※卍解について本作解釈がかなりありますので、そのあたりとか注意
かつてのある日、更木からとある
虎徹志道は、十一番隊に設けられている事務室で外に出ないまま、かりかりと筆を走らせていた。万年筆まで発達する前の、いわゆる鉄製のような羽ペンである。
『あの
「実際、あれで変に努力しないと敵を倒せないタイプの斬魄刀だからね、
『群れなきゃ最弱だけど群れたら最強になれる……、かもしれないとか、霊的な扱いが脆弱すぎて話にならねーだろ。卯ノ花八千流さん的にはよ』
「そこはほら、
『別にみんなの力合わせてないし、最後は打ち首だろあれ』
志道の作業机に腰掛ける幼い少女。白いおべべに、今日は青い帯。年頃は十代前半か、適当に切りそろえられたおかっぱ頭に、愛らしい顔立ち。もっとも色々やる気がないのか、覇気のない表情で肩をすくめる。
そんな彼女からの嫌味とも何ともいえない言葉を、ごくごく普通に受け流す志道であった。
「というより、尺南くんだっけ? あれから舎弟みたいな感じになってるって言ってたけど、そのあたりは相変わらず?」
『何でそんなことシドーが聞きたがるか知らねーけど、別に変らねーよ。……というか、使い手共々色々察してんだろ』
「………………」
『生贄みてーにくべてるのが嫌でもよ、家族のために生き残るっつー選択肢をとったのはお前だぜ? シドー。そのために
「……その言い方だと語弊があるかな」
『へえ? じゃあ何、言ってみろよ』
「
ぴくり、と。
少女の肩が震え、半眼になって視線を逸らす。頬から耳にかけて赤らんでいるように見えるのは、決して気のせいではあるまい。
とはいえ志道は黙々と手元の書類を書いており、白いメッシュのような色合いが混じった前髪が揺れる。
『……ふん! ばーかばーか、女たらし』
「文句が雑だなあ……」
『そんなだから、わ、
「さーき?」
『だいたい、シドーもシドーだ! 吾妻の方にだって恐い恐い義妹がいたってのに、
「いや、いや。ナンパじゃないってアレは……。あと最悪、
『…………ま、少なくとも泥棒猫が相手じゃなきゃ、ガキも5人も6人も
「ろく、にん……、あ、あはは………………、そこはほら、錫音ちゃんも
『私の目を見て言えよ、あぁ? シードー? しーどーおーくーんー?』
「あはは……………………」
ひたすら顔を上げない志道の顔を、机から降りて覗き込もうとする少女。視線をそらしてそれに応える(?)志道にため息をつくが。
「………………でもまあ、僕もほら……
『────────────────────────────────』
そして、少女の時は止まった。
目を見開いて、瞳から光と言う光を消失させて、口を半開きにして左側が半笑いのように引きつり、音もなく、決して心乱さず、総合的には静かに笑っているような青い表情。何を想像したのか、ナニを想起したのか、大変味のある表情だ。
そして
事務室の扉を左右に開いて開いて現れ出たのは、
毛深さはまるでなく身体はやせ型だが、しっかりと全身にしなやかな筋肉がついており不健康な印象は不思議と受けない。
短く借り上げた黒髪と……、左右に分かれた、いわゆるケツアゴが特徴的な壮年に見える男。
ニヤリと笑う口元は、やや黄ばんだ左右の牙が目立つ。
そして扉を閉じると同時に、男は扉を背に腰を下ろした。
「お帰りなさい、鬼厳城
「また見透かしたようなことを言うっスね……あっ、いや、見透かしたようなことを
言い辛いなら昔みたいに敬語でもいいですよ、と特に気にした風もなく微笑む志道に。
うるせぇ、とため息をつく、
ばつが悪そうに目を背け、志道から微笑まれるだけであった。
※ ※ ※
「────そらよ! 戦いの最中に気を逸らしてるなんざ命とりだぜ、オイ!」
「五助君よりは事前準備いらないにしてもなあ……っと、
「って、俺の
そして、現在。
周囲一帯が無限に続く暗所かつ、辺り一帯に漂う黒々とした闇の
この場において、背中から四つの蜘蛛脚のごとき
ただし、普段とは明らかに様相が異なっている
背負うは、巨大な鉞がごとき刃。
左右の手には、それぞれ馬鹿みたいに大きな鉈のごとき刃。
それらが柄尻から伸びた鎖でつながれた、かろうじて以前の鬼灯丸の三節根を思わせる構造となっている。
