主人公になりたくて! 作:無名魔剣士
シャドウに助けられ、ついでに互いの秘密を(意図しない形で)明かす事になった二人は、『一時の協力関係』という枠を超えた絆を結んだ。
血の女王の配下であり、千年以上を生きた吸血鬼。
症状こそ今は落ち着いているものの、いつ肉体が腐り落ちてもおかしくはない悪魔憑き。
絶対に明かしてはならない秘密を共有したことが、その絆を固くしたのだ。
とめすれば、熱いキスを交わした事も、その一助となったかもしれない。
とにかく、先ほどまでのちょっとギスギスした空気はどこへやら。二人は、素早く最上階へと向かった。
そして、辿り着いた先で見たものは。
「───そんな」
「あぁ、エリザベート様……エリザベート様……!!」
黒髪の少年の体を食い荒すように、蠢く血の触手。
その起点となっているのは、抉られたような傷跡が残る心臓部。
クリムゾンが、女王を復活させた。
その姿がどこにも見当たらない事に疑問を抱きつつも、メアリーは歯噛みした。
そしてクレアは、自分が間に合わなかった事にショックを受け、剣を落とす。
「シド、シド……!!ごめんなさい、私の、私のせいであなたを───あれ、服違うわね。よく見たら顔も違うじゃない。誰よアイツ」
「あ、う、うん。ごめんなさい、勘違いだったみたい」
かと思えば急に冷めた反応を見せるクレアに、メアリーも一瞬落ち着く。
だが、血の女王───エリザベートが目覚めた事は事実。
贄の体から心臓が
薔薇のように花咲いた心臓から、一糸まとわぬ姿のエリザベートが姿を現す。
彼女は微睡んでいるかのように目を閉じたまま、根のような触手を二人へ向けた。
悍ましい光景を前に、クレアが剣を構える。
「───戦うわよ」
「クレア……?」
「アンタ、さっき言ってたわよね。女王を助けたいって。今の女王は、アンタにまで攻撃を仕掛けようとするくらい暴走してるのよ。なら、『叩いて直す』しかないわ」
「そ、そんなムチャクチャな……!それに、あの状態を攻撃したとして、エリザベート様が無事でいられるか……」
「どんなものでも、叩けば直る。弟とその友達が言ってたのよ、間違いないわ。───さぁ、立ちなさい!大切な人を、これ以上傷つけない為に!!」
へたり込んでいたメアリーを鼓舞し、迫りくる触手へと刃を振るう。
植物的な見た目に反して強度が凄まじく、一撃で刃こぼれさせられてしまうが、それでもクレアは気丈に振舞う。
そんな彼女を見て、メアリーは心臓の上で拳を握った。
そうだ。今さっき語ったじゃないか。
私はエリザベート様を助けたい。あの時の過ちを、繰り返させたくない。
秘めてきた思いを、真の願いを、新たにできた
「───ありがとう、クレア」
「礼は勝ってからにしなさい!………来るわよ!」
「エリザベート様……今、お助けします!!」
一撃を防がれた事で、攻撃の密度が増す。
だが諦めない。『叩けば直る』かどうかは不明だが、諦めるつもりは無い。
復活したのなら、せめて救い出す。そうだ、この際彼女に人を殺させなければ良い。
直情的なクレアに影響されたのか。メアリーは、難しいことは一旦頭の片隅に放り投げた。
恐らく中にいるのだろうエリザベートを連れ出すため、暴走を止め犠牲を出させないようにするため、ただ前に進むことだけを決めた。
幸い、女王は贄だけでは不足しているのか、触手以外の攻撃をしてこない。
寝起き、というのもあるだろう。彼女を良く知るメアリーだからこそ、今この瞬間こそがチャンスだと奮起した。
───その、結果。
「ごふっ───」
「クレアーッ!!」
ついに防ぎきれなくなったクレアが、片口を触手に貫かれる。
血を吐き、力なく剣を落とした彼女を、触手が女王の元へと運ぶ。
メアリーが手を伸ばしても、届かない。
敬愛する女王は、親友の喉笛に噛みついた。
「そんな、クレア……エリザベート様……」
絶望し、崩れ落ちるメアリー。
これ以上誰も殺させないと決めたはずの女王に、よりにもよって親友を殺させてしまった。
全てを諦めたその瞬間、塔を駆け上がって女王の下へと飛来する黒い影が三つ。
それは、地下書庫で出会った少女───シャドウガーデン。
彼女達は吸血を続ける女王を容赦なくバラバラにして、クレアを救出した。
