やらかした――榊遊矢は、現在置かれている状況に対し、そう呟いた。
ズァークの事件からしばらくして、プロデュエリストとして多忙な日々を送っていた遊矢だが、久しぶりに休みが取れたこともあり、幼馴染の柊柚子と共にLDSにいる零羅の所へ遊びに行く予定だった。
零羅はまさに自分達の恩人であり、遊矢と柚子は時間が出来ると、零羅の所へ行き、自分達は今幸せだという気持ちを伝えるため、笑顔をプレゼントしに行くようにしている。
事件が起きたのはLDSに向かう途中、零羅へのお土産を買っていると、二人の近くを黒ずくめの怪しい人物が電話をしながら通りがかったのだが、偶然遊矢はその怪しげな言葉を耳にしてしまったのだ。
「では、状況次第ではズァークを復活させるプランも――」
どうやら、柚子には聞こえていなかったようだが、遊矢にははっきり聞こえた。
適当な理由をつけ、柚子を先にLDSに行かせると、遊矢はその黒ずくめの連中の後を追跡した。このまま放置してはいけない。これまでの経験が、遊矢にそう囁いていた。
段々人気のない方へ向かっていく黒ずくめの男。だが、後を追うのに夢中になっていた遊矢は、背後からもう一人の仲間が近づいていることに気づかなかった。
「ぐあっ!?」
頭部に衝撃と痛みが走る。
悲鳴が聞こえたことで、前にいた黒ずくめの男も遊矢に気づいたのだろう。小走りにこちらへ駆けてくると、もう一人の仲間と共に遊矢を担ぎ、人気のない場所へ連れて行く。
抵抗したいが、頭の一撃が効いていて体を上手く動かせなかった。
「まさか抜け殻につけられていたとは……」
「迂闊だぞ。これでもこいつはズァークだった男、油断すれば何が起きるかわからん」
「すまない。しかし、どうする?」
「あまり大きな動きは起こしたくはなかったが、こうなってしまっては仕方ない」
そう言って、遊矢を殴った男が何かをこちらに向けてくる。その向けてくるものに遊矢は覚えがあった。
アカデミアの先兵が使っていた人間をカードに変える装置だ。これまで何度も見てきた。自分も、自分の中にいる三人も、それでいろいろな人や大切な人がカードにされ、またカードにしてきた。
光がこちらに向けられる。
遊矢は動けず、目を瞑るしかなかった。
だが、光が遊矢に当たる瞬間、別の光が遊矢の体を包み込む。
次の瞬間、榊遊矢はこの次元から姿を消した。
◇◆
「……やらかした」
危うくカードにされる所だった。
だが、後悔している暇はない。周囲を見渡すと、遊園地のような建物が見える。先程いた場所とは明らかに違った。
どうやら、また次元を移動したらしい。まだ遊矢達が四人だった頃、ズァークを蘇らせないために、レイの分身である柚子達が、遊矢達四人が出会わないよう次元を移動させていたことがあったが、今回のはそれによく似ている。
だとすれば、ここはペンデュラム次元(元スタンダード次元)以外のどこかの次元のはずだ。
周囲には、遊園地のような建物の他に、職員のような人物が数名見える。痺れていた体もようやく動くようになってきたので、とりあえず現状を確認するために、ここがどこの次元なのか聞こうとした遊矢だが、職員さんに話しかけようとした瞬間、「待ったぁ!」という声と共に、知らない誰かに背中を押されていた。
「試験番号110、遊城十代! セーフだよね?」
困惑したような職員さんだが、十代という少年が何やら遅刻証明書のような紙を渡すと入場を許可されていた。
そして、何故か遊矢も背中を押されて一緒にいる。
「お前も遅刻組だろ? 一緒に行こうぜ!」
「あ、いや俺は――」
違う――と否定する前には、もう十代に背中を押され、中を走らされていた。
遊矢の背中を押しながら喋る十代の話を聞くと、どうやら今日はデュエルアカデミアの入学試験らしく、十代は電車の事故で遅れてしまったらしい。
――アカデミアということは、ここは融合次元だ。
ここがどの次元かわかれば、後は知り合いの誰かに話を繋いで貰えば元の次元に戻れるだろう。
十代の勘違いで多少予定は狂ったが、この次元の場所がわかったので良しとした。
聞けば、十代はこれから実技の試験らしい。本当はすぐにでも帰るべきなのだろうが、これも何かの縁だ。遊矢はスタンダード次元に戻る前に十代の試験を見て行くことにした。
「おっ、やってるやってる」
「へぇ、本当に遊園地で試験をやってるんだ」
「何言ってんだよ、デュエルアカデミアの入学試験は毎年海馬ランドでやってるじゃんか」
「海馬……ランド……?」
聞き覚えのない単語に遊矢は首を傾げる。融合次元にそんな施設あっただろうか?
