オシリスレッドで騒ぎが発生した。
いつものこと――と思う奴もいるかもしれないが、今回は隼人の親御さんが、隼人を退学にして実家に連れ戻そうとしているらしい。
翔がいち早く事情を聞きつけ、十代と遊矢にその話を伝えると、二人は隼人の本心を聞くために部屋に戻った。隼人は仕方なく帰る準備を始めているようだったが、十代が「それで本当にいいのか?」と問うと、涙ながらに退学したくないと口にしている。
つい、去年までは別に何とも思っていなかったが、今年になって遊矢や十代と触れ合っていくうちに、本気でデュエルを頑張っていこうと思ったらしいのだ。その矢先に、家に帰れと言われても納得できるはずがない。しかし、隼人の親はかなり怖いとのことで、隼人は逆らう気力を失っていた。
代わりに遊矢と十代が率先して校長先生に事情を説明しに行く。
予想通り、校長室には、鮫島校長とレッド寮監督の大徳寺先生、それに隼人のお父さんがいたので、隼人がこの学校に残りたい意思を持っていることを伝えていった。
「遊城君、榊君、君達の気持ちはわかりますが、これは前田さんの家族の問題です。部外者が口を挟むことでは――」
「校長先生。仰る通り、家族の問題かもしれませんが、いくら親御さんの言葉とはいえ、当の本人の意思を無視して退学させていいんですか? 確かに、子供は親に育てて貰ってます。学費だってタダじゃない。でも、止めたくないという隼人の気持ちを無視しないで欲しいんです」
「遊矢君、君の気持ちはわかるニャ。けど……」
「確かに、これまでの隼人は成績も振るわなくて、授業態度も悪かったかもしれない! けど、やり直そうと、これから頑張ろうとしている! 辞めたくないといった隼人の言葉に嘘はなかった!」
「よか」
遊矢の言葉を黙って聞いていた隼人の父がニヤリと笑みを浮かべてそう言葉を発する。しかし、納得した訳ではなかった。「ただし、条件がある」と言葉を続ける。
「条件?」
「おいとデュエルばしろ、隼人。もし、お前がおいに勝ったら、この話はなかったことにしちゃる。だが、もし、おいが勝ったら、今すぐおいと国に帰るど。……どうだ、受けるか?」
「……受ける!」
「では、デュエルは明朝8時。そういうことでよろしいか? 校長はん?」
校長としてもいい落としどころだと考えたのか、「まさに、デュエルアカデミアに相応しい、よき解決法だと思います」と頷いた。
遊矢や十代にも否はない。
無条件で退学させられる所だったのだ。それに比べれば、チャンスが貰えただけでも十分だった。
◇◆
そのままの足でレッド寮に戻っていく。
十代はもう勝った気でいるのか、「に、しても、あんなあっさりオッケーしてくれるとは思ってなかったよ」と笑っていた。
勿論、条件はデュエルに勝ったらということだが、素人の親父に負けるはずないと余裕の笑みを浮かべている。
しかし、一緒に帰っていた大徳寺先生曰く、隼人の親父は薩摩示現流の使い手で、世界中に名を轟かせた伝説のデュエリストらしい。
薩摩示現流は打突を得意とした一撃の必殺剣として有名だが、どうもその極意をデュエルに応用した一撃必殺のデュエルで相手を瞬殺する恐るべき手練れだというのだ。
隼人の真剣な表情を見る限り、大徳寺先生の話は本当なようで、もはや一分一秒も無駄には出来なかった。
「今から臨時遊勝塾を開く!」
「臨時……」
「……遊勝塾?」
「なんなんだな、それ?」
「俺の父さんが、遊勝塾っていうデュエル塾をやってるんだ。俺もその手伝いをしててさ。今回、そのノウハウを生かして、今から隼人を鍛えていく。時間はもう一日もないんだ。デッキ調整に、試運転、やることはいっぱいあるぞ!」
遊矢が自分の為に力を貸してくれるとわかり、隼人が「頑張るんだな!」と声を上げる。
十代も遊矢も制裁デュエルのために忙しくしているはずなのに、まるでそんなことを気にした様子もなく手伝うのが当然という態度を見せていた。
「ついでに翔もね」
「えっ、僕も?」
「隼人の相手に、翔は丁度いいレベルだからね。俺や十代だとこの間のタッグデュエルみたいに気遅れしちゃうだろうし、翔も隼人に置いて行かれたくないだろ?」
