主人公になりたくて! 作:無名魔剣士
俺とシドの死闘から、そこそこの時が流れた。
父親を殺してまたも行方知れずとなったローズ会長だったり、大勢の前でシドに敗北して以来表情に影があるアイリス王女だったり、色々と気になる事はあるが、なんだかんだ今まで通りの毎日が続いていた。
ちなみにブシン祭はクレアの優勝で終わった。
アンネローゼとアイリス王女は敗退、ジミナは失格、俺は実力偽装の為に「命を削りました」と血反吐を吐きながら説明したせいで棄権させられ、クレアの敵になるような実力者が一人として残らなかったからだ。
まぁ、アイツが頑張ったってのもあるだろうけど。
「現在、オリアナ王国は―――」
ミツゴシ商会の屋上。俺やシドが遊びに来るたびに通される豪華な空間。
俺とシャドウ、七陰全員(珍しいね)に他多数と、【シャドウガーデン】の主要メンバー揃い踏みで、定例報告のようなものを行っていた。
ドエム・ケツハットを取り逃がした、とか、蒸気機関の発明がどう、とか、俺が獲得した鉱山から得た利益でさらに事業を拡大させられる……とか。
相変わらず、ごっこ遊びとは思えないクオリティーだ。
「報告は以上です」
ベータの言葉の直後、シャドウがそれっぽい雰囲気を纏いながらつぶやいた。
「―――臭うな」
「ッ!?」
途端に慌て始める七陰達。
シャドウの事だから、大した意味も無く呟いたんだろうが……せっかくだし俺もノッておくか。
「あぁ。噎せ返るような、酷い匂いだ」
どうせ「血の匂いだ……」とかそういうのだろ?という確認の意志を込めた視線を向ける。
一瞬シャドウと目が合い、口角を上げたのが見えた。
七陰達はさらに騒がしくなる。各々自分の体を確認し始め、イータは真顔で制汗スプレーのようなものを吹きかけ始めた。
「そうだ、友よ。血の匂いだ。無法都市―――嵐が来るな。血の嵐が」
カーテンを揺らす為に開けていた窓が突然閉まる。
……ん?無法都市?
確か最近、『血の女王』がどうのって話を聞いたな。確か紅の騎士団の報告会で聞いたような………
外を見る。
窓の外には、いつもよりも赤い月が。
―――赤い月に、血の女王、そしてグール………なるほど、確かに嵐が来るな。
「『血の女王』、『赤き月』………宴の始まり、と言ったところか」
今まで何故か大慌てしていた七陰達が動きを止め、真剣な顔を見せる。
「まさか、あの伝説の『赤き月』が……!?」
「だとしたら、無法都市のみならず周辺国家も……」
「案ずる必要は無い。此度は我らが出向こう」
「お、お二方が……!?」
元々クレアに誘われてたしね。とは言わない。
血の女王の配下が最近周辺国家を悩ませているらしく、魔剣士達が派遣される事態にまで及んだ。
クレアはその一団の一人として無法都市へ向かうらしく、俺とシドも何故か誘われ、連れていかれる事になっていたのだ。
ま、元々血の女王には興味があったし、色町にも興味があった。
願ったり叶ったりとはまさにこのことだ。
「たかが赤いだけの月、恐るるに足らんさ……そうだろう?」
「ふっ……その通りだ」
感じ入った様子の【シャドウガーデン】メンバー達。
やっぱ良いね。良い役者が揃ってると、物語に深みが出るってもんだ。
★★★★★
無法都市とは、言ってしまえば巨大なスラム街だ。
暴力と腐臭に満ちた、掃きだめのような場所。秩序は無く、力こそが法となる。
まぁつまり、俺とシドにとっては楽園のような場所って事だ。
匂いにさえ目を瞑れば。
「なぁ、今何個?」
「えーっと、これで八つ目かな」
「はははっ、消極的な奴め。俺は二十三個だ」