ユーリの記憶にもそんな施設の知識はない。だが、そんな遊矢の様子を気にした様子もなく、十代は下で行われている試験を見ていた。
遊矢も遅れて下を見る。そこでは白い学ランを着た少年が、《ブラッド・ヴォルス》に対して《破壊輪》を発動し、対戦相手のライフをゼロにした所だった。
「あの一番、なかなかやるな」
「そりゃそうさ。受験番号一番、つまり筆記試験第一位の三沢君だよ?」
十代が試験の感想を口にすると、いつの間にか隣に立っていたメガネの少年がそう返す。
対して、遊矢は首を傾げていた。《破壊輪》は随分前にエラッタされ、相手のライフ以上のモンスターには使えなくなったはずだ。にも関わらず、あの三沢という少年は当然のようにエラッタ前の効果を使い、十代やこのメガネの少年もそれに対して疑問を持った様子はない。
「なぁ、十代。《破壊輪》って……」
「へぇ、試験番号はそういう意味か」
「試験は筆記と実技。両方の結果で評価されるんだ。デュエルには何とか勝てたけど、筆記試験119番の僕が合格できるかどうか」
駄目だ。話を聞いていない。
「ま、運が良ければ大丈夫さ。俺も110番だ」
「えっ、君も受験生? でも、100番台のデュエルは最初に終わったよ?」
「ゲッ、マジか」
どうやら、実技は優秀なものからではなく、筆記の結果が良くない順らしい。
十代の場合、遅れた理由が電車の事故で、遅刻証明書も渡していたので大丈夫だとは思うが、それでも筆記の結果が悪い時点で良い印象は持たれないだろう。
「……大丈夫なのか?」
「だ、大丈夫だって。それに、お前だって人のこと言えないじゃんか」
「いや、俺は受験生じゃ――」
「おっ、一番君だ。すっげぇ強いな、お前」
遊矢が否定する前に、試験が終わって帰ってきた三沢という少年に十代が話しかける。
やはり、話は聞いてもらえなかった。
「今年の受験生の中でも二番目くらいに強いかもな」
『受験番号110番 遊城十代君』
「おっ、俺の番だ。どうせ、次だろうし、お前も行こうぜ」
「いや、だから俺は――」
「君」
「ん?」
「なんで、僕が二番なんだい?」
「そりゃ、一番は、俺だからさ」
頼むから話を聞いてくれ。自分の手を引く十代に対し、そう思う遊矢だった。
◇◆
結局、十代に押し切られ、遊矢もデュエルフィールドに来てしまった。
実技試験最高責任者という肩書を持つクロノスと十代のデュエルは、終始十代が劣勢だったが、融合によって現れた十代のフェイバリットモンスターによって十代が逆転勝利している。
「ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ、先生」
十代の使っていたのはE・HEROデッキ。初めて見たカテゴリーのモンスターだが、やはり融合次元だけあって、エースは融合モンスターらしい。
しかし、それ以上に遊矢が驚いたのは、デュエル早々に十代が先攻ドローをしたり、モンスターを表側守備表示で召喚したり、挙句の果てにはクロノスが禁止カードである《押収》を使ったことだった。
思えば、先程の三沢もエラッタ前の《破壊輪》を使っていた。このことから、もしかして次元だけではなく、時間も超えて過去に来てしまったのかと思い、慌てて周囲を見渡すが、上の席に知り合いである天上院明日香の姿を発見し、とりあえず一安心する。
「よかった、取り越し苦労だったか……」
「な、なぜナーノ。なぜ私があんなドロップアウトボーイに!?」
筆記試験の結果が悪い十代に負けるとは思っていなかったのか、クロノスもどこか放心したような顔をしていた。
しかし、ユーリとしてアンティークギアデッキを使ったことのある遊矢は、試験用のデッキなんだし、そこまで悔しがらなくてもいいのに――と思っていた。
「ぐぐぐ、次なノーネ! そこのシニョールもさっさとデュエルディスクを構えるノーネ!」
「あ、いや俺は受験生ってわけじゃ――」
「頑張れよ! そういえば、お前の名前まだ聞いてなかったっけ?」
「今さら!?」
ここまで一緒にいて、ようやく自己紹介をしようとする十代に呆れる遊矢。
「ま、まぁ、いいか。俺の名前は榊遊矢だ」
「遊矢か、頑張れよ遊矢!」