「う、うん。わかったよ……」
「心配しなくても、クロノス教諭みたいな授業はしないよ。基本的には実戦あるのみだ。翔と隼人のデュエルを見ながら、気になった所を注意していくだけ」
そんなに厳しくなさそうということで、翔もホッとした様子を見せる。
「じゃあ、早速部屋に行こう……と、その前に、大徳寺先生」
「何だニャ?」
「さっき、俺の気持ちはわかるって言ってくれましたよね? つまり、先生は隼人の退学にあまり賛成ではないということで?」
「ノーコメントだニャ。ただ、無理矢理は良くないと思ってるニャ」
「では、お願いが……」
と、大徳寺に耳打ちをしていく。
お願いというのは、隼人の父親についてだった。あの性格だ。今日はレッド寮に泊まっていくだろう。
正直、残り時間が一日ないというのは時間的に厳しい。今は、少しでも時間を稼ぐために、出来るだけ隼人の父親の気を引いて寝るのを遅くして欲しかったのだ。
「確か、実家は酒屋さんって言ってたし、酒の一本や二本は持ってきたんでしょ?」
「まぁ、持っては来ていたニャ……」
「何とか、明朝8時から出来るだけ時間を稼いで欲しいんです。先生の稼ぐ、一分一秒が隼人を退学から救います」
「そんなこと言われても――」
「じゃ、そういうことで、後はよろしくお願いします!」
言いたいことだけ言って、遊矢は三人を連れて部屋に戻って行く。
残された大徳寺は「仕方ないニャ」と呟きながら、とっておきのおつまみの準備を始めようとしていた。
◇◆
「何だよ、隼人のカードってコアラばっかだな」
「コアラデッキなんだな」
「コアラデッキって、そんなんで勝てんのかよ?」
趣味デッキとしても、纏まりがないとデュエルには勝てない。
十代が心配そうな声を出すが、見てみるとデッキの構成自体はそこまで悪いものではなかった。
ただ、小さく纏ってはいるが、パンチ力がない。
十代で言う融合モンスターやホープ。遊矢でいう四天の龍のような切り札が存在していなかったのだ。
「あ、じゃあこれ上げるよ。この間、買ったパックに入ってたけど、僕使わないし……」
と、翔が《デス・カンガルー》のカードを隼人に渡す。そういえば、《ビッグ・コアラ》と《デス・カンガルー》の融合モンスターがいたっけか――と、遊矢も記憶からモンスターを呼び起こしていた。
翔からすれば、コアラにカンガルーが加わればオーストラリアデッキになるということだが、それを聞いて十代も自分の手持ちカードをいくつか渡している。
隼人も手持ちカードが獣族に関係しているものが多いようで、これなら何とかなりそうな気がする。夜中まで時間をかけてデッキを作り終えると、すぐに試運転を始めることにした。
いつもならもう寝ている時間だが、誰も寝たいとは声を上げない。この試運転がどれだけ大事か全員がわかっているのだ。
「もう夜も遅いからデュエルディスクは使わずに行こう。で、隼人はこっちに手札向けてくれる? 問題点があれば指導していくから」
「わかったんだな」
「じゃあ、翔。悪いけど相手よろしく。今回は隼人を中心に見るから、翔にアドバイスはしてあげられないと思うけど」
「任せてよ。僕だって隼人君に退学なんてして欲しくないからね」
そんなこんなでデュエルを始めた隼人と翔だが、二人とも思った以上にプレイングが酷かった。
隼人はリバース効果を持つモンスターを攻撃表示で召喚しようとするし、翔は翔でカードの効果を使い忘れている。こりゃ、想像以上に時間がかかるかも――と、考えていると、十代がうとうとしているのが見えた。
遊矢が指を差すと、翔と隼人が無言で枕を投げつける。
十代が「な、なんだ敵襲か!?」と意味不明な寝言を言いながら十代が目を覚ますと、翔と隼人のジト目を見ながら、「ははははは、さっ、デュエル続けようぜ」と寝ていたのをなかったことにしようとしていた。
試運転を続けていくうちに、翔や隼人もようやく自分のデッキの本質を掴めて来たようで、互いにいいデュエルをするようになってくる。十代もワクワクしてきたのか、それともただ見ているのに飽きたのか、「俺も混ぜろー」と言ってデュエルに乱入していった。