「まだ息はある………664番、665番はクレアさんの手当てを。666番は私の援護を。………御二方は必ず血の女王を討つべく行動される。ならば、それまでの時間稼ぎは私達の務め。良いわね、666番」
「はっ!」
「ベータ様!止血はできましたが、血が足りません!」
「応急処置を続けなさい。気休め程度だけど、しないよりはマシよ。───行くわよ666番!」
素早く駆け出したベータが、黒い刃を女王へ振るう。
既に再生を終えていた女王は、緩慢な動作で手を突き出すと、周囲に浮かべていた血液を弾丸に、一斉射を始めた。
スライムで盾を作り防御するが、すぐに破られる。
攻撃の一部が掠ったことに舌打ちして、ベータが後退───したタイミングで、女王の背後に忍び寄っていた666番がその首を狙う。
「ッ!?」
切り落とした首が、ぐるりと回転して666番を見る。
その瞼は未だに閉ざされたままだが、見られていると直感で理解させられたのだ。
防御姿勢を取ろうとした彼女は、次の瞬間またしても驚愕させられる。
後ろから強い力で引っ張られ、そのまま入れ替わるようにして巨漢が姿を現したからだ。
「ハーッハッハッハッ!!!楽しそうなことしてんじゃねぇか!!俺も混ぜろよ!!」
ぐしゃっ、と、再生した女王の首を今度は拳が潰す。
そのまま鉈を振り下ろそうとしたジャガノートを、血の塊が鞭のようにしなって、吹き飛ばした。
遥か遠く―――戦況を伺っていた『妖狐』ユキメの元まで。
「うごっ!」
「アンタ、なにしてはるん?」
「あ?てめぇ女狐!いつからいやがった!?」
「最初からでありんす。血の女王がどんなもんか見てはったけど……これは、ちょっと手に余りますなぁ」
「けっ。やる気がねぇんなら帰れや」
「そういうアンタはどないなん?」
言い争う二人の支配者を置いて、ベータと666番が再び攻撃を仕掛ける。
血を吸って力を取り戻したにしては、まだ戦える。
これなら、自分達でも時間稼ぎくらいはできる。女王が大きく動けないように、体を切り刻んで回復に徹させることを狙って攻撃を続ける彼女達を、メアリーは憐れむように見つめた。
「……あなた達は、強い………。でも、無理だ。エリザベート様のお力は、こんなものではない……」
諦めた様子で、ポツリと零す。
その言葉に答えるように、女王は微睡みから覚めたように目を開き、
「エリザベート様は………超低血圧だったんだ……!!」
先程の倍以上の血の弾丸が、無差別に撒き散らされる。
離れた場所に飛ばされたジャガノートも、青白い顔で生死の境を彷徨っているクレアも、シャドウガーデンもメアリーもお構いなしに、全てを破壊せんと振り注ぐ。
各々が防御するも、しかしその威力は先程の比ではなく。
全てが落ち着いた頃には、傷だらけの面々がそこにあった。
「……これが、血の女王の力──消耗するどころか、私たちの血を吸って回復……いえ、強くなってすらいる。これは………」
部下たちとクレアの様子を確認して、小さく笑う。
自分では血の女王に対処できない。このままいけば、確実に死ぬだろう。
なら、せめて主君の姉と───主君が自ら救い、力を与えた部下くらいは生かしておかねばならない。
シャドウとヴォイドが気に掛ける相手───ローズ・オリアナに、彼等二人を動かすほどの何かがあると、いくら調査しても終ぞ知る事はできなかったが。最期まで忠義を尽くすくらいは、成し遂げたかった。
「666番。664番、665番と共にクレアさんを連れて脱出しなさい」
「で、ですが!」
「あなたには、やるべきことがあるでしょう。……長くはもたないわ。女王があなたたちに追いつく前に、この塔を───この都市を出なさい。行って!」
「ッ───!!」
悔しそうに歯噛みし、666番は背を向ける。
それで良い、とばかりにフードの下で優しい顔を浮かべ、ベータは再び刃を握る。
玉砕覚悟。一秒でも多く稼ぎ、主君らの到着と、666番達の逃走を間に合わせる。
ここが私の死地───踏み出そうとした、その時。
手の肉が、そして踏み出した足が、
「はっ───!?」
「そんなっ……!?」
「ぐぅっ!?」
「あぁぁッ!!」
迸る激痛に、一瞬面食らって───部下たちの悲鳴に、ようやく事態を理解する。
体の一部が腐り、肉塊へと変化する現象……彼女は、彼女たちはソレを知っている。
ソレこそが今の彼女たちを形作り、そしてかつて彼女たちを何よりも苦しめた。
ベータは即座に、血の女王が悪魔憑きを再発させたのだと悟った。