「いや、だから俺は――」
「早くするノーネ!」
「は、はいっ!」
しまった。つい、デュエルディスクを構えてしまった。
デュエリストとして、デュエルディスクを構えた以上、デュエルから逃げることはできない。
「デュエルコートオン、ヌ!」
「先生のデュエルディスクも相変わらず格好いいけど、遊矢のも格好いいなぁ!」
仕方ない。もう引ける状況ではなくなってしまったし、とりあえずデュエルをして、全部終わったら連絡を取って貰うことにしよう――と、遊矢も半分諦めた。
デッキからカードを引く。
とはいえ、デュエルをする以上は全力だ。プロデュエリスト榊遊矢としても、いくら実技試験最高責任者とはいえ、アマチュア相手に簡単に負ける訳にはいかない。
「「デュエル!」」
デュエルディスクが示す先攻はクロノスだった。
しかし、遊矢は受験生じゃないからいいのだが、普通は受験生に先攻を渡すべきだだろう。どうやら、先程の敗北が彼から余裕を奪ってしまったらしい。
「私のターン、ドロー!」
当然のようにカードを引くクロノスに苦笑いする遊矢。
やはり、何度見ても先攻がドローするのは違和感があった。しかし、デュエルディスクがエラーを発していない以上、ルール違反をしている訳ではないらしい。
「私は《トロイホース》を守備表示で召喚するノーネ!」
《トロイホース》
効果モンスター
☆4 地属性 獣族
ATK1600 DEF1200 守備表示
木で出来た馬のようなモンスターが守備表示でフィールドに現れる。遊矢の世界にはない表側守備表示で召喚という概念に何ともむず痒い気持ちになった。
「さらに魔法カード、《二重召喚》を発動! この効果で、私はこのターン、もう一度通常召喚ができるーノ! 私は、《トロイホース》を生贄に《古代の機械巨人》を召喚ンヌ!」
《古代の機械巨人》
効果モンスター
☆8 地属性 機械族
ATK3000 DEF3000 攻撃表示
クロノスの主力というべき、超大型モンスター。
デュエルモンスターズのモンスターはレベルが高いものの方が、体が大きくなるタイプが多いが、その中でも《古代の機械巨人》はかなりの大きさだった。
「また1ターンで《古代の機械巨人》を……」
「アンティークギアならそう珍しいことじゃないさ」
またも出てきた《古代の機械巨人》に驚く十代。
だが、オベリスクフォースの優等生デッキなら、レベル8の《古代の機械巨人》も簡単に出てくる。遊矢にしてみれば、そう珍しい光景ではない。
「《トロイホース》は地属性モンスターを生贄召喚する時、二体分の生贄になるノーネ。さらに私は、カードを二枚伏せてターンエンドですーノ」
クロノス 手札1枚 LP4000
モンスター 《古代の機械巨人》
魔法・罠 リバース2枚
VS
遊矢 手札5枚 LP4000
モンスター なし
魔法・罠 なし
「俺のターン!」
自分のターンになり、遊矢もデッキからカードをドローする。
明日香がいるなら、後はプロフェッサーに連絡を取って貰えばスタンダードに帰れるはずだ。完全に帰る目途がたったことで、遊矢の心配がなくなり、デュエルに集中し始めた。
「俺は、スケール1の《星読みの魔術師》とスケール8の《時読みの魔術師》でペンデュラムスケールをセッティング!」
「ぬぬっ。ペンデュラーム?」
「これで、レベル2から7のモンスターが同時に召喚可能!」
「モンスターを同時召喚だって!?」
二人の魔術師が作る光の柱が、遊矢のフィールドの両端に出現する。
それにしても十代のノリがいい。融合次元でも、もうペンデュラムはそんなに珍しい召喚方法ではないというのに――と、思ったが、ノリがいいのは十代だけじゃなさそうだった。クロノス教諭も驚いた顔をしているし、会場も何故かどよめいている。
「なんだ、あのモンスターは、ペンデュラムスケール? そんなもの聞いたこともない」
「三沢君でもわからないなんて、あのカードは一体……?」
筆記試験一位の三沢ですら知らないカードの登場に、メガネの少年、丸藤翔だけではなく会場中がざわつく。
だが、そんな周囲の動揺を気にした様子もなく、遊矢はいつものようにデュエルを続けた。
