榊遊矢のGX次元漂流記   作:おこむね

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#017 『光と闇』

 

 迷宮兄弟との制裁デュエルも終わってしばらく――再び、遊矢も新システムのテスターとして忙しい日々を送っていた。

 

「くっ、今日も駄目か……」

 

 基本的に遊矢はシンクロやエクシーズのテスターとして、デュエルアカデミアではデュエルを挑まれることが多い。最近は上級生からの挑戦も増えてきている。

 そんな中でも率先して遊矢にデュエルを挑んでくるのは、同じレッド寮の十代や、タッグデュエルの練習でもお世話になったカイザー亮だが、ここ最近は十代や亮に並ぶレベルで毎日のようにデュエルを挑んでくる生徒がいた。

 

「大分よくなってると思うよ。ただ、何というか……器用貧乏な感じは否めないかな」

「……それは自分でも感じている。六つのデッキを自慢していた頃の自分が恥ずかしくなるレベルだ」

 

 彼の名前は三沢大地。

 ラーイエローに所属する一年生で、成績優秀、品行方正、近いうちにオベリスクブルーに昇格するのではないかという噂もある有望株である。

 ちなみにナンバーズの件で有耶無耶になってしまったものの、十代も一応オベリスクブルーの万丈目を倒した時に、ラーイエローへの昇格話が出ていたのだが、オシリスレッドでいいという本人の一言で進級はお釈迦になっていた。

 

「六つの属性デッキも悪くなかったけど、あれは結局対応するデッキのメタでしかないからね」

「だからこそ、こうして新たな俺だけのデッキを構築しようと四苦八苦している。正直、制裁デュエルを見てから焦っているんだ。ついこの間まで近くにいた十代が、ずっと先に行ってしまったような感じがして……」

 

 強敵との連戦で、十代も間違いなく成長していた。

 それが三沢を焦らせているのだろう。これまでは自分が強いというプライドがあり、優等生として格上のつもりでいたが、気が付けばその相手は自分よりも先に行ってしまっていた。焦るなという方が無理だ。

 

「三沢はシンクロもエクシーズも割と器用に使えてるし、見た感じデッキのバランスも悪くない。問題はエースモンスターがいないことかな」

「エースモンスター……か」

「十代ならヒーローの融合モンスター、万丈目ならVWXYZ、デッキの核になるモンスターがいないとどうしてもデッキは纏り難い。三沢のデッキが器用貧乏になっているのも、そのせいだと思うよ」

 

 武藤遊戯ならブラックマジシャン、海馬瀬人なら青眼の白龍、デュエリストにはそれぞれ象徴となるべきカードが存在する。

 だが、三沢にはそれがない。シンクロもエクシーズもエース級ではなく、他のモンスターもエースと呼ぶにはパワー不足。仮に、「三沢ってどんなデッキ使ってるの?」と、聞かれても一言では答えられなかった。

 

「そういう意味じゃ、一つの属性に絞り込むのも悪いことじゃないと思うけど……」

「駄目だ。これまでの自分を超えるデッキを作る。既存デッキの焼き直しじゃ意味がないんだ」

 

 妥協したくないという強い意思が伝わってくる。

 十代もそうだが、こういう奴は一度こうと決めたら梃子でも動かない。まぁ、遊矢もそういうのは嫌いではないのだが。

 

「わかったよ。俺ならいつでも相手になる。また、デッキが出来たら挑戦してきな」

「ありがとう、遊矢」

 

 良い笑顔でお礼を言うと、そのままぶつぶつ呟きながらイエロー寮へ戻っていく三沢。

 きっと彼の頭の中では、いろいろな計算がされているのだろう。最初にデッキ構築をするに当たってよくわからない数式を見せられた時はどうしようかとも思ったが、あれが三沢の個性だとすれば否定すべきではない。

 そのうち、誰もがあっと驚くようなデッキが出来るであろうことを期待して、遊矢もレッド寮へ戻って行った。

 

 

 

◇◆

 

 

 