自分達の中に眠る魔人の血───それを操ったのだ。
暴走する魔力と、耐えがたい痛み。そして何より───忘れていた、御二方と出会う前の絶望。
込み上げてきた吐き気を無理矢理飲み込んで、苦しみ悶える部下たちと───もう一人、悪魔憑きの症状を過去に見せていた少女に視線を向ける。
「あ、あ、あぁあああああああああッ!!!」
「ッ、クレア!!」
「クレアさん!!」
気絶しているにも関わらず、悲鳴を上げるほどに。彼女たちの比ではない症状が、クレアの肉体を急速に蝕む。
ボコボコと隆起するソレを、自身の魔力さえ制御できない状態では治すどころか、症状を緩和することさえできず。
完全にその姿が変貌するその瞬間まで、彼女たちはただ手を伸ばし、名前を呼ぶしかできなかった。
★★★★★
「あら、起きた?」
聞き覚えの無い声に、目を覚ます。
知らない天井───ついでに、見覚えのない若干破廉恥な
思わず飛び起きたクレアに、声の主は優しく微笑みかける。
「おはよう、調子はどう?」
「………だ、誰?ここはどこ?この恰好は───いえ、それよりも私はどうなったの?血の女王は?メアリーは?」
「うん、元気ねー」
矢継ぎ早に繰り出される質問に、適当な返事をする謎の美女。
流石に性急過ぎたか、と反省し、まず第一に気になる事を問いかける。
「………私は、どうなっているの?」
「寝ているわ。言うなれば、ここは夢の中。現実のあなたは今、瀕死になって、ついでに悪魔憑きの症状が暴走して、大ピンチってところね」
「………そん、な」
「元々、あなたの悪魔憑きはとっくの昔に完治していたのだけど……血の女王のせいで再発したのよ。だから私が力を───」
「か、完治って、一体どういうこと!?」
「………話は最後まで聞くものよ?いまどき流行りのドーパミン中毒ってヤツかしら。ゆっくりと丁寧に説明したい教師側としては」
人差し指を頬に当て、天井へ視線を向ける。
妙に落ち着いた態度が、余計にクレアの感情を逆撫でるのだが、彼女は特にソレを気にすることなく、言葉を続ける。
「完治、っていうのは読んで字のごとくよ。
「彼、ら……?一体、誰なの」
「あら。それはあなたが一番知っているはずよ。………うーん、本当は詳しい話をしてあげたいけど、ちょっと時間がないわね」
「ゆっくりと丁寧に説明したいってのはどこ行ったのよ」
不満を隠そうともしないクレアを軽く笑って、女は手元のPCを操作する。
画面を二分割するように、ヒトのカタチをした図が映る。
「悪魔憑きも始祖の吸血鬼も元をたどれば同じ血。ただ、環境に適応する過程で変化があった。二つの血は相反するモノになったけれど、あなたはどちらにも適正があった」
「は───い、いや、ちょっと!?いきなり、何を話して」
「あなたの被害だけ大きかったのはソレが原因ね。女王の血と、あなた自身に元々入っていた魔人の血。両方の力が暴走して、こうなった、ってワケ。だから、私が出てきたの」
パタン、とPCを閉じて、立ち上がる。
そのまま立ち去ろうとする彼女を呼び止めようとして、すぐに言葉に詰まる。
右手に違和感を覚えたと同時に、突然赤く光り始めたからだ。
光が収まった時には、腕に幾何学的な模様が、まるで刺青のように刻まれていた。
「これは……」
「それが力を制御する術を教えてくれるわ。―――じゃあ、私はそろそろ行くから」
「ま、待って!アンタは………アンタは、誰なの?なんで私を……助けて、くれるの?」
女の足が止まる。
「あなたが
「彼、って何よ。彼ら、とはまた違うの?」
「いずれわかるわ。―――そうそう、私が誰か、ね。」
ピシッ、と、視界に罅が入る。
否、空間そのものが、砕けようとしている。
世界が崩れる直前、振り返った魔女は、クレアへ言い聞かせるように告げた。
「私はアウロラ。―――メインヒロインよ」
★★★★★
悪魔憑きが完全に進行し、物言わぬ肉塊へと変貌したかに思われたクレアは、しかし勝手にヒトのカタチを取り戻していく。
だが、その姿は。
「ん~っ!……久しぶりの自由!でもちょっと苦しいわね」
声も、姿も、何もかもが別人。
唯一その正体を知るベータが、未だ衝撃から抜け出せないままに問う。
「災厄の魔女、アウロラ………。なぜクレアさんの体から姿を?」
「んー………今はまだ語るべき時ではない───かしら?」