「――揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け、光のアーク! ペンデュラム召喚!!」
二つの柱の間から、三つの光が飛び出す。光はモンスターとなり、遊矢のフィールドに特殊召喚されていった。
「現れろ、俺のモンスター達! まずは、レベル4、《EMヘイタイガー》、同じくレベル4、《EMシルバー・クロウ》、そして世にも珍しい二色の眼を持つ龍、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」
《EMヘイタイガー》
効果モンスター
☆4 地属性 獣戦士族
ATK1700 DEF500 攻撃表示
《EMシルバー・クロウ》
効果モンスター ペンデュラム
☆4 闇属性 獣族
ATK1800 DEF700 攻撃表示
《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》
効果モンスター ペンデュラム
☆7 闇属性 ドラゴン族
ATK2500 DEF2000 攻撃表示
遊矢お得意なEMモンスター、コミカルな動きをした虎や狼がドヤ顔で恰好を付ける中、相棒たる二色の眼の龍は、まるで威嚇するようにクロノスへと咆哮を浴びせていた。
「す、すげぇ。本当にモンスターが同時に……」
「で、ですーが、そのモンスター達では《古代の機械巨人》の攻撃力3000には届かないノーネ!」
そんなモンスター達に驚く十代と、若干ビビりながら攻撃力不足をしてきするクロノス。
確かに、今のままでは《古代の機械巨人》は倒せない。しかし、遊矢にはまだ手札にカードが残されていた。
「届かないなら、届かせるまで――お楽しみは、これからだ!」
お得意の決め台詞を決めていく。
アクションフィールドがないので演出はないが、会場がこれだけ注目してくれているなら演出がなくても十分だろう。
「レディース&ジェントルメーン! さて、クロノス教諭のフィールドには攻撃力3000の《古代の機械巨人》。対する私のフィールドには、それ以下の攻撃力を持つモンスターが三体!」
「い、いきなりなんですーノ!?」
「真っ向から立ち向かえばまず勝てないこのピンチ、無事潜り抜けたらご喝采!」
「ははっ、何だかマジックショーみたいだな」
突如始まったエンタメに動揺するクロノスだが、逆に十代は楽しそうにしている。
そんな中、遊矢はいつもの自分のスタイルを貫くように、演技がかった声を出して場を盛り上げていった。
「まずは、下準備。魔法カード、《エンタメ・バンド・ハリケーン》を発動! このカードは、自分フィールドの『EM』モンスターの数まで、相手フィールドのカードを手札に戻すことが出来ます! 二枚のリバースカードを手札に!」
「ぐぬっ、私の罠カードが……」
ヘイタイガーとシルバー・クロウの二体が作り出す音楽の竜巻が、クロノスのフィールドのリバースカードを飲み込み、手札へと戻していく。どうやら、迎撃の罠があったようで、クロノスの顔が悔し気に歪んだ。
しかし、遊矢が《エンタメ・バンド・ハリケーン》で選んだカードを見て、上で見ていた明日香は残念そうな顔をする。
「リバースカードを警戒したとしても、《古代の機械巨人》を戻さなかったのは、明らかなプレイングミスよ。これで彼の手札はゼロ。もう《古代の機械巨人》は倒せない……」
小声だったが、周囲の人間もそれも同意していた。それは、ある程度の実力を持ったデュエリストなら誰でも気付いたミスである。
だが、この世界のデュエリストはモンスター効果を考慮せず、攻撃力のみで強さを決める悪癖があった。
遊矢にしてみれば、攻撃力が3000だろうと《古代の機械巨人》ならどうとでもなる――それより、リバースカードで迎撃される方が厄介だった。
ため息が聞こえる会場に、遊矢の声が響き渡る。
「さぁ、邪魔な罠がなくなった所で、このデュエルを制するための新たな仲間を呼びましょう!」
「な、何を言っているーノ? シニョールの手札はゼロ、これ以上は何もできないノーネ」
「確かに、私の手札はゼロです。しかし、私のフィールドにはレベル4のモンスターが二体居ます!」