「えっ、そんなにスられてたっけ?」
「一つ良い事を教えよう。やられる前にやる。やらなさそうなヤツでも取り敢えずやっとく」
「なるほど」
秋休み。クレアと一緒に無法都市へやって来た俺達は、魔剣士協会へ向かった彼女を置いて、適当に街を歩いていた。
シドは宿で待っているように指示されていたし、俺に至っては魔剣士協会に一緒に出向く事になっていたので、居なくなっている事に気づいたクレアはさぞお怒りだっただろう。
許せ。コレもまた主人公になるべく必要な事………色町で女を知らねばならんのだ。
今は正当防衛と資金集めを兼ねたスリで、
「ヒロはこの後、風俗行くんだっけ?」
「おうよ。お前は来ないんだろ?」
「興味ないかなー。でも観光も何も、楽しそうな場所とか無さそうだし……」
「先に塔行ってても良いぞ?あ、でも血の女王には会わずに待っててくれ」
「なんで?」
スライムまで駆使して財布を奪い始めたシドに、負けじと俺も血液を操作する。
もはや現金つかみ取り大会だ。そろそろ服の内側に隠すのも難しくなってきた。
「なんでってそりゃ、血の女王だぞ?吸血鬼のお姫様。そんなの、異世界ファンタジーのメインヒロイン以外ありえねぇだろ」
「そうかな?」
「そうだって。間違いない。俺には金髪赤目のロリっ子吸血姫の姿が見える。唯一わからないとすれば、ダウナーか、高飛車か……」
「そうだとして、なんで僕が先に会ったらダメなの?」
「胸に手を当てて考えてみろ、王女キラーめ」
「ヒロがそれ言う?」
どういう意味だコラ。
そんな風に話をしつつ歩いていると、色町が近づいてくる。
財布の数は既に五十を超えた。身銭を切る必要は無いだろう。
「んじゃあ、行ってくるわ。なんかあったら魔力信号よろしく」
「うん。終わったらそっちから連絡してねー」
★★★★★
無法都市には、三本の塔が立っている。
血の女王が住まう紅の塔。
暴君ジャガノートが支配する黒の塔。
妖狐ユキメの統べる白の塔。
俺が今いる色町は、白の塔のお膝元。
妖狐ユキメがここら一帯を仕切っており、俺が大人に
どうもありがとう。
「今日は、ありがとうございました」
「ふふっ、どういたしまして」
妖艶に微笑む可愛らしい女性。
赤紫色の髪をした彼女は、マリーさんと言うらしい。
「こんなに長い時間買ってもらったの、初めてかも」
「本当は何件か回る予定だったんですけどね」
「修行、なんだっけ?」
「女一人満足させられない男なんて、御免ですから」
「あら、素敵」
夕方から夜遅いこの時間まで、ノンストップで彼女と行為をした。
最初はリードしてもらうのがメインだったが、ある程度コツというか、やり方を覚えてからは俺も攻めに回ってみたりして、かなり充実した時間を過ごせた。
「でも、中々センスあるよ、君。王女様も、満足させてあげられるんじゃない?」
「………知ってたんですか、俺の事」
「当然。有名人じゃない。だからびっくりしちゃった。王女様とお付き合いしているのに、私を買うなんて」
「まぁ、色々事情があるんですよ」
「王族だし、ガードとか、硬いんでしょ?いくら『現代の英雄』なんて呼ばれてても、年ごろの男の子としては色々溜まっちゃう……とか」
「………そんな所です」
やっぱり、と微笑むマリーさん。
ただ実態はそうじゃない。俺は偽装恋人をやっているだけで、アレクシアとは何ともない。
が、それをそう簡単に明かすわけにもいかないので、曖昧な笑みで誤魔化しておく。
さて、そろそろシドと合流するか。
かなり長い事待たせちゃったし謝らないと―――ん?