 自分を見つめ直す三沢とは反対に、万丈目は荒れているようだった。

 月一試験でオシリスレッドの十代に負けたことで、同じオベリスクブルーからはハブられることが増えている。前までいた取り巻きも、今や虐める側のように万丈目のことを、オベリスクブルーの恥さらしと罵っていた。

 ただ、それに屈するような万丈目ではなく、文句を言う奴は全てデュエルで黙らせている。

 結局、十代に負けたとはいえ、万丈目が強者の位置にいることには変わりなく、まだシンクロもエクシーズもそこまで上手く使い熟せない奴らなど万丈目の相手にはならなかった。

 しかし、虐める側からすれば、虐める相手が強いとどうしようもない。結局は遠巻きに見ているしか出来なくなった。周りに人を寄せ付けなくなり、万丈目も今では一人で過ごす姿が多く見られている。

 

「よっ、万丈目。今日も一人なのか?」

「……榊遊矢か。何の用だ? どうでもいい用なら後にしろ。用がないなら帰れ」

「随分な対応だな。ちゃんと用ならあるよ、遅くなったけどこれを返しに来たんだ」

 

 そう言って、《№16色の支配者ショック・ルーラー》のカードを万丈目に渡そうとした。

 

「安全性が確認されるまでは預かっていたけど、一応お前が使っていたカードだからな。もう使っても問題ないらしいから返すよ。KCとI2社お墨付きだ」

「そんなものいらん。元々、俺のカードではない」

 

 隼人の父親やクロノスも同じことを言ってカードを受け取るのを拒否していたので、万丈目ももしかしたらと思ったが、やはり受け取るのを拒否している。

 

「そっか、じゃあ俺が預かっておくけど、返して欲しくなったらすぐに言えよ」

「そんな機会はない」

「……じゃあ、もう一つの要件だ」

「もう一つ?」

 

 もう要件は終わったと思っていたのだろう。

 まさか、まだ用があるとは思わなかったようで、万丈目が不思議そうな声を上げる。

 

「これ、ペガサス会長からお前へ」

「ペガサス会長からだと!?」

 

 反射的に、渡されたものを受け取る万丈目。

 

 それは、一枚のモンスターカードだった。

 

「……見たこともないカードだ」

「月一試験の、お前と十代のデュエルを見てインスピレーションが浮かんだんだってさ」

「……あのデュエルでか」

 

 ナンバーズの解析をするために遊矢が送った映像データだったが、別の所に目が行ったらしい。

 万丈目自身、ナンバーズに操られていたせいで記憶も曖昧だが、自分が負けたデュエルでインスピレーションが浮かんだと言われても嬉しくもなかった。苦虫を嚙み潰したような顔でカードを見つめている。

 

「なら、十代に渡せばいいだろう。勝ったのはあいつだ」

「そのカードは、お前にしか使い熟せない。だから、お前に渡して欲しいってペガサス会長に頼まれたんだ。使うも使わないも自由だけど、とりあえず渡したからな」

 

 そう言って、遊矢は、用事は済んだとばかりに立ち去っていく。

 残された万丈目は、渡されたカードを見ていることしかできなかった。負けた自分にどうしてカードが送られる? 自分は何を求められている?

 

「……一体、俺にどうしろというんだ。なぁ、《光と闇の竜》」

 

 名前を呼ばれたカードは、万丈目には聞こえない声で返事の声を上げていた。

 

 

 

◇◆

 

 

 

 後日、万丈目と三沢が寮交代を賭けてデュエルをすることになった。

 発案者はクロノス教諭だ。オシリスレッドに負けた万丈目はオベリスクブルーには相応しくないと口にしており、万丈目が負けた際にはラーイエローへ降格。

 三沢が勝てばオベリスクブルーに昇格ということだが、三沢は当然のように快諾していた。三沢からすればただのチャンスだ。逃す理由はない。

 逆に万丈目からすれば勝っても現状維持で、負けても降格するだけということで、デュエルを受けるメリットがなかった。しかし、受けなければ問答無用で降格させられかねないということで、渋々デュエルを受けている。