「そ、それがどうしたと言うノーネ!?」
「こうします! 俺はレベル4のシルバー・クロウとヘイタイガーでオーバーレイ!」
遊矢の言葉に呼応するように、二体のモンスターが見たこともない光に変質し、オーバーレイネットワークという黒い光を構築していく。
今度こそ、誰もが言葉を失った。
初めてみる特殊な同時召喚に加えて、自分達の知らないエフェクトがデュエルディスクによって再現されている。
明日香は思った――十代のデュエルを見終わってすぐアカデミアへ戻ってしまった丸藤亮は、後日間違いなくその行動を後悔するだろう、と。
「――漆黒の闇より、愚鈍なる力に抗う反逆の牙! 今、降臨せよ! エクシーズ召喚!!」
エクストラデッキからカードが一枚飛び出してくる。呼び出すのは、遊矢のデッキに存在するエースの一体。
「現れろ、ランク4! 《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》!!」
《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》
効果モンスター エクシーズ
ランク4 闇属性 ドラゴン族
ATK2500 DEF2000 攻撃表示
全身真っ黒のドラゴンが、二つの光を纏って咆哮する。
唯一、フィールドに残っていたオッドアイズもまた、その声に釣られるように再び咆哮した。
「エクシーズ、召喚……!」
一番近くで見ていた十代は、驚きもそうだが、その凄さに興奮を隠せなかった。
ペンデュラム召喚に、エクシーズ召喚――自身の知らない二つの召喚法を駆使する遊矢を見て、何故戦っているのが自分ではないのかと思ってしまう。
そんな十代の視線を受けながら、遊矢はフィナーレに向かうべく、デュエルディスクを操作した。
「ダーク・リベリオンの効果発動! オーバーレイユニットを二つ取り除き、相手モンスター一体の攻撃力を半分にし、その数値分自身の攻撃力に加える! トリーズン・ディスチャージ!!」
自身の体を纏うオーバーレイユニットを全消費すると、ダーク・リベリオンの翼の付け根にある宝玉が光ると共に、翼の各所がスライドし、紐状の雷が放電を始める。
その雷が《古代の機械巨人》を包み込むと、その攻撃力を吸収してダーク・リベリオンの攻撃力を強化していった。
《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》 ATK2500→4000
《古代の機械巨人》 ATK3000→1500
「な、な、な……」
「これで、遊矢のモンスターの攻撃力が《古代の機械巨人》を上回った!」
喜びの声を出す十代に対し、上で見ていた三沢は思う――何て恐ろしい効果だ、と。
「モンスターの攻撃力の半分を奪う以上、戦闘であのドラゴンに勝てるモンスターは存在しない」
「マジっすか!?」
「勿論、破壊耐性を持っていれば話は別だろう。しかし、攻撃表示モンスターがあのドラゴンの効果を受ければ、攻撃力2500分のダメージは確実に受ける」
「そんな、掟破りすぎるよ……」
一つ前のデュエルで、十代とクロノスのデュエルで《古代の機械巨人》を掟破りカードと称した翔だが、遊矢のダーク・リベリオンの効果はそれ以上だった。
「ぬぬぬ……」
ダーク・リベリオンの効果を受けながら、クロノスは手札のカードを見る。
先程、《エンタメ・バンド・ハリケーン》によって戻されたカードの一枚は、《聖なるバリア―ミラーフォース》――このカードさえ発動していれば、遊矢のモンスターを破壊することが出来た。
だが、そのカードも今は手札。そして、フィールドのモンスターの攻撃力を計算すれば、小学生でもこの先どうなるか理解出来る。
「さあ、フィナーレだ! 《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》で《古代の機械巨人》を攻撃! 反逆のライトニング・ディスオベイ!!」
《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》 ATK4000 VS《古代の機械巨人》 ATK1500