「私に聞かれても……」
キリッとキメたかと思えば、突然雰囲気を弛緩させ小首を傾げるアウロラ。
未だ混乱が満ちているながらも、彼女は不敵に微笑み、エリザベートの方を向いた。
「さて、と。遊んであげましょうか、お姫様?」
その言葉に応えるように、女王が血の雨を降らせる。
クレアを、シャドウガーデンを、メアリーを、黒と白の支配者を追い詰めた凶悪な一撃を前に、しかしアウロラの余裕は崩れない。
まるで時を止めたかのように、着弾寸前の血液が停滞した。
「これは……!?」
「その戦い方は私がオリジナル。体外の血液なら、制御を奪うくらい簡単よ。―――まぁ、彼みたいに純度100パーセントの、それも体内でしっかり制御されている血液までは奪えないけどね」
パチン。指を鳴らした瞬間、停滞していた血液が女王へと向かう。
負けじと周囲に残っていた血液でアウロラの攻撃を撃墜するが、防ぎきれなかった弾丸が容赦なく女王を穿った。
バラバラになった体を戻しながら、女王はさらなる攻撃を繰り出す。
密度を減らし、制御をこれ以上奪われないようにして、触手のように──或いは剣のように、アウロラを狙う。
「ふふっ、そう来なくっちゃ」
だが、それでも彼女の表情は変わらない。
既に制御を奪った血液を操り、全く同じ動きで迎撃する。
まるでダンスを楽しむかのように、人知を超えた戦いを繰り広げる。
その光景を目の当たりにしたシャドウガーデンも、メアリーも、支配者達も、皆が言葉を失う。
───怪物。
その印象にダメ押しするかのように、アウロラは魔力を解き放つ。
血液の制御を手放して、半径数十メートルを覆うように。
「おまけよ!新たな星の生誕を、死にゆく星の極光を、味わわせてあげる!!」
緻密な文様───しかし、
常人のソレを遥かに超えた魔力の解放に、何も知らぬ者達は皆驚愕し───ただ一人、その
「そっ、そそっ、ソレは!!あなたっ、あなたまさか!!」
「でぃーす、いーず───」
ベータを無視して、歌うように技の名を呼ぶ。
それはオリジナルの発音と比べれば、あまりに幼稚な言い方であったが、それでもこれから起ころうとしている現象は、あの時と同じ。
「すーぱー………あらっ?」
だが、紡がれていた言葉は途中で止まる。
ぐしゃっ、と勢いよく腕が潰れると同時に、解放されていた魔力が引いていく。
「まぁ、耐えられないか」
「ちょっと!!?」
「大丈夫よ、これくらいすぐ治るわ」
彼女の体を壊されては困る、と、先ほどとは別の理由から声を荒げるベータに、アウロラはやはり緊張感のない態度で応える。
なんなんだこの女は。
全員の気持ちが一つになった、まさにその時。
「違うよ、
「あら?」
「あっ」
一人は意外そうに。一人は嬉しさを隠そうともせず。
カツン、カツンとわざとらしく足音を立てて姿を現したのは、純白のスーツに身を包んだ青年。
シルクハットとモノクルで隠れた顔を、生憎誰も認識できない。
見えているはずなのに、誰のものなのかが頭の中で繋がらないのだ。
見覚えがあるのか、無いのかどうかさえ、わからない。
その場の視線を一身に集めたまま、男はアウロラへと声をかける。
「正しくは“This is Super Nova”。発音がちょっと幼過ぎるね」
二人を除き、全員の心が一つになった。
───なんだコイツ………と。
Qなんでアウロラは「メインヒロインよ」なんて言ったんですか?
A大切な記憶をくれた+(アメジストみたいに)綺麗だ発言+「悪いけど俺は主人公なんだ、アメジストさん。―――それもどんなダークなストーリーも、ご都合主義になろうとハッピーエンドで終わらせるタイプの……ね」を実はまだ残っていたアウロラがこれをしっかり聞いてしまったから。
なお僕の解釈では消える前のアウロラがやったのは頬キスです。自己肯定感が下限を突破し、ついでに家族旅行で海外行きまくってたヒロ君には愛情表現ではなく、親愛表現として受け取られてしまっています。だからヒロインいない~とか言ってるんですね。
これが唇だったらアウロラさん一人勝ちだったのに………。
Qアウロラがヒロ(怪盗)が来ている事に気づかなかったのはなぜ?
A本気で気配遮断をしていたから。
ちなみにベータは変装を見抜いたわけではありません。状況的に御二方のどちらかだろうなと決め打ちし、最後のスーパーノヴァ詠唱で確信しただけです。