 遊矢としてはどちらも知り合いなので応援し辛かった。十代達は当たり前のように三沢を応援しているようだが、遊矢は万丈目とそこまで不仲だとは思っていないので開き直れずにいる。

 

 そんな中、三沢は部屋の模様替えを手伝って欲しいと言って、オシリスレッドにやってきた。

 

 聞けば、新しいデッキの構築を考えている間に、部屋中が数式塗れになってしまったということで、見に行くと壁や天井にまで数式がひたすら書いてある。

 報酬として、夕食は三沢の奢りということで、部屋を掃除していくことになった。とはいえ、普通に掃除しても夜が明けてしまうので、雑にペンキで壁の色を上書きしていく。何とか夕方には三沢の部屋をペンキで塗りつぶすことが出来た。

 そのままラーイエローで豪華な食事をご馳走になり、三沢がオシリスレッドの寮まで一緒にやってくる。今日は部屋がペンキ塗れなので、十代の部屋に泊まるということだった。

 明日は万丈目とのデュエルだというのに、三沢にはかなり余裕があるように見える。「デッキは出来たのか?」と聞いてみると、「明日のお楽しみさ」と、小さな笑みを浮かべていた。

 

 次の日。万丈目とのデュエルを見物するために、三沢と一緒にデュエルルームに行くと、既に万丈目とクロノス教諭が待っていた。

 両者共、特に問題はないということでデュエルが始まろうとしていたが、直前になって万丈目はデッキからカードを一枚抜いている。

 遊矢は、あれがペガサス会長から渡されたカードだとすぐに気が付いた。おそらく、一度入れて見たものの、受け入れることが出来なかったのだろう。

 

「……そのカード、抜いてよかったのか?」

「なんだ、三沢。盗み見か? 気にするな、俺のデッキには合わんと判断しただけだ」

「そうか。じゃあ、遠慮なく行くぞ。覚悟は良いな、万丈目!」

「万丈目さんだ! 来い、三沢!」

「「デュエル!!」」

 

 デュエルディスクによってターンプレイヤーが決まる。先攻は万丈目だった。

 

「俺のターン、ドロー! 手札からフィールド魔法、《ユニオン格納庫》を発動! 発動時に、デッキから光属性・機械族のユニオンモンスターを手札に加えることができる。《Y-ドラゴン・ヘッド》を手札に加え、そのまま通常召喚!」

 

 《Y-ドラゴン・ヘッド》

 効果モンスター ユニオン

 ☆4 光属性 機械族

 ATK1500 DEF1600 攻撃表示

 

 お馴染みとなりつつある、万丈目のユニオンモンスターが展開されていく。

 

「《ユニオン格納庫》の効果! 一ターンに一度、自分フィールドに機械族・光属性のユニオンモンスターが召喚、又は特殊召喚された場合、そのカードに装備可能でカード名が異なる機械族・光属性のユニオンモンスター一体をデッキから選び、そのモンスターに装備する。ただし、この効果で装備したユニオンモンスターは、このターン特殊召喚出来ない! 来い、《Z-メタル・キャタピラー》!!」

 

 基本的な流れは十代とのデュエルと変わらない。

 万丈目がデッキから《Z-メタル・キャタピラー》を選択して《Y-ドラゴン・ヘッド》に装備していく。乗っただけとは言ってはいけない。

 

《Y-ドラゴン・ヘッド》 ATK1500→2100 DEF1600→2200

 

「手札から、永続魔法《X・Y・Zコンバイン》を発動! 自分フィールドのYとZを除外して変形合体し、《YZ-キャタピラー・ドラゴン》を特殊召喚!」

 

 《YZ-キャタピラー・ドラゴン》

 融合 ☆6 光属性 機械族

 ATK2100 DEF2200 攻撃表示

 

 上下に分離して、再びくっついていく。意味がある行動なのかはわからないが、モンスターとしては融合モンスターになっていた。乗っただけとは言ってはいけない。

 