ダーク・リベリオンが自身の大きく突き出た顎の突起を武器に、《古代の機械巨人》へと突っ込んでいく。
反撃をする《古代の機械巨人》だが、下げられてしまった攻撃力では、ダーク・リベリオンを止めることが出来ず、その鋭い突起の一撃で肩から腕が真っ二つに切断される。
「ゲロゲロ!?」
腕が壊れるのを起点に、まるで全身が崩壊したように《古代の機械巨人》が崩れて倒れていった。
クロノス LP4000→1500
「そして! 私のフィールドにはまだ攻撃力2500の《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》が残っています!」
とどめは任せろとばかりに、前へ出て来るオッドアイズ。
相手フィールドにはモンスターはなく、リバースカードをバウンスされたクロノスには、もうこの攻撃を防ぐ手段はなかった。
「これで終わりだ! オッドアイズでクロノス先生にダイレクトアタック! 螺旋のストライクバースト!!」
《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》 ATK2500 VSクロノス LP1500
「そ、そんな……嘘なノーネ。この私が二回も、ま、負け……」
オッドアイズの口から放たれる赤い螺旋の光線が近づいてくるのを見ながら、クロノスは自身の敗北を察した。
しかし、実技最高責任者の肩書を持つ自分が、二度も敗北することを認められないのか、これは夢だと言わんばかりに引きつった笑いを浮かべる。同時に、攻撃がクロノスに直撃した。
クロノス LP1500→0
デュエルが終了し、ソリッドビジョンが解除されていく。
デュエル中はあんなに騒がしかった会場が、まるで葬式のように静かになってしまい、遊矢は何となく居心地の悪さを感じていた。
「すっげぇ! すっげぇよ遊矢!」
しかし、そんな中、十代だけは変わらず話しかけてきてくれた。
こちらの話をなかなか聞いてくれない無神経さがあるが、それが逆に今の遊矢には有難い。お客さんが喜んでくれるのが、エンタメデュエリストが一番嬉しいことだった。
「何だよ、ペンデュラム召喚って。凄すぎるぜ! あのエクシーズってのも格好よかったぁ!」
「楽しんでくれたのなら、エンタメ冥利に尽きるよ」
「エンタメ?」
「あぁ、俺はエンタメデュエリスト榊遊矢。お客さんを楽しませるのが、俺のデュエルさ」
「エンタメデュエルかぁ。確かにさっきの遊矢はマジックショーのマジシャンみたいだった」
そんな二人の話が聞こえたのか、パチパチとどこかから拍手が聞こえる。
見ると、先程まで遊矢達と一緒にいた三沢が、遊矢のデュエルを称えるかのように手を叩いていた。
隣の翔もそれに釣られて拍手をする。それに他の受験生達も次々と続いていき、次第にドーム内は大きな歓声に包まれた。
「へへっ、ガッチャ! 凄いデュエルだったぜ、遊矢」
「ありがとう十代。えっと、ガッチャ?」
見様見真似で、十代のポーズを真似する遊矢。
それに満足した十代がうんうん頷いているのをみて、遊矢はプロフェッサーに話を繋いで貰うため、上にいる明日香の所へ移動しようとした――
――その時だった。
「そこまでだ! 今、デュエルをしていた受験生、一緒に来てもらおう!」
突如として現れた青年に、会場がこれまで以上の混乱に包まれる。
そんな中、遊矢は青年と一緒に来ていた黒服に抱えられ、その場から連れ去られてしまった。
原作との変化点。
・#1『遊戯を継ぐ者』より、遊矢がGV世界へ行った。
謎の光で次元転移した。明日香が居るため、本人は融合次元だと勘違いしている。
・遊矢がクロノスとデュエルした。
ペンデュラムとエクシーズを公衆の前で使用してしまった。
・カイザーは遊矢のデュエルを見なかった。
十代のデュエル後、「面白い奴が出てきたな」と言ってそのまま帰った。後に遊矢の話を聞いて死ぬほど後悔している。
・謎の青年に連れ去られた。
海馬ランドで、黒服を連れている青年……一体、何馬なんだ?
最初なので、0時、8時、12時で四話まで連続投稿します。以後は、毎日20時に一話ずつ更新します。