中央アジアの乾いた風が吹き荒ぶ野戦基地。
兵士達は慌しく行き交い、メカニックはあちこちで大声を張り上げている。
作戦開始の時が近かった。
セニア――――アレクセニア・サフォエ少佐は、反攻作戦の要であるレイヴンとやり取りをしている。
生真面目な美貌に、艶めかしい褐色の肢体を兼ね備えた才気溢れる女性だ。
若くして少佐に昇進し、政府軍の重要戦力であるAC小隊の隊長に任命されていた。
数年に渡り、国を脅かしている『反政府軍』は元々は小規模で閉鎖的なコミュニティであった。
それが国の主要輸出品である、豊富な地下資源の独占を目論んだ企業の扇動と支援を受けて重武装化、伝統派を名乗り蜂起した。
彼らは厳格な宗教的伝統への回帰を謳っている。
だが、この国における伝統とはむしろ宗教色の薄い世俗的なものであり、何世紀にも渡ってそうした生活を送ってきた。
反政府軍の支配地域では、伝統の建前の下、多くの民衆が弾圧され自由を奪われている。
セニアのように女が兵士になることは許されず、それどころか職業選択の自由さえ著しく奪われている。
さらに彼らの価値観において僅かでも異教的、あるいは煽情的であると見なされる装いをして出歩くだけで人々に過酷な処罰が課せられていた。
裸同然のスキンタイトスーツを主体に構成された戦闘装備を纏った、AC部隊のドライバーは容姿に優れた若い女性達であり、物理的にも精神的にも反政府軍との戦いにおける主力を担っている。
悪魔と見做され、憎しみの的になるには十分だった。
士気を挫くために反政府軍はセニア達ACドライバーを捕らえて公開処刑することに躍起になっていた。
セニアが恐怖を感じていない、と言えば嘘になる。辱めと苦痛に満ちた死のイメージを抱きながら戦場に立つ度に、極薄のスーツでくるんだ褐色の裸体は汗塗れになる。部下のACドライバー達も同じだった。
政府軍はアーマードコア・ノーマルで編成された部隊を保有しており、その点で反政府軍に対して大きな優位を得ている。
コジマ粒子による絶対防御力と超音速機動、AMSと呼ばれる神経接続システムによる圧倒的な操縦性を実現した次世代機ネクストに対してノーマルと呼称されるようになって久しいが時速数百kmで走行、限定的な飛行すら可能とする大出力ジェネレーターによって大火力を振るう戦闘力は未だに他の通常兵器を圧倒している。
セニア自身、小隊を率いて装甲車両や戦闘MTなどで構成された敵部隊を幾度となく蹴散らし、その性能を実感してきた。
先制攻撃で被った被害から立ち直ると、戦況は政府側に傾き始めた。
しかしながら、反政府軍は企業からさらなる支援を引き出して、政府軍に対して大きな脅威を与えてきた。
政権転覆の暁に提供する利権の割合を大きく増やす代わりに、企業は戦局を逆転させる強力な兵器を引き渡したのである。
宗教的シンパシーと利権を確保したいという強欲が結びついたそれは、旧式ながらコジマ粒子ジェネレーターと粒子装甲(プライマルアーマー)を搭載した大型MTであった。
ノーマルの火力でも歯が立たず、長距離砲により戦闘部隊はおろか、非戦闘員ごと市街が焼き払われている。
地球連邦政府は地域紛争の調停に消極的であり、外宇宙に特務艦隊を差し向けて植民惑星を威嚇し、反乱を鎮圧することにご執心だった。
太陽系外の人々は地球を自分達への搾取によって成り立っている完全なるユートピアであると思い描き、憎悪を向けている。
だが、実際には各地に紛争の火は絶えることがない。
加速度的に悪化する戦況に、政府はアーマードコアを駆る傭兵――――レイヴンを頼ることにした。
ノーマル中隊でも手に負えない兵器に対して、たった一機のACを切り札にしたのである。
野戦基地に現れたレイヴンは驚くべきことに金髪碧眼に白い肌をした美しい少女であった。歳は十八にさえ達していない。
「困難な任務になりますが、どうかよろしくお願いします」
「気にしないでくれ。そうした仕事のためにレイヴンは在る」
レイヴンはツインテールにした金髪を風に靡かせる。芸術的なまでに美しい肢体に白いパイロットスーツを張り付けた美少女レイヴン、ササラ・レイフィールドは涼やかに微笑んでいる。