服を着て、マリーさんにチップを渡して立ち去ろうかと思ったその時、突如部屋の窓が割れ、外から何かが飛び込んで来た。
咄嗟にマリーさんを抱き寄せ、飛んできた破片を体で防ぐ。
「キャッ!?」
「マリーさん、怪我は?」
「だ、大丈夫……だけど、今のは」
飛び込んで来たモノへ視線を向ける。
そこには、ただならぬ様子の人―――いや、グールが居た。
「ぐ、グール!?」
「無粋な野郎だな……マリーさん、危ないからちょっと下がっててね」
「う、うん……」
駆け足で部屋の隅へ逃げていく。同時にグールが跳躍し、マリーさんへ襲い掛かろうとした。
「俺を無視すんなよッと!」
魔力で強化した蹴りが、グールの顎にクリーンヒット。
グリンッっと回転した首が捻じ切れ、床を転がった。
数秒程ピクピク痙攣していたグールだがすぐに脱力し、動かなくなった。
「無法都市っていつもこうなの?」
「う、ううん。確かに最近、グールが出る事はあったけど……こんな、窓を突き破って侵入してくるなんて」
「『赤き月』、か。何とかする予定だけど………ねぇ、マリーさん」
「あ、ヒロ。ここに居たんだ」
服を着て、剣を腰に携えつつマリーさんへ声をかけるも、窓から聞えて来た声に遮られる。
シドだ。顔だけがひっくり返ってこちらを見ている。
スライムかなんかで吊るしているのだろうか。
「おー、シド。悪いな長い事待たせて」
「ううん、大丈夫。それよりさ、外がちょっと面白い事になってるし、一緒に来てよ。終わったんでしょ?」
「まぁな。けどもうちょい待ってくれ」
「わかった。屋上で待ってるねー」
言い終わるや否や姿が掻き消える。
マリーさんは目をパチパチさせて困惑している様子。まぁ、あんな登場の仕方をするヤツなんて見た事無いだろうしな。
「い、今のは?」
「親友。―――で、話の続きなんだけど、マリーさんって娼婦を辞めたかったりする?」
「…………なんで?」
「いや、この町も危険っぽいし、もしこの職をどうしても続けたいって訳じゃない限り、逃げた方が良いよーって」
「………そりゃあ、好き好んでこの仕事をやってるわけじゃないけど……でも、行く宛ても、お金も無いし」
「金も行く宛てもあるなら辞めるって事ね?なら……はい」
スリで稼いだ金を袋に詰め、マリーさんに渡す。
店の代金を引いても二十万ゼニーほどは入っている。職無しでも生活は出来る程度の金だ。
「えっ、これって」
「多分二十万くらい入ってる。で、行く宛てだけど、
「えっ、えっ……?な、なんで?」
「なんでって………いや、深い意味は無いけど。まぁ、大人にしてくれたお礼とか、長い事付き合ってくれたお礼とか……それに、マリーさん美人だし。俺は可愛い子に弱いんだ」
おっ、なんか主人公っぽい!……っぽい?
マリーさんはしばらくの間困惑した様子を見せていたが、結局受け入れたようだ。
服を着て、ベッド脇の机に隠してあった金と俺が渡した金をカバンに詰め込んだ。
「駅まで送ろうか?」
「そんなにしてもらって良いの?」
「走ればすぐだし。まだ無法都市でやる事あるから、ムノー家領までは自分で行ってもらう事になるけど」
「平気。寧ろ、駅まで送ってもらえるだけありがたいわ」
「じゃ、友達呼んでくるから待ってて」
窓から飛び出し、壁を走って屋上へ。
魔力信号で呼んでも良かったが、仮に追及されたら面倒なので今回は無し。
屋上では、シドがシャドウの姿でポーズの練習をしていた。
「あっ、ヒロ。終わった?」
「それが、俺の相手をしてくれたマリーさんって人が、この町脱出するみたいでさ。駅まで送ってあげる事になったんだ」
「そっか。着いて行ったら……うーん、モブ感薄れるかな」
「因みにお前の言う面白い事ってなんなんだ?」
「『暴走』だよ!」
「『暴走』?」
良くぞ聞いてくれた!とばかりに声量が上がるシド。
「『最古のヴァンパイアハンター』さんが言ってたんだ!『覚醒の時は近い、暴走が始まる、もう時間が無い……』って!」
「へー」
ヴァンパイアプリンセスとヴァンパイアハンター、『赤き月』に『暴走』………意味深ではある。
まぁ、お祭り的な意味では面白くなりそうだな。血祭だけど。
「グールの数も増えてきたしさ。このイベントは中々楽しめそうじゃない?」
「ま、お祭り騒ぎとしては中々、な。―――んじゃ、マリーさんの送迎終わったら連絡するから。先始めてていいぞ」
「おっけー。なるべく早くねー!」
飛び去って行くシド。
俺は一度真っ赤な月に目を向けて、すぐに部屋へ戻る。
これを楽しむには、どういう主人公を想定するのが一番なのかを考えながら。