しかし、翔も隼人も自信がついてきたのか、前のように十代とのデュエルを嫌がらない。
隼人が満足いくまでデッキを回していると、気が付いたら約束の8時が迫っていた。ギリギリで何とかなったが、寝不足というのはミスが出やすい。大徳寺が上手くやってくれていれば多少は寝る時間があるんだが――と、思いながら一階へ行ってみると、疲れ切った大徳寺が指で寮長室を指さしていた。
見ると、上手く酔わせてくれたようで、隼人の父親がいびきをかいて爆睡している。これならば、少しは仮眠が取れるだろう。
一秒でも睡眠を取って体調を万全にさせるため、すぐに隼人を寝かしつけた。十代や翔は一瞬で眠りに入り、隼人は不安からなかなか寝付けないようだったが、結局疲れには勝てなかったようで瞼が落ちている。
遊矢も出来れば眠りたいが、これで遅刻すれば話にならないので、隼人の父親が起きるのを待つことにした。隼人の父親が起きた段階で、隼人を起こせば何とか間に合うだろう。
◇◆
結局、朝8時という約束は午後13時半に変更になった。
12時過ぎに起きた隼人の父が飯を食った後にデュエルをすると言ったからだ。まだ眠そうな顔をしている三人だが、四時間近く睡眠が取れたことで、多少はマシになっている。
遊矢も気を抜くと意識を失いそうだったが、気合で目を開けていた。
デュエルは剣道部の部室を借りて行うようで、大徳寺先生が審判をしてくれるらしい。
見れば、隼人の親父さんは昨日のことが嘘のように静まり返っている。この時、遊矢は眠気に耐えるのに必死過ぎて気が付かなかった。隼人の親父さんの周りから、ナンバーズと同じ嫌な気配がしていたことに。
「「デュエル」」
だが、もう遅かった。デュエルが始まったことで、遅まきながら遊矢が何やら嫌な気配を感じ取る。
そんな遊矢の様子から、十代も遅れて何かに気付いたように、「まさか……!」と、隼人の目の前にいる親父さんへ目を向けた。
「俺のターン、なんなんだな!」
カードを引いて手札を確認していく隼人。
眠ることが出来たおかげで、頭は冴えていた。後は夜中のデュエルを思い出しながら、デッキを回していくだけ。
「俺はモンスターをセット、カードを一枚伏せて、ターンエンド」
隼人 手札4枚 LP4000
フィールド セット1体
魔法・罠 リバース1枚
VS
隼人父 手札5枚 LP4000
フィールド なし
魔法・罠 なし
隼人の無難な一ターン目が終わった。
セットモンスターは《デス・コアラ》だ。夜中の試運転では攻撃表示で出したモンスターだが、今度はセットで出せたと、嬉しそうに隼人が十代達の方へ顔を向ける。
しかし、遊矢や十代が難しそうな顔で自分の父を見ていることに気付き、ふと、今まで自分のことで一杯過ぎて父の顔を見ていなかったと、隼人も目の前を向いた。
――向いてしまった。
思わず、隼人が後ろに後ずさる。
あの感情が顔に出る父親が能面のような顔で自分を見ていた。自分の目の前にいるのは、本当に父親なのか――そう疑ってしまうくらい、自分を見る目に感情がこもっていなかった。
「おいのターン、ドロー! 手札から、《急き兎馬》を攻撃表示で特殊召喚!」
《急き兎馬》
効果モンスター
☆5 風属性 獣族
ATK2000 DEF1800 攻撃表示
鎧を着た兎が、馬に乗って、急ぐようにフィールドを駆け回っていく。
「このモンスターはカードが存在しない縦列がある場合、その列に手札から特殊召喚できるでごわす! さらに同じ列に、リバースカードセット!」
隼人の父がカードをセットすると、同時に、《急き兎馬》が苦しみだし、爆散していった。
「このカードと同じ縦列に他のカードが置かれた時、《急き兎馬》は破壊される! この瞬間、手札の《森の番人グリーン・バブーン》の効果発動! このカードが手札・墓地に存在し、自分フィールドの表側表示の獣属性モンスターが効果で破壊された時、1000ポイントのライフを支払うことで、このカードを特殊召喚するだ!」
「なっ! 《急き兎馬》を破壊したのは、この為だったんだな!?」