いかにも大味といったその刃を振るう男、班目一角に対して、志道はどこか気を抜いたまま、雑に相手をしていた。
ただし、雑といっても攻撃の手には容赦がない。
「ッ! この────」
「追花六」
追花六、と。
彼がそう口走り、斬魄刀を振るう。
より正確には、背部の絡繰腕が先行して動き、その動きの軌跡をなぞるように志道は手に持つ始解のそれを振るう。
それらの動きが重なった瞬間。確実に一角の刃は、徐々に徐々に砕かれていた。
元はいつかのように、志道によって一角が現世に連れられて行ったことが切っ掛け。
現世との移動中における断崖内にて突如「
現世の江戸近辺、とある方角にある神社へと赴いた彼は、そこの神棚に奉納されているとある刀を手に取った。
まるで蜘蛛の巣を思わせる、八方に糸の
霊体のままの志道が持てたことから、それが斬魄刀であることは察せられるが。
『何スかそれ、四席』
『ん? んー、誰に対してとは言わないけど
折れた刃の先端を、そのまま布でくるんで懐に仕舞った。
例によって明らかに何かヤバそうな気配プンプンであるし、下手につっつくと藪蛇で自分も被害を受けることを悟っている一角は、何も言わず見て見ぬふりをすることにする。
さて。既に当初の目的の人員配置の確認は終わってるし、さてこのまま
『じゃ、せっかくこっちの都合に合わせてくれたお礼だし────卍解の使い方、教えてあげるよ。多分普通に使ってたら、
そんな、やはり何かを見透かしたようなことを言い……、同時にとても何か、致命的なことを言う虎徹志道であった。
そんな彼が、早々に自らの卍解で周囲を暗黒に包み。
ここでならいくら卍解しても霊界には情報が伝わらない、とまで言って来る。
彼からすればわざわざ手間をかけてるほどの雰囲気ではないが、基本的に卍解は、それなりに霊力を使うもの。
『稽古をつける……というと本気で斬術に取り組んでる君たちからすれば、舐めるなって話になりそうだけどね。それでも卍解を使うってことの意味合いについては、一日以上の長があると思うよ。だから、手合わせしよう』
『……前も思ったんスけど、どうしてそう、気にかけるんスか。ある意味、俺たちはアンタからすりゃ
少しバツが悪そうにしているあたり、一角は伊達に流魂街でも育ちが良い方の男ではない。
これが相棒たる綾瀬川弓親であれば、己にかけられたそういう気づかいに対して、丁寧には返答
ただ、だからこそ流魂街付き合いも瀞霊廷付き合いもそれなりにやってる一家の長故にか、志道も多くは含みをせず、ただ苦笑いを返した。
『
『初代?』
『うん。……詳しくは語らないでおくけどさ。被害者は、あまり増えない方が良いからね。のびのび虚退治をしてもらいたいし、ウン…………』
『お、おう……』
なお、何故か唐突に震えだす志道には困惑せざるを得ない一角であったが、それはさておき。
『それに五助君────鬼厳城剣八
だから気にせず殺す気でかかってきて大丈夫さ、と。志道の言葉に、そうかよ、と返すしかない一角だった。
流石に「(自分が更木剣八に殺されないために適度な弱さを持ったままでいて欲しいから)稽古をつけられなかった」というニュアンスまでは汲み取りようはないものの、表向きに聞こえるだけの悔恨でも、やはり少し気遣う一角。
だからこそ、稽古に関しては容赦しない。
何だかんだと自分たちの業務を楽にしてもらっているのは事実だし……、将来的に
何より、一度は更木剣八に一太刀入れ傷を残したらしいこの男を前に、全力であたらないのはむしろ失礼だろう。
だからこそ一角は、様々な理由から初手、卍解を使った。
「────────卍解、龍紋鬼灯丸……‼」
「追花六、と」
「って、は、はァ!?」
もっとも、直後に早々、刃の先を当たり前のように削って来て、目ん玉ひん剥かざるを得なかったのだが。
何だあの追花六という技意味不明すぎだろ、というのが一角の率直な感想。
直後「見栄を切っても、警戒は怠らない方が初代好みかな? 常在戦場、一対一にこだわってくれる相手ばっかりじゃないし」と
流石に弓親以外への第三者初お披露目ということで高揚していた気分に冷や水をかけられ、上等だゴラァ! とそれはそれは元気よく斬りかかっていた一角であった。