「永続魔法、《X・Y・Zコンバイン》の効果! 自分の場の機械族・光属性のユニオンモンスターが除外された場合、デッキから《X-ヘッド・キャノン》、《Y-ドラゴン・ヘッド》、《Z-メタル・キャタピラー》のどれかを特殊召喚できる! 当然、俺が呼び出すのは――」

 

 ――残りのXだった。

 

 《X―ヘッド・キャノン》

 通常モンスター ☆4 光属性 機械族

 ATK1800 DEF1500 攻撃表示

 

「《X・Y・Zコンバイン》のさらなる効果! 自分フィールドの融合モンスター一体をEXデッキに戻し、除外されている自分のモンスターの中から《X-ヘッド・キャノン》、《Y-ドラゴン・ヘッド》、《Z-メタル・キャタピラー》を二枚まで選んで特殊召喚できる! 戻ってこい、Y、Z!」

 

 《Y-ドラゴン・ヘッド》

 効果モンスター ユニオン

 ☆4 光属性 機械族

 ATK1500 DEF1600 攻撃表示

 

 《Z―メタル・キャタピラー》

 効果モンスター ユニオン

 ☆4 光属性 機械族

 ATK1500 DEF1300 攻撃表示

 

 ここまでは月一試験で見た流れと全く同じだ。しかし、もう万丈目にはナンバーズはないし、ここからエクシーズするということはないだろう。

 

「いくぞ、三沢! 俺はフィールドの《X―ヘッド・キャノン》、《Y―ドラゴン・ヘッド》、《Z―メタル・キャタピラー》を除外し、変形融合! 出でよ、《XYZ―ドラゴン・キャノン》!!」

 

 《XYZ―ドラゴン・キャノン》

 効果モンスター 融合

 ☆8 光属性 機械族

 ATK2800 DEF2600 攻撃表示

 

 乗っただけとは言ってはいけない。

 

「これが、かつて海馬瀬人も使っていたというユニオン合体モンスターか……!」

「先攻は最初のターン、攻撃できない。俺はカードを一枚伏せて、ターンエンドだ」

 

 

 万丈目 手札3枚 LP4000

 フィールド XYZ

 魔法・罠 《ユニオン格納庫》、《X・Y・Zコンバイン》、リバース1枚

 

 VS

 

 三沢 手札5枚 LP4000

 フィールド なし

 魔法・罠 なし

 

 

 三沢は内心で恐ろしさを感じていた。散々馬鹿にされているとはいえ、やはり万丈目はオベリスクブルートップの実力がある。

 これだけ大きく場を展開して、手札を三枚しか消費していないのだ。その内、一枚は迎撃用のリバースカードなので、実質二枚でこの状況を作り上げている。

 

「だが、俺も負ける気はない! 俺のターン、ドロー!」

 

 手札を確認し、視線を遊矢に向ける。遊矢もすぐに三沢がこちらを見ていることに気が付いた。

 

「感謝するぞ、遊矢。お前とのデュエルがなければ、この新デッキは完成しなかった!」

 

 どうやら、散々手伝った甲斐はあったようで、納得いくデッキが出来たらしい。

 

「俺は手札から、《予想GUY》を発動! 自分のフィールドにモンスターが存在しない場合、デッキからレベル4以下の通常モンスターを特殊召喚する! 来い、《磁石の戦士α》!」

 

 《磁石の戦士α》

 通常モンスター

 ☆4 地属性 岩石族

 ATK1400 DEF1700 守備表示

 

 身の丈に合わない大きな剣と盾を持った磁石のモンスターが三沢のフィールドに召喚されていく。

 

「磁石の戦士って、確か遊戯さんが使ってた……」

「そうっすよ、デュエルキング、武藤遊戯が使っていたモンスターっす!」

「デュエルキング、武藤遊戯……」

 

 遊矢も会ったことはないが、海馬やペガサスを通じて名前だけは聞いたことがあった。

 海馬曰く、自身の宿命のライバル。

 ペガサス曰く、史上最強のデュエリスト。

 遊矢も、いつかは会ってみたいと思っている人物である。そんな凄いデュエリストが使っていたカードを三沢は採用したらしい。

 

