1カ月後。
日本で変わらない日常を送っていた。
「・・・・・zz・・・」
「ほらー。起きなさい女優さん。今日早いんでしょー。」
隣で寝ている妻を起こす。結婚式はまだだが、入籍はした。
二人一緒に寝る時は服をちゃんと着てくれるんだが。
部屋を別にすると裸で寝てしまう。真冬ですら裸はどうかと思う。
そこそこ良いマンションを買って、3LDKの部屋に住んでいる。
まさか将来、こんなところで生活するとは思わなかったな。まだ20代も前半だってのに。
「……すぴー☆」
「・・・・そうですか。」
もう起きてた。狸寝入りだったわこの人。
こういう時はこうしないと起きてくれない。愛らしい顔に遠慮なく近づく。
「おはよう。」
「・・・・うん。おはよ。凪。」
唇に軽いキスを捧げた。
白雪姫のつもりらしい。
「ねぇ・・・」
「はいはいなんでしょう。」
「だっこして運んで?」
「はーい。」
お姫様抱っこするのは良いんだけどさ。
貴女はいま裸ですよ?シャワールームへお連れした。
最初は裸を見て気が気じゃなかったけどね。もう慣れた。
一花がシャワーを浴び終え、朝食のテーブル。
「今日は?帰ってこれるのかい?」
「うん。日帰りのロケなの。」
「そりゃよかった。」
「嬉しい?」
「とっても嬉しいさ。」
「ふふ。良かった。・・・でも明日からは・・・・うーん。」
エッグベネディクトが食べたいと言ったので朝食はそれを作った。
基本的には俺が家にいて、専業主夫的な役割を担っている。
・・・・自分の部屋をすぐに散らかすからな。大事なこと。
一緒に寝る時は一花が俺の部屋に来るから問題ないんだが。
ちなみに明日からは仕事で一花がしばらくいない。
くっついていける時は一緒に行くが、今回は遠方一カ所集中型ではなく、
あちこちを飛び回るのでちょっと遠慮した。
「今日はずっとおうち?」
「そうけど・・・細かい仕事が終わったら、
ちょっと二乃と三玖のところへ行こうかな。」
「お客さん、増えたんだっけ?」
「うん。ファンの聖地になっちゃってるとか。」
「あはは。今度サインしに行かないとだね。」
今日、俺は面談なし。軽い翻訳が何件か入っている。
別に納期は緩いし、今日片付けなければいけないわけではない。
それよりも姉御に聞きたいことがあった。
「じゃあ、行ってくるね?」
「行ってらっしゃい。」
「・・・・何か忘れてない?」
「はいはい。」
いってらっしゃいのちゅーを求めてきたので応える。
最近は彼女の方が病みつき気味である。
ナギっち依存症にはご注意を。
「・・・・ん。ふふふ。行ってきます。」
「行ってらっしゃいませー。」
仕事を少し片付けて、二乃と三玖のカフェ。なかのに来た。
風太郎の実家の1Fが店舗になっている。
「はい。これで良いの?」
「そうそう。コレコレ。上手く出来なかったんだよなぁ。」
エッグベネディクトを注文。今朝のはまあ上手く行かなかった。
やっぱこれだよコレ。二乃の作るこれ。実家のような安心感。
「作り方後で教えてくれよ。今日作ったのは微妙だった。」
「別に良いわよ。アンタらのお陰で客も増えたしね。」
「今日は居ないようだが?」
「たまにはこんな日もあるわよ。むしろ歓迎よ。最近は忙しすぎ。」
カフェには一花の写真が額縁に入れられて飾られていた。
もうばれちゃったしな。隠さなくても良くなった。
「ナギ、これも食べて。」
「ん?・・・三玖が作ったのか。腹減ってるし貰っとこう。」
三玖がこちらに来てエッグベネディクトを差し出した。
本日3つめ。まあ良いけど。
・・・・あれ。こっちの方が旨いかも。
「三玖、これの作り方教えてくれ。さっき食べたやつより美味かった。」
「ハァ!?アンタ何言ってんのよ!アタシがこいつに負けてるって言うの!?
