコ』並みにイライラさせられるのだからたちが悪いのだ。思わず<魔力の嵐>を唱えて消し飛ばしてしまいたいレベルだが、不思議と今は機嫌がよいし、なんとなくだが、話している言語を学習(・・)してきたし、それに……。

脳内で一言愚痴りつつ、数々のうるさい鳴き声の対象であろう目の前の少女に目を向ける。

自身の肉体よりも1・2歳年上と思われる可憐な容姿。その表現に違いなく発達途上な体躯は庇護欲をそそられる。何よりも心を衝くのは、仄かに揺れる、エーテルの結晶の様に青々としたショートの髪。そして、晴れの海を感じさせる底抜に透明で、純粋で、静かなる輝きを宿す青い瞳。

あなたに対し、期待を寄せるなど、あなたの知る限り片手ですら数えられない人数でしかない。

その期待の暖かさがどこか我らが主神に似ているのだ。その瞳を見るだけで、内に秘める狂気が収まることが示していることだろう。

弱みに付け込まれ、少女のために、なんでもしたくなってしまう(・・・・・・・・・・・・・)そんな考えが止まらなくなってくる。

それに、少女の瞳の輝きには、期待以外が混じっている。それはつい最近見たのだ。あなたが死なない(埋まらない)ための目的であり、見届けたいものに近しく、あなたはもう二度と持ちえないものだ。

 

思わず触れたくなってしまう。そう思い、今にも崩れ落ちそうなほどの力しか残っていないのに、それに打ち勝とうとする意志を強く瞳に映した少女に、手を伸ばす。

 

「っ!フル・ソル・ウィンデ!」

 

中年の男性の声が響き、怯え切った少女を浮かせ、後退させる。

少女の安全を確保し、そのまま隙を与えず次の魔法を唱える。

 

「ウル・カーノ・ジエーラ・ティール・ギョーフ!」

 

杖の先から炎の大蛇を解き放ち、うねりを上げ、百に引き裂き、焼き尽くさんと無謀にもあなたに食らいつかしてきた。

しかし、あなたは、その炎をどうにかすることはない。

火炎属性であなたに、怪我を負わせることなどできやしないのだから当然だ。

そもそも、火に対する耐性を最優先で獲得するノースティリスの冒険者に、火炎属性で攻撃するなど、センスがなさすぎてあくびが出るくらいだ。

百歩譲って、許容するのならせめて音属性で攻撃してほしいものだ。

 

「ミスタ・コルベール!なぜそんなことをするのですか!」

 

褐色肌の女性が声を張り上げ、コルベールと呼んだものに詰め寄る。

 

「あなたたちは何を見ていたのですか!あの容姿……。特にあの『耳の形』は…、エルフです!」

 

コルベールの叫びが終わったと同時に炎はかき消され、中から無傷で姿を現す。

その様子に、魔法を放った本人であるコルベール自身も喉を鳴らし、また、全体にも緊張が奔る。

だが、誰一人悲鳴を上げることはなかった。否、上げることなど出来なかった。煩くすれば、目立つことをすれば容赦なく殺される。そう考えたのだろう。

 

エルフか、懐かしい言葉を聞いた。ああ、そうかまたそれなのか。あなたの種族(エレア)はどこまで行っても嫌われ者なのだな。

古くより在る強国「ザナン」の皇子の宣言である「異形の森とそこに住む民「エレア」を根絶」は根深く、嫌われ者になることはあなたにとって当たり前のことであるし、ヴィンデール掃討によって人々はさらに恐怖しているのだから。

だからなのか、エルフ(エレア)ならしょうがない、敵対行動をとっていなくとも攻撃してしまうのは当たり前のことだと受け入れられてしまう。

ここが平行世界であることは既に理解しているが、どこもかしこも敵だらけというのは、世界が全く違うもの(・・・・・・・・・)に変わろうとも一緒であることに安心さえした。