そして、戦況はあまりにも不利…………というか、弄ばれていると言って良かった。
「得物が変わってるから扱い慣れてないかな? ────追花六」
「重心の管理が甘い、よっと。ほら、すぐ転んでしまう。────追花六」
「得物の距離感が変わったなら、変わったなりに近接の別なやり方も考えないと。────追花六」
「ふあ……。っと、ごめんごめん。────追花六」
「回道も引っ張り出して来たのは評価するけど、センスは有っても実戦で戦闘中に扱える練度じゃない。────追花六」
「ほら、殴り合うなら斬魄刀から手がお留守だ。────追花六」
「その卍解の能力は大体把握したけど、総合的な霊圧を全部斬魄刀に食わせるって言うのならもっと立ち回りを考えないとね。────追花六」
「あっ! あっちに志乃ちゃん、何でいるのッ⁉────追花六」
活殺自在。指導自体は基本的にごもっともな内容なのだろうが、こうも常時微笑まれたまま、一切の感情の揺れ動きもなく、見守るような
というか途中、あくびして適当にあしらったりしてたし。
何で親戚の小娘がその辺にいるとか指さして注意を逸らそうとかアホみたいなこと言ってんだよと。いや、釣られた一角自身にも問題があるといえば有るかもしれないが。いや、まあ、そのあたり素の面倒見が良い一角故にこそ、緊張感を全く感じない志道の言葉につい釣られたのはあるかもしれないが、さておき。
先ほどから執拗に、鬼灯丸を斬って斬って、砕いて斬ってくる志道は、完全に遊んでいるように一角からは見えた。
決してそんなことがないのは付き合いからして間違いないのだが、どうにも態度が悪く感じる。
まるでこの程度の理不尽は日常、普通のことだと言われているかのようで。
…………まさか本当に、常にそう考えてるとか、そういうことはあるまいが。
「いい加減、年貢の納め時だ────!」
一角の卍解、龍紋鬼灯丸は寝坊助である。
それはそう、
実際、この卍解の鉞こそがその証拠。
攻防の衝撃と、一角自身の戦意に応じて徐々に徐々に卍解としての膨大な霊圧を開放していく。
目安のように、鉞に掘られた龍の紋様が赤く染まっていくのだ。
だからこそ今、両手の刃のほとんどが砕かれたからこそ。
最高潮に赤く輝く鉞で斬りかかる一角であったが────。
「はァ────────────ッ!」
「────────追花六」
「────! ……ッ!?」
しかしそれも、あっさりと斬られてしまった。
砕けた鉞。もはやその一部と、両手の柄らしき部分に辛うじて残った刃くらいで繋がれた、出来損ないの卍解でしかない。
とはいえ流石に、ここまで一方的に封殺されてしまうと、らしくないくらい呆けてしまうのも無理はない。
「霊圧が籠ってない……と、言うとちょっと語弊があるかもしれないけどね。浅打を無駄に肥大化させてしまうのと似たような感じかな? 質感としては。
卍解らしいハッタリの利いた霊圧は出てるけど、放出される霊力を霊気として御せてはいない。
それも含めて斬魄刀の特性なのだとすると────」
ただ、その場でレクチャーするように余裕を持った志道の姿が気に入らない。
何とか一矢報いなければ。この男程度は踏み越えていかなければ。
そうでなければ────自分はあの男に、自分の惚れた背中に追いすがって行けるわけないだろうと。
ごくごく自然にそう思えたのは、果たして状況が
右の、まだ刃が残っている方の鉈めいた刃で特攻をかける一角。
刀身が小さくなった分、結果としてむしろ扱いやすいサイズには戻ったと言えるのだが。
もっとも、それとて志道には届き得ない。
追花六、と、それすら当たり前のように刃を砕かれ。
幾度も幾度も繰り返した流れ。
こちらを馬鹿にしている訳ではないのだが────
「そんな目で人のこと見下してねェで────
「ッ!」
そしてもはや、砕けきった柄のまま。
一角は構うことなく殴りかかり、笑った。
そうだ。ずっとずっと、まるで
時折、四番隊舎をちらりと見たり、卯ノ花隊長を視線で追っては、どこか遠くを見て何かをこらえる様な……、付き合いの浅い連中には全く察されないその微妙な機微を、一角はそれなりに理解していたのだ。
だからこそ、そんな、