内腿部分が大胆にカットされ、股間部をハイレグに切り上げたスーツには装甲部がなく、軽やかな印象を与える。
着用者の際立った容姿と相まって、股座の鋭角なカットによる視線誘導効果は高く、同性であるセニアの視線も釣られそうになっていた。
作戦前から緊張で汗が滲んでいるセニアに対して、ササラは平然としており、緊張や不安の色は欠片もない。
大人びた少女が向ける笑みに己の不安が薄れるのを感じている。
セニアの部隊のノーマルと共に露天待機しているAC"アークセイバー"の下で作戦の最終確認を終えた時、セニアは駆けてくる気配を感じた。
「ごめんごめん。迷子になっちゃった」
戦場には相応しからぬ、明るく、蠱惑的な女の声だ。黒く艶やかな髪はシニヨンに纏めており、小走りで駆けてくる。
ササラの相棒であり、サブパイロットとして主に電子戦を担当する黒識リゼという少女だ。
彼女は作戦前に催して、トイレを借りてきた。
股間部の鋭角が煽情的な黒いパイロットスーツを着込んだリゼがササラの隣に立った。
「調子は問題ないか?」
「もう絶好調だよ♪ お腹の中も空っぽにしてきたし」
ササラに尋ねられ、引き締まった下腹部をさする素振りでアピールした。
「なら行こうか。アレクセニア少佐、私達は予定通り、これより出撃します」
「はっ! 御武運を!」
セニアはお手本のような敬礼をした。
「そちらも幸運を」
「高い報酬を頂いたんです。完璧にやり遂げますよ~♪」
ササラとリゼは乗機であるアークセイバーに向かって歩いていく。
セニアはスーツの切れ込みから大きく露出した、少女達の肉感的な臀部が二つ並んで揺れる様に目が離せなかった。
官能的であり、凛々しいお尻達であった。若くして過酷な戦を前に、臆することのない境地に達している
セニアはスキンスーツの腋やお尻から、恐怖に由来する濃厚な汗臭を発散している己が恥ずかしくなった。
アークセイバーに乗り込んだササラとリゼ。メインシステムを起動し、二人で機体のチェックを行う。
「「全システム・ノーマル」」
少女達の涼やかな声が重なる。高機動戦型の中量二脚ACは律動的に歩み、駐機場を離れる。
「皆不安を感じている。私達の獲物は余程恐ろしい相手みたい」
トイレに行くついでにリゼは兵士達の様子を観察したり、話し掛けて情報収集をしていた。
リゼ自身に恐怖や不安の色はない。金髪ツインテールの少女が執るアークセイバーという剣の鋭さを知っているからだ。
「望むところだ」
ササラはフットペダルを踏み込む。最大出力でブースターを吹かしてアークセイバーは離陸、戦場に向かう。
チェイン・ディフェンス・システムズ製のタンクMTと戦闘ヘリによる先鋒が荒野を駆ける。
その後方で悠然と進む砂漠迷彩の鉄巨獣。全高30mを超えるホバー推進巨大MT"サルカン"は甲殻類を思わせるシルエットだ。
装甲にレーザーキャノンを含めた火砲が埋め込まれている。
各部に整波装置が装備されており、半球形に展開する粒子装甲が陽光を歪めている。
会敵したアークセイバーは中型ミサイルとリニアライフルの掃射による完璧な初撃で敵前衛を蹴散らし、目標と相対していた。
装甲の脆弱部を射抜かれ、タンクMTはその火力と装甲を活かす前に沈黙している。
残りの敵は本命のサルカンと脅威度の低い数機のヘリだけだ。
「この距離ならば援護射撃ができたろうに。高みの見物とはな」
金髪ツインテールの美少女レイヴンは真っ向から巨大な敵を睨む。
「厭な感じ」
巨大MTから漂う気配を機敏に察するリゼ。
砲門が開かれ、ミサイルランチャーから噴射煙が迸る。ロックオン警報がコクピットに鳴り響く。
地を踏み締め、巨大な敵を睨んでいたアークセイバーは通常ブースター、オーバードブースト、エクステンションの追加ブースターを同時点火。
1000km/hを超えて加速しながら飛び立ち、サテライト機動を開始する。
ネクストACのようにAMSによる神経接続を行っていないため、制御はササラによる完全マニュアルだ。
四肢を休むことなく動かし、碧眼で油断なくモニタと計器を監視する。
コジマ粒子装甲による保護がないノーマルACとドライバーにかかる負担は相当なものだ。
しかし、ササラとリゼはスーツが包む豊かな胸を激しく揺らす重力加速度を物ともしない。