隼人父 LP4000→3000
《森の番人グリーン・バブーン》
効果モンスター
☆7 地属性 獣族
ATK2600 DEF1800 攻撃表示
棍棒を持った緑色の顔の大きな猿が咆哮と共にフィールドに降り立って行く。
「さらに、《素早いビーバー》を通常召喚!」
《素早いビーバー》
効果モンスター
☆2 水属性 獣族
ATK400 DEF100 攻撃表示
今度は一見して可愛いビーバーがフィールドに現れる。しかし、そのスピードは速く、目で追うのがやっとのレベルだった。
「ビーバーの効果! 召喚に成功した時、デッキ・墓地から素早いモンスターを一体特殊召喚するだ。二体目のビーバーを特殊召喚!」
《素早いビーバー》
効果モンスター
☆2 水属性 獣族
ATK400 DEF100 攻撃表示
召喚した時のため、特殊召喚されたビーバーは効果を発動できない。しかし、これでレベル2のモンスターが二体、フィールドに並んだ。
「行くぞ! おいはレベル2のビーバー二体でオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚!」
EXデッキからカードが飛び出す。やはり思った通り、隼人の父親はナンバーズに操られていた。
「現れよ、《№64古狸三太夫》!」
《№64古狸三太夫》
効果モンスター エクシーズ
ランク2 地属性 獣族
ATK1000 DEF1000 守備表示
金色の狸が酒を持ってフィールドで飲んだくれている。見た目はただの狸だが、ナンバーズに間違いはなく、隼人の父親の額には64という数字が書かれていた。
「ナ、ナンバーズ……父ちゃん、ナンバーズに操られてるんだな!?」
「そんな、何で! ついさっきまで普通に御飯食べてたのに!?」
「これが噂に聞いたナンバーズ。初めて見るニャ……」
ナンバーズの気配を感じ取れない隼人、翔、大徳寺の三人は出てきたナンバーズを見てようやく事態を悟る。
対して、気付くのが遅れたとはいえ、気配を感じていた遊矢と十代は、やはりこうなったかとばかりに苦しい表情を浮かべた。ただでさえ相手は格上なのに、ナンバーズまで使ってくるとすると、隼人が勝つのはかなり厳しいかもしれない。
もし、ナンバーズとのデュエルに負けたらどうなるかわからなかった。最悪、隼人まで操られてしまう可能性がある。遊矢は本当に駄目な時は、禁止されているフィールド魔法、《クロス・オーバー》を使ってでも、デュエルに乱入することを決意した。
「三太夫の効果! 自分フィールドに他の獣族が存在する限り、このカードは戦闘・効果では破壊されない!」
ただでさえ、ナンバーズはナンバーズでしか戦闘破壊できないのに、他にも戦闘や効果耐性までついているとは、まさに鉄壁と言わざるを得ない。
「さらに、オーバーレイユニットを一つ使い、自分フィールドに《影武者狸トークン》を一体特殊召喚するでごわす。この《影武者狸トークン》の攻撃力はフィールドのモンスターの中で一番高い攻撃力と同じになるだ!」
《影武者狸トークン》
トークン
☆1 地属性 獣族
ATK? DEF0 攻撃表示
オーバーレイユニットを一つ消費し、赤い甲冑を来た狸の武者がフィールドに出現する。まるでこちらが本体に見えるが、本体は隠れて酒を飲んでいる狸の方だった。
「今、一番攻撃力が高いのはグリーン・バブーンなんだな……」
「そうか、だから隼人君のお父さんは先にグリーン・バブーンを特殊召喚したんだ!」
翔が納得したような声を上げる。ナンバーズよりも先に攻撃力の高いモンスターを優先したのはこのためだったのだと。
《影武者狸トークン》 ATK?→2600
「バトルフェイズ! グリーン・バブーンで裏側守備モンスターを攻撃!」
攻撃対象となったことで、セットされていた《デス・コアラ》がリバースしていく。
「《デス・コアラ》のリバース効果発動なんだな! 相手の手札×400ポイントのダメージを父ちゃんに与える!」
今、隼人の父親の手札は二枚。合計800のダメージとなった。
隼人父 LP3000→2200