ひたすらに強さを追い求めていた時代の、育ちの良さに逆らう様な荒々しさは、流石にもう取り戻せない。生涯をかけて追うべき背中と言う物を、一角はその目に焼き付けてしまったのだから。
だがそれでも、否、だからこそ彼は叫ぶのだ。
それなりに義理も恩も。
畏れも尊敬もあるから。
だからこそ。
流石にそれは予想外だったのか。絡繰腕も庇うことなく、柄で横から殴打される形になった志道。
眼鏡が吹き飛び後方に飛ばされ、ごろごろとしばらく転がる。もっともある程度の距離で絡繰腕が虫の脚のように体勢を立て直させて、直立の状態にもっていく。多少気持ちが悪い動きをしているが、別に虫が嫌いではない一角は気にしない。
そして志道は、その場で大笑いした。
「あははは────! いや、本当凄いよ、一角君! さきはともかく、無間裂詠が、鳩が豆鉄砲喰らったような顔してるのなんて初めて見た……! あっはははッ!」
「そいつはどうも! 少しはわかったかよ、更木隊の流儀って奴をよォ!」
「フフ……! いや、頭ではわかってるんだけど、実際こうやってみるとねぇ、うん、痛いや!」
何がおかしいのかさっぱりわからないが、志道はひたすら笑い。
そして、一角の手元を指さす。
何事かと思ってそこを見れば、ひたすらに垂れる見覚えのある粘液────。
「おぉああああ⁉ おま、お前、これ、何でこんな血止め……、いや卍解にも入ってンのかよぅ⁉」
「いや、それが
「あァ……?」
未だ上機嫌に笑いながら、志道は周囲に散らばる鬼灯丸の刃片を見渡す。
「今の十一番隊は直接攻撃系縛りがあるから、弓親君以外にはその血止めは自分で仕込んでると言いふらしてるみたいだけどね。多分、そういうところが鬼灯丸からすると気に入らないんだと思う。自分が追い求める先にたどり着くのに必要なはずのピースすら、自分の流儀と言い聞かせてる見栄で隠して、で、結局使わないから使い物にならない。さっき一瞬使おうとしていた回道しかり、恥も外聞もかなぐり捨てて自分が持てるもの全てを集めようという気概が感じられない」
「おいィィイッ⁉ いきなり喧嘩売ってンのかアンタ!⁉」
「まさか! いや、だからそうなんだよ。『本来は回道系の才能あふれてる』にもかかわらず中途半端に隠してるせいで使い勝手が悪いその特質が、そのものと言う形でその血止めにも出てる。せっかく君の趣味に合わせた能力に仕立て上げてるってのに、鬼灯丸的には忸怩たる思いだったんじゃないかな」
「あぁ?」
話が見えない、と苛立つ一角だが、志道の言葉に合わせて段々と鬼灯丸の柄が震え、排出される血止めの量が増えてくる。
量が制御されてないそれを見て気持ち悪ィと冷汗をかく一角だが。
「ヒントは出そろってる」
卍解でありながら砕けやすい刀身────。
霊圧を経るごとに攻撃力が上がる
そして鬼灯丸から出てくるこの血止め、
そこまで提示されて、一角の脳裏に一つの可能性が思い浮かぶ。
そしてそれは、奇しくも志道が続けた言葉に集約されていた。
「どれほど傷だらけになっても、例え何度その身を砕かれようと、何度でも立ち上がり喰らいついて、いつか叩き潰す────そういうケンカは、好きかい?」
「ハッ、ハハハハハハ────────ッ! 何だよ、そういうことかよ! 嗚呼、通りでお寝坊さんな訳だ。というか、お前別に寝坊助とかじゃないからな。全く……、愛してるぜ鬼灯丸ゥ!」
そして笑いながら、一角は
そしてその日。
現世から帰還した二人は、それぞれ異なる対応で迎えられる。
妙にぎらぎらした、さながら戦っている時の更木剣八そのものを思わせるような高揚感を胸に秘めた一角に。綾瀬川弓親は驚きと共に、何か一皮むけたのだと確信をして微笑み。
【おまけ】
剣「志道の野郎、一角相手に随分骨を折ってくれたみてェだからな。
や「でもこてっちゃん、骨折ってるから戦えないんじゃない?」
剣「馬鹿言え、アレはそういうのが本質じゃねぇから……っと、着いたな。…………ん?」
────×××××♡ ×××♡ ×××××××♡ ッ、あっ♡ 志道さ、ん……っ♡(※自主規制)
や「剣ちゃん?」
剣「…………今日は帰るぞ、やちる」
や「えっ何で? なーんーでー? ねぇ剣ちゃんってば、
剣「良いから帰るぞ。……嗚呼、俺の知らねェ戦いだ。死ぬんじゃねェぞ志道」