「ECMアクティベート、妨害率は76%」
蠱惑的な長い脚を広げて踏ん張ってGに抗いつつ、リゼはコンソールを操作する。
アークセイバーの電子戦装備は最新鋭のもので、リゼはその扱いに長けている。
高速飛行するACに蠅のように集るミサイルがシーカーを潰され、あらぬ方向に飛んでいく。
一撃で重量級ノーマルをも粉砕する火砲をアークセイバーは悉く回避している。
残ったヘリを盾にして榴弾砲や機関砲を防いだが、同士討ちによる動揺の気配はなかった。
稼働砲塔から放たれた青白く輝く閃光が直撃コースを取るが、アークセイバーは機体をロールさせてこれを掠める。
装甲を飛沫で僅かに融解させながらリニアライフルとミサイルで敵の粒子装甲減衰を試みる。
ミサイルの爆風が絶対的な防御力を持つコジマ粒子の鎧を揺るがし、貫通力に優れたリニア砲弾が畳みかける。
貫通はするが、MT本体の強固な装甲に阻まれている。
時折、小型の砲塔や整波装置を打ち抜き損害を与えているのが、ササラというレイヴンの技量を証明していた。
大型MTサルカンのコマンダーシートに玉座めいて腰掛ける男は伝統派指導者の長子であり、次の指導者となる者だ。
どこか気だるげな、冷酷な眼差しで蒼天を駆けるACを睥睨する。
プラズマ噴射の光翼を背負い、白と青に彩られた英雄的(ヒロイック)な姿は不愉快だ。それは、幼い頃の自分が志し、父に否定された姿だった。
男は暴君の鋳型に嵌められていた。
既にミサイル担当に二度振るった懲罰用の乗馬鞭を弄びつつ、厳かな言葉と傲慢な態度で従僕たるオペレーター達に命じて敵機の撃滅を命じる。
背後の主の懲罰に怯えながら、火砲担当オペレーターは弾幕で機動を制限してから旋回砲塔のレーザーキャノンを発射。
急上昇して攻撃をやり過ごした敵機の油断を狙う、的確な攻撃ではあった。
しかし、ササラはこれをハンマーヘッドターンで躱し、地表スレスレで機体を立て直し、滑走を開始。
同時にアークセイバーから眩い閃光が放たれ、爆発音と衝撃がサルカンのコクピットブロックに響いた。
粒子装甲が射抜かれ、レーザーキャノンが爆散したのだ。
アークセイバーはネクスト用背部レーザーキャノン"EC-O300"をカスタマイズして搭載しており、総弾数を大きく減らすかわりに速度、貫通力、威力全てを向上させてある。
ササラは際どい角度から敵のレーザーキャノンを吹き飛ばすとミサイルとリニアライフルで立て続けにミサイルランチャーを破壊した。
誘爆により、サルカンはさらなる被害と振動を被る。
己の駆る無敵の戦車に受けた屈辱と、悲鳴を上げて苛立たせる従僕への怒りに任せ、指揮官は乗馬鞭を無表情で振るった。
旋回で追いすがる巨大MT。高速のブーストで最大火力を発揮する正面から巧みに逃れ、反撃を加える白と青のAC。
主砲と副砲を潰して弾の切れたレーザーキャノンをパージ。直後、砲弾が反対側に背負っていたミサイルランチャーを掠める。
リゼがすぐさま中型ミサイルのジョイントを切り離す。爆風に煽られるが、ササラはそれさえ利用して飛び上がってみせる。
より高速で飛び回り、リニアライフルで粒子装甲を射抜くが決定打にはならない。
「ダメ。リニアじゃあの装甲を削り切れない」
速力向上で増した重力加速度に歯を食いしばりながらリゼが戦況分析を口にする。
冷静沈着なササラも苦痛と緊張に汗を滲ませている。露出した臀部に掻いた汗がシートに染みる。
サルカンの砲塔の三分の一は黒煙を噴いており、弾切れになった砲もある。粒子装甲の強度も低下しており、大型MTは実戦投入以来、最も消耗していた。
「頃合だな。毎度毎度無茶に付き合わせて悪いな」
「いいの。ササラと一緒に潰されるなら幸せだから」
主要な武器を喪ったアークセイバーはサルカンとあえて正面から相対する。
地を踏み締めながらブースターを吹かし、最後の突撃のために力を溜める。
傷つき追い詰められながらも食らいつこうとする姿は、指揮官に優越感を与えるどころか激しい嫉妬を抱かせた。
甲高い噴射音を従え、オーバードブースターが起動。アークセイバーが飛び立つ。
機体を操るササラは空を薙ぎ払うかのような旋回機動を取らせて肉薄。