しかし、今回は許そう。本来であれば敵意を向けられた瞬間に、開戦の狼煙をあげ、肉片を降らせるが、今、好き勝手殺してしまったら、あの少女に嫌われてしまう可能性がある。しかも、丁度解読(言語学習)も終わったことだし、平和的に言語で交渉しようじゃないか。

 

現状は戦うつもりも襲うつもりもないことをコルベールと呼ばれる者に伝える。

そこの少女と話をさせろと。ついでに次攻撃してくるのなら、容赦はしないことも。

 

「っ!しかし、私は、私の生徒を守る義務がある!」

 

おっさん(コルベール)には聞いてないのだ。お呼びじゃないのよ、ということだ。

 

「ミスタ・コルベール、私に任せて欲しい」

 

「しっしかし…」

 

「任せて欲しい」

 

それは、強い意志を感じさせる言葉だった。覚悟を、利用するという覚悟を決めた言葉だった。

現にあの過保護なおっさんを押しのけて、先ほどまで震えていた存在と同じ者なのかと疑ってしまうほどに力強く歩む。それは、英雄になる者の歩みだ。よく知っている(・・・・・)

やはり、似ているのだ。あいつ(狂信者)に。

だからこそ、あなたは少女に名前を問う。

 

「私は、『雪風』のタバサ。貴女を使い魔にする者」

 

使い魔とはなんだ?

 

「使い魔とは、メイジの生涯のパートナー」

 

ペットとは、少し違う様に感じるが考えとしては同じ様な物だろう。

あなたは少しだけ思考する。返答は決まっている。だが思考する。特にやりたいこともないのだ。

長く生きてきた中で初めて体感することである『ペット』になることを捨てるなんて勿体ないだろう。

 

決まっていたが、答えを送ろう。

先ほどの炎で服に煤がついていたので、払いながら微笑みかける。

タバサの…〝お姉ちゃん〟の使い魔(ペット)になろう。

 

「ありがとう。」

 

「我が名は、雪風のタバサ。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

 

?一体なにを行うのだろうか。イルヴァなら首に縄を括りつけるだけなのだが…。

徐々に近づいてくるタバサの顔に見惚れながらも無抵抗でその流れに従う。

あなたの頭の後ろに手をまわし、動かないように優しく固定した。

なにかおかしい。これでは、まるで。

そう思考をしたところで、タバサは、あなたの唇を奪った。

 

美味い!これはあなたの大好きな味だ!

あなたは変容した!★<『雪風』*****************の体液>の虜となった!

 

 

 

腹が減りすぎて目が回り出した!

頭の中が、掻き混ぜられたかの様にくらくらし始めると同時に、右目に焼印を押したような鋭く疼く痛みが走る。

混濁する意識と激しく主張する痛みの中で完全な飢餓状態になっていたことに気付く。接吻が完全に引き金になったのだろう。

まずい、早く何か食べないと……。

囃し立てられるかの如く、体は空腹を主張を訴えかけ、ドクドクと鳴る心臓の音が嫌に耳に残る。

焦点の合わない瞳をお姉ちゃんに向ける。

すると、どうだろうかお姉ちゃんが沢山いるではないか。

これだけいればひとりくらいたべちゃってもなくならないよね。

 

 

可愛らしく、いじらしいく口をあける。

 

あなたの口がお姉ちゃんに触れようとした瞬間、頭の中で何かが切れるような、焼けつくような音がした。

同時に体の自由が利かなくなる。

お姉ちゃんに抱きかかえられる感触を最後に、あなたの目の前は真っ暗になった。

 

 

*-------*

 

 

暗くなったのは一瞬だった。

瞬く間に暗い視界は一変し、意識が飛ぶ前まで見ていた景色とは、ほぼ変わりない光景が目に映る。

ただ、視界一杯に映る愛おしいお姉ちゃんと妙に視界が狭いことが気にかかるが、たいしたことはないのだろう。

あなたが、気にすることなど一切ないのだから。

 

 


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