だが、ダメージを与えてもバトルは止まらない。グリーン・バブーンが棍棒で、《デス・コアラ》を撲殺していく。
《森の番人グリーン・バブーン》 ATK2600 VS《デス・コアラ》 DEF1800
「っ、デス・コアラ……!」
「これで壁モンスターはいなくなった! 《影武者狸トークン》でダイレクトアタック!」
《影武者狸トークン》 ATK2600 VS隼人 LP4000
隼人のセットカードは迎撃のカードではないようで、《影武者狸トークン》の刀が隼人に直撃する。
「くぅっ!」
隼人 LP4000→1400
「おいは、リバースカードを一枚伏せてターンエンドでごわす」
隼人父 手札1枚 LP2200
フィールド グリーン・バブーン、三太夫、狸トークン
魔法・罠 リバース2枚
VS
隼人 手札4枚 LP1400
フィールド なし
魔法・罠 リバース1枚
想像した以上に状況は厳しかった。それでも、隼人はまだ踏ん張っている。
三太夫自体の攻撃力がそこまで高くないのが救いではあるが、それでも次のターンになれば、強力なトークンが追加される。オーバーレイユニットの数の都合上、出されるトークンは最大二体だが、それでも場の一番攻撃力が高いモンスターと同じ攻撃力になるトークンというのは脅威だった。
「俺のターン、ドロー!」
それでも、隼人は諦めなかった。
父親を助ける――それだけが、ギリギリの隼人を突き動かしている原動力だった。
「俺は手札から《コアラッコ》を召喚!」
《コアラッコ》
効果モンスター
☆2 地属性 獣族
ATK100 DEF1600 攻撃表示
コアラのようなラッコのモンスターが、隼人のフィールドに現れる。同時に、ずっと伏せていたカードの効果も発動していた。
「罠カード、《猛突進》を発動! 俺のフィールドの《コアラッコ》を破壊して、古狸三太夫をEXデッキに戻すんだな!」
「罠カード、《トラップ・スタン》! このターン、このカード以外の罠カードの発動を無効にし、破壊するだ!」
罠カードはしっかり警戒されているようで、これでこのターン罠は使えなくなった。
しかし、逆を言えば、罠でこちらのモンスターを破壊される心配もないということでもある。
「……なら、上から叩くのみなんだな! 魔法カード、《融合》を発動! 手札の《ビッグ・コアラ》と《デス・カンガルー》を融合して、《マスター・オブ・OZ》を融合召喚!」
《マスター・オブ・OZ》
通常モンスター 融合
☆9 地属性 獣族
ATK4200 DEF3700 攻撃表示
翔の《デス・カンガルー》が加わったことで呼べるようになった大型モンスター。
見た目はまさに全身緑色のコアラだが、ガタイが良く下半身はカンガルーのような袋と尻尾を持っている。また、攻撃力はあの伝説のモンスター、《青眼の白龍》すら上回っていた。
「よし、いいぞ隼人! 攻撃力が相手を上回った!」
「《影武者狸トークン》の攻撃力は、生成時に場にいた一番攻撃力が高いモンスターと同じになる。つまり、新たに攻撃力が高いモンスターを呼べば破壊できる!」
十代と遊矢というオシリスレッド二強が揃って称賛の声を上げる。
普段の隼人なら、それに喜んでだらしない顔を見せていたかもしれない。しかし、今の隼人は父親を助けることしか考えていなかった。
「まだだ! 《コアラッコ》の効果発動! このカード以外の獣族モンスターが自分フィールドに存在する場合、相手フィールド上のモンスター一体の攻撃力をゼロにする。俺は、《影武者狸トークン》の攻撃力をゼロにするんだな!」
《影武者狸トークン》 ATK2600→0
隼人の《マスター・オブ・OZ》の攻撃力は4200。この攻撃が通れば、父親のライフをゼロに出来る。
「隼人! デュエルに勝てば、ナンバーズの支配からは解放できる! そのまま勝つんだ!」
「わかったんだな、遊矢! バトルフェイズ! 目を覚ませ、父ちゃん! 《マスター・オブ・OZ》で《影武者狸トークン》を攻撃! エアーズ・ロッキー!!」
《マスター・オブ・OZ》 ATK4200 VS《影武者狸トークン》 ATK0
隼人の《マスター・オブ・OZ》が攻撃態勢に入る。しかし、まだ隼人の父親にはリバースカードが一枚残されていた。
「速攻魔法、《収縮》発動! 相手モンスターの元々の攻撃力を半分にする!」
《マスター・オブ・OZ》 ATK4200→2100
「《マスター・オブ・OZ》の攻撃力が……!」
「下がっちゃった!」
悲鳴のような声を上げる十代と翔。
遊矢も顔をしかめた。これで、《マスター・オブ・OZ》の攻撃力はギリギリ隼人の父親のライフを削り切れない。
《マスター・オブ・OZ》 ATK2100 VS《影武者狸トークン》 ATK0
それでも攻撃宣言したので、もう攻撃は止まらない。《マスター・オブ・OZ》の一撃で《鎧武者狸トークン》が爆散していく。
「くっ!」
隼人父 LP2200→100
「ふ、ふふ……まさか、お前にここまで追い込まれるとはな」
「……まだだ」
「なに……?」
「まだ、俺のバトルフェイズは終了してないんだな!」
そう言って、隼人は最後のカードをディスクに差し入れた。
「速攻魔法、《融合解除》! 《マスター・オブ・OZ》の融合を解除し、《ビッグ・コアラ》と《デス・カンガルー》を墓地から特殊召喚するんだな!」
《ビッグ・コアラ》
通常モンスター
☆7 地属性 獣族
ATK2700 DEF2000 攻撃表示
《デス・カンガルー》
効果モンスター
☆4 闇属性 獣族
ATK1500 DEF1700 守備表示
融合素材となったコアラとカンガルーがフィールドに蘇る。
それは、十代が隼人に渡したカードだった。《融合》を組み込むなら、使える場面もあるだろうという気まぐれで渡したカードだが、そんな友の思いが今隼人を救っている。
「父ちゃん、バトルフェイズ中の特殊召喚は、追加で攻撃が出来るんだな……!」
「おいのグリーン・バブーンの攻撃力は2600……」
「俺の《ビッグ・コアラ》は攻撃力2700なんだな……!」
とても、落第生のオシリスレッドのデュエルとは思えない攻防――いや、いくら遊矢が力を貸したとはいえ、隼人はここまで強くなってはいなかった。
全ては、偏に父親を助けたいと願う心が起こした奇跡。危機は、人を何倍にも成長させる。
「バトル! 《ビッグ・コアラ》で《森の番人グリーン・バブーン》を攻撃! ユーカリ・ボム!!」
《ビッグ・コアラ》 ATK2700 VS《森の番人グリーン・バブーン》 ATK2600
これが最後だとばかりに、《ビッグ・コアラ》がユーカリに似た爆弾を大量に投げつけていく。
「……隼人」
デュエルが始まってから、決して自分の名を呼ばなかった父親が自分を呼んだ。
反射的に顔を見る。それまで能面のような顔をした父親は、嘘のように嬉しそうな顔をして自分のことを見ていた。
「強くなった」
隼人父 LP100→0
負けを覚悟したことで、ナンバーズの支配から一瞬逃れたのか。その言葉は、隼人の父親の本心に聞こえた。
しかし、デュエルに負けたことで意識を失ったようで、そのまま前のめりに倒れていく。慌てて父親を支える隼人だが、支えきれずに一緒に倒れてしまった。
「隼人!」
「隼人君!」
十代と翔が倒れた二人に向かって駈けだしていく。遊矢も後に続こうとしたが、体が言うことを聞いてくれなかった。
そういえば、自分は仮眠も取らずに昨日からずっと気を張っていたことを思い出す。おそらく、ナンバーズの脅威がなくなったことで張りつめていた糸が切れ、肉体的に限界が来てしまったのだろう。
意識がブラックアウトしていく。
どさり――と、いう音と共に遊矢が倒れる。同時に、十代の「遊矢!」という大声が道場中に響き渡った。
原作との変化点。
・#9『一撃必殺! ちゃぶ台返し』より、遊矢が翔と隼人を指導した。
これからも定期的に続けて、基礎デュエル力を上げていく。
・父のデッキを獣族デッキにした。
パワーのあるデッキにしたかったので、獣族を選択。原作のよいどれデッキは再現できなかったので、ナンバーズにご登場願った。
・遊矢が倒れた。
地味に過労気味。
デュエル内容変更点。
・隼人の親父が二重召喚を使ったのですが、通常召喚を一度しかしなかったので削除しました。