距離が詰まってきたら真っ向勝負だ。直進に切り替え、碧眼でまっすぐに巨大な敵を見据えた。
リゼはECMのモードを変更し、機体位置情報を攪乱する。狙いの甘い砲撃の弾幕が張られた。
「リニア、バースト」
ササラは音声入力コマンドでリニアライフルをバースト射撃に切り替え、突進しながら全弾発射。
ライフルのパージを飛んできた砲撃に合わせて盾にする。破片がアークセイバーを叩いた。
放たれた砲弾は一直線に粒子装甲を射抜き、サルカン下部のホバー推進ユニットを損傷させ機動力を低下させる。
アラートが喧しく響き始めたコクピットの中、指揮官の濁った魂に、白と青を纏った英雄(アークセイバー)ヘの憎悪と嫉妬の炎が躍る。
格納武装は搭載しておらず、残された唯一の武器は左腕のレーザーブレード"WL-MOONLIGHT"のみ、だがそれだけで巨大な敵を葬るに十分だった。
イレギュラーナンバーの畏名を冠する超高出力レーザーブレードは遺失技術の産物であり、ササラはその仕手なのだ。
左腕を振りかぶり、蒼く輝く刀身を抜き放つ。装甲に眩く反射し、大気をイオン化させる輝きは指揮官の狂気の最期の一押しとなった。
「突撃だ。あの悪魔を踏み潰せ」
死者で埋まった塹壕のように暗く、黒い声で命じる。言葉は鞭よりも効果的に従僕を従えることができた。
アークセイバーは全ブースターを駆使して加速。機体そのものが一振りの刃となった。
「エネルギーはブースターと月光に回す! いつものようにササラは思い切りやればいい!」
意識を刈り取り、肢体を押し潰すような重圧に耐え抜き、コンソールを操作するリゼ。
少女が咆えるのはササラと共に戦う時だけだった。
粒子装甲をACの質量による突進で紙のように抜いた。
空いた右手を巨大MTに向けて翳しつつ、月光を構える。
執念深く照準を定める機関砲の殺気を肌で感じると、ササラは着地、片脚を軸にターンをかけて砲弾の雨を回避。
フレームとアクチュエーターが悲痛に叫びながらも主の命に従い、極限のハイGマニューバを続ける。
「はぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
戦乙女の絶叫。ササラは金髪のツインテールを靡かせ、四肢を躍動させながら機体を操り、アークセイバーで薙ぎ払う。
斬撃の瞬間、蒼い刀身は過剰なエネルギー供給を受けたことで輝きを増している。
レーザーブレードは光の奔流へと変わり、サルカンのコクピットブロックを呑み込む。聖剣の輝きは周辺まで含めて丸ごと"削り取った"。
それだけではなく、巨体の大部分が熱放射で青白く輝きながら崩壊していく。
アークセイバーは天高く舞い上がり、旋回。一直線に野戦基地へ帰投する。
「差し引きギリギリ黒字って感じかな」
リゼは機体の損傷をチェック。不調を起こしたアクチュエーター類を別の部位で代替させつつ、報酬から武装の再調達、機体修理費を引いた額を計算した。
「いいさ。最近は楽に稼がせてもらっていたからな」
それに人助けになった、とササラは口にしない。
だが、サブシートに腰掛けるリゼは心を読んだかのように「そうね」と応えた。
アドレナリンの匂いが残るコクピットの中で二人は笑い合っていた。
同時刻。セニア率いるAC部隊は主力戦車を中心とする機甲部隊と共に陣地突破の最中だった。
アークセイバーからのミッション完了の報告が送られ、全部隊に共有され、歓声が上がる。
逆に次代の指導者になるはずだった男と、自軍に勝利をもたらすはずだった兵器を喪ったことで反政府軍の兵士達は大きな動揺が広がっていた。
機を逃さず、アローヘッド・フォーメーションで吶喊する政府軍AC部隊。
「気を抜くなよ! 全機、突入!」
セニアは部下に檄を飛ばしながら最大出力のブーストで先陣を切り、ロックした敵機にライフルで射掛け、ミサイルを浴びせた。
褐色の裸体を縁取るように装着されたスーツの下、恐怖で滴っていた汗はすっかり引いている。
政府軍の破竹の進撃が続き、二か月後には反政府軍は降伏した。
指導者は長子を皮切りに立て続けに息子を失い意気消沈しており、逃げ遅れた企業の連絡役や軍事顧問までもが政府軍に捕縛され、紛争の黒幕は陰謀の失敗に高い代償を払うこととなった。