「さらに、魔法カード、《マグネット・インダクション》! 自分フィールドに元々のレベルが4以下の『マグネット・ウォリアー』モンスターが存在する場合に発動! 自分フィールドの『マグネット・ウォリアー』モンスターとは別のレベル4以下の『マグネット・ウォリアー』モンスターをデッキから特殊召喚する! 来い、《磁石の戦士γ》!」

 

 《磁石の戦士γ》

 通常モンスター

 ☆4 地属性 岩石族

 ATK1500 DEF1800 守備表示

 

 剣と盾を持っているαとは違って、γは大きな翼を生やしていた。

 名前からして、このモンスターも万丈目のVWXYZのように合体するのだろう。

 

「αとγ……残るはβ」

「その通りだ万丈目。だが、俺はここからルートを外れる! 二体のレベル4の磁石の戦士でオーバーレイ!」

「エクシーズ召喚か!」

「二体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚! 現れろ、ランク4、《鳥銃士カステル》!」

 

 《鳥銃士カステル》

 効果モンスター エクシーズ

 ランク4 風属性 鳥獣族

 ATK2000 DEF1500 攻撃表示

 

 オーバーレイユニットを二つ纏い、大きな紫色の翼を羽ばたかせた鳥人のスナイパーが新たにフィールドに降り立った。

 

「マグネット・バルキリオンじゃないのか……」

「ちょっとガッカリっすね」

 

 遊戯と海馬が使っていた変形合体モンスター対決が見たかったのか、十代と翔が少し不服そうな声を上げる。

 

「そう言うな。勿論、マグネット・バルキリオンを呼ぶことも不可能ではないが、このデッキはそういうデッキじゃない。俺のデッキはお前達のデッキとは違うんだ」

「どういうことだ?」

「前に遊矢が言っていた。例えば十代、お前のエースはヒーローの融合モンスターだ。万丈目のエースは当然、VWXYZであり、俺にはそういうモンスターがいないから、デッキが器用貧乏になっているとな」

 

 確かに、そうアドバイスした。

 

「けど、逆だった。俺にはエースと呼ぶべきモンスターは必要ない。状況に応じて、相手への対応を可能にする多様性こそが俺のデッキだ。器用貧乏だというのであれば、その貧乏な部分を変えてやればいいだけ。マグネットモンスターはその答えの一部でしかない」

 

 あくまで今までの本質を変えず、強化していくことを三沢は選んだ。確かに、一つのデッキでいろいろな状況に対応できるのであれば、前使っていた六つのデッキを超えたデッキと言っていい。

 

「だから、ここでマグネット・バルキリオンを呼んで素直に叩くことはしない。そんなことをしなくても、XYZを対処できるからだ。俺は、《鳥銃士カステル》の効果発動! オーバーレイユニットを二つ使い、このカード以外のフィールド上の表側表示カードを選択し持ち主のデッキに戻す!」

 

 バウンス効果――確かに、この効果が通れば万丈目のフィールドはがら空きになり、2000のダメージを与えられる。

 しかし、流石にそう簡単にXYZを除去させてくれるほど、万丈目は甘くなかった。

 

「舐めるな! 永続罠、《デモンズ・チェーン》! フィールドの効果モンスター一体を選択して発動! このカードが魔法・罠ゾーンに存在する限り、選択したモンスターは攻撃できず、効果も無効化される! 当然、カステルを選択!」

 

 万丈目も、モンスター効果は当然対策していた。

 これでXYZはEXデッキには戻らず、フィールドに残る。しかし、せっかくの効果を無効にされてしまったというのに、三沢には余裕があった。

 

「ふむ、出来れば格好良く決めたかったんだが、流石にそう簡単にはいかないか。……こうなれば仕方ない、観客のご期待に応えよう」

 

 そう言って、三沢は新たなカードを発動させる。

 

「俺は手札から《闇の量産工場》を発動! 墓地の通常モンスター二体を手札に加える! 俺はオーバーレイユニットとして墓地へ送った二体の磁石の戦士を手札に!」

 