アンタはアタシの舎弟でしょ!こっちのレシピにしときなさい!」
「すいません姉御。」
いや姉御呼びしてたけど。気に入ってたのかよ。
二乃組舎弟頭の有坂です。姉御に一生ついて行くっす。
でももう結婚したんで組は抜けさせてください。すいやせん。
「くすくす。それはナギ好みに作ったから。あたりまえ。甘いのが好きでしょ?」
「お。常連の特権だ。それなら二乃のレシピの方が良いか。」
「ぐっ・・・・まあ良いわ。それなら納得。いつも通り作っちゃったわ。」
客への心遣いは三玖の方が上のようだ。
三玖は案外接客業向いてるな。
「ナギ、お仕事は?今日はもう終わり?」
「終わったねぇ。店じまいだ。」
「良いご身分ねー。奥さんに働かせて、自分は悠々自適に家でゴロゴロですかー?」
「結構疲れるんだぞ。カウンセラーの仕事。
色んな事言ってくる奴がいるしな。あと一花の部屋の掃除。」
「一花の部屋・・・・ああ、そうだったわね。」
「カウンセラーってどんな相談がくるの?」
「それは喋れないな。守秘義務だ。高い金貰ってる代償。トップシークレット。」
「気になる・・・・・」
「ご高名な人達も、俺達と何ら変わらないってだけだよ。」
そんな会話をしながら、日常が過ぎていった。
「ただいまー!」
「おかえりー。」
女優さんがわが家にクランクイン。
本日の業務を終えて帰ってきたようだ。
「お風呂湧いてますよー。」
「ありがと。先に入っちゃうね?」
「はーい。」
意外と早く帰ってきたな。
今日は撮影の調子が良かったんだろう。
世間に対して正式な結婚報告をしてからは、
仕事の量が逆に増えたらしい。良い起爆剤になったな。
織田社長からもメールが来た。
『君もこれでアクターの仲間入りだ』 と。
まだ諦めていないらしい。迷惑メールのリストに叩き込んでおいた。
「右側がもう少し下かな~。」
「この辺かい?」
「うん。その辺り、お願いね?」
一花がマッサージを要求してきたのでそれに答えている。
首と肩が凝っているらしい。しかしこの態勢、やりづらい。
俺は一花の正面から手を回して、背中のツボを押している。
俺の顔が見えないのが気に入らないらしい。
「ん~。極楽ですなぁ。このマッサージは。」
「やりづらいんですが。」
「ダ~メ。このままね?」
「はーい。式の日取りは1年後で良いかい?」
「良いと思うけど・・・一応、確認しておくね?」
「えぇ。既に来年のスケジュール抑えられてんの?」
「所々埋まっちゃってるかも。おっきな映画の撮影があるから。」
大人気だこと。自慢の妻だな。
このスケールだからな。まさに世界を股にかけている。
時々俺が夫で良いのかと不安になるが・・・・
「♬~~~」
当の本人は満足気なので、良いとしよう。
誰かに譲るつもりもないしな。
「・・・こんなことになっちゃったけど、凪は・・・後悔してない?」
「え?何が?」
「今回のスキャンダル。凪、注目浴びちゃったけど・・・・」
「別に?いつかはバレる事さ。覚悟は出来てたよ。
そうでなきゃ一花に告白なんてしてない。」
「・・・ふふ、そっか。そうだよね。」
「むしろキミは良いのかい。こんなんが相方で。」
「ううん。凪じゃないとダメ。今のわたしがあるのは、
あなたのお陰なんだもん。」
「そら嬉しいね。」
「これからも、宜しくね。また何かあった時は・・・助けてね?」
「心配いらないよ。いざとなったら消えてしまえばいい。
二人で、光の中へね。もうそれだけの貯金があるだろう?」
「ふふ、そうだね?一緒に失踪しちゃおっか?」
「今まで散々世間の為に尽くしてきたんだ。最後くらい自分勝手でもいいさ。」
口ではそう言ってくれてはいるけれど。
実際そんなことになったら、どうするかは怪しいね。
だってキミは……おねーさん。責任感が強いから。渋々ながら付き合ってあげるよ。
何せ妻が大女優。
これからもうるさい連中が付きまとってくるだろうが・・・・
そういう連中をうまく煙に巻くのが、俺の仕事だな。
目の前の愛する妻の体をほぐしながら、未来の結婚式について考えていた。
あいつには・・・余興とスピーチ、どちらを頼もうかな。
ハプニングはこれからも続くだろう。
でも、蓄えはたくさんあるからね。
いざとなったら二人で行方不明になってしまえばいい。
君も、俺も。今まで多くの人々を笑顔にしてきた。たまには開き直ったっていいだろ?
「一花。」
「なぁに?」
「愛しているよ。」
「・・・ふふ、急にどうしたの?」
「いや。愛しい人だなぁと思って。つい出てしまった。」
「ありがと。わたしも・・・・凪の事を愛してます。」
「嬉しいね。これからも、ずっと一緒だ。」
「ふふ。・・・・うーん!」
「どうしたのさ。急に抱き着いてきて。」
「私、幸せだなぁって!」
「マッサージしづらいですー。」
「もうちょっとだけ我慢して?」
「しかし・・・奇遇だね。幸せなのは俺もだ。」
「ねえ、もう一回言って?さっきの。」
「えー。リテイクかい?仕方ないな。」
「・・・・愛しているよ。」
「・・・・私も。愛してる。」
おしまい。
ご覧頂き、ありがとうございました。この作品はここで完結とさせて頂きます。
二乃、三玖、四葉編を書きたいがためにCASE.2という話を一部投稿していましたが、私生活で仕事の方が非常に多忙になることになってしまい、進みが更に遅くなりそうだったため、断念させて頂きました。