 二体の磁石の戦士が手札に戻ったことや、観客の期待に応えるという言葉から、もしかしてという空気が生まれる。

 三沢はニヤリと笑うと、正解と言わんばかりに手札のカードをオープンした。

 

「俺は、手札の《磁石の戦士マグネット・バルキリオン》の効果発動! 手札、フィールドから《磁石の戦士α》、《磁石の戦士β》、《磁石の戦士γ》をリリースして、このカードを特殊召喚できる!」

 

 三沢は先程回収した二枚と元々手札に持っていた磁石の戦士をリリースし、墓地へと送っていく。

 

「来い、マグネット・バルキリオン!」

 

 《磁石の戦士マグネット・バルキリオン》

 効果モンスター

 ☆8 地属性 岩石族

 ATK3500 DEF3850 攻撃表示

 

 万丈目のXYZと違って、各パーツが分離して組み合わさっていく。

 召喚されたマグネット・バルキリオンはα、β、γの特徴をしっかりと残していた。

 

「くっ!」

 

 マグネット・バルキリオンの攻撃力は3500。対する万丈目のXYZは2800だ。しかし、既に迎撃カードを使ってしまい、万丈目はこれに対応できない。

 

「とはいえ、消費が激しい。少し手札が心許ないか。俺は、手札から《魔力の泉》を発動! 相手フィールドの表側表示の魔法・罠カードの数だけデッキからカードをドローし、その後自分フィールドの表側表示のカードの枚数分、カードを選んで捨てる。お前のフィールドには表側表示の魔法・罠カードは三枚、俺は《魔力の泉》のみ! よって、三枚ドローし、一枚を捨てる!」

「味なカードを!」

「どこかの誰かさん対策に入れたカードさ。ペンデュラムは魔法カード扱いだからな。けど、これが他でも意外と役に立つ……っと、説明し忘れていた。このカードの発動後、次の相手ターン終了時まで、相手のフィールドの魔法・罠カードは破壊されず、発動と効果を無効化されない。良かったな」

 

 その代償に、三沢は手札を補充して墓地も肥やしている。正直、アドバンテージとしては三沢の方が上だった。

 

「さらに俺は、《マスマティシャン》を通常召喚! 召喚に成功した時、デッキからレベル4以下のモンスターを墓地へ送る。俺は、レベル2の《タスケルトン》を墓地へ送る」

 

 《マスマティシャン》

 効果モンスター

 ☆3 地属性 魔法使い族

 ATK1500 DEF500 攻撃表示

 

 白く長い髭を生やした学者のようなモンスターが召喚され、墓地へモンスターを落としていく。

 墓地に送られた黒い豚のようなモンスターは泣いていたような気もするが気にしてはいけない。

 これで、三沢のフィールドには三体のモンスターが並んだ。とはいえ、カステルは《デモンズ・チェーン》の効果で動けないので、戦えるのは実質二体だが。

 

「バトルだ! マグネット・バルキリオンでXYZに攻撃! マグネット・セイバー!」

 

《磁石の戦士マグネット・バルキリオン》 ATK3500 VS《XYZ―ドラゴン・キャノン》 ATK2800

 

 αが持っていた巨大な剣を振り下ろし、マグネット・バルキリオンがXYZを一刀両断していく。

 各部のパーツをバラバラに破壊されたXYZが爆発すると同時に、万丈目のライフも大きく削られた。

 

「ぐっ!!」

 

 万丈目 LP4000→3300

 

 先制を決めたのは三沢だ。

 三沢応援組の十代、翔が「いいぞー!」、「その調子―!」と声を上げる。審判であるクロノスも、表情には出していないが落ち目気味の万丈目よりも、三沢を応援しており、内心では両手を上げて応援している。

 

「さらに、《マスマティシャン》で、万丈目にダイレクトアタック! バトル・カリキュラム!」

 

 《マスマティシャン》 ATK1500 VS万丈目 LP3300

 

 フィールドががら空きになった万丈目へ、《マスマティシャン》が杖を向けていく。

 杖の先にエネルギーが集まっていき、今にでも万丈目に向かって発射しそうだった。

 

「調子に乗るな、三沢! 俺は、手札の《バトルフェーダー》の効果発動! 相手モンスターの直接攻撃宣言時、手札のこのモンスターを特殊召喚し、バトルフェイズを強制終了させる!」

 

 《バトルフェーダー》

 効果モンスター

 ☆1 闇属性 悪魔族

 ATK0 DEF0 守備表示

 

 振り子時計の針のような形をした悪魔がフィールドに特殊召喚され、その針を振ってバトルフェイズを終了させていく。

 攻撃をしようとした《マスマティシャン》だが、仕方ないとばかりに矛を収めた。

 

「バトルフェイズを強制終了させるモンスターか。やるな……」

「どこぞの誰か対策へ入れたカードだが役に立った」

「誰かは聞かないが、そいつは余程モンスターを大量展開してくるんだろうな」

 

 まるで、先程の三沢の言葉を返すように万丈目も言葉を紡ぐ。三沢も誰を指しているのか、わかっているように言葉を続けていた。

 しかし、バトルフェイズを強制終了された以上、もう三沢には万丈目にダメージを与えることは出来ない。先制ダメージを取れただけ良しとすべきだろう。

 

「俺はカードを一枚伏せる。これでターンエンドだ」

 

 

 三沢 手札0枚 LP4000

 フィールド カステル、マグネット・バルキリオン、《マスマティシャン》

 魔法・罠 リバース1枚

 

 VS

 

 万丈目 手札2枚 LP3300

 フィールド 《バトルフェーダー》

 魔法・罠 《ユニオン格納庫》、《X・Y・Zコンバイン》、《デモンズ・チェーン》

 

 

「俺のターンだ!」

 

 万丈目がデッキからカードをドローする。このデュエルに負ければラーイエロー落ち、エリートを自称する万丈目には決して許されることではない。

 

「魔法カード、《強欲な壺》! デッキからカードを二枚ドローする! さらに、手札から《マジック・プランター》を発動! 自分フィールドの永続罠カードを一枚墓地へ送ることで、デッキからカードを二枚ドローする!」

 

 三沢が前のターンに使った《魔力の泉》は相手フィールド上の魔法カードに、破壊されず効果を無効にされない耐性を付与する効果。墓地へ送るという発動のためのコストならば問題なく適応される。

 

「俺は、《V―タイガー・ジェット》を攻撃表示で召喚!」

 

 《V―タイガー・ジェット》

 通常モンスター ☆4 光属性 機械族

 ATK1600 DEF1800 攻撃表示

 

 XYZと同じくらいお馴染みになっているVがジェットを吹かせてフィールドに現れる。

 

「さらに、速攻魔法、《無許可の再奇動》! 自分フィールドの機械族モンスター一体を対象として発動! そのモンスターに装備可能なユニオンモンスター一体を、手札・デッキから装備する。俺は《W―ウィング・カタパルト》をデッキから装備する!」

 

 《V―タイガー・ジェット》 ATK1600→2000 DEF1800→2200

 

 決して、乗っただけではない。

 

「俺はフィールドのVとWをゲームから除外し、変形合体! 現れよ、《VW―タイガー・カタパルト》!!」

 

 XZと同様に、上下に分離して、再びくっついたが、一応別のモンスター扱いとなっている。決して乗っただけではないのだ。

 

 《VW―タイガー・カタパルト》

 効果モンスター 融合

 ☆6 光属性 機械族

 ATK2000 DEF2100 攻撃表示

 

「さらに俺は、手札を一枚捨て、魔法カード《鳳凰神の羽根》を発動! 墓地のカードをデッキの一番上に戻す。俺はXYZをEXデッキの一番上に戻す」

「わざわざXYZを戻した? と、いうことは――」

「フン。流石は三沢、理解が早いな。魔法カード、《融合識別》! 自分フィールドのモンスター一体を選択して発動! EXデッキの《XYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン》を相手に見せ、このターン、対象のモンスターを融合素材とする場合、見せたカードの同名カードとして使用できる! これにより、《バトルフェーダー》を《XYZ-ドラゴン・キャノン》として扱う!」

 

 これにより、万丈目のフィールドにVWとXYZの二体が揃った。

 

「俺はXYZとして扱う《バトルフェーダー》と、《VW―タイガー・カタパルト》をゲームから除外して変形合体! 現れろ! 《VWXYZ―ドラゴン・カタパルトキャノン》!!」

 

 《VWXYZ―ドラゴン・カタパルトキャノン》

 効果モンスター 融合

 ☆8 光属性 機械族

 ATK3000 DEF2800 攻撃表示

 

 VWXYZとなる変形が唯一、乗っただけ変形ではなくなる。各パーツが分離して、巨大なロボットなり、三沢へと砲塔を向けた。

 

「《バトルフェーダー》はバトルフェイズを強制終了する特殊召喚を行った場合、フィールドから離れた時、ゲームから除外される……が、これでようやく貴様を倒せるぞ」

「あの状況から、即座にVWXYZまで持って行くとは……」

「俺はVWXYZの効果発動! マグネット・バルキリオンをゲームから除外する!」

 

 VWXYZの効果でマグネット・バルキリオンが除外されてしまい、これで三沢のフィールドにVWXYZを倒せるモンスターがいなくなった。

 状況が一変して万丈目有利になり、十代や翔が「ヤバいヤバい」と言って慌てている。

 

「バトルだ! VWXYZで《マスマティシャン》を攻撃! アルティメット・ディストラクション!!」

 

 《VWXYZ―ドラゴン・カタパルトキャノン》 ATK3000 VS《マスマティシャン》 ATK1500

 

 砲塔が《マスマティシャン》に向けられ、慌てたような態度を見せるが、逃げる間もなく爆撃されていく。

 

「くっ、罠カード、《運命の発掘》! 自分が戦闘ダメージを受けた時、カードを一枚ドローする!」

 

 三沢 LP4000→2500

 

「リバースカードはドロー補助カードか」

「多様性をデッキに求める以上、手札は重要なんでね。さらに、この瞬間、《マスマティシャン》の効果発動! 戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、デッキからカードを一枚ドローする!」

「フン。俺はこれでターンエンドだ」

 

 

 万丈目 手札0枚 LP3300

 フィールド VWXYZ

 魔法・罠 《ユニオン格納庫》、《XYZコンバイン》

 

 VS

 

 三沢 手札2枚 LP2500

 フィールド カステル

 魔法・罠 なし

 

 

 ライフは逆転し、フィールドの状況も有利になった。しかし、万丈目は笑みを浮かべない。

 それだけ集中しているということかもしれないが、遊矢には何故か万丈目が苦しんでデュエルしているように見えていた。

 

 

 

 




 原作との変化点。

・#12『酸素+水素=H2O(ウォーター)ドラゴン』より、三沢が七つ目のデッキを作るタイミングが早まった。
 十代の活躍を見て、危機感を覚えている。六つのデッキも遊矢の前に全敗し、いろいろな状況に対応できる七つ目のデッキを作りだした。

・万丈目の立場が違う。
 プライドは1人前なので、原作のようにやられっぱなしではない。むしろ、やり返して勝ってしまっていることで逆に孤独になっている。遊矢がラッキーカードを渡したが、どうなるかは万丈目さん次第。

・三沢のデッキを捨てなかった。
 ギリギリで踏みとどまった。踏みとどまった理由はいずれどこかで明かされるかもしれない。

・三沢のデッキは原作で使ったカードの詰め合わせ。
 流石に三沢がアニメで使っていたオリジナルの磁石の戦士はいないので、遊戯さんが使った磁石の戦士で代用している。



 デュエル内容変更点。

・マグネットバルキリオンの攻撃力が間違っていたので修正しました。

・運命の発掘のタイミングが間違っていたので